いやぁ、先輩癒されるッスねぇ・・・
※はじめちゃんの過去? は捏造というか解釈入ってます;
Dさんが取り返したNOTEを手に、累くんがガッチャンネルを通じて声をかけた。立川で、CROWDSを使った大掛かりなゲームだ。
累くんは気づいたのだ。CROWDSが、みんなの心だっていうことに。みんなにCROWDSを使って欲しいと、みんなの心を使って欲しいと、遊びに誘うように呼び掛けた。事実、遊びにさそっていた。どこからでもワンクリックで、みんなの心が集まることが出来るのだ。なんだってできる。みんなで、みんなのやりたいようになれる。みんながみんなの本性に従って、何かをなせるのだと。
それは、まさに累くんの、GALAXの基本思想そのものだった。
そして、心だけでなく、物理的にも多くの距離を飛ばしたCROWDSは、まさに累くんのNOTEから生成されたと言われて、本当の意味で納得できる存在だった。
完全に心が通わなくなってしまった、きっと瀕死なんだろうDさんを今にも助けにいきたいうつつちゃんと、それを制止するパイパイ。丈さん、先輩はあふれるクラウズにどうしたものかと困惑している。
ゲーミフィケーションの概念を前に、出る幕ねぇな、とは丈さんのセリフだ。
「世の中もちろん、そんなに上手くはいかないだろうけど」
累くんが起こしたこれは、ある種の革命だ。人を、物を、そして心を、すべてを飛び越えて接続できてしまう程に大きな影響力を伴うそれだ。きっとこれから、多くの問題が出てくる。今いるボクでさえ、いわゆる「見張りを誰が見張るのか」という問題を想起できてしまう程。もともとのGALAXそのものにも適応できたそれは、その形態の変遷にともないさらに大きな意味を伴ってくるはずだ。
「だけど、みんな可愛いっスね~」
パイパイがすっかりふてくされて、いつものパイパイに戻っちゃったくらいに、もうネオハンドレッドだとか、混乱だとか、そういう状態にはなかった。
自発的な方向性のなかったそれらに、ほんの少しだけ前を向ける方向を与えて。たったそれだけで、みんながみんな、勝手に、楽しく、それぞれ成立していく。
心が震えるほどのすごい祭りが始まる。いつかの累君が言っていたっけ。
「色々みえてるッスねぇ、みんなの心」
もうどうにでもなれと言わんばかりに、楽し気に笑う累くんと、こんな調子で選挙にみんな来てくれないかと、すっかり人気者なスガやん。ボクが見てない間ですっかり注目が集まるところまでは予想してたけど、スレを確認した感じだとあのガッチャンネルで本音をぶちまけたのが結構良い方向に左右していたらしい。
「これからどうなるのかな」
「それは、わっかんないッス!」
ネガティブなことなんて、いくらでも思いつく。だけどこうして、すごく面白いことが、可愛いことが立川に溢れたように。きっとそれは、ボクらじゃ想像もつかないことだって起こるに違いない。それはとても救いのある話で、だからボクは微笑んだ。
そしてこのすっごい空気を感じ取ってか、MESSぃちゃんたちも飛んできた!
「いくっスよ! じゃん、けん、ぽん!」
ボクはチョキ。MESSぃちゃんたちはパー。その後、少しだけ動揺したように震えてグーになる。まだ正しくコミュニケーションがとれてるとも言い難い。でも、それでもじゃんけんらしきものが成立した。ボクらは少しずつ、またわかりあっている途上なのだ。
これが、ボクらの世界だ。愚かかもしれないけれど、ほんのちょっと、ささいなきっかけでみんながみんな、すごいことになれる。そんな僕らで、そんな世界だ。だけどいつか、いつか皆と、ちゃんと話したり、わかりあったり、そういうことが出来るようになると良い。なりたい。いや、きっとできる!
私にしては珍しく、それは、そう私の意志だけで断言したかった
スガやんも、何かふっきれたように笑った。ボクも累くんも微笑み返す。
決して今日が良い日だったとか、そんなことは言えない。何かが大きく動いた日ではあるけど、それは決してプラスなことばかりじゃない。爪痕は間違いなく私たちの街に残ってるし、消えない疵が命を、心を、これからもむしばんでいくはずだ。それはきっと震災のときみたいに。助かった人も、助からなかった人も。それが家族であった人も、家族でなかった人も。それはまた近いようで遠い話で、でも本当はどっちだって同じなのだ。
「どうしたんスか? 累くん」
「ほんとはまだ、終わってないんだよね」
Dさんが倒れて、うつつちゃんが駆けだして。
そして、やっぱりボクは感覚的にそれを断言できる
「そうッスね。そんな簡単には、終わらないッスよね~」
起こってしまったことは変えられない。現実にあるものを、ボクらがすぐさま倒して作り替えたりとか、そんな都合の良い敵は、本当の意味ではそうそう転がってはいない。僕らが誰しもが不完全なのだから、ボクらの世界が完璧であるはずなんてない。
たまたまベルク・カッツェという形がそこに現れたからわかりやすくなったというだけで、それは、やっぱりボクらの問題がそもそもの起源なのだ。かろうじて意識を回復したDさんから、カッツェさんを倒せなかったという言葉も聞こえてくる。
だけど。
「大丈夫ッス! だってボクら、もうみんな、ヒーローっすから!」
だけど、ボクらはもう知ったのだ。誰だって心のありように、本性に正しくしたって、ヒーローになれるということを。
ヒーローって何だろう。それは、きっと一人一人にとって答えが違う。だから、誰しもがなれるかもしれない。
動機だってなんだっていいんだ。楽しさだって、義務感だって、それとも猛烈に動き出してしまったのだって――――。
歌いながら、ボクはDさんの周りに集まったみんなを見た。
「お前、」
「はじめッス! みんな、Dさん運んだらみんなでCROWDSゲーム参戦するッス!」
「は、はぁ!? ちょ、ちょっと待――――」
「んな!」
「フッ」
「あんら……、はじめちゃんらしいわね……」
「うつうつします」
結局、そのまま夜通しとか通り過ぎて、みんなでそれはもう遊びまわった。おにぎり早握りゲームで作って、被災者たちに配った後にあまったおにぎりを利用した大食い大会で、先輩が丈さんにノされたり。相撲大会で出たけが人をうつつちゃんと一緒に助けたり。累くんがクラウズを使ったタイピングゲームで、意外と成績が悪かったり。
「お? 累くん、NOTEがガッチャマンのになってるッスね。バードGo! できるっスか?
」
「あはは。うん、たぶんね。だけど、まだ……」
「おいド新人! 幼稚園の方の避難場所で水が足りないと――――」
気が付いたら徹夜を通り過ぎていた。みんな、本当に遊びまわっていた。CROWDSの人たちも、そうでない人達も、色々なしがらみを忘れて。色々な怖かったことを忘れたように。いろいろな悲しかったことを忘れたように。
でも、きっとそうじゃない。忘れてなんかいない、それを胸に秘めているのだ。
「おお~! 壮観ッスねぇ」
だから、ボクにはボクにしかできないことがあるはずだ。
翌々日……? お昼まで寝て起きて、色々ぶっとびすぎて時間がよくわからないけれど。
J.Jから予言の体を借りて、カッツェさんがもういないと連絡されたCAGE。何事もなかったかのように修復作業中のそこに、ひたすら、CROWDSちゃん達のキューブが積まれていた。
「じゃ、いっちょやるっスか」
NOTEから、ボクははさみを取り出す。デザイナーのNOTE、面目躍如である。
「く~らう~ず~ちゃ~ん~は~、ぼ~くら~の~こっこ~ろ~♪」
積まれてるCROWDSは、そのままではみんなの身体に帰ることができない。これはみんなの心を物質にしたもの。つまりは、J.Jがボクらから抜き取ったNOTEのようなものなのだ。
だったら、ボクはそれを意識してハサミを入れることで、CROWDSの形を「そういった性質のものに」作り替えることができるはずだ。
意図した通りに変化したCROWDSちゃん。そして一瞬、その山を見上げて、ボクは何事もなかったように歌いながら、ハサミを振るい続けた。
※ ※ ※
あれから、立川もすっかり有名になった。海外からくるCROWDちゃんとか、普通の観光客に人とかが来たりもした。ルミネ第一デパートもすっかり様変わりして、今は工事現場になっている。
あ、あと、この間先輩の誕生日だった。せっかくなので「日記でござるぅぅ」という風にコラージュして、日記を送り付けた。いぶかし気な顔をしてたけど、さすがにそろそろボクが見ちゃったっていうのを気づいてるかな?
そんな先輩、累くんが正式にGメンバー入りしたことをきっかけに、最近は一緒の部屋で寝ている。夜中、ときどき意外とスマートフォンのゲームの話題とかが聞こえてきたりして、ちょっとだけニヤニヤしちゃうのは内緒だ。そっか、先輩もちゃんと友達できたっスねーって風に。
変化したっていえば、うつつちゃんも。前より積極的に話すようになったし、うつうつします、と、うつうつする、の言葉の垣根がなくなって、もう完全に前と違う。よく笑うようになってくれたし、CAGEでも私服を着る場面が増えた。
Dさんも順調に回復しつつある。この間、GALAX内で遊んでたら、うつつちゃんの成長について色々喜んでいるって感じのことを言っていた。ちなみに、
「これ、清音くんにも話したのよね」
とか、先輩もやっぱり変わったなーというような一幕もあったりなかったり。
丈さんは一見最初に合った頃の感じだったけど、ときどき道すがらリクエストされて、変身したり遊んだり、あんまり危なくない技を披露してあげたりしてた。もう完全にヒーロー職が板についてるイメージだ。ノブさんとも前より仲良くなってて、ひょっとしたら出世するかもしれない。
そんな楽しいことばかりが、続く日々ならよかった。
「くぅ……、おなか、すいたなぁ」
もちろん、そんな楽しいことばかりが続いている日々ではなかった。
胸の内が満たされないこの感覚は、間違いなく、その原因はボク個人の問題に帰結する。
いや、ボク以外の問題でもあるのだけれど、これはどうしても、ボク以外には解決できない一つのプロセスなのだ。
表面には出さないけど、やるせない気分のままCAGEを出ると、ちょうど目の前で先輩が道着を着ていた。何をするかと思えば、そのまま刀を抜刀。今更だけど銃刀法違反じゃないんだろうか……、まあいいや。
変身していなくとも、先輩の剣は迷いなく振るわれる。ただ前みたいに直線ばかり見ているってことはない。周囲に気を配っている様子もあって、ボクが見ているのにも気づいた様子だった。
「どうした?」
「…………やっぱ綺麗ですね、先輩の刀は」
特にいつも通りの顔をしていたつもりだった。ただ、明らかに先輩はボクをいぶかし気な目で見てきた。
あれ、ひょっとして表情取り繕うの失敗していただろうか……。
帰ろうとすると呼び止められて、珍しく夜、二人っきりで、居間で話すことになった。さすがに前に買い込んだ甘いものは底をつきてるので、先輩がおやつラーメンにお湯を入れて手渡してくる。
「どうしたんスか?」
「いや。……お前こそどうしたんだ? 最近」
「? 別に普通ッスけど」
まあ、普通と言えば普通だ。今考えていることを含め、僕が常に何かに悩んでいるっていうのは、ある意味で普通だ。特別なことじゃない。
ただ、それでも先輩は心配してくれてるらしい。とにかく何か話そうと、色々話題を振ってきた。
「思えば一つ屋根の下にいるのに、ずっと一緒に戦ってたけど、長く話してこなかったなって思って」
「あー、それもそうッスね。日記でもボクのこと、よくわかんないって書いてあったような」
「ちょっと待て、なんでお前が日記のこと知ってる!?」
あ、しまった、うっかりミス。思わず先輩が日記を書いていたことを、知っていたのを口にしてしまった。あれよあれよという間に、原因というか経緯を知られてしまう。
そして真っ赤になりながら先輩が色々ぶつくさ言ってくるのに、ごまかすように(顔は変えないけど)ボクの感想で、その情報量で押し返す。
「ふっざけるな、あ! だからお前、GALAXの俺のBARでタピオカ頼んできたんだな!」
「いいじゃないッスかタピオカ。そういえば、うつつちゃんもいってるみたいッスよ? 先輩行きつけのお店」
「この間一緒にいったときに聞いたよ! あっちは知ってたけど、前の俺がとっつき辛くて声かけられなかったって返されたよ!」
「へぇ~。先輩たちも、だいぶ打ち解けてきたっスねぇ」
にこにこ笑顔のボクに、顔を千変万化させる先輩。
「お前、ちなみに聞くけど一回だけか?」
「時々覗いてたッスよ? 累くんに鍵開けてもらって」
「こんな身近に共犯者が……! やめろよ、恥ずかしいだろって」
「なんでッスか? 先輩、かわいいじゃないッスか」
「かわ……!? なんだその感想は!」
「あ! 思い出した、なんでボクのことだけ『あいつ』って書くんスか?」
あうあう照れたような先輩(ひょっとして、ちょっと前までのつんけんしてた自分を思い出すから、今更名前呼びははずかしのかな?)をいじりながら、色々と先輩の記憶を掘り下げていく。パイパイの初見はパンダだよねって話とかは二人して声を潜めたり、ささくれだった丈さんと喧嘩したときの話はすごく恥ずかしがってたり。
「先輩、日記帳の表紙、いじらないんスか? ボク、やるっていうなら一緒にしたいッス!」
「い、いいんだよ、これは。っていうか、その、復唱するのやめてください本当に……」
両手で顔を覆って、恥ずかしさに身を震わせる先輩は、完全に女の子のそれで可愛らしかった。これは本性が云々じゃなく、小動物的なかわいらしさだ。
「お前、なんだかんだ全部、俺からしたら想定外だったよ。今でもだけど。でも振り返ってみると、結構的を射たこと言ってたりしたんだよな。視野が狭いって言ってたのだって」
「おー! ちゃんと伝わったみたいっス! ちょっと、そういうのはうれしいかも」
「ちょっとなのかよ……。まあいいや」
「懐かしいッスねー、色々。これからも――――」
これからもずっと、そう思えたらいいな、と。
さすがにその一言は、先輩に不信感を与えてしまったかもしれない。それくらい、ボクもボクなりに追い詰められてしまってるということだろうか。
みんなありのままで、そのままで、いなくならず、ここにいてください。
それが正しく伝わってるかはわからない。みんなそれぞれ違うのだから、違う自分を守って、そしてみんな一緒にいられればと。
「……あ、ありがとな。なんっていうか、色々」
「おー! おぉ、おー!」
「だから何だよその反応……」
「コラージュ! 見せてください!」
不意にそんな、照れたように感謝の言葉なんていただいたら、そりゃボクだって照れる。照れてしまう。思わずごまかしてしまうくらいには。
それからも色々話した。うつつちゃんのことだったり、丈さんのことだったり、累くんのことだったり、最近しきりにXから服装のことをすすめられたことだったり(先輩、素材は結構良いのは事実)。
「なんっていうか、もっといろんなこと話しておけばよかったですね」
お風呂の中で色々思い返して、口から出た言葉は、まぎれもなく本心で。
だから、ボクもいいかげん、覚悟を決めなければいけなかった。
※ ※ ※
カッツェさんは既に地球に飽きて、他の惑星に遊びにいった。
それが現在のGメンバーの解釈だ。
ただ、そんなことは決してありえないと思う。ボクはカッツェさんじゃないけど、カッツェさんの気持ちはわかるような気がする。
昔から私は、言葉で伝えることが苦手だった。だから色々と考えるようになった。考えを共有しようとしても、やっぱり変な扱いを受けて、独りぼっちになることが少なくなかった。
そんなとき、私は最初、待っていた。誰かが私に手を差し伸べてくれるんじゃないかと。誰でもいいから、ボクと話して、遊んでくれと。
結局それがないと気づいて、気づいたからこそ私は、ボクは、能動的に動くようになったのだ。やがてそんなボクの言葉でも、伝わってるような伝わってないようなでも多くの人が集まってくれるようになった。
でももし、また今の状態からそこに戻ってしまったら――――。
カッツェさんも、ひょっとしたらそうなのかもしれない。
だからきっと、最初に動き出したっていう事実を今も引きずっている。その動き出した内容に、人が集まったという事実を引きずっている。次の別な動きになるまで、今の自分に「誰かが手を差し伸べてくれる」のを待っている。
そして、ボクは彼に宣言した。貴方の意図してる通りには動いてやらないと。それでも、貴方にまた会いにいくと。
で、あるならば、カッツェさんは逃げない。逃げられない。彼は今、ボクだけを見ている。ボクだけが彼と正面から向き合っている。
私だけが、今の貴方のありのままを見ている――――。
ガッチャマンで確保したCROWDSすべてを、NOTEに戻した。これでボクは、もう逃げる言い訳を失った。いや、本当は気づいていたのだ。逃げることなんてできない。「ボクじゃなければカッツェさんと向かい合えない」という事実から。
「……じゃ、行くッスか」
微笑みながらCAGEを出る。
ファンらしき人たちが結構集まっていたりするけど、軽く挨拶して移動。
「終戦記念日……。我ながら、ちょっと穿った日程だったッスかね」
色々、挨拶に回ったりはもうしない。そんな時期は、もう、とっくに過ぎた。どんなに引き延ばしても一月に足りるか足りないか。
道すがらにサインを求められたりしたら、握手と笑顔で応じよう。ついでに写真もとってあげよう。
どうせ「最後」なのだ。最後くらい、いつもよりもサービスしてもいいだろう。
交差点の手前に立つ。ボクは、一度、ボクという私を止める。
ボクがいう私というのは、一人称、個人をさす私と言うより、より根源的な、哲学的な、形而上学的なニュアンスでの私という表現だ。
それは言葉で言い表すには抽象的な概念で、もっとふわふわとしたものでしかない。
でも、それがボクなのだ。ボクを構成する私なのだ。
私は、私の意図をもってボクという人格を、振る舞いを得た。
この人格をして、これまでの人生すべてをひっくるめて出来た、一つの強大な私という自我なのだ。
楽しいことも、悲しいことも。何も知らないあの日のままに、笑っていられることはない。
それは誰しもが当たり前に経験して進んでいく、人生を生きる上で当たり前の、自分という存在をビルドするということだ。
周りの、大勢の人たちと。私という自身と、さまざまな事件や、イベントや、感情や、そんなものがないまぜになって出来た一つのコラージュなのだ。
だから、私は決断しなければいけない。
貴方と向き合うために、この私はボクという私を放棄しなければいけないということを。
ボクにカッツェさんが見えなかった理由は、つまりそういうことだ。
ボクがボクであるためには、ボクにとって本性の発露というものが、綺麗である必要がある。かわいいと表現しなければならない。そうでなければ、それが嘘になってしまう。だから常にポジティブに、明るく、楽し気な振る舞いを。
それは、事実ではあるけど真実じゃない。
たとえるなら、累くんは「みんなが出来ることの道筋を示す」ことで、ボクは「みんなが出来ないことに手をあげてやる」ということだ。
だから。
「私だって本当に、殺したいって思いましたよ。カッツェさん」
あの時は、実は本当に危なかった。もし仮にカッツェさんの姿が見えていたら、ボクは果たしてボクを維持できただろうか。
ボクはつとめて「嘘にしたくなかった」。だからそれを見ないようにしていた。
本性の発露が、そのコラージュがすべて綺麗か。
そんな訳はない。
人間が不完全だっていうのは、ボクが一番わかってる。
ボクが一番わかってる。
だから、それが決して綺麗なものばかりではないことだって知ってる。薄汚れてることも、血が流れてることも、多くの涙があふれてることも。言葉にできない想いを綴ることさえ困難だということも。
ただそれを、ボクの自我の上で完結する世界だけでも綺麗だと、そう言い張ることで、ボクはボクを嘘にしないようにしていた。
だからこそ、その、ボクが見ないようにしていたところを媒介とした能力を振るうカッツェさんを、ボクは見ることができなかった。
そしてきっと、カッツェさんもだからボクに直接ふれることができなかったのだ。
カッツェさんを見ることを放棄していたボクに、カッツェさんもまたちょっかいをかけたところで、本当の意味では相手にされていないのだから。
お互い、お互いのことを見てはいるけど、その本質を見ようと、お互いにしていなかったのだから。
それはきっと、ボクほど極端でなかったとしても、誰しもが抱えている瑕のようなものなのだ。コミュニケーションの大前提にある、双方の誤解のもとに人間の感情はやりとりされるという、ただそれが肥大化しただけのことなのだ。
だからこそ――――ボクは、ボクを切開しなければならない。
ボクは、私は、貴方を見なければならない。正面から見据えて、声をかけてあげたい。
「――――あ、お母さん。元気? んん、なんでもない。声聞きたかっただけ」
ただ、仮にそうなったとすると。そうなってしまったとすると。
果たしてそこに居るボクを、ボクと、私はそれを私だと言い張ることが出来るのだろうか。
正面から汚いものを見据えて。それをきちんと理解してしまうようになったら。そのコラージュを認めてしまったら、それは、果たしてそこにいる私は、私なのだろうか。その崩壊に、人格のリビルドに、私は果たして耐えられるのだろうか。
ここのところ、ずっとその覚悟を決めていた。つとめて、認められない世界があるのだと、そういうものだと理解しなおしていた。それでさえ先輩たちに心配されるくらい、私は、ボクがボクでなくなるかもしれないという事実に、恐怖を抱いている。
「あ、最後に一つ」
ただ、それでも言わなければいけない。
答えはわからない。あやふやなまま。
どこかで叫ぶ、貴方の声が、ボクを、私を呼んでいる。
嗚呼、だからそれでも。言葉が通じず、誰も相手にされず、独りぼっちは寂しいということを、私は、私だけは誰より知っている。
だから。
「ボクはボクだよ。何があっても――――」
これだけは、せめて嘘じゃないと。
そう強がって、震えを隠しながら、私は電話を切り、微笑んだ。
次回、対決につき最終回