一ノ瀬はじめの憂鬱   作:黒兎可

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非対称接触

 

 

 

 

 

 ボクというのはやっぱり、言葉で表現するのが苦手らしい。

 こう、たぶんあんまりロジカルじゃないんだ。ラテラルなんだ。みんな話が飛んでるって顔してるし、きっとそれが正解なんじゃないかと思うのだけれど、そこのところどうなんだろう。

 

 でも、楽しい夏になりそうだ、というボクの予感はきっと外れない。

 だって、ボクは確信した。少なくともMESSが、ボクらガッチャマンが当初想定していたような相手ではないってことを。

 ボクのシザー(超大きなハサミ)を見ればその形を真似するMESS。動作、挙動について、まるで確かめるように動いたそれは、悪意をもってして人類に敵対しているわけでも、ましてや大量殺戮兵器的なものでもない。

 

 つまるところ、MESSが人間を攫っているのが事実でも、それはMESSちゃん側が意図して攫っているわけではないのかもしれない。そういう訳ではないのかもと判断して、僕はMESSの拘束を解いた。

 そんなこともあってか、翌朝になってしまった帰りに先輩はかなり不機嫌そのもの。もともと真面目だとは思うけれど、ちょっと肩に力が入りすぎて、前しか見えていない感じがする。

 

 まぁそれは置いて置いて、サンクタス立川の一階層全部ガッチャマンが貸しきってるとか……。そういえば、立飛がなんか再開発か何かでららぽーとできるとか言ってたッスか? 立地的に中々なところにお住まいな感じの先輩たちだった。近くにミニストップとかあるし。駅近いからボクもバイトには行きやすい。

 

 ODさんとうつつちゃんのお部屋に報告するも、反応はなし。寝てるのかな?

 

 そして、衝撃! ボク、先輩とパイパイと同じ号の部屋だった! 流石に部屋は分けてもらってるので、さって、どう改造したものか……。家から送ってもらったマイ・フェイバリット・無機物たち……!(ぬいぐるみ含む)。生きていたか(!?)、よかったよかった!

 そして先輩、料理男子でした! 朝ご飯も手馴れた感じ。

 んー、でもなんというか。やっぱり先輩、基本に忠実すぎるっていうか。こう、味からして「先輩らしさ」みたいなのが見えてこない感じというか。普通にちょっとセンスが足りないっていうか。ありていに言うと、まずくないけど美味しくもないっていうか。

 なので、ボクのパワーをおみせしよう! デザイナーのNOTEの力って訳ではないだろうけど、ボクはボクが思い描く独創性を、そのまま料理に乗せてみた。じゃじゃーん!

 ……まぁ、見た目はともかく、パイパイにも先輩にも味は好評。とりあえず青い色になってしまったことについては、おくびにも出さず胸を張ろう。こういう色もあるのさと、まぁ、うん。

 

「お前も命を軽く考えてる。だから敵に止めを刺せない」

 

 でも、先輩のその意見は違うと断言したい。

 彼らは、MESSちゃんたちには、たぶんまだボクらが知らない何かがあるんじゃないかと思う。それを知らずに、こう、ずばずばーって切ったり、倒したりしたら、きっとずっとその謎は解けない。つまるところ、決め付けて、決めつけた通りの対応しかしなければ、見えてくるものもないのだろうとボクは思う。

 だから、まだそういうのを何も考えずにしちゃいけないのだ。

 命を大切に考えるなら、MESSの命についても、ボクらは考えなければいけないはずだから。

 

 でも、二人とも怒るし、先輩の指示に従ってるだけでいいんだとか言うし。ぶぅ。

 

 そして、先輩、ギャラックス知らない? ケータイ通話だけ!? マジっすか、まさかここまで真っ直ぐすぎるとは思ってなかった……。真面目にガッチャマンやりすぎだと思うというか。まぁ、人命がかかってる以上はそうならざるを得ないのかもしれないけど、それにしたって先輩、余裕がなさすぎじゃないだろうか。

 取り残されちゃうんじゃないだろうか、先輩。土に埋もれて石になるッス。

 

 ギャラックスについて、もはやレクチャーするまでもないレクチャーをしてる感じだと、やっぱり先輩、友達いなさそうッスね。そういえば学校でも「~王子」ブームにあやかった呼ばれ方を、後ろ指さされながらされていたような……。先輩、別に悪くないのに。

 

「先輩も来るッスか?」

 

 ボクの誘いに、顔をしかめながらでも乗ってくるのは、ボクに対する反発もあるだろうけど、ギャラックスについて知ろうという動機が少しはあるってことかな? けっこう、けっこう。先輩はそういうキャラっすか。自分の目で見て確かめたい系?

 

 そして、知らないならボクがリードしてあげるのだ。

 大丈夫、誰だってこういうのは楽しもうと思った時から始まるものなんだから。

 

 そして、バラっちとかノブさんとかの素性を聞いて、ある意味予想通りの反応というか。やっぱ真面目っすね~先輩。

 でも、まぁ二人とも無邪気すぎるけど、様はオッサンなのだ。そこに、実は意外と違いはない。

 人間、というかボクらは、意外と与えられた役割に振る舞いとか性格とかが引っ張られているけれど。こうして価値観を共有するだけの作業に入れば、そこには垣根などないのだ。

 

 たとえどんな悲しい出来事にあったとしても。

 美しいものは美しいし、かわいいものはかわいい。

 

 応援されれば、それがきちんと届いたなら、ちゃんと一歩踏み出せるはずなのだ。

 

「ん~、そういう意味じゃ、ボクらはまだ伝え合えていないってことッスかね~」

 

 MESSちゃんとボクらは、明らかにコミュニケーションが成り立っていない。先輩たちがMESSを「物体」と呼称していたこともあるけれど。でも、ボクにはなんとなくその齟齬というか、輪郭がつかめる気がしていた。

 

「や、やっぱり向いてない……」

「いいんスよ、みんな形違うッスから」

 

 うん、先輩のコラージュもなかなかどうして。鳥なのはガッチャマンだから?

 うんうん、これも被災地に送ってあげよう。

 

「あー、世界もこうなるといいなぁ」

 

 多種多様な価値観とか、ものとか、とにかく色々なものがばーって世界に溢れて。でも、そんな色んなものがそれぞれお互いを殺し合わず、みんながそれを認め合えれば、それはとても素晴らしいことなんだとボクは思う。

 コラージュをやったりして、こうしてみんなでみんながみんなを分かりあうっていうような空間に居ると、とみにそれを感じる。

 

 やっぱりというべきか、ボクの口から説明すると先輩は意味不明って顔をしていたけど。でも、それでも何かしらボクの意図を察しようとしてくれていたのは、なんというか、伝わった感じがして少し嬉しかった。

 

 

 

 CAGEに二人して入って、うつつちゃんとじゃれてると、Dさんからちょうど聞かれたので、ボクの見解を述べておく。

 MESSちゃんたちは、倒すことに意味はない。ボクらと彼らは、まだ本当の意味では出会って居ない。きっとそれは、たぶん、お互いがお互いを何であるかっていうことについて、理解しきれていないんじゃないだろうか。

 昨日の感触からして、きっとMESSちゃんたちには、ボクらと少し違うだろうけど意識とか、自我とか、心がある。知らないことを知ろうとして、それを共有しようという発想がある。

 

 というかそもそも何で戦ってるのかというのが、ボクからするとちょっと謎だった。

 そもそもこれだけの不理解というか、溝が出来ているっていうのがおかしい気がする。

 

 それを言い出すと、なんで宇宙人から地球を守るガッチャマンが秘密裏に活動しているのかっていうのも少し不思議だけど……。みんなで考えなきゃいけない問題を、勝手にどうにかしちゃってるだけのような気もする。

 

 でも、先輩とかパイパイにはその見解はあんまり理解されなさそう。……っていうか今気付いたッスけど、パイパイ、慌てるとシャボン玉吹くんスね。そんなにボクのコラージュにびっくりしたのだろうか。

 

「それぞれの魂の実体化……、だからスーツも違うんスね」

 

 そして、このタイミングでその情報を聞いたからこそ、ボクらの能力のバラエティさになんとなく理解が及んだ。

 いや、でもクリエイターならもっと別なものもあったと思うんだけど、なんでハサミ? ノリ? もっと他の文房具あるんじゃないだろうか、ロケットペンシルとか、消しゴムとか、分度器とか定規とか。

 

 先輩はなんで刀なのだろうか。でもボクなりにそれは納得がいく。

 真っ直ぐで融通が効かない。それは、その一念一心について鋭く研ぎ澄まして、ずっとその一直線に進むことが出来るって事だけれど。杓子定規にずっとボクのことを「新人」呼ばわりするし。別に呼び方に不満があるわけじゃない。

 先輩の――――橘清音の前にいるのは、一ノ瀬はじめという個人なのだ。

 だから、新人だ新人だと物のわからない子供のように頭ごなしに話を聞かないって言うのは、ちょっと物申したい。ボクはボクの考えがあって、先輩たちと話したいから話すのだ。

 刀と同じで、まっすぐに切ったらずっとまっすぐにしか切れないと言うか。まっすぐ以外の周りのものが見えない。それはこう、ガッチャマンとして、人間として視野狭窄すぎるんじゃないだろうか。

 

 うん、そしてそれを伝えても、やっぱり先輩は意味がわかんないって顔してる。おまけに頭に血が上ってるからなおのこと。

 

 ――――翼をもがれたはずの鳥が迷い込んでいる。その鳥は正気を失っている。

 

 J.Jの次の預言は、何ッスかね……。なんとなく、今のボクらじゃ情報不足なんじゃないだろうか。

 そんなことより聞きたい事があって、J.Jのところまで歩いていったのだけれど、でも、何も語らずともなんかわかった気がスル。やっぱりJ.J、直接僕らとしゃべらないだけでちゃんと言うべきことを言ってるんじゃないだろうか。

 

  

 だったらボクらがするべきは、今はまだ「その判断は自らで行うべし」。「混乱と脅威は必ずしも同じではない」のだから。

 

 そういえば、MESSっていのは、混乱って意味だっけ――――。

 

「あ、なんか、わかったかも」

 

 J.Jが切って飛ばした紙の鳥が、変形して羽ばたいたのを見て。そう後押しされたような気がした。

 ようするに、やるべきことが見えた気がする。

 

 

 

 

 そして今度のMESSちゃんの出現場所、オニ公園! オニの上に乗ってるのは明らかに目立ちまくり! 夜の公園でサラリーマンっぽいおっさんが立ったままという姿なのは、こう、なんともいえない感じだ。

 

「今度こそ逃がさん……、いくぞ! アムネジ――――」

「アムネジア・エフェクト!」

 

 言わせないッスよ、先輩!

 

 そしてバードゴー(変身)してわかったのは、やっぱりMESSちゃん、ボクらが戦闘態勢に入るまでは変身しなかったってこと。

 さぁ、ここからはボクの出番ッス。

 

 先輩を、とにかくコラージュして固定! なんか内またみたいになっちゃったのはゴメン!

 

 でも、ボクにはやりたいことがある。ボクがやらないきゃいけないことがある。

 価値観を本当に、心の底から共有することが出来ないボクだからこそ。それでも多くのヒトと価値観を共有したいと、そのための術をボクなりに学んで、実践してきたからこそ。

 

「おはよー! 

 ッて違った、こんばんわー!

 いぃよっしゃー! 初めましてええええええええええ!」

 

 出会いに挨拶は大事。

 軽いジャブ程度にまずは接触だ。「今まで切られてきた武器」であっても「切らない使い方もある」のだと、まぁそういう感じにつついてみる。

 

 ――――ビンゴ!

 

 MESSちゃんが止まったと同時に、なんか、溜め込んでたのを吐き出し始めた!

 ってことは、ボクら、MESSちゃんに「認識してもらえた」ってことじゃないッスか!?

 

 どうやらようやく、本当にようやくボクらは出会えたらしい。

 

 大変なのはここからかもしれないけど――――それでも、うん。

 

 

 

 こうして「ダレカ」と「ボクら」が、お互いを知る事ができるっていうのが、やっぱり、楽しいし嬉しい!

 

 

 

 

 

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