正面から言葉を伝えたところで、ボクの言葉がボクの意図を、本当のところを伝えてくれているという確証はない。だけれど、それでも言葉を尽くさなきゃならないときは言葉を尽くすのが人間なのだ。
だから、CROWDSを使っていた、たぶんカッツェさんにやられて倒れてしまっただろうひとの娘さんに声をかけている累くんは、なんとなく、そのままにはしておけなかった。
とりあえず、つーかまーえたっと。
そしてみんなに改めて紹介すると、先輩がぱくぱくいっていた。うん、確かにDさんも認めるほどに可愛いし、うつつちゃんもぽわぽわした感じで「うつうつします」とかいってるし、受け取られ方は好意的なところなんだけど、まさかあの格好と雰囲気から女の子だとは考えてなかったらしい先輩だった。
まぁ確かに足とかキレイっすけど、肩の鎖骨のあたりとか、露骨に男子男子してた気がする。
「って、LOADくん、ボロボロっすねぇ」
「あ、これは……」
「詳しくは、LOADくんをGマンションにご招待! してからッスねぇ。
先輩、かえのジャージとかってあったッスか? って、電話中みたいッスねぇ。先輩、友達いたかな……?」
後で聞くとご実家の、お母さんからだったらしい。まぁそれはともかく。
幼稚園のみんなに手を振ってさようならをし(意外にもパイさんよりDさんの方が人気があった)、とりあえずボクらの家に。匂うってわけではないけど、メイクとかガタガタだし、一回お風呂とかに入って思考をリセットしたほうがいいかなってー思わないでもない。
と、うつつちゃんが累くんの後をおっていく。
「うつつちゃん、濡れるッスよ?」
「いい。少しくらいなら風邪、ひかないし。はじめ」
おっと! うつつちゃんからまさかの呼び捨て来たッスね。これは、ボクももうちょっと距離をつめていい感じかな……?
そして先輩、まだぶつぶつ言ってる。そんなに衝撃的だったろうか、累くんが男だったっていうのは。
「いや、だって、髪型もそうだけど、スカートはいてたんだぞ……?」
「口調、男の子だったじゃないッスか」
「それは、お前だって……」
「んー、たぶんだけど、可愛いのが好きなんじゃないッスかね? ほら、可愛かったじゃないッスか」
「それは、まぁ、間違えるくらいには……」
ただどうにも、以前会った時のような自信に溢れたパワーみたいなものが感じられなかったので、たぶんあの女装には「変身」というか、武装の意味合いもあったんだろう。
実際、シャワーから上がってきた累くんは、引っ込みじあんな感じの、真面目そうな少年でしかなかった。ただし美とつきそうな。
うつつちゃんが頑張ったからか、少し傷跡が減ってるッスねぇ。多少は手当てしないとばいきんが入っちゃうので、ナイス処置といえなくもなかったところ。あんまりうつつちゃんも無理してるようには見えないので、そこまで体力はもっていかれなかったのだろう。
「しっかし、もう暗くなってるッスねぇ」
隣でパイパイが電話をひたすらに受けるのを聞きながら、昨日買ってきた分の残りを食べる。流石に万単位のお金を払って買ってきたのは無謀だったか、いまだに冷蔵庫がパンクしてる。……Dさんとかにもあげた方が良いだろうか。うん。
って、ロックフェス? パイパイの出ている電話の一つに、そんな招待があったらしい。
「おっもしろそー! ボク、歌うッス♪」
そっちの方はあんまりやったことなかったッスねぇ。そりゃもう、イノセントな感じに歌い上げちゃうッスよ!
「ふざけるなぁ! どうせお前だろ? わたしの携帯番号、公開したのは!」
「あたりッスー!」
だって、間違いなくそれを捌く権限というか、一番妥当な感じに対処できるのはパイパイだけだし。それに落ち込んでるみたいだったから、強制的に気分転換もかねていたりもする、とか言い訳してみたり。
しかし、カッツェさんの謎謎、こたえが見えないッスねぇ……。いくらおっぱいにカロリーが行くとはいっても、流石に限界がある気がする。
「ん?」
あ、これ累くんのまとめみたいッスねぇ。いったい誰がこんな情報を流すのか……って、お、おう、ボクのちみっこ時代の写真まで流れてる。ほんと誰が集めているんだろう、こういうの。というか、何人かボクらの写真にはぁはぁしてるのがいるのはちょっと、現実では止めてくださいッスよー。
うんうん、色々言われてるようだ。ボクの一人称とかにも突っ込み入ってるし。いや、それはいいんだけど、えっと、いや、お母さん? ちょっと、そっちの情報まで流されるのは――――。
いけないいけない。笑顔が曇ってきた。がっちゃーがっちゃーと歌いながら、リビングを一度後にする。リセットリセット。ボクが雲ってちゃ、みんな不安になっちゃいそうだし。
「なにぃ、老人ホームで変身してくれ? そんなの皆びっくりして倒れたらどーする!!?」
そしてなんだかんだ、パイパイは真面目なオッサンだなーと思ったボクであった。
※
とりあえず、細かい情報は先輩が聞いてくれるとのことなので、ボクはボクで甘いものの準備。なぁに、まだまだ腐るほどあまっているのだから、無問題無問題(放っておくと本当に腐りかねないくらいには買ってしまった昨日の自分、ちょっといただけない)。あいた扉から、累くんと先輩の会話が聞こえる。
「やっぱりGALAXは、カッツェさん的にも必須ってことッスかね」
直接的な暴力に至るためにCROWDSが必要というのもわかるし、心のやりとりを俯瞰するためにGALAXが必要というのもわかるけど。流石になんだかんだ人間は理性的なのだから、管理者が変わったくらいでそうそうには行動が起きるとは思えない。思えないけど、頭にはとめておこう。
「はぁいみんな、甘いのあるッスよー!」
「ふとるよ、はじめ」
じゃあ明日から一緒に走ろうかと提案すると、不満そうに「むぅ、うつうつする……」とか返される。うつつちゃん、身体すっごい細いし、運動は苦手な感じなんだろう。
ドーナッツを渡すと不満げにうけとるうつつちゃん。先輩は冷蔵庫の惨状を誰より判っているので、ボクが言うよりも先に手に取ってる。……ん、あれ、先輩、タピオカ好きッスか?
「じゃ、LOADくんも」
「あ! いや、その名前は……」
今の自分は彼らを導びける立場にない、ということで、LOADとは名乗れないってことかな。
んー、この感じ、さっきの状態と同じ感じッスねぇ。こっちの方が本来の累くんってイメージなのだろうか。とすると、女装以外にも累くんの場合、自分のメンタルを保障する何かがあったってことなのだろう。何なのかは情報不足だってことにしても、早いところ対策は考えないといけないかもしれない。
自力で立ち上がることが出来るのが人間のいいところだけど、物理的にも精神的にも限界ってものがあるのも人間なのだから。
「な、なんだこれ……!」
おろ、累くんエゴサーチとか、あんまりしないんスかね。ちなみにボクはたまにしてる。
GALAXの掲示板にて、LOADくんに対するコメントに憤る先輩。何も言えないって言う感じの累くんは、ひょっとして見ている景色、ボクと似通っている感じッスかね。みんなの内発性に期待する立場だからこそ、表出される意見そのものについては感情をぶつけられる立場にないっていう。
それを言い出したらボクだって罵詈雑言の扱いはそんなものだし。流石に実家の方の話まで出されたのには少しへこんだけど、今は笑顔笑顔!
まぁ、死ね、とかいわれるのには慣れてるし。
「平気なの、こんなことされて……!」
…………………………平気ッスよ。
ボクの自我という世界においては、所詮は、電源を落としてしまえば終わりでしかないのだから。
「あ、この写真懐かしいー! 後で保存しておこ」
上野動物園あたりッスかね、これ。しっかしこの馬さん、にんじんすごく勢い良く食べてたような記憶が、あるようなないような……。
と。とりあえずいつものペースを崩さなかったことが功を奏したのか。累くんは心底、ここにきてからはじめて心底、楽しそうに笑っていた。
「真犯人は、醜い心」
累くんが、カッツェさんから言われた言葉。それがどんどん溢れて互いに殺し合う。だからこの事件は永遠に終わらないと。
電源の切れた画面を見つめる累くん。真っ暗なそれを通して、いったい何をみているのだろうか。
醜い心か……。醜い、かぁ。
累くんが第三者の、何も知らない人たちの意見に言葉を発せなかったように、それはボクにとって、何もいえなくなってしまう類の事柄かもしれない。
十人十色が美しい、きれいという立場にあるボクは、そのありようについて、自分が好きかどうか、という程度の判断基準しか持つことができない。嫌い、という言葉を発することも、考えることも、ボクにはできないというか。それを言い出したら「ボクがボクでなくなってしまう」。
たまには化けの皮が剥がれそうになって皮肉を言うこともあるけど(言った所で大概は通じないのだけれど)、メインのスタンスとして、ボクはそうあってはならないのだ。
でも、だからこそ。それが行きつく先がどこなのか、わからないこともない。
他ならぬカッツェさんが、回答例を既に示している。
「先輩! ボク死んだら、どう思うッスか?」
戸惑いながらも、先輩は悲しいに決まってると言ってくれた。うつつちゃんも、鬱々するって答えてくれる。Dさんに言わせれば、ボクはGメンバーの太陽なのだそうだ。
流石にその評価は過分に過ぎるけれど。
でも、そう思う皆と同じ位には、そうとも思わない人間だって多いのだ。
「ま、ヒトの不幸は蜜の味って言うけどね~~~?」
はちみつかりんとうをひらひらさせながら、Dさんが続ける。
不幸? ……あ、繋がった。
幸災楽禍という文化が花開いたのは、江戸時代ごろっていうのが通説な気がしないでもないけど。いわゆる、カッツェさんの使うスラングであるところの「メシウマ!」がすべてを表してる。
そうか、不幸か。他人の不幸を求めるからこそ、それが延々に続くからこそ、世界が真っ赤に燃え上がるほどに、みんなのエゴが、エゴ同士を潰すのか。
そりゃ、確かに醜い心といえるかもしれない。創造性がなさ過ぎる。
……あ、しまった、醜いとかボクが言っちゃいけないんだ。落ち着け、落ち着け。
とか思っていると、おろ、J.Jからの呼び出しッス。精神の崖に転送されると、相変わらずJ.Jははさみで鳥を作って――――。
「あれ?」
その鳥のどこにも、ボクらに該当する鳥がいないことに気付いた。
――――壊れた子供たちが、大いなる祭を起こす。地下深き場所に眠っていた醜き心が、人々の前に姿を現す――――
「――――やばいッス」
思わず、そう呟いていた。
これ、見計らったって訳じゃないだろうけれども、J.J。
彼の手から落ち逝く鳥の紙を見ながら。ボクの口は勝手に動く。
「これ、電源切れないッスよ……!」
最終的に自我の世界で完結するのであれば、どんな悪評も見なければいい。だから電源を落とせば解決になるのだけれど――――。
みんながみんな、それを現実でやりはじめてしまったら。もう、そんなの、どうしようもないじゃないか。
それこそ、世界が真っ赤に染まってしまう。
これは、本腰を入れて対策を考えないといけないかもしれない。ボクらに出来るのは、手の届く範囲で戦うってことだけであって――――人類の心を相手に戦うことなど、出来るわけがないのだから。
※
「これで、良しとー!」
とりあえず生放送のアカウントだけ開設した。J.Jの預言のペースからいえば、明日か、遅くとも明後日の範囲で何かことが起こってしまうだろう。もはや学校とかにいってる場合ではない。
とりあえず担任の先生に「ボクと先輩と、あとうつつちゃん明日休むッス!」と連絡を入れておいた。仰天こそされたものの、ガッチャマン、というのがちゃんと理由として通ってしまったので、今回はいいことにしておこう。うん、悪いことばかりではない。そういうのがまかり通るのが良いか悪いかっていうのは微妙なところだけど、先輩は今年こそ留年しないで済みそうだ。
「ガーッちゃがちゃがっちゃがっちゃがっちゃがーっちゃ、と。……これもそろそろ飽きられる感じッスかね?」
まぁ、不思議ちゃんで受け入れられていた方が、素っ頓狂なことを言うこと自体を拒否はされないから、別にいいにはいいのだけど、そろそろレパートリーが足りない。
「むむぅ、累くんが仲間に加わったとなると、GALAX感だした方がいいッスかねぇ。
ヒーロじゃない、ボクらだ! ってあたりだし……。ヒーローの実在性についてって感じかな?」
そんな妄言を吐きながら夜食のケーキを片付けていると。あれ、先輩がリビングで寝落ちてる。ひょっとしてベッドを累くんに貸しているからとか、そんなことが理由かな。なんだかんだボロボロだったのだから、まだ累くんも疲れは抜けていないだろうし。そういうあたり、やっぱり先輩は真面目というか――――。
「って、おーッ!」
に、日記じゃないッスか!
やっぱり先輩、日記つけてたッスね! 表紙とか真っ白で簡素な感じすぎるけど、それもまたそれで先輩っぽい。ちなみに白というとボクのNOTEだけれど、あっちはデコレートしてもバードGoしたらラメとか全部消し飛んだので、もうやっていなかった。流石に変身アイテムだったっていうことだろう。
「むむぅ、きょ、興味……! いけないけない、先輩のプライバシーだし……!
と、見・せ・か・け・て――――、レッツリード!」
そしてボクに自制心とか容赦の心はなかった。
単純に興味があったからだ。先輩がどうものを見て考えてしてるか、というのもだけど。ある意味、エゴサーチ的な目的で、先輩からボクがどう見えているかとか。
熟読。
「んー、思考整理ってかんじッスかねぇ」
ボクも昔やってたことがある。自分の中にあるわだかまりとか、誰にも言えない自分だけの想いだとか、そんなものが溢れてくるのだ。どうしようもなくなったとき、とりあえず書きかけのノートに記したり。それがポエムとかになったりすると表現分野なんだけど、先輩はあくまでも自己の内面に向かっていくものとみた。
あ、やっぱり先輩も最初はパイさんのこと、パンダだ! って思ったのか。そっかそっかー。
そして時々文中に出てくる感じからして、先輩の性格はお父さん譲り? というか、しつけの結果な感じがする。一本芯が通ってるといえばかっこいいけど、ちょっと昔かたぎって言えなくもない。別に悪いとかじゃなくって、そういうものかー、という感じなのだけれど。
「おお、やっぱり先輩にとって、ヒーローっていうのは丈さんなんスね」
時々、MESSちゃんに攫われていたところから救出されていたのをフラッシュバックするらしい。そのときに助けてくれたのが丈さんだったとか。だからこそ、くすぶっている丈さんに思うところひとしきり。
そして先輩、想像以上にガッチャマン歴が長かった。MESSちゃんとの交戦歴も。なるほど、だったら先輩があれほど目の仇にしてたのも頷けるって感じだ。
「しっかしDさんも的確な人物評ッスねぇ。見習わないと……」
ガッチャマンと、生真面目な(その割に本人の意図しないところで若干不良みたいになってる)先輩っていう二つの仮面は、先輩にそれなりに負担を強いている。ボクの目から見てもそれは丸分かりなのだけど、CAGEの様子からだけでそれを察して、友達を作りなさいっていうDさんの安定感というか、包容力っていうか。だてに百年単位で生きているわけでもないのだろうけど、ボクだって負けていられない。
「って、J.J。これ、ボクには言わないッスよね」
どうも先輩たちは「ここは私の星ではない」と、ときどき言われていたらしい。J.Jの預言がポエムチックになってるのは仕方ないこととしても、んー、案外、投げやりと言うか、言い回しに諦めが入ってるような感じなのかな……?
「うつつちゃんとの接し方もわからなかった、っていうか女の子との距離感がわからなかった感じッスかね……。あ、ボク登場したッス!」
おっと、本題本題。エゴサーチ、エゴサーチ。
部屋に持ち込んだ化石っぽいのは、ちなみにアンモナイトじゃなくてオウムガイっす。
「って、先輩、ちゃんとパイパイに聞いてたんスねぇ。震災で、出来ることがないかって」
それは、ボクみたいな立場からすればすごく嬉しいことだったりもする。他でもないガッチャマンでなかった当時のボクらを、先輩みたいな立場のヒトがなんとかしようとしていたっていうことは。結果はどうあれ、そういった内発性はやっぱり誰の中にもあるのだ。
おおむねボクが予想してた通りのようなことを考えて行動したりしていたけど、それでもボクが知らないエピソードとかが色々あって。エゴサーチ目的より、興味本位の面がちょっとだけ勝っていた。
ちなみに先輩がGALAXで作ったアバターの「疾風」さん、ボクのアバターから登録日に友達申請はかけてあった。だって、初見一発目で先輩っぽいなーって思ったから。実際外れてなかったのが面白いところだったけど。サスペンダー好きッスよねぇ先輩。あと刀。
「……これは、まぁ、仕方ないけど勿体なかったッスねぇ」
そして先輩が目撃していた映像に、ちゃっかり、うつつちゃんが変わろうとしていた瞬間があった。
Dさんに諭されて折り紙を折ったりするところもそうだけど、なにより、トンネルで。助けたいと、自分を省みないで力を振るおうとする意思を見せていたっていうのは、みれなくて、すごく勿体なかったなと感じた。
そして、やっぱりLOADくんは女の子だと思ってたみたいだった。
「って、ちょっと先輩、男子トークせきららすぎないッスか?」
まぁそれにしては女子力高めな会話だけど。なによりシモネタとか、きたない話題が出ない。
累くんと「男の子として」知りあってからの会話からみるに、やっぱり累くん、かわいいもの大好きみたいだ。自分の女装も、たぶん可愛い格好だから、というのが趣味として大きいんじゃないかな。
先輩の刀も、累くんからすればかわいい。
「ん、ちょっと親近感ッスねぇ。累くんも、こう、内側から溢れる心って言うか、そういう、ずわわー! っていうの、かわいいって表現するッスか」
そして、ちゃっかり累くんのキーワードを見つけた。
総裁X。GALAXのXにして、人々の意思を統合するためのAI。累くんがアルゴリズムを組んだ、彼にとっての友達。
Xだけが友達という累くんは、いうなれば人間みんなと友達っていうようなことか。確かにそれなら、あんな累くんがあれだけ自信満々に振舞えるのも頷ける。
これッスね? 累くんの精神的支柱……。
今日あった大きな出来事としての累くんから、今度は幼稚園の方に話がふれる。……って、帰り際に電話してたの、先輩のお母さんッスか。世間話のタネになったっていうのと、あとずっと頑張ってくれていて、って意味でのありがとうだったのかな。
「そして、丈さんの気持ちを慮りもするけど、それでも感じてるものが違ってるのには悲しいと……。んー、中々先輩も難しいところッスねぇ……。
って、先輩、コラージュ作りはじめてるッスか!?」
なんでも、Gメンバー全員を題材としたコラージュを作っているらしい。ガッチャ!
そして……。
「……ごめんなさいッス、先輩」
エゴサーチ目的にしつつも、気が付いたら全部読んじゃっていた。そして「誰にも日記をつけてるってことを言うつもりはない」とか。
「お詫びに今度、タピオカ美味しいところにデートしてあげるッスかねぇ」
それとなく感づかれない程度に、と。そんな風に計画を立てながらも、ボクは少しだけ、気分が高揚していた。
完全にうつぶせで、いびきみたいになりかけてる先輩の顔を横にずらして、そしてちょっとほっぺをいたずらっぽくつついてから、ボクは立ち去った。
※
先輩の日記から着想を得た。先輩、ひょっとしたらJ.JもGALAXやってるんじゃないか疑惑を日記で言及していた。
なのでふと思ったのだ。ひょっとしたらカッツェさんも、GALAXやってるんじゃなかろうかと。
流石に直接的に見えないって言うのなら能力とかでわかるのだけれど、GALAX上で話し合ったりくらいはできるんじゃなかろうか。というか、そもそも見えるんじゃないだろうかと考えて。
「
画面上でニコニコのまま疾走するボクに、エールを送る。
事態は既に動き出した。霞ヶ関とか、色々なところにCROWDSが攻撃を始めている。
犯行声明を出しているのはこう、普通のサラリーマンさんみたいな感じのイメージを抱いた。なんスかね、社会からの愛が足りなかったか……。なんにしても、カッツェさんに煽られてしまうだけの心の隙間があったか。
「リーダー! すぐに出動しましょう!」
「馬鹿いえ! CROWDSを操ってるのは人間だろ? うかつに手が出せん……」
みんな、ボクら待ってるッスねぇ。GALAXでも、心配そうな声がちらほら。それを現すかのように、空模様は雨。
累くんの推測は的確だと思う。カッツェさんが、かつて累くんが危ないって理由からCROWDSを取り上げたヒトに与えたらしい。CROWDSがどこからでも操れるって言う特性があるなら、動画は自宅とかからやってるのかな? がばがばだぁ。
「――――カッツェらしいわね。決して自分の手は汚さない」
「このまま、この世界を炎上させる気だ……!」
「リーダー!」
なおも慌てるパイパイ。でも、だからこそ。
カッツェさんをGALAX上で探しながらも、パイパイの顔を両手で挟む。
「パイパイ? 人生なんてたいてい、想定外じゃないッスか~」
「ぉう?」
これからもっともっと、色々なことが起こるのだ。J.Jが預言しかボクらに与えないのは……与えられないのは、きっと、そのこと事態に意味がある。たぶん、J.Jは多くボクらに干渉することが出来ないというか。そういう「役割」というか、「立場」にいるのだ。だったら、きっと彼には何もできないし。
ひょっとしたら、何もするつもりはないのかもしれない。
だからこそ、パイパイは本当はどうしたいのか――――。
窓の外に出て、ひざをかかえる累くん。
人一倍、誰しもの内発性に期待をかけていた彼だからこそ、今回のこれは人一倍、自分の責任だと引き受けてしまうのだろう。
だけど、そうじゃないのだ。
カッツェさんだっていっていたことだし。結局、CRAWDSだって道具なのだ。どう使うか、とか、振り回されるか、というのは、結局ボクら次第だ。
だから。
「これはボクら、みんなのせいッス。だからボクらみんなが、それぞれ出来ることをするしかないッス」
パイパイだけじゃない。先輩も、うつつも、Dさんも。みんなみんな、どうしたいのかを考えて動くのだ。
累くんは、だから、どうしたいッスか?
「僕は……、僕は、Xを、取り戻したい!」
うん。それは、大丈夫だと思う。
累くんはずっとXと一緒にGALAXをやってきたのだ。一緒にいろいろなヒトの美しさもみてきたし、醜さもみてきたし。苦楽をともに、価値観を共にしてきた。それって、もはや友達なのだ。
累くんがXを「みんなの心の集積体」としてしか見ているのかどうか、というのとは別に。「X」という個人は、累くんという個人の友達なのだ。
「友達なら、ぜったい、帰ってくるッス!」
だから、Xは累くんがわかるはずだ。だったらきっと、そのうち気付いて累くんを探し出すんじゃないだろうか。
そこまで、どこまで持続できるかというのが一つの勝負だ。そしてそれは、ボクらが力を尽くさなければならないだろう。
さて、その前に。
「ガッチャマン、アピール作戦第二弾ッス!」
「それってまだ続いてたのン?」
当たり前ッスよ、Dさん! なにせ昨日、お夜食まで用意するレベルで頑張ったッスから!
タイトルはシンプルに、ガッチャンネル。
丈さんはまだふんぎりがつかないみたいだけど、ほぼGメンバー総出演でお送りするッス。
インパクトとしてのふじようちえんへの来襲(?)をふまえたうえで、話題がつきないうちにコンタクトの手段を安定してもうける! そのうちラジオみたいに、リクエスト曲とかお便りで流しちゃうッスかね。
実際問題、出だしとしてはまぁまぁの感触だ。今回の一通りの説明と、謝罪をする累くん。いまいちぱっと自信なさそうな返答をしちゃうパイパイ。
そして、ガッチャマンはカッツェさんに勝てるかっていう質問。……どうでもいいけど、うつつちゃんナレーションっていうのもそれはそれでありッスね。可愛い声だし。
「それはですねぇ、まだ、ちょっとわかりません!」
そして、これを答えるべきはボクだろう。わからないけど頑張るしかない、という時点で既に色々と絶望的だけれど。
まずもって観察することが出来ない相手を観察しなければならないのだ。それくらいの覚悟を胸に秘めないといけないだろう。
※
ついてきてくれ、と、先輩に促されて。ボクらは今、精神の崖に来ている。
「お前は、」
「はじめッス! って、これもなつかしいッスかね」
「……嗚呼、そうだな。だけど、お前は言った。J.Jは神様みたいなものなら、きっと何もしてくれないって。
だったら、言っておきたいんだ。俺も」
何を言うのか、それはそれで興味をそそられるところだったけど。どうやら先輩も、心の崖を超えようとしているらしい。
最悪、Dさんが翼を広げてすべてを無くしてしまうほどに切羽詰った自体であっても――――。
「それが、先輩の言いたいことなんスね」
それでも、先輩は強い意思をもって、崖を超えた。疑問に対する答えを探していたボクが、崖を超えたように。
あたかもJ.Jとボクらの間にあるそれは、観念的なボクらと彼との距離を表しているようなものだ。
それを、一歩一歩。何もない空中に踏み出して行くのは、勇気以外の何物でもないだろう。
大丈夫。ボクが見てるよ、と。声には出さないけど、それでも先輩に笑ってあげる。
そして、先輩はいった。ここは僕らの星だと。だから、勝手にやらせてもらうと。
それでも頭を下げるあたり、やっぱり先輩らしい。ちゃんと筋を通してからやりたいという姿勢と、そして、これは今までの自分たちへの決別ってことなんだろう。
先輩は、大きく、大きく変化しようとしてる。「かわいくなろうとしている」。
思わず飛び出し、両手を広げて先輩に向かう――――って、あれ、Dさんの方が早かったッス。
「清音ちゃん。ハグしていい?」
Dさん、もうしてるッス。というかボクの立場がとられてしまっている。
んー、まぁそれでも、やれることがないわけじゃない。
いつか勝手に思っていたように、ボクは、先輩の頭をなでる。
とりあえず、今これがボクにできるご褒美ってことで。
しかし――――照れながらも、もがきながらも、それでも何かを成そうとするその意思は、顔は。なにより今のボクには、愛おしく思えた。
――――J.Jがボクらを、少しだけ淋しそうに見つめているのに気付きながら。
――――思考する暇を惜しむほどに、この星は滅びるだろう。それでもなお抗うか。大いなる翼たちよ――――