おジャマデッキ極めたいなぁ…………
「…………あの、ゼノヴィア様?何故に俺たちはホテル街に来てるんでしょうか?」
「む、まずはホテルで一発では無いのか?」
「どこ情報なんだよそれ!?」
ゼノヴィアの知識は、なんか歪んでいた。というのも一誠とゼノヴィアは京都襲撃事件から一夜明けた後、かなり仲良くなった、というよりもはや恋人同士になった。
一誠は昔の夢であるハーレムは諦めていないが、ゼノヴィアはその夢を語られてもなお一緒にいると言うので中々だと思われる。
そして晴れて2人っきりの初デートになったのだが、コナミ君(仮)が先に街の良いデートスポットを調べて教えてくれたにも関わらずゼノヴィアが暴走、ホテル街に来てしまったのだ。
この状況に満更でもない一誠も一誠なのだが、コナミ君(仮)は良い場所を提示しただけでどうこうしたらいいなどは言ってないので彼も気にしないだろう。
ただ、少しは自重しろと言うかもしれないが。
「あの時も言ったはずだが、教会だと禁則事項が多いのだ。だが、私はもう教会から破門された身だ。周りに迷惑かけない程度に好きな事を好きにやって構わなんのだろう?」
「うーん、うーん、ゼノヴィアがそう言うなら」
悩むフリをしてかなり喜んでいるのは目に見えている一誠。思春期ということもあって欲望がダダ漏れである。
女性恐怖症も患ってないので本人から積極的に行けるという点もありちょっとした暴走を許している。
2人の中の予定ならこのままホテルに入った一発、いや下手したらホテルだけでデートが終わるかもしれない。
お忘れだろうか、立場を奪われようと原作の主人公は一誠なのだ。こういう時に何か起きてしまうのだ。
「よっしゃ!入ろう…………っ!?」
「一誠、どうした?」
一誠は見た、見てしまった。全てを奪った転生者こと兵藤一樹と、かつて一誠が通っていた学校の二大お姉様と呼ばれる姫島朱乃がデートしていた。
殺意、特に苦労もせず美人と一緒に歩いている奴に対しての嫉妬が出た。が、ゼノヴィアに頭を叩かれて正気に戻る。
「…………ごめん、あいつ見たらどうも殺したくなる」
「あんな奴は放置だ。ささ、行くぞ」
そう言った瞬間、姫島朱乃が何処からか現れた爺にセクハラされた。
本来なら無視してホテルに入るはずだったが、その爺から神性を感じたのだ。ゼノヴィアはともかく何故一誠が神性と感じ取れたのか、神と付くカードを持つコナミ君(仮)のせいである。
特に、試運転でコナミ君(仮)が手札に一枚だけ嫌な予感がするカードをよく握っているため、それが神性だと後で教えられたのだ。
無視するにもその爺がいる方向を見てしまったのだ。向こうの爺も気づいてるため逃げることは難しいかもしれない。
だが、ただで捕まるつもりもない。2人はサングラスまたは仮面をつけ即座にデュエルモードに入った。
「ほほう、そっちは鋭い。ルーンをゆっくり解いていったが、すぐに気づくとはな」
「え?あ、お前ら!?」
アンチノミーとなった一誠は舌打ちをしたくなった。一樹に見つかったなら即座に襲いにかかってくるだろう。
デッキを取り出して事を構えようとするがゼノヴィアに止められた。
「ゼノ…………んんぅ、パラドックス、何故止めるんだ?」
「君の気持ちは分かるが今この場で構えるのはマズイ。ここでやりあったらグレモリーはともかくあの神も黙ってないだろう」
「ほっほっほっ、冷静な判断じゃな。キョートの話をもちろん聞いとるぞ?流石に戦うとなれば巻き込まれるかもしれんのでな」
くつくつと笑いながら神、オーディンは言う。
「(アンチノミー、あれは恐らく北欧の神だ。北欧の関係者に何度か会ったから分かるが、間違いなく最高位だろう)」
「(北欧で最高位の神って、まさかオーディン?ラグナロク起きてなかったのか…………)」
「聞こえとるぞ小僧。ラグナロクは、まあ神話通りの戦争じゃが起こっとらんよ」
歴史、というより神話に矛盾を感じるが、叩けば叩くほど矛盾が出てくるのでこの話題はそっとしておく。
「オーディン様!先に行かないでください…………って何ですかこの殺伐とした空気は!?」
神の名前がバレてしまった。オーディン、片目を捧げてルーンの全てを手に入れグングニルの槍を持つ北欧神話最高神である。
遊戯王にもオーディンの名がつくシンクロモンスターはいるが、一誠達は持っていない。
「オーディン殿!無事ですか!な、朱乃!?」
「え…………何故あなたがここにいるのよ!」
姫島朱乃の関係者らしき堕天使も来た。どうやら堕天使がセッティングしたオーディンの護衛らしい。何故姫島朱乃と関係があるのか不明だが、敵が増えたことには変わりない。
姫島朱乃だけ堕天使を睨みつけているが、注目は一誠達に集まっている。
「美人がそう睨むでないわ。ほれ、よかったら儂と茶をせんかの?そちらの小僧もな」
「オーディン様!得体の知れない人間を気軽に誘うんじゃありません!」
「そう硬くなるなロスヴァイセ、茶の一つくらい許容出来ないようじゃ男なんて夢のまた夢になるぞ?」
「な、何故そこでその話が出るんですか!?今は護衛なんですよ!男歴なんて関係ないですよ、ええ!」
護衛のヴァルキリーと漫才を始めた。何がしたいんだと一誠は思ったが、ゼノヴィアは違った。
「アンチノミー、ここは乗るべきではないか?」
「え、あいつもいるのに何で茶の誘いを受けようと?」
「我々は人に害をなすやつを倒すんだ、あの神が人をどうするか見極めようじゃないか」
「ほほう、儂を見極めるとな。なかなか豪胆よのぉ。あやつが男なら勇者としてロスヴァイゼを嫁がせていたかものぉ」
「なっ、何をおっしゃるんですか!私は女同士の恋に興味ないですよ!ちょっと興味はありますけども!」
男なら、という部分を聞いてないのか盛大な自爆をしたのに本人が気づいていないという何とも言えない空気になった。
一誠は、ゼノヴィアがこう言うと中々止められないのを承知しているためもう止める気もない。
ただ、
「兵藤一樹、これから起こることにそいつが一切絡まないならいいだろう」
「だから何で俺に恨みでもあんのかよ!あの時も集中して俺を狙ってたじゃねえか!」
最後に轢かれたのは不注意だと思うのだが、そこは棚上げされている。
「ああ、俺は、俺達はお前が嫌いだ。今すぐにでも消したいくらいにな。だがここで消すなら北欧神とそこの堕天使が黙ってないだろう?これでも妥協した方だ」
「この条件が飲めないなら私達は帰る」
本音を言うと、一刻も早くデートに戻りたいという事で恐らく堕天使が計画したであろう護衛ルートから外れないと思うため後で絡むであろう兵藤一樹を関わらせようとしないのだ。
だが、これで簡単に折れるような神ではない。
「ふむ、あの小僧、未熟な赤龍帝にはちと、いや大分きついだろう。よかろう、その条件を受けようではないか」
「なっ、爺さん!」
「小僧、誰が儂を気軽に爺呼ばわりしていいと言った?」
オーディンから放たれた圧に一樹は力が抜けたようにへたり込んでしまう。隣にいた姫島朱乃は何も感じていないようで、この場に立った1人にピンポイントで睨みを利かせたのだと一誠とゼノヴィアは悟った。
ガタガタと震える一樹を心配するように姫島朱乃が身体を支えてオーディンを睨みつけるが、当の本人、いや本神?はものともしていない。
「オーディン殿、ですが観光プランは」
「元はお主が娘の気配を感じてここに来たのだ。その娘の逢い引きととあの2人との話、どちらを取る?」
そう言われて堕天使、バラキエルは黙ってしまった。確かに確執があるとはいえ大切な娘に雑魚と言って過言ではないほどの赤龍帝との逢い引きと何者か詳しく分かっていないあの2人、どちらを取るかなんて言われても本当に困ってしまう。
それでも数秒、感情的な面も入ってしまうがあの2人の存在がそれよりも優先させる。
「…………分かりました。ただし、アザゼルには連絡させていただきます」
「それくらいよかろう。ささ、アンチノミーとパラドックス…………だったかの?近くの喫茶で話をしようではないか」
「近くの喫茶じゃダメです!せめて高級なところで行ってください」
そうじゃない、とツッコミを入れたい一誠だが、その後にオーディンが茶化してヴァルキリーの女性が泣くヴィジョンが浮かんだので何も言わなかった。
「そこの2人は何を惚けておる。お主らにはもう用はないのだ、もう行って構わないぞ」
もう興味を失ったように踵を返し一誠達にくるよう顎をくいっと動かす。
震えて動けない一樹を見ずに2人はオーディンについて行った。
「ちょっと待ってください、どこでお茶を飲む気ですか?」
「もちろん、女の子がたくさんいる所じゃ」
「ダメですよ!?流石に経費で落ちません!」
…………何故かグダグダになり、結局堕天使が急遽用意した喫茶店で話をすることになった。
デュエルしろよお前ら()
オーディンとの対話、そして彼らが平和を望んでいることを知り人に害を成さないなら敵対しないと明言した2人、これだけでオーディンは未来を憂いている事を知り満足していた。だが、彼らが望むような平和を望まぬものが現れる。
次回、『デュエリストと悪神』
最悪の神殺しと共に奴は来る、デュエルスタンバイ。