オベリスクは必要ない!   作:蓮太郎

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デュエリストと悪神

 

 

 アザゼルは堕天使総督である。部下が自分の好き勝手動くたびに頭と心を痛めたりしているマッドサイエンティストでもある。

 

 マッドサイエンティストと言っても多少の説明をした上で同意を得てから地獄のような特訓をさせたりするので一応はセーフの領域である。

 

 訓練は地獄だったが神器を上手く制御できるようになったと感謝の声も上がっていたりもする。

 

 そのアザゼルだが、駒王学園テロリスト襲撃事件に現れた謎の男二人組に女1人を追加した3人組になったと知り、そのうちの2人とバラキエル、いや護衛対象のオーディンが接触したと報告が入った。

 

 一度全ての仕事を放り出して現場に向かった。その時に一樹が腰を抜かしたとか言ってたので後で鍛え上げることも忘れずに。

 

 喫茶店で彼等は話をしていた彼等に遅れて来たアザゼルは言った。

 

「ジジイ…………立場弁えてくれよ、あんた一応狙われてるんだぞ」

 

「ほっほっほっ、構わんじゃろうて。志ある若いもんに出会ったからついちょっかいをかけたかったのだよ」

 

 対面に座っている二律背反(アンチノミー)と名乗った男ともう1人、自称逆説(パラドックス)という女はため息をついた気がした。

 

「ギリシャのように人間に迷惑をかけるつもりはないわ。いい加減あやつらは落ち着けというのに」

 

「しかも現在でもたまに人間の女性に関わり被害を与えてると聞く。それだけは断じて許せん」

 

「待て待て待て、お前ら神殺しをするつもりか?」

 

「人類の敵ならな」

 

 即答、なんの迷いなくアザゼルが半分冗談で言ったつもりの神殺しを肯定した。

 

 アンチノミーはサングラスで目は見えないが、パラドックスの仮面から見える目は本気だった。

 

 人の敵になるなら間違いなくここにいるオーディンも殺すだろう。

 

 思わぬ返答に護衛達は戦闘態勢に入るが護衛対象であるオーディンはくつくつと笑いながら茶を飲んだ。

 

「アザゼル、世界にはこういう馬鹿が何人もおる。個人的なこと、集団的なこと、世界的なことに対して全てを敵に回してでも護ろうとする者が。そういう者こそヴァルハラに相応しい」

 

「ですがオーディン様!この者達は!」

 

「だから見る目がないと言われるのだロスヴァイセよ、傲慢にも儂等を試してきおった」

 

 北欧神話の主神に対して試すような事を言ったのかと戦慄した。そもそも話し合ったあとに悪い空気が漂っておらず何もしていないということは今のところ敵意はないようだ。

 

 本当にビビらせてくれる、とアザゼルは内心思う。年も今指導しているリアス達とあまり変わらないと思うがそれに似合わぬ度胸を持っているとも感じた。

 

 なお、この時ゼノヴィアは内心ハラハラしていた。

 

「(敵対するからと言って神を殺すまで言ってしまった。破門された身だが何か心苦しいものが…………)」

 

 真面目だった故の葛藤、そして人の敵になるようなことをしていてもかつていた組織を信じたい心がせめぎ合っていた。

 

 そんな気も知らずにトラブルというものはやってくる。そのやってきた者がいる方向に向かない者はここにはいない。

 

 明らかな悪意を持つ誰かが外にいる、そう感じた。

 

「やはり、か。今出たら襲撃に遭うじゃろうが、どうする?」

 

「ここまでの悪意を持ってこられるなら対応せざるをえないと分かってて言ってるよな?」

 

 もちろんその意図で言ったのだ。そして先にアンチノミーが立ち、続いてパラドックスが立ち外に出る。

 

 悪意ある者は出入り口から出た彼らを見下ろせる場所に浮いていた。

 

「これはこれは噂の人間かな?そっちのサングラスはともかく奇抜な仮面を着けているな」

 

「私だって好きで着けてるわけではない!これしかなかったからだ!」

 

 なぜか魂の様な叫びに聞こえた人物、悪神ロキは思わず吹き出してしまった。何せ着けてる仮面は自分のセンスに合わないと言った瞬間にアンチノミーに頭を叩かれたからだ。

 

 このピリピリした空気で人間が漫才をやれるとは思っていなかったロキは耐えられなかった。

 

「ククク、私を前にして怖気付くどころか笑わせてくれるとは道化の素質があるな」

 

「誰が道化だ。私達はそのつもりで仮面を付けてるわけじゃない」

 

「パラドックス、絶対そうじゃない。あいつの言ってることはそのことじゃない」

 

 もはやわざとしか思えないほどのボケをかましてくるパラドックスに笑いをこらえるロキという空間ができた。本当に何してるんだ。

 

「様子見と言ったところだが、お前たちはオーディンの尖兵ではないな。私が用があるのはオーディンだけだ。ここでどこかに行けば見逃してやる」

 

「お前が他と手を組むのを望んでないからだろ?ここでドンパチやるつもりなのか?」

 

「俺としては不本意だが、奴らがやると言うのならやる」

 

「何故そこまでして止める。他勢力が介入することが気に食わないのは分かる、だが…………」

 

「俺だって基本的に適度にイタズラして誰かを困らせたいだけだ!」

 

 突然の叫びに2人の体が一瞬固まる。怒気を受けたことだけでない、理由が割としょうもないと思ってしまったのだ。

 

「堕天使とは気が合いそうだ。あいつらは俺と似たイカれた部分がある。だが天使と悪魔はダメだ。奴は間違いなく侵略者だ。奴らを身内に入れたらいつか俺を、俺の子供達を駒として、民を洗脳のように信者にして食いつぶしてくるだろう。何故それを全て見通すあいつが認める!」

 

 彼等にとって意外すぎる理由だった。悪神と称されるロキはトリックスターと言われる割に頭が固く、家族思いだった。

 

 雑な扱いをされるのはいつもの事だ死ねクソ親父とよくフェンリルに言われるが、裏でこっそり泣いていたりするのは内緒だ。

 

 残念ながら彼の子は力を持ちすぎていた。欲しがる者も少なくはないだろう。故に子を守るために立ち上がった。

 

「……………………」

 

 それ故に何も言えなかった。奪われた事を知るアンチノミー(一誠)、失う事を知ったパラドックス(ゼノヴィア)

 

 そして今目の前にいるのは奪われるかもしれない、失うかもしれないロキだ。神々の黄昏(ラグナロク)で滅びるかもしれない神である。

 

「どけ人間。私はどんな手段を使おうとあのジジイを止めなければならない。たとえ理解されなくてもな」

 

「…………だとしても、もっと穏便な方法は!」

 

「無い。ここまでくればもはや戦争だ。ああ、貴様らも分かっているはずだ。奴らは自ら従えてる(人間)を巻き込むだろう。憎たらしい聖書の神の信者ではあるが、そいつらも護るというのだろう?」

 

「お前…………っ」

 

「せめてもの慈悲だ、場所は変えてやろう。止めたければ止めて見せろ、貴様らが得意とする決闘(デュエル)でな!」

 

 そう宣言したロキは自身と2人の足元に魔法陣を展開して誰にも干渉されないように用意してあった戦場に転送した。

 

 3人の気配が消えて数分、喫茶店に篭っていたオーディンと従者はゆっくり出て、アザゼルは戦力の招集を急いだ。

 

「あの阿呆め、儂の目が曇ってると思っておるな」

 

「あ?どうしたってんだよ」

 

「アザ坊、儂は和平を結んだところで天使と悪魔は受け入れるつもりは無い」

 

「はぁ!?じゃあなんでこっちまで来て話つけようとしたんだ!」

 

「あの未来を憂いる人間に会うのも目的であった。だが本当の目的はお主じゃよアザゼル。儂等が本当の意味で手を組もうとしているのはお主の勢力だけじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜●〜●〜●〜●〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、なんだよあの爺さんは!ドライグも未だに声すらかけてくれない…………」

 

「一樹、貴方はまだ成長途中なのよ。見返せるチャンスはまだあるわ」

 

「…………そうですよね、俺は赤龍帝だ、これにこの力もある!あんな奴ら見返してやる!」

 

「それじゃあ一樹君、カードを使わないでまず禁手に至れるように身体から鍛えようか」

 

「いや、これ無いと無理だろ」

 

「……………………」

 

 愚か者は力に酔う。赤き龍が力を貸さない理由も知らず子供のように表面上の力を振り回す。

 

 かの龍に関わった者はロクな生き方をしない、それを示すかのように。

 




〜その頃コナミ君(仮)は〜

「……………………」

 洗濯し終わったのはいいもののゼノヴィアの下着をどう干そうか悩んでいた。

 流石に外には干せないので部屋干しにしたが、同居人の彼女の下着を干すことで悩む自分に何故か虚しさを感じたとかなんとか。



 悪神の思いをぶちまけられた2人はそれでも止めようとデュエルを挑む。だが魔法に長けるロキと神殺しの狼フェンリルに苦戦を強いられる。まだロキは何か隠していそうだがひたすら戦うしか無い。

 次回、『デュエリストと神狼』

 神殺しの牙に対抗できるか、デュエルスタンバイ。

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