「彼女は寝たか?」
「ああ、あれだけ泣いたら泣き疲れるって」
鼻をぐすぐすと言わせつつ寝ている九重を膝枕し、頭を撫でる一誠。
こうなったのも無理もない。少女にとって一番な支えである母親が攫われたのだ。長の娘として気丈に振る舞っていたが、彼らが来ると一気に感情が溢れてしまった。
親が居なくなったことによる不安は計り知れない。一誠も似たようなものだが、まだ幼い九重にとってかなり絶望的であろう。
そして、誘拐した犯人に心当たりがある。
奇跡的に情報を伝えることができた烏天狗によると霧が発生してすぐにやられたとのこと。コナミ君(仮)が前に京都で霧使いと槍使いを追い回したのが少し前の話。
偶然ではない、これは一致している。曹操とゲオルクとやらがいるのだ。
そうなれば一筋縄ではいかないだろう。コナミ君(仮)が追いかけても逃げ切れるほどの腕前を持っているのだ。
なお、2人がコナミ君(仮)に追いかけられたら10分もしないうちに捕まる。
「…………許せねえよな。何が英雄になるだ、子供を笑顔にできない英雄なんているか?」
「歴史的に戦争で活躍した者こそ英雄だからな。あいつらも誰かを笑顔にしているんだろうな」
その誰かがロクな奴ではないことは口で言わなくとも把握できる。
「Dホイールでかっ飛ばしてきたし、俺たちもそろそろ寝るか?」
「九重はどうする?しがみついたまま動く気配もないぞ」
「そっと俺が服を脱いで布団に寝かせようぜ?」
「…………いや、それはやめておいたほうがいいだろう」
ゼノヴィアが一誠に寄り添う。その行動に一誠が固まってしまうがまんざらでもないようだ。
「このまま寝よう。別に構わないだろう?」
「あ、ああ、そうだなー」
自分を落ち着かせようと自己暗示している間にゼノヴィアは寝てしまい、結局一誠は一睡もできなかった。
〜●〜●〜●〜●〜
修学旅行当日、悪魔組である木場祐斗とアーシアに兵藤一樹、そして監督役であるアザゼルになんやかんやあってオーディンに置き去りにされたロスヴァイセが京都に到着した。
ロスヴァイセは原作のように悪魔になっていない。リアスの誘惑、もとい勧誘を退けアザゼルに協力する方として教員になったのだ。
ここで焦ったのが兵藤一樹である。これ以上原作と話がズレると何が起こるか予測できない。
本当にこの世界で今を生きる者たちにとってかなりの侮辱である。
ついでに松田と元浜とやらがセットでついてきた。一樹は適当に話を聞き流すだけである。桐生とやらもアーシアと一緒に喋っている。
「よしお前ら、何度も言うが京都は妖怪の本拠地だ。くれぐれも問題を起こすなよ。それじゃ、俺は酒飲みに行ってくる」
身内だけ集めてこの宣言である。教師という肩書きを持っているのにいいのかそれは。
「アザゼル先生!幾ら何でも生徒を放置しておくのはどうかと思いますが?」
「いいんだよ、こう見えて会談する予定が入ってんだよ。そこがたまたま居酒屋って訳だ」
渋々、本当に渋々といった形でロスヴァイセは監視と称してついていくことにした。つまり、ここからは生徒だけで行動しろということだ。
それでも現状では上級悪魔なんて目じゃないほど強くなっているので放置しているのだ。ただ、やっぱり一樹が一番の不安になるのだが。
アザゼル云々は置いといて、このチームはリアス直々に継承された『京都パーフェクトガイド』に沿って回ることになっている。
彼女が回ることができなかったところに星マークが入っている。そこまでして回りたかったのか。
「えーと、次はここだっけな」
「そうだね。あれ、元浜君と松田君はどこへ?」
「あー、あいつらは揃ってお手洗いに行ったわよ」
「仕方ねえなー」
何故一樹が皆の記憶から消えた兄の変態仲間を嫌悪してないか?あまり関わらず遠くから見てるだけで面白いから、以上。ぶっちゃけ他人事なのだ。
妙な図太さだけが取り柄とも言える。
2人が戻ってくるまで待機だが、用をたすには少し遅い。もしかしたら知らない女の尻を追っかけに行った可能性が出てきた。
「あの、迷子になってるかもしれませんしそろそろ探しに行った方が…………」
「アーシアは気にしなくていいの!どうせどこかふらついて後で合流できるでしょ」
どう始末してやろうか、という桐生の小さな呟きは聞かなかったことにした一同。
と、噂をすれば何とやら、松田と元浜が戻ってきた。
「いやー、悪い悪い。待たせちまったな」
「世界に3人の同じ顔を持つ人がいるって割と本当なのかもな」
「はぁ?何言ってんのよあんたら」
「ああ、一樹に似た奴が美女と幼女と一緒に居たんだよ。アーシアさんほっぽり出して何してんだって突撃したんだが、どうやら違ってな」
「いやー、あれは申し訳なかった。女の子のお母さん探してるって言ってたから手伝おうかと言ったんだが断られてな」
「そりゃ不審者がいきなり手伝うなんて言われたら断るでしょ」
「おいおいおい、俺たち制服着てるんだぞ?いきなり不審者ってことはないだろう。しかし、そっくりってだけなのに何か懐かしいっていうか、同類っていうか?」
「はぁ?何よそれ」
「ま、気のせいだろうけどな」
わはは、と笑いつつ目的地へ向かう一行。しかし、1人だけ内心穏やかではない人物がいた。
そう、兵藤一樹である。
「(俺と顔がそっくり?いや、追い出されてから聞いてないとは言え何の力も持たないアイツがここに来るはずがない。だけど、あの変態共が懐かしい、同類ってどう考えても…………)」
思考を巡らすが確証がない以上、結論に至ることはできない。あと御宅のお兄さん新しい力を授かってますよ。
そして、原作では九重の勘違いによって襲ってくるはずの神社に到着するが、何も起こらなかった。
一方その頃…………
「どうした、顔色が悪いぞ?」
「あ、いや、大丈夫だから…………」
「あの2人組に何かあるのか?と、とにかく一休みするのじゃ」
思わぬ再開により少しショックを受けた一誠。まさかこのタイミングで親友
恐らく修学旅行に来ているのだと思い、元気そうな様子で安心した。
「…………よっし、八坂さんを攫ったやつ探すぞ」
「まだ休んだ方が良いのではないか?」
「いや、もう大丈夫だ。一体どこに行きやがったんだ?」
一誠が強がっているのは一目瞭然だ。しかし、下手に心配すると逆効果になりそうだと思い何も声をかけない。いや、かけることができない。
一番鼻が利きそうなコナミ君(仮)はまだ来ない。
「あれは一樹か?いや、違う、だがあまりにも…………どうなってやがる?」
彼らは知らない。この世界の住民は知らない。
「……………………っ!」
「見つけた、新しい無限の力」
「旦那ぁっ!今すぐ逃げろ!そいつは今敵に回しちゃいけねぇ奴だ!」
狂った歯車が崩壊する寸前だということを。
天敵=親友の記憶。この道に進む限り二度と友として彼等と歩めないかもしれないという恐怖。
八坂を探す一向が黒幕が接近する一方、コナミ君(仮)は最悪の龍と対峙していた。いくらフリードでも勝つことはできない。それはコナミ君(仮)も同じである。そして、彼がとった意外な行動とは。
次回、『デュエリストと無限龍』
誑かしてなどいない、デュエルスタンバイ。