「うめぇ…………味の無い粥だけどうめぇ…………」
「……………………」
何日も食べてなかったという男に粥を出したら一口食べただけで泣き始めたので困っているコナミ君(仮)である。
あの日、すぐに気絶した訳がありそうな彼を担いで家に帰ったのはいいものの、いつ目覚めるか分からなかったので寝かせて放置していたら起きてすぐに腹減ったと言ったので粥を出したところだ。
何日も食べてないということで胃を出来る限り刺激しないよう味の薄い粥をチョイスしたのだ。泣かれるとは思いもしなかったが。
ガツガツとあった分は食べきりふぅ、と彼は幸せそうな吐息を吐く。
「飯食えるだけでこんなに幸せになれるもんなんだな…………」
「……………………」
本当に彼に何があったのか?人外が跋扈している世界だが、こう簡単に特定一人を忘れ去られるなんて…………いや、あるとコナミ君(仮)は思った。
少なくとも彼はこの街の住人だろう。学生っぽいという印象もあるが、初めから持ち物がほぼない状態でここまで腹が減ってるのに遠くから来たと言われても信じられない。
落ち着いてから事情を聴く予定だったが、粥を食べ終わった瞬間にすぐ机に突っ伏して(お椀はコナミ君(仮)が即座に回収した)眠ってしまった。
相当疲れていたのだな、と思い毛布をかけてあげた。
改めて事態を考えよう。最近、人外の侵入が多いこの街に知り合い全員に忘れられた少年を拾った。話を聞く前に寝てしまったが彼は忘れられた日から酷い目にあったのだろう。
目のクマもあり安心して寝られる状況すらなかったようだ。
明らかに酷い仕打ちだ。一体彼が何をしたんだと言いたいほどだ。
すやすやと眠る彼を横目に見つつ、どこかで見たことがあるような気がするコナミ君(仮)だった。だが、起きるまで待つしかなかった。
〜●〜●〜●〜●〜
「そ、その、朝まで寝ちゃってすんません…………」
「……………………」
気にすることないと言うように微笑みながら首を横に振るコナミ君(仮)。結果、彼は朝まで眠っていた。
流石にコナミ君(仮)も机に突っ伏したまま寝させるのはどうかと思いソファーに移動させて寝かした。
そんなことで謝ることないのに、とコナミ君(仮)は思いつつ朝飯のコーンフレークを出して話を聞く。
「あ、朝飯まで、何から何まですんません」
「……………………」
構わないという風にボウルにコーンフレークと牛乳を入れる。もちろん二人分だ。
ゆっくり食べながら話を聞かせて欲しい、とコナミ君(仮)はボウルを差し出しつつ言う。
「…………俺、いつの間にか弟が出来てたんです。1年違いだっていうのにいつからいたのかさっぱり分からないんですよ」
「……………………」
「一樹って言うんすけど、いくら俺が声かけても無関心どころか罵られることすらあって、何が憎かったんだろうな…………」
「……………………?」
「…………多分、だけど、一樹の所為だろうな。あいつ、俺が忘れられた日に家に帰ったら母さん達が俺を不審者扱いしてきたんだ。その時に見えたんだ、あいつが笑っているところを」
「……………………!」
その一樹という男がどういう人物なのかははっきりも知らない。だが、確実に悪意を持って彼を家から追い出したのは間違いないという事は分かった。
だが、何故そのようなことを?もしかしたら彼の両親を利用するために人外が仕掛けた罠なのか?それなら彼、一誠を消すべきだと思った。
まるで入れ替わり、スパイみたいな展開だと思った時、コナミ君(仮)はあることに気づいた。
「え、これに見覚えあるかって?あ、ああ、一樹がそんなカード持ってたな」
「……………………!」
遊戯王のカードの裏を見せたら大当たりだった。
この世界に遊戯王のカードは存在しない。前に神が言っていたコナミ君(仮)以外の転生者、SPYRAL使いだと確信した。
故に彼は激怒した。カードゲームは楽しむもの、規制なしのぶっ壊れ性能とはいえ悪意を持って使うものではない。
害を加える悪党にコナミ君(仮)は力を利用するが、家を乗っ取るためにその力を使うのはお門違いだ。
「カードゲームの事はあんまり知らないんですけど、実は俺もそのカード持ってるんですよ」
「……………………!?」
改めて言うがこの世界に遊戯王は存在しない。なのに彼が持っているというのはどういうことなのか?
「忘れられてから偶然落ちてたから拾ったんだけど、買い取ってくれるところは流石になかった…………」
彼、一誠の唯一の手持ちらしきズボンのポケットの膨らみから取り出したのはカードの束。間違いなく遊戯王のカードだった。
「……………………」
「あ、いいですよ」
「……………………!」
コナミ君(仮)はデッキを見て驚愕した。『ジャンク・シンクロン』に『ボルト・ヘッジホッグ』などモンスター、魔法、罠を数えて丁度40枚、さらにはシンクロカードである『ジャンク・ウォリアー』、『ジャンク・デストロイヤー』などシンクロンモンスターを使用してシンクロ召喚するまちカードまで彼は保有していた。
不動遊星かお前は、と言いたいが相手がSPYRALだと完全に殺されてしまう。
「あ、あはは、使えないですよね…………」
「……………………」
そんな事はないとデッキを返して首を振る。SPYRALは例外として、このデッキなら上級悪魔は倒せるくらいの力を持っている。だが、デュエルディスクという肝心なものがない。
Dホイールを改造したらワンチャンいけるか、と思っていたが杞憂になることが分かった。
「後、なんかこれ浮くんですよね」
「……………………!?」
一誠がデッキを宙に置くようにするとデッキが浮かび初手に当たるカードが5枚引かれた。そして、どうしてこんなことが起きたのかすぐに理解できた。
一誠の手に赤き龍の頭の刺青が光っていた。チートかこいつは。
「へ、変ですよねハハ…………」
苦笑いしているが、今後に大きな事を起こす彼を放っては置けなかった。コナミ君(仮)は一誠の事は知らない、だが心優しい事は確かだという確信を持っていた。
もし、悪意を持つ者ならこの力を利用しかねない。赤き龍の力を知っているのはコナミ君(仮)とSPYRAL使いだけだろう。
SPYRAL使いは悪意を持つ、下手に見つかったら一誠を消そうとするかもしれない。
「…………一つ、いいですか?」
「……………………?」
「このカードがあれば俺は日常を取り戻せる、のか?」
一誠の目は絶望に落ちそうだった。絶望から生まれた時械神使いのコナミ君(仮)が思うのもなんだが、彼に絶望は似合わない。
言ってすぐに無理だと思ったのか、フレークがなくなったボウルに視線を落とす一誠の肩を持ち視線を合わせる。
君ならやれる、前に進み敵を倒すことができる、俺も手伝うから頑張ろうとコナミ君(仮)は訴えた。
「っ!あ、ありがとう、本当にありがとう…………っ!」
悪意に晒され誰もから忘れられた少年は仲間を得た。これからもずっと肩を並べるだろう赤帽子の彼にこの時は泣きながら感謝を伝えることしかできなかった。
ボウルの中に残った牛乳の味は、ほんの少しだけしょっぱかった。
今回も特殊ルールは無し。
このままだと兵藤一誠の力ないじゃんどうしよう→『兵藤一誠+赤龍帝』≒『不動遊星+赤き龍』=無限に成長するチート→これだ!
なお、一誠の変態具合はかなり抑えられてます。エッチなことよりまず希望と未来を掴み取ろう!