ゲートは漫画しか知らんが戦車全然活躍してないので、初期の方はこうなんじゃないのか?と妄想してみた

ただし、年代は16式が行き渡り始めた頃なので本編よりはもう十年ぐらい後かも

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ゲート彼の地にて74式戦車斯く戦えり

「いや、後期でも74なんか装填動作しただけで操縦どころかエンジンの掛け方すら知りませんよ」

「つーか、本州ですらもう戦車が10と16に成ってんのに要廃として置いてある74引っ張って来て増強戦車大隊作るのヤメレや」

「そうは言っても粘着がクソ見てーに余ってんだから仕方ねーべよ」

「なら16持って来いって話だろ」

 

 戦車掩体に隠れた74式戦車特地派遣仕様の後ろに4人の機甲科隊員が屯していた。74式の更に数十メートル後方には普通科の重迫が設置されており、その更に後ろには特科が布陣している。

 全員が顔にドーランを塗り、頭部の鉄帽には偽装を施していた。車体から伸びた一本のケーブルにはスピーカーが繋がれており、若干のノイズと各小隊毎の定時連絡が上がっているだけだ。

 

「おーい、大隊長がウロウロしてるから火を消して戦車の中戻れ」

「運幹、うち等の交代何時っすか?

 タバコ切れちゃって」

「明日の朝だなー何もなきゃ」

 

 そこに二尉の階級章をぶら下げた中年の自衛官が近付き注意を促した。その表情は少しばかり疲れが見えていた。運幹とは訓練運用幹部の略称で中隊の部隊編成や訓練、作戦時の役割分担等を指示する存在だ。

 二夜三日の警戒任務でも運幹は中隊本部として協同している普通科や特科との連携に勤しんでいた。

 部隊の編成としては四個中隊で編成された増強戦車大隊で、彼等はゲートとか門と呼ばれる異世界、特地と日本を繋ぐ場所を守っていた。

 

「いやー国活よりも金貰えるから来たけど、まさかの74に乗るハメになるとはな」

 

 車長の長沼二曹は笑いながら告げた。齢40を迎えた大ベテランで戦車一筋の戦車男である。方面戦車射撃競技会でも何度も優勝しそれこそ74式が現役時代から乗っていた。

 

「つーか本州だとほぼ機甲科無くなって九州と北海道だけだからな」

「16持ってくれば良いんですよ」

「あんなもん乗ってるくらいなら74のがよっぽどマシよ」

 

 操縦席に乗り込むのは田代三曹が肩を竦めると装填手の飯沼士長が不平を言い、ヘッドセットを被る砲手の設楽三曹が笑った。

 田代三曹は中堅三曹で胸には冬戦教こと冬季戦技教育隊の徽章、レンジャー徽章、スキー教官の徽章が縫い付けられている。

 つまり雪中戦闘のプロである。

 設楽三曹は田代三曹の一個上の先輩に当たる三曹で格闘教官の徽章が縫い付けてあり普段は格闘訓練隊で活躍している。

 飯沼士長は任期制であったが志願者が居らず半ば強制に近い形で派遣されたので常に不平を口にしていた。彼には皆が同情していたので、彼の不平は皆黙って聞いていたし、彼の言葉は最もだった。

 

「此処は上富みてーに石があるし、舗装道路なんか無いからな。16は市街地用だ。こんな場所走り回らせたらサスがアッという間にお釈迦よ。

 北大演とか走ってもヤバイって話だろ?」

 

 設楽三曹の言葉に田代三曹は動かないから別に構わんでしょと笑った。

 ここに居るのは殆どが北海道に駐屯する機甲部隊から抽出された人員で作られている。

 

「ゲッ!奴さん方突撃開始して来たぞ!

 戦闘準備!」

 

 長沼は顔を顰めながら車内無線で告げた。その瞬間には全系で敵襲と射撃用意の号令が掛かる。

 

「こりゃ、もう何日かは帰れんな」

 

 田代は苦笑する。

 

「畜生タバコねーんだぞこっちは!」

 

 設楽はピースの空箱を握り潰して砲手用の狙撃眼鏡を覗く。

 

「HEAT詰めまーす」

 

 装填手の飯沼は弾薬架から105ミリ対戦車榴弾を引き抜くと薬室が開放された砲尾に砲弾を押し込む。それに併せて薬室が勝手に閉まり、砲尾の装填手側にある薬室閉鎖スイッチを押して、装填良しと報告した。

 このスイッチを押さねば幾ら撃発ボタンを押しても射撃は行えない、所謂安全装置の一つだ。

 

「エンジン始動」

 

 ドルルルと始動音が聞え、黒煙とともに74式は始動した。各々が夫々の役目を全うし、74式戦車はその本領を発揮する。

 彼等の視界15キロ先には隊列を組んで歩き出す敵兵達が捉えられていた。

 

「バリー・リンドンだ」

「どっちかと言うとマケドニアですよ」

「メイクレディ!」

「アッラーラララーイ」

 

 4人が暇潰しで見ていた映画やアニメ、マンガを思い出す。敵の部隊は警告用の看板を無視して前進してくる。直後、ドンドンと後方から発砲音。

 

「FHだっか?

 動かない155ミリ」

「ええ、本州の特科です」

 

 北海道の特科は基本的に自走式の榴弾砲である。

 車長の長沼と装填手の飯沼が上空と後方を見ながら告げた。シュルシュルと鋭角を描いて上がる砲弾は暫くして敵の歩兵部隊上空で爆発。教本通りの見事な曳火射撃だ。

 逃げる事もせず伏せる事もしないで木製の大盾を掲げるだけ。アッという間にひき肉が出来上がる。

 

「あーあ、特科はえげつねーなー

 流石戦場の女神様だよ」

「彼処だけには居たくない」

 

 全員が車内無線を私語で賑わせていると中隊系で移動する旨の指示が来た。

 

《アイカ、ノブ。特科の射撃支援下で全小隊は普通科の突撃発起点まで前進する》

 

 何のノイズもなく一言一句聞えた指示に各小隊は返事をしていく。それから長沼は小隊系で小隊長の指示を聞いた。

 

《アイカ、オキ。今指示があった通り動く。各車は自分が進入する位置を再度確認してこの前みたいな事が無い様に。以上送れ》

《ゴルビー了解》

《バール了》

 

 前回の警戒任務でも同じ様に敵の部隊へ突撃阻止射撃及び普通科の突撃支援の為に前線に移動したのだが、別小隊の車両が自身に割り振られた箇所と間違えて違う車両が入る場所に入ってしまい少しもたついたと言う事案があった。

 そして順次74式は掩体から下がって目的地に向かう。

 途中、同じ様に移動する普通科の隊員が戦車を物珍しそうに見ていたが、それはこの数年で本州から戦車が消えたせいだ。

 戦車300両計画によって極限まで削られ更にはその穴埋めとして採用されたはずの紙装甲の自走式自動着火型棺桶とまで罵られた16式機動戦闘車も戦車だろうがと言う財務省の難癖で国防という概念が欠落した日本では戦車を見るには北は北海道、南は九州が玖珠、中部では静岡が東富士の3箇所に行かなくてはいけない。

 そして、最もホットな九州から部隊と車両を抜くのはあり得ないとして最も戦車が豊富で更には人員も多い北海道から抜かれるのは当然と言えるだろう。

 当初は東京に最も近い東富士の戦教から90式と10式を持って来ていたし、今も第2、第71、72、73連隊から抽出した90式戦車が一個中隊更に後方で待機しているが、正直90投入せんでも74で十分だろ的な侮りとも貧乏性とも取れる選択を上がしたので前線には未だ2戦車連隊で第一線で残っていた74式や本州で要廃に指名されて廃車置き場にて解体の日々を待っていた74式を掻き集めて再軍備させた物を持ってきている。

 

「よーし、前下げで顔出しなー」

 

 長沼は突撃発起点に辿り着くと施設科の賜物たる丘の少し斜面作られた掩体で態勢を立てる事にした。

 協同する普通科部隊の小隊長が間近の戦車におっかなびっくりの様子で近付いてきて長沼に挨拶をした。

 

「どうも!特派第二連隊第一中隊第三小隊の後藤です!」

 

 戦車のエンジン音に負けない様に後藤は挨拶をした。

 

「自分は第二小隊二車の長沼です!

 今回は宜しくお願いします!」

 

 この警戒任務での協同部隊は毎回変わる。旧日本軍の悪しき所だと飯沼はボヤいていた。本来なら各戦車部隊は何処の普通科連隊と協同するかも決まっているのだが、今回はそれを決める前に派遣してしまったのでこんな事になっているのだ。

 

「お前等任務内容分かってるか?」

 

 長沼の言葉に全員が勿論と返事をした。

 

「よーし、なら良い。

 戦闘終了後に普通科と前進するから田代は気を付けろ。普通科には戦車にあんまり近付くなって言ってあるけど、分からんからな」

《操縦手了》

「飯沼は前進開始して普通科の安全化始まったら車上警戒な。鉄帽被って89」

《装填手了解》

 

 長沼は隣の飯沼を見ると飯沼は装填手ハッチから顔を少し出して外を眺めていた。長沼の視線に気が付き、飯沼は視線を交えて頷いた。

 長沼はそれにやはり頷きで答え、双眼鏡で壊滅に近い惨状を呈している敵のファランクスを観察する。

 

「戦争ってのはよくねーな。

 憲法9条万々歳だ」

 

 長沼の呟きは車内無線に拾われなかった。



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