fate/義侠伝 ~風蕭蕭として易水寒し~   作:過労死志願

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2:集う英雄

「バカな! ランサーの奴何を考えているっ!」

 

 自分に断わりもいれず、勝手に一時休戦をセイバーに申し出たランサーに、ランサーのマスター――ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは憤る。

 彼は時計塔においてロードと称される卓越した魔術師の一人。魔術の腕はこの聖杯戦争に参戦したマスターの中でも随一であり、当然のごとく魔術師同士の闘争において、負ける可能性などみじんも感じてはいなかった。

 それゆえに、この戦争に参加するに当たり、彼は栄光を勝ち取ることしか考えていなかった。

 自らが並み居る魔術師たちを打倒し、栄光を手にして時計塔に凱旋。何故だか冷たい自らの婚約者が、自分を見直してくれる未来しか……。

 

 だがふたを開けてみればどうだ? 婚約者は自身が召喚した槍兵のチャームにかかり彼に熱を上げ、槍兵は槍兵で騎士道などというわけのわからないものを理由に、自身の思い通りに動こうとしない。

 

 使い魔とはすなわち魔術師の従順な(しもべ)。従順に従わせてしかるべきものだ。だが、逆に言えば、従順にさせることができなければ、それは魔術師としての技量がその程度でしかないということ。

 

 魔術の腕に並々ならぬ自負とプライドを持っていたケイネスにとって、その事実は耐え難い屈辱であった。だからこそ、

 

――令呪を切ってでも、あの槍兵に言うことを聞かせるべきか?

 

 警戒をしながら、アサシンとセイバーの邂逅を見ているランサーに、今すぐにでも命じそうになる。

 くだらないプライドは捨てて、今すぐにでもセイバーとアサシンを殺せと。

 

 彼は気づかない。彼がくだらないと切って捨てたランサー騎士道(プライド)が、彼が傷つけられたと思っている魔術師としてのプライドと、何ら変わりないものであるという事実を。

 

 それだけ怒りで目が曇っているのか? はたまた、婚約者をとりかねない男をさっさと殺してしまいたいのか? 彼の内心を読み取ることはできないが、とにかく今のケイネスは冷静でないことだけは確かだった。

 

 サーヴァント二騎を同時に敵に回すなど、聖杯戦争では最もやってはいけない悪手。サーヴァントは一騎当千にして万夫不当の英雄たち。たとえ正当な戦いを苦手とするアサシンであったとしても、真名・宝具が割れていない段階で見くびっていい相手など一人としていない。ヘラクレスクラスの大英雄でも連れてこない限り、たった一人で複数のサーヴァントと対峙するなど、回避してしかるべき行いなのだ。

 

 だが、彼は止められない。何らかの理由で冷静な判断力を失っているケイネスを、止める者はいないはずだった。

 本来ならば……。

 

「まぁ、そう焦る必要はないだろう、ロード・エルメロイ。聖杯戦争は序盤も序盤、首級とするサーヴァントの真名も知らないまま殺したとあっては、武勇譚の一つも語れまい?」

「っ!? だ、だれだっ!?」

 

 突然背後からかけられた声に、ケイネスは慌てて背後を振り返る。

 そこに立っていたのは、見慣れた黒い外套に身を包んだ日本人。

 

「お、お前は……」

「久しぶりだな、ケイネス。ちょっと幸運が重なって、俺もこの戦争に参戦することになってな。ランサーに宝具開帳を命じた時、あんたの声を聞いて安心したよ、ロード殿。ちょっと、俺と一緒に手を組まないか?」

 

 荊崎燕翔――極東の異端魔術師にして、魔術教会の仕事を良く引き受けているフリーランスの傭兵。

 ケイネスも何度か仕事であったことがある、気にくわないが腕は認めている、数少ない魔法使い候補であった。

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

――マスターはうまく同盟候補を合流したか。

 

 念話越しに送られてくる燕翔からの報告を頭に入れつつ、アサシンは周囲を見回した。

 これから自分は目の前の誠実そうな少女を謀る。

 それに関して思うところがないわけではないが、先程のランサーとの戦いを見る限り、彼女はひとかどの戦士であろう。この戦いに参加した時点で、ある程度の奇策、策略が張り巡らされていることなど承知しているとアサシンは考えていた。

 

――もとよりこの身は始皇帝暗殺のため、樊殿に首を差し出させた身。今更多少の虚言ごときで、痛む心中はもっていないさ。

 

 その点、うちのマスターは私を過大評価しているきらいがあるがな。と、彼女は内心で苦笑を浮かべる。

 とりあえず一度サーヴァントたちを謀り、この場にすべてのサーヴァントの姿を現させるというあの燕翔の策。

 実はこの策を話した時、燕翔自身は乗り気ではなかった。

 あくまでとるべき策の一つとしていくつかの策を提案するのと同時に、この策を提示していただけに過ぎない。

 だが、アサシンはその中から迷うことなくこの策を選び、燕翔を驚かせたものだった。

 なぜなら彼は、アサシンをあくまで《義侠の徒》だと思っていたからだろう。

 虚言を嫌い、だまし討ちを嫌い、あくまで誠実に相手と付き合おうとする聖人君子であると。

 

 確かにアサシンは非道を好まない。一般人の目撃者の暗殺をためらいなく命じたり、無関係な人間を殺し、その魂を食らえと言われれば、マスターの暗殺すら辞さない程度には。

 とはいえ、今マスターが謀っているのは聖杯戦争の参戦者。皆それぞれが、殺し、殺し合う覚悟をもってこの場に参集した猛者達であり……殺されたところで文句は言えない連中ばかりである。

 ならばアサシンとして呼ばれたこの身は、己が全霊をもってしてその闘志に応えるのが筋という物だろう。たとえ、相手をだましてでも。

 

「アサシン? バカな……暗殺者が姿をさらすなど」

「なに、私は隠れ潜むのがほかのアサシンと違い苦手でね。殺すときはいつであっても正面を切って殺しにいくさ」

 

 これは実は事実だ。

 確かにアサシンはクラススキルとして気配遮断をそれなりのランクで保有している。

 だが彼女の逸話は、あくまで油断している相手に接近してからの急襲であり、隠れ潜みばれない様に接近して殺すという暗殺者らしい暗殺スタイルは苦手としていた。

 とはいえ、

 

「虚言を弄するなよ、アサシン。不意打ち暗殺を専門とするお前が、真実を語っていると、われわれが信じる理由がどこにある」

「なるほど。確かに……。とはいえ、本来白兵戦を苦手とするアサシンが、こうして無防備な姿で貴公らの前に姿を現したというだけでは、信じるに値しないかね?」

 

 ランサーからの指摘。彼のホクロから放たれる魅了の呪いを、マスターから渡された対魔力上昇の護符でレジストしつつ、アサシンは軽口を返す。それでもなお警戒を解かない二人を見てため息をついた。

 同時に念話にて燕翔に確認をとる。

 どの程度までなら譲歩するかと……。

 

『最悪真名までならオッケーですよアサ姐』

「それはさすがにどうなんだ」

 

 と、自分に甘すぎるマスターに呆れつつ、荊軻は、

 

「では、今の私に貴公らを害するつもりはないと証明しよう」

「なにを……」

 

 取りあえず上半身をはだけて見せた。当然着物を着ているうえ古代中国の人であった彼女に下着などという上等なものはない。

 雪のように白い肌が、冬木の寒空の下で露わになる。

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

「ぶっ!?」

 

 それを近くの大橋で見ていた一人の青少年マスターが盛大に吹き出し、傍らに立っていた巨漢の男は大笑を発した。

 

「ガハハハハハハ! よい! なかなか剛毅なアサシンではないか。暗殺者ごときにしておくには惜しい逸材よっ!」

 

 同時に彼は召喚した神牛が引く戦車(チャリオット)に騎乗。傍らで唖然としているウェイバーを戦車に放り込み、天高く舞い上がる。

 

「気に入った! 他の二騎と共にあの暗殺者も臣下に誘うぞ小僧!」

「おま……何考えてんだよぉおおおおおおおお!」

 

 とんでもない速度で天を駆けるチャリオットの急加速。飛行機とは比べるべくもない安全性皆無な飛行に涙を流しながら、少年は今日も自らのサーヴァントに引きずられる。

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

「な、な……何を考えているアサシン!?」

 

 突然のアサシンの奇行……それも女性が突然上半身全裸になるという事態に、騎士たるセイバーは顔を真っ赤にして動揺の声を上げた。

 割かし性関係がただれていたらしいケルト神話出身のディルムッドはさすがに動揺することはなかったが、だとしてもこれは想定外だったのか、数瞬の間氷結していた。

 そんな二人に首をかしげながら、アサシンはさも当然だと言わんばかりに言葉を続ける。

 

「見ての通り、私は丸腰だと示しただけに過ぎない。まぁ、英霊の武器は魔力で編まれるがゆえに、呼ぼうと思えばすぐ呼べるのだろうが……ゆるせ。今の私にはこのくらいしか戦意がないことを示す方法がなくてな。ここまでして疑われるようではもはや誤解も解くすべもなかろう。ここはおとなしく勘違いされたままで引き下がるとしよう」

「い、いや。いい。女性にここまでさせた上でなお疑念を抱くなど、騎士としてあるまじき行いだ。あなたを疑ったことを謝罪しようアサシン」

「そうか」

 

――それはありがたい。こちらもそろそろマスターの抑えが効かなくなっていたところだ。と、アサシンは内心冷や汗をかきながら服を元のように着こんだ。同時に、

 

『ほ~らマスター。私はもう服を着たぞ? だから少し落ち着きたまえ』

『どいてアサ姐(ごせんぞさま)。そいつ殺せない』

 

 自分が服を脱ぐ原因となったランサーに向かって、最上級礼装と語っていた黄金のカードを構えるマスターを、念話によって必死に宥める。

 

『君は同盟相手としてランサーのマスターを選んだのだろう? ならここでランサーを殺すのは悪手ではないかな?』

『大丈夫だってアサ姐。見たところ、ランサーを殺したところでケイネスなら文句言いつつ、喜んで俺達を迎え入れてくれるよ』

『いったい彼はマスターとどういう関係を築いているんだ?』

 

 燕翔から告げられた信じられない言葉にやや面を食らいつつ、アサシンは「セイバーがそう言うのであれば」と槍を収めたディルムッドに、わずかな憐みの視線を送ってしまう。

 ともかくである、これで一応の信頼は勝ち取れた。そう判断したアサシンは、策を次の一手へとすすめた。

 

「では、話を元に戻そうか、セイバー、ランサー。先ほどの武器の投擲は私ではない。では、いったい誰がやったか? 考えればわかると思うが、先程の黒鍵とやらは西の宗教に仕える神父が振るう武器だとマスターから教えてもらった。なら、先程の投擲はそれに類するサーヴァントか、マスターの仕業と考えるのが妥当ではないかね?」

「それは……」

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 アサシンの推理を聞き、セイバーは思わずうなり声をあげた。

 この聖杯戦争において、サーヴァントはいまだランサーとアサシンしか知りえていない状況だ。確かに教会関係のサーヴァントが参加していない可能性はないとは言えない。なにより、アイリ越しの伝達であったがこの聖杯戦争には先ほどの投擲武器を愛用している人物が参戦している。

 

「ちょっと待って。つまりあなた、さっきの黒鍵の投擲が――言峰綺礼の者だと言いたいの?」

 

 同じ結論にアイリは思い至ったのか、アサシンに対してそんな問いを発した。

 対するアサシンは仮面の奥の瞳を細めつつ、

 

「私は最近よばれたばかりでね。今回の戦争に呼ばれたサーヴァントはもちろん、マスターの情報さえ持ち合わせてはいない。その言峰綺礼とやらが何者かはしらないが、教会関係者ならば可能性は高かろう」

「じゃぁ」

「いいえ、あり得ませんアイリ」

 

 だがそれはセイバーが否定した。

 

「私はあなたが現れる直後までアサシンの索敵をしていました。アサシンを探すための私の索敵です。一介の魔術師が気づかれぬまま逃れえるものではない。あなたは厄介だと感じているようだが、ただの人間である言峰綺礼が逃げきれるものではないでしょう」

「では、答えはサーヴァントのみに絞られるわけだ。この場に来ていないのは、アーチャー、ライダー、キャスター、バーサーカーの四騎。といってもバーサーカーに不意打ちなど器用なまねはできないだろうから、おそらくはバーサーカーを除く三騎が先ほどの襲撃の犯人だろうさ」

 

 それによって、アサシンたちの策はなった。

 

「本来のアサシンクラスよりも卑怯で下劣な不意打ちを行った、姑息なサーヴァントはな」

 

「聞き捨てならんなアサシン!!」

 

 天から、戦車が降ってきた!

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

「AAAALaLaLaLaLaie!!」

 

 独特の掛け声とともに飛来したのは雷光を纏う二頭立ての戦車。

 神牛に牽かれたそれはたがうことなくアサシンとセイバーたちの前に降り立ち、轟音と共にその男の来訪を告げる!

 

「我が名は征服王イスカンダル! 此度の聖杯戦争においてはライダーのクラスを得て現界した! これで余に対するあらぬ疑念は雪がれたと言えよう! うむ!!」

「な、なななななな」

 

 さすがのアサシンもこれは想定外。せいぜい顔見せが関の山だろうと思っていたが、まさかの真名暴露にさすがの彼女も声を失う。

 それはライダーのマスターも同じだったのか、暫くわなわなと震えた少女と見紛うか細い少年は、絶叫する。

 

「何を考えてやがりますかお前はぁあああああああああ!?」

「何を言うか坊主。この征服王ともあろうものが、姑息で卑劣な行いをしたなどと侮辱をされ黙っていられるはずがなかろう。先ほどのアサシンは自らの体を露わにし、己が無実を証明してみせた。ならば王たる余は、己の真実をさらけ出し身の潔白を証明するほかあるまい。それこそが人の極限たる王の務めよ」

「バカなんじゃないの!? バカなんじゃないのオマェえええええええ!?」

 

 外套を掴まれガックンガックン揺らしてくるマスター相手に、小揺るぎ一つしない大男――征服王・イスカンダルの言動にアサシンは苦笑いをもらし、

 

「あぁ、確かに貴公が言うように、貴公は私がいった卑怯者ではないようだ」

「であろう」

「だが暴君であるようだな……。それほど奔放であっては臣下の少年も苦労しよう。少しはいたわってやったらどうだ?」

「なにをいう。余に仕え、余とともに歩もうとするものに歩幅を合わせては、仕える者も道を見失おうというもの。王とは常に前にすすみ、つき従う者の道とならねばならぬものよ」

「あれ? 僕勝手に臣下にされてない!? 僕はお前のマスター」

「やかましい」

「あだっ!?」

 

 さながらコントが如し……。巨漢のデコピンを食らい横転する少年に憐れみを覚えつつ、とはいえ策はなったとアサシンは周囲を見回した。

 この男がきた以上、他の英霊も黙ってはいまいと。

 そして、その予想は見事に的中する。

 

「たった一夜で、王を自称する雑種が二匹も湧くとはな。それに、そこな暗殺者風情は、この(オレ)に対し下らぬ疑念を投げかけてきよって……」

 

 不遜にもほどがあろう? そう言って街灯の上に姿を現したのは黄金の甲冑を着こんだ、金色の英雄。

 それを見た瞬間、アサシンは自身が総毛立つのを感じた。

 

――あれだ。あれこそが……。

 

「気に障ったかな? どこぞの王よ」

「あぁ、気に障ったとも。だがしかし見逃してやろうアサシン。貴様風情など歯牙にかける必要もあるまい。なぁ、我に断わりもなく始まりを名乗った愚か者風情すら仕損じた、哀れな虫けらよ」

 

――今回私が、殺すべき敵だと。

 




*アサシンに関する各々の感想

腹ペコ「い、いきなり服を脱ぐとは……さてはアサシン、痴女!?」
ほくろ「ふむ、一瞬男かと……(ドスッ 匕首が背中に」
AUO「一回も暗殺成功させらなかった奴風情に我が負けるわけなかろうm9(^Д^)」
戦車男「めちゃくちゃ面白いな! よしアサシンをゲットするぞ!!」
ハム「そんなことより、どうやったら死ねます?」
?スロット「NAITITIIIIIIIIIIIIII!! HISANAOTEMAEEEEEEEEEEEEE!!」

作者―-ひょ、ひょっとしたら隠れ巨乳かサラシ巻いている可能性だってあるでしょう!?(ナイチンゲールを見て絶望しつつ
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