取りあえず倉庫街編終了です。
夜の倉庫街。
ランサーとセイバーの激突で、いくつかのコンテナの山が崩れたこの場所で、実に五人ものサーヴァントが邂逅を果たしていた。
戦車に騎乗しながら不敵な笑みを浮かべるライダー。
アサシンとアーチャーの動向を警戒しながら、背後にマスター――アイリスフィール・フォン・アインツベルンをかばうセイバー。
ついさきほど、折りを見てその場から離脱しろというマスターからの新たな命令を受け、その機をうかがうランサー。
そして、睨み付けるように街灯にたたずむアーチャーを見据えるアサシンと、
そのアサシンの視線を受け、余裕の笑みを崩すことなくほかのサーヴァントを見下ろすアーチャー。
三つ巴どころか、聖杯戦争を形成する五大勢力のにらみ合い。
その均衡は何の前触れもなく、
「私の正体を一目で見破るか、黄金の王よ? 寛大なる処置に関しては感謝するが……」
「ほう?」
「少し私を舐めすぎだな」
殺気を見せていなかったアサシンが、懐から巻物を取り出した瞬間に崩れた。
「宝具かっ!」
聖杯戦争において、アサシンのクラスは基本的に闇討ちと――マスター殺しこそが最たる警戒対象。だがしかし、こと宝具に関してはどのサーヴァントであろうと警戒が必須だ。
毒殺系の対軍宝具でも持っていれば、幾ら英霊であろうとも特殊な対毒能力を持っていない限り、死は免れない。
そう考えたのか、ランサーは即座に槍を構え、セイバーはアイリスフィールを抱えアサシンから離れる。
だがしかし、そのような状況においてなお、アーチャーは無造作すら感じる所作で、手を上げただけだった。
「ほう。隠れ潜むしか能がない暗殺者風情がよく吠えた。ならば我が宝物を持って、貴様が真に我の敵たる価値のある者か……確かめてやろう」
だが、その無造作な行動によって起きた変化は劇的だった。
無数の黄金の波紋が虚空へと出現し、その中央から目も眩むほどの武器が顔をのぞかせる。
剣が、槍が、弓が、斧が――名前も知らぬ無数の武装たちが、目だけではなく心象にすら焼き付けられるほどの宝物が、アサシンに向かって切っ先を向けた!
「なっ!」
「どうした坊主?」
「信じられない……あれ、全部が宝具だと!?」
最低限マスターとしての素養を備えていたライダーのマスター、ウェイバー・ベルベットはその光景を見て思わず絶句した。
黄金の波紋から顔をのぞかせたのは、先程ランサーたちが警戒していた宝具。
アーチャーが生み出したと思われるその黄金の波紋たちは、英霊ですら畏れる宝具を、両手の指程度では数え切れぬほどの数出現させたのだ。
まさしく破格。
宝具の格付けならば
「ふむ。では裁定の時だ。せいぜい散りざまで俺を興じさせよ……雑種」
黄金の王が、挙げた手を振り下そうとしたときだった。
…†…†…………†…†…
「殺せ……バーサーカー!」
…†…†…………†…†…
「ん?」
漆黒の霧が、地面から湧き出した。
そして、それと共ににじみ出るように現れた黒甲冑の騎士。
彼の出現に、射出が停止された宝具たちのいくつかは、ゆっくりとその騎士に向かって、切っ先の向きを変える。
同時に、完全に姿を現した騎士は、巨大なコンテナすら揺るがす咆哮をはなち、
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAa!!」
開戦の狼煙をあげた。
…†…†…………†…†…
先手を打ったのは黒騎士。
咆哮と共に駆け出した彼は、一直線に黄金の王へと向かい走り出す。
それを見た王は、舌打ちを漏らしながら残っていたいくつかの波紋の向きをバーサーカーに変え、
「命拾いをしたなアサシン。貴様よりも先に裁定をうけたい戯けが現れた」
「ふむ。私も少々熱くなりすぎたようだ。お前を殺すにはその場の勢いだけでは無礼だろう。我が無音の極技と、貴様を殺すにふさわしい策とともに再び貴様に挑もう、アーチャー」
「はっ! 道化師にでも鞍替えした方がよかろうアサシン。貴様風情がいかなる策を弄そうとも、この我を討てるわけがないだろう」
認めているのかいないのか……。それとも他に理由があるのか。
ともかく、黄金の王はあからさまに喧嘩を売ったアサシンの態度を見逃し、自らに突撃してくる黒騎士に向かって攻撃を放った!
「ともかくだ、この我の裁定に割って入ったのだ。それ相応の覚悟はしているだろうな、狂犬風情がっ!!」
放たれた宝具は二つ。
それだけで十分だと言いたげな攻撃であったが、確かに並の英雄ならばそれで終わっていただろう。
一撃受けただけでいかなる英雄も致命を負う投擲。だが、黒騎士はその攻撃を、狂犬――バーサーカーとは思えぬ行動で迎撃した。
武器の着弾と同時に爆発が起こる。
セイバーとランサーの激突でボロボロだったアスファルトがいよいよ本格的に崩壊し、天高く土煙を巻き上げた。
だが、その煙の中から出てきた黒騎士は、
「んな、バカなっ!?」
「ほう、えらく芸達者な奴よな」
「あぁ、かなりの武錬を積んでいる戦士のようだ」
ウェイバー、ライダー、アサシンがそう評したように、最初に投擲された武器を持ちつつ、平然とした顔でたたずんでいた。
「な、何が起こったの?」
対して、セイバーによって少し遠くに退避させられていたアイリは、何が起こったのかわからずに目を白黒させている。
そんなアイリにセイバーは信じられないものを見たと言いたげに、先程起こったことを説明した。
「あの騎士――バーサーカーは、最初に投擲された武器を空中でつかみ取り、あとからやってきた武器をその武器で打ち払ったのです。狂気に侵されたバーサーカーとは思えぬ武錬。おそらく何らかの逸話が昇華されたスキルで、狂気に侵されながらも生前の武錬を保っているのでしょうが」
あんな真似、私でもできるかどうか。と、セイバーがバーサーカーの極技に驚く中、
「……この我の宝物に無断で触れ、あまつさえそれを打ち払うなど、もはや容赦はせんぞ狂犬!」
自らの宝具を掴み取られたのがよほど腹に据えかねたのか、アーチャーはそのまま黄金の波紋を追加し、雨のようにバーサーカーに向かって射出した!
「その手癖の悪さをもってして、どこまでしのげるか……この我に見せてみるがいい!」
言われるまでもない。
バーサーカーの無言の肯定にと同時に、その舞踏は開始された。
降り注ぐ無数の武器に対し、バーサーカーは手に持った武器をふるい迎撃。
次から次へとやってくる武装たちを危なげなく弾き返しながら、その中から武器を選別。
より強力な武器へと次々に持ち替えながら、踊るように死の豪雨を蹴散らし続ける!
わずか数瞬の出来事。並の英雄なら数度殺されてもおつりがくるであろう宝具の雨。
だが、最終的に立っていたのは……黒煙を纏うバーサーカー!
彼はそのまま、奪い取った武器を投擲。
アーチャーが立っていた街灯を斬り倒し、彼を地面へと着地させる。
アーチャーはその事態に思わず俯き、肩を震わせた。
怒りの……あまり。
「天に仰ぎ見るべきこの我を、同じ大地に立たせるか! 狗っ!!」
憤怒の発露とどうじに、追加される黄金の波紋はまさしく壁のごとし。
もはや天に輝く星にすら届きかねない数で生み出されるそれらに、とうとうウェイバーは泡を吹き、
「おほぉっ!! あれすべてが宝具とは、あの金ぴか、さぞ名のある王であったのだろう! くうっ! あ奴の宝物もぜひ手にしてみたいものだ!」
「征服王。節操というものを少しはもったらどうだ」
「そういえばアサシン。おぬしもあのような男を相手にしては単独では辛かろう? どうだ、余の臣下となり余と共にこの大地を駆けるつもりはあるか?」
「遠慮しておこう。二君に仕える不義ができる程、器用な性格はしていなくてね。同盟ならばうちのマスターに打診しておくが、マスターはすでに同盟相手を決めている。その同盟相手がどうも君のマスターを好いていないようだから、望みはあまり持たないでくれ」
対するイスカンダルとアサシンはさすが英雄と言ったところか。それらの武器がこちらを向いていないことをいいことに、シレッとした顔で雑談を開始する。
そんな二人に挟まれたウェイバーが「こいつら絶対頭おかしい」泣きくれる中、
「? 時臣か?」
念話による通信が入ったのだろう。忌々しげに宙を見上げた黄金の英雄は、舌打ちと共に黄金の波紋を収めた。
「この我に貴様ごときの諫言で引けとは、良い度胸だ時臣」
そして、黄金の英雄は霊体化しつつ、鼻を鳴らしてほかの英雄たちを一瞥した。
「興がそがれた。此度は引いてやる。次会う時までに、我と対峙するに値する英雄が残るまで、雑種どもを間引いておけ」
そんな捨て台詞と共に、黄金の英雄が完全に霊体化を果たす。
あとに残ったのは、再び無手になってたたずむバーサーカーと、ことの推移を見守っていた残りのサーヴァントたちだけであった。
…†…†…………†…†…
「い、いったいどういうことだ?」
「どうやらアーチャーのマスターは、アーチャー程肝っ玉が大きくなかったということだろう。これ以上の宝具の展開は許されなかったと見える」
あ奴もどうやら苦労しているらしいと、ライダーが含み笑いを漏らす。
そんな彼を呆れたように見上げながら、アサシンは漆黒の騎士を見つめ首を振った。
――あれはどうやら私の獲物ではないようだ。と。
そんな中、アーチャーを殺せとだけ言われていたバーサーカーは、濁った赤い輝きを放つバイザーをフラフラとさせ周囲を見回したのち、
「………………」
「?」
「A」
「せ、セイバー? あのバーサーカー、なんだかこっちを見て」
「そのようですね、アイリスフィール」
見つけた。
アサシンと同じように、この戦争で決着をつけるべき、自らの因縁を。
「A――urrrrrrッ!!」
むき出しになった大地を爆裂させ、バーサーカーが進軍する!
狙いは青い騎士甲冑を纏った、聖剣の少女一人。
近くにいた、武器を瞬時に構えたライダーやアサシンなど目もくれず、バーサーカーは一直線に、セイバーに向かって襲い掛かる!
だが、
「バーサーカーよ。騎士王への手出しは遠慮してもらおう!」
文字通り横槍が入り、バーサーカーの体は弾き飛ばされた!
振るわれたのは赤い呪槍。
破魔の力を持つ、紅の薔薇。
「セイバーの首級は、我が槍の操……勝手な手出しは私が許さんぞ」
輝く顔を携えた、ケルトの英雄がバーサーカーの行く手を阻んだ。
…†…†…………†…†…
倉庫街の戦いから三十分ほどたったころ。
「あ、お帰りアサ姐。あの後どうなった?」
「流石にランサーとセイバーを相手取ってバーサーカー単独ではどうしようもないさ。ライダーもあちらに加勢したし、バーサーカーはおとなしく撤退。ひとまず仕切りなおそうということで、他の英霊も大人しく帰路についたよ」
「そいつは上々」
酒造蔵の地下にて。
キャンプ用品を用いて食事の用意と、酒造蔵の工房化を行っていた荊崎は、帰ってきたアサシン――荊軻が霊体化を解き実体になるのを見て、喜びとともに迎え入れる。
「で、どうだった? 獲物になりそうな王様はいた?」
「そうだな。とりあえずは、あの黄金の王が当面の目標になるだろう」
「そうかそうか……まぁそうだろうな。なにせ彼の王は、あの始皇帝に並ぶ偉大な王様だしね。不老不死を求めて旅したところなんて、逸話的にもぴったりだろう」
そういうと、荊崎は書面に書き起こした黄金の英雄の情報を、荊軻に手渡す。
「英雄王・ギルガメッシュ?」
「そう、俺の目が視認した対象の概念を、ある程度読み取れるのは知っているでしょう? それを使ってあの金ぴかからいくつか概念を読み取ったんだ。流石は最古の英雄と名高い存在だけあって、完全なリーディングは負担が重すぎて断片しか無理だったけど」
黄金の英雄――ギルガメッシュの情報が記された書類の上には、確かに荊崎が読み取ったと思われるいくつかの情報が記載されていた。
ウルク・蛇・王・バビロニア神話……。これだけのキーワードがそろえば、荊崎がギルガメッシュの正体に到達するのは当然と言えた。
「騎士たちの王、アーサー・ペンドラゴン。フィオナ騎士団一番槍、ディルムッド・オディナ。マケドニアの征服王、イスカンダル。そして最古の英雄、ギルガメッシュか……そうそうたる面子がそろいつつあるな」
「バーサーカーの情報はいいの?」
「あぁ、彼は良い。あの黒い霧、正体を隠す効果があっただろう。いくら君の目とは言え、読み取るのは難しいはずだ」
「あたり。多分なんかの宝具だろうな……アサシンみたいな宝具しやがって」
「私がアサシンらしくないから、ちょうどつり合いは取れているだろうさ」
珍しく愚痴を漏らした荊崎に、荊軻はクククと笑いながら、荊崎が作ってくれたカップめんにはしをつける。
英霊に食事は不用だが、うまいものはうまい。特にカップめんは荊軻に衝撃を与えており、当時の保存食とは雲泥の差なんだとか……。
「それに、彼は私の獲物ではない。彼を討ち取ったところで、私の無念――《暴君・皇帝を討つ》とやらは晴れないだろうさ」
「だね……んじゃまぁ、強力な助っ人の当てもできているし……」
そう言いながら、荊崎は一つの魔術礼装を懐から取り出し、荊軻の前に転がした。
それは、同盟を持ちかけた相手ケイネスから渡された魔術礼装。
ギルガメッシュを討つに当たり協力体制を築いた彼に、作戦の内容を告げるための通信礼装だった。
「さぁ、アサ姐。悪だくみを開始しようか?」
「プランニングと言ってくれないか?」
にやりと悪戯っぽく笑う荊崎に抗議を入れつつも、荊軻も同じような笑みを浮かべていた。
…†…†…………†…†…
「あぁ、まさかあのような闘争に巻き込まれるなんて……死んでしまいます」
そのころ、聖杯戦争を取り仕切る冬木の教会において、ひとりの女性がフルフルと震えていた。
肉感的な体つきに、褐色の肌。
日焼けした程度ではならない完全天然ものの黒い肌を持つ彼女は、先程の映像を見せてきた自らの主を恨みがましげに見上げた。
「私に、私にこのような戦いで何をせよと……」
「お前に望むのは偵察と作戦立案だ、キャスター。貴様を除き、あの場ではすべてのサーヴァントが出そろっていた。作戦を組み立てる基礎情報はそろったはずだ」
「私の策はいくつも読んだ物語の流れから先の流れを予想し、それの流れをこちらに都合のいいモノへと変えるだけのもの。そう精度が高いものではないのですが……」
「ならば死ぬほかないな」
「ひいっ。それは嫌です……絶対に嫌です」
仕方がありません。死にたくないのですから、死にたくないのですから……。そんな愚痴を漏らしつつ、女魔術師は自らの杖に仕込まれたいくつかの巻物を開く。
その中からあふれ出てくるのは、彼女が語ったといわれる物語の登場人物たちを具現化した幻想種。
人が、魔神が、大鷲が、小人が……あふれ出てきてあちこちに散っていくその光景を見ながら、彼女のマスターである神父は虚ろな瞳を彼女に向け質問をぶつけた。
「キャスター……貴様の望みはなんだ?」
「望みなど……私ごときには」
「ウソをつくな」
「…………………………」
聖杯は、願いをかなえる究極の願望機。つまり、願いを持つ者にしか自らを得る権利を与えはしない。
聖杯の存在の否定につながる、願いのない英雄が呼ばれる聖杯戦争など、この世界には存在しないのだ。
だからこそ神父は問いただす。自らの英霊が、いったい何を望むのかと。
「強いてあげるとするならば一つだけ……」
「……それは?」
「私はただ……ただ私を」
消してしまいたいだけなのです。そうつぶやいた彼女の背中を見て、神父の口元が吊り上った。
それが愉悦と彼が知るのは、まだまだ先の話。
ただ彼は自らの表情に気付かぬまま、彼女の願望に対する率直な感想を述べた。
「お前の願いは破綻している、キャスター=シェヘラザード……。まったくもって、人とは思えぬ醜悪さだ」
『千夜一夜物語』の語り部。狂った王の目を覚ますべく、自ら彼の王の説得に出向いた勇敢な女の意外な姿に、神父――言峰綺礼は、只静かに嗤いつづけた。
次はランサー組かねェ……とはいえ登場人物が変わってないから、サクッと終る予定ですが。
話しの変更点大してないし。