fate/義侠伝 ~風蕭蕭として易水寒し~   作:過労死志願

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4:昼ドラの終焉

 聖杯戦争開戦から暫くのち。

 日付をまたいだ午前一時、冬木市ハイアットホテルの最上階にて、三人の魔術師を二人の英霊が邂逅を果たしていた。

 

「よく来てくれた、最も魔法使いに近い魔術師よ」

「よしてくれロード・エルメロイ。俺のようなまがい物が、その称号を得るにふさわしくないことくらい、あんたが一番よく知っているだろう?」

 

 ホテルの一室の玄関先において、差し出された手を握り握手を交わしながら、魔術師ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは、夜分おそいにもかかわらず訪れた同盟相手――荊崎燕翔を迎え入れた。

 荊崎の背後にたたずむアサシン――荊軻は、霊体化し控えながらケイネスの妻であるソラウ・ヌァザレ・ソフィアリの護衛を務めるランサーを見て首をかしげる。

 

「ランサー。君のマスターはそこにいる魔術師であり、その女性ではあるまい? 何ゆえマスター殺しを得意とするアサシンに対する主ではなく、その女性の護衛についている?」

「……マスターの命令だ」

「さよう。かの有名な荊崎殿ともあろうものが、サーヴァントの手綱を握り損ねるなどありえないからな。まして自らの使い魔に無断で同盟相手に牙をむかせるなど、荊崎殿に限ってあり得るはずがない」

「嬉しい評価ではあるがな、ロード・エルメロイ」

 

 荊崎はフリーランスの魔術師ではあるが、魔術協会からの依頼も頻繁に受け、そのすべてを解決した凄腕魔術師として、魔術教会では知られている。

 ケイネスとも、とある依頼で共に戦った時以来の旧知の中であり、その信頼感はともに死線を潜り抜けた兵士特有のものがあった。

 だが、

 

「だとしても、これは聖杯戦争だぞ、ロード・エルメロイ。ありとあらゆる魔術師が、万能の杯を求め、どのような手段をとってでも勝ちに来る戦いだ」

「? というと?」

「俺がお前を殺さない理由はどこにもないと言っているんだ」

 

 ぞっとするほど低い声音が放たれると同時に、完全に音を立てず巻物を取り出した荊軻が、そこに仕込まれていた匕首を抜刀。

 ためらうことなくケイネスの首筋にその刃を突きつけた。

 

「――っ!?」

「動くなランサー。まさかこのような下らぬ油断で、聖杯戦争を敗退したくあるまい?」

 

 場の空気が瞬時に凍りつき、ランサーが武器を顕現させるが、遅すぎる。

 たとえ敏捷A+を持つディルムッドとは言え、ほぼ息のかかる位置にいた敏捷Aの荊軻の攻撃から、主を守ることはかなわなかった。

 自身の命が相手に握られている。絶対的強者として時計塔に君臨してきたケイネスにとって、その事実は初めて恐怖を覚えさせるものだっただろう。

 握手を続け、ぎゅっと握りしめられた片腕に、おびただしい量の手汗があふれ出る。

 そんなケイネスをじっと見つめながら、荊崎は告げた。

 

「仮にもあんたは俺の同盟相手だ。何を勘違いしてこの戦争に参加したのかは知らないが、時計塔での平和ボケした空気はここで捨てていけ。今俺とお前が立っている場所は、あの時の戦場と大差ない、ルール無用の殺し合いが繰り広げられる戦場だ」

「あ、あぁ……。わかった」

 

 ケイネスがまだロードになっていないころ。当時まだ当主であった父親に言われ、はせ参じた死徒狩りの戦場。その時の殺気だった荊崎の顔を思い出しながら、その時と大差ない険しさを放つ荊崎の言葉に、ケイネスはゆっくりと首肯した。

 それを見た荊崎は満足げに手をほどき、同時に荊軻もつきつけた刃を静かに離して霊体化する。

 それによって害意は完全に失せたと悟ったのか、荒い息をついて眉をしかめるケイネスに、ディルムッドは駆け寄った。

 

「主よ、申し訳ありません。私がもっと強く忠告していれば」

「……それは何かランサー? お前は私の過ちをお前自身のせいだと思っているということか? この私の、彼への信頼が、誤りだったとでも言いたいのか?」

「い、いえそのような!」

「八つ当たりはやめたらどうだ、ロード・エルメロイ。実際戦争という事柄においては、騎士団にいたディルムッドの方がよく心得ているだろう。ロードはあくまで学者なのだから、戦いに関してはディルムッドの方が一枚上手だろうさ」

 

 そして瞬く間に険悪になる主従を差し置き、部屋の中へと入った荊崎は、先ほどまでの鋭さなどみじんも感じられないへらへらした笑みを浮かべながら、ソラウと対面するかのように来客用のソファーに腰かけた。

 

「やぁ、ソラウ嬢。さっき倉庫街で来ているとは聞いていたけど、本当にいるとはね。ロードと死徒狩りに行った時以来か? 元気していたかい」

「あなたは相変わらずの無礼っぷりのようですね。同盟を結びに来たのでは?」

「ロードが何か勘違いしているようだったから、ちょっとその認識をただしただけさ。同盟相手なんだから、簡単に死なれたら後味悪いだろう? 何より今後の計画が盛大に狂うし」

「最後のがあなたの本音でしょうに……」

 

 呆れるソラウに対し、荊崎はただ笑うだけだった。

 だが、やるべきことはきちんとやっている。

 ロード・エルメロイ自身に関して、荊崎は一切の心配はしていなかった。

 やや増長癖があり、魔術師としてのプライドが強すぎるきらいがある人物だが、魔術の腕に関しては、此度の聖杯戦争参戦者の中で随一であるのは紛れもない事実だったからだ。

 彼に足りないのは、聖杯戦争に関する勘違いの訂正と、

 

「ところでソラウ嬢?」

「なに?」

「随分と良い恋をしているみたいだな。チャーム除けの力を借りてなお、ディルムッドの魔貌には抗いがたいかい?」

「っ!!」

 

 戦争云々以前の問題である、サーヴァントをからめ捕る、ドロドロの三角関係の解消法である。

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 ホテルの一室が完全に氷結していた。

 ディルムッドをねちねちいびっていたケイネスでさえ思わず口を閉ざし、ディルムッドは真っ青な顔になっている。

 唯一顔色を変えていないのは荊崎のみであり、背後の荊軻はあまりに無遠慮すぎる荊崎の物言いに、顔を覆っていた。

 

「……私が、ディルムッドに恋をしているですって? ただのサーヴァントである彼に?」

「否定しても無駄だぞ? 俺の魔術の要は知っているだろう? 相手の状態の概念をいくつか読み取れる。魅了の魔術にかかっているかどうかくらいは一目でわかるさ」

 

 ソラウも、自らのうちに初めて生まれたこの激情の正体には気づいていた。だからこそ、ケイネスの前でそれをばらされるのはまずいと悟っており、あくまで荊崎の言葉を否定しようと試みる。

 だがしかし、荊崎の目の前にはその程度のごまかしは通用しない。当然共に戦場に出た経験があるケイネスにとって、その事実は嫌というほど思い知っているものであり、同時に令呪を切るに値する証拠が、初めて提示された時でもあった。

 

「令呪を持って命じる。ランサー……自害」

「アサ姐。止めてきて」

「……我が子孫ながら、少しは気づかいというものを覚えたらどうだ?」

 

 間髪入れずに出された荊崎からの指示に、荊軻はため息をつきながら敏捷Aをいかんなく発揮。ケイネスの口に、あらかじめ用意しておいた布の詰め物をぶち込みその口を封じた。

 

「落ち着きなよ、ロード・エルメロイ。ディルムッド呼んだ時点でおおよそこうなることはお察しだっただろう?」

「フガフガフガガガアァアアアアアアア!?」

「むしろディルムッドを呼んだくせに自分の婚約者を近づけたことの方が不思議でならんわ。取られて惜しむ女がいるなら、まず絶対会わせちゃいけないサーヴァントでしょう、そこのランサーは」

 

 耳が痛すぎるのか、ひどく居心地が悪そうな顔をするディルムッド。そんな彼に一瞥をくれてやりながら、荊崎は肩をすくめた。

 

「さてソラウ嬢。俺としては正しく現状を認識した君に二つの選択肢を提示しなくてはならない」

「……それはいったい何?」

「一つ、魅了の解呪を俺がしようかという提案。そこまで惚れてちゃ、自分でそれを解除しようなんて気は絶対に起きないでしょう? ロードもあの様子じゃ冷静に術式組めるとは思えないし……。ロードには落ち着いてほしいけど、あんたとサーヴァントの恋愛模様とかわりとどうでもいい第三者である俺が解呪するのが、一番手っ取り早いでしょう?」

「…………………」

 

 ソラウから帰ってきた返答は無言だった。当然であろう。たとえ偽物であろうがなんであろうが、この感情は彼女が生まれて初めて自らの内から生じさせた、恋心だ。

 何も知らない男が無断で踏み荒らしていいか? と尋ねてきたところで、いい顔ができるわけがない。

 

――なら、選択肢は二つ目しかないんだけど。

 

 と、荊崎は内心ため息をつきながら、新しい選択肢を提示した。

 

「二つ目は……あんたをイギリスに送り返すことだ」

「っ! それは――」

「拒否権はない。この戦いはさっきも言ったように戦争だ。そしてサーヴァントはその戦争に勝つための武器に過ぎない。武器に恋して勝つつもりもないアンタを、これ以上盤面に置くのは危険すぎる」

 

 武器が傷付くのを恐れて、危機に陥ってもその武器を振るえない《恋する令嬢》ほど、戦場で邪魔になるものはいない。むしろ、ケイネスに気を使って退去勧告程度で済ませたことを褒めてほしいくらいだ。普通なら当て身でも食らわせて、ロンドン行きの飛行機に放り込んでいる

 

――なにより。

 

「ソラウ嬢。俺もあんたの気持ちがわからんでもない」

「っ!」

「俺の一族の悲願はしっているだろう。俺達はたった一人……ただ一人の祖先に無念を晴らしてもらう為だけに魔術師をしている家系だ。いまおれの背中を守ってくれているあの人の、すべての憂いを払う為だけに生きてきた。流石に「惚れた! 恋している! 好き好きチュッチュ」というつもりはないが」

「そこまで言っていないんだけれど……」

「まぁ聞け。ともかく、俺だってあの人を一人の人間として大切に思っているんだ。そんな俺が、あんたが惚れたディルムッドを無碍に扱うと思うか?」

「…………」

 

 そして、ゆっくりとソラウの手を握り魔術回路を接続。ケイネスにばれないよう、念話で彼女にある計画を伝えた。

 

『なんなら戦争のどさくさに紛れて、ケイネスを殺し、ディルムッドを受肉させてあんたの元に送り返してもいい』

「――っ!」

『ご先祖様の目的は暴君の暗殺。その目的はこの聖杯戦争中に十分叶う。それが叶いさえすればあの人は自害だって受け入れてくれるだろう。そしてあのディルムッドはなんやかんや言って言いくるめやすそうだ。事故に見せかけてケイネスを殺し、ご先祖様を説得して自害していただき俺がディルムッドのマスターになったうえで、聖杯を手に入れれば、あの槍兵を受肉させることは可能だろう』

「…………………」

『だが、その計画を実行するためには聖杯戦争に勝たなくてはいけない。知ってのとおりご先祖様はあまり格が高い英霊じゃない。戦争に勝つためにはフィオナ騎士団で並ぶものなしと言われた槍兵であるディルムッドを、ケイネスの魔力供給によって全力稼働させる必要がある。そのためには、ケイネスとディルムッドの関係を悪化させかねないあんたは邪魔なんだ』

 

 荊崎の計画を聞き、ソラウはしばらく思い悩んだ。そして、恐る恐る思念の糸を伸ばし、

 

『その言葉に嘘はないでしょうね?』

『こんなこともあろうかと、ギアスペーパーを用意してある。なんならこれに署名してやってもいいが?』

『……いいでしょう』

 

 荊軻とディルムッドの二人がかりでなだめられるケイネスをしり目に、荊崎とソラウは契約を結んだ。

 

「とにかく、少し頭を冷やせソラウ嬢。ロンドンまで帰れば、ディルムッドのチャームも消えるだろう」

「……そうね、そうするわ」

「――っ! ソラウ!」

「御免なさいケイネス。私……確かにちょっとおかしいわ。悪いのだけれど、聖杯戦争に付き合えそうにない」

「いや、いいんだ! キミが正常じゃないことを自覚し、あの忌々しい槍兵の魅了から解き放たれようとしてくれたことそのものが、私はうれしい!」

 

 荊崎とソラウの契約も知らぬまま、ケイネスは立ち上がったソラウに駆け寄り、その華奢な体を抱きしめた。

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

『まぁ、嘘なんだけどな』

『……君は一級の詐欺師だな』

『これもご先祖様のおかげです』

『むぅ。首をささげて始皇帝に騙して近づいた身としては、その行為を否定できないが』

 

 少し落ち着きたい。と言ったソラウを別室へと送り、付き添いとして荊軻を退場させた――ふりをしてギアスペーパーの署名を別室で行っている荊崎は、ソファーに座りながらケイネスとの対談を開始した。

 

『ところでマスター。このギアスペーパー』

『あぁ。概念投影で出力したパチモンだから、自由自在に消せるし契約破棄も可能だから心配無用だよ、アサ姐』

『マスター。人の恋心を弄んで……。地獄に堕ちろ』

『なんでさ……』

 

 と、内心膨れながら、荊崎は男としての見識のもとその意見を封殺した。

 どんな事情があれ、惚れた男と一緒になるために許嫁を殺そうとする女に、気づかいなどするつもりはない。

 ソラウはあの時、間違っても荊崎の計画に乗るべきではなかった。彼女は選択肢を間違えたのだ。

 

「さてと、これでアンタの憂いもなくなっただろうロード・エルメロイ。これで心置きなく戦争の話ができるというものだ」

「まったくだ。お前には借りを作りっぱなしだな、ケイザキ」

 

 いつになく上機嫌でワインが入ったグラスを掲げるケイネスに、背後でほっと一息つくディルムッド。

 生前から苦労している女難関係で足元をすくわれる可能性がぐっと減ったので、彼自身もかなり安心したのだろう。

 

――これでランサーもまともな戦力として数えて問題ないだろう。なにより、今回の経験から、ロードはこいつを使い潰すことに躊躇いは覚えないはず。捨て駒にはちょうどいい英霊を手に入れることができた。

 

 物騒すぎる内心などおくびにも出さないまま、荊崎もケイネスから渡されたワイングラスを掲げ、今後の話へと移った。

 

「さてロード・エルメロイ。認識の違いと後顧の憂いがなくなったロードにだから話すが、今回の戦争は少々ヤバイ」

「ヤバイ?」

「あの金ぴかの英霊もさることながら、一番ヤバいのはマスターの中で、マスター殺しに特化したやつがいることだ。敗戦続きでおおよそ手段を選ばなくなったアインツベルンが、この戦争に勝つために雇った殺し屋――衛宮切嗣という男がな。名前ぐらいならロードもきいたことがあるだろう」

「……あの《魔術師殺し》か」

 

 その名前を口にするとき、ケイネスは忌々しげな色を隠そうともしなかった。

 魔術師を殺すために、旅客機一機を撃墜することすらいとわない狂人。

 魔術師を殺すためになら、なんだってやる狂気的殺し屋。

 その名前は時計塔どころか魔術師界隈でも広く知れ渡っており、魔術師らしからぬその暴挙は、ケイネスの癇に障るものであった。

 

「アインツベルンがあの無頼を雇ったというのか? 堕ちるところまで落ちたなアインツベルン!」

「魔術師としては間違っちゃいないだろう。根源に至るために作り上げた大儀式、聖杯戦争。それに三度も敗れたとあっては、あちらとしても手段は選んでられないだろうさ」

「ふん。これだから、自ら根源を目指す力のない魔術師は困るのだ」

 

 品位というものにかける。

 そう愚痴を漏らしたケイネスに、荊崎は今後切嗣がとりそうな戦略をいくつか並べたてる。

 この聖杯戦争のマスターの中で、ケイネスを殺せそうなのは切嗣ぐらいだろうと悟っていたから、十分な警戒を呼びかけたかったのだ。

 

「俺も何度かあいつと仕事でバッティングしたことがあるが、とにかくアイツはなんだってやる。噂に名高い旅客機撃墜も事実だし、その気になればこのビルごと爆破解体されたっておかしくはない。注意しといてくれロード。ディルムッドの宝具を受けたセイバーは今全力を出せない。なら、その状態を解消するために、アインツベルン陣営は真っ先にロードのことを狙いに来るぞ」

「はっ! 狙われたところで返り討ちにするだけ……」

 

 ケイネスが自信ありげに鼻を鳴らした時だった。

 ホテルの内線電話が響き渡り、ケイネスの注意をひきつけたのは。

 この時はまだ、荊崎は考えてもいなかった。

 まさか自らの予想が、ピタリと的中することになろうとは……。

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

「状況はどうだ、舞弥」

 

 眼前にて爆炎とともに崩壊したハイアットビルを眺めながら、衛宮切嗣は通信機を鳴らす。

 

『動きはありません。相手がホテルから出てきた様子も』

「そうか……。なら撤収だ」

 

 百五十メートルからの、瓦礫にまみれた自由落下。いかに魔術師と言えども、助かるすべはない。

 そんな確信を抱きながら、魔術師殺しは一つの仕事を終えた。

 自らの相棒が、凶悪な神父との邂逅をすませているなど知らずに。

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 そして、同時に、

 

『まさか、こうまで見事に予想が的中するとは……。ちょっとした冗談のつもりだったんだが?』

『マスター。その体は果たして大丈夫なのか?』

『問題ないよ、アサ姐。これ(・・)がさっきのギアスペーパーと同じ物だって知っているでしょう?』

 

 瓦礫の山の奥深く。血まみれになった死に体の男が一人、元気に使い魔と念話を交わしていた。

 同盟相手のケイネスは幸い死んだふりが成功したらしく、今も瓦礫の下で水銀の魔術礼装を使い籠っているはずだ。

 

『荊軻さん、そっちのソラウ嬢は?』

『火薬の気配を感じ取ってすぐケイネス殿の傍に放り込んだから無事だろう。あちらは計画通りマスターの工房にうつり、秘密裏にソラウ殿をイギリスに送り返す予定らしいが、こちらはどうする?』

『そうさな……』

 

 そして、血まみれの男はしばらく考えた後、

 

『うん。いい機会だ』

『やはりそう思うか?』

『内輪もめで頼りに行く予定だったけど……やっぱり説得力に欠けたからな。今回は完全に事故だし、遠坂の信頼を勝ち取るいいファクターになるだろう』

 

 にやりと、口元に不気味な笑みを浮かべた。

 

『重傷を負ったふりをして、遠坂家に助けを求めよう。今夜中にあの金ぴかを殺すぞ、アサ姐』

『いいだろう』

 

 今宵、計画決行。

 

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