|д・)っ□ ソォーッ…
|)彡サッ□
「来たか」
「切嗣、どうするの?」
アイリが魔力を通した水晶の中で、二組のマスターとサーヴァントが、アインツベルンの城に向かって進んでくる。
一つはランサー。昨夜見事に操って見せた双槍を構えながら、悠然とした足取りで森の中を進んでいる。
もう一組は、マスターの二人。ランサーのマスターであるケイネスと、アサシンのマスターと思しき荊崎だ。
「やることは決まっている。ただ倒すだけだ」
「切嗣、私はどうするべきですか?」
「………………」
切嗣の言葉に問いを発したのは、彼のサーヴァントであるセイバーだった。
だが、切嗣はその問いかけには答えない。召喚されてから、彼は常にこういった態度をセイバーにとり続けた。
騎士道を重んじるセイバーは主を基本たてるつもりではあるが、さすがにこの態度はいただけない。
わずかながらにセイバーの眉間にしわがよるのを見て、アイリは慌ててフォローをし、
「切嗣はそれなりに戦えるわ、セイバー。特にこの城は切嗣の工房に作り替えられている。魔術師二人が襲ってきたとしても、倒すことは可能よ」
「では、私はランサーの迎撃に。さすがにサーヴァントが相手では、魔術師の工房は役に立たない。ですが、アイリスフィール。一つ問題がある」
「問題?」
セイバーが指摘した問題点にアイリは首をかしげ、切嗣へと視線を飛ばす。
アイリには返答を返す切嗣は、その視線の訴えかけに反応し口を開いた。
「アサシンの姿が見えない。おそらくは隠れ潜んでいるな」
「その通りです。ですが、マスターが戦場に出てきている以上ここにいないということはあり得ません。ならば、どちらかに気配遮断で追従しながら、こちらの隙をうかがっているのかと」
「それじゃ、マスターたちの方に来ていたら」
切嗣はマスター二人と、サーヴァント一騎との戦闘を強いられることになる。
それは非常にまずい状況と言えた。
「だが、ランサーを抑えられる戦力は現状セイバーだけだ。二方向から同時に責め立てられるよりかは、セイバーにランサーを抑えさせて、僕が魔術師を殺した方が手っ取り早い」
「でも、切嗣」
「安心してくれ、アイリ」
そう言いながら、切嗣は懐に入れてあるコンテンダーに触れた。
「アサシンは直接戦闘に向かないサーヴァントだし、対魔力はもっていないようだったからね。僕の切り札が割と聞くはずだ。それに……魔術師相手なら、僕は負けない」
…†…†…………†…†…
「と、多分相手は言っているだろう。実際その通りだしな。俺もあいつとサシで喧嘩とかはしたくない」
「なぜだ?」
人祓いの結界を蹴散らし、人を迷わす深い森を抜け、ケイネスと荊崎はアインツベルンの城の前へと到達していた。
彼らの足はそのまま止まることなく城に向かって動き続ける。
周囲には地雷などが敷設されているのだが、完全無視。
まるでどこに埋まっているのかが分かっているかのように、二人はすいすいとアインツベルンの城の玄関に到達した。
「魔術師を殺すことにおいて、あいつの右に出る奴はいないからさ。あいつと敵対した魔術師連中は、必ず殺されている。まさに必殺だね……。つまり、どいつもこいつも殺されちまったせいで、俺はあいつの情報を実はいうほど持っていない」
「なんだと!?」
死人に口なしってやつだな。といいながら、玄関前に到着した荊崎は、錆色の札を取出しぺたりと眼前のドアに張り付け距離をとる。
札に記載された概念記号は――爆裂。
「わかっている情報と言えば、師匠ごと飛行機を爆散させてターゲットの魔術師を殺したことがあるってことと、魔術師と対峙すれば必ず殺してきた実績があるということ……そして、その実績を打ち立てるために、対魔術師用の礼装を必ず持っているだろうということだ」
荊崎がそう言った瞬間、魔力が込められた爆裂の札が轟音とともに爆発。頑丈な扉を勢いよく吹き飛ばしながら、荊崎たちに道を作った。
途中で、玄関ホールに設置されていたいくつかの罠が飛来する扉に反応し発動。爆音を立てながら飛来した扉を穴だらけにし、無数の残骸へと変貌させる。
「そこでケイネスに質問だ。魔術師を確実に殺せる礼装ってどんな礼装だと思う?」
「はっ! 下賤な近代兵器使に我々魔術師を害する術があるとは思わ」
「真面目に聞いているんだけど?」
「真面目に答えたぞっ!?」
「はぁ……。いいかケイネス。お前だって人間捨てたつもりがないのならあっさりと殺せる魔術師の範疇だ。それともお前、弾丸額にぶち込まれても生きている自信あるの? ないだろう? だが卓越した魔術師が殺しにくくなるのも事実、この近所に住んでいるらしい虫爺みたいなそもそも人の形を棄てたやつや、どこぞ人形使いみたいに本人は工房にこもり、実際戦うのは人形と言った輩は非常に殺しにくい。だが、衛宮切嗣はそう言った連中すら殺して見せた。なら、いったいどうやって魔術師を確実に殺して見せたのか」
そう言いつつ、吹き飛んだ扉だった場所から平然と中に入り込んだ荊崎は、ケイネスにトントンと自分の手を叩いて示した。
「そういった魔術を操るに当たり、必ず発動した魔術につないでいる魔術回路……そこを魔術越しに攻撃できればいい」
「なっ!?」
「つまりアイツの奥の手は、何らかの手段によって行われる魔術回路への直接攻撃だ」
だてに荊軻の血筋ではないのか、荊崎は長年集めた魔術師たちの情報からその攻撃の正体を看破し、計画を頭の中に立ち上げる。
「というわけで、お前今回は水銀禁止な? できれば魔力を込めたら発動する感じの使い捨て礼装を使え」
「ハイドラグラムだ!」
「実際水銀使っているんだから水銀でいいだろう? んでもって、それでもちょっとばかり不安なので、直接対決は避ける」
「バカなっ! 正々堂々とした戦こそが……」
「ランサーみたいなことを言うなお前」
「下賤の輩にそんなプライドを使う必要はないな!」
――どんだけ、ランサーのこと嫌いなんだよ。
自分の相棒と比較された瞬間、即座に意見を翻したケイネスにわずかに呆れつつ、荊崎は概念読み取りの目を光らせ、城に設置されたいくつかの罠を即座に看破。安全そうな場所を歩きながら、ケイネスに先ほど使った錆色の礼装を投げつけた。
「それで、攻略法については簡単だ……。アサ姐にも頼んで指定個所に張り付けてもらっているから、俺らもとっとと始めるぞ」
「なにを?」
「決まっているだろう?」
そう言ってにやりと笑いながら、荊崎は告げる。
「爆破していいのは、爆破される覚悟があるやつだけだ!」
「……お前、昨日のこと根に持って」
「さぁて、お城の爆破解体ショーだ! 築百年くらい経ってそうだし、耐震強度的に問題ありだろうこの建築。なら無料で更地に変えてあげても罰は当たらんだろう! 新しい城を建てるためには古い城の解体が必要不可欠。だが、最近は解体費用だって、バカにならないだろうしなっ!」
こうして、割とねちっこい荊崎による悪巧みが、アインツベルン城を未曾有の危機へと叩き込む。
…†…†…………†…†…
薄暗い森の中、ゆっくりと進めていた歩みをランサーは止めた。
気配を感じ取ったからだ。
森の中を素早く駆け抜けてくる何かの気配を……。
「来たか、セイバー……。いや?」
だが、それは待ち望んでいた好敵手の気配ではない。
何故それがわかったのか?
それは、
「気配が……多い!?」
察知した気配の数が尋常ではなかったからだ。
慌てて気配の方を振り向いたランサーの目には、とんでもないものが映り込む。
「なんだあれは!?」
女性の上半身に、蛇の下半身を持つ怪物――ラミアの群れが、ランサーめがけて進軍してきているではないか。
ご丁寧にも、顔は無数のベールによって覆われ、ランサーの顔を見ないようにする徹底ぶり。
このようなまねができるサーヴァントを、ランサーは一人しか知らない。
「怪物の召喚――キャスターかっ!」
ランサーがそう言うと同時に、彼に急速に近寄って来ていたラミア達が手を掲げ、光線状の魔術をランサーに向かって解き放った!
…†…†…………†…†…
「あぁ、なんということでしょう……。三騎士に戦いを挑むなんて、死んでしまいます」
「お前は離れた場所であれらを操っているだけだろう?」
「で、ですがマスター」
「それにキャスター。私はあれを倒せとは言っていない。時間を稼げと言っているだけだ」
そこから離れた森の中、二人の男女が暗い闇の中で会話をしていた。
一人は肉感的な体をプルプル震わせた褐色の美女――キャスター。
もう一人は、漆黒のカソックを着込んだ神父――言峰綺礼。
彼らはケイネス達の襲撃に乗じアインツベルンの結界を突破。
キャスターの宝具兼魔術によって無数の怪物を召喚し、戦場をかきまわしに来たのだ。
目的はただ一つ。
「アインツベルンの城にも、精霊たちは送ったな?」
「抜かりなく」
「いいだろう。それでしばらくは時間が稼げるだろう」
不気味な笑みを浮かべる綺礼の、
「衛宮切嗣と接触する機会は、これで整った」
「ですがマスター。あなたはもう己の道を……」
「あぁ、そうだ。私は私の道を知った。だがしかし、それが真に正しきものであるかはまだ自覚できないでいる。ゆえに、私は知りたいのだ」
ただのわがままだ。
「私と同じ存在であろう衛宮切嗣。その男が出し、この場にやってきた理由となったであろう……《答え》というやつをな」
…†…†…………†…†…
アインツベルン城爆破の準備は非常に手早く行われていた。
戦場になる城からアイリを逃がすために切嗣の対応が遅れたのも原因だが、やはり一番の理由はアサシン――荊軻の存在だろう。
人外染みた脚力で城の中を駆け回り、設置された近代武器によるトラップなどものともしない彼女の作業速度は尋常ではなく、瞬く間に自分の担当個所への爆裂札の式鬼説を終わらせていた。
「さて、これでひとまず私の分は終わったが……」
マスターたちに合流するべきか? 一瞬荊軻は悩み、己が懐にしまった巻物に触れる。
『いいかいアサ姐? 相手が予想通り魔術回路を傷つけるほどの武装を持っているのなら、対魔力を持たない荊軻さんも無事では済まないはずだ。相手がいくら人間だからと言って、油断していい相手じゃなくなる。だからこそ、まずは罠にはめて相手の弱体化を狙う。仮にも衛宮は魔術師。ゲリラ戦法を得意にしているから、ほとんど当てにしてないだろうが、工房の爆破は良い嫌がらせになるはずだ。あいつと直接対決はそのあとでいい』
確かに、その計画は悪くない。始皇帝暗殺計画を練った彼女から見ても、非常に理にかなった暗殺計画と言えた。だが、
「すこしばかり、過保護なのが気にかかるかな?」
一応私は彼の先祖だったはずだが……。と、荊軻は苦笑いを浮かべる。
本来ならば彼女こそが荊崎を守り導く存在でなくてはならないはずだった。
だがしかし、英雄王暗殺の際にはほとんど彼の魔術に頼り切り。今回の作戦とて、ほとんど彼が立案実行を行うものだ。
皇帝を殺すことしか能がないことを理解しているが故、荊軻は今までそれに口出ししなかったが、だが思うところがないかと言われると……。
「もう少し、私に頼ってくれないだろうか……」
恋というにはあまりに乾いていて……だがしかし、無感情化と言われると首をかしげざるえない感情を、今の荊軻は抱いている。
確かに、今のマスターは自分を大切にしてくれている。
かつての自分にはなかった、信頼と、確かに頼りになる相棒として共に戦争を戦ってくれている。
だがそれの行動はあまりに過保護で、荊軻を守ろうとする物過ぎた。それは、荊軻がマスターに求めるものではない。
荊軻がマスターに求めるものは……。
「ただ友として、対等にあってくれる者でいてほしいだけなのだがな……」
――やはり世の中はままならない。
そう思い荊軻が肩をすくめたときだった。
城の窓が一瞬だけ暗くなる。
「ん?」
違和感を覚えた荊軻が一時的に霊体化。その脚力でアインツベルンの屋根へと一直線に飛び上がり、外へと出ると、
「なんだあれは?」
城一つをすっぽり覆い隠すほどの巨大な鳥が、アインツベルン城上空で旋回していた!
…†…†…………†…†…
「あれはっ!?」
「マダム、いったいあれは……」
切嗣の指示を受け、一時的に城から退避していたアイリ達も、その怪物の姿を目撃していた。
翼を合わせると、城一つ覆い隠せるほどの巨大な鳥。
世界には、巨大な鳥の伝説が数多あるが、あれはその中でも別格の巨大さだ。
そして、世界一有名な巨鳥の伝説と言われると、すぐさま思い浮かぶものが一つだけある。その名は……
「ロックバード。《千夜一夜物語》にでてくる、宝石を持ってくる巨鳥」
「っ! つまり、キャスターの正体は!」
アイリと舞弥がそれに気付いた瞬間だった。
「おや?」
「「!」」
無味乾燥。そんな印象を受ける男の声が、二人の鼓膜を叩いた。
「なかなかどうして、うまくいかないものだ。どいてもらおう。お前たちに用はない」
「……言峰、綺礼!」
本当に興味がなさそうな目で二人を見つめながらも、それでも油断なく黒鍵を取り出した異質な神父に、二人の女性が相対する。