てんせいぐらし! ~キチガイ二人は地獄を往く~ 作:青の細道
身内に頼んで描いてもらった本作の表紙的なもの
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「がっこうぐらし原作の絵に欠片も似てなくて草」って言われそうだけどそんなの関係ねぇ!(小島よしお
どっちかというとバイオとかそっち系の世界線な雰囲気なのは否めない
「さて、全員揃ったな」
改めて拓三に全員を集合させるよう呼び掛けてから丸一時間の時間を設けて……俺達『学園生活部』10名+1匹、出口センパイ達『サークル』3名、頭護達『武闘派』5名。
そして──。
「なになに何の集まりだい? 知らない内に人が増えてるね!」
「……ふん」
三つのグループに属さない中立な人物である2名の生存者。佐倉先生に似た髪の色をし片方の目が前髪で隠れる女性『稜河原 理瀬(りょうがはら りせ)』はキョロキョロと好奇心に顔を輝かせ生活部メンバーへ注目し、その隣では不機嫌な顔をしながら煙草を咥え鼻を鳴らす長い銀髪の一際大人びた雰囲気を醸し出す『青襲 椎子(あおそい しいこ)』の二人が同席し、合計20人の人間と1匹の犬が一つの部屋に終結する。
「…………」
「…………」
「…………」
集まった部屋に漂う気まずい空気。武闘派にとってサークルメンバーは『切り捨てた存在』でありサークルにとっては『関わりたくない存在』で互いに心境は穏やかではない事が伺える。
「思うことはあるだろうが、取り敢えず話を始めよう」
パンと手を叩き、全員の注意を向けさせる。今後の事を纏めるために口を開こうとした俺だったが、そこに待ったの声が掛かる。
「ちょっと待てよ、何でお前が仕切ってんだ?」
机の上に足を乗せ、気に食わないと顔に書いてありそうな程の顔で俺を睨み付ける城下。他の武闘派メンバーは特に異議を唱えるような声は無いが、頭護と神持の二人からも少しばかり面白くないというような雰囲気が漏れている。
まぁ、いきなり出てきた上に実質年下の相手にデカい顔で仕切られるのは愉快ではないのだろう。
「俺達が提供できるものと、お前達が出せるものを含めて今後の事を全員が共有するためだ。暴力でしか他人を抑えられない猪は黙っていろ」
そんな安直な煽り言葉にすら顔を歪め、強く拳を握りしめ今にも殴り掛かろうとする城下を頭護が抑える。さすが一党のリーダーを勤めるだけはあるが所詮その程度だ。
「わざわざ全員を集める必要があるとは思えないが、俺達が欲しいのは情報と物質だ」
「分かってる、さっきも見せたが俺達が持つ武器などの道具も提供しよう、そして食料などが保管されているシェルターの位置も教える。情報に関しては──」
言葉を途切らせ、視線を青襲さんの持つ『緊急避難マニュアル』へと向ける。視線に気づいた彼女は面倒臭そうに溜め息を吐きながらコピーした人数分のマニュアルの写しを近くにいた直樹へ手渡しそれを配らせる。
「マニュアルの方は各自目を通して貰うとして、こちらが提示したものの対価は……」
世の中には等価交換というものがある。どちらか一方だけが得をし、どちらか片方が損をするだけでは世の中は上手く回らない。利害関係が重要なファクターとなる。
特に今みたいな世紀末の時代ではな。
「アンタ達『武闘派』にもサークルや俺達と一緒に生き残るために協力してもらう事が条件だ」
俺の出した対価の言葉に、ほぼ全員が「はぁ?」という顔をする。
「なにそれ、みんなで仲良く手を取り合ってがんばりましょうって言いたいの?」
目を細め、つまらなそうな声で溜め息を吐く神持。
「その通りだが?」
当然のように答える俺に、驚いたような目をした後にもう一度溜め息を吐く「馬鹿馬鹿しいわね」と一蹴される。頭護や城下も同様に「協力する必要性はない」と答える。
何故その必要性が無いのかと問えばサークルメンバーは戦うことを拒絶した臆病者だ。そんな腰抜けに生きる資格があるのかと武闘派の三人は口を揃える。その物言いに顔を伏せ、反論しようにも事実を言われているため何も言い出せないサークルの三人。
「生き残るためには戦わなきゃいけない、たしかにお前達の言いたいことは分かる」
弱肉強食、力を持たない弱者は強者によって虐げられるのが世の理だとはよく言ったものだ。自然界に置いても人間社会に置いてもその構図がひっくり返る事はほとんどない。
だが、だからこそこんなクソッタレな世界でくらい助け合いが必要な時もある。
戦うだけが生き残る術ではない。
そしてなにより戦う者は何かを守る責任と義務がある。それだけの力を持たなければそいつもまた……弱者に他ならない。
「グループに置いて重要なのは、戦う戦力だけじゃない。戦えなくても別の形で何かの役に立つ人材も必要だ」
指折り順に生活の基盤を支える食料を調理できる者。道具や機械等の修理が可能な者、情報を纏める事ができる者。何でもいい、この世に『存在価値のない者』は居ないんだ。
まぁ、人殺しの俺が言える言葉では無いがな。
「……俺は反対だ、人数が多けりゃそれだけ消費の数も増える。物資には限りがあんだ、余分な奴に渡す物はねぇ」
席を立ち、交渉へ異を唱える城下。「私も同感ね。そんな事で生き残れる程甘い世界じゃないわ」と神持もまた席を立つ。無言のまま頭護も立ち上がり、今まで従っていた高上と右原の二人は渋々といった様子で立ち上がる。
「ちょっ、待ってよ」
交渉決裂、去ろうとする武闘派を引き留めようとした出口センパイの声に被せるように拓三が挑発的な言葉を投げ掛けた。
「余分……ねぇ、こいつァ驚いた。『自分は余分な人間じゃねェ』って本気で思ってやがるのか」
「なんだと?」
踵を返し、ニヤつく拓三へ睨みをきかせる頭護。
「アンタらの言い分は、要は強ェ奴が上に立つっていう猿山方式なんだろ?」
だったら、と言葉を続けながらこちらへ目配せする。どうやら拓三も俺と同じ考えらしい。
「お前とお前、試しに『コイツら』と戦ってみろ」
立ち上がった拓三は頭護と城下を指差した後に恵飛須沢と直樹の肩へ手を置いて提案する。そんな奴の言葉に驚いた二人が目を見開いて驚愕の声を挙げた。
「ナメてんのかてめぇ」
城下が椅子を蹴りあげドスのある声で怒りを露にする。
「ちょっおま、ふざけんな何でアタシと美紀なんだよ!」
同様に拓三へ食って掛かる恵飛須沢に胸ぐらを掴まれグイグイ揺さぶられる拓三。だが、俺も同意見だと言うと信じられないといった顔でこちらを見る二人。
俺と拓三がやるのでは意味がない。こいつらの言う信念とやらを真っ向から否定するにはそれ以上の武力と屈辱を持って知らしめる必要があった。
年下の、それも見るからにひ弱そうな女子高生に負けりゃちったぁ考えも変わるだろ。
「本気で言ってるんですか!?」
「なんだ、まさか負けると思ってるのか?」
何のために護身用の対人格闘まで教えたと思ってるんだ。暴漢程度軽く一捻りできないんじゃ教えた意味がないだろう。
「っ……わーったよやりゃいいんだろ!」
乱暴に髪を掻き毟る恵飛須沢が立ち上がり「胡桃先輩がやるなら……はぁ、何でこんな事に」と愚痴を溢しながらも立ち上がる直樹。
「そうだなぁ、勝ったら二人を『好きにして』いいぞ」
「木村くん!」
発破を掛けるがごとく追加の条件を出した俺へ若狭と佐倉先生が顔を強張らせる。冗談でも軽弾みで言っていい事ではないとは分かっているが、こうやって相手にとって美味しい話をちらつかせて食い付かせるのが釣りの基本ってな。
まぁ、どう足掻いても『絶対に勝てない』だろうがな。
「へっ、後悔すんなよな」
「はぁ……どうなっても知らないからな」
見事に一本釣りされた二人が応じ、馬鹿馬鹿しいと首を振る神持と不安げな表情の高上と右原。
場所を変えるためにグラウンドへ移ろうと指示し、特に興味がないと去っていく青襲さんを除いたメンバーが外へと出る。
「どういうつもりなの木村くん!」
前を歩く俺の肩を掴んで引き留めた佐倉先生。教師として、大人として子供が交渉の景品にされていることに腹を立てている。
「手っ取り早い手段を選んだだけですよ」
冷たく言い放つ。実際、こんなことする必要はないのかもしれない。だがどうしても俺達には人手が必要だ。人が増え、拠点となる施設を維持するのにはどうしても多くの……それも出来れば男手が欲しい。
このまま対立関係になったままで事が運び、原作通りに進んでしまえば意味がない。これまで積み重ねてきた物が無下になる、恵飛須沢と直樹も腕っぷしが強くなったとはいえ俺と拓三に『もしも』の事があった場合に他のメンバーを守り通せるだけの力はまだない。
感染者相手への耐性は付いたとはいえ、対人戦はあくまで訓練程度の経験……このあたりで一度本番を経験させるのも目的の一つだったりする。だがそれもあくまで自衛、流石に殺人までさせるつもりは毛頭ない。
まぁこの二人に限ってそんなことはないだろうが。
「だからって──」「いいよめぐねえ」
食い下がろうとしない彼女を止めたのは他の誰でもない恵飛須沢。
「アタシらがやるって決めたんだ。……ただし勝ったらお前ら覚悟しとけよ?」
にこやかな顔で額に青筋を立てる。あっこれマジギレですねこれは……。
「……でもっ」「大丈夫だよめぐねえ」
きつく握りしてられた手を丈槍の小さな手が包み込み、安心させるように宥める。
「最低限のルールは決めておこう、当然だが殺しは無しだ。武器は自由、相手を気絶させるor降伏させた方が勝ちだ」
グラウンドへと移動し、審判役として喜来センパイと右原を選び向かい合うようにして立つ直樹と頭護、城下と恵飛須沢。武闘派の二人は釘バットとバールのようなものという殺意高めな選択に対して、二人が選んだ得物は──。
「おい、武器はどうした」
城下の問いに、恵飛須沢は「必要ない」と手足のストレッチをしながら答えた。恵飛須沢はまだしも直樹まで無手を選択するとは思わなかった。
「な、なぁ……やばいんじゃないか?」
離れたところで鉄棒を背に眺めていた俺へ警戒の色を見せながらも小声で問いかけてくる高上。元は争いを好まない性格でガールフレンドの右原の側に居るために頭護達に従っていた様子が伺えていたが、他人を心配するだけの良心は残っているらしい。
「まぁ見てろ」
短く答え、口の端を吊り上げた俺を怪訝な顔で見てくる。
やがて審判二人の合図と共に頭護が直樹へ……城下が恵飛須沢へと襲い掛かる。振り上げられた釘バットが頭部目掛けて振り下ろされるが、目を伏せる事もなくしっかりと見据えた直樹が半歩横にずれ難なくかわす。
瞬間左足を軸に360度回転し頭護の背後へ回り込みつつ振り返ろうとした奴の右手首を掴み背中越しに内側へ捻る。
女子の腕力とは言え散々俺との訓練やコンパウンドボウを引くために握力も腕力も見た目以上に強まっているため、あっさりと腕を取られた頭護は姿勢を崩し欠けるが、何とか持ちこたえようと足と腰に力を込めた。
だがそれを呼んでいた直樹はすかさず膝に蹴りを加え、自分とほぼ同じあたりまで落ちてきた首を空いた方の腕でロックし、そのまま跳躍すると全体重を持って頭護を地面へとねじ伏せた。
「がっ──!」
グルリと綺麗に一回転した勢いのまま地面に背中から叩き付けられた衝撃で肺の中の空気を漏らすような声を出した頭護。起き上がるよりも先に突き出した指先が眼球の寸前で止まったところで両者が動きを止める。
「ま、参った……」
「そ、そこまで!」
頭護の降伏宣言を受け持っていた白旗を掲げ直樹の勝利を宣言する右原。
瞬殺──とまでは行かなかったものの今まで教えてきた対人格闘をしっかり身に付けてくれた事に指南役としては鼻が高い。
手に付いた砂を叩き落としながら踵を返した直樹が一直線に俺の方へと向かってくる。
やばいなんかこっちきた。
内心冷や汗を流しながら目の前に立ち、ジト目で何かを訴えてくるように見つめられる。
えー……と?
「……よくやった」
取り敢えずそういって頭を撫でる。てっきり叩き落とされた挙げ句腹パンの一発くらいは覚悟していたが、待てども待てどもそういったものは来ず。何故か満更でもない顔で撫でられるままの直樹。
なんだろう、芸を覚えた太郎丸に近い何かを感じる……。
一方その頃、恵飛須沢の方はと言えば──。
「ガッハァ──!?」
これはひどい。
横凪ぎに振られたバールを姿勢を低くしたまま股の間を垂直に蹴りあげたニーパッド付きの膝が城下の人柱へ突き刺さる。潰れてはいないだろうが、そのあまりの激痛に白目を向いて膝から崩れるのと同時に側頭部へ鋭い回し蹴りが叩き込まれる。
オーバーキルってレベルじゃねぇ……こいつぁひでぇや。
完全に伸びきった哀れな男に恐る恐る近づいて白旗を上げる喜来センパイ。
うわぁと見ていた観客がドン引きし、高上は自身の股間を押さえて震え上がっていた……。
南無南無。
──と、言うわけでワンサイドゲームで幕を閉じ、気絶した城下を適当に介抱した後……再度部屋へと集まった俺達は勝利の代価として武闘派を引き込むのに成功した。
白目を向いたまま床に寝かされている城下はそっちのけで「負けたからには従う」と少し腑に落ちないがと言いたげな頭護。高上と右原は既に快く承諾しており既にこちら側の人間と化している。
が、ここまで来てなお首を縦に振らない人物が一人……。
「群れた程度で、結局意味なんてないのよ」
どこか遠くを見ているような虚ろな目をして吐き捨てるように呟く神持。頭護もそうだがこの二人は生き残りの中で『自分は選ばれた』人間であるという盲信を抱いている。
特に神持は重症だ。平凡な日常に退屈し、地獄と化したこの世界を自由で素晴らしいと捉え生き残った自分は選ばれた存在として全てを容認された特別な存在であるという信念。
俺はそれを否定する。
「──選ばれた人間なんて居やしない」
「っ──」
扉に手を掛けていた神持の肩がピクリと震える。
「いいか、選ばれた人間なんて居やしないんだ。特別な奴もいない、この世界では誰もが弱者だ。俺達は『選ばれた』訳でも無ければ『特別』な訳でもない。自分の意思で選んだ……俺も、アンタ達も」
生き残る為には誰かが上に立たなければならないという考えも、退屈な平凡から逸脱した高揚感も、自分は特別なんだという感情も……『よくわかる』。かつての俺もそうだった。
転生という形で人生をリスタートし、周囲の人間とは違う産まれ方をした。前世の記憶と知識を持っていたため他人よりも賢く見られ、羨まれ、妬まれ、その果てに自然と周囲へ壁を作った。
俺はお前達とは違う。心の片隅でそう思っていたのはたしかだ。そしてそれは若狭達に対しても抱いていたかもしれない感情だ。原作という知識を知り、未来を知るがゆえそれを回避できるのは自分達だけだと。
英雄願望があったわけじゃない。ただそうするのが役目だと思っていた。
だが感染者との戦いと学院での生活、今まで経験したことがなかった命のやり取り……そして当初はただのキャラクターとしてしか認識していなかった者達の存在を目の当たりにして現実を見せつけられた。
だがそれを自覚したところで意味はない。もう後戻りできないところまで来てしまった。
「アンタ達が切り捨ててきた人間は戻っては来ない。弱かったから死んだのかもしれない、生き残ったのなら死んでいった奴等の分まで生きなきゃならない」
「……贖罪しろとでも言いたいの?」
「何のために生きるかは自分で決めろ、だが俺達と行動を一緒にする以上は勝手に死ぬことは許さない」
「──貴方は……」
自分が矛盾に満ちた事を言っているのは理解している。非情でなければならないと思いつつも一度抱いた情を拭いきれないでいる。それが原因で悪い方向に進んでしまうかもしれないと思いつつも、どこかで「正しい事だ」と自分に言い聞かせている。
最近自分の中で何かがズレていくような気がする。正確には黒ずくめの連中を始末したあたりからだ……。特に気に止めていた訳じゃなかったが……なんだかんだ影響を受けているのかも知れない。
自分がどうあるべきか……。
──とぉ。いかんいかん、また考えに耽っていた。
「ま、正直そこまで強制するつもりはないが……少なくとも俺の仲間に危害を加えることだけはしないでくれよ」
そろそろやることもやらないとな、と拓三を呼びつけ俺達は部屋を後にする。
「どこ行くんですか?」
「あ~……。……『掃除』?」
──選ばれた人間なんて居やしない──。
そう言われた時、私は思わず唇を噛んだ。
学校が嫌いだった……ずっと嫌いだった。決まりきった毎日、先の見えた人生、窒息しそうな毎日。
何がそんなに楽しいの?
私は孤独を感じていた。他者とはズレた感情を持ち誰とも分かち合えないこの感覚、いつまでも続いて私を苦しませる世界が嫌いだった。
でも世界が豹変したことによって私は変わることができた。
なんて素晴らしい世界!
ヘラヘラと意味もなく笑っていたあいつらは死んで、私は──生き残った。
私は自由だ。何をしてもいい……何をしても!
それからは毎日が楽しくて仕方ない。生き残る為に他者を蹴落とし血みどろな世界を謳歌するのが楽しくて仕方なかった。法律も秩序もなく、私を止める者も裁く者も存在しない。
全てが許される。
ああ、素晴らしい……素晴らしいわ!
──だけど、こんなに素晴らしい世界なのに『あいつら』はそれがわからない。
そうだきっと、この世界は私のために……私だけのためにあるんだ。
私は……選ばれた。
私は死なない。
私は無敵。
……だというのに──。
──いいか、選ばれた人間なんて居やしないんだ。特別な奴もいない、この世界では誰もが弱者だ。俺達は『選ばれた』訳でも無ければ『特別』な訳でもない。自分の意思で選んだ……俺も、アンタ達も──。
かつての私と同じように、世界がつまらなくて仕方ないと言いたげな顔であの男はそう言った。なんなんだこの男は、口先から出てくるのは青臭い少年漫画の登場人物みたいな事を言う、何様のつもりなんだ。
どうせ貴方も下らない正義感とウザったらしい倫理観を抱いた偽善者に過ぎない。
ああ、つまらない。どうして貴方みたいなのが生きているの?
不愉快極まりない。
「理解できないわね」
「えっ……?」
無意識の内に溢れた一人言を聞いた新顔の高校生……名前は興味がないから覚えてない。クリーム色の髪をした娘が振り替える。会議室を出た二人の男子生徒が『掃除』と称して何かを準備し始めた。
勝手なことをさせるつもりは無いけれどタカヒト達が従うと決めてしまった以上は私一人でどうにか出来るとは思えない……様子を見るしかない、場合によってはここを離れる選択も──。
「貴女達の目的は何なのかしら」
「……わかりません」
その問いに帰って来た答えがあまりにも間を抜けていたせいで思わず「はぁ?」という声が漏れた。目的がわからないとは一体どういうことなのかしら。
僅かな間だったけれど彼らのグループは10人という人数で行動しながらもその実ほとんどの決定権は二人の男子に委ねられているというのがよく分かった。
ともすればそれは思考放棄に他ならない。
リーダーという存在は他者を惹き付け統率を取る人物にこそ相応しい。
ただ二人の女子が見せたタカヒトとタカシゲに対する格闘技術。ただの女子高生があんなこと出来るはずがない……だとすれば男子二人が何かしらの教鞭を振るったのだろう。
だが彼らも同じく高校生だ。高校生にそんなことが可能なのか?
どうにもあの二人は実態が掴めない。
「待たせたな」
戻ってきた二人の姿を見て、思わず息を飲んだ。私だけではない、タカヒト達や穏健派の連中までもがその異様な姿に驚愕の色を見せる。
先程まで来ていた一般的な私服からとって変わって全身を包む黒一色の服装、硬質なプロテクターを着けた手足。そしてその手にはキッチンナイフやポケットナイフなどとは比べ物にならないほどの大きさを持つ武器の数々。刀剣のようなものや鎌のようなもの、先端が金槌のようになっている1m近くあるステッキのようなもの、大小異なるナイフを何本も全身至るところにくくりつけた……そんな二人の姿。
そしてどこへ向かうのかと思えば多くの感染者が放置されている区画へと足を運んだ私達。一体何をするのかと疑問を抱いていると、徐に二人は封鎖しているコンテナやブロック塀を登り始めた。
「先輩!?」
突然の行動に新入り達の数名が二人を押し止めようとする。何をするつもりなのかという疑問に「言っただろう、掃除だって」などと顔色一つ変えずに答えた。
まさか二人だけで中の感染者を倒すつもりなの?
不可能だ、少なくとも50人は下らない数が居たはず。広い空間で大人数の手で掛かれば何とかなるかもしれないが500平米もない四方が囲まれた空間でたった二人掛かりでどうにか出来るわけがない。
自殺行為だ。そんな二人を手伝うと申し出たクリーム髪の娘とツインテールの娘が名乗りを上げるが却下される。どうしてかと問われた赤みがかった髪の男子が僅かに笑みを浮かべたように思えた。
どこまでも冷たくて影のある表情に、私は微かな胸の高鳴りを感じた。
なんなのだこの二人は……今まで居たどの人物とも違う、まるで地の底から這い出てきた悪魔のような存在。
私は選ばれた人間のはずだ……。
世界に選ばれ、生き残った特別な存在のはずだ……。
──選ばれた人間なんて居やしない──。
もう一度あの男子生徒の言葉が脳裏を過る。私達が選ばれた人間ではないと言うなら……貴方は、貴方達は一体『何』だと言うの……?
私の思考に答えが導き出されるまでに、彼らによって蹂躙が開始された。
目を奪われたとはまさにこの事。隔離区域に踏み入った瞬間、二人の存在を感知した感染者達が次々と襲いかかった。だがその腐敗した手が触れるよりも先に瞬きをする一瞬で何人かの首が綺麗に飛んだ。
音もなく振るわれた金髪頭の男子が持つ剣のようなもの。片腕での一薙ぎ……たったそれだけで首を切断してみせた。腐敗が進み骨肉が脆くなっているとはいえ生半可な力で首を両断するのにはそれなりの力が必要なはずだ。現に私やシノウは細いナイフやアイスピックなどで弱点である頭部にダメージを通すことで倒してきた。
力のあるタカヒトやタカシゲはバットなどで殴打することで感染者を倒してきた。
だが彼らは違う。横薙ぎに振るわれた一撃と共に姿勢を驚くほど低くした赤髪の彼が駆ける。シャトルランで見るようなスタートダッシュなんて目ではない程の脚力と跳躍、蟷螂のような鎌を両手に持ち一瞬で数体の感染者の間を潜り抜けると同時に、僅かにその体がブレたような気がした。
ごくりと生唾を飲む。ピタリと感染者の動きが止まったかと思えばやはり首と胴体が別れバタバタと倒れていく。
力に任せた大盤振る舞いを見せる金髪頭の男子は剣のようなものとハンマー付きのステッキを振り回しながら次々と薙ぎ倒していく。縦に、横に、斜めに、面白いように切り裂かれていく人体。時に先端の金槌やその反対にあるピッケルのような突起で頭蓋を叩き割っていく。
対照的に目にも止まらない速度で駆け抜け、的確に急所のみを切り裂き映画のアクションスターのような現実離れした身体能力を持って縦横無尽な立ち回り。弄ぶように手の内で回転させる鎌を振るい、指の隙間で小振りのナイフを挟むとそれを投擲し見事眉間を穿つ。
互いの事など気にしている素振りは見受けられない、にも拘らず言葉一つ交わさずとも互いの背中を任せるように一定の距離を保ちつつ一体……また一体と感染者を無力化し、どんどん地面を赤黒い血で染め上げていく。
誰も彼もが言葉を失うほどの光景、息をするのも忘れるほどに……いつの間にか私は彼らから目を離せないでいた。
血潮が舞い散る空間で顔色一つ変えない。罪悪感どころか嫌悪感の欠片も感じていないような表情。元人間のそれを躊躇なく蹂躙する無慈悲な殺戮者。
ああ、嗚呼──!
なんて……なんて『素敵』なんだ!
私は間違っていた。何て愚かなんだろう、私は選ばれてなんていなかった。
誰にも、世界にも。
本当の意味で『選ばれた』のは……あの二人なんだわ!
早鐘を打つ胸の鼓動に全身の血が滾る。興奮に息が荒げ、今にも高笑いしてしまいたい気持ちを圧し殺して震える体を両腕で抱き締める。
体が熱い、堪らなくどうにかなってしまいそう。
ああ『欲しい』──あの二人が……!
私のモノにしたい!
私はきっと、あの二人を手に入れる為に産まれてきたんだわ!
墜ちたな(確信
個人的アニメ版で登場しなかった原作キャラクターのCV的な脳内設定。
るーちゃん(門脇舞以)
五十鈴 奏(斎藤千和)
出口 桐子(悠木碧)
光里 晶(赤﨑千夏)
喜来 比嘉子(渕上 舞)
稜河原 理瀬(小林ゆう)
青襲 椎子(本田貴子)
頭護 貴人(中村悠一)
神持 朱夏(日笠陽子)
城下 隆茂(杉田智和)
高上 聯弥(阪口大助)
右原 篠生(小倉唯)
はっきり言って好きな声優のゴリ押し。
え? キチガイ二人の声? ご想像にお任せします(真顔