インフィニット・ネクサス   作:憲彦

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溝呂木
「IS学園。何故俺がそんな所に行ってしまったのか。それはこれを読めば理解できるだろう。本来なら行く必要は無かったんだが、1番最初に動かしてしまったアイツが原因だ。俺自身の原因でもあるがな」


再編集2

闇の塊として作られた織斑一夏の半身こと溝呂木信也。束とクロエを殺害した後に、自分の新たな戸籍を作り出して全く別の人間に成り変わった。そして日本に渡ったのだが、ここである問題が発生した。溝呂木の本体である織斑一夏がISを起動してしまったのだ。

 

理由は不明だがISは原則女性にしか起動できない。男が触ったところで、まとえる筈がない。それが世の常識だ。しかし動かしてしまった。この情報は瞬く間に世界に知れ渡り、全世界同時に第2の男性IS操縦者探しに乗り出した。

 

本来、溝呂木からしたらこれに参加する必要はない。そもそも興味も持たないし、ISは自分の全てが奪われてしまった原因でもある。本体である織斑一夏が動かしたのなら、半身の溝呂木が動かすことは容易に想像できる。だから参加する気は無かった。影から動いても世界を作り替えるには十分すぎる程の力を持っている。しかしそうも行かない理由があった。

 

新しく作った溝呂木信也としての戸籍があるからだ。どの国も戸籍を頼りに一斉調査を行っている。提出されている戸籍から男性をリストアップし、呼び出してはISを触らせる。起動しなかったらリストから除外。シンプルで時間のかかるこのやり方を採用している。つまり、男としての戸籍が存在する限り、検査を受けなくてはならない。と言うことだ。

 

そして、当然溝呂木は起動させてしまう。適当に偽造した戸籍だが、貴重な男性IS操縦者。過去が不明とあらばこれ以上に良いモルモットは居ない。IS学園は溝呂木を管理監視するには打ってつけと言うわけだ。日本の政府は、そんな汚い考えを持ってIS学園に溝呂木を押し込んだ。

 

「それではこれより、臨時入学試験を始めます。と言っても、あなたは男性操縦者ですので、これは実力を測る形だけの試験となります」

 

「あぁ」

 

開始の直後、この試験は1秒も経たずに溝呂木の勝利で終わってしまった。相手の教員は完全に動けなくなっている。綺麗なパーフェクト勝利だ。

 

IS学園の入学試験は大きく分けて3つ。第1に筆記試験。ISの理論や運用規則、国際規約等の最低限の知識を見る。当然IS学園を希望する者は参考資料を渡されて、それを頭に叩き込む。だからこの段階で落ちるのは滅多に居ない。

 

第2に今溝呂木がやっている実戦形式の実技試験。勿論長年操縦している教員に勝つのは不可能なので、これは戦闘開始から5分以上の生存、もしくは教員のシールドエネルギーを15%削る事で通ることが出来る。落ちる者が続出すると言えばここだ。

 

そして第3に面接。ISを使うと言うことは、必然的に国の重要な部分に付いてしまう。それは他国との関わりであったり、1国のIS情勢を変えてしまうほどの権力者と関わりを持つことだ。相手は確実に女性であるとは限らない。むしろ男性であることが多い。ここで女尊男卑を露出してしまえば、国その物の機能が止まりかねない。故に1番重要視されている試験項目だ。

 

これの他に、権力者の娘が受ける特待生コースや代表候補生が受ける候補生コース、国が行った適性試験で高い適性値を叩き出した者が受ける高適性値コースと言うのも存在する。どれも免除される試験はあるが、面接は確実に受けることになる。一般以外では女尊男卑の人間が多くくるため、女尊男卑が発見された場合は1発で失格になる。見抜けない場合も存在するがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~IS学園学園長室~

 

「どうですか?室江先生。貴女の目から見た溝呂木信也と言う生徒は」

 

「学園長……どうもこうも、彼は貴方が昔私に調査依頼をした組織の人間でしょう。諜報部を辞めた私に依頼して、その過程で発見した少年。死神。と言った方が早いでしょうか?」

 

「やはりそうですか。日本政府は過去が不明で後ろ楯の無い彼を良いモルモットとして見ているようです」

 

「でしょうね。じゃなかったらあんな怪しいのを、この学園に入れろなんて命令しませんからね」

 

「えぇ。ですが、ここはどの国からも干渉されない。たとえ日本領土内にあったとしてもね。1つ依頼しても良いですか?」

 

「またですか?私はもう暗部を引退しているんですけど……まぁ、あなたに言ったところで意味無いか……」

 

「よく分かっている様で。彼は貴方に一任します」

 

「つまり、私の生徒になると言うことですね?」

 

「えぇ。何か目的があるように見える。ですが彼には敵が多すぎる。そこで、彼の目的を探りながら、守って貰えませんか?」

 

「生徒になるのなら守るのは当然です。ですが目的を探れと言うのは?」

 

「年寄りの勘です。なにか大きな目的があるように見えますが、その目的とは何か、どんな結末をもたらすのか、それが全く見えない。貴女の確信を疑う訳ではありませんが、もし本当に死神なら、目的をハッキリさせる必要があります」

 

「はぁ……分かりました。ですが、依頼はこれっきりにしてくださいね?」

 

「ハハハ。では、頼みましたよ」

 

「(狸ジジイ)……失礼しました」

 

室江と言われた教師は、学園長からの職権乱用に捕まり仕事を依頼された。暗部の諜報部を辞めた身としては受ける義務も無いし断ることも出来たが、彼女自身、溝呂木については気になるところがいくつもある。だから渋々受けることになった。

 

「溝呂木信也……私の手に負えるのやら……」

 

一抹の不安はあるが、これは仕方ない。受けたからにはやるしかない。しかも依頼人は学園長本人だ。適当には済ませられない。

 

(取り敢えず、しばらくは観察だな。あと当然更識の連中が首を突っ込まないわけ無いからその辺もどうにかしないと……特に今代の楯無はな~……はぁ。今夜辺りにでも釘を刺しに行くか。寮の部屋を勝手に決めてたし)

 

自然と仕事が増えている気がする。すると室江の前を歩く溝呂木を発見した。取り敢えず学園長からは既に色々と言われているので、伝えられることは伝えることにした。

 

「やぁやぁ。君が溝呂木信也だね?」

 

「誰だお前は?」

 

「そんな警戒しないで。君の担任だから。取り敢えず君は2組に編入だから。あと寮生活になるから、必要な物は今の内に揃えといて。これ鍵ね。寮棟2階の307号室だから」

 

「……これ305号室の鍵だぞ?」

 

「あら?こりゃ失礼。後で持っていくから、寮棟1階のロビーで待ってて」

 

それを伝えて、溝呂木を寮棟のロビーで待つように指示した。間違えた鍵を受け取り、溝呂木を送り出す。

 

「……これで、少しは時間を稼げるな」

 

腕時計で時間を確認し、ポケットからもう1つの鍵を取り出す。それは溝呂木の部屋になる307号室の鍵だった。別の鍵を渡したのはわざとのようだ。溝呂木が見えなくなったのを確認すると、別ルートから寮棟に先回りし、通気口を通って溝呂木の部屋の真上に来た。

 

(あらあら。やっぱり居た。こりゃ待ち伏せてるな)

 

溝呂木の部屋には既に別の人間が居た。ベッドは1つしかないため、同居人と言うわけではない。室江が警戒していた更識の人間だ。しかも今代の楯無。

 

(全く……何で首を突っ込みたがるかね~?この様子じゃ、もう片方にも何か仕掛けてるな。そっちはブリュンヒルデにも任せておくか。さてと)

 

通気口を開けて、溝呂木の部屋に音を立てずに侵入。そして楯無の後ろに回り込み、後ろを見られないように拘束。羽交締めになっている上に首も押さえられてるので完全に後ろを確認することはできない。

 

「ちょっ!?誰よ!離しなさい!」

 

「音を出すな。更識楯無」

 

「ッ!?……あんた、何者?」

 

「余計な詮索はするな。そして、溝呂木信也にも関わるな。分かったか?」

 

「どこの誰だか知らないけど、私は更識の当主よ?そんな事が出来ると思ってるの?国からも彼の情報は求められてるのよ?」

 

「はぁ……関わるな。二度目は無いぞ。暗部の人間なら、この言葉の意味と重さは分かってる筈だ」

 

「…………分かった。従うわ」

 

「それで良い」

 

拘束が解けると、すぐに楯無は後ろを振り返るが、もうそこには誰もいなかった。消えた。と言う表現がしっくりくる。これだけで相手は確実に自分よりも実力を持っていることが分かる。「関わるな。二度目は無い」その言葉の意味と重さは裏に関わる者なら誰でも知っている。故にもう首を突っ込むことは無いだろう。

 

楯無が部屋から出たのを確認すると、室江は一応隠しカメラや盗聴器が仕掛けられてないかをチェックする。完全に部屋の安全を確認してから、溝呂木の待つ1階ロビーへと向かっていった。

 

「いや~すまんすまん。鍵を取り違えた様でね~」

 

「……まぁ、仕事を減らしたことには感謝してる」

 

「え?」

 

「何者かは知らんが、礼は言っとく」

 

溝呂木は大人しく鍵を受け取り、自分の部屋へと歩いていった。その直後、室江はさっき渡したフェイクの鍵を取り出して見てみる。

 

「マジか……やられた」

 

鍵にぶら下がっている部屋番号の札に、見慣れない何かが着いていた。鍵を触った一瞬の間に付けたようだ。だが会話の内容では自分が何者かは言っていない。溝呂木も室江の正体は分かっていない。ギリギリセーフだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

「じゃあ今からSHR始めるぞ~。まずは自己紹介からだ。最初は私か。名前は室江香華。趣味はまぁ色々と。将来の夢は~まぁ話すつもりはない。以上。じゃあ出席番号1番から始めてくれ~」

 

室江はなに食わぬ顔で教壇に立ち、SHRを始めていた。そしてお馴染みの自己紹介。1番からそれぞれテキパキと終わらせていく。そしてついに溝呂木の順番が回ってきた。

 

「溝呂木信也。以上だ」

 

「もう少し言うことは無いのか?」

 

「あぁ。授業も受けるつもりはない」 

 

「そうか。ならこのテストを解いてもらう。これを8割以上解くことが出来たら、サボるのを認めてやる」

 

渡されたテスト。それには問題文にですら専門用語がたくさん使われており、入学したての1年生には当然解くことが出来ない内容のテストだ。

 

「それを解けたら、実技以外の授業はサボっても構わない。当然評価を減らすと言う真似もしない。ほかの者もサボりたい時はこのテストを解け。私以外の授業でも条件は変わらない」

 

この教師が受け持ったクラスでは、ずっとやっている事だろう。しかし、今までサボれた生徒はいない。なんせこのテスト、サボりシートは、この学園の卒業試験よりも難しい。これを解けたのは千冬と真耶、そして作った本人である室江だけだ。

 

「ほら。これで良いか?」

 

「ん?もう?……全問正解か。良いだろう。あ、自分が何かの役に就いても、文句は言うなよ」

 

「あぁ。分かった」

 

そう言って、溝呂木は教室を出ていってしまった。

 

「(掴み所が無いな……)はぁ、全員居るときに決めたかったが、クラス代表を早速決める。1年間変えるつもりは無いからその気で居てくれ。自薦他薦は問わない。まぁ、参考に出来るものが無い所から選ぶのも酷な話だし、取り敢えず入学試験の時の映像を見て決めてくれ。1時間目はこのままクラス代表選出に使う」

 

その結果、圧倒的な実力を持っていた溝呂木がクラス代表に就任。本人は特になにも言わなかった。サボりシートの件があるからだろう。




溝呂木
「学園長と担任のお陰で、俺は不自由なく学園で生活できていた。しかし、この時俺は学園生活なんてただの踏み台にしか考えていなかった。だが、あることが切っ掛けでそれも変わってしまった……それは次回以降判明する。それまで待て」

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