「さて、今日はあの授業から少し時間を進めて、俺が本体と接触したときだ。まさか、この俺が戦ったことの無いヤツに遅れを取るとは思っていなかったな……」
あの授業から早いもので1週間経った。この日は学園中が大騒ぎになっている。入学したばかりの専用機持ちの1年生が、クラス代表決定戦と言う名目で決闘をするからだ。男子生徒も居ることから、遅かれ速かれ対決が起きることは予想していたが、この早さは完全に予想外だ。いろんな意味でこの対決は注目されている。
「溝呂木くん。今日の1組の試合見に行く?」
「あ?面倒だ」
クラスメイトの1人が溝呂木を試合のするアリーナに誘おうとするが、溝呂木はいつも通りにサボりシートを提出して授業を全面ボイコット。屋上へと言って気に入ってるポジションを確保して横になった。
「…………眠る気分じゃないな」
いつもはすぐに眠れるのだが、この日はそうでもなかった。周りのテンションに当てられて、知らず知らずの内に自分も1組の試合に興味が出ていたようだ。
「……ここの防犯システムチョロいな。世界一が聞いて呆れる」
どこからか自分で作り上げたノートパソコンを取り出して、殺し屋時代に使ってたソフトを起動してIS学園の防犯システムに侵入。カメラの制御の1部を掌握して試合を観戦し始めた。
「この様子じゃ、コイツも力を手に入れてるな。使った様子は全く見当たらないが」
試合を見て感じたようだ。殺し屋としての勘か、はたまた自分の中に居る死神の力なのか。それは定かではないが、試合を見ていて確信したようだ。
(……本体の使ってる専用機は、完全にコアの人格が覚醒してるな。既に表に出てきてる。と言うことは、サポートされながら戦ってるな。相手のISは……あぁ、亡国が狙ってた機体の試作機か。にしても使い手の技術がお粗末だな~。ビット使ってるときに動けないのかよ)
本体である一夏の動きには特に何も言わないが、オルコットに対してはかなり辛辣なコメントをしている。ルール無用の世界で生きてきた溝呂木からしたら、見るに耐えない戦いなんだろう。頭を抱えながら見ている。
「こりゃ、本体の勝ちで試合終了だな。態々見るほどでも無かったか。時間の無駄だ」
試合内容を見て一気に興味が削がれた。ハッキングの痕跡を消し去り、パソコンをシャットダウン。後は眠れば良い。目を瞑れば数秒で眠りにつける。それにこの日は実技の授業はない。気付けば夕方辺りにはなってるだろう。その筈だ。その筈なんだ。
「……ぎ……ろぎ!」
「ん?」
「溝呂木!」
「凪……夢か」
「溝呂木!!起きて!」
眠りについた溝呂木を叩き起こす様に凪が声をかけてきた。体感的にはそこそこ時間が経っている。最初は夢だと処理してまた眠りにつこうとしたのだが、再度大声でしかも体を揺すられて意識を現実に引き戻される。
「揺らすな。脳が揺れる」
「また寝ようとするからでしょ。それより、早く行くわよ」
「……どこにだ?」
「アリーナ。今日がISの予約日よ」
実はあの実技授業の後、凪は溝呂木にマンツーマンで指導するように頼んでいたのだ。で、ISの予約が取れたら教えると溝呂木は承諾していた。その日が今日だったのだ。だが、当然溝呂木が覚えてるいる訳がない。そんな約束の記憶は脳ミソの中のどこかに転がっている。
「ほら。時間が限られてるんだから行くわよ」
半分寝ぼけてる溝呂木の腕を引っ張って、この時間帯に空いているアリーナまで走っていく。そのまま、凪は仮設された男子更衣室に溝呂木を押し込んでISスーツを投げ渡す。そして凪も更衣室に入って着替える。
「ふあ~あ……あぁ…眠っ」
「はい。早く展開して」
「…………」
打鉄を渡されて受け取るが、展開しようとはしない。そんな溝呂木の様子を見て、凪が急かすが一向に展開する様子はない。
「付いてこい。お前はISの訓練よりこっちだ」
そう言って、人の少ない場所まで凪を連れていく。アリーナの端っこだ。そして凪の立っている場所に線を引いて、そこから数十メートル感覚で射撃に使われる的を設置していく。
「お前が最初にやるのはこっちだ。ISの操縦技術よりも先にな」
「は?」
「その銃は実銃だ。扱いには気を付けろよ」
「重っ!?」
「取り敢えず600発ある。最低でも1マガジン8発は的の中心に当てろ」
「ちょっ!ISの訓練は!?」
「生身で出来ない動きがISでできるか。お前の試験映像を見せてもらったが、刀を使った接近戦はまずまず。室江に中学時代の部活を聞いたが、まぁ剣道部なら出来て当然の動きだった。だが近距離・中距離・遠距離の射撃攻撃は、点数を付けるなら0点だ。ほとんど密着した状態でも当てられてないからな」
一応、訓練をするに当たって溝呂木は凪の入試時の映像を見せてもらった。ついでに中学時代の部活も。その結果この訓練内容に決めていたのだ。まぁ、それも含めて完全に訓練の約束を忘れていた訳なんだが。
「まぁ、普通なら射撃の経験は無くて当たり前。あったとしてもエアガン電動ガンガスガンが良いところ。態々海外まで行って実銃を撃つなんて言う面倒な事をやるのは、趣味が高じて銃にのめり込んだヤツくらい。この国で馴染みが無いのは当然だ。だが、ISでの戦闘なんて接近戦はほとんど無い。上位に行けば行くほどだ。自分の得意な間合で戦うには相手よりも高い実力が必要になる。それに主力の第2世代機は実弾装備が多い。レーザー兵器を積んでる第3世代は試験運用段階。お前も使うなら第2世代の機体になる。どこで戦うかは知らんが、専用機を持たないなら自分の戦える間合いを増やしとけ。当分の訓練は射撃だ。さっさと始めろ」
溝呂木の考えは的確だ。今の凪を成長させる為の訓練内容も。使う銃は違うが、弾道の予測や銃の扱いは各々似通った部分がある。そう言う訳で、自分の愛銃を凪に手渡して基本的な事を教える。
「どっから持ってきたのよ……」
「銃は俺のだ。弾はここの射撃場から貰ってきた。無論許可は取ってある。遠慮なく撃て」
「自分のって……何者よ」
「世の中には知るべき事と知らなくて良いことがある。知らないことが罪になる時もあるが、知りすぎると言う罠もある。これから先この世界で生きるなら、それくらいは見極めろ」
溝呂木の言葉の意味は理解していないが、聞かないと言うことを決め、1番近い場所にある的に狙いを付ける。距離的に言えば5メートル程度だ。溝呂木に言われたように構えて、セーフティーを外して引き金を引く。だが、
「キャッ!……イッ」
「衝撃は逃がせ。肘に力を入れすぎなんだよ。こんな風にな」
弾を入れ直してスライドを引いて撃てるようにする。そして銃を的に構えて引き金を何度か引く。マガジンを1本使いきった。その弾は、全て的の中心に当たっている。1番遠い的で40メートルあるが、それでも中心を撃ち抜いてる。完全に化け物だ。
「別に40メートル先の的に当てろとは言わないし、有効射程距離目一杯の距離を当てろとも言わない。ISを着けてとなれば別だが、生身で15メートル程度の距離は的のド真ん中を撃ち抜ける様になれ」
軽く言っているが、射撃経験なんて一切無い人間からしたら滅茶苦茶厳しい。そもそも実銃の衝撃だ。成人男性ですら仰け反ったり銃が手から飛んでいったり、場合によっては肩が外れたり手首を捻挫するのだ。女性、しかも筋力が十分に発達しきっていない高校1年生の状態では慣れるまで時間がかかる。5メートルでも的に当たれば合格だろう。
「まずは当てることを考えるな。銃の重さや発砲時の衝撃、熱に慣れろ」
「分かった」
凪に撃たせると、溝呂木はどこからか持ってきた椅子に腰を掛ける。そのまま黙って凪の様子を見続けて、時おり軽くアドバイスを入れている。凪の元々の才能なのか、それとも溝呂木の教え方が良いからなのかは定かではないが、しばらくすると重さや衝撃にも慣れてきた様子が見られるようになり、中心には当てられないが的には当たるようになってきた。そして、当てられるようになると次々と遠くの的にも当てるようになっていく。
(中々やるな。やり方教えたら、良い暗殺者になりそうだ)
「ふぅ……どう?」
「良いんじゃないか。後は中心に当てるようにしろ」
「分かった」
溝呂木の指示に了解すると、再び的に向いて銃を構える。後はさっきまでと同じ様に引き金を引いて弾を的に当て続けた。1発1発正確に、丁寧に撃ち込んでいく。次第にそれは的の中心に当たるようになってきて、1番近い的で溝呂木の言ったノルマをクリアした。
(次の段階に行かせるべきかどうか……それとも射撃はできるレベルに留めて、接近戦のレベルを上げるか……どっちがコイツには良いんだろうか……)
様々な選択肢が見えてくる。西条凪という人間のスペックの高さ、武器を手に取り扱い、慣れるまでの速さ、強さを求める貪欲さ。そして何より、力を求める時の目付きの鋭さ。全てにおいて溝呂木に近いものがある。
(才能……なんて一言じゃ片付けられないな。ある種の天才ではあるが、本当に才能だけか?)
「ん」
「あ?」
「撃ち終わった。今日はもう帰るわ。またよろしくね」
溝呂木に銃を返し、凪は借りたISを返却。そのまま更衣室に向かって着替えていった。渡された銃をホルスターにしまい、的を確認しに向かう。
「……恐ろしいのが居るもんだな。40マガジン分全部使うとは」
的の着弾点を見て、思わずその言葉をこぼした。ほんの数時間前までは銃なんて握ったことの無い素人にも関わらず、溝呂木の言った15メートルまでの的の中心に当てているのだ。さてさてこれからの溝呂木による凪育成計画はどうなるのやら。
その後溝呂木は一通り片付けてから部屋に戻った。取り敢えず、凪が使った銃は丁寧に分解してパーツ1つ1つを拭いたり取り換えたりしている。一度にかなりの数を撃ったためか、中身は随分汚れてた。しかしこの作業は溝呂木的には好きな物だから、特に苦しいとかは感じなかったそうだ。
「あ、今夜辺り仕掛けてみるか」
ふと、今夜の内に本体である一夏に攻撃をかけてみようという思考に陥った。まぁいずれは倒さなくてはならない。ならそれは今でも問題ない。何重にもプロテクトを張って自分の正体がバレないようにしてから、就寝時間後にアリーナに来るようにメールを送りつけた。
「……来たな」
アリーナの入り口から見えない位置に体を潜め、自分の本体である一夏が来たのを確認。様子を見るからに呼び出した人間、目的には気づいていない様だ。
「まずは1発」
ダークエボルバーの銃口を一夏に向けて光弾を放った。だがその攻撃は部分展開した白式が雪片で斬る。
「行くか」
ダークエボルバーの両端を握り、一気に引き伸ばす。そして一夏の前に現れた。死神、ダークメフィストが。
「ッ!?誰だ?お前」
「早く変身しろ。メタフィールドを展開しても良いぞ」
「何故その事を!?」
「さっさとしろ。死ぬぞ?」
一夏めがけてもう一度光弾を撃つ。それを避けると、ポケットから短剣の様なものを取り出しす。
「正体を見せてもらうぞ!ウオオオオ!!」
短剣、エボルトラスターを鞘から引き抜くと、一夏の体は光へと包まれて銀色の体へと変化していく。胸にはYの形をした赤いクリスタルが着いている。変身が完了すると同時に、右手を胸まで持っていき姿を変えた。今度は赤い姿だ。
「そうだ。それで良い。早くメタフィールドを展開しろ。ここじゃお前も戦えないだろ」
「後悔するなよ……」
右腕のプロテクター、アームドネクサスから放たれた黄金の光がシャワーの様に降り注ぎ、一夏とメフィストを包み込んだ。光が消えると、2人はアリーナからは消えて、赤土色で空にはオーロラのかかっている幻想的な場所に立っていた。
『来い』
メフィストクローを展開しながら、いつでも攻撃に対応できるように構えをとる。
「ディヤ!!」
「フンッ!ハァ!」
余裕そうな構えをとる溝呂木に対し、強烈な蹴りを放つ。だが難なく受け止められて反撃を受けてしまう。その攻撃は一夏の放った蹴り以上に強烈で、反撃を受けた箇所からは摩擦から生まれた火花が飛び散っている。
「グワァッ!グッ!」
『その程度か?違うだろ?まだまだ力を出せる筈だ!』
「グオッ!あぁ……」
顔を鷲掴みにされ、勢いを付けて岩山に打ち付ける。シンプルな攻撃だが、全身に来るとてつもない衝撃には大きなダメージを受けてしまう。負けじと体勢を立て直して三日月型の光刃を放つ。しかし、その攻撃は溝呂木に当たることはなく、全て避けられてしまった。
「ッ!ハァ!!」
「ッ!?」
その直後、一夏は地面を蹴って全速力で溝呂木に突っ込む。一瞬、この想定外の攻撃に溝呂木は怯むが、最低限の動きで避けて脚を掴み、上空に投げ飛ばす。だがここから一夏の動きが急に変わってきた。手足を大の字に伸ばして勢いを殺して体勢を整える。そして溝呂木目掛けて急降下。旋回しながら大きめの光刃を溝呂木に飛ばしてくる。
「グッ!ウワァッ!!」
「ハァァァ……ゼヤァ!!」
溝呂木が怯むと、上空で急停止して着地のタイミングをずらし、再び急加速して落下の勢いを合わせた拳を溝呂木にぶつけようとする。
「ッ!ハァア!!」
「グワァア!」
だが、伸ばした腕を溝呂木に掴みとられてそのまま一本背負いの要領で投げ飛ばされてしまった。背中から叩きつけれ動けなくなってしまう。それを見た溝呂木は、メフィストクローを一夏の体に突き刺そうとした。だが、
「ゼヤァ!!」
「ッ!?グワァァァァ!!」
体にメフィストクローが突き刺さる直前に、腕を十字に組んで光線を発射。ゼロ距離で放たれた光線は溝呂木を吹き飛ばし、大きなダメージを与えることに成功。しかし、それは一夏の最後の攻撃となった。光線を放った直後に力を使い果たし倒れてしまう。そして作られたメタフィールドも崩れていき、一夏は巨人の姿から元の人間の姿に戻った。その後、溝呂木も変身を解いて人間の姿に戻る。
「はぁ…はぁ…クッ!意外に粘ったな……」
最後に光線を受けた胸を押さえている。今回の戦いは溝呂木に軍配が上がったが、それは僅差。一歩間違えば溝呂木が負けていたかもしれないのだ。
「まぁ良い。さっさと同化を―ッ!?」
「そこに居るのは誰だ?」
「室江……巡回か?同化は次の機会だな」
室江が現れて同化は中止。見つかる前に姿を隠してその場から立ち去った。そして室江は一夏を抱えて医務室へと向かっていく。
「行ったな。まさかこのタイミングで来るとは…だが本体の動き……終わる直前になって急に変わった。最後の攻撃は俺の動きを読んでないと出来ない筈だ……アイツは、俺の動きを知ってるのか?だとしたら何故……」
新しい謎が1つ増えてしまった。一夏の動きが突然変わったこと。一夏が自分の動きを知っていたこと。一体何が起こっているのかは溝呂木には分からない。
溝呂木
「何で本体が俺の動きを知ってるのか。それは、いずれ分かるだろう。ただし、判明するのはまだまだ先の話だ。それまで待っててくれ」
凪がやってたこと、バイオハザードでお馴染みのサムライエッジ(M92F)でやったらどうなるかな~と言う軽い気持ちでやったら、40マガジン27分40秒と言う結果になりました。何も考えずに乱射しただけですけどね。
的当ても10メートル以上離れた位置に置いてやったのですが、15発撃って中心部分に命中したのは3発だけでした笑。下手過ぎて話になんねーな。
そして限界射程距離にある的の中心を撃ち抜くとか、溝呂木ヤベー化け物ですね。そんな設定付けたの自分ですけど。