インフィニット・ネクサス   作:憲彦

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溝呂木
「今日はクラス代表戦。俺と本体のISでの戦いだ。と言いたい所だが、それではない。約束は守らないといけないからな。今日はその光景からだ」


再編集6

あの試合のあと、溝呂木は自身の使った打鉄を返却。凪を連れて別のアリーナへと向かっていく。そして敗北した鈴は、一夏の制服の上着を持ちながら更衣室へとトボトボ歩いていた。

 

「よ。凰」

 

「室江先生……」

 

「どうだ?溝呂木と戦ってみて」

 

「とても敵いそうにありませんでした。何であんなに強いのか、それが分かりません。誰にも負けない。負けられない。そんな自信があったのに……」

 

鈴は溝呂木との戦いで敗北した理由が分からずにいた。代表候補生で専用機持ちと言う傲りは確かにあった。敗北の原因の一端であることに間違いはない。自身の技術的な未熟さもあった。しかしそれだけではない。越えられない圧倒的な壁のような物。越えようとすればするほどに険しくなっていく。まるで巨大な山のような物が迫ってくる感覚。それが鈴を襲っているのだ。試合終了からそこそこの時間が過ぎているが、まだ答えが出てきていない。

 

「ん~。誰にも負けない自信ね~。それは多分溝呂木も同じだよ。ただ、お前とは負けられないの質が違う」

 

「え?」

 

「例えばだけど、誰にも負けない。そんな自信を持っていても、お前はブリュンヒルデである織斑先生を相手にしてもそれが言えるか?実行できるか?全力のブリュンヒルデ相手だぞ?」

 

「それは……」

 

答えはNOだ。どんなに訓練しようとも、どんなに性能の高い機体を使おうとも、どの国の歴代国家代表の中でも最強と名高い織斑千冬相手では、そんな自信は簡単に消えてしまう。余りの強さに教科書にすら出てくる人物でもあるからだ。どんなに自信を持っていようとも、開始1秒未満で倒されてしまうのは目に見える。

 

「無理……です。でもそれは溝呂木も―」

 

「本当にそう思うか?アイツは、溝呂木信也は、相手が織斑千冬でも負けないと言う。勿論織斑千冬だけじゃない。たとえ世界そのものが相手であったとしても同じことを言う。そして勝利を掴もうとする。1回で勝てなかったら2回3回と挑む。誰よりも勝利に貪欲で、倒すと決めた相手は確実に倒す。確かに実力的な差も存在するが、それがお前と溝呂木の違いだ。強くなりたいなら、アイツに教えてもらえ。と言うか、まずはアイツを観察してみろ」

 

「……何者なんですか?溝呂木は」

 

「お前らと変わらないさ。ただ、今までの育ちが少し特殊ってだけだ。多分、今頃第3アリーナで凪と訓練でもしてる筈だ。早く行きな。甲龍のシールドエネルギーはさっき補充したでしょ?」

 

鈴にそう言って、室江は第3アリーナへと向かわせた。2組の代表戦があった影響か、試合に使われたアリーナ以外は結構空いており、使っているのはほとんど2年や3年の生徒だ。

 

(観察しろって……アイツのこと観察しても意味あるの?)

 

室江に言われたことに多少の疑問を持ちながらも客席からアリーナを覗き込む。そこには2年生と3年生の訓練機をまとって訓練をしている生徒。日本刀の様な何かと大型のナイフを使って殺し合ってる2人がいるだけだ。

 

「ん?……ん!?殺し合ってる!?」

 

『はいは~い、そこのラファール使ってる2年の生徒2人。巻き添え食らいたくなかったら道開けて~。西条、授業外の訓練の怪我は保険は下りんぞ~。大ケガしないように気を付けろ~。溝呂木も怪我させないように気を遣え~。殺すなよ~。または死ぬなよ~。死体でも価値はあるからな~。死んだら研究所送りだぞ~。殺しても同じだけどなw』

 

「アンタに人間の心はないのか室江先生!?」

 

笑っている室江のアナウンスが出ると、ラファールの生徒2人はすぐに道を開け、その他の生徒も溝呂木と凪の2人から離れようとしている。そして鈴のツッコミも冴え渡る。

 

「誰が死ぬかよ」

 

「今は殺せないわよ」

 

「ほう。いずれは殺せると言いたいのか?」

 

「超えるのが私の目標!」

 

「そうか。なら」

 

「え?ウオァッ!?」

 

足払いをされて凪が倒れてしまった。そして流れるように両腕を押さえ込み、喉元にナイフの先端を当てる。溝呂木の勝ちだ。

 

「踏み込みが甘い。もっと相手との距離を詰めろ。刀やブレード、体術を使う接近戦は相手の動きを制限することも頭に入れておけ。出せる手を減らせば自分が有利になるからな。後は単純な筋力不足。まぁ力の無い分は相手の力を利用した投げ技や間接技を使ってるから問題はないが、それもじきに通用しなくなる。バランスも悪いからな。訓練内容に筋力アップの運動追加だ。さっさと立て。次だ」

 

ISをまとっても逃げる体勢を取る上級生。端から見れば完全に殺し合いの訓練。こんな滅茶苦茶な2人には代表候補生の鈴でも言葉を失ってしまう。いや、まともな神経を持ってる人間なら誰もが言葉を失うだろう。それほどまでに激しく、1歩間違えば大怪我は避けられない訓練なのだ。

 

(たしか西条だっけ?何者なのよ。普通こんなのに付いていけるの?あり得ないでしょ。て言うか溝呂木的確すぎ!少し気持ち悪!?)

 

それからも溝呂木と凪はほぼ殺し合いを繰り返していき、鈴もそれを大人しく観察し続けている。結局それはアリーナ閉館時間まで続き、室江が2人を止めてようやく終わった。

 

「なんなのよアイツら。スタミナお化け?と言うか何で回数を増すごとに激しくなっていくのよ……本当に人間なの?」

 

「少なくとも凪が人間であることに間違いないぞ」

 

「ギャアアアアアアアアア!!?み、溝呂木!?」

 

「なに幽霊見たみたいな顔してんだ」

 

「急に後ろに現れたから……」

 

突然後ろに現れた溝呂木に驚いた鈴は、驚きすぎて腰を抜かしてヘタッと床に座り込んでしまった。しばらく起き上がれそうには無い。

 

「今日の試合の後、アリーナでずっと俺たちを見てたようだが、なんか用でもあったのか?」

 

「い、いや。用があった訳じゃないけど……何であんなに強いのかなって……見てたら何か分かるかなって」

 

室江に促されたとは言え、強さを知りたかったと言うのは本当だ。観察は方法の1つだが、得られるものは多い筈。と考えていた様だが、全く収穫と言える様な物は無かったようだ。

 

「教えて!何でそんなに強いの?なんで強くいられるの?」

 

「見て考えて聞いて教えを乞う暇があるなら、体を動かしたらどうだ?得るものは見るよりも多い。それに、お前は考えるよりも感覚で身に付ける人間だろ。自分のやり方を忘れるな」

 

「感覚で、身に付ける……自分のやり方……?」

 

「じゃあ~な。野生児娘」

 

「あ!ちょ!?」

 

腰を抜かした鈴を置いて、溝呂木は自分の部屋へ帰っていき、その数分後に鈴は立ち上がって歩けるようになる。だがすぐに部屋に帰る気にもなれず、自販機付近で少し休んでいくことにした。

 

「なんなのよアイツ……試合の時もさっきも。妙な違和感が……初めて会った筈なのに……」

 

まるで昔から自分の事を知っているかの様な口振り。誰かに聞いたかと思えば納得できなくもないが、周りに聞いて回った様な形跡はない。そもそもこの学園で鈴の過去を知っているのは一夏とその姉である織斑千冬だけ。どこの学校に通っていたとかは調べられても、その人間の性格や行動パターンや思考を調べるには限界がある。知ってる人間に深く尋ねれば当然本人にも何かしら言われる。全てがあり得ない事なのだ。

 

「昔どこかで会った?でもあんなのは中学の頃まで会ったこと無いし……中国で?いや無いか。ずっと訓練所に詰めてたから」

 

できる限りの記憶を辿っていく。だが溝呂木らしき人物はどこにもいない。そもそも自分の性格や行動パターン、思考を知ってると言うならそれなりに自分と関わっていた人物だ。それに少なくとも鈴と言う人間と関わったのなら、全く記憶にない。なんて言うことはない。

 

「あぁもう!腹立つ!何なのよアイツは!」

 

余りにも分からなすぎる人間。普通なら気にかける必要はない。だが他人と言う気もしない。それすらも何故かは分からないが。

 

「はぁ……仕方ない。これ使うか。あの老害共に借り作るみたいで嫌だったんだけど……背に腹は変えられないか」

 

そう言って中国の国旗が描かれているスマホに似たよう形をした透明な端末を取り出す。代表候補生になれば全員に与えられる物だ。文字を打ち込み自国のIS委員会に暗号化して送る。勿論その逆もある。どちらからの連絡も120時間以内、つまり5日以内の返答が義務付けられている。

 

「しっかり働いてくれよ~老害……期限守れよ」

 

一部の場所は期限を少し過ぎてから返答するようだ。まぁ今回の鈴の調査依頼に関しては期限よりも早く来ることが予想される。

 

「よし。これでOK。後は老害共が血迷った回答を出してこないことを祈るだけ。さ~てと……部屋に帰って休も~」

 

なんとかいつものペースを取り戻し、部屋に戻ることが出来たのだが、問題や疑問が解決した訳ではない。むしろ悪戯に増えた。どの代表候補生も自国からは男性操縦者の観察やデータの収集、何故ISを起動できたかの原因究明。そして、暗殺やハニートラップによる体の中にある直接的なデータの回収を言い渡されている。世界中の権力者やIS関係者が今喉から手が出る程欲してるものだからだ。その為なら何でもやる。文字通り何でも。質が悪いにも程があると言うものだ。




溝呂木
「全く酷い話だ。まぁ、人を何度も殺してきた俺が言えたもんじゃないけどな。その時代が、環境が、人の考えを変えてしまう。今の時代で考えれば頭のおかしい事でも、一昔前では当たり前に横行していた事はいくつもある。この世界で大人共が子供に命令した酷な任務も、ここでは当たり前ってことだ。因みに、本体と分断された俺だが、1つだった頃の記憶は当然ある。違うとすれば、本体には分断された時の記憶が朧気であることや物の考え方だろう。だから俺はアイツの昔の事を知ってるって訳だ。勿論、本体の方は本体の方で、何かしらの影響は出てるだろうけどな」

と言うわけで、今回はここまで!次回もお楽しみに!感想や評価、お気に入り登録もよろしくお願いします!!
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