ささ、とっとと本編行きましょ。今回は溝呂木編オリジナルストーリーです。
デュノア社の1件が一段落し、学園の機能が再開したこの日、1年2組の生徒達の授業は1段階先の物に入っていった。集合場所は柔道部の道場。だが道着を着ろと言われた訳ではなく、体育着の下にISスーツ着てこいとの指示だった。
「よし。全員集まったな。溝呂木も珍しく最初からいるな~。先生嬉しいぞ~」
「サボるなと朝から付け回しておいて良く言うな」
室江に対して物凄い殺意を向けているが、当の本人は清清しいそよ風に当たっているような態度で全く動じていない。
「さて、ここに来たから皆大体予想してると思うが、今日から格闘訓練に入る。中には武器を使うものも当然存在する。気を抜いてたらISの操縦訓練以上に大怪我を負うぞ」
「せんせ~。何でIS学園なのに生身での格闘訓練があるんですか~?」
「ISでの戦闘で必ず武器があるとは限らない。体術は覚えておくに越したことはない。と言うのが建前ね」
「建前?」
室江の説明から溝呂木は何と無く察したが、溝呂木以外全員頭の上に?マーク。溝呂木からの訓練を受けている筈の凪や代表候補生の鈴も同様の反応だ。
「ISの訓練はスポーツ何て言う優しいものの為にしている訳じゃない。この先起きてしまうであろう国家間や民族間、宗教間等で戦争で戦って生き残る為だ。こんなこと学園の説明で乗せたら入学者減少どころの騒ぎじゃ清まないし、最悪コンプライアンス的な問題で学園が閉鎖になる。だからある程度のレベルまで全員進んだら、この事を暴露して生身の訓練始めるんだよ」
余りにも包み隠さずに室江の口から暴露された内容に、全員完全に引いている。そして室江は隠してたことが漸く言えてスッキリした様な顔をしている。
「あ、言っとくがお行儀の良いスポーツ格闘技なんて教えるつもりは無いからな。確実に相手を倒す、ルール無用の戦い方をする。しっかり着いてくるように。じゃあ溝呂木、前へ」
「なに普通に呼んでんだよ」
「流石にやれって言われてすぐに出来ないでしょ。西条や凰に教えてるお前じゃなきゃ無理なの」
「そうか。なら準備をしてくる。2分待て」
「おっと……これは私も準備しなきゃな」
そのまま2人とも柔道場を出ていき、宣言した2分後に再び現れた。
「えっと……溝呂木君のはTHE・戦闘用って感じはするんだけど、室江先生が来てる服って戦闘服なの?と言うか服なの?」
「それよりも、仮面つけてるけど見てるのかな?」
溝呂木はいつも通り自分の体が隠れる様な黒いロングコートを羽織っていて、何が出てくるか分からない状態なのだが、室江は胴体と前腕に最低限の防具が付いているだけで他はだいぶ薄い。その上顔を仮面で覆っている。辛うじて相手からは目が見えているだけだ。
「武器?も出てるしね」
「と言うか、あれ本物?」
「あ、今回は普通の刀とか色々使うけど、今後の授業ではゴム製のダミーナイフとかを使うから安心しろ。人によっては標的を普通に斬るけど」
(((((どこに安心できる要素があるのよ……)))))
「野性児娘。合図しろ」
「私?!じゃあ最小限の威力で衝撃砲撃つから、それが着弾したらで良い?」
「あぁ」
「いや。修理費……」
「俺の口座から下ろしといてやる。必要のない金が貯まってるからな」
「あそう。私も似たような物だけど……まぁ修理費出してくれるなら良いや。じゃあいつでも撃ってくれ」
教師と生徒の間の会話とは到底思えないが、鈴の衝撃砲を合図とすることに室江は同意。2人は一定の距離を取って合図を待った。
「どっちが勝つと思う?」
「溝呂木。と言いたいけど、こればっかりは」
「そうよね。室江先生も本気モードみたいだし」
コートの中に腕を入れている溝呂木と、背中に付けている刀を抜いて構えている室江。それを見た鈴と凪がどっちが勝つかを予想していたが、今だ実力が未知数の2人故に答えが出ないでいた。
いつでも大丈夫そうな2人を見て、合図の衝撃砲を撃った。そしてそれが床に着弾すると、畳を蹴って一気に接近。室江の刀と溝呂木のナイフがぶつかり合う。お互いの刃が擦れあって火花が散り、完全にお互い手加減なしの全力で戦っている事が伺えた。
「チッ。やりにくいな」
「表情見せてたら勝てそうも無いからね。お前相手に手を抜けると思ってるほど落ぶれちゃいないさ」
「そうかよっ!」
力を抜いて室江の体制を崩し、蹴り飛ばしてから腰に付けたホルスターから拳銃を抜き3発撃つ。一応牽制のつもりではあるが3発中2発は避けられ、最後の1発は真っ二つに斬られた。
「ただの授業で拳銃なんて使うかね……」
「お前相手に手を抜けると思ってるほど未熟じゃないんでね」
お返しと言わんばかりの返答。見ている生徒は本物の刀やナイフや拳銃が飛び出している事に驚いているが、これが戦闘訓練だと自分に言い聞かせて納得していた。
「よっと」
「ッ!?」
5枚の手裏剣が室江から放たれた。簡単に避けられる攻撃をする室江に疑問を覚えたが、方向を変えて背後から自分に向かって飛んできた。
「ワイヤーか!」
「やっぱり気付かれたか。でも簡単に避けられると思うなよ」
更に手裏剣を追加。背後と前方の両方から襲ってきた。逃げ道は上だけ。しかしそれを選択すれば狙い撃ちにされる。そして持っている武器的に片方を受け止めるので精一杯。
「オラッ!」
しゃがみこんで畳を叩き盾として使う。背後からきた手裏剣は畳で受け止め、前方から来たものはナイフで弾き飛ばした。
「借りるぞ」
畳に刺さった方の手裏剣を抜きとり、ワイヤーを切って室江に飛ばす。室江はそれを避ると見せ掛けて剣先を手裏剣の中心の穴に器用に通して再び溝呂木へと返した。
「スピードは大したことないな。撃ち落としてやる」
拳銃を使い飛んできて手裏剣を撃ち落とし、確実な一撃を叩き込むために走り出す。だが、
「フゥゥゥゥゥゥ!!」
「ッ!?(炎!?)」
あと少しで攻撃できる距離になるのだが、突然炎が飛んできた。手にライターを持っている事からすぐに種は理解することができる。
「曲芸に付き合うつもりは無いぞ」
「マジックショーをやってるつもりは無いさ。でも意外に使える技術だぞ?もういっちょ」
「クッ!(炎と武器合わせて来やがったな!)」
クナイが炎の中から大量に飛んでくる。これには溝呂木も対応が遅れてしまい、直撃と言う最悪の事態は避けられたが何本か体を掠めた。
「成る程……行動範囲を狭めやがったな」
「当たっちゃったのはゴメンね。でも、流石にこの道場を縦横無尽に動かれたら面倒だからさ」
天上、壁、床に不規則に突き刺さった大量のクナイ。それを見て苦虫を噛み潰した様な顔をしている。
「?溝呂木君、なんであんな顔してるの?擦っただけで特に何かあった様には見えないけど」
「ワイヤーよ」
「ワイヤー?」
「クナイの後に細いワイヤーを括り付けて張り巡らして、行動範囲を狭めたのよ。あれじゃ大振りの攻撃はできないし、下手に動き回れば体にワイヤーが絡まって動きを封じられる。溝呂木にとっては最悪の状況よ」
凪の解説で何が起こってるか分からない生徒達は漸く理解することができた。お陰で溝呂木の状況が分り手加減なしで戦っている室江にまた引いた。
「さてと、ここからどうしてやろうか」
「こうしてやる」
「ングッ!?」
ナイフをもう1本取り出し投げ付ける。すると室江は何かに拘束された様に身動きが取れなくなり倒れてしまった。
「お前がワイヤー使ってるのに俺が使わない訳ないだろうが。動きを制限した事で油断しただろ。もういいだろ?」
「はぁ、まさか生徒に押されるとは」
この状況に少しショックを受けているが、シレッと拘束に使われたワイヤーから抜けている辺り、本当の実力は定かではない。そして溝呂木も危ない場面はあったものの、まだ余裕があるようにも見える。
「結局、2人して規格外ってことね」
「そんな人に鍛えられてるのに死なない私達も、だいぶ人間外れてきた気がするけどね……」
「さてと。お前達にはこれくらいできる様になってもらうからそのつもりで。指導は私と溝呂木の2人でやる。で、溝呂木は西条と凰の指導ね」
「結局いつもの構図かよ……」
はい。今日はここまで。次回もお楽しみに!感想やお気に入り登録もよろしくお願いします!