深淵の剣   作:足洗

1 / 43

息抜きに書かせていただきます。
アニメ本当に良かった。




1話 彼はイ物

 

 

 目覚めは扉を叩く音で始まった。

 叩く、などという程度ではない。そのまま殴って破らんばかりの勢いだ。

 

「おい! いい加減に起きろ!」

 

 扉越しに声を聞けば、もはやその怒気に疑い様はない。

 寝床から起き上がり、よたつく足取りで玄関まで歩く。途中何度も床に転がした酒瓶を蹴り、その度それらはきんきんと涼しげに鳴いた。二日酔いの頭では、音色は如何にもぎんぎんと劈いたが。

 扉を開ける。白んだ陽光に目を刺され、暫時眩む視界の中、仁王立ちするその少年を捉える。表情は見るまでもない。なまじ端整な顔立ち故に眉間に寄った皺が目立つ目立つ。

 

「よぅジルオ。今日は随分早いな」

「寝惚けるのも大概にしろ。集合時間まであと五分だ」

「集合……?」

 

 少年の言う通り、回転数の上がらぬ微睡んだ頭が少年の言葉を反芻する。

 集合、集合、集合、今日の予定は。

 

「……あぁ、探窟か」

「たっぷり一分間消費した」

 

 眉間の皺が一層深くなる。

 扉を開けた時点で気付いていたことだが、サバイバルジャケットを着込み石灯付きヘルムを被り、がっちりと梱包された背嚢を負っている。胸元から下がった紫の笛――月笛、探掘者師範代という組合認定の証を見ればなるほど、それは探窟への完全装備に他ならない。

 

「まぁ、その、なんだ。気ぃ付けて行って来い」

「お前も来るんだ!」

 

 孤児院の子らを躾けているだけはある。腹から放たれた叱責の声は我が鼓膜と酒精に浸かった脳を存分に揺さぶった。

 この頭痛と目眩、第一層の上昇負荷にもおさおさ劣るまい。

 

「三分で支度しろ。苦虫の腹を炒った気付け(・・・)を無理矢理食わされたくないならな」

「そいつぁおっかねぇ。二分ほど待ってくんな」

 

 顔を洗い口を漱ぎ髪を適当に撫で付ける。

 雑嚢を腰に革帯で留め、ナイフを装束の各所へ納め、最後に刀を佩く。

 それだけで準備は万端整った。

 

「……」

「何か言いたげだな」

 

 難しい顔に呆れを滲ませてジルオは溜息を零す。

 

「軽装が過ぎるんだよ、お前のそれは」

「使わねぇものを持ち歩いても仕方あるまい。二層より降る時はも少し増えちまうが」

「っ、当たり前だ! ……はぁ、そんなだから未だに蒼笛なんだよ、お前は」

「ははは違ぇねぇ!」

 

 からからと笑声を上げて少年へと向き直る。

 いよいよ怒り顔に拍車が掛かっていた。

 

「すまんすまん。そう怒らんでくれ、な?」

「はぁぁあ……」

 

 肺腑の空気を全て排出するかの勢いでもう一つ溜息を吐くや、ジルオはさっと背を向けた。

 

「行くぞ、時間がない。それと笛はどうした。一番忘れてはならんだろうに」

「おぉ、そうだったな」

 

 テーブルに放っていたそれを摘み、帯に括る。

 扉を見やれば、少年は既に歩き出していた。時間が無いとの言はどうやら比喩でも脅し文句でもないようだ。

 後ろ手に扉を閉めて、その背中を追った。

 

「それと、さり気なく限界深度を越えている件は追って沙汰する」

「ツチバシ二羽でどうだ」

「三羽だ」

 

 晴天。

 抜けるような蒼が視界を埋め尽くす。振り返って仰ぐ。狭苦しい我が(あば)ら家が、この透き通った空の下に在ってはもはや木っ端も同然である。

 スラムと市場の境、街から“中心”へとせり出した岸壁に己の(ねぐら)は建っている。扉を開けて少しばかり進むだけで、眼下にその“大口”を望むことができる。

 

「ジル、迎えに来てくれんのは有り難ぇがな。あんまりここいらにゃ近付くんじゃねぇよ。ガキ共が真似しちまう」

 

 境、などと表したが、ここはどちらかと言えばスラムの範疇である。治安など語るに及ばず、無法者(ならずもの)共が温床としていることは周知の事実。

 おいそれと踏み入って犯罪に巻き込まれた、などと笑い話にもならない。

 

「なら、お前も孤児院に住み込めばいい。そうすれば俺もこんなところにわざわざ足を運ばなくて済む」

「おいおい堪忍してくれ」

「ああそうだそれがいい。院長もきっとお喜びになる」

「かっ、そいつぁウレシイねぇ。鳥肌が立つくれぇよ」

 

 冷めたその横顔に切れのある皮肉が最高に映える。

 相変わらずの少年に安心するやらたじろぐやら。

 ベルチェロ孤児院、探窟組合が認可し、管理・運営する孤児院の一つ。己やこのジルオの生家と言って差し支えあるまい。

 ただ常々、この孤児院という呼称には違和感があった。

 

「教練所と言った方がしっくりくるんだがな」

「まぁな……だがこの(オース)で必要とされる人材も、孤児があり付けるまともな仕事も、大凡一つしかない」

 

 表情を変えず、少年は淡々と事実を語った。

 探窟家を教育し訓練し、養成したそれらを輩出する。いずれ名のある英雄と為りて、人民を、国を潤す偉業を、宝物を、発見を持ち帰る為に。

 

「はっ、穴に落ちて死ぬのが仕事か」

「ラーミナ」

 

 名を呼ばれ、立ち止まる。いつしか少年を追い抜いていたことに気付く。

 吹き上がった気流が己と少年を叩き、同時に其処彼処で白い花弁――トコシエコウが舞い踊った。その様、雪と呼ぶには燦々と眩く、骨と呼ぶには美し過ぎる。

 儚さからは無縁に思われた不屈の花は、しかし呆気なく深淵へと落ちてゆく。何もかもを呑み下す奈落へと続く咽喉(くち)

 骸も、命も、魂さえ。数多の、無数のそれを喰らい殺してきた巨大な(あな)

 

 ――――アビス

 

 少年はじっと己を見据えた。静かな眼差しだった。白銀糸の髪が揺れるばかりで、それ自身はまるで彫像の如く静謐している。 

 しかし瞳には物問いたげな色が揺蕩い、見え隠れした。

 齢に不相応なほど冷静で賢しい彼の、少年らしさのようなものを久しぶりに垣間見た気がする。それに少し、安堵を覚えた。

 

「……お前は昔からアビスが嫌いだったな」

「嫌っちゃいねぇさ。嫌っちゃいねぇが……」

 

 続く言葉は、形にはならなかった。するだけ野暮、というものだろう。

 

「いいじゃねぇかこの話は。おめぇさんの言う通り、昔からだ」

「……」

「さっさと行こうぜ。こりゃ遅刻確定だな、ははは」

 

 笑声に応えはなく、少年と二人黙して歩いた。

 ふと、肩口辺りにある少年の頭を見る。随分、大きくなった。

 背ばかり伸びた己とは違い、ジルオは人間として立派に成長を遂げている。それを見届けるべき者は、本来己ではない筈なのだが。

 

「ライザめ」

「? 何か言ったか」

「いんや」

 

 素知らぬふりで空を仰ぐ。かの女がそこに居ないことなど重々承知していながら。

 

「ガキ共に変わりはねぇか」

「相変わらずだ。皆元気が有り余っている。特に、あの悪戯娘がな」

「ははっ、誰に似たやら……や、瞭然よな」

「ああ、昨日も『もっと深層へ行かせろ』なんて駄々を捏ねてきた」

 

 そして、すくすくと育った御転婆がもう一人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深界一層“アビスの淵”。

 地上から約1350メートルまでを指すアビスの最上層。同時に、見習い探窟家たる“赤笛”達の限界深度であった。

 切り立った崖の下、岩壁には各所に洞穴やせり出た岩盤、一際大きなものでは石の方舟なんてものも突き出ている。

 こういった僅かな平地と空間が鳥獣の巣になり、そして己にとっては絶好の足掛かりとなった。

 

「やるかい」

 

 崖の上から大洞を見下ろす。“力場”とやらの影響で可視光が遮られ、一定の深度からは靄が掛かったように見通すことが叶わなくなる。

 観測を拒む正体不明の現象。深淵を深淵足らしめる元凶。

 まあしかし、今の己にとってはただ鬱陶しい霧か靄でしかない。目当ては穴の奥ではなく、淵を飛び回っている。

 

「ギャアッ! ギャアッ!」

 

 甲高く喧しい鳴声を上げる鳥が、壁面すれすれを滑空して横切った。鳥だ。各所の身体形状は鳥に相違ない。

 翼長は優に3メートルを超え、特徴的なのは頭頂から嘴までを覆うその堅固な頭骨。形は鳥のようだが、全体に見られる印象は古い図鑑で見た恐竜のようだ。

 槌嘴(ツチバシ)という。アビス浅層に生息する生物の一つ。

 そして、本日の獲物でもある。

 

「さてさて」

 

 後ろ腰に装備したリールと巻かれた“糸”と、その先に取り付けたフックと外れ止めを検める。問題無し。

 傍らに生えた樹、その一本の枝にフックを投げ付け、巻き付ける。かちり、と外れ止めが嵌った。

 引き付け、強度を見る。問題無し。

 眼下に障害物は皆無。

 一歩踏み出す。

 右脚は空を踏み、沈み――落ちた。

 視界が、それを埋めていた景色が加速する。あたかも己を置き去りに、天へ昇って行くかのように。

 実態は真逆。己が地の底へ墜落するのだ。

 程なく、“糸”が想定距離まで伸びきる。その瞬間にリールを停止、“糸”が一気に張り詰めた。

 

「ふっ」

 

 落下の勢力に乗った自分自身の重量が革帯越しに衝撃となって身体に跳ね戻る。締め上がる胴体と両脚、慣れた感覚だった。この程度の高度ならば何ほどの支障もない。

 吊られた振り子同様に、壁面間際をすり抜ける。

 狙うツチバシの飛翔進路――予測通り。残り一秒半で接敵。姿勢制御、両脚を揃えた。

 

「ギャィイ!?!?!?」

 

 足下がツチバシの背面に突き刺さる。足応え(・・・)は十二分、背骨を砕いた。

 間近に見ればなお分かる巨体、それに鉤縄を放り巻き付ける。足下で痛みに暴れる怪鳥は、好都合にもそれ自ら縄に巻かれていった。

 飛翔体勢は崩れ、羽ばたくことすら儘なるまい。もう一瞬で重力の手が鳥を持ち去る。その前に。

 鉤縄のもう一方、二つ目の鉤爪を崖の壁面目掛けて擲つ。狙い目は見付けていた。大樹の根が滝のように生えた岩壁、嫌でも鉤爪は引っ掛かる。

 巨体を再度蹴り付け、離脱。

 そのまま大鳥は奈落へ落下しようとする、が体に巻き付いた縛縄がそれを許さない。

 

「ギャッ!?」

 

 緊張する縄。

 同時に、縄に雁字搦めになった鳥が落下の衝撃でさらに締め上げられ、悲鳴を上げた。

 身を翻す。

 振り子の慣性により、我が身は再度同様の軌道をなぞる。のみならず、リールを伸長し吊るされた怪鳥に高度を合わせた。

 止め。

 腰に佩いた刀の柄を握る。

 接近。接近。接近。

 間合――今。

 

「シィッ!!」

 

 歯列から呼気を吐き散らし、擦れ違いに一閃。一文字の軌跡を描く。

 鳥の嘶きが途絶え、背後でぼとりと頭が落ちた。固い頭骨が岩肌を跳ね、砕き、硬質な音色を奏でた。

 吊られた鳥は、切断面から夥しい量の血を垂れ流す。期せずして血抜きの要が済んだ。

 早い内に鳥を持ち帰らねばならない。

 そして、約束ではもう二羽狩らねばならんが。

 

「……今日はやけに静かだな」

 

 小さな足場に降り、“糸”を撓ませる。外れ止めが開く手応え、リールを回して“糸”を巻き取る。

 羽虫を除けば、周囲に飛翔体の影はない。

 思えば、このツチバシを見付けるのも随分と時間を食った。

 

「どうも妙だ」

 

 再認識でしかない独白。

 しかし応えは、あった。

 

「!」

 

 大気を震撼させる轟き。

 周囲の岩壁をそれは反響した。

 鳴声。それも尋常な大きさではない。音量はもとより、これを発したであろう存在の体積、質量が。

 “糸”を投げる。直近の、崖から突き出た木々へ。再三の振り子の要領だ。滑空し推力を得、次の足場へ。足場から“糸”を投擲、さらに跳躍、滑空、次の――――

 そうして渡り蜘蛛の真似事を続けること数回。

 捻れた岩窟の向こうから突如それは姿を現した。

 

「ベニクチナワ……?」

 

 紅い皮膚、夥しい疣、(くちなわ)の名に相応しい無数の牙を群生(・・)した顎、ツチバシなど比較にもならない巨大長大なる躯。それが体表側面の皮膜を広げ、目の前を飛翔している。

 何故。

 疑問が間欠泉の如く噴出する。こいつは本来深界三層“大断層”を生息域としている筈だ。何故このような浅層に現れた。

 “樹住まいの化石群”と通称されるこの場所には、足場となる横穴に事欠かぬ。その一つに着地し、大蛇の進路を見る。

 彼奴はこちらに気付く様子もなく、真っ直ぐ一箇所を目指していた。到達点には――人影。崖の上に一人、狙いは小さな子供だ。組合指定の探窟装備、首元でちらと見えたのは赤の笛。

 認識するより早く身体は動いていた。

 間に合うか。

 直進する蛇とそれを追う己。速度差は然程のものでもないがこちらは後追いになった。ベニクチナワが、早い。

 

「っ」

 

 舌打ちしたところで速度は変わらず、距離も縮まりはしない。

 蛇が獲物に狙いを定める。静かに、息を殺して不意を衝く為の予備動作。一拍の間。しかしまだ、足りない。

 蛇腹が波打っている。もう半瞬で襲い掛かる。

 子供は。背を向けている。掘削作業に夢中で蛇の接近にすら気付いていない。

 その背中には、見覚えがあった。

 

「ナットォ!!!」

「え?」

 

 あわ良くばこちらに気を引けないか、そんな心算で発した声も空しく、大蛇はナットに飛び掛った。

 その直前に声に気付いたナットは、今まさにクチナワの存在を認識した。

 

「うわぁあああああああ!?」

 

 反射的に少年が逃げた先には、採掘品を詰めたのであろう背嚢があった。

 蛇の顎が喰らい付き、崖を抉る。

 ナットは――

 

「ひぃっ!?」

 

 驚くことに無事だった。

 ベニクチナワが喰らい付いたのは、ぱんぱんに膨れた背嚢の方であった。土壇場で標的に迷った末、でかい方を選んだということか。遺物や鉱石を腹に収める習性がある、そんなことをジルオが語っていた気もするが。

 今は一切合財どうでもいい。

 ようやく、到達した。

 着地と同時に小さな身体を抱え上げる。

 

「ミナ兄ちゃん!?」

「喋るな、舌ぁ噛むぞ!」

 

 入り組んだ化石群を疾走する。子供一人分の重さは、然したる障りともならない。しかし。

 

「ヴォォオオオオオオオオオ!!」

 

 背後で鳴り響く咆哮、轟音。障害となる岩を粉砕したのだ。

 蛇の化物は、その(なり)に相応しい爬行で追随してくる。

 

「わぁあーー!? くるくるきてるきてるきてるよぉ!?!?!?」

「おうおう見んでも分かる!」

 

 肩口で大騒ぎする少年を宥めながら、退路を探す。この場合、ナットさえ逃がしてしまえればそれでいい。

 後は始末(・・)すれば事は済むからだ。

 しかし、正統な爬虫類の系譜でもあるまいに、蛇の呼び名に恥じぬ執念深さで彼奴は我々を追い続ける。

 あの巨体では通行不可能な道幅を順次選んでいるが、それを無理矢理割り広げ砕くのだ。

 

「どうするかねぇ」

「んな暢気に言ってる場合かよ!?」

「いやぁ本にその通りなんだがな」

 

 背後に庇うものを置いて勝を得られるほど、深淵の生物共は甘くはない。

 だがどうにも、一対一を所望できるような状況でもない。最適な状況を設え損ねた己の手落ちだ。

 

「よし、ナット」

「え? は?」

 

 石柱を抜け、谷間を行き去り、岸壁を二つ三つ跳び越えた辺り。お誂えの場所を見付けた。

 

「着いたぞ」

「ここ袋小路じゃねぇか!!?」

 

 見たままの感想を叫ぶナットを下ろし、壁際へ寄せる。背後と左側面は壁、右側面は切り立った崖、崖の下は言うまでもなく奈落へ一直線。

 そして前方には無論のこと、ベニクチナワが迫ってくる。

 自らも進み出る。戦闘距離から可能な限りナットを遠ざける為に。まあ、気休め程度ではあるが。

 

「っ、ミナ兄ちゃん……!」

「恐いなら目ぇ瞑って耳塞いでろ。なぁに……一分で済む」

 

 そうして刀を抜いた。音の伴わぬ鞘走り。陽光を刃金が照り返す。

 

「ヴッ……!?」

 

 クチナワはなおも這い寄って来る。しかしそこに先程までの苛烈な勢いは無い。

 荒い息遣いの中に高まった警戒感を嗅ぎ取った。

 

「なんだなんだ、手前がびびってどうする。えぇおい?」

「ヴォォオオオ……!!」

 

 言葉など、まさか通じてはおらんだろうが。

 無い筈の二の足を踏んでいる蛇の化物に、切先で手招きをくれてやる。

 さあ、来い。来い。来い。

 

「こ」

 

 ――――ピィィィィイイイイイイイイ

 

「!」

「ヴァ!」

 

 突如、耳を劈く。

 頭上から音が降ってきた。

 反射的に振り仰いだ先で、風に踊る――金糸の髪。

 華奢な体躯を探窟装備で包んだ娘。丸眼鏡の中で碧い瞳が光る。

 

「リコ」

「ヴォヴォォォオオ!!」

「っ!」

 

 頭上の存在に気付いたのは対手も同じ、どころか彼奴は瞬時に獲物を選別した(・・・・)

 より脆弱で、喰い易い方を。

 蛇体が跳ね上がる。今度こそは一直線、リコを。

 

「ガキが!!」

 

 何を血迷った。

 沸騰した脳で、冷めた理性が思考する。否、血迷って見えたのは一体どちらだ。

 刀一本でベニクチナワに挑もうとする愚か者。正気を疑われて当然。

 あの娘は、己を助けたのだ。

 

「ええぇい!」

 

 忌々しさに息を吐く。腰から“糸”を引き抜き、頭上高く擲つ。

 手早く殺らなんだ己のまたしても手落ちだ。

 高さは10メートルを越えない。“糸”を頼りに駆け上る。上昇負荷も皆無だった。

 またも蛇の後塵を拝するとは。

 無茶な娘だ。無謀な。馬鹿なことを。

 全く以て――勇ましい娘だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。