リリカルなのは ANOTHER LOCUS   作:ウルフ中隊

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あらすじの通り、A's以降のストーリーになります。
今回は原作と分岐した状態でストライカーズ時点まで進んだ話になります。
原作にはない、私個人の独断と偏見によるカップリングがありますのでご注意ください。
1話に納めるつもりでしたが、無理でした。
今回はクロノとなのはに焦点を当てた話になります。


第1章
PROLOGUE


 XⅤ級次元航行主力戦闘艦『クラウディア』。

 時空管理局が世に送り出す、最新鋭の戦闘艦だ。現在、十数隻が就役しており、現在も建造中ないし建造計画があり、前級であるXⅣ級から主力の座を譲り受け、これを受けて前々級のXⅢ級が順次退役していっている。

 時空管理局が保有する艦船は、大きく分けて2種類。戦闘艦と巡航艦。これは『海』と呼称される時空管理局次元航行隊の組織における、2つの大分類と関係している。

 次元航行隊は大きく分けて、主力艦隊と警備艦隊に分かれる。第97管理外世界における地球の日本で言えば、海上自衛隊と海上保安庁が近いだろう。重武装の軍隊と軽武装の警察。

 『クラウディア』は主力艦隊に属し、複数存在する艦種の中でも大型かつ重武装の艦船である。艦隊旗艦としての役割もあり、『クラウディア』も複数の艦隊を束ねた艦隊群の旗艦を務めていた。

 

「らしくもない……わけではないか」

 

 当然ながら、その艦長ともなれば自らの艦のみならず、艦隊の指揮官も兼ねる。時空管理局では、階級が准将以上、かつ艦隊の指揮権限を持つ者を『提督』と呼称していた。

 『クラウディア』はミッドチルダという、次元世界のまさに中心となる世界とその周辺を管轄する第1方面隊所属の第2艦隊群総旗艦。旗下に置く艦船も護衛戦闘艦・巡洋戦闘艦・高速戦闘艦などが、揃って新鋭艦で固められている。

 

「恭也さんも似たようなことをしたことがあると言っていたが、これを聞いたら、さてどう言うか」

 

 大方、『そんなところまで俺に似なくてもいいだろうに……』と嘆くのだろう。その後は説教か。さて、何時間コースになるものやら。

 『クラウディア』の艦長室にて、この部屋の主たる青年は、読んでいた報告書を机に置き、すっかり冷たくなってしまっているコーヒーの入ったカップを手にし、少し休憩に入ろうとする。

 

「む?」

 

 口を付ける寸前、目の前にモニターが現れた。軽快な着信音と共に。

 

Chrono-kun, Are you there?(もしもし、クロノくん?) It's me, Nanoha!(なのはだよ!)

 

 ピロリロリン、なんて擬音がこの上なく似合いそうな着信音の後に、そんな可愛らしい呼びかけが続く。次元航行隊の提督らしからぬ、そしてそれ以上に、昔ほどではないとはいえ相変わらず『堅物』と仲間内では称される、この『クラウディア』艦長たる彼らしくないものである――それは誰もが等しく下すであろう評価だ。

 いくら相手が相手とは言え、これは勘弁願いたい。それが青年の本音だ。これが街中で一度鳴ってしまった際は、他人のフリをしたこともある。悪友たちの前で鳴ってしまったときも。ただし、名前を出して呼びかけられているので、悪友たちの前では知らぬ存ぜぬは通用せず、思いっきり笑われ、からかわれたが。

 それでも結局消さない。消せない。それが彼の答えでもある。

 

「応答する。S2U」

『Rojer』

 

 別の女性の声――システムに設定しているAIが応えると、モニターが切り替わり、1人の女性を映し出した。

 

『あ、ハラオウン提督。お忙しいところ申し訳ありません。今少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?』

「ああ、問題ない」

 

 青と白を基調とする、時空管理局内外で憧れの的たる職業を示す制服を着こなした彼女は、先ほどのコール音声とまったく同じ声。

 彼の返答に、時空管理局が誇るエースオブエースの異名を持つ彼女は、仕事の時の凛々しい顔を途端に崩し、満面の笑みを浮かべた。が、それも一瞬。コホンと1つ咳払い。元の凛々しい顔に戻す。

 

「無理するな」

『……何のことでしょうか?』

「気を張る必要はないと言っているんだ」

『職務中ですので』

「そうか。公私混同をしなくて感心だ。しかし、それなら個人間のデバイスを通さず、機動六課から『クラウディア』へかけてくるべきだな」

『そ、それもそうでした……』

「そもそもだ。君が設定してくれたこの呼び出し音声の後に真面目に応答しろと言われてもな」

『あう……』

 

 あの親愛がこの上なく籠もった音声の後に真面目な会話を真面目な顔で交わせというのは無理がある。溜息と共にそう伝えると、画面の先で彼女は赤くした頬をさらに染めて俯いた。彼からすれば、いやいや君が自分で設定したんだろうに、というものなのだが。

 

「相変わらず、完璧そうでどこか抜けているな、君は」

『返す言葉がございません……』

 

 エースオブエースが簡単に言い負けている姿は、おそらく話に聞く彼女の今の教え子が見たら唖然とするだろう。

 まあ、もちろん私的な通信をしているところなど、見せはしないよう注意していることは間違いないし、さすがにそこまで彼女も抜けていない。

 

『ごめんなさい、こんな時間に』

 

 気を取り直したか、彼女は申し訳なさそうに話を切り出した。視界の端に移る時計は16時30分を少し過ぎたところを示している。まだ普通なら職務時間だ。執務室にかけたんだけど繋がらないし、と続ける彼女はきっと『クラウディア』なのだろうと思ったようだ。ならなぜ『クラウディア』にかけなかったのか。

 

「構わない。実はもう定時を迎えていてね」

 

 時空管理局は軍隊としての面もあれば警察としての面もあり、そして裁判所としての面もある。

 特に軍隊色が強い武装隊や次元航行隊は、民間と違って定時と呼べるものはない。有事となれば休息時間はあっても常に臨戦態勢だし、平時でもいつスクランブルで呼び出されるかわからない。だから交代制で常に備えているし、一応の交代時間を迎えたと言っても、気を抜けない。彼は生真面目なこともあり、人一倍気を張り詰めるのだ。多くの部下、多くの艦船、強大な戦力を率いる身でもあるからこそ、尚更だった。

 

『じゃあ、いいのかな?』

 

 何が、とは聞かない。そのくらいはもう長い付き合いだ。「何度も言うが構わない」と返す。

 

『それじゃあ……クロノくん』

「ああ。どうしたんだ、なのは?」

 

 凛々しい声はとうに引っ込み、本来の彼女の――高町なのは個人の口調が現れる。彼もまた、彼女のファーストネームで呼び返した。

 

『ふふ、昔のクロノくんなら職務時間を外れたからって気を抜くなってくらいは言ったのにね』

「……いつの話をしてるんだ、君は」

『ん~? そう古くない昔だよ?』

「君やロッサ……そのあたりに影響を受けたんだろうな。参ったものだよ」

『む。人のせいにしないでください』

「拗ねないでくれ。別に悪影響とは言ってないだろう」

 

 歳が歳なのに、頬を軽く膨らませても『歳を考えろ』という言葉が出てこないくらい可愛いと思えるのだから、高町なのはという女性はいまだ『少女』と呼んでも差し支えないほど純粋で可愛らしい。まあ、一言で言えば童顔。そう呼ばれると怒り出すのは知っているので言わないが。

 

『言ってないだけで、実は思ってるんでしょ? そうやってからかってくるのがクロノくんだもん』

「ふむ」

『ふむ、じゃないよ! クロノくん、ホントにおにーちゃんに似てきたね!』

「この上なく光栄だ」

『褒めてないよ! そんなところまで似なくていいって言ってるの!』

 

 あの人に近づくためにはと確かに思っているが、何でもかんでも真似すればいいものでもないこともわかっている。とは言え、別段これはあの人を真似ているわけではないのだ。単純に、面白い。義妹のフェイトをからかうのも面白いのだが、なのはを弄るのも別の楽しみがある。妹をからかうのは兄の特権とあの人は言っていたが、同感だ。それと共に、恋人をからかうのは恋人の特権だろうとも。

 しかし、なのはの言葉を聞くに、どうやらいらないところまであの人に似てきてしまっているのは、どうやら2人揃ってらしい。我ながら恭也さん信者だよなあと思いながらも、これはもう如何ともし難い。そもそも直す気がないのだ。それはなのはとて同じことだろう。

 

「で、用事は?」

『か、軽く流されてる……ショックです。うう……用事というか、まあ、1つはすでに叶ったからいいんだけどね』

「? 何かした覚えはないんだが……」

『い、いいの! こっちの話だから!』

 

 顔を見たかった、声を聞きたかった、なんて言えない。

 そんなボソボソとした呟きは、残念ながらクロノの耳には届かず、当の本人は飲みかけだったコーヒーをそこでようやく一口。

 そう言えばこのコーヒーの豆がもう切れかけている。これはなのはの実家の両親が経営する翠屋のオリジナルブレンド。悪友3人共にこのブレンドに陥落している。味にうるさいヴェロッサさえもが士郎にブレンドの中身を教えてほしいと迫ったほどだ。この通信の最後に、またなのはに取り寄せをお願いしようと決める。

 

『あのね、その、1つお願いがあるんだ』

「お願い?」

 

 空になったコーヒーカップを置き、改めてなのはに目をやり、先を促す。

 

『クロノくんに、一度模擬戦の相手をしてもらえないかなって』

 

 なのはの顔に真剣味が宿る。

 クロノは執務官から提督になってから、前線にはあまり出なくなった。部下を持ち、艦隊を指揮する身が前線で派手に戦ってばかりはいられない。

 とは言え、執務官資格は捨てずにきちんと更新して保有し続けているし、必要とあらば出撃し、最前線で指揮を取ることもある。普段から体を鍛えることは続けているし、模擬戦もユーノやヴェロッサ、恭也に勇吾、フェイトやはやて、ヴォルケンリッター、そしてもちろん、なのはともちょくちょくやっている。

 模擬戦の依頼。これはなのはとの、というわけではないことはすぐに察した。

 

「……ちなみに聞くが、誰と?」

『うちの子たちだよ』

「新人たちか」

 

 小さく息を吐き、クロノは背もたれに背を預け、ひじかけに両の肘を乗せ、手を胸の前で組み合わせる。

 少し目を閉じて思考。

 

「……センターガードの子。確か、ティアナ・ランスター二等陸士だったかな?」

『にゃはは、さすがクロノくん』

 

 特に相手となってやってほしい。そういうことだろうと推測したが、合っていたようだ。

 今まさに、その少女がやらかした反抗、その一部始終について報告書を読んでいたというのもある。

 なのはの訓練内容に不満を持ったか、自らの力不足に対する焦燥か、周りの人間の才能に劣等感を拭えなかったか、あるいはそのすべてか。

 なのはの手痛いお仕置きをくらったティアナは、このほど回復。なのはとの関係もぎくしゃくしていたが、周囲の力もあって何とかなったようである。

 クロノは何かしたわけではない。ただ、なのはの弱音を多少聞いたくらいか。昔ならああすればよかったこうすればよかったと言っていただろうが……今にして思えば、その理論や合理性を重視するところが相手を不快にさせることもあると知れたのはよかった。その意味で、なのはたちに影響を受けて少しは柔軟になれたことには感謝している。

 人との付き合い方において、クロノがなのはにアドバイスしてやれることは少ない。むしろクロノの方が教えられることが多い。クロノはせいぜい、組織における処世術としての付き合い方くらいだ。友人・仲間・恋人・先輩後輩……そういう近しい相手との付き合い方については不器用すぎる。おかげで人脈という点では広くても、友人と呼べる相手は少ないから、どちらの意味でも交友関係の広いなのはは羨ましくもある。

 

「時間がいつ取れるかわからないから、すぐにはできないが……わかった」

『いいの?』

「約束だったしな」

『あ……』

 

 約束。

 それが、ティアナとの関係に悩むなのはにアドバイスらしいアドバイスができなかったクロノがしたことだ。

 なのはが、自らと同じセンターガードのティアナを殊更気にかけていることは知っていた。それは訓練内容にも現れているし、ティアナのデバイスのダガーモードのこともそう。

 

――『彼女の成長に必要であれば、僕も手を貸そう。ただ、今回はお互いに言葉が足りていない。コミュニケーションが足りていない。ただそれだけだ。だから、一度彼女と腹を割って話せばいい。昔から『言葉にして伝えること』こそが君のやり方だったろう? それを思い出すんだ』

 

 誰でも言えそうなことでしかない。クロノはそう思っている。

 

『ありがとう、クロノくん!』

「……ああ、いや、気にするな」

 

 だから、この程度のことでそこまで満面の笑みでお礼を言われるのは……困る。クロノは目を逸らし、肩を竦めた。

 照れ隠し。

 自分でもあからさますぎるのだから、敏いなのはのこと、わかっているだろう。

 

『戦い方も、魔力運用も、やっぱり私よりクロノくんの方が絶対にティアナにとっては参考になると思うんだ! ほら、私って、魔力に物を言わせた使い方とか、細かいことは苦手とか……ね』

 

 言ってて悲しくなってきたとばかりになのはは肩を落とす。勝手に自爆して勝手に落ち込まないでくれないかと、クロノは頭をかきながら呟く。

 

「まあ、君が単独で動き戦えるという特殊なスタンスとはいえ、本来が砲撃魔導師であるのは事実だからな。彼女は砲撃魔導師ではなく、頭で常に考え、技を以って戦うタイプ。おまけに指揮官。君よりは確かに僕の方が彼女に近いだろう」

『わ、私だっていろいろ考えて戦ってるんだからね!?』

「しかしいざとなると直情的な行動に出るのが君だろ」

『あうぅ……』

 

 性格的なものだからなかなか抑えるのも難しいこと。だから周囲のものは心配していても止めようがない。

 最近、そのストッパーを自分に求められているから、さてどうしたものか。クロノの悩みの1つである。

 

『クロノくんを参考にして、教導してるんだけどね。やっぱり本物を一度見てみるのが一番だから』

「百聞は一見に如かず。君の世界の諺だったな」

『うん、そう』

「了解した。日程を調整して、できるだけ早めに訪問する」

 

 秘書官に日程を確認しなくてならない。いちおうスケジュールはデュランダルとS2Uにも管理してもらっているが、急な用事も多々ある。

 明日は叙勲式に参列せねばならないし、その後はミッドチルダ政府との折衝。明後日は午前中に聖王教会でカリムとの面会。午後からは第1艦隊群との合同演習。夜はミゼット・クローベル統合幕僚長と『例の部隊』についての相談。明々後日ははやてと機動六課に関する……。

 

「ん? 明々後日ははやてと会議の予定だったか……」

『あ、そう言えばそんなこと言ってた気がする。午後からはアコースさんの査察が入るしって』

「形ばかりの査察だろうな」

 

 実を言えば、機動六課は常日頃から査察だらけ。

 『陸』、つまり地上所属となっているから、地上と仲の悪い本局が様子を見に来るし、地上は地上で機動六課を身内などと思っていないから。地上本部からの査察は手厳しい。抜き打ちもざらだ。ただ毎回になってくると常から所属員全員が気をつけるので、もう慣れてきたものだが。本局はまだマシ。元々本局のテコ入れもあったわけだから、そう厳しくはないし、頻度も少ない。

 そしてヴェロッサは本局査察官。さらに聖王教会からの査察の意味もある。

 

「……はやてに本局まで来てもらう予定だったんだが、僕が出向けばいいか」

『え、でも、その後に予定があるから本局で会うんじゃないの?』

「無限書庫でフェレットもどきとな」

『ユーノくんと?』

「資料請求と、あと少し話すことがあるんだ。ヴェロッサも途中から合流する予定だった。どうせならフェレットもどきも呼ぶか」

『えっとね、実は、ユーノくんとアコースさんにもお願いしてたりしまして』

「なに?……ああ、なるほど」

 

 模擬戦というのはクロノ対新人4名のつもりでクロノは考えていたが、そうではないらしい。

 

『ユーノくんはユーノくんで防御とかバインドとか結界とか、それにカウンター戦法っていう私たちの中の誰とも違う戦い方をするし、アコースさんはレアスキルがあるからね。そういう人との戦いを知っておいて損は絶対にないから。それに……』

 

 なのはは一度言葉を切り、若干悔しそうに唇を突き出しながら。

 

『3人と、あとザフィーラさんを加えたチームは、私たち仲間内では間違いなく最高のチームワークを誇るから』

 

 なのはの兄である月村恭也と、その親友である赤星勇吾のタッグが最強だとすれば、最高はこの4人のチーム。なのははそう断じた。そしてそれが、4人を除く仲間たちが等しく下す評価である。抜けているところはあっても、なのははだれもが認めるエースオブエースであり、現役の戦技教導官。その評価は世間も受け入れるだろう。

 

「フェレットもどきはともかくとしてだ」

『も~、相変わらずユーノくんに対してはひどいんだから』

「これで充分だ。で、フェレットもどきとロッサには連絡しているんだな?」

『うん。フェイトちゃんとはやてちゃんが』

「そうか。では明後日、予定は9時だったかな。僕の方から行くと、はやてに伝えてくれ」

『わかった』

「……ああいや。君たちの早朝練習を見てみたいから、早朝に伺ってもいいだろうか?」

『え? もちろんいいけど、何で?』

「戦う前に相手の情報収集をね」

『ふふ、やる気満々だね。お願いした身としては嬉しいけど』

 

 やるのなら、彼らの弱点などを知っておきたいし、そこが弱点だと教えられるような模擬戦にした方がいいだろう。その方が、後からなのはが今後のメニューもそこに気を配ったものを立ててくれる。

 

『でも模擬戦では徹底的に叩き潰すんでしょ?』

「やるからには全力全開。君の信条が感染ってしまったようでね」

 

 生憎と、手取り足取り優しく教えるのはできない。口下手だし、不器用だし。

 裁判などでは口下手では相手の論調に押し込まれてしまうし、会議などでも言葉を選びつつ淀みなく喋れなければそれだけで他者に余計な不安や不信を与えてしまう。表面上の威厳を取り繕う者に限って実際の威厳はないものだが、表面上『でも』威厳を示さねばならないことはある。例えば押し込まれていると思っても、自分が守る被害者のためにどんと構え、時には反論もせねばならないように。

 

『やり過ぎて嫌われても知らないよ?』

「ランスター二等陸士が以前のままなら、劣等感の塊で余計悪い結果にしかならなかっただろうけど、高町教導官が上手くやってくれたようだからね。ここで改めて完敗しても、彼女は腐らず、高町教導官の教えを受けて強くなろうとするだろう。有能な子が1人でも多く育ってくれるなら、先達として嫌われ役くらい構わないさ」

 

 高官となり、嫌われたり紙面上で叩かれたりすることも多い。誤解も甚だしいと叫びたいこともある。だがそれらももう慣れた。そもそもにして、仲間内にはやてがいる。彼女は自分などより一層叩かれやすい立場。それでも頑張る彼女を見ていると、年上としても男としても、腐ってなどいられない。

 

『プレッシャーかけないでよ~』

「まあ、ある程度の手加減はするさ。全力全開とは言ったが、大人気ないことも事実だからね。そこのフォローは君に任せたい」

『……ホント、不器用だけど優しいよね、クロノくんは』

「どこをどう取ったらそうなるんだ」

『お父さんって、時に厳しく叱るよね。で、お母さんが後で優しく伝える。そういう両親っているよ?』

 

 逆転していることもあるし、全ての両親がそういうわけではない。子供によっても変わるだろう。家族によって、様々に。

 なのはも時空管理局に入る際は父親の士郎が反対した。桃子の取り成しもあったが、桃子自身も当初は反対だったと後から聞いたらしい。夫婦の役割分担だったのだろう。なのはの気持ちもわかるし、その夢を叶えさせてやりたいという親心もある。けれど同時に、娘に危険なことはしてほしくないし、きちんと学校に通い続けてほしいという思いもあったろう。反発もしたし、喧嘩もしたり、和解もしたりと紆余曲折あれど、なのはと両親の仲は相変わらず良好だ。

 聞けば恭也もそんな面があるらしい。士郎の息子ということか。

 だからなのはとしては、クロノも同じなんだと、一層の親近感や好意が湧くわけで。再びの満面の笑みがその顔に浮かぶ。

 クロノにとって何を以ってしても勝てないその笑顔は、本当に反則である。であるが故に、魅せられてしまう。従って、頬が熱くなるのは仕方のないことなのだ。中学生どころか小学生かと言われても、じゃあお前はこの笑顔に勝てるのかと食って掛かるだろう。

 そう言えば。

 どのくらい、この笑顔を直に見ていないだろう。

 

『あの、クロノくん』

「ああ、すまない。何だ?」

『その、こっちに来るなら、晩御飯とか、一緒できないかな?』

「……すまない。今回ユーノとヴェロッサと会うのは、プライベートじゃないんだ。ここだけの話、実はフィリス顧問、クローベル統合幕僚長、キール栄誉元帥、それと騎士カリムも同席する、非公式の会議なんだよ」

『ええ、3提督にカリムさんまで……!? えと、もしかして機動六課について?』

「それもあるだろうけど、それだけじゃない。むしろ本題は別だ。と、これ以上はさすがになのは相手でも話せないんだ。本当にすまないが、そちらでの模擬戦が終了次第、2人とまず打ち合わせ、その後、3提督と騎士カリムと会うから……」

 

 伝説の3提督は、機動六課についても非公式ながら支援を申し出てくれている。なのはもそのことはクロノから聞いているので、伝説の3提督とクロノが繋がりを持っていることを知っていたが、それでもやはり驚きはする。エースオブエースと呼ばれるなのはでも、伝説の3提督にはさすがに敵わない。実力的にも実権的にも。

 

『そっか……仕方ないよね』

 

 とは言え。

 ユーノとフェイト、ヴェロッサとはやてと違い、クロノとなのはは会う機会が少ない。どちらも忙しい職であり、クロノに至っては次元航行隊で、しかも提督。加えて今のクロノは一提督で済まされない立場にある。政治や外交の場にも引っ張りだこ。アイドルのように取り上げられるなのはとは違う方面で、クロノも社会に認知されているのだ。

 さらに言うならば、機動六課の構成だ。あからさまに親しい身内で固められており、後見人のクロノも同様。世間では仲良し部隊なんて批判もある。主に地上本部の意向が強く反映されるメディアなどで。そこでクロノとなのはの関係があからさまになれば、ただでさえ厳しい機動六課への当たりがより厳しくなってしまうだろう。

 ユーノは表向き、機動六課には直接のかかわりを持っていない。実際のところはその創設に貢献してくれているし、情報バックアップもユーノが自ら当たっているけれど。だからユーノとフェイトはその関係が明らかになったところでそう問題はない。

 ヴェロッサとはやてはある意味でクロノとなのはより厳しい。何しろヴェロッサは査察官なのだ。地上所属とは言え、本局の意向も強く反映されている機動六課だから本局からの圧力はほぼないが、査察官である以上、同じ管理局員との付き合いには非常に厳しい目を向けられる。それでも、ヴェロッサはああ見えて非常に巧者であり、偵察に長けたレアスキル、"ウンエントリヒ・ヤークト"と、相手の思考を読み取るレアスキルがあるため、周囲の目や耳には敏感で、見事に追っかけの記者たちを交わしたり情報操作したりして、はやてとは幾度か密かに会っているようだが。普段からおちゃらけているので、はやてと一緒にいてもいつものように口説いたりふざけたりしているだけのように見えるというのもあるだろう。

 だからと言って。

 目の前で寂しそうな顔をされて我慢できるわけもなし。

 そもそもにしてなのはは我儘をあまり言わない。恭也からも、昔からなのははそうやって自分を抑えることがあったと聞いている。昔はそれで恭也がなのはのそばにできるだけいるようにしていたらしい。恭也から頼むと言われているのだ。そうでなくとも放っておけるわけがない。

 

「それでなのは、相談なんだが……早朝訓練の後、時間は取れるだろうか?」

『着替えてご飯を食べてすぐ業務に入るから……』

「それで構わないんだが、できればその……2人で話がしたい」

『あ…………うん。じゃあ、えっと、朝ご飯、わ、私が作っておくから、一緒に別の場所で食べよう!』

「いや、作っている暇なんてないだろう?」

『サンドイッチくらいの簡単なものならちょっと早く起きれば大丈夫だよ! それとも、私の手作りは食べられない?』

「……卵焼きはできそうだろうか?」

『うん!』

「では頼む」

『了解。それじゃあ、ね』

「ああ。楽しみにしている」

 

 少しだけ互いの目を見やるだけの間を置いてから、なのはの方からは切りそうにないので、いつも通り、名残惜しく思いながらも通信を切る。

 

「デバイスで通信してきたのも……」

 

 なのはも会えなくて話せなくて寂しいと思ってくれていたということだろうか。

 大きく1つ溜息をつく。自分の鈍さに対して。

 

「提督になって後悔することがあるとすれば……やはりこれだろうなあ」

 

 一度航海に出れば数ヶ月、長いと半年、長期に渡れば年単位。親しい人と会えなくなる。次元航行隊所属の者たちならば誰もが経験する辛いところだ。なのははその辺理解があるし、それもわかっていて今の関係があるわけだが……彼女の理解に胡坐をかいていてはいけない。

 しかし帰ってきても仕事仕事。しかも今は彼女たちに隠れてやっていることもある。まあ、これはユーノにしてもヴェロッサにしてもザフィーラにしても、そして恭也や勇吾にしても同じなのだが。

 

「嘆いていても仕方がない。今はとにかく目の前の書類を今のうちに片してしまうことか」

 

 早朝から行くとなった以上、それまでにやるはずだった仕事は今のうちに片づけておかなければならない。職務時間は過ぎているが、さあ私的な理由からの自発的残業と行こうか。クロノはコーヒーメーカーに新たに豆を淹れ、コーヒーを作らせつつ、書類との格闘に取り掛かる。

 そしてその途中、なのはに豆を取り寄せてもらうのを言い忘れたことに気づくのであった。

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