リリカルなのは ANOTHER LOCUS   作:ウルフ中隊

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 リリなのForceに出てくるエクリプスウイルスの脅威は、どの程度昔から起こってたんでしょうね。拙作の現時点であるなのはの事故前後からカレンは動いていたのかどうか。まあ、動いていることを前提に拙作はできてますが。

 Forceの時期にああしたごつい武装が次々に出てきていますが、兵器の開発というものは長い年月がかかるものであって、そうなるとストライカーズ以前、それこそP・T事件や闇の書事件頃くらいからやっておかないと。というわけで、今回はそれも含めて書いてみました。公式に出てくるカレドヴルフ・テクニクス社やヴァンデイン・コーポレーションも含め、エースコンバットというゲームに出てくる企業も使わせてもらいました。

 あと、メッセージの方で公式設定に関する意見をいただくことができ、それもあって、なぜ管理局が魔法至上主義に走ったのかも今回ちょっと出しました。元々私の中にあった意見ですのでいろんな私見を皆さんもお持ちかと思います。よかったら聞かせていただけると嬉しいです。こうと考えてしまうと、他の考えが浮かばなくなるので、やはり他の意見は貴重ですから。


LOCUS 12

 

 どことも知れない薄暗い空間。時折、水泡が生まれるコポコポという音がする。極々微かな音なのだが、他に音を立てるものが何もないだだっ広いこの場所では、非常に耳につく。

 そんな空間に、ぼやっとした光が生まれた。

 

『では、次期主力戦闘艦、次期二等巡航艦の正式採用について最終決議を行う』

 

 その光から、声が生じた。男の低い声。だが声帯から放たれた音とは違い、機械による合成音声はどんなに発達してもどこか人間本来の声とは違和感を抱くことだろう。

 声に応えるように、光の周囲にさらに2つの光が空間の中に浮かび上がる。

 

『賛成』

『賛成』

 

 やや抑揚がないのは、合成音声のためか、それとも本人たちにあまり関心がないからか。

 光の正体は3本の筒。そこにあるそれを、『人』と呼んでもいいのかは人によるだろう。何しろそれは、液体の中に浮かぶ脳だけの存在なのだから。

 

『全会一致により、ゼネラル・リソース社提案の次期主力戦闘艦をXV級、ニューコム社提案の次期二等巡航艦をLS級として正式採用する。直ちに量産し、順次配備。第一次量産計画を若干修正し、XV級を3隻、LS級を4隻とする』

 

 3本の筒の間にあったいくつかのモニターが消え、採用された艦船の映像のみが残る。

 時空管理局も独自にデバイスや艦船を開発し、量産できるだけの体制も技術力もある。だが今は『エクリプスウイルス』や『アンチマギリンクフィールド』など、対応せねばならない問題が山積みで、とても単独で全てを賄うことはできない状態。民間の優れたノウハウを持つ企業に依頼する必要性に迫られていた。もちろん、非常に大きな額となるし、次元世界最大の組織と言ってもいい時空管理局の武装だ。政治的・経済的・軍事的な問題も絡むので、例え時空管理局内だけでどうにかなるとしても、いくつかは民間に回すことになるけれど。

 ゼネラル・リソース社は第4管理世界『カルナログ』に本社を置く、次元世界でも有数の、次元を超えて展開する多国籍ならぬ多界籍複合企業だ。デバイスから戦闘車両・戦闘艦・戦闘機までおよそ兵器や武装と名の付くものなら何でも手がける。軍需メーカーでありつつ、同時に民間向けの一般車やシステム、貿易から金融まで幅広く取り扱う。時空管理局もゼネラル・リソース社のお得意様と呼べるほど、多くの製品を導入している。

 そのゼネラル・リソース社と肩を並べる複合企業がニューコム社で、巨大になり過ぎたがゆえの内紛で一部の者たちがゼネラル・リソース社から独立して立てた企業だ。これまた次元世界でも名の知れた一大企業で、何かとゼネラル・リソース社とぶつかることが多く、時空管理局が仲介に入ることもしばしば。

 

『次に、対エクリプスウイルスを見込み、次世代デバイス開発は我ら時空管理局が独自に開発するが、武装端末の類は一旦、民間との共同開発にシフトする。これにつき、次の3つの武装端末の主契約企業について決議を行う』

『AEC武装と人型戦闘機械『ラプター』、それと出力方式を司るシステムの更新か……AEC武装についてはカレドヴルフ・テクニクス社でいいのでは? 彼らは比較的新興の企業だが、魔導端末における技術力はヴァンデイン・コーポレーションにも劣らない』

『人型戦闘機械である『ラプター』もカレドヴルフ・テクニクス社が最有力か……ここはヴァンデイン・コーポレーションにしておくべきではないか? 一企業に依存する体制は好ましくない』

『ここ最近のヴァンデイン・コーポレーションは武装端末分野において完全に後れを取っている。お情けでくれてやるには額も馬鹿にならないし、エクリプスウイルスへの対策は急務だ。使えないものができても困る。譲るのであればヴェルナー・ノア・エンタープライゼスの方がよい』

『ヴェルナー社はAAアビエーション・プラント技術による安価な大量生産に優れている。いきなりすべての武装を更新するのは難しいのだから、既存の武装の交換をヴェルナー社に任せるべきだ』

『ヴァンデインにはこれまでの付き合いもある。旧式化している輸送ヘリの新型機契約を回してやればどうだろうか?』

『ふむ。それならば異議はない』

『最後のシステム更新については、アックス&ハンマー社一択だな』

『決まりだな。ではAEC武装と『ラプター』をカレドヴルフ・テクニクス社。システム更新をアックス&ハンマー社とする』

 

 上がってくる議題はそれまでに熟考を重ねられたものだ。時空管理局最高機関である彼らは、細かいことの1つ1つにまでいちいち口出しをすることはない。最後の了承を求められる時点で却下することも差し戻すこともあるけれど、基本的には最後のチェックをするのが仕事だ。

 大事な仕事はもう1つ、一番最初に方向性を指し示すことである。対エクリプスウイルスを見越した武装を作れというベクトルを示し、具体的な企業選定等は下に考えさせるのである。

 カレドヴルフ・テクニクス社――頭文字を取ってCW社とも略される――は、比較的新興の企業であるが、魔導端末においては軍民問わず、早くもかなりのシェアを持つほどに急成長している、今一番勢いのある企業の1つ。

 そのカレドヴルフ・テクニクス社にデバイスメーカーとしてシェアを奪われてきているのが、逆にデバイスメーカーとしては老舗と言えるヴァンデイン・コーポレーションである。第16管理世界『リベルタ』に本社を持つ次元世界全体における大企業の1つ。武装端末などを主力に据えたデバイスメーカーではあるが、民間企業向けに警備装備や装甲防護車などの特殊車両などの技術も持つ。主力であるデバイスから手を引き、新たなクリーンエネルギー開発にシフトするという噂も上がるほど、デバイス分野においては落ち目にあった。

 アックス&ハンマー社、正式名称アックス&ハンマー・プレシジョン・インスツルメント・インダストリー。局員や一般人も使う空間モニターなどの技術製品を売り出す総合ソリューション企業だ。安価な割に安定性があり、発展の余地も大きく、企業の求める仕様に追加で応える柔軟性も高く、競合する同種の製品に比べて非常に支持されている。

 ヴェルナー・ノア・エンタープライゼス社はエネルギー技術に特に優れた企業であり、艦船などの駆動炉などを生産することで時空管理局とも関わりがある。最近、アドバンスド・オートメイデット・アヴィエーション・プラントと呼ばれる製造技術を開発し、大量生産に安価で応えられるという1つの革命を巻き起こした。過去にプレシア・テスタロッサが所属していた企業であり、内部のブラック性が問題になったこともあって企業として長年評判が落ち込んでいたが、この技術によって業績を回復しつつあった。

 

『融合デバイスについても進展が若干あるようだ。無限書庫がまた情報を探り出したらしい』

『掘り出し物とはまさにこのことだな。あのような『物置』がこんな所で役立つとは』

 

 無限書庫はそもそも、時空管理局が作ったものではない。時空管理局ができた当時、すでに存在していたのだ。その名残が、あの重厚な造りの扉だ。手押しの重厚な扉など、時空管理局にはない。あの無茶苦茶な情報の遺跡は、誰も意識していないがロストロギアそのものなのである。

 

『何と言ったか……ああ、八神はやてだったか? 小娘には新たに作る融合デバイスの使用者となってもらい、データを収集。その結果を基に融合デバイスを試作し、後の量産を目指す』

 

 融合デバイスの量産が成功したら、適合する者を見つけて戦力を強化。ゆくゆくは魔法資質を持たない者でも融合することで可能になるかもしれない。そうなれば長年の課題であった、魔導師の数が不足しているという問題も解決できるという期待もかけられている。

 

『融合デバイスによる非魔導師の魔導師化計画……だがこれは注意が必要だぞ? 我らの『秩序』を揺らがしかねない』

『そうだ。ゆえにこの計画は外部との連携はできん。我々管理局で独自に研究を続ける。聖王教会と言えども、この計画には関与させるな』

『反対するだろうし、やるのなら関わらせろと言ってくるだろうがな』

『前代未聞の大不祥事をやらかした始末をつけてから言えと返しておけばよかろう』

 

 聖遺物盗難事件。あれのおかげで、聖王教会は時空管理局に対して大きなことが言えないでいる。このチャンスを最大限に活かし、聖王教会が強く言えないうちに融合デバイスの研究開発を一気に進めたい。一度できてしまったらこちらのものである。カートリッジシステムの時と同じ、既成事実化ということだ。

 

『そして今回、最も気になる武装であるが……』

『〝アインヘリヤル〟か』

『レジアスもなかなか苦戦しているな』

 

 地上本部が1年前の公開意見陳述会で公表した、地上配備を念頭に据えた固定式の大型魔導砲。見た目が質量兵器に見えるため、本局だけでなく聖王教会や民間からも批判が大きい。レジアスが各方面を説得に回っているが、支持を取り付けるにもなかなか上手くいっていない。

 

『役に立つとは思えんが』

『左様。所詮は見かけだけのものになるだろう』

『次元航行隊に配備されている反応消滅魔導砲〝アルカンシェル〟に比べれば威力は相当に落ちる。戦闘艦の〝アウグスト〟レベルだ』

 

 次元航行隊は主力艦隊と警備艦隊に大別され、主力艦隊は言わば軍隊、警備艦隊は警察だ。巡航艦は警備艦隊所属で、武装は自衛レベルに抑えられている。しかしいざというとき、例えば戦時において主力艦隊で手が回りきらないなどの場合に備え、巡航艦も戦えるよう、オプション装備として普段は外されている強力な武装がある。その最たるものは反応消滅魔導砲『アルカンシェル』である。他にも、主力戦闘艦・巡洋戦闘艦・高速戦闘艦・護衛戦闘艦など、主力艦隊所属艦なら固定装備である長射程魔導砲『アウグスト』などがある。

 地上本部が欲しがっている『アインヘリヤル』の威力は、だいたい『アウグスト』より多少威力は上という程度のものだ。『アルカンシェル』とは比ぶべくもない。

 まして動く艦に搭載されているならまだしも、そんな巨大兵器を固定式で運用するとなればかなり効果は限定的だ。星の裏側まで届くわけでもないから、あくまでクラナガン周辺を守る程度のものになるだろう。正直なところ、こんな巨大兵器は人を相手にするものではなく、艦船などの大きな目標になる。つまり艦隊などの脅威が攻めてくるという事態でもなければ使うときなどない。もしそんな脅威が迫ったら、こんな固定式の砲台の前に、まず周辺を管轄する次元航行隊の戦闘艦が対処するだろう。より強力な『アルカンシェル』もあるのだから、『アインヘリヤル』の必要性は薄い。

 

『戦闘機人の配備を進めるための隠れ蓑でしかないとは言え、これは少々規模が大きすぎる。費用もばかにならんだろう。やはり考え直すべきでは?』

 

 『アインヘリヤル』に対する批判が集まることは想定の範疇。『アインヘリヤル』は諦めるから戦闘機人を許容せよと、そういう流れをレジアスは考えている。この手法でも倫理的な問題は解決できていないが、そこは長期的にじっくりと進める狙いらしい。

 戦闘機人自体はすでにジェイルが完成させており、別の犯罪組織がタイプ・ゼロと呼称する2体の戦闘機人を実際に作り上げてしまっている。戦闘機人が実戦に投入される未来はそう遠くないだろう。実際に出てきたとなれば、世論も変わる。戦闘機人に対抗するにはこちらも同種の兵器が必要だと、そういう理屈が成立するのだ。人の世の倫理など、自らが危険に晒されれば『やむを得ない』と許容するように変わってしまうものなのだ。

 仮にそんな未来がなかなか来なかったしたら、そのときはジェイルに戦闘機人を量産させて一騒ぎ起こせば事足りよう。そのためのジェイル・スカリエッティ。そのための存在。この3人が生み出した無限の欲望(アンリミテッド・デザイア)の存在意義だ。

 世論を都合のいいように動かす。まさしく、時代の流れを動かすようなもの。時空管理局最高評議会の自分たちだからこそできる。もはや誰も何も動かせない『伝説の3提督』などとは違う。

 これが、3人の共通認識であった。

 

『ところがそうでもないようでな。これを見てみるといい』

 

 最高評議会の議長に当たる男――繰り返すも脳だけの存在にもはや男も女もないかもしれないが――が、1つのデータを中央に表示させる。

 

『……ほう。これはまた、レジアスが喜びそうだな』

『驚いた。これほどの兵器を、この額で建造できるのか? 予想額をかなり下回っているが』

『この提案をしてきた企業は?』

『ノース・ミッド・グランダー・インダストリーだ』

 

 ミッドチルダ首都クラナガンの郊外に本社を構える大企業。ゼネラル・リソース社などとも並ぶ、そして企業としては古代ベルカ時代から続く老舗中の老舗だ。次元世界の中心とも言えるミッドチルダでも最大の企業である。軍需メーカーとしての色が強く、他にもやってはいるが、主力事業はかつてから変わっていない。時空管理局も基幹システムからデバイス1つに至るまで、この企業が関わっていない物を探すのが困難なくらいであり、ゼネラル・リソース社と言えども比ではない。時空管理局ができて管理世界から独自の軍隊や警察組織がなくなった後は、時空管理局こそが彼らの最大の顧客だ。同時に、彼らは時空管理局最大のスポンサーでもあり、そのため当代の社長、シェーン・ホフヌング女史は、時空管理局の財務顧問官と理事官を兼務している。

 

『レジアスとも懇意にしていたな、確か』

『癒着との疑惑をかけられるからと、このところは取り立てて提案などもしてこなかったのだがな』

『アインヘリヤルは他のどの企業も世論を気にして提案してこないからな。だからだろう』

 

 軍需企業にとっては武装の需要はビジネスチャンス。軍需を主力に据え続けてきただけあって、その技術力も営業力も他社の追随を許さない。ただシェーンが時空管理局の理事官兼顧問官をするようになってからというもの、武装の提案はほとんどしてこなくなった。直接の指揮命令権がないとは言え、時空管理局最大のスポンサーゆえに影響力は大きい。自社の武装を買えと時空管理局に圧力をかけていると思われたくないからだろう。今回は他に誰もやりたがらないから、ならばと提案して来たらしい。

 

『謙虚と言えば謙虚だが、しかしやはり彼女も商売人ということか』

『同感だ。レジアスと懇意にしておけば、今後も需要には困らんだろうからな』

 

 レジアスは戦力強化を声高に叫ぶ武闘派。戦力強化となれば、当然のこと、軍需は増える。軍需企業にとってはこの上ないビジネスパートナーになるということ。

 

『何にせよ、アインヘリヤルについては却下こそしないが、承認もできない。時期尚早だ』

 

 評議員の言葉に、議長も書記も肯定の意思を電気信号にして各位に飛ばす。

 質量兵器に見える点が、世論の支持を得られない。世論は質量兵器を忌避しているから。

 もちろんその理由もないわけではない。

 

 

 

 ただ、この3人については、事情が少し違う。

 3人にとって、質量兵器は、絶対に許してはならないものなのだ。

 艦船もアルカンシェルも戦闘機人も。等しく、質量兵器のような外見や威力を有する部分はある。だからそれらを徹底的に『魔導兵器であって質量兵器では断じてない』と言い切れるような状況を作らねばならない。実戦配備はそれからだ。

 

 

 

 なぜなら、それこそが、彼らがこの多次元世界の頂点に君臨するために必要な()()()()だから。

 

 

 

 魔法至上主義。それが齎す弊害を、3人は正確に把握していた。

 魔法を使える者は限られる。魔法は先天的な資質が物を言うから、後天的に資質を得ることは、人造魔導師のような違法な手段を用いなければ不可能だ。

 罪を犯した魔導師であっても、更生や社会復帰の支援と称して引き入れる。時に司法取引を行って局員になることを義務付けることもある。管理外世界の人間であっても、魔法の資質があるのなら特別待遇と銘打って勧誘も辞さない。

 強引な囲い込みだ。そんな批判があることを、3人はもちろん理解している。その上で、黙認しているのだ。

 

 

 

 繰り返すも、魔法を使える者は限られる。実弾の入った銃を得ることさえできれば、あとは誰でも引き金さえ引けば撃てる質量兵器とは違って、誰もがその力を持てるわけではない。

 

 

 

 それはつまり。逆に言えば。

 

 

 

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 時空管理局の魔導師の数は、多次元世界広しと言えども他の追随を許さない。圧倒的な魔導師という人的戦力は、他組織、他世界の持つそれの比ではない。そこに艦船やデバイスなどの魔導兵器も最先端を行くとなれば、もはや魔導による戦力・兵力において時空管理局に抗える組織も世界もない。

 それでも時空管理局に抗おうとするのならば、自然、それ以上の魔導戦力をどうにかして手に入れるか、質量兵器に頼るか、そのどちらかしかなくなる。そんな魔導戦力を集めることができるなら、時空管理局がすでにやっているわけで。ロストロギアに頼るにしても、時空管理局もロストロギアを当然管理する義務を負っているので、合法的に探して見つけ、収集して厳重に保管する。個人や組織が保有する場合は、必ず時空管理局への申請と許可がいるから、隠していれば法によって処罰される。それは聖王教会さえも例外ではないのだ。

 となれば、もう抗う手段は質量兵器しかない。

 

 

 

 だからこその、『質量兵器禁止条約』の成立。

 

 

 

 質量兵器を違法なものとすることで、魔法こそが唯一許された武力行使の手段なのであり、それでも質量兵器を持とうとする者は法と正義の名の下に断罪を下す。

 『質量兵器は悪。正しきは魔法』――魔法至上主義は、むしろ、3人にとって意図して作り上げた状態なのだ。

 この風潮を作り上げるには、膨大な時間が必要だった。人の意識、しかも多次元世界という巨大すぎる人の社会の意識を変えるのだから。

 普通に、少し考えたら、魔法だろうが質量兵器だろうが、危険なものは危険なのだ。どちらにも利点があり、欠点がある。長所があり、短所がある。

 クロノとユーノが気づいていたように。彼ら以外にも気づく者がいて当然なのだ。そしてそんな者は実際に大勢いた。

 それを、長きに亘る世論操作によって、本当に定着させるまでに至ったのである。

 

――『魔法は質量兵器よりもクリーン』?

 

――そんなお題目、綺麗事の類を本気で語る者が出てくる現実など、3人にとってこれほど愉快な話はない。

 

 そんなものが当たり前に語られ、当たり前に受け入れられ、無条件に質量兵器を忌み嫌い、それを持つ者に対して嫌悪を抱く。まさしく、それこそ、3人が望んだ反応である。脳だけの存在になってでもこの世にしがみついてきた執念は、確かに成ったのである。

 

 

 

 そしてダメ押しとして、管理外世界から管理世界になる場合、その世界独自の軍隊や警察は解体することを条件とした。代わりに各世界には地上本部を設置し、治安維持は地上本部が担う。時空管理局が、管理するのである。天に本局、地に地上本部。天地をがっちり押さえ、法と世論を根拠に、堂々と振る舞う。

 

 

 

 それこそが、今の多次元世界の姿であり、時空管理局である。

 

 

 

 これで悪徳が蔓延るだけならば人々とてこうも簡単に受け入れはしないだろう。

 だが3人は運が良かった。

 まだまだ思い通りにはいかなかった黎明期、レオーネ・フィリス、ラルゴ・キール、ミゼット・クローベルという、『伝説の3提督』が現れた。『英雄』ギル・グレアムも含められよう。有能な彼らは3人が作った『秩序』の下で平和を作り上げた。彼らの成果は、同時に3人の成果となったのだ。今の『秩序』でも平和は成った。だからこそ、人々は信じてしまった。受け入れてしまった。この『秩序』は正しいのだと。だって今がまさに平和なのだからと。

 だから今の風潮も制度も『正しい』のであり、疑問を持つ者の方こそ『異端』である。

 

 

 

 そう、この3人こそ、時の支配者といってもいいだろう。

 

 

 

 ゆえに、質量兵器に見紛う外見を持つアインヘリヤルは、魔導兵器であると言い切れるだけの根拠も世論の支持もない今、実戦配備することはリスクが大きすぎるのである。

 時期尚早。

 まさにこの言葉に尽きるだろう。

 

『だが計画自体は進めさせておくとしよう。グランダー社の技術力は侮れない』

『現在の時空管理局の力の象徴たる〝アルカンシェル〟を作り上げたのが連中だからな』

『建造着手は許されないが、計画だけなら問題ない。問題があれば廃案とすればいいだけのこと』

 

 何がどう役立つかわからないのだからと、『アインヘリヤル』は計画をより具体的にするようレジアスに伝えることにする。あとはレジアスが張り切ってシェーンと話を進めていくことだろう。張り切り過ぎないよう、監視は必要だが。

 

 

 

「失礼いたします。メンテナンスのお時間です」

 

 

 

 どこからともかく、1人の女性が現れる。

 ここに入れるものは限られている。場所を知る者さえほとんどいない。そう、ジェイルにさえこの場所は教えていないのだ。

 女性は3人のポッドのそばまで来ると、深く一礼した。あまり必要以上のことは話さない彼女は、だからこそ3人にとって好都合だった。いつも通り、ポッドの近くにある精密機器――3人をこの世に留め、生かす、まさに生命線たる装置を触り始める。もちろん警戒はしているし、彼女は知らないが、たとえ彼女が3人を殺そうとしても身を守る術は何重にも用意してあるのだ。

 

「お伝えせねばならないことがいくつかございます」

『しながらでよい。何だ?』

「はい」

 

 振り返りもせず、女性は慣れた手つきで空間に投影されたコンソールを叩き、空間モニターを確認していく。

 話しかけなければ口を開くことがほとんどない彼女の方から話しかけてくるのだから、かなり重要な話なのだろう。

 

「『無限の欲望』より報告がありました。例の素体の件です」

『ゼスト・グランガイツとその部下か。で、どうであった? 人造魔導師は完成したのか?』

「メガーヌ・アルピーノにつきましては、優秀な素体であることが判明しておりますが、レリックの11番が必要とのことで、生体ポッドにて保管しております。ゼスト・グランガイツにつきましては蘇生の上で動けもしますが、残念ながら生命維持に支障が出ており、全力戦闘は限られるとのこと」

『失敗作か……まあ、やむをえん。いちおう生前はオーバーSランクだ。下手な駒よりよほど役に立つだろう』

「メガーヌ・アルピーノの娘、ルーテシア・アルピーノについては大成功であるとのことです」

『おお、そうか! よくやった』

『ふふふ。わざわざ手配してやった甲斐もあったというもの』

 

 レリックと呼ばれる、超の付くほどのエネルギーを秘めたロストロギア。もう間もなく3年前になるか、とある管理外世界で起きた事件で回収されたジュエルシードと似ているが、レリックに願いを叶えるという機能はない。ただジュエルシード以上に高純度の魔力で構成されており、秘める力はジュエルシード以上と目されている。

 このレリックをリンカーコアの中に埋め込むことで、身体能力の強化や魔法の資質を向上させることが可能になる。適合することが大前提であるが。

 違法指定の生命操作技術、『人造魔導師』そのものである。

 レリックがいくつ存在するのかはわかっていない。現時点でジェイルは20程度を保有しており、彼の作品である戦闘機人の現在の専らの任務は、このレリックの探索と回収である。レリックは1つ1つが求める適性に差異があるらしく、同じレリックでも適合しないことがあるらしい。素体を手に入れても適合する番号のレリックがないと手術に入れないとは歯痒い話だと3人は溜息――吐く口がないのであくまで装置がそんな信号を読み取って音声として出力しただけ――をつく。

 

『しかしゼスト・グランガイツがいなくなったことで、人造魔導師や戦闘機人の回収役がいなくなってしまったな』

『なに、AAAランク以上の魔導師は他にもいる。適当な者を選んで当てればそれでよい』

 

 ゼストを『秘匿命令』という形で動かしていたわけだが、彼がジェイルの下で使役される身になった以上、別の者を使う必要があるだろう。元々ゼストは騎士としての在り方から少々扱い難いところもあったし、『秘匿命令』に対して怪しんでいる節もあった。どのみち潮時だったと考えればそうがっかりする必要もないだろう。

 

「それから、これは純粋に『無限の欲望』の個人的な疑問のようですが、P・T事件において、ジュエルシードを輸送していた輸送艦を撃沈したのは貴方たちか、とのことです」

『知らぬな。なぜそんなことを気にする?』

「私にはわかりません。彼が尋ねるよう言ってきただけですので」

 

 何のことなのか、そもそも議長たちには思い出せない。P・T事件と言われればだいたいのあらましは思い出せるが、詳しくは知らない。議長たちにとってはそれほど重要な案件でもなかったのだ。

 

「それから、例の2体の戦闘機人――『無限の欲望』はタイプゼロと呼んでいる機体なのですが、あれを製造した組織が判明いたしました」

『おお、ようやくか。それで、どこの組織だ?』

「『暁の鷹』。ご存知でしょうか?」

『……知らぬ方がおかしかろう。厄介な』

 

 タイプゼロ・ファーストとタイプゼロ・セカンド。ゼスト隊が3年ほど前の新暦64年に保護した2体の戦闘機人。その後、クイント・ナカジマが引き取って娘として育てていたが、この2体の戦闘機人を作った組織がずっと謎のままだった。保護したときに交戦したのだが、どうやら末端の組織で使い捨て程度の存在だったらしく、わからずじまい。

 『暁の鷹』。

 次元世界を股にかけるテロ組織である。エクリプスウイルスで騒がせる『フッケバイン一家』と並んで、第一級の危険指定を受けた犯罪組織。『フッケバイン一家』はエクリプスウイルスに感染した者たちだけで構成されているため、少数精鋭の組織だが、『暁の鷹』は非常に大規模で、多くの次元世界に根を張っている。強力な戦闘能力を有する魔導師が複数所属しており、保有している武装もどこで調達しているのか、非常に高性能で多岐に亘る。反時空管理局・反聖王教会を掲げてテロを行っており、そこらの組織が無作為に行うテロとは違って時空管理局や聖王教会にとって常に痛手となるところを狙ってくる。時空管理局や聖王教会に関わるのであれば、民間人がいようが老若男女も問わず、まったく躊躇も容赦もなかった。

 

『独自の製造拠点や研究拠点を有するのかもしれんな。管理外世界や反時空管理局を掲げる世界の政府などが関わっていると想定していたが……』

『ジェイルの研究成果を流用したとはいえ、戦闘機人を製造できてしまうなどあってはならん。奴らの壊滅に全力を挙げよ。必要とあらば特務隊を編成して構わんと本局と地上本部にも通達しておけ』

「承知いたしました」

 

 たかがテロ組織1つと侮っていたのかもしれない。こういう不確定要素は早めに排しておかねばならない。これがもしどこかの反時空管理局を掲げる世界と結びついていたら、これを理由にその世界に対して強く出られるというのもある。とにかく、自分たちの頂点の座を揺るがしかねない脅威は即排除だ。

 多少の戸惑いや焦りを見せる議長たちに対し、女性はどこまでも淡々としていた。百年以上の時を生きる自分たちですら焦るのに、この女性の落ち着きぶりはまったく以って理解不能だと、議長たちは不思議に思うこと然りである。

 

「次に3提督の動きについてなのですが、聖王教会との関係を強化している模様です」

『例の娘か?』

「はい。聖王教会の枢機卿であるグラシア卿の長女、カリム・グラシア。彼女を通して接触した疑いがあります」

 

 聖王教会は無視できない一大組織。時空管理局にも聖王教会関係者専用の理事官の席が確保されている。

 つい先日、その理事官が代わった。ベルカ自治政府諮問機関たる枢密院の顧問でもあるミヒャエル・ハイメロートから、カリム・グラシアへと。言い方を変えると、強硬派から融和派へと代わったのだ。

 

『強硬派も厄介だが、融和派は融和派で面倒なことだな』

 

 聖王教会やベルカ自治政府の強硬派は、ベルカ第一主義を掲げ、他組織や他世界に対しても強く出ることを訴える勢力。ミヒャエルはその強硬派の最先鋒である『ラルド派』に属しており、時空管理局理事官として、時空管理局の決定や言動に逐一口を出してきた。おかげで頓挫していた計画も多い。今回決議した艦船についても、彼が横から口を出してくるせいでようやく決議できたくらいだ。時空管理局の戦力を強化させたくなかったのだろうことは明らかだった。

 対して融和派はその名の通り、他組織や他世界とも協調を図りつつ、聖王教会やベルカ自治政府としての影響力をその中で高めていこうとする勢力だ。カリムの父たるグラシア枢機卿が筆頭である。当然、彼らは時空管理局との関係も重視しており、特に本局との友好関係強化と地上本部との関係改善は最重要課題と見られる。

 その彼らが3提督とも関係を持とうとするのは別におかしいことではない。ただ3提督は、閑職に追いやられてからも時空管理局で変わらず影響力を維持しており、最高評議会を始めとして現体制、現風潮に対して疑念を持っている。時空管理局内外で密かに味方を作り、情報網を構築し、最高評議会の3人に常に危機感を抱かせる存在だった。3提督と聖王教会の必要以上の接触は好ましくないのだ。

 

『3提督め、さっさと辞めればよいものを。歳が歳なのだからいい加減に勇退するべきであろうに』

『伝説などと謳われることで今の座に未練でもあるのだろうよ。3提督と言えども人間。老いれば老害ともなろう』

『気にする必要はない。奴らは我々とは違う。もはやただの老いぼれ。人も時代も動かせはしないのだ』

 

 どれだけ権限を奪っても閑職に追いやっても、なかなか3提督は諦めなかった。しがみついているという批判もあるが、やはり圧倒的な支持を得ていることは変わらない。

 

『我らが差し向けた監視者以外に、ゼスト・グランガイツを監視していた者がいたそうだが、やはり3提督の関係か?』

「……そちらにつきましては依然調査中です」

 

 珍しいことに、若干返答に間があった。悔しいとでも思っているかのようだ。ただ議長たちはそれほど深くは考えず、まだ結果を出せないことに申し訳ないとでも思っているのだろうと考えて気にしない。

 

『3提督は気付いているのかもしれんな。戦闘機人を回収している意図に』

 

 戦闘機人を製造することはできない。違法だからだ。

 だから『犯罪者』であるジェイルに作らせ、強制捜査による押収という形で回収し、分析してからいずれ実戦配備させるときのために保管しておく。そういう流れだ。

 

『だとしても、ゼスト・グランガイツは我々からの秘匿命令を誰にも打ち明けまい。本局も地上本部も、長たる局長・本部長ともに我々の傀儡。レジアスは実質的に本部長を上回る存在だが、奴とて我々の駒だ。秘匿命令は本部長からの命令ということにしてある。我々に辿り着くことはあるまい』

 

 ゼストは口の堅い性格だった。怪しんでいたとしても軽々しく秘匿命令のことを口にする男ではない。

 だからこそ、彼を回収役として選んだのだ。そこはきちんと厳格に吟味し、選別している。

 

『しかし本部長が傀儡であることは3提督なら気づいていよう?』

『気づいたとしても、誰の傀儡かまではわかるまいて。ミッド政府かもしれんし、聖王教会かもしれん。何しろ各世界の政府も聖王教会も、時空管理局の権力を何とか我が物にしたい、もしくは削ぎ落としたいと思っているからな』

 

 時空管理局の権力は次元世界の中心たるミッドチルダの政府でさえもおいそれと口を出せない。ミッドチルダは時空管理局発祥の地。模範を示すが如く、真っ先に独自の軍隊や警察組織を解体して見せたくらいだ。

 時空管理局に対してミッドチルダを始め、一部の有力世界が時空管理局を牛耳っている。そういう批判もある。

 

――それも、議長たち3人が仕組んだ情報工作であるが。

 

 ミッドチルダやヴァイゼン、カルナログなど、多次元世界である今の世の中で大きな影響力を持つ持つ世界はいくつかある。彼らからすれば時空管理局は目の上のたんこぶ。自らの影響力を行使したくても、時空管理局が介入してくると思い通りにはいかない。そして逆に時空管理局は多次元世界が広がれば広がるほどにその権限も影響力も大きくなるばかり。権力者たちが忸怩たる思いを抱くのも当然のことであろう。時空管理局の権限や影響力を、何とか我が物にするか削ぎ落としたい。そう考えるのは当然の成り行きで。

 

『仕方あるまい。本部長がミッド政府と繋がりのある疑惑があったな? それを使おう』

『ミッド政府と裏で繋がりを持っていたことにしてすげ替えることで、ミッド政府の傀儡であったとするわけだな?』

『ふむ。次の本部長と見なされていた者はレジアスの後輩だったな。レジアスは我々の影響下にあるのだし、問題なかろう』

 

 秘匿命令は、ミッドチルダ政府の傀儡であった地上本部長が、政府の意向に従って出したもの。そういうシナリオだ。

 

『3提督がこれで疑惑の目をミッド政府に向けてくれるとよいのだが』

『そう上手くいくかな?』

『向かずとも、レジアス自身が戦闘機人を運用したがっているのだ。批判の目はレジアスに行く。元々レジアスはその批判を受けていることもある。それが多少強まるだけのこと。なに、レジアスは豪胆だ。気にもしまいて』

 

 レジアスは最高評議会の3人にとってこの上なく都合のいい存在だった。彼を重用するのは、更なる戦力と権力の強化を望む議長たちにとって、その意向に沿うからという理由以外に、自分たちに向きかねない批判や疑惑の受け皿になってくれるという理由もあるのだ。

 

「それでは最後にお伝えせねばならないことですが」

 

 議長たちが話している間は決して口を挟まなかった女性が、話が一旦終わったのを見計らって声をかけた。コンソールも消しており、メンテナンスも終わったようだ。

 

「今しがたの件にも関することです。以前も少しお伝えしておりましたが、『無限の欲望』を独自に追っている執務官がいること、憶えておいででしょうか?」

『ああ、それか。3提督も警戒しているようだからしばし手を出さずに様子見することにしたのだったな』

『進展があったのか?』

「はい」

 

 女性は空間モニターを表示する。別に表示しなくてもすべてポッドへと情報を送れば、それで彼らも認識できるのだが、彼らはポッドに付けられているカメラや集音器で映像や音をきちんと自分で拾いたいらしい。要するに、人間誰しもがやっているように、目で見て耳で聞きたいということだ。脳だけの存在になっても自分は人間なのだと言いたいのだろうと、女性にとってはイマイチよくわからない理由に付き合っているだけ。

 空間モニターに1人の少年が映る。青年、というには少し早いかもしれないが、ちょうど少年から青年への移行期にあるくらいの年頃。笑顔1つない、真面目一徹の表情。調べた限りでも、見た目通りに真面目な性格をしているようで。

 クロノ・ハラオウン執務官。年齢は17歳。執務官歴6年。P・T事件と闇の書事件解決の功労者であり、父はその前の闇の書事件の犠牲者となったクライド・ハラオウン元次元航行隊提督。母はリンディ・ハラオウン総務統括次官。魔導師ランクはAAA+。法務官としても武官としても優秀の一言に尽きる。魔法の調整力に優れ、『デュアルドライブ(双時制御)』『ディレイドドライブ(遅延制御)』などの高等技法の使い手。ほんの少し前まで無限書庫の再編に関して主導していた者の1人。現在、再編計画は中断。

 

「相変わらず追い続けているようです。理由は不明ですが、おそらくは親しい知人の1人が『無限の欲望』の放った戦闘機械との遭遇戦で撃墜されたことに端を発するものかと」

『執務官ともあろう者が私情に走るか。愚かな』

 

 呆れるとばかりに書記が面倒そうに零した。まだまだ子供だから仕方がないと評議員が庇うが、評議員の声にもクロノを批判する色が籠もっている。

 議長たちも、クロノがゼストに接触していたのはすでに知っている。だからゼストがあんなことになった以上、それで危険を察して引き下がるかと思っていたのだが、そうでもないらしい。

 

『本局局長を通して法務部長には止めさせているはずだが?』

「休暇を使って独自に動いております。業務時間外ともなると、止めるのも難しいようで」

『ジェイルを追う執務官は専任の者に限定させている。彼らの邪魔をするなと言えばよかろう』

「もちろん何度も注意喚起を行っております。彼の行動を制限すべく、別の仕事を回したり、非番時にも必ず行動先を知らせたりとしておりますが、それでも動き回っているようで。とうとうこんな報告書を提出して参りました」

 

 クロノの映像の横に、もう1つの空間モニターを投影する。今朝、クロノから提出されたばかりという報告書だ。わずかな沈黙。直後、3人の反応が明らかに変わった。

 

『これは……!』

『……さすがに、見逃せんな』

『どうやってこれに行き着いたのだ?』

 

 ジェイルと『コレ』は、本来ならまったく無関係というべきもの。ジェイルを追っているだけだったら、『コレ』に行き着くことはないはずだった。

 

――『ジェイル・スカリエッティがAMF装備の戦闘機械を量産し、裏で密輸していることが情報部の調べで判明。この戦闘機械は古代ベルカの聖王家が運用していた当時の最新型と呼べるものであり、AMFを除けばそれほど大きな脅威というわけではないが、軽視できない理由が存在する。それは、この機体が一般的にもよく知られる『聖王のゆりかご』と呼ばれる非常に危険な兵器にも搭載されていたことである。その存在は近年疑問視されていたが、搭載されていたとされる戦闘機械が実際に現れた以上、現実に存在する可能性は高まった。この戦闘機械はほとんど当時の状態のままであることが、技術部と無限書庫の調査によって明らかとなっている。従って、これを量産し、運用しているジェイル・スカリエッティは、『聖王のゆりかご』についても何らかの関わりを持っているものと推察される。ジェイル・スカリエッティに関わる執務官だけではなく、管理局全体でこの情報を周知徹底させると共に、無限書庫・考古学会及び聖王教会とも連携して『聖王のゆりかご』の大規模な調査を行うべきと提案する』

 

 聖王のゆりかご。これに行き着いた執務官は、今までいなかったのに。

 やはりあの戦闘機械をジェイルに渡していたのは間違いだったのかもしれない。戦闘機械を渡しても、当時の資料など考古学会でも持っていないのだからばれることはないと思っていたのだ。

 

『無限書庫か……あのような『物置』がこんな所で存在感を発揮するとは』

『少し侮り過ぎたかもしれんな。この執務官と無限書庫を』

『交代した前の理事官、ハイメロートと言ったか。奴もずいぶん無限書庫の再編を妨害していたが』

『使えるのであれば、無限書庫を我らの影響下に置くのも手ではある』

『しかしあの無限書庫は、確かスクライア一族の小童がいなければまともに機能しないはず。そんなものは組織としては成り立たない。本局の情報部長は今のところ無限書庫に対して冷遇している。今しばしそのままでもよかろう』

『そうだな。それよりも今問題なのはこの執務官だ。さすがにこれ以上様子見というわけにはいかんだろう』

 

 聖王のゆりかごは、聖王教会も考古学会も競うように捜索しているが、一向に見つかっていない。そのため、幻だの架空の兵器だのと言われることもある。伝わる話によれば、聖王家のまさに力の象徴であり、巨大な飛行要塞であったとされる。

 それは事実であった。

 見つからないのは当然だ。

 

 

 

 現在、聖王のゆりかごは、最高評議会のものなのだから。

 

 

 

 とある場所に隠蔽しており、徹底した情報統制と厳重な監視の下で管理している。議長たち3人の、まさに切り札であった。

 女性の目が怪しく光ったのを、話に意識を取られている議長たちは気付かなかった。

 

――『これに関し、ジェイル・スカリエッティがこれまで関わっていたとされる施設を今一度徹底的に捜索し直すべきである。調査については外部の第三者機関からも人員を派遣してもらうのが適当と考える。先立ち、私はゼスト・グランガイツ少将が戦死した施設を調査し、後ほど報告書を改めて提出する』

 

 クロノの報告書は最後に向かう施設の位置や訪れる予定の日時まで書いており、そこで終わっていた。

 

『どう思う? 聖王のゆりかごの秘匿場所とはまるで違うゆえ、場所を掴んでいるわけではないのだろうが……』

『それよりも第三者機関の派遣を求めているのが問題だ! 議長、これは明らかに時空管理局に対して不信を抱いている証拠だ。この執務官は即刻排除する必要がある』

『貴公の意見はもっともだ。だがこれは明らかに誘いだ。ここで我々が動けば、それこそこの執務官の思惑通りになるぞ』

 

 わざわざ施設の位置や予定日時まで書いているのが怪しい。そもそもクロノがこれまでジェイル・スカリエッティの調査において報告を上げてきたのは、いつも事後だ。事前に言っても拒否されるからだろう。なのにこうして事前に通達してきた。第三者に調査させようというのも、時空管理局の調査では隠蔽される恐れがあるからではないか。最高評議会とわかって警戒しているのかどうかはわからないが、少なくとも時空管理局に対して疑念を抱いているのは間違いない。

 

『かと言ってそのまま調査させるのか?』

『今すぐ調査を不許可とすればよいのでは?』

『その場で不許可としなかったのだろう? 後から不許可とすると違和感しか残らんぞ』

『ええい。この報告書を受け取ったのは誰なのだ?!』

「専任の、フローリアン・ハルツォク執務官です』

 

 ジェイル・スカリエッティを追う執務官は数人の執務官が専任となり、他の執務官は彼らが許可した場合のみ関わることができる。フローリアン・ハルツォクという女性執務官は、長年、専任として当たってきた。ゼストを回収役として厳格に選別したのと同様に、専任に当たる者も議長たちは選び抜いている。従順なのか、真面目なのか、時空管理局に対する不審な考えは持っていないか。だが彼女は最高評議会のことを知らない立場。自分がジェイル・スカリエッティを捕まえる気であっても、実のところは形式上追っているフリをするためにいいように動かされていることを知らないのだ。長年当たってきただけあって、現状を歯痒く思っているのかもしれない。だからクロノの行動を容認したのかもしれない。他の専任たちは厳格だったり柔軟性がなかったり、上の意向を常に気にする性分だったりする。クロノはその辺も見越してフローリアンを提出先として選んだに違いない。

 

『放置はできん。だが妨害すれば誘いに乗ってしまう。若造如きが小癪な真似を……!』

『落ち着け。誘いに乗ろうとも、確実に執務官を始末できる者を送り込めばいいのだ』

『それはそうだが、いったい誰を? 執務官を殺すとなると、事情を知らない局員は動かせん。どうあっても我々の影響下にある者を差し向けなければならない』

『執務官のランクはAAA+。相当の戦闘能力の保持者。これを上回るほどの魔導師はそう多くないぞ。それも我々の影響下にある者ともなると』

『この際、何か虚偽でもでっち上げて罪を着せればよいのでは? そうすれば局員を大々的に送り込んで捕らえられる』

『何を言っている。その場で局員たちに執務官が知ったことを喋られたらどうするのだ!』

『犯罪者の言うことだ。局員たちも本気では受け取らないだろう?』

『受け取るかどうかの問題ではない。局員たちの頭にどうしても残ってしまうのだ。ましてこれを3提督が聞きつけたらどうする? これ幸いと連中は動き出すぞ!』

 

 時空管理局の局員は使えない。武装隊も次元航行隊も、他のどの部隊であっても、身内は使えない。3提督もこの執務官の動向を注視しているとなると、下手に管理局員を動かしたり、執務官に冤罪を着せようとすれば、即座にその出所を探り出すだろう。これが充分な隠蔽工作をできるだけの余裕があればいいのだが、クロノが予定する日時は明日に迫っている。とても間に合わない。クロノのこと、これも想定しての日時設定なのだろう。

 これはメッセージなのだ。クロノ・ハラオウンからの挑戦状。

 

 

 

――僕は、お前らの存在に気づいているぞ。

 

 

 

 丁寧な報告書の文章。その裏に隠れた、クロノ・ハラオウンの過激な意思。わかる者にはわかるように、彼は文章を練ったのだろう。誰にこの報告書を渡せば黒幕に伝わるか、黒幕が充分な対策が練れないだけの、しかし何者かを差し向ける程度には余裕のある時間設定はどの程度か。計算尽くしというわけだ。

 

『これは、おそらく監視されていることにも気づいているな』

 

 反応しようがしまいが、クロノはある程度の確信が持てる。そういうふうに動いている。

 

 

 

 だが。

 

 

 

『所詮は、子供の悪知恵よ』

 

 

 

 百年以上を生きる身を舐めないでもらおうか。お前くらいの者など、いくらでも相手にしてきた。こちらは多次元世界という大きな人の社会を前に戦い、この『秩序』を打ち立ててきたのだ。ちょっと成果を上げた程度の小僧1人、抑える手段などいくらでもある。

 

――それを教えてやろう。

 

 合成音でもわかるほどの、重く暗い色を含んだ一言に、評議員と書記、そして女性も黙り込む。元々話に割り込む真似も、ロクに反応も見せない彼女だが、さすがにその声には幾許かなりとも戦慄を覚えさせるものがあったらしい。

 

『この執務官は、何者かの意図を感じている。だが、何者かまではわかっていない。そうであったな?』

「はい」

『つまり、3提督どもはある程度我々であろうという疑念を持っているが、この執務官はまだ内部か外部かもわかっていない。ならば、外部の何者かが仕組んだものと思わせればよいのだ』

『どこかの組織にこの執務官を始末させると?』

『左様』

『しかしどこの組織を?』

『――〝グラーバク〟。そう言えば、貴公らもわかるだろう?』

『……なるほど』

 

 それは、最高評議会がレジアス以外に持つ駒の1つだった。

 『彼』は、聖王教会にも通じている。聖王教会の強硬派最先鋒である『ラルド派』にも顔が利くのだ。

 つまり議長の提案は、『彼』を通じてラルド卿にやらせようということである。

 ヴァルデマー・ラルド枢機卿。強硬派『ラルド派』の盟主。時空管理局を毛嫌いしており、ベルカや聖王教会第一主義を地で行く男だ。

 普通に考えれば、ラルド卿が時空管理局の、それも最高評議会の思惑に乗るわけがない。むしろ最高評議会はラルド卿にとって敵の中の敵と呼べるのだから。

 今回は、ラルド卿のその第一主義を利用させてもらう。

 

『ラルド卿にとって、クロノ・ハラオウン執務官は何よりの敵でしょうからな』

『そう言えば、あのハイメロート前理事官も、八神はやてを強く勧誘していたそうではないか』

 

 聖王教会、特に強硬派は、はやてと夜天の魔導書を聖王教会にヘッドハンティングしようとしていた。はやてはそれを何度も断っていたが、強硬派が引くことはなく。

 困っていたはやてを庇ったのが、クロノだ。自分の部下としてクロノははやてを下に置き、はやてに浴びせられる非難や嫌がらせ、そして聖王教会の圧力からはやてを守っていた。

 だからラルド卿にとって、クロノは非常に腹立たしい、邪魔な存在なのだ。ましてクロノは闇の書事件の立役者の1人。しかも現場指揮を担っただけあって、ある意味、代表格とも言える。闇の書事件によって聖王教会はカートリッジシステムや融合デバイスという、本来ベルカの魔導技術を時空管理局に引き渡さねばならない羽目になった。聖遺物盗難事件で時空管理局に対する発言力が低下していた最中のこともあり、ラルド卿には我慢ならない屈辱だったはず。その怒りがクロノに向けられても何らおかしくはない。

 

『ラルド卿本人は至って単純な男だ。権力を振るうことしか頭になく、過去のベルカの威信とやらにしがみついている亡者。ある意味、扱いやすい男よな』

『あの男のこと。子飼いの『ゲルプ隊』でも動かすのでは?』

 

 ラルド卿は独自の私兵など持っていない。ただ、教会騎士団の第3部隊『ゲルプ隊』が彼の私兵に近い。ラルド家の影響が大昔から残っているエリート集団なのだ。

 ラルド家は元々教会騎士団を束ねる団長を多く輩出してきた武闘派の家系。生憎とラルド卿は戦闘技能に関してはとんと才能がなく、団長にもなれなかったが。

 聖王教会騎士団は聖王の魔力の色たる『虹』――『カイゼル・ファルベ』にあやかり、7つの部隊(ファルベ)で構成されている。

 

 

 

 第1部隊(エアスト・ファルベ)『ロト隊』。

 第2部隊(ツヴァイト・ファルベ)『オランジュ隊』。

 第3部隊(ドリット・ファルベ)『ゲルプ隊』。

 第4部隊(フィーアト・ファルベ)『グリューン隊』。

 第5部隊(フュンフト・ファルベ)『ブラウ隊』。

 第6部隊(ゼクスト・ファルベ)『インディゴ隊』。

 第7部隊(ズィーベント・ファルベ)『リーラ隊』。

 

 

 

『別に何を使っても構わん。要は我々時空管理局が動いたわけではないことがわかればそれでよい。金を出せば動く犯罪組織はいくらでもある』

「『無限の欲望』にも対処させますか?」

『必要ない。むしろジェイルは絶対に動くな。動けば逆に面倒だ』

「承知いたしました」

 

 ジェイルが動いたら時空管理局員が動くよりもむしろ厄介だ。クロノが余計に時空管理局とジェイルの関係を疑うことになる。S+ランクのゼストさえも殺すことができたのだから、AAA+ランクのクロノにジェイルの戦闘機人の相手はきついはずだ。だが、何らかの逃走手段を用意している可能性はある。念には念を入れておいた方がいいだろう。

 

『決まりだな。〝グラーバク〟にラルド卿を動かすように指示を出せ』

 

 

 

 

 

――クロノ・ハラオウンを、始末せよ。

 

 

 

 

 

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