リリカルなのは ANOTHER LOCUS   作:ウルフ中隊

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EPILOGUE

 

 松葉杖を使ってみたい。そう言ったら怒られた。

 

「冗談のつもりだったのに……」

「信用できない」「信用できんわ」

 

 しかも容赦なく弾劾された。仕方がないとわかってはいるが、本当にちょっとした冗談のつもりだっただけに虚しくなる。今の自分の信用の無さに、自業自得であるとはわかっていても。

 まあ、確かに。仮に「少しだけだよ」「しゃあないなあ」なんてフェイトとはやてが応じていたら、本当にやっていたかもしれないけれども。フェイトもはやても、なのはは本当にやりかねないと親友ゆえにもうわかっているからこその対応である。

 

「なのは」

「にゃう……申し訳ございません」

「ん、わかってくれればええんよ」

 

 チラリとフェイトに視線を送るが、フェイトから返ってくるのはいい笑顔。少し前までならなのはの上目遣いやお願いには弱く、強く出れば引いていたはずのフェイト。それが嘘のように、フェイトはたまにこういう笑顔を浮かべるようになった。有無を言わせぬ、いい笑顔を。

 はやてはもともと母性が仲間内で一番と言ってもよかったが、ここのところ母は母でも肝っ玉母さんのようなところも窺わせる。はやて曰く、「毎日毎日懲りない嫌がらせ受けてりゃこうもなるわ!」だそうで。上目遣いや涙目のお願いは生憎とフェイト以上に効果がない。

 

「……おにーちゃん」

「素直に聞いておけ、妹よ」

「おにーちゃんのいけず」

 

 最後の頼みの綱の恭也も、小さく笑うだけ。なのはに甘いところがあるこの兄も、フェイトとはやてに睨まれるのはお断りらしい。ぶすっとするなのはに、フェイトとはやては顔を見合わせて笑い合い、そして少し身を屈ませた。

 

――なのはの事故から2ヶ月。ようやく退院が許された。今日はめでたく退院の日である。

 

「なのは、掴まって」

「ありがとう、フェイトちゃん、はやてちゃん」

「気にせんでええよ。私もしてもろてたことやし」

 

 フェイトとはやての肩を借り、ベッドから車椅子へ。2ヶ月前までなら、こんなときも意固地になって1人でやろうとしただろうけれど、もはや意固地になる必要も強迫観念もない。素直に2人に助けてもらう。心配をかけ通しだっただけに、今度は世話になりっぱなしで心苦しいことこの上ないのだが、2人は世話を焼かなければ気が済まないので、なのはの心苦しさは無用の長物。とは言え、やっぱり心苦しさは感じてしまうもので。

 

「じゃあ、その心苦しさを我慢してもらうのが1つ目の罰だよ、なのは」

「え、まだあるの!?」

「ほっほう、1つくらいで許してもらえるとでも思てるん?」

「……おに~ちゃ~ん」

「……素直に聞いておけ、妹よ」

「ううううう……」

 

 心配をかけ始めたのは夏頃で、堕ちるまで半年。まさか同じ期間、この心苦しさや他にもたくさんの罰を受けなければならないのだろうか。そう思うといくら自業自得だと言っても慈悲がなさすぎると反論したい。ただし、口にはしない。あくまで心の中でだけ。口にしたらいい笑顔を両側から浴びせられ、しかもこのことをアリサとすずかに告げ口され、アリサとすずかからも同じ笑顔で迫られるという針のムシロになってしまうことは目に見えているからだ。

 だからせめて、頼りになるけど今は頼りにならない、大好きだけど今ばかりはちょっぴり嫌いな兄に、恨みの視線を向けて八つ当たりをするなのはである。車椅子を動かないように持っている、場の空気を読んで本当に空気のように存在感を消しているヴィータにも。

 

「ヴィータちゃ――」

「アタシに振るな」

「せめて最後まで言わせてよお!」

「うるせえ! 下手にオメーに甘くするとはやてとフェイトが後で怖いんだよ!」

「ええ子やなあ、ヴィータ」

「うん、ヴィータはいい子だよ」

「ワァイ」

「すごい棒読み!」

「ナンノコッチャワカリマヘンナ」

「その片言の関西弁がすごく嫌だよ!」

「ソナイデッカ」

「うわああああああああん!」

 

 とりあえず。四面楚歌であることは嫌というほど理解できる状況であった。ただのちょっとした冗談が招いた悲しすぎる結果に、なのははがっくりと項垂れる。今日はめでたいはずなのに全然めでたくない。ちょっと布団にくるまって枕を濡らしたい気分だった。

 

「いいもんいいもん……私が悪いんだ。わかってるよ、わかってるもん、わかってますよぅ……」

 

 いじけ始めたなのはに、さすがにヴィータがはやてに懇願の目を向ける。もう勘弁してやってくれよと。その視線を受け、はやてはフェイトと目を合わせ、苦笑1つ。

 

「リハビリの時やったら何も言わんよ」

「だからそれ以外の時は我慢して。ね、なのは?」

 

 優しく声をかけるフェイトとはやてに、なのはは涙目で見上げる。泣き真似ではなく、本当の泣き顔だ。さすがにフェイトとはやても本当に泣かれてしまうとこれ以上意地悪をする気にはなれなかった。

 これからなのははリハビリを海鳴の大学病院で行うことになる。時空管理局にもリハビリ施設はもちろんあるが、次元空間に浮かぶ限られたスペースしかない本局には、長期間のリハビリを前提とした施設はない。そうした施設は地上に置いている。そちらに移るという選択肢もあったが、早く自宅に帰りたいし、学校にも復帰したいなのはにとって、世界を越えた先に入院し、そこから通うというのはできなかった。だから自宅に戻り、そこから学校に通いつつ、海鳴大学病院にてリハビリを行うことにしたのだ。海鳴大学病院にははやての主治医だった石田医師もいて、なのはの担当医を快く引き受けてくれていた。ただし、魔法に関する治療や検査は時空管理局やその関係者しかできないので、そちらはシャマルが担当医となってくれている。

 

「復帰したらしたで、強化特訓も控えてることやし」

「はうっ……」

 

 ファーン・コラード三佐から復帰後に顔を出せと命令されていることを指摘され、なのははかつての鬼特訓を思い出して顔を引き攣らせた。いい教官なのだが、如何せん訓練が厳しいのなんの。そんな人からマンツーマンで鍛え上げてくれるとの申し出は本来ならば光栄なこと……なのだが、たった3ヶ月、されど3ヶ月、過去に味わった辛苦は脳裏に深く刻み込まれている。

 

「ふぇ、フェイトちゃんとはやてちゃんも一緒に受けよう? ね? ね!?」

「ご、ごめん、なのは。私も執務官試験の勉強があるから……」

「や、私は基本、後方の固定砲台がええとこやし。他の人に魔力運用見てもらうことになっとるんよ。まあ、ぶっちゃけた話、道連れはゴメンや」

 

 以前は2人だった。2人だったのにきつかった。それが今度は1人でみっちりしごかれるとなれば、その辛苦は前よりも大きいということ。ぞっとする話である。頼みの綱の救援要請を敢え無く拒否されてしまい、なのはは早く復帰したい気持ちとちょっとだけ復帰を遅らせたい気持ちの両挟みになってしまう。

 

「……はやて、フェイト。追い打ちかけんのも程々にしてやってくれよ」

 

 ヴィータのちょっとだけ責める視線に、フェイトとはやてが謝って。

 そんな4人を恭也は全員の荷物を持ちながら微笑ましく見ていた。そして4人の背を押すように言う。

 

「さあ、早く帰るぞ。皆、首を長くして待っているだろうからな」

 

 海鳴に帰りつく頃にはちょうど夕食の時間帯だろう。今日はこのまま自宅ではなく翠屋へ向かうことになっている。

 なのはの退院祝いをするために。

 

 

 

 

 

 散々からかわれたなのはは翠屋に着くまでずっと頬を膨らませ、道中フェイトとはやてはご機嫌取りに終始することになる。

 翠屋に帰りつくと、なのはは店を見上げ、感慨深げに息をついた。入院でずっと来られなかったというのもあるが、もっと長く来ていなかった気がする。自宅と同じくらい大切な場所である、この翠屋。ここにさえ自分は長らく足を運んでいなかった。2ヶ月前までの自分がどれだけ余裕のない状態であったかを改めて痛感せずにはいられない。そんな状態であったにもかかわらず大丈夫なんてよくも言えたものだと、自分で自分に呆れてしまう。

 

「うう……」

 

 感慨に耽るのも悔やむのも今はよそう。そう思って車椅子をヴィータに押してもらおうとして振り向くと、なぜか落ち着きのないフェイトが視界に入った。

 

「どうしたの、フェイトちゃん?」

「な、何でもないよ」

「何でもないって顔じゃないよ?」

 

 もう陽が落ちているが、翠屋から漏れる照明で見えるフェイトの顔は明らかに真っ赤だとわかる。さっきまでからかったりご機嫌取りをしてたりしていた人物とは思えない。

 

「やっぱ必死になって忘れようとしとったんやな」

「どういうこと、はやてちゃん?」

「ん? ああ、そういやなのはちゃんは知らへんねんな。聞いたってや、なのはちゃん。実はフェイトちゃんとユーノくんな~」

「は、はやて!」

「あいったっ!?」

 

 楽しそうに。それはそれは楽しそうにはやてが訳知り顔で喋ろうとすると、横合いからフェイトが割り込んで止める。『ブリッツアクション』を使ってまで。しかもノンキャストドライブ(無詠唱)。高等技法の無駄遣いである。

 そんな勢いではやての口を塞ごうとすれば、そりゃあ痛かろう。いい音もしたし。口を押さえて涙目のはやてに、なのはは若干の同情と、フェイトをからかおうとしたのだから自業自得だという呆れを載せた溜息を吐く。後ろでヴィータも同じように。

 

「ちょう、今のはひどいんとちゃうの!?」

「はやてが悪い!」

「ええ加減に覚悟決めようや。いつまでも逃げ回ってたかてしゃあないやん」

「わ、わかってるよ。わかってるんだよ? でも、その、私……あううう……!」

 

 フェイトがその場に蹲る。耳まで真っ赤に染まった顔を隠し、頭を手で押さえて。穴が入ったら確実に入ろうとすることだろう。

 何がいったいフェイトをそこまで追い込んでいるのか、なのはにはわからない。なので、先ほどはやてが言いかけた言葉の中にユーノの名前があったから、そこからなのはは見当をつけてみる。

 

「もしかして、ユーノくんとまだ喧嘩してるの?」

 

 ユーノという名前が出ただけで体をびくつかせるフェイト。まず間違いなくユーノに関わることだろう。

 なのはもユーノとフェイトが戦ったことは知っている。フェイトが勝ち、ユーノが負けたことも。

 ユーノはあの後、大きな魔力ダメージを受けたことで数日ほど入院したが、あくまで魔力ダメージなのですぐに退院できた。そしてなのはの元にきちんと謝りに訪れている。ただ、ユーノがいったい何をしようとしていたのか、それはまだ話してもらっていない。もちろんなのはとしては追及したいところであったが、まだユーノの方に躊躇いがあるらしい。いつか必ず自分の口から話すから、というユーノの言葉を信じ、今は待つことにした。ユーノを追い込んだ責任が自分の撃墜にあることは明白なだけに、なのはとしてもそう強く出られなかった。

 

(……やっぱり、まだ背中の温かさは戻ってこないけど……)

 

 フェイトに喧嘩しているのかと聞いておきながら自分はどうなのだろうかと自問する。喧嘩はしていない。もう一度笑い合うこともできた。

 けれど、どこかかつての温かさはない。

 その理由を、なのはも、そしておそらくはユーノも気づいている。

 互いが最大の理解者だったからこそ、気づかないはずがないのだ。

 とにもかくにも。

 なのはとユーノのことはさておき、ユーノとフェイトについては思い切り戦ったと聞いている。戦って以降、フェイトがユーノに対して怒っていたり不満そうにしていたりということはあったが、決して嫌っているわけではないだろう。『仕方がないんだから』という、心配させられているからこその怒りや不満というニュアンスが容易に読み取れたのだから。

 ではこの縮こまった、いっそ空気みたいに薄い存在になりたいなんて呟いているフェイトの様子はいったいどういうことなのか。

 

「まあ、何や。いろいろ本音でぶつかり合ったみたいやからねえ」

「それは知ってるけど。仲直りできてないの?」

「いや、俺はその場にいたから仲直りをしていたのも見ていた。まあ、続けてちょっとした言い合いはあったが」

「じゃあ、どうして?」

「あんな、なのはちゃん。本音でぶつかり合うたっちゅうことはや。何も日頃の鬱憤をぶちまけただけやないっちゅうことやねん」

 

 ユーノもフェイトも互いに対して思うことは多々あった。これまでならば抑え込んでいた想いはたくさんある。心配や不安、感謝。そしてそれだけではなく、妬み嫉みに不満など、別にユーノとフェイトに限らず、人なら誰しも相手に対して口にはしづらいものも。

 

「まあ、一例を上げるとな、ユーノくんはフェイトちゃんに嫉妬してたらしいんやわ。けどな、同時に憧れてもいたんやて」

「……あ~」

 

 ユーノがフェイトに憧れや嫉妬を抱いていたと聞いて、なのはにそれほど驚きはない。何とはなしに理解できるから。

 ただユーノも年頃の男の子。女の子を相手にして嫉妬したことや憧れを抱いていたことなんて、普通なら恥ずかしくて口にはできないだろう。まして自分のことをあまり主張しないユーノならば尚更。そしてそれはフェイトにも言えること。

 

「フェイトちゃんもユーノくんに何か恥ずかしいことを言っちゃったんだね」

 

 正解、とはやても恭也も答える代わりに肩を竦めて困った笑みを浮かべる。ヴィータも含めて生温かい視線でフェイトを見やると、フェイトはますます縮こまってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 喧嘩の最中は互い理性のタガが外れていた。もちろん理性をかなぐり捨てて本能を剥き出しにしたわけではないが、少なくとも理性の縛りが緩くなっていたことは間違いない。

 『依存』に縛られていたからこそ、本音を必要以上に抑え込んだ。だから本音を言葉にして、そして行動に移してはっきりと伝えることが、あの戦いでは何より重要だった。例えあの場あの瞬間では相容れなかったとしても。

 精神は高揚し、昂る心そのままに打ち明けた。相手にぶつけた。

 その根本にあるものは、決して敵意でも悪意でもなく、大切だと思う気持ち。どんなに考え方や選んだ方法が相容れなかったとしても、根本にあるものはユーノもフェイトも同じだった。だからこそ互いの心に響いたのだ。

 

「あ」

「え」

 

 喧嘩をして、仲直りもして。

 ユーノとフェイトにとって初めての経験は、後になってみれば恥ずかしいことではあったが、とても大事なこと。2人して生涯忘れられない大切な思い出となるだろう。

 それはいいのだ。

 そう、それ自体は、別にいいのだ。

 ただ問題が1つ。

 

「や、やあ、フェイト」

「ユ、ユーノ……!」

 

 ユーノもフェイトも魔力がすっからかんになるほどの戦いにより、体力も限界。加えて、お互いに『依存』を振り払って本音でぶつかるという、精神的にも大きな壁を乗り越えたのだ。まだまだ『依存』を完全に振り切ったわけではないけれど、大きな切欠にはなろう。ただ、やはりこれまで逃げ続けていたものに立ち向かった疲労はとても大きい。

 体力も魔力も、気力さえも一杯一杯。ユーノは魔力ダメージが残っていたこともあって検査入院。フェイトも数日学校を休んで自宅で静養。だからその間はお互い顔を合わせることはなく。

 疲れたけれど、自分が成し遂げたことと、2人の間にできた『絆』を実感して温かい気持ちになれて、2人共に体力も魔力も気力も充分に癒えた。さあ、今日からはまた笑って会おう。

 と、2人して上機嫌で時空管理局本局の通路を歩いていて。

 ふと、気づいたのだ。

 

『あれ?』

『あれ?』

 

『そう言えば……』

『そう言えば……』

 

『僕はあの戦いで』

『私はあの戦いで』

 

 

 

『フェイトに何を口走ったっけ?』

『ユーノに何かとんでもないこと言っちゃった気が……』

 

 

 

 と。

 

「あ~、えっと、その……!」

「~~~~っ」

 

 御礼もしたし、愚痴も言うだけ言った。伝えるべきことはすべて伝えた。

 しかしである。

 伝えなくてもいいことまで言ってしまったのではないか。勢いに任せて、とんでもないことまで。

 

――『ダメなんだよ、フェイトがいると!』

――『フェイトのいいところでもあるし、そんなフェイトが僕は好きだけどね』

――『僕にとって。フェイト・テスタロッサ・ハラオウンって子は、眩しくて、優しくて、温かくて……憧れだったんだ』

――『君のことは、よく知っているよ』

 

――『私にとって、ユーノの記憶は大事な記憶なんだ!』

――『私たちを……私の気持ちを、馬鹿にしないで。ユーノの馬鹿』

――『私、やっぱりユーノをことを嫌いになんてなれない。ユーノに、私のことを忘れてほしくない。ユーノのことを、嫌いになんてなりたくない。ユーノのことを、忘れたくない』

――『私がユーノのこと、どれだけ大切に想ってるか、全然わかってないくせに!」

 

 一度思い出してしまえば後は芋蔓式。どうしてあんなことを言えてしまったのか、そして言われた瞬間には言い返せていたのか不思議なくらいだ。思い出しただけでこんなに、瞬間沸騰とでも言わんばかりに顔の温度が急上昇しているのがわかってしまうくらい恥ずかしいというのに。

 挙句の果てには……。

 

 

 

――『私ね。ユーノの手、好きだよ』

――『僕もね、フェイトの手が好きだよ』

 

 

 

 もはやそれは告白ではないのか。

 

「うあ……」

「あう……」

 

 そしてこういう時に限って不意打ちのように出会ってしまうわけで。しかも相手も相手で自分を見た途端にこれ以上赤くなるのかと疑問に思うほどに真っ赤になるのだ。どう考えても自分と同じことを思っているのは明白。しかも互いの顔が見れなくて視線を逸らしたり顔を俯かせるも、その視界に相手の手を捉えてしまってさらに心臓の鼓動を跳ね上げてしまう始末。

 

「あ、あああ、あの、フェイト、ごめん、僕、ちょっと、急がないと、いけなくて!」

「う、うん! わわわ私もちょちょちょちょっといいい行くところがあって!」

 

 行くところも何も、まさにお互いに会おうと思ってユーノはハラオウン家に、フェイトは無限書庫に行こうと思っていたところだったのだが。

 変な片言になるユーノに上手く言葉を紡げないフェイト。2人して錆びた機械のようにぎこちなく手を振りながら互いに後退。通路の曲がり角で互いの姿が見えなくなった途端、緊張の糸がぷっつり。

 

「うわああああああああああああああ!」

「きゃああああああああああああああ!」

 

 真っ赤な顔で叫びながら通路を全速力で走り抜ける2人。

 その日以来、局員の間で『青春日記』――命名はアレニア司書だったりする――などと噂される光景がちょくちょく見られたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、フェイトちゃんとユーノくんのことだったんだ……」

 

 そう言えばそんな変な噂をなのはもチラッと聞いたことがあった。フェイトが見舞いに来ていたとき、居合わせた看護師が温かい目をユーノやフェイトに向けていた気がしないでもない。

 フェイトはそんな噂になっていたことは初耳で、しかもなのはまでもが耳にしていたことを知り、恥ずかしさで死ねそうなくらいである。はやてとヴィータが咄嗟に襟首を掴んでいなかったら、『ソニックムーヴ』で逃走を図っていたことだろう。

 

「フェイトちゃんフェイトちゃん。海鳴の街でも『青春日記』やらかす気かいな」

「それやめてくれないかな!?」

「ほらほら、ここまで来たら覚悟を決めなさい、フェイトちゃん」

「うう、なのは、さっきのお返しのつもり?」

「さあ、どうでしょう~♪」

「あうううう……」

 

 当然ながら今夜の退院祝いの集まりにはユーノも呼ばれている。その連絡をしたのは他でもないフェイトだ。用件だけを言って通信を切った直後、互いにまた恥ずかしさに身悶えていたのは、そのときにちょうどユーノとフェイト、それぞれのそばに居合わせていたクロノとはやてだけが知っている。

 このまま翠屋の前で喧々諤々していても始まらないので、はやてがフェイトを引っ張り、翠屋の扉を開ける。扉を開けると、士郎や桃子の笑顔が迎えてくれる。以前とまるで変わらない翠屋に、『ああ、ようやく帰ってきたんだ』となのはは申し訳なさを抱きながらも安心している自身の心を強く実感した。

 

「おかえり、なのは!」

「――ただいま!」

 

 代表するように美由希が涙目で車椅子のなのはを抱きしめると、なのはも満面の笑顔で大好きな姉を抱きしめ返す。放っておいたらいつまでもそのままな2人にアリサが痺れを切らせ、すずかがどうどうと押さえながらも、アリサより先になのはに抱きついて。

 

「くおら、すずか! ちゃっかり抜け駆けしてんじゃないわよ!」

「アリサちゃんが素直じゃないだけだよ」

「ぬあんですって~!」

 

 出遅れたアリサは抜け駆けのすずかの襟首をむんずと捕まえるが、すずかは強くなのはに抱きついて離れず。こうなるとムキになるのがアリサであって。

 そんな、いつも通りの光景。

 その『いつも通り』がどれだけ幸せなことなのか。なのはは本当に自らの過ちの大きさに気付かされるのである。アリサもすずかも本当は泣いて喜ぶところ、せっかくのなのはの退院祝いだからとこうして振る舞っているのだろう。親友の優しい心に、今のなのははしっかりと気付くことができる。だからこそ、自分もいつも通りに振る舞うのだ。

 

「2人とも! ケンカしちゃいけません!」

「はい」

「悪かったわよ」

 

 あっさりと引き下がるすずかとアリサ。睨むなのはと、笑うすずかに恥ずかしそうなアリサ。3人が3人とも、示し合せたわけでもないのに吹き出して。それがフェイトやはやて、シグナムやヴィータ、シャマルにザフィーラと伝播し、翠屋中が笑いに包まれる。

 それが何だか、無性に嬉しい。

 すっかり機嫌が良くなったなのはを席に移動させ、同じテーブルにフェイトにはやてにヴィータ、そしてアリサにすずかが座って。

 ふと、なのはは首を傾げた。フェイトはともかく、何だかはやてもヴィータもアリサもすずかも、笑いを堪えるようにしているものだから。どうしたのかと聞いても教えてくれない。

 

「まあ見ていろ、高町なのは」

「面白いものが見れるわよ、なのはちゃん」

「楽しみにしておくといい」

「面白いもの?」

 

 シグナムもシャマルもザフィーラさえも小さな笑みを浮かべているだけで答えてくれそうにないので恭也に目を向けると、恭也も視線に気づいてふっと笑う。恭也のことはよくわかっているなのはだけに、『すぐにわかるさ』と言っていることは察しがついた。答えはやっぱり教えてくれないようだ。

 さて何が飛び出すやらと思っていると、厨房の方から料理が運ばれてきて。

 

「へ?」

 

 

 

 2人のウェイターの手で。

 

 

 

 周囲が必死に笑いを堪えながらも肩を大きく震わせる中、2人のウェイターはテーブルの前にまでやってきて。

 

「「……お帰りなさいませ」」

 

 主賓であるなのはの正面で、恭しく頭を下げた。

 

「えっと……ク、クロノくんとユーノくん? 何してるのかな?」

 

 翠屋とて喫茶店である以上、ウェイターやウェイトレスがいる。しかし制服はそう堅苦しいものではない。しかし目の前にいるウェイター2人は燕尾服に身を包んでおり、料理をテーブルに置いてから胸元に手を置いて頭を下げる様はもはや執事のそれだった。

 

「気にするな」

「え~……」

()()()()()

「あ~、なのは……ツッコミは敢えて入れないでくれると助かるかな」

 

 笑顔の欠片もない、いつも以上にムッツリとした顔で凄むウェイターと、少々服が大きかったのか、体にフィットしておらず、苦笑いのもう1人のウェイター。

 ぶっちゃけた話、クロノとユーノである。

 時折眉が引くついているクロノを、ユーノが背中を押して厨房へと引き返していく。さっさと次の料理を運ぶよと。無言のままのクロノはウェイターとしてはもはや失格であろう。ゲストを威圧してどうすんですか、とアリサが溜息1つ。横でクスクスと笑うすずかはどこか小悪魔のようになのはには見える。

 

「なんで?」

 

 とりあえず事情を知っているはずの周囲へと首を傾げて問うてみると。

 

「くふふふふ……い、いやな、実はクロノくん、無茶したことを責めとったときに、お詫びに何でも言うことを聞くって言うたもんやさかい」

 

 フェイトとはやてに対してはっきりと告げたクロノ。心配したのはフェイトとはやてだけではないので、結局は全員の言うことを聞くことになった。そして退院祝いに何かサプライズを、ということになり、集まりそのものをサプライズで開くというのは新鮮味がないからと、この約束を上手く利用させてもらったわけである。

 ユーノもユーノでフェイトに対してできることなら何でもするよと言ったわけで。全員に対してひどいことを言ってしまった手前、フェイトだけにというわけにもいかない。

 こうして仲間たちの言いなりになったクロノとユーノは、なのはの退院までの間、密かにアリサの家の執事である鮫島と、すずかの家のメイドであるノエルとファリンからみっちりとしごかれることになったのである。詫び代わりに仲間たちへの奉仕という罰を受けるために。

 

「少しは驚いてもらえたかな、なのは?」

 

 料理を運んできたユーノが困った笑みを浮かべながら聞いてくる。敢えてフェイトの方を見ないあたり、何とか『青春日記』なる行動を起こさないように必死に耐えているというところか。フェイトも顔を俯かせてユーノを見ないようにしている。

 

「うん、何かあるかな~とは思ってたけど、これはちょっと予想つかなかったから。ふふ、似合ってるよ、ユーノくん」

「やめてよ。さすがにガラじゃないのはわかってるんだからさ」

「そんなことないけど。うん、服のサイズは仕方ないとして、あとはネクタイが曲がってなかったら完璧だったね」

「え? うわ、ホントだ。おかしいな、ちゃんとしたはずだけど……」

 

 結び目の辺りで若干ネクタイが捻じれているし、やはり服のサイズが合っていないためにダボついている点を厳しくなのはが指摘する。なのはも翠屋の手伝いをしているので、ウェイトレスとしてのイロハは身に付けているからこそだ。

 

「お前が『青春日記』をやらかそうとしたからだろうが」

 

 そこでユーノの後ろからクロノが小突く。途端、恨みがましい目をクロノに向けるユーノ。ユーノも『青春日記』などと自身がやらかした行動を噂されていることを知ったのだろう。耳どころか首元まで真っ赤だ。ましてすぐ近くにフェイトもいるのだ。

 実はユーノも間もなくなのはが到着するとはやてからの連絡で知らされ、強引に意識の外にやっていたフェイトの存在を否応なく思い起こされた挙句、先のフェイト同様、逃走を図ろうとした。そこをクロノに掴まり、揉み合ってしまったので、そのときにネクタイが曲がってしまったのだろう。

 

「いつまでフェイトから逃げ回るつもりだ、青春もどき」

「誰が青春もどきだ!」

 

 クロノとユーノの間に合ったわだかまりもすっかり元通りだ。いつも通りの憎まれ口の叩き合いに、ああまた始まったとばかりにヴィータが「よく飽きねえよな、こいつら」と漏らす。ヴィータもクロノのことはすでに許してはいるが、代わりにクロノの財布が大量のアイス購入のせいでかなり軽くなってしまったことはなのはも知るところである。だがクロノに言わせればヴィータの要求の方がはるかにマシ。15の男子が年下の女の子たちに振り回されている様は一見して非常に居心地が悪い。その鬱憤をユーノに向けてぶつけるのもどうかというところであるが。

 

「だいたい調子に乗るなよ、お前! 僕を止めてくれたのはフェイトであって、お前じゃないんだぞ! 命がけで助けに行った貸しを返してもらったわけじゃない!」

「魔力がすっからかんになって墜落するお前たち2人を受け止めてやったのは僕なんだが? そのために傷が開いたんだ。そら、充分返しているじゃないか」

「じゃあ、あの話は受けないってことでいいよね?」

「ダメに決まっているだろうが。すでにお前が参画することは決定済みだ」

「僕、了承してないよね!?」

「僕と恭也さんの顔を潰すつもりか」

「お前はともかく、恭也さんを引き合いに出すのはずるいだろ!」

「あのな、お前がやらかそうとしたことは本来、罪なんだぞ? 未遂に終わったとは言え、だ」

「うぐ……」

「つまりだ。お前は逆に僕に貸しがある。それを返してもらうというだけだ」

 

 ユーノがやろうとしたことはロストロギアの無断使用。まだ見つかっていなかったイデアシードだったが、ロストロギアと知って行ったことだ。実際に使用するには至らなかったとは言え、未遂罪は成立してしまう。

 まだ手にする前にフェイトに止められたこともあるが、あとはクロノが得られたコネで色々と手回しをしたことが大きい。もちろん、そのコネの中には3提督も含まれている。協力することになった初っ端から余計な手間をかけることとなり、クロノはミゼットの「若いわねえ」という呆れ混じりの苦笑に大変肩身の狭い思いをさせられた。理想へと向けた第一歩をいきなり躓いたようなもの。ここで3提督の信頼を失ったらシャレにならない。ゆえに、これは充分に貸しと言える。

 

「それはあの論文の提出でチャラだろ」

 

 僕は発表する気なんてなかったのに、とユーノは愚痴った。ジュエルシードとイデアシードに関する論文は、出す気があれば当の昔に出していたはずのもの。フェイトにとって嫌でもプレシアのことを思い出させる懸念もあって、ユーノとしてはフェイトとのことが一件落着しても世に出すつもりはさらさらなかった。

 今回の一件で論文の存在を知り、クロノが発表するよう強く勧めたのだ。フェイトもまったく気にしないからと快く、むしろクロノと一緒になって。

 

「おかげで変に取材とかスカウトとか来るし……」

「いいじゃないか」

「全然良くない。断ろうとしてるのにお前が勝手にスケジューリングしちゃうし、すごく迷惑なんだけど」

「お前の負担はこの際無視だ」

「おい」

「無限書庫のため、そして司書の方たちへの謝罪代わりとでも思え」

 

 クロノが半ば強引に発表させたのは、本当に無限書庫のためである。

 イデアシードはともかく、ジュエルシードは次元震を起こしかけたロストロギアとあってまだ人々の記憶に残っている。考古学会では言わずもがな。しかし資料は少なく、研究は進んでいない。そんな中、ユーノがジュエルシードに関する詳細な情報を含む論文を発表することで、そんな詳細な資料や証拠をどこで見つけたのかという疑問は当然出てくるわけで。

 『無限書庫司書』のユーノ・スクライア。

 ユーノの知名度が上がるとともに、無限書庫の名も知られることになった。これによって、無限書庫への目を引くことに成功したわけだ。高名な考古学会までもが騒ぐほどになるとはクロノにとっても予想外だったが好都合である。

 

「局内での扱いを内部から変えることが難しいなら、外部の目を使う。メディアや学会が騒げば、管理局も無視はできない。特に考古学会はロストロギア関連において非常に発言力がある存在だ。加えてロストロギアによる事件が立て続けに起こったことで人々の危機意識も高まっている。無限書庫の存在を知らしめ、改善のテコ入れを図るにはこの上ないきっかけになった」

「人が学術的な見地から真剣に書いた論文を思いっきり政治利用するとか、どれだけ腹黒いんだよ、お前」

「うるさい、黙れ。少なくとも、司書の待遇が明らかに上がったのは事実だろうが」

「そりゃそうだけど!」

 

 無限書庫が地道に成し遂げていった成果についても情報をリークし、無限書庫の扱いに関しても同様に。これによって、これまで無限書庫を管轄しながらぞんざいな扱いをしてきた本局や情報部はメディアに叩かれ、3提督の力添えもあり、司書のこれまでの待遇の悪さに改善の目途が立った。まだまだ局員からの軽視はそう簡単になくならないが、給与の増額や依頼量の調整、依頼の際のルールを明文化することなどが理事会や顧問団からの後押しもあり、局の上層部も渋々ながら決定。警備の強化などに予算も回すことになっている。

 司書の皆が喜んだのは言うまでもない。だからユーノとしては喜びたいのだが、クロノに思い切り利用されたのが納得いかず、複雑な心境であった。

 

「ああ、そうだ。あと、当の無限書庫に責任者がいないことが問題に上がってな」

「マーチンさんがいるじゃないか」

「一番の年長者というだけだ。役職上はお前と同じ一司書でしかない。そこでだ」

「……おい。まさかとは思うけど」

「お前を推薦しておいた」

「なにを勝手に!?」

「安心しろ。マーチン司書も含め、司書の方は全員了承済みだ」

「そしていつの間に!? いや、それはいいとしても僕は!? 肝心の僕の了承は!?」

「何を言う。僕とお前は一蓮托生。そういう取引だったろう? もう了承を取ってあるに等しい」

「だとしても話は通すのが筋だろ!」

「だから今通したじゃないか」

「先に言えよ!」

 

 時空管理局や世界の風潮、裏の部分。こうしたものと戦うと決めたクロノにユーノも同調した。なのはが事故に遭う直前のことであり、その後仲違いもしたが、まるでそんなものなどなかったかのようにクロノもユーノも手を組んでいるという認識に変わりはない。

 

「……むう」

「フェイトちゃん?」

 

 止めようか放っておこうかと迷っていたはやては、ふと横でいつの間にか顔を上げてユーノを見詰めるフェイトに気がついた。頬を小さく膨らませて不満げな顔をしている。

 

「どないしたん?」

「……何でもないよ」

 

 何でもないようにはとても見えない。そう言いたげなはやてに気づかず、フェイトはユーノに視線を送り続ける。生憎とユーノはまるで気付いていないが。

 クロノとユーノ。2人はユーノとフェイトのように明確に仲直りをしたわけではない。当たり前のように、そう在るというだけ。在るべき関係に戻ったというだけのこと。いや、仲違いも含めて2人は始めから何でも言い合える親友なのだとしたら、戻るも何ももともと関係は変わっていないのかもしれない。仲がいいだけではなくて、何でも言い合えて、喧嘩だって当たり前にする。

 

――『その程度で疎遠になるのならそれまでと言ったが、僕はユーノと『その程度』であるつもりはない。本当に『その程度』であったら、僕とユーノの関係は当の昔に切れているさ』

 

 いつでも本音をぶつけ合えて、相手の窮地にはイの一番に駆けつける、背中を任せ合える戦友。クロノとユーノは始めからそういう関係で、まさにクロノの言う通り『その程度』ではなかったという何よりの証明が今の2人なのかもしれない。

 フェイトにとって羨ましい関係だ。もちろんなのはやはやてとはまさにそういう関係であり、そこに不満はない。ただ、なのはのときはなのはから手を伸ばしてくれたのであって、はやての時はなのはと一緒だった。だがユーノとの関係では、周囲の支えを得ながらも最後にはフェイトが1人で戦いに向かって初めて手を伸ばして掴みにいったものだ。なのに、ユーノにとって一番強固な絆は自分とのものではないというのが納得いかない。

 今回関係がぎくしゃくする前から感じていたこと。なのはやクロノ相手だとユーノはどんなに頑なになっていても反応していた。今ならフェイトに対してもユーノは同じように反応するだろう。そのくらいの自信はフェイトにもある。

 

 けれど、一番ではない。

 

 そもそもにして、クロノとユーノも仲違いをしていたが、フェイトのように戦ってまではいない。なのはにしても、闇の書事件以降はユーノと過ごす時間は明らかに減り、フェイトがユーノに相談したり無限書庫で勉強をしたりするようになってからは、フェイトの方がなのはよりユーノと過ごす時間は長かった。なのに、ユーノとなのは、ユーノとクロノの間にある絆はフェイトとユーノの間にある絆と同じか、ともすればそれ以上。

 それだけではない。

 

「悪い、遅くなった!」

「す、すいません!」

 

 そこで翠屋の扉を開けて勇吾と那美が姿を見せた。2人して走ってきたのか、肩を上下させている。

 

「勇吾さん、那美さん!」

 

 するとユーノがクロノとの言い合いも中断して勇吾と那美のそばへ駆けていく。フェイトの眉がさらに吊り上ったのを、はやては見逃さなかった。

 

「よう、2週間ぶりだな」

「ごめんなさい。急な仕事が入っちゃったせいで先週は会えなくて」

「いえ、仕方のないことですから」

 

 ユーノの肩を軽く叩きながら勇吾は爽やかに笑い、那美も駆け寄ってくるユーノに嬉しそうに少し身を屈めて微笑む。

 あれ以来、時空管理局には来られない勇吾と那美に顔を見せるため、ユーノは定期的に海鳴に来るようになった。毎回無理して来なくても忙しいときは通信だけでもいいと伝えているのだが、ユーノは律儀に直接訪れている。そんなユーノの来訪を、勇吾も那美も喜んで迎えていた。

 

「僕も先週は無理だったので」

「おいおい、また仕事か?」

「ユーノくん? また睡眠も食事も取らずに働いてたんじゃないですよね?」

「だ、大丈夫ですよ! だから代わりに明日から2日丸々休みにしてもらってるんです」

「そうなのか。なら今日も俺の家に来るか?」

「あ、だめですよ、先輩! この前も先輩がユーノくんを独占したんですから、今回は私の家です」

「いえ、今日は恭也さんからうちに泊まればいいって言ってもらえたので」

「悪いな、赤星、那美さん」

 

 今日もユーノの肩に手を置き、振り仰ぐユーノへと視線を落とす。

 

「故あって、少しユーノから魔法や向こうの世界に関する話を聞きたいんだ。そういう話や相談ならユーノが一番だとなのはからも聞いていたのもあってな」

「お前と魔法ねえ……うん、合わないな。気持ち悪いくらい合ってねえ」

「やかましい」

 

 なのはたちが使う魔法にしても、地球で子供たちが想像するようなメルヘンな魔法にしても、恭也には似合わない。使っている姿が想像できない。その認識はこの場の全員が共有するものである。理数系の知識が必要だから、正直に言って勉強ができる方ではない恭也には難しいだろうし、メルヘンな魔法が存在したとしても恭也がそんな魔法を使う魔法使いなどと、想像ですらありえないのだ。他でもない恭也自身に自覚があるくらいなのだから。

 

「そんなわけだ。悪いが今晩はお前の弟分を借りるぞ」

「じゃあ、明日は私の家に来ませんか? お料理も練習したんですよ?」

「そ、そうですか……」

「あ、何ですか、その反応?」

「くっくっく。ユーノくんも那美さんの料理の当たり外れの大きさを理解したみたいだな」

「先輩?」

「いてっ。悪かったから手を抓らないでくれって、那美さん」

「大丈夫です。今回のお料理は今のところ一度も失敗してないんですから」

「それって本番で失敗するパターンじゃ……」

「察しがいいな、ユーノくん」

「先輩? ユーノくん?」

「「はい、すいません」」

 

 示し合わせたように並んで頭を下げるユーノと勇吾。頭を下げながら顔を見合わせて苦笑いまでしている。

 恭也や勇吾、那美に至っては、そもそも喧嘩さえしていない。一緒に過ごした時間もフェイトにもクロノにも及ばない。だと言うのにこの仲の良さは何なのか。勇吾も那美もまだ大学生なので親子にはさすがに見えないし、兄妹というにも外見がまるで違う。それでも兄と姉に懐く弟のようにフェイトには見える。自分は仲違いの末、あんな戦いまでしてようやくだったのに、なのはもクロノも恭也も勇吾も那美もそこまでせずとも強固な関係をユーノと築いている。

 

「……ユーノの馬鹿」

 

 その呟きとユーノを見詰める嫉妬の視線がユーノだけでなくクロノに恭也、勇吾に那美にまで及んでいることから、はやては何とはなしに察した。ふと視線をすずかに向けると、すずかも気付いているらしい。小悪魔的な色が多分に含まれた実にいい笑顔である。はやてもまた同種の笑顔で応える。

 

「……アンタら、またよからぬこと考えてんじゃないでしょうね?」

「そないことあらへんよ~?」

「何のことだかわからないな~」

 

 その笑顔に挟まれる形であるアリサは巻き込まれてはたまらないとばかりに早々に知らぬフリ。こういうときに下手に首を突っ込んだら痛い目に遭うのはよ~く知っているから。

 

「ちょっとユーノ。いつまでも話してないで案内しなさいよ」

「あ、そうだね。ごめん。それじゃあ、勇吾さん、那美さん、こちらへどうぞ」

「はは、ウェイターが様になってんな」

「ふふ。その服も似合ってますよ」

「ありがとうございます」

 

 なのはたちが座る席の隣に誘導され、勇吾と那美は恭也や美由希と共に座る。そこでようやくユーノはフェイトに睨まれていることに気付き、理由が分からず目を瞬かせる。

 

「あの~、フェイト? 僕、何かしたかな?」

「自分の胸に聞いてみて」

 

 顔を背けてしまうフェイトに、ユーノははやてたちに目を向けるが、はやてもすずかも変にいい笑顔を浮かべるだけで援護はなし。アリサは私を巻き込むなと無言で問いかけを封殺してくるし、なのはは何だか顔を赤らめたりモジモジしたりと忙しそう。なのはの様子は気になるのだが、なのはを気にしているとフェイトがまた睨んでくるときた。

 

「えっと……」

「私からは逃げるのに、他の人だったら普通に話せるんだね?」

「うぐ……そ、それは本当に申し訳ないと思ってるよ? でもそれを言うならフェイトだって僕から逃げてるじゃないか」

「だ、だって……うう、全部暴走したユーノが悪いんだよ!」

「暴走したのは認めるけど、全部ってことはないでしょ!」

「ユーノ、私の手に応えなかったこと、今でも間違ってなかったと思ってるみたいだし!」

「理由はちゃんと話して納得してくれたじゃないか!」

「納得なんてしてない! いちおう理解はしたってだけだよ!」

「ちょ、今更それはずるいって!」

「ずるくない! ユーノは私に負けたんだから!」

「いつまでも勝ち負けに固執するのはどうかと思う!」

「潔く負けを認められない方がダメだよ!」

 

 テーブルに手をついて身を乗り出しながら言い合うユーノとフェイト。喧嘩なんてものから仲間内では最も遠いと思われていた2人だけに、はやてたちはありえないものを見ているかのようにしばし言葉を失ってただ2人の言い合いを眺めるばかり。

 あれ以来、ユーノもフェイトも少しずつ自分の意見を主張し出したことは感じていただけに、変わり始めたことは誰もが認めている。とは言え、ここまではっきり言い合えるのはまだまだユーノとフェイトの2人の間でだけではあるけれど。

 

「早くも夫婦喧嘩になりそうな予感が。これも『青春日記』の1つなんやろか。なあ、なのはちゃん?」

「…………」

「なのはちゃん?」

 

 そう言えばさっきからなのはが会話に入ってこないなとはやてが振ってみるが、返答はない。当のなのははと言えば……ぼうっとして視線を一点に注いでいる。フェイトのような嫉妬の色はない。気が抜けた時のなのははぽやっとしているときがあるが、まさにそんな感じだ。と思えば急に思いついたように顔を赤くして頬を両手で挟んだり俯いたりと忙しない。

 

「……ふむ」

 

 その視線の先はというと、思いがけずクロノに行き着いた。

 

「止めなくていいのか、クロノ?」

「いつまでも逃げ回るよりかはいくらかいいでしょう。それより恭也さんには1つご報告しておきたいことが」

「ふむ。決めたのか?」

「はい。休み明けには申し出るつもりでいます」

「そうか」

「なのはの復帰を待つつもりでいましたが……復帰するまでの間でも少しなりともできることもあるでしょうから」

「事が事だ。焦らず着実にな。1つ1つ確実にこなしていけばいい。ああ言ってはいるが、ユーノは必ずお前の背中を支えてくれるだろう。もちろん、俺もな」

「はい」

 

 クロノがユーノや恭也と組んで何かをしていることははやてにしてもフェイトにしても勘付いている。ただクロノがそれを明かすことはなかった。フェイトは『隠し事をしない』という約束を盾に密かにユーノから何とか聞き出そうとしているようだが、ユーノもそこは容易には喋らないまま。フェイトの八つ当たりに似た感情はその辺も関係しているのだろう。

 一方のなのはは、クロノがやろうとしていることをすべては知らないまでも、一部を実際に聞いている。自分たちを守るためにクロノが時空管理局や次元世界の間違った風潮を変えようとしていることを。ただクロノがなのはたちに自分の口から明かす気がないのもわかるため、なのははフェイトにもはやてにも言っていない。

 

(クロノくんもいるとは聞いてたし、ちょっと顔合わせづらかったんだけど……)

 

 クロノも酷い怪我を負っていてなのはの見舞いに訪れることができなかったという事情があったが、なのはにとっては都合が良かったのか残念だったのかよくわからない。本当はあの日、無茶をしたクロノに怒りをぶつけるつもりだった。あんなことを言っておいて自分こそ危ないことをしているじゃないかと。

 しかしそんな怒りもあんな話を聞いてしまったら。クロノの心の内を知ってしまったら。

 

――クロノが見失いかけた想いを拾い上げ、再び火を灯してくれた笑顔の持ち主。悲しみと涙を撃ち抜き、兄と同じく『みんなの笑顔を守りたい』と願い。『笑顔』と『無表情』という、本来の彼女とは真逆の表情を浮かべるほどに追い込まれ、それでも諦めず、自分の涙や傷ついた心を押し隠して戦う、優しい少女がいる。

 

 誰のことを言っているのかわからないほど、なのはも鈍くはない。別にクロノが言うほど大したことをしたつもりはない。ただ目の前のことに全力で当たっただけ。運が良かった部分だってある。まして自分は恭也という目標に対して泥を投げつけた未熟者。過大評価だと思わずにはいられなかった。

 

――『そんな馬鹿が、そんな彼女たちが、『みんなのお兄ちゃん』と言って慕ってくれています。信じてくれているんです。だからこそ、彼らが苦しみ、悲しみ、涙する姿など見たくはないんです。ましてそれが、時空管理局や蔓延する風潮によるものであるなどと、絶対に認められません』

 

 一言一句、なのはは思い出せる。

 彼の宣言を。

 

――『フェイトも、はやても、そしてなのはも、人を救い、笑顔を守るために戦おうとしています。管理局のためではなく、悲しんで涙を流している誰かのために自分の力を活かすことができると、そう純粋に信じて戦おうとしています。ならば僕は。彼らが信じる正義や理想を、貫けることができる管理局にしてみせると、そう決めました』

 

 彼の決意を。

 そして。

 

――『恭也さんのように、守る者であり、守れる者で在りたいんです』

 

 彼の覚悟を。

 同じ背中を追いかけ、同じように失敗し、同じ答えに辿り着いた。『守るべき人を守るだけではなく、自分もまた生き残り、その人の下へ帰ること』という答えへと。なのはが大きな失敗をやらかしてようやく辿り着いた答えに、クロノもまた至っていた。命を失いかけるような失敗を経て。それでも諦めたくはないと。

 

――『なら守って見せろ、クロノ。俺が見ていてやる』

――『っ!――望むところですよ』

 

 あのとき、密かに扉を少しだけ開けて中の様子を窺っていた。だから見てしまった。目標とする人から挑戦的な言葉をかけられ、真っ向から不敵な笑みを返して見せるクロノを。

 そして今も、恭也と比べれば年季が足りないのは仕方がないが、このままいけばきっと恭也と同じ精悍さを身に付けるだろうと予感させるに足る頼もしい顔を見せられては。

 

「~~~~っ!」

 

 あのときのことを思い出すたび、さらにこうして不意に見せられるたび、むず痒い想いに駆られてしまう。

 なのはも目指す背中――恭也を追いかけるクロノは、どこか恭也に似ている。もともとそう思ってはいた。なのはにとって、恭也は兄であると共に、初恋の人でもある。その恭也に似ていて、さらに恭也の背中に憧れて追いかけるという同じ立場も相まって、なのはにとってクロノという存在は大きかった。同じ背中を追いかける好敵手。絆で結ばれた仲間。大好きな兄にどこか似ている男の子。背が低いことを気にしていて、自分をからかってきたり口が悪かったりする、いらないところまで兄にどんどん似てきて困っている相手。

 けれど今、なのはの中でクロノ・ハラオウンという存在は以前の比ではないほどに膨れ上がっている。

 無理をしてでも為そうとしたことが、自分のためでもあったという事実。クロノが『守る』と決めた者の中に、自分が含まれていること。これらも相まって。

 

(い、今更だけど、クロノくんってすごく背が高くなってるよね……)

 

 本当に今更の話なのに、なぜかそんなことまで気になってきてしまうほどに。一度気になると何でも気になってきてしまう。

 

「ん? どうかしたのか、なのは?」

「うひゃい!?」

 

 見惚れていた。そう言ってしまってもいいだろう。その相手にいきなり声をかけられ、なのはは体をびくつかせるどころか反射的にクロノから距離を取ろうとソファーの奥へと引っ込もうとしてしまう。生憎と隣に座っていたフェイトにぶつかって距離を取ることはほとんどできなかったが。

 

「……驚かしたつもりはなかったんだが」

 

 ユーノとフェイトもなのはの様子に言い合いを止めて目を向けている。全員の注目を浴びる形となってしまい、なのははあちらこちらと視線をやって、最後には肩を緊張させたまま俯く。

 なのはの様子を怪訝に思うユーノたち。一方でクロノだけは違う答えに至っていた。

 すなわち、なのははまだあの時のことで怒っているのだろうと。

 

――『なのは。今の君に、笑顔を守ることなんてできはしない』

 

 周囲がなのはを慰め、励まそうとする中で、ただ1人厳しく当たったクロノ。幾度か謝っているのだが、謝って済むものではない。基本的に生真面目で誠実なクロノだけに、許してもらえるまで謝罪を続けるのが当たり前。だからこそ普段ならやらない格好やウェイターの真似事までしているのである。

 クロノは俯くなのはに、顔も見たくないということかと受け取った。そうされたところで仕方がない。なのはの大事な目標や信念を真っ向から否定したのだ。嫌われて当然。

 もちろん、なのはからすればクロノのことを嫌ってなどいないし、今にして思えばあの叱咤は何よりの激励であったと感謝すらしている。恭也と同じく、誰よりもなのはの想いや目標を理解してくれていたと、むしろ嬉しいぐらいだ。

 要するに、いい具合に、ある意味で悪い具合に、なのはとクロノの考えは思いっきりすれ違ってしまっていた。

 

「なのは、本当にすまなかった」

「へ!?」

 

 なのはの座るテーブルの前に来て、クロノはなのはの正面で頭を下げる。誠心誠意。当然、誠心誠意であればあるほど、なのはとしては困るのだが。

 

「あ、あの、クロノくん! 私、別にあの時のことはもう怒ってないから!」

「そうなのか?」

 

 クロノが頭を上げる。が、今度はなのはが顔を逸らしてしまう。

 真正面から見れないのだ。その顔が。どうあっても思い出してしまうから。

 

――『君の笑顔は、君のものだ。決して、周囲の誰かの笑顔を守るための道具なんかじゃない』

――『僕が憧れたのは、心からみんなの笑顔を守りたいと願い、望み、そのために諦めない高町なのはだ』

――『高町なのはは、1人の人間だ!』

――『誰よりも眩しくて明るい笑顔で笑う、ただ1人の、女の子なんだ!』

 

 これらすべて、一言一句思い出せる。というのも、レイジングハートが気を利かせて録音していたからだ。レイジングハート自身、なのはに対して言いたいことで溢れていたらしい。ただ、優れた自律思考を持つレイジングハートと言えどもどう言葉にすればいいのかがわからないし、ともすれば主を傷つけるだけに終わるかもしれないことなだけに、主を補佐するのが役目というデバイスに課された大前提によって言えず仕舞い。クロノの叱咤は、レイジングハートにとってまさに自身の気持ちの代弁だったとのこと。

 レイジングハートと会話をする中で録音されていたことを知り、なのはは思い出すだけで恥ずかしいからと再生してもらうかどうか迷いに迷った。迷った挙句再生し、恥ずかしさや嬉しさなど色々なものに身悶えることになる。

 結果として、クロノのことを考えると精悍な顔や叱咤の言葉が頭の中で無限ループ。クロノとまともに目を合わせることができなくなるというおまけ付き。

 

「……怒っているじゃないか」

「いや、あの、これはですね……!」

 

 無論、クロノに年頃の女の子の難解な心の機微などわかるわけもなく。目標とする恭也も恭也でその辺に疎いのは変わらないので、教えてもらえることもなく。

 結論。見事なまでに歯車が合わない。

 

「はやてちゃん」

「すずかちゃん」

 

 知らぬは本人たちばかり。さて、こんな面白いものを見逃すはずがない者がこの場に2人。がっしりと握手を交わしている。1人蚊帳の外に置かれたアリサだったが、むしろ蚊帳の中に入っていなくてよかったと心から思う。そして決めた。蚊帳の外から傍観しておこう、そうしようと。それが一番利口な選択肢であると、聡明な頭脳は答えを導き出していた。

 

「…………」

「――あいたっ!? なんで抓るの、フェイト!?」

「知らない。ユーノの馬鹿」

「理不尽だ!」

 

 どこか複雑な表情を浮かべてなのはを見ていたユーノだったが、そんな彼に気付いたフェイトがさらに不機嫌になって。

 

「なのは。どうしたら許してもらえるだろうか?」

「だ、だから、私は怒ってないってば!」

「ならどうしてこっちを見ない?」

「どうしてって……う~~~~」

「……なぜ唸る? どう考えても怒っているようにしか見えないんだが」

「ああもう! なんで私だけ恥ずかしがらなきゃならないのかな!?」

「は?」

「クロノくんの無自覚! 女たらし! 不公平だよ!」

「何がだ!?」

「何って……決まってるでしょ! 察してよ!」

「無理を言わないでくれ……」

 

 我慢の限界に達したなのはがクロノに八つ当たりをする。

 そんな2組を前に、頬に手をやって温かい笑顔で今後どうやってからかってやろうかと企むはやてとすずか。1人ジュースを飲んでやり過ごすアリサ。次々に出てくる料理を前に、ヴィータはいつになったら食えるんだよとはやてに視線を送るが、話しかけはしない。こういう顔をしているときのはやてに下手に声をかけるとロクなことにならないのはもうさすがに理解しているヴォルケンリッターである。パーティが始まる前から盛り上がる様子に、料理は私たちで運びましょうと桃子は楽しそうに笑い、複雑そうな士郎を連れて厨房へ。

 

「嘆かわしいったらありゃしねえ。あの歳で高町第二号(朴念仁)の道をひた走ってんじゃねえか、クロノくん」

「どういう意味だ、赤星」

「どうもこうもねえって。無自覚すぎんだろ。矯正を期待できそうな月村は?」

「仕事をサボろうとしてノエルに捕まったらしい。今頃泣きながら会議に出ている頃だろう」

「そりゃご愁傷様なこって。相変わらずだな、月村も。しっかし、そうなるとお前じゃこういう問題は門外漢だしなあ。矯正は期待できねえかな」

「お前こそユーノを導いてやればどうだ? まあ、お前に導かれたらユーノが女たらしになりそうで不安だが」

「何だとコラ」

「何だ? 喧嘩なら買うぞ?」

「はいはい、恭ちゃんも赤星さんも戦うなら道場へ行ってやってね~」

「止めましょうよ、美由希ちゃんも」

「や~、それは無理。馬に蹴られて何とやらだよ。私もそろそろ相手が欲しいなあ。ね、那美さん?」

「私は、その、先輩という人がいますから」

「那美さんの裏切者~!」

「振ってきたのは美由希ちゃんじゃないですか~!」

 

 互いの弟分を肴にして楽しむ年長者たち。成長した弟分を誇らしく思いつつ、今はやはり年相応の姿に優しい目を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロノ・ハラオウン。

 ユーノ・スクライア。

 高町なのは。

 フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。

 闇の書事件から2年後の冬、なのはの撃墜をきっかけにして始まった4人の変化。この変化は4人の関係だけではなく、互いの在り方や考え方、これからの道にも大きな影響を与えた。このときよりクロノとユーノの裏での戦いは本格化し、なのはとフェイトも各々の夢の実現に向けて再スタートを切ることになる。

 

 

 

 

 

 その裏で、時空管理局最高評議会、ジェイル・スカリエッティ、フッケバイン、そして亡国の妄執もまた本格的に動き始める。

 因果は巡り、これより1年後、再び交差する。

 八神はやて。

 ヴェロッサ・アコース。

 この2人をも巻き込んで。

 

 

 

 

 

 来たるべき新暦75年の『J・S事件』、そしてその裏で巻き起こる『ベルカ事変』、別名『灰色の亡霊事件』まで、あと7年。

 

 

 

 

 




 
 今度は1ヶ月の間が空いてしまいました。
 本当はシリアス全開な前半と、今回の話を後半に据えて1話で考えていたのですが、思いのほかどちらも長くなったことと、せっかくのエピローグまでシリアス全開にする必要もないかと思い、分割して今回は後半を先に。前半として書いていた分は次の幕間に回します。

 とにもかくにも、ここまで読んで頂いた方には改めて御礼申し上げます。
 稚拙で癖のある文章なので読みにくいと思われる方も多いかと存じます。本当に最後まで書けるのかよと思われてもいるだろうな~とも。そうならないよう、モチベーションを維持して参ります。

 もうお気づきの方も多いでしょうけれど、オリジナルの用語や人物にはエースコンバット、特にエスコン5の要素が多分に含まれております。昔からなのはSSにはエスコンネタが多いのですが、拙作も例に漏れず。エスコン5をご存知の方は、今後の展開を予想しやすいかもしれませんね。

 それではまた幕間にて。
 失礼いたします。
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