リリカルなのは ANOTHER LOCUS   作:ウルフ中隊

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ストライカーズの時のフェイトとジェイルの会話は賛否両論ありますね。
ちなみに私は、不満を覚えたタイプです。

自分は弱いからずっと悩んだり迷ったりし続けるけど、それも含めて自分だと、そんなことを言ってましたね。
いや、それ自体はいいんです。
その上で何より気になったのが、自分から言い返すのではなく、エリオとキャロが支援して、それでようやく反論できたってことですね。
ジェイルは都合のいいように子供を育て、洗脳していると脅したわけですから、あそこで洗脳されているとされたエリオとキャロがフェイトを応援しても、いやいやそれじゃジェイルの言うことを否定できていないじゃないかと思えてしまったんです。

私個人の勝手な理想としては、フェイトがエリオとキャロにどう思われているか不安でも真っ先に反論し、そこにエリオとキャロが支援するって形でしょうか。ぶっちゃけ、エリオとキャロは何も言わなくてもいいくらいです。
じゃないと、フェイトは結局、誰かに助けてもらわないと言い返すことさえできないってことになるんじゃないかと。それでは10年、まったく心の面で成長できていない気がする……家族の絆の強さを描くにしても、一緒に住むわけでも養子縁組とかしたわけでもなさそうだし。リンディと養子縁組して家族の絆を作ったんじゃないのかってな話。

フェイト好きな私としては、彼女がそんな弱いままなわけがないと思いまして。嫌われているとわかっていても母の前に立ち、幸せな夢に囚われず現実に立ち向かうことを選んだ彼女です。トラウマになってもおかしくない過去を持っていても、きっと彼女なら乗り越えられるはず。
ならば彼女が心の面で強くなって行く姿を描いたストーリーをと考えています。いざジェイルとの対決のあのシーンが来たら、フェイトは弱い自分を自覚しながらも、ジェイルの言葉に真っ先に毅然と言い返すことができているような。目指すはユノフェなら有名なあのSS。ユノフェ好きなら皆さんも知ってますよね?


LOCUS 2-1

 もう少し利用しやすい場所に作ればよかったのに。

 無限書庫を訪れるたび、フェイトはそう思う。

 

「こんばんは、クフィルさん」

「ああ、こんにちは……いや、もうこんばんはなんだな。今日もかい?」

「はい。ユーノは……司書室ですか?」

「ああ。探した資料をまとめているところだと思うよ」

 

 次元空間に浮かぶ時空管理局本局は、太い幹から枝が生えているように、中央部分の大きな建造物から細い建造物が突出している。『幹』に該当する中央部分は各部署や居住区画、生命維持装置や動力区画などが設けられており、『枝』に当たる部分は次元航行隊を始めとした艦船・船舶が停泊する港に該当する。

 無限書庫は『幹』の部分に円筒形のスペースを割り振られている。ただ割り振られた位置が『幹』のかなり端なのだ。あまり誰も来ないような区画にあり、『物置』と称されるのはその辺も理由の1つなのだろう。

 おかげでフェイトは執務官試験対策用の重い勉強道具をいつもかなり歩いてここまで持ってこなければならない。

 

「これは医務局か?……専門用語を羅列されてもなあ。そこから調べなければならないのか」

「そうなんですよ。もうちょっと調べたいことをはっきりしてほしいんですけど」

「いくら医療関連に強い君でも、その道の専門家相手ではなあ。ふ~む、依頼書の体裁が曖昧なのかもしれん。ミーティングで議題に挙げておこう」

「お願いします――あら、フェイトちゃん。毎日お疲れ様」

「パナヴィアさん、今日もお邪魔します。ロッキードさんも、こんばんは」

「おお、こんばんは。ハラオウン統括次官の娘さんが来るってことは、そろそろ晩飯の時間だな。お~い、フロッガー、グレヴィッチ、順番に行ってこい!」

 

 無限書庫の入り口は二重になっており、最初の透明の自動扉をくぐると、次はいきなり古風で重厚な扉がある。無限書庫は時空管理局が作ったものではなく、元々あったものを時空管理局が接収したという説があり、それを裏付けているかのようだった。

 そして手動のその扉を開けると、広がるのはまさに『無限』の空間だ。

 円筒形で壁は全て本棚。そして隙間なく埋められている本・本・本……そして途端に浮遊感が得られ、足がふわりと浮きあがる。無限書庫は空間が捻じ曲がっていて、本来のスペースなど無視した広さがあり、その全容はまるで掴めていない。無重力であるのは本が落ちて傷つくのを防ぐためとも、とても歩いて探せるものではないからとも言われる。本棚は緩い螺旋を描いており、それに沿うように上昇していく通路がある。飛行魔法が使えると通路は不要なのだが、慣れると飛行魔法を使えない者でも上手く通路を蹴ったり掴んだりしながら移動する。

 フェイトも最初は飛行魔法がないと覚束なかったが、最近は壁や通路を使って移動できるようになった。重かった荷物も無重力のおかげで全く苦にならない。すれ違う司書たちとはすっかり顔なじみだ。挨拶をしながら、入り口からほぼ反対側にある司書室へ向かう。

 

「アレニア、飯行こうぜ」

「私、今日中の資料があってさ~」

「お前、昼も抜いてたろ? 俺も手伝うからさ」

「間に合わなくて怒鳴られたのよ……しかもスクライア司書に代われって言ってきてさ。あの子にまた負担かけちゃいそうで自己嫌悪中……食べる気になれないわ」

「それでも食っとけよ。で、どこの依頼だ?……ああ、また機動四課の二佐か」

「三佐になってたわよ。襟章見えたのよね」

「降格したのか。言っちゃ悪いがいい気味だ」

 

 少し上の方で先ほどの年配の司書の言葉を受けて食事休憩の交代をしている若い司書たちがいた。彼らとも顔見知りだ。

 ただ何と言うか……少し今は機嫌がよろしくないらしい。少し声をかけることが躊躇われた。

 

「ハラオウン執務官が査察部にかなりきつく言ってくれたらしいわね」

「俺はハラオウン執務官も査察部に直訴してやろうかって思ってたけど。まあ、無限書庫の味方ではあるしな、彼も。憎めないというか何というか」

「……あの、フェンサーさん、義兄がすいません。だから、その、訴えるのは……!」

「うお、フェイトちゃんか!? いや、冗談だよ冗談! 訴えるなんてしないから!」

「アンタなにフェイトちゃん泣かせてんの! 罰として1人で全部やれ!――フェイトちゃ~ん、勉強頑張ってね!」

「あ、おい、アレニア! ちょっと待ってくれよ!――あ~、フェイトちゃん、ごめんな!」

 

 通り過ぎながら女性司書が手を振って笑いかけてくれて、それを追いかけて男性司書が手を合わせて謝っていく。

 クロノとユーノが無限書庫を立て直すべく協力しているのはフェイトも知っている。無限書庫の実績のため、クロノが無限書庫に正式依頼という形を取っていることも。ただ、クロノは味を占めている部分もあり、量も回数も他からの依頼よりもはるかに多く、求めるものも高度。きちんと調べてほしいことを明確にしてあるし、礼もしているし、無限書庫に対する無茶苦茶な非難や無礼に対しても査察部に訴えるなどしているので、司書たちも恨み節は口にしつつも感謝しているようだが。

 とにかく、義兄を訴えられることはなさそうなので、フェイトは苦笑しながら再び司書室へ向かう。

 

『――ですから、それは資料に記載してある通りで……!』

 

 扉をノックしようとすると、中から声が漏れてきていた。防音性がないわけではないが、漏れる程度には大きな声。怒気が籠もっているのがすぐにわかった。

 耳に馴染んだ声であるが、彼がこんな声を出すことは滅多にない。クロノとは互いにそんな声でやり取りをしてはいるけれど。

 勝手に入るのも悪いが、フェイトは扉を少しずつ開けて、中にいるであろう彼にわかるように自分の存在を主張する。

 

「そのロストロギアは考古学会と連携して発掘に動いてくださいと進言したはずです。このロストロギアは手順を間違えなければ解除も容易です。考古学会ならその辺も手馴れていますから」

『我々はロストロギア専門部隊だ。その道に精通した者で構成されている。わざわざ民間に頼る必要はない』

「お言葉ですが、機動四課には結界魔導師がおられないでしょう? このロストロギアは結界を張り、その範囲内に効果を及ぼします。結界に精通した者が当たるべきなんです。機動五課なら何人かおられたと思いますが」

『それは我々四課にはできないと言いたいのか?』

「では、結界術におけるベルニッツの法則をご存知ですか?」

『何だねそれは?』

「……この時代特有の結界魔法構成術式の基礎理論です。結界術式としてはもう廃れていますが、この時代のロストロギアにはよく見られるんです」

 

 ユーノは気付いてくれたようだが、チラリと視線を向けてきただけで、すぐに目の前の通信相手に戻った。

 フェイトはゆっくりと入室して扉を閉め、再び重力のあるこの部屋では重くなった荷物を持ち上げ、静かにそばのソファーに向かった。

 

(ベルニッツの法則……確か、古代ベルカ時代の結界術式の1つだっけ)

 

 執務官試験には考古学の問題も出てくる。ロストロギア事件にも執務官が当たることはあるからだ。

 結界魔法は得意ではないフェイトだが、執務官試験では汎用的な能力が求められる。戦闘だけが仕事ではないし、当然のことだ。だからその意味でも、ユーノに教えを乞うことには大きな意味があった。

 現在の魔法は、科学と結びついたものである。理数系の知識があると魔法に強くなれるというのは、現在の魔法は術式の中で物理法則や数学公式が密接に結びついているからだ。

 ベルニッツの法則は、執務官試験での出題頻度こそ高いものではなかったが、考古学士や結界魔導師としては知っていて当たり前というレベルのもので、殊にこの時代のロストロギアに関わろうというのであれば、知っていなければならない。

 

(ロストロギア専門部隊が、それを知らないなんて……)

 

 フェイトでさえも呆れてしまう。ユーノが頭の痛そうな顔をしているのも当然だろう。一般人に教えているのではなく、相手はロストロギアに対処する専門部隊の長。それが『何だねそれは?』などと恥ずかしげもなく口にするのだから。

 クロノがここ最近愚痴っていたこと。彼は家では寡黙なので、愚痴も言わないのだが、ユーノとの通信で言い合っていて、その意味がよく分かる。

 

――『古代遺物管理部。機動部隊もだけど、管理部門についても問題だよ。あんな杜撰な封印しているなんて思わなかった。管理局の補助魔法軽視の風潮、どうにかしないとまずいんじゃない?」

――『その言い方、本当に他人事だな、この野郎』

――『僕は民間協力者だからね。だいたい外側からの見地を求めてきたのはお前だろ』

――『まあな……あそこが花形だったなんて過去のこと。ジュエルシードでも闇の書でも動けなくて当然だな』

――『過去を大事にするのはいいけど、執着しても仕方がないよ』

――『スクライアらしい言葉だな。だがその通りとしか言いようがない。過去の栄光に縋っていた結果が今の古代遺物管理部だ。思い切った意識改革が必要だろう』

――『上に行く決心はついたの?』

――『……まだ悩んでいる。はやてには現場を任せてくれと言われたんだがな』

 

 そんな悩みをクロノが抱いていたことは知っていたが、特に家族への相談はなかった。相談に乗るよとは言ってみたが、今はフェイトも大事な時だからとやんわりと断られた。ユーノには喋っていたというのが、悔しいようで寂しいようで。ちょっとそんなことをアルフに言ってみたら、『男同士の気軽さってやつじゃないかい?』と言っていた。フェイトもなのはやはやてには言いやすいが、クロノやユーノには言い難いこともある。そういうことなのだろう。

 

「この理論で構成された結界はとても強固で、無理に破壊すれば衝撃と共に周囲に甚大な被害を及ぼしかねません」

(だから古代ベルカでは、守るための結界じゃなくて、破裂させて攻撃したり、遅延術式や条件術式と組み合わせた罠として使われる攻性結界だったんだよね)

「ですが、手順さえ知っていれば、非常に解呪は容易なんです」

(ただ、そのためには緻密な空間系の知識と精密な魔力運用が必要。できれば結界魔導師であることが最良)

 

 ユーノが自分に教えてくれたことを反芻しながら、フェイトは勉強道具を机に出して用意していく。そしてちょっとだけ魔力を使い、その術式を編んでみる。バルディッシュは使わず、手で公式を宙に浮かび上がらせ、この空間の座標を固定させ、固まった魔力を少しずつ拡散するための空間術式を入れ込んで、いざ魔力を少しずつ入れていって……途端、パキインと、黄金の魔法陣が音を立てて割れた。

 

「あ……!」

 

 その音が少し大きくて、そして後ろにドンと押される衝撃に、フェイトは体をびくつかせつつ反射的にユーノを見た。するとユーノもこっちを見ていて、さらに投影モニターもフェイトに向けられていた。通信先の男性も少し驚いている。

 

「……御覧の通り、たったあれだけの少ない魔力で構成されていながら、あのくらいの激しい割れ方をします」

「あう……」『むう……』

「このベルニッツの法則の欠点を補いつつ強化改良したのがカプチェンコの法則です。代表例にはベルカの結界魔法"ゲフェングニス・デア・マギー"が挙げられます。この法則に取って代わられる形で、結界術式としてのベルニッツの法則は廃れました。代わりに、最近体系として確立してきた近代ベルカ式において、結界を破るための術式――"バリアブレイク"に一部組み込まれています。元ベルカ聖王教会騎士団員でもある、ベルカの中央魔法学院、フレイジャー教授の定義を組み込んで衝撃が自分に飛んでこないように指向性を持たせるなどの改良をしていますけどね。それがないので、ああして全方位に衝撃が飛びます。だからその解呪には緻密な魔力運用、結界に関する知識が必要なんです」

 

 顔を赤くしてフェイトは縮こまってしまう。音を立てたのは悪かったけれど、それを見られていたことが恥ずかしい。フェイトはユーノを少し睨んでみるけれど、彼はもう通信に意識が戻っていた。

 

「ましてロストロギアが起こす結界規模は半径数キロ……どれほどのものになるか、お分かりになるでしょう?」

『……ならばデバイスに登録すればよかろう。五課に回すほどのものではない』

「それができるなら五課にという話はしていません。ランダムなんです。戦乱の古代ベルカ時代の遺物なんですよ? 簡単に解呪させないための仕掛けくらいしてあります」

 

 ますますユーノの機嫌が悪くなっている。言葉にそれは現れていないけれど、これだけ説明してもわからないのかという苛立ちか。何となく雰囲気でわかる。これからそのユーノと2人で勉強なのに、雰囲気を悪くしないでほしい。フェイトは通信先の機動四課課長を少し恨んだ。

 

「僕から機動五課にお願いしましょうか?」

『越権行為だ。司書風情が勝手なことをするな!』

「……ではお願いします。無限書庫は、私たち司書は、資料でも、そして口頭でも申し上げました。これで被害が出たとしても、責任は負いかねます」

『あ、あの事故は我々の責任ではない!』

「誰もそのようなことは言っていません……失礼します」

 

 ユーノがやや強引に通信を切った。

 瞬間、漏れるのは大きな大きな溜息。口から洩れる魂という絵を、クラスの男友達が密かに持ってきた漫画で見たことがあるフェイトだが、今のユーノはまさにそんな感じだ。

 フェイトは「ごめんね、すぐに準備するから」と言って机の上を整理するユーノに「いいよ」と返し、そして思いついたようにソファーから立ち上がり、備え付けの給湯室へ。すでに勝手知ったる何とやら。誰かが買ってきて置いてあるユーノのカップを取りだして戻ってくる。

 そして荷物の中から水筒を取り出すと、そのカップへと中身を注ぎ、水筒の蓋をそのまま入れ物にして自分の分も注ぐ。

 

「いい匂いだね」

「クロノね、執務室にコーヒーメーカー置いてるんだ。翠屋のコーヒーを気に入ったみたいで、士郎さんにブレンドを分けてもらってて。ちょっとだけもらってきちゃった」

 

 ちなみに、海鳴のハラオウン家でもこのブレンドは飲まれている。朝もそれを入れてきたのだが、さすがに朝のものは古いので、クロノの執務室で新しく入れさせてもらったのだ。

 

「それから、義母さんから」

「あ、サンドイッチ? わざわざいいのに。リンディさんだって忙しいでしょ?」

「……実は、その、私も作ったんだ」

「え、フェイトも?」

 

 ユーノが闇の書事件以降、1人で本局住まいになってからというもの、リンディもなのはの母である桃子も、度々娘を通して差し入れをしてくれている。なのはもフェイトも、ユーノに教えを乞うことは多いからだ。特にフェイトは執務官試験の受験勉強を始めてからというもの、かなりの頻度で無限書庫を利用していた。最初は自宅で勉強していたが、ユーノが初めて倒れてからというもの、心配した桃子やリンディが、なのはやフェイトに様子を見に行くよう頼んでおり、フェイトもいつの間にか無限書庫の静かな雰囲気、親切なユーノや司書の存在もあり、今では自分からほとんど毎日訪れている。

 そしてフェイトも、ずっとユーノに頼っていることを心苦しく思っていたところもあり、今朝早起きしてリンディと一緒にお弁当作りをやってみたのだ。その際、一緒に差し入れ用のサンドイッチも作っていた。

 

「もしかして、この少し型崩れしてるのかな?」

「うう……」

「あはは。初めて作ったのなら仕方ないよ。そう落ち込まないで」

 

 リンディのものと比べると、やはりフェイトのものは中身が出てきていたり、切った野菜が大小揃っていなかったりと不細工というしかなかった。

 それでも。

 

「本当にありがとう」

 

 ユーノは彼本来の笑顔を見せてくれる。

 フェイトはなのはの笑顔に救われてきたが、ユーノの笑顔にも支えられていることを実感させられる。明るい気持ちにさせてくれるのがなのはなら、温かい気持ちにさせてくれるのがユーノ。なのはが「ユーノくんがいると、背中が温かいんだ」と言っていたが、なるほど納得だとフェイトも頷ける。

 その顔、その目の下にうっすらと浮かぶクマさえなければ、もっとよかったのだが。

 

「コーヒーまで用意させちゃってごめんね。本当なら僕がしないといけなかったのに……」

「気にしないで。それより、大変だったみたいだね」

「ああ、さっきの? まあ、日常茶飯事だから。もう慣れてきたよ」

「……無理しないでね?」

「大丈夫だよ」

 

 その笑顔が、ややぎこちない苦笑いに変わる。温かさは一気に失われ、フェイトの気持ちもそれに伴って冷たくなる。

 

「ユーノの『大丈夫』は信用できない」

「いや、自業自得だとは思うけど……」

 

 無理しないでほしい。わかった。本当にわかったのか。大丈夫。

 そんなやり取り、もう何度しただろうか。そしてこのやり取りが功を奏したことなど、あっただろうか。たった2週間前にも、無駄になっているというのに。

 ユーノの笑顔も何度も見ているとフェイトにもわずかな違いがわかってくる。

 

「ユーノ、きちんと寝た?」

「ちゃんと寝たよ」

「……質問を変えるね。どのくらい起きてるの?」

「……20時間くらい、かな」

 

 時計を見て悩んでいるあたり、プラスで5時間というところだろうか。少なく見積もるのは計算済みだ。

 ユーノは2週間前にも倒れている。発見したのはフェイトだ。その日は遅くまで仕事にかかりきりになり、もう勉強はできないなと思いつつ、ユーノに行けないと連絡しようとしたのだが応答がなく、仕事中で出られないのかなと思って向かったところ、無重力の空間で浮いていたユーノを見つけた。

 それまでもユーノが体調を崩すことは多々あったのだが、倒れていたのを見たのは初めてだった。聞けばそれまでにも何度か倒れていたのだと、担ぎ込んだ先にてシャマルに聞かされた。本人から口止めされていて言えずにいたらしい。そう言えば何度かユーノがいないことがあったなと思い出して司書に聞いたところ、やはりユーノが口止めしていたようで。

 

「ユーノ、忙しいのはわかるし、こうして勉強を見てもらっている私が言えたことじゃないけど、ちゃんと休んで」

「だからちゃんと寝るようにしてるよ。6時間は必ず」

「それでもまだ短いように思うけど、それより、寝るのをもっと早くしようよ」

「誰かがやらないといけないんだ。少しずつ無限書庫も信用してもらえるようになってる。今ここで信用を落とすわけにはいかない」

「クロノとユーノが頑張ってるのは知ってる。でも――」

「大丈夫だから!」

 

 少しユーノの語気が強くなった。先ほどの機動四課課長に対していたものとは比べ物にならないが、それでも若干の怒気が籠もっている。

 

「……っ」

「……あ、フェイト、ごめん!」

 

 小さくびくついたフェイトに、ユーノはすぐに我に返った。持っていたカップを置き、すぐに頭を下げる。

 ユーノに悪意がないのはわかる。寝不足や、先ほどのような理不尽なこともあってストレスも溜まっているだろう。そこにしつこく言われていることをまた言われては、苛立ちもするかもしれない。

 それでもフェイトは、普段おとなしくて優しいユーノが怒った様子に、そうしてしまったのが自分であることに、ひどく恐れを抱いた。

 もっと怖い思いをしたことは多々ある。戦闘中にひやっとしたことなどそれこそ数えきれない。犯罪者は非殺傷設定なんていしていないことが多い。ひやっとした思いをするということは、下手をすれば死ぬかもしれないということだ。戦闘中は気が昂っているからアドレナリンのおかげで恐怖心が抑えられているだけかもしれないけれど、友達のユーノがちょっと怒ったというだけでフェイトはそれ以上の恐れを抱いている。

 

「……あの、ユーノ。大丈夫だから。気にしてないよ」

「本当にごめん。フェイトに当たるなんて……」

「私もしつこすぎたかもしれないから。本当に気にしなくていいよ」

 

 だから。

 本当は言いたいことがあっても、フェイトはそう返していた。

 

 

 

 

 

 

――嫌われたくない。

 

 

 

 

 

 いつものように分厚い辞書を引きながら問題を解いていく。

 いくら執務官と言えども、非常に多岐に亘る法律の全てを暗記することなどできない。ましてや法改正や廃止で変わることもあるのだから。

 有名な法律や条文は知っていて当然であろうが、そうでないものは執務官も辞書などで調べる。とは言え、そんな法律があるのだということくらいは知っていないと、いざという時に困る。だから執務官になってからも日々勉強が必要な大変な職だ。

 執務官試験では辞書の携行が許される。引かずにできればその分時間短縮に繋がるので覚えるに越したことはないが。

 

「あの、ユーノ……?」

「うん。どうしたの? わからないところでもあった?」

「ううん、わからないというか、納得ができなくて。これなんだけど……」

 

 問題集と回答集をユーノの方へ寄せると、ほぼ1人分のスペースを開けて横に座っていたユーノが前に乗り出して覗き込む。

 ソファーは机を挟んで対面にもあるが、何となく机を挟んで座っていると距離があって教えにくいように感じる。かと言って近すぎると恥ずかしい。そんな年頃の2人にとってちょうどいい距離感だった。

 

「管理局法第56条……特務隊の設置に関する条項だね」

「うん。設置に関しては急迫不正の侵害、またはこれに準ずるような明白な危機があると認められ、かつ既存の常設部隊では対応できない場合に、最高評議会または統合幕僚監部の意思決定により認められるってことになってるんだけど……」

「フェイトは……ああ、『本局局長または武装総隊司令部が認めれば』って選択肢を選んじゃったんだね」

「今、特務隊がよく設置されてるけど、最高評議会や統合幕僚監部が認可を出してたわけじゃないはずで、納得いかないんだ」

「特務隊が頻繁に設置されている現状を利用した時事問題だね。それを知っていれば答えられるでしょっていうサービス問題に見えて、実は意地の悪い問題なんだよね、これ。フェイトはそれに見事嵌まっちゃったわけだ」

「で、でも、実際認可なんて出てないはずで……!」

「ううん、ちゃんと出てるよ。確か……ああ、これこれ。新暦64年5月12日の最高評議会決議253号を見てごらん?」

「253号……251、252、あ、あった。えっと……『特務隊設置に関する特例決議』?」

「テロ頻発に関し、既存常設部隊の出動遅滞問題により、これが解決されるまでの間、本局及び地上本部の最高意思決定機関による設置を臨時に認めてるんだよ。まあ、臨時に創設することができる部隊について認可を出せる人を、臨時に下の人にも許しますってことだね」

「うう……こんなの卑怯だよ」

「時事問題もよく勉強してるのはわかるんだけど、それが仇になった形かな。ご愁傷様、フェイト」

「ユーノも意地悪だ……だいたい臨時の期間も曖昧だし」

「期間を明確に定めないことで、柔軟な対応と早期設置の実現を図ったんだろうね」

「それはいいけど、特務隊がほとんど常設部隊みたいになってるのもこれが原因じゃないのかな?」

「鋭い指摘だね、フェイト。その通りだよ。しかも本局と地上本部の仲が悪いせいで、お互いに競うように設置してるね。ちなみに、クローベル統合幕僚長が実質的に権限がないのと同じって言われるのもこういうのが理由。本来なら自分の権限なのに、本局や地上本部が権限を持っちゃってるもんだから」

 

 試験が迫る中、もう過去問が中心の勉強にフェイトも移行している。最初はちんぷんかんぷんだった問題も、今では結構回答できるようになっていると自分でも思う。ユーノに質問することも減ったが、するときはするし、単に知識を知っているだけでは答えられないような高度な質問ができるようになった。それに淀みなく、しかもフェイトに分かりやすく教えてくれるのだから、ユーノの知識量と教え方の上手さにはフェイトも感嘆するばかりだ。

 これが考古学になると、ちょっと本題からずれた話になることもある。例えば設置型のバインドなど罠の話になると、「ちなみに……」と具体的に遺跡に仕掛けられていたトラップの話になる。そこにユーノの体験談が含まれると、そのときのユーノが驚いたとかこけて怪我をしたとか、そういうイメージしやすいものになり、印象に残るのだ。

 余計な知識や雑学を……と文句を言う人もいるだろう。しかしフェイトにはこれが意外にありがたい。文字や数式ばかりより、イメージがついた方が理解もしやすいし記憶にも残る。ああ、ユーノがそう言えばこんなドジをしたっていう話をしてたなあ、といったふうに。

 他の問題と回答についても、フェイトが躓いたところや、消去法で選んで結果的に合っただけのところを、ユーノがどの箇所がどう間違っているのかを教えてくれる。フェイトでさえもよくわかっていない疑問点も、ユーノが逆質問をしてフェイトの認識を見事に把握し、そこから示してくれる。なのはの最初の魔法の師――ユーノは大袈裟と言うが――は、天職の1つだったのかもしれない。

 それでいて得意気になるわけでもなく、常にフェイトの立場や視点からという姿勢を大事にしてくれることに感謝しつつ、フェイトは恐る恐るユーノを観察していた。

 

(怒ってない、よね……?)

 

 口調に怒気はない。特に不機嫌を隠しているというわけでもなさそうだ。顔色は……良いとは言えないが、それは仕事の疲労のせいだろう。先ほどのことが原因というわけではない、はずだ。

 心の中で大きく、フェイトは安堵した。

 

(……よかった)

 

 嫌われたくない。

 それは誰しもが避けたいことだろう。好き好んで嫌われようとする者はいない。

 フェイトも例外ではない。

 何より、母であるプレシアに嫌われた過去があるフェイトなのだ。嫌われることに人一倍恐れを抱くのは当然の帰結と言える。あれがトラウマにまでならなかったのは、フェイト自身の心の強さもあるだろうし、それを支えるなのはやはやて、アリサにすずかという親友、そしてクロノにリンディにアルフという家族、シグナムたちヴォルケンリッターという仲間たちの存在があるからだ。

 そしてその中には、当然ユーノも入っている。

 何よりフェイトの中では、ここ最近、ユーノの存在はかなり大きくなっているのである。

 

「フェイト? どうかした?」

「――え?」

 

 顔には出ていなかったとフェイトは思っていたが、心の中での安堵は気づかれる程度には出てきてしまっていたらしい。ユーノからの問いかけに、フェイトは画面に向けていた顔を咄嗟にユーノに向ける。その反射の早さに、やっぱりね、とユーノは苦笑した。

 

「この模擬テストでも、時間超過しちゃってたし。正直、この時期に時間を気にしながら臨めないとなると厳しいんだけど、フェイトは普段そんなこともないでしょ? 何かあったかなって」

 

 この鋭さ。

 他人の機微に対するこの鋭さこそが、フェイトを無限書庫の、そしてユーノの下に訪れさせる何よりの要因の1つであることを、フェイトもおぼろげながら自覚し始めている。

 

「……えっと。その、ね……」

「うん」

「ちょっと、はやてとアリサとすずかの3人と、喧嘩しちゃって」

「喧嘩?」

 

 少し驚いたようにユーノが反応する。

 相談しやすさで言えば、アルフが言っていたように、男同士・女同士という気軽さもあって、さらに言えば同い年ということも手伝い、なのは・はやて・アリサ・すずかが一番だ。実際、フェイトは日本の習慣や勉強など、彼女たちに幾度となく相談し、助けてもらってきた。逆にフェイトも魔法や次元世界のことで力を貸すこともある。

 ただ、とある分野のことではそういうわけにもいかず、誰にも相談できないことがあった。

 それが、フェイトにとってユーノに『相談』することが多くなった理由。

 

「珍しいね。フェイトが喧嘩なんて」

 

 少なくともユーノが知る限り、フェイトがなのはたちと喧嘩をしたなんて記憶はない。いや、むしろ、誰ともそんなことになったことなんてないはず。

 フェイトは性格的にグイグイ行く方ではなく、基本的に一歩引いて付き合うタイプだ。控えめで、大人しい。だから喧嘩になる前に引く。P・T事件の時のように、思い込みが激しいところがあるので、そうなると譲らない頑固な部分もあることはある。闇の書事件でいきなり突っ込んで闇の書に取り込まれてしまったのは、そのいい例だろう。ただ、あれ以来、フェイトが喧嘩をするほど意見を曲げなかったり、意固地になったりといったことはない。

 

「ユーノも心配してるでしょ? なのはのこと」

「まあね……今のなのはの訓練は、ちょっと無茶だよ」

 

 発端はなのは。

 彼女のここ最近の様子のおかしさは、すでにアリサやすずかも懸念していた。明らかに無理をしている。他のクラスメートや担任でさえ気づいている。

 

「アリサね、昔もなのはが無理をしてるって怒ったことがあるみたいなんだ」

「P・T事件のときかな?」

「そうみたい。すずかが教えてくれた」

 

 フェイトとのことで悩んでいたなのはが、学校で親友と喧嘩をしたと打ち明けてくれたことをユーノも覚えている。それがアリサだったのだろうと納得。

 つまり、アリサは今回もなのはを心配し、何らかの行動に出たのだろう。それが、フェイトとアリサ・すずかの間での喧嘩にまで発展している。

 

「前はそんなことなかったみたいなんだけど……今回はなのはも怒っちゃって」

「ああ……ヒートアップしちゃったと」

 

 頷くフェイトに、ユーノはソファーに深く体を預けながら手で目を覆い隠す。

 容易に想像がついてしまう。アリサの長所はグイグイ行く思い切りの良さとその行動力だが、逆に言えばそれが欠点でもある。本人も自覚しているのだが、ついカッとなってしまう短気なところがあるのだ。

 そこをうまく抑えてくれるのがはやてやすずかなのだが……。

 

「今回はすずかの方がなのはに声をかけてね、それで最初は穏やかだったんだけど、だんだんなのはの機嫌が悪くなって」

「きっとなのはも心配してもらっていることは感謝していると思うけど。さっきの僕みたいになっちゃったんだろうね」

 

 わかっている。申し訳なく思っている。

 けれどそうとわかっていても、しつこく周りが、誰も彼もが言ってくると、時にうるさく感じることはある。ましてなのはは疲労の濃さや寝不足のような言動が増えていたのだ。それが祟って機嫌が悪かったのだろう。

 そしてすずかに当たってしまい、アリサがさすがに言い過ぎだとなのはを諫めたところ、アリサにもその牙が剥いてしまったらしい。

 

「はやてと一緒にその場を収めようとしたんだけど、アリサも今回ばかりは引くつもりないって言って……」

「すずかは?」

「…………」

 

 フェイトが顔を俯かせてしまう。本当に珍しいことに、すずかこそが喧嘩の原因になっているらしい。

 体を緊張させ、膝の上で拳を強く握り締めているフェイトに、たかが喧嘩でという考えはユーノにはない。

 

 

 

――『嫌われる』ことに対する人一倍、いや、二倍三倍の恐怖は、ユーノにはよくわかるから。

 

 

 

 だからユーノは、体を起こして静かに続きを待つ。

 

「なのはが1人で帰っちゃった後に……すずかに、言われたんだ」

 

――『フェイトちゃんとはやてちゃんは、心配じゃないの?』

 

 すずかもかなり冷静さを失っているんじゃないかと、それを聞いたユーノは思った。

 フェイトとはやてがなのはの様子に心配しないわけがない。親友と口を揃えて言う彼女たちが、そのくらいわからないはずがないのだ。

 

「なのはならわかってくれるって思って、あまり強く言うことはなかったけど、ずっとなのはの調子は悪いままだし、それどころかますますひどくなっていってる。だから、すずかは今止めないとって」

「間違ってはいないよね」

「うん。だけど、なのはもきっと何か理由があるはずだから……まず、なのはがどうしてここまで無茶をするのか、そこをまず知るのが大事だって思うんだ」

 

 頭ごなしに言っても逆効果なのは今回の件で明らか。だからこそ理由をまず知ることからだとフェイトは主張した。

 しかしアリサとすずかは頷かなかった。

 そんな努力はずっとしている。なのはの様子がおかしいのは仲間なら誰もがとうに気づいていて、なのはの様子には気を配っているし、その原因は何なのか、聞きだせないかとやってもいる。けれどそれでもわからないし、このまま悪化していけばなのはが倒れてしまうかもしれない。

 

「その、ね。ユーノが倒れたこと、アリサとすずかも知ってて」

「そ、そうなんだ……」

「だからなのはまでそうなったらって、思ったみたいで」

 

 現実に、無限書庫の業務は激務。おまけに時空管理局内での扱いは悪い。さっきの件でもそうだ。そしてユーノが無茶をしているのを誰もが心配していて、それを止められず、ユーノは倒れてしまった。

 その例があるからこそ、余計にアリサとすずかは引かないのだろう。

 ましてなのはが務める先は一歩間違えれば死ぬことさえある武装隊なのだ。日本では子供が就労することなどできないし、アメリカやイギリスなどでもそれは同じで、年端もいかない子供を危険な戦場にやることなど認めるはずもない風土。その中で育ったアリサやすずかにすれば、時空管理局や次元世界を認められないところもある。なのはがそんな無茶を押してまで頑張らなければならない所なのかと。

 

「なのはの味方をするのはいいけど、そうして擁護してばっかりいても悪化は止まらないって」

 

 要するに、甘やかすなと、そう言いたいのだろう。

 なのはだからと、大丈夫と言っているのだからと放置した。それが悪い結果に結びついている以上、同じままではいられない。

 

「それで私……そうだねって。頷いちゃって」

 

 アリサとすずかが強く出るものだから、フェイトは自分の意思を曲げてしまった。

 いつものことと言えばいつものこと。一歩引いて、決裂を避けようとする。

 だが今回はそれで収まらなかった。

 

「そしたら、それまで止めてくれていたはやてが今度は怒っちゃって……」

 

 はやてには、半端に見えたのだろう。厳しいことも言わなければならない。喧嘩をしてでも止めなければならない。そう決めたアリサとすずかに対し、あくまでなのはの味方だと主張しないフェイトを。

 はやてには覚悟がある。

 『嫌われてでもやる』という覚悟が。

 闇の書事件で、はやては最後の夜天の王となった。強大な力を手に入れることとなったが、反面、多くの非難や中傷を浴びる立場にもなってしまった。夜天の書が闇の書として起こしてきた数々の事件と、その中で生まれた多くの犠牲者。その罪を背負うこととなったのだ。

 はやてはそれを理解している。理解し、納得の上で、背負うと決めたのだ。

 実際、今のはやてはちょっと失敗しようものなら途端に非難の雨嵐だ。今はクロノの部下であるため、クロノという壁があるけれど、それもいつまでもというわけではない。はやて自身、いつまでもそんな立場に甘んじてはいないだろう。

 だから簡単に意見を曲げてしまうフェイトを、はやては看過できなかった。

 

(……でもフェイト、君にだってできないわけじゃない)

 

 結果的にはやて・アリサ・すずかの3人と喧嘩をした状態になり、そしてなのはも相談などして余計な負荷をかけるわけにはいかないフェイトは、ユーノにしか相談できなかった。

 落ち込むフェイトに、ユーノは自分とは違うのだからと訴えてあげたかった。

 

(君は、嫌われているとわかっていても、お母さんの前に出たじゃないか)

 

 P・T事件でプレシアに嫌いだと、いらないと言われたあのとき。フェイトは心を砕かれかけた。

 それでもフェイトは立ち上がった。立ち上がっただけではなく、プレシアの前に出て行き、そして嫌われていても、それでも貴女を助けたいと、そう訴えたのだ。

 嫌われるどころか、嫌われているとわかっていて。

 

(リインフォースが助けを拒んでいても、君は自分を曲げずに飛び込んでいったじゃないか)

 

 なのはたちの助けは確かにあった。それでも、立ち上がり、立ち向かっていったのはフェイト自身。

 だからユーノは、心配はしていない。フェイトならきっと乗り越えられる。自分はただ、そのための手助けをするだけに過ぎない。

 

「フェイト。君はなのはのこと、どうしたい?」

「私は……」

「どっちでもいいんだ。アリサとすずかみたいに甘やかさないという立場でも、なのはの味方でも」

「……アリサとすずかの言うことはわかる。でもやっぱり、今のなのはを1人にするのは、よくないよ」

「うん、わかった」

 

 だったら、なのはのそばにいればいいよ。

 ユーノはそう言った。

 するとフェイトはユーノに顔を向け、まだ不安そうにユーノを見る。

 

「大丈夫。僕も同じだから」

「ユーノも?」

「うん。フェイトと同じ意見。なのはの事は心配だけど、1人にすればなのはは意固地になってしまうと思うんだ。今のなのはがどうして自分を追い込んでいるのかわからないけど、さっきの僕みたいになりかねないからね」

 

 寂しがり屋であると共に、なのはは全力全開がモットーであるがゆえの頑固者でもある。P・T事件で、消耗を待つクロノやリンディに対し、フェイトのためにと命令に違反して飛び出したくらいだ。あのときはなのはも後で素直に謝罪したものの、今のなのははその『素直』が期待できない。そこに厳しい言葉で当たることは、一種のショック療法で、下手をするとなのはを余計に追い込んでしまいかねないリスクも抱えている。

 

「フェイトがいてくれれば、きっとなのはが追い込まれることは防げるよ」

「うん……!」

 

 フェイトの顔に元気が戻ってくる。が、浮かんだ笑みはまたすぐに消えてしまう。

 

「あ、でも……はやてたちとは……」

「それも大丈夫だよ」

「……そうかな?」

「なのはとあれだけ本気でぶつかり合ったじゃないか。そのなのはと今じゃ親友でしょ?」

「あ、あれは、その、喧嘩っていうか、えっと!」

 

 顔を真っ赤にしながらフェイトはあたふたと言い訳をしようとする。あのときはまさにフェイトが意固地になっていて、誰の声もわからないフリをしていたので、なのはの声も聞き入れられなかった。喧嘩と言えば喧嘩なのだろう。決闘という言葉が浮かぶものの、何となく女の子としての感情がそんな物騒で大仰なイメージを認めたがらない。とすると、やはり喧嘩というのが最も近い。

 うんうんと頷くユーノを前にしていると、そんな葛藤も全部わかってると言いたげに見えて、フェイトはますます恥ずかしくなって次第にトーンダウンしていく。

 

「はやてもアリサもすずかも、たった一度の喧嘩でフェイトを嫌うことなんてないよ」

「うん……そうだよね」

「みんななのはの事を思って言ってる。なのはが好きだから何とかしようとしてる。根底にあるその気持ちは同じなんだから、それを忘れなければきっと大丈夫だよ」

「…………」

「フェイト?」

「あ、うん、ごめん。何でもないよ」

 

 つい呆然とユーノの顔を見つめていたために不思議そうな顔を浮かべるユーノ。フェイトは我に返ってユーノから視線を外し、体ごと前へ向けた。

 

(……やっぱり、安心できるなあ……)

 

 大丈夫。

 たったその一語が、フェイトには不思議でならなかった。その一語だけで、不安が霧散していく。

 前からそうだった。ユーノに相談すれば。

 ある意味、その『大丈夫』を彼の口から聞きたくて、フェイトはここに来ているのかもしれない。

 

 

 

 

 

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