新年明けましておめでとうございます。
新年一発目に合わせて第2章開始。そう言うと幸先がいいように見えますが、単に前回まで間が数ヶ月空いたからそうなっただけなので何とも言い難い。今年はあまり間を空け過ぎないよう気をつけます。
今回の話は本来ならば第1章のプロローグでするはずでした。第1章のプロローグがすでにクロなのとユノフェでそれぞれ1話ずつになっていてプロローグが3話分になるのは体裁が悪いというのと、第1章がクロなのとユノフェが主になってヴェロッサとはやての出番が少ないため、第2章に回すことにしていました。
原作でがクロノとヴェロッサがいきなり親友になっていましたけど、どういう経緯があるのかは謎。なのはたちの方はきっちり描かれているのにどうにもなあという気持ちが強く、だからこそ拙作ではユーノも絡めてきちんと描きたいと思います。
それと、今後は各話に題名をつけようかなと思います。第1章にも今更ですが付けていくつもりでおります。
PROLOGUE 『ヴェロッサとはやて』
「――とまあ、こんなところかな」
「こんなところかな、ちゃうわ!」
机に体を投げ出していた小柄な女性ががばりと身を起こす。白く健康的な歯をギリギリ言わせながら睨みつけるのは年頃の少女としては如何なものか。女性顔負けの腰にまで届きそうな緑髪を持つ青年は、内心で指摘しつつ『はやてだしなあ』と溜息を吐く。
「失敬なこと思とったやろ、今?」
「おっと、読まれたか」
「何が読まれたかやねん。これみよがしに呆れ顔で溜息吐いたくせに」
「そこまでわかったのならどうしてそういう態度になったのかまで読んで欲しいところだね」
「ロッサしかおらんのやし、体面気にしてもしゃあない」
「あまり嬉しくない特別扱いだねえ」
「してほしかったらもうちょっと淑女扱いせえっちゅうねん、エセ紳士」
「淑女のくだりを紳士に変えてそのままお返しするよ、チビ狸」
「狸言うな!」
『あ、そこは嫌がるんだ』と机に座って足を組みつつ、青年はあごを撫でる。
もちろん髭などは一切生えていない。スベスベである。白いスーツに皺の一切はなく、ネクタイは理想的なほど真っ直ぐ。襟の折り目にずれもなし。例え安物のスーツであってもこの青年が着れば上品さが滲み出すであろう。服に着られるのではなく、服の方が引き立てられるレベルだ。本来ならば机に座るなんて行儀の悪い行為なのだが、長身で整った顔まで持つ彼がやると絵になって衆目を集めてしまう。
実際、目の前の女性――まだまだ少女で通りそうな小柄で童顔な彼女には、自分ではどうあっても出せない色気すら感じられてしまうくらいだ。
「せめて狐にしといて、そこは!」
「代わりに出てくるのが狐なのかい? 自分が腹黒いことは自覚してるんだね、女狐さん」
「女狐言うな!」
そこは白鳥とでも言えばいいのに、と青年は思う。いや、白鳥は言い過ぎか。ダチョウが妥当ではないだろうか。親友の次元航行隊提督と無限書庫司書長にそう言ったら吹き出していたし。このところのはやての腹黒さをどう思うかという話題で。
「まあ、それはさて置き」
「さて置かんといてくれへん? 死活問題なんやで、乙女の私としては?」
「自分で乙女と言ってる時点で世話ないよ」
「……なんか今日はずいぶんキツない?」
「そうかい? いつも通りだと思うんだけど」
さして意識しておらず、いつも通りの馬鹿なやり取りのつもりでしかない青年は小首を傾げた。先に出た親友2人の「おい、フェレットもどき」「フェレットもどきって言うな、真っ黒クロスケ」と同じレベルである。
「あかん、こんなんでは進展も何もあったもんやあらへん……」
聞かせるつもりはない独り言なのだろうか。それにしては聞こえてしまっているあたりがこの子の甘いところだ。
査察官全員がそうだというわけではないが、地獄耳の者は多い。一挙手一投足どころか言葉の1つにさえ疑いを以ってかかって嘘がないかを見抜く。それが査察官なのだから。間近に控えている、もう何度目か数えるのも億劫になってきた地上本部からの査察には、あのレジアス・ゲイズ中将の娘、オーリス・ゲイズが直接乗り込んでくるという情報を仕入れている。これまでも一流の査察官を送り込んできたが成果が上げられなかったためだろう。
はやてがキツいと思うのも無理はないかと青年も思い直す。オーリスの査察を無事に通過するために熱が入ったのかもしれない。
「気にしないでとは言わないけど、気にしすぎることはないよ、はやて」
青年は女性の頭に手を置く。女性は顔を上げて上目遣いで見上げてきたので笑って返して。
「今日僕が指摘したことを頭に叩き込んで、あとは君が今まで身に着けてきた渉外力を以ってすれば大丈夫さ」
心配はしていない。
先ほどまで青年がグリフィスやリインフォースツヴァイ、なのはにフェイトなど、機動六課の面々がいる中でいろいろと細かく指摘したり問いかけしたりしていたのだが、彼女はむしろ不安がる皆の前で平然と振る舞い、ああしたらええこうしたええと指示を出し、常に自分が一緒に回るんやから安心してやと声をかけていたくらいだ。その指示についても申し分はないし、自分がしたことはそこにちょっと補足した程度。
だから元気づけてあげたくて、彼は彼女の頭を優しく撫でるのだ。
「……子供扱いせんといて」
「そんなつもりはないんだけどなあ」
お日様の香りがする茶色の髪は柔らかくて癖っ毛もないので非常に触り心地が良い。密かにこの感触が好きな身としては役得なのだ。
だが残念ながら第一の目的である元気付けは上手くいかなかったようである。拗ねたような声を出す彼女――時空管理局古代遺物管理部機動六課の長たる八神はやて二等陸佐に、同じく時空管理局本局査察部所属のヴェロッサ・アコース査察官は、はやての頭から手を離す。
「当時のなのはちゃんの気持ちが今になって痛いほどわかるわ……」
当てつけのつもりはないのだろうけれど、今度は隠す気もないらしい。はやての独り言にヴェロッサは『何か言ったかい?』と返しておく。
確かに、かつて交際に至っていない頃、なのははクロノとの年齢差に悩んでいた。ただでさえ仲間内では一番恋愛事に疎いクロノなのに、年齢差のせいもあってなかなか好意を恋愛の好意として受け取ってくれないクロノに、どれだけなのはが失意に暮れては立ち上がりを繰り返したか。なのはの恋をサポートする側も意地になっていて、アースラスタッフとアースラ組の結束が一段と強まったのもそのおかげだなんて皮肉もあるくらいだ。
(……ごめんね、はやて)
そんなクロノとは違って、ヴェロッサは気づいている。
自分に向けられる好意に。
しかし、ヴェロッサは応えない。応えるわけにはいかないのだ。
(君の手を弾き飛ばしたこの手で君の手を握り返すことはできない。それができるとしたら……)
壁を乗り越えたその時。その時こそ、握り返すことができる。いや、自分の方から彼女へと手を伸ばすことができる。
手遅れになる可能性はもちろんある。けれどそれはそれで仕方がない。自分勝手な誓いだが、誓ったのだ。壁を乗り越えるまで手は取らないと。
その時まで待ってくれなんて言うつもりはない。自分勝手な誓いなのだから、さらに付き合わせるなんて。
(ロッサのアホゥ)
一方で、はやてもヴェロッサが気づいていないフリをしていることになど当に気づいていた。だから隠す必要もない。聞こえるように言っている。
どうせ気にしているのだろう。もう何年も前のことを。この手を弾き飛ばしたことを。
もちろんあの時は悲しかったしつらかったけれど、ヴェロッサにもヴェロッサの事情があったこと。伸ばした手を叩き落とされたことも無視されたことも数知れない中、ヴェロッサに弾き飛ばされたことは確かに忘れられない記憶。されど怒ってもいないし、もう気にしてもいない。今日までヴェロッサとこうして兄妹のように親しい間柄にまでなったことは、はやてが茨の道を進む上で決して無駄ではないという証であり勇気づけられる事実でもある。感謝すらしているのに。
(どうせ呆れて捨てられてもええとか、待ってもらおうとも思てへんとか考えとんねんやろけど。お生憎様やな。私は狙った獲物は逃さへん主義やねん!)
何度こんな自己中心的でエセ紳士で情けない男なんぞ忘れて次を探してやろうかと思ったことか。確かに最初は自分にそんな幸せは、なんて考えたこともあるけれど。そう考えていた自分にも幸せになる権利はあるのだと思わせてくれたのは誰なのか。そんなふうにされたら乙女心が全力で好きだと騒ぐのも当然だろうに。
だいたいこちとらもう19歳である。世間一般的に20代でもまだまだ若いのだが、すでに時空管理局上層部の仲間入りをしているし、今後も仕事に忙殺されるだろう。そうなれば相手を探すなんて暇はない。運よく作れたところで仕事のせいで別れるなんて可能性も非常に高いときている。だからと言って適当な相手とくっつくのも嫌だし、政略結婚なんて絶対お断りだ。せっかくできた好きな人、それも相手も少なからず意識してくれている。加えて言えば顔よし地位よし収入よし。性格はまあ軟派なところが困りものだが許容範囲。優良物件と言っていいだろう。手放す理由はない。
いろいろ並べはしたものの、後半はもちろん後付けに過ぎない。大事なのは八神はやてが本気で初めて好きになった人。この一点である。
だからそこに気づいていながら気づいていないフリをする男に、多少の仕返しくらいは許されて然るべき。
「なあ、ロッサ」
「何だい、はやて?」
「隠し事は順調なん?」
「何のことかな?」
平然としているヴェロッサ。このくらいでいちいち反応していたら査察官なんてやっていられないのだから当然だろう。はやても承知の上である。
「とぼけんでもええよ。クロノくんとユーノくん、あと恭也さんと勇吾さんもやな。5人で組んで何やってん?」
「機密事項だから言えないね」
隠し事をしていること自体は否定しないヴェロッサに、はやてはさて次はどう攻めるかと考える。
機密事項であることくらいはわかっているのだ。査察官相手に聞き出そうとする上、機密事項なのだから、このくらいの素っ気なさは織り込み済みである。
ヴェロッサたちが何かをやっていると気付いたのはなのはが大怪我を負い、その後クロノが1人戦いに向かって同じく大怪我をして帰ってきた後のこと。もう8年前になる。クロノの病室に『伝説の3提督』の1人がやって来たのだ。さすがに何かやっていることはわかる。
「なのはちゃんもフェイトちゃんも気づいとるで。私らのためやろなってのも」
「そりゃまあ気づくだろうねえ」
「『グレイバック』」
試しに機密に引っかかるのではないかと思われる単語を口にしてみる。言葉の途中で机を下りて背中を向けるヴェロッサ。逃げるように、しかし一見するとそうは思えないタイミング。だがはやてからすれば逃げたな、と丸わかりである。
ヴェロッサはそのままコーヒーメーカーの所へ。いつの間に用意しておいたのか、コポコポといい具合に湯気を出している。話の腰を折ってくれたコーヒーメーカーに、偶然だろうと思うけれどまるで意図して仕掛けていたような気がしてならない。2つのカップにコーヒーを注ぐ大きな背中に、はやては睨みをくれてやる。
「『灰色の背中』がどうかしたかい?」
聞こえていないフリをするかどうか迷っていたのだろうか。ヴェロッサは背中を向けたままで尋ね返してきた。白い背中ははやてに何も語ってこない。読ませもしない。今のところは何も。
「7年前のこと、覚えとる?」
「もちろんさ。僕にとって忘れるわけにはいかない、忘れてはいけない
「……罪うんぬんは置いといて」
やっぱり罪だの罰だのそういうふうに捉えてるんやな――そう改めて理解しつつ、今はとりあえず本題を優先する。
「私もなのはちゃんもフェイトちゃんも、何もせずに7年をいたずらに過ごしてきたわけちゃうんよ」
「知ってるよ。高町一尉はあの大怪我から復帰して戦技教導隊へ、フェイト執務官も執務官に、そしてはやては特別査察官から上級キャリア試験を通過し、今こうして一部隊の長にまでなった」
もちろんそれもある。はやては「そうや」と頷く。
クロノも次元航行隊へ異動した後、7年前のはやての一件、そして4年前の事件をはじめ、それ以外にも次々に功績を重ねて今や次元航行隊の提督にして少将。率いるは時空管理局で『花形』と称される『次元航行隊第二艦隊群』。その陣容たるや、総旗艦たる主力戦闘艦『クラウディア』を筆頭に、主力戦闘艦もう1隻、巡洋戦闘艦6隻、護衛戦闘艦8隻、高速戦闘艦18隻、その他艦艇まで含めれば総数50隻を超え、艦の自動化・省力化が進んだ現在で1万名を超えるクルーによって構成される。必要に応じて武装隊が乗り込み、戦時ともなれば数万を超えることもあり得る、文字通りの次元航行隊最大戦力。しかもそれらすべてが最新鋭艦艇。これだけの戦力を預けられた司令官がクロノなのだ。
さらに言えばクロノ個人は同じく『花形』である執務官の資格も保有し続けたまま。局内ランキング戦には参加しておらず、魔導師ランクも更新していないが、なのはたちと模擬戦をすれば互角以上に戦う様子から、S+ランク以上と目されている。
武装隊の栄誉元帥であるラルゴ・キールも『提督』であり、次元航行隊に所属していた時期もある。伝説の3提督のうち特にラルゴが目を付けた存在として、ラルゴの懐刀として知られる名将ランバート・エイギル大将と共に名前を挙げられる。
未来の次元航行隊元帥、本局局長、さらに法律的にはその上である統合幕僚長と見る向きも強く、その発言は次元航行隊や本局どころか時空管理局の外へも影響を及ぼす。周囲は放って置かず、政財界から宗教、教育などあらゆる方面からクロノに接触しようとする動きがある。クロノ本人も積極的に交流関係を広げており、メディアへの露出も増えた。
「私らの中じゃ文句なしの出世頭や。このままトップになってくれたら嬉しいねんけど」
「そうなるのも時間の問題かもしれないねえ。甘い理想をと笑ったこともあるんだけど、いや、我が親友ながら脱帽するよ」
「出世頭って点ではユーノくんも負けてへんよな」
「少将相当に格上げされるという噂もある。無限書庫が外にも開かれ、彼の理想が叶いつつある今なら書庫長への就任も期待できるってね」
伝説の3提督の1人、レオーネ・フィリスが一目置いているとされるユーノ。無限書庫司書長に就任し、無限書庫を本局情報部から独立させ、本局内で確固たる地位を築き上げた。8年前までわずか6名だったが、司書や事務員、探索専門の人員から専属の結界魔導師まで揃え、今や総数1000名を超えるまでになった。無限書庫の本格稼働による事前情報の充実は前線部隊の生存率を10%以上改善し、今なお上昇を見せている。おかげで今ではなくてはならないと認識される部署であり、これらの功績を以って無限書庫司書長には准将相当の地位と発言権が与えられている。本局と地上の仲違いも一顧だにせず平等に情報を渡すことで本局と地上の橋渡しのような役割も期待されており、現在は本局から統合幕僚監部へと所属を移行させるべく立ち回っている。本局の大反対はあるが、無限書庫をこれまでぞんざいに扱ってきた本局の立場はない。地上本部や理事会・顧問団など前線・後方関係なく局内からの支持はもちろんのこと、民間協力者なので局外での講演活動も学会を中心に広げており、新進気鋭の若手考古学者としても名を馳せ、支持する声は広がりを見せている。
魔導師としてもファーン・コラード三等空佐の〝マスタードライバー〟の称号を受け継ぐ最有力候補であり、バックアップもデバイスもなしに儀式魔法『ディストーションシールド』を単独で行使することができる唯一の結界魔導師としても知られる。生憎と戦闘系に偏る現在の魔導師ランク制度では総合Aランクでしかなく、本人も戦闘は苦手と言って逃げ回っているが、〝金色の閃光〟フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官直々の教えを受けた高速移動・高速機動魔法を使いこなし、高等技法とカウンター戦術を駆使する実力や如何にというところか。
「キール栄誉元帥とフィリス法務顧問相談役に鍛えられた腕を以って、2人をクローベル統合幕僚長直属の幕僚にするって話、あれホンマなん?」
「作戦部をクロノに、情報部をユーノ先生に任すという話かい? まだメディアの一部が言っているだけだから何とも。ただそうなったところでまったくおかしくないね」
ずいぶん遠い存在になった……ということはない。
普段から接触はあるし、会えば普通に話もする。第97管理外世界で定期的に花見をすることもある。何よりなのはとフェイトの恋人なのだから、存分にからかわせてもらってもいる。
仲間であることに変わりはない。ならばはやてとしては何の文句もありはしないのだ。
ありはしないのだが……気になることがある。
「そやけど、それらは全部表面上の話や」
「どういうことだい?」
「これらは全部、私らがそれぞれ最初から持っとった夢に向かっていった結果、付いてきただけのものに過ぎひん。みんなまだまだ道の途中や」
世間一般的に考えれば、誰もが称賛する経歴である。
だが当人たちにとっては、これらはすべてはやての言う通り道の途中でしかない。
なのはの願いは『みんなの笑顔を守りたい』。
フェイトの望みは『自分のような悲しい存在を生み出さない』。
だからこそ戦技教導隊を、執務官を目指し、今それを叶えた。ただし叶えたとは言っても戦技教導隊だの執務官だのは夢を叶えるための『手段』であり『目的』ではない。『目的』を果たすための『手段』でしかないのだ。そこを履き違えてはならない。
「私の夢は――」
「『世界中の誰にも、悲しい夜が来ないように』」
砂糖やミルクを入れてクルクルとスプーンで回しているヴェロッサ。ガラス細工でも扱うようにとても優しく、実感の籠もった声ではやての大事な夢を口にした。
その優しい声がはやての耳、そして心をくすぐる。たったそれだけのことが、はやてにはとても嬉しい。この想いを理解してくれる人がいることの何と幸せなことか。心が通じ合えていると感じられることの何と温かいことか。
本当ならもっとこの心地よい感覚に浸っていたいけれど。はやては綻んでしまった口元を今一度意識して引きしめる。
「ほな、ロッサたちは?」
「僕たちかい?」
翻って考えれてみればいい。はやてたちの『手段』と『目的』。それに当て嵌めるのならば、ヴェロッサとクロノとユーノの場合はどうなのか。次元航行隊提督も無限書庫司書長も査察官も、すべて『手段』だとしたら。いや、だとしたら、ではない。そうなのだ。『手段』でしかないのだ。
ならば『目的』は何だ。3人の『目的』は。
「時空管理局を変える。そういうことやないかと私らは考えた」
「正解だよ」
「でも100点ではあらへんやろ?」
「…………」
とうとうヴェロッサが黙り込んだ。黙ったまま、ヴェロッサはコーヒーを持って振り返り、机の上にはやての分を置き、自身はソーサーを片手にしつつ再び机の上に座り込んだ。やはり背中を向けたままで。
背中を向けて黙り込むなんて、明らかに何かあると言っている態度。エリートで敏腕、ときに冷徹な面も見せる査察官として知られる『ヴェロッサ・アコース』がこんなわかりやすい態度を取ることはまずない。彼がそうなるほど、この話は重いということ。はやては知らず、喉を鳴らしていた。
(これが怖うて今まで踏み込めへんかったけど……引き下がるわけにはいかんのや)
なのはもフェイトも折に触れてクロノとユーノに踏み込んでいこうとしている。だがなのはもフェイトも揃って好きな人に強く踏み込めない部分がある。信じているから疑いたくないという気持ちもあるのだろう。はやてとて同じなのだからその気持ちはよくわかる。
が、はやては茨の道を進んできて、ある種の『冷たさ』を身に付けた。褒められたことではないのかもしれないけれど、その『冷たさ』があるからこそ、なのはとフェイト以上に踏み込んでいける強さがあった。
それに。
(ここ最近、ますます3人とも口が固くなる一方やし出払っとることも増えとる……何かあるんは間違いあらへん)
今日こうして模擬戦に3人を揃えたのは、単に新人たちのためだけではない。何とかして探るためだ。もちろん個人的に会いたい話したいというのもあるのだけれど。できれば恭也と勇吾も呼びたかったのだが、生憎と連絡がつかなかった。伴侶である忍と那美にも連絡したのだが、言えないの一点張りだ。『知らない』のではなく『言えない』と答えるあたり、彼女たちは事情を知っていて、そして何らかの関わりを持っているのだろう。
「7年前の一件。あれ以来、ロッサもクロノくんもユーノくんも、時々怖い顔をするようになった」
「そうか。無意識のうちにそうなっちゃってたか。これは失態だったね」
「8年前のクロノくんの大怪我とユーノくんの暴走。始まりはあのときからやな。何かしとるなあとは思てたけど、7年前の一件でそれが強まって。ほて4年前の事件。あれで確信した。3人とも私らに黙って何かやっとる。それも相当大きくて……危険なことを」
「さっき言った通り、機密事項なんだ。トップシークレットってやつさ。だからそれなりに大きい案件で危険度も高い」
「私らが今追ってるレリックやスカリエッティの案件と何か関係が?」
「無関係とは言わない」
「相手は誰や?」
「言えない」
「時空管理局内部やろ?」
「どうしてそう思う?」
「7年前の一件を考えたら、局内部の問題が絡んどるのは明らかやろ」
澄ました顔でヴェロッサが淹れてくれたコーヒーを飲む。ほんの少しの砂糖とミルク。匙加減はいつも通り完璧……かと思いきや、やや苦い。ヴェロッサにしては珍しい。顔に出さないままに、はやてはヴェロッサに多少の揺らぎは与えられていることを確信する。
「次元世界最大のテロ組織『暁の鷹』。最近、静かやと思わん?」
「平和でいいことだよ。はやてもスカリエッティに注力できるだろう?」
「そやねえ。ああそれと、次元世界最大の企業『ノース・ミッド・グランダー・インダストリー』。不正疑惑が見つかったそうやんか。確か製造過程で資金やら資材やらを浮かしてたとか。試作型アインヘリヤル3基分の資金と資材で4基作れる技術を持ってるってのはホンマなん?」
「新聞に出ていた通りだよ」
「ほな、余剰分の資金と資材はどこへ行ったんやろなあ?」
「目下調査中」
「査察団のリーダー、誰になるんやろねえ?」
「査察官の身の安全や査察情報保全に関わるから明かせない」
「……『フッケバイン』と何らかの接触を持ったという噂は事実なんか?」
「過去に交戦したことならあるね」
「……あとはそうやな。また特務隊が編成されるそうやんか。それも戦隊規模。バックアップには無限書庫が直接当たるんやてな。戦隊長はクロノくんか? そうなると第二艦隊群が組み込まれそうやけど、次元航行隊最大戦力を動かすほどなんて相当な事態やで? そうなれば恭也さんと勇吾さんも組み込まれるやろな。今日も模擬戦の後に集まるそうやんか。相手は3提督だとか」
「確かに集まる予定だし、そういう噂もあるねえ」
澄まし顔に綻びができる。いけないいけないと戒める。
これまでの伝手を利用してかなり調べたのだ。ただでさえ忙しい機動六課の仕事を処理していく中で。それをこうも飄々と流され続けると忍耐も厳しい。とは言え、ここで怒鳴ったところで仕方がない。怒ったり喚き散らしたりしても、それこそヴェロッサの思う壺。
まあ、最悪は女の涙という手もあるけれど。
それよりも今は出せるカードを出すべきか。出し惜しみしていても埒が明かない。
「『ヒドゥン』」
「…………」
ソーサーに置かれるカップの音が、若干大きかったような気がする。
「何や知らんけど、覚えのある単語やったさかいな。8年前のユーノくんの暴走のときやろか、最初に聞いたのは。ほて次に聞いたのが7年前の一件。そして全く無関係にも思えた4年前の事件。あそこでも出てきたな」
「……はやて」
声が低くなった。
少し怖かったけれど、はやてはまだいけるとその背中を見ながら言葉を続けた。
「『死触』。『ディストーションシールド』。『システムU-D』。『永遠結晶エグザミア』。『グラティサント公国』。『イデアシード』。それらと『グレイバック』。極めつけは『最高――』」
「はやて」
そこではやては言葉を封じた。
いや、封じ込められたと言うのが正しい。
「そこまでだ」
ヴェロッサは背中を向けたまま。しかしもう先ほどまでの背中ではない。
拒絶している。
これ以上踏み込むことを、その背中は許していない。頼りにしている背中が、今ははやてとヴェロッサの間に大きくそびえ立つ壁の如し。
知らず、汗がはやての頬を流れる。空調が効いているはずなのに寒い。背筋が凍りそうなほど。
「よく調べたね。さすがは特別捜査官。機動六課の部隊長になっても腕も勘も衰えてはいないようだ。感心したよ」
「……そりゃどうも」
「でもそこまでだ。それ以上は口にしてはいけない。口にするだけでも危険なことが世の中にはあるんだよ。言葉に出すだけで不吉を呼ぶもの。第97管理外世界では言霊と言うんだったかな?」
空になったコーヒーカップを机にゆっくりと置く。ただそれだけのことが、はやての意識をそちらに向かせる。動作の1つ1つがはやてに今にも危害を加えるぞと言わんばかりの恐怖を抱かせる。もちろんヴェロッサがはやてに危害を加えることはない。それははやてもわかっているし信じてもいる。
これは警告なのだ。
踏み込めばただでは済まないぞと。
「今ははやても機動六課課長であり、機動部隊の部隊長としてレリックとスカリエッティのことを抱えているんだ。管轄外のことにまで手を伸ばしている余裕はないだろう? もちろん、外のことにまで耳目を広げておくのはいい。でも今一番に自分がすべきことが何なのかを忘れてはいけない。足元が疎かになるよ。ジェイル・スカリエッティはその隙を逃さない。彼はそういう人物だ」
「……わかっとる」
「ならいいんだ」
何も良くはない。そう言いたいはやてだったが、口は閉じたままだった。
ヴェロッサ・アコースは仲間内で唯一、8年前から立場が変わらない。査察官のままだ。魔導師ランクも更新せず、ランキング戦に出場することなどありえない。彼は表舞台に立つことそのものが少ない。査察官として内部から恐れられ、友軍を疑う立場ゆえに嫌われやすい。
だがはやては知っている。いや、具体的には聞こえてこないのだけれど、感じてはいる。
自分たちが知らないところで、彼は立ち回っては敵を潰し、味方を作ってくれているのだろうと。
クロノやユーノの敵は多い。命を狙われることさえあると聞く。はやてだって今以って『闇の書』の悪評がついて回る。レジアスのはやてに対する『犯罪者』呼ばわりがいい例だ。
そんな彼らが表舞台でも裏でも立ち回る中で、ヴェロッサは表以上に裏をメインの活動の場に置いている。だからただの査察官の1人である方が動き回りやすい。エリートや敏腕と言われつつ、しかしなかなか出世しないことから、ヴェロッサの腕を疑ったり、不正を働いているのではないか、賄賂でももらっているのではないかという悪意ある噂は後を絶たない。それを知らないはずもないが、普段から飄々として過ごし、本当は皆を必死で守っている。
――『なあ、私。この世界ではロッサがお相手みたいやけど……ユーノくんやろうとロッサやろうとクロノくんやろうと関係あらへん。目、離したらあかんよ? 私らみたいには……ならんといてな。お願いや……!』
何よりは4年前。自分たちの分身のような『彼ら』が現れた『闇の書の欠片』事件。
消えゆく『クロノ』『ユーノ』『ヴェロッサ』を見送った後、彼女たちはなのは・フェイト・はやてに警告を……1つのお願いをしてきた。
生きた世界は変われど、辿ってきた人生は違えど。その人の本質は変わらない。『なのは』『フェイト』『はやて』のために戦い抜いた『クロノ』『ユーノ』『ヴェロッサ』。だからきっと、はやてたちが生きるこの世界でも、クロノもユーノもヴェロッサも同じように戦い抜こうとするのだろう。
『八神はやて』と約束をしたからこそ。同じ道は踏まない。踏みたくない。
実際にクロノもユーノもヴェロッサも、何かから自分たちを守ろうとしていると感じられるからこそ。現状に不安を抱き、何とかせねばと思う。
俯くはやてに、再びヴェロッサの手が彼女の頭に伸びる。
「ごめんね」
「…………」
何への謝罪なのだろうか。
怖がらせたことを? 言えないことを? それとも応えられないことを? はたまたそのすべてをだろうか。
少しでも安心させようとしているのははやてにもわかるし、実際これでヴェロッサはここにいるのだと少しなりとも安心しているだけに、はやては何とも言えず、なすがままにされた。
「1つ。約束するよ」
「何や?」
「必ずすべてを明かす。きちんと話をするから。隠さずすべてを」
「全部?」
「全部」
「……ホンマやな? 信じてええねんな?」
「ああ。信じてほしい」
「……勝手やな」
「自覚しているよ」
「ロッサのアホ」
そこでようやく振り返ったヴェロッサは、いつも通りの甘いマスクで笑っている。ダメだとわかっているのに頬が赤くなるのが抑えられない。それが悔しくて、はやては頭を撫でるヴェロッサの手の甲を抓った。結構強めに。とは言え大した痛みではないはずなのに、ヴェロッサは過剰に痛がって見せる。乙女心を弄ぶ輩には鉄槌を。鉄槌にしては優しいが、それはまあ惚れた弱みと言うか何と言うか。
『――八神部隊長』
気まずいこの空気をどうしようかと思っていたところ、まさに渡りに舟。通信の呼び出しがあり、はやては即座に応じた。相手はグリフィスだった。
『ユーノ・スクライア無限書庫司書長がお越しになりました』
「時間通りやな。通したって。高町隊長とハラオウン隊長、ほてからハラオウン提督も呼んだってくれへん? ああ、あとザフィーラ……はええわ。私が自分で呼ぶさかい」
『承知いたしました』
通信を切るとすでにヴェロッサも普段通りを取り戻したらしく、コーヒーカップを片づけ始めていた。
その背中にもう拒絶の気配はない。いつもの大きな背中だ。
はやては先ほどまでのことを一旦忘れることにする。いつもの兄妹のような感じに戻すのだ。ザフィーラを念話で呼びつつ、はやてはいつものように気軽な感じで声をかける。
「なあ、ロッサ」
「何だい、はやて?」
「ユーノくんに最近何か変なところあらへん?」
「ふむ。察するにフェイト執務官に何かあったのかい?」
「指輪してました」
「――詳しく」
はやてが目を光らせると、ヴェロッサも素早く振り向くではないか。その目はこれ以上なく面白いものを見つけたという目だ。輝いて見えるのは錯覚ではあるまい。
「左手の薬指に」
「さらに詳しく」
「普段はしてへんな。けど昨日屋上でぽや~っとしとったんよ。星でも見てんのかな~と思てたんやけど、指を見とってな。嵌まってるやないですか~指輪が」
「情報提供に感謝するよ、八神二佐。さっそく査察しておこうじゃないか」
今日の昼からは約束を取り付けておいた模擬戦がある。クロノ・ユーノ・ヴェロッサ・ザフィーラと新人4人の。そのためにやって来たユーノに今ここで聞き出すのだ。クロノもいるからますます面白いことになりそう。
ユーノとフェイトは相変わらずよく喧嘩をしているが、仲は非常に良い。指輪がユーノからの贈り物であればフェイトは肌身離さず持ち歩くだろうし、支障がなければ常に指に嵌めておくだろう。なのに人前では外しておくということは、まだ秘密にしたいということ。何としても査察して真相を明らかにせねばなるまいて。
――野暮? それが何か?
「クロノくんも早朝からなのはちゃんと2人になっとったで」
「知ってるさ」
「何で後から来たはずのロッサが知っとんねん、と聞くのは愚かやんな」
「僕の情報網を侮ってもらっては困る」
クロノは早朝からすでに来ており、早朝訓練を見物した後、なのはと共に今日の模擬戦について打ち合わせがあると言って2人で一緒に出て行った。朝食の後の一時休息、次いで講義があり、そこで今日の午後からの実戦演習についての説明もするはずなので、僅かな時間ではあるが朝食を共にしたのだろう。
もちろん、査察済みである。
――野暮? 知ったことか!
「驚きを通り越して呆れるほどいつも通りだったね。普通に打ち合わせしてたよ」
「何でやねん! そこは普通『久しぶりだな』『そうだね、寂しかった』『抱きしめていいか?』『それじゃ足りないからキスして』くらいの流れやろ! 面と向かって会うんは3ヵ月ぶりやないか! どんだけ仕事人間やねん!」
「2人きりになった直後に1分くらい抱擁していたけどね」
「なんや、やっぱりあったんやんか。ほんで?」
「それだけで満足したらしくてねえ」
「中学生か!」
「普段が遠距離恋愛だからね。直接顔を合わせて抱きしめることができたら充分だったのかな。ただねえ、何と言うか、普通に打ち合わせしているだけなのに終始笑顔でね。睦言を囁いているわけでもないのに顔を赤くして」
「そばにいて声聞いてるだけで幸せ一杯ですってか」
「デバイスにお互いの声を録音してるのは知ってたけど」
「生の声を聞けたら胸一杯ですってか」
「クロノがリクエストした高町一尉手作りの卵焼きに舌鼓を打って」
「手作りを食べられたらもう死んでもええってか」
「『やっぱり美味い』『ふふ、良かった』だけのやり取りがどうしてああも甘く感じてしまうのか……あまりに甘くて査察を切り上げてしまったよ」
「ホンマ聞いてるだけでお腹一杯やわ。不思議や……」
親友たちの恋愛事情は蜜の味とでも言おうか。独り身をこの上なく痛感させられるのでたまに虚しくなってしまうけれど。
そこで扉がノックされた。ユーノだろう。はやてが入室を許可すると、顔を見せたのはやはりユーノだった。
「やあ、はやて」
「よう来てくれたな、ユーノくん。久しぶりや!」
「うん、久しぶり。アコース査察官も」
「通信では嫌と言うほど顔を合わせているんだけどねえ」
肩に自然と手を置いてユーノを迎えるヴェロッサのスキンシップも慣れたもので、ユーノは久しく通信以外で顔を合わせる仲間たちに笑いかけた。
はやてもヴェロッサも表面上はにこやかに対応しつつ――ユーノの手を即座に確認。右手……なし。左手……なし。
(ないねえ、指輪)
(絶対どこかに持ってるで)
(有力なのはネックレスにして持ってるってところかな?)
(シャツしっかり閉じてるさかい見えへんな)
二言三言ユーノと挨拶を交わしながら、はやてはユーノの胸元を確認。しかしさすがにシャツの奥は見えない。
(こうなれば……ロッサ!)
(任せておきたまえ)
ソファーに誘導し、ユーノの隣にロッサが座る。はやては対面に。ロッサは肩を抱いていた手をそっとユーノの首元へ。
「……あの、ちょっと。なんで自然にボタン外そうとしてるんですか?」
「ふふ。君と僕の仲じゃないか」
「誤解を生む発言はやめてください! フェイトに聞かれでもしたらシャレにならないんですから!」
仲は良くともなのはもフェイトも浮気に関しては容赦がない。2人の反応はまるで異なるものの暗く笑って迫るのである。クロノもユーノも自覚がないがもてる。本人たちにその気はなくとも周囲は放っておかないのだ。どんなになのはとフェイトを一途に愛しているとしても。
一通り怒った後、なのはは一週間は一言も口を聞かず、フェイトはどこまでも落ち込む。らしいと言えばらしい。クロノとユーノが何とかせねばと必死になって駆け回り悩みまくる姿を見たのは数えきれない。
「失礼するぞ」
「ああ、クロノくん。ええところに」
「ん?…………おい、何してる?」
ボタンを外されてヴェロッサに胸元に手を突っ込まれたユーノが固まっている。ユーノの視線がクロノの目と合った瞬間、クロノが目をそらした。
「失礼した」
「ちょっと待ったああああ! 激しく誤解したままで行こうとするなああああ!」
即座にヴェロッサを引っぺがして立ち上がったユーノは、まるで恭也の『神速』でも使ったのではないだろうかと思うほどの動きでクロノに取りつく。
「ええい触るな汚らわしい! 貴様、フェイトという相手がいる身で、しかもそのフェイトの兄である僕の前でよくも浮気なぞ……それも男と!」
「誤解も甚だしい! 僕が好きなのはフェイトだけだ! はやてとアコース査察官という時点でわかってるだろ!」
「まあな」
「あっけらかんと認めたなこの野郎」
「さすがにジョークかそうでないかの区別くらいはつく。今回はタチが悪いが」
「区別がつくなら乗るなよ」
「空気を読んだだけだ」
「読まなくていい」
「焦るお前が面白いのが悪い、フェレットもどき」
「フェレットもどきって言うな、真っ黒クロスケ」
まるで毎日会っていたが如き掛け合いである。平常運転ということらしい。
そして最後の恒例のやり取り。これを聞かないと落ち着かないとばかりにはやてとヴェロッサは顔を見合せて笑う。
それはそうと。
(ロッサ)
(あったねえ、ネックレス。指輪がついているかどうかまでは見えなかったけど)
ユーノは普段、装飾品の類を一切付けない。着飾るということ自体に無頓着だからだ。フェイトという恋人ができてからもその点は変わらない。フェイト自身、着飾ることにあまり興味がないということもある。ユーノのためにいつも綺麗でいたいという願望はあるようだが、物で着飾るより如何に自分自身の素の状態を綺麗にするかに重点を置くタイプらしい。
(ユーノくんとフェイトちゃんのことやし)
(ペアルックとか好きそうだからね。これはフェイト執務官も同じかな?)
折よく、フェイトが扉の外に見えた。なのはも一緒だ。
「……あぅ……」
ユーノも気づいたらしい。クロノの脇からギギギと錆びた機械のように顔を覗かせると、ユーノの顔を認めたフェイトがさらに顔を赤くさせて俯いた。さっきの大声での『好き』発言が原因だろう。付き合って何年経つねん、て言うかプロポーズまで行ったんとちゃうんかと言いたくなるはやてだが、フェイトはまだまだ初心らしい。横でフェイトの肩を叩くなのはは「愛されてるね、フェイトちゃん」と声をかけつつ、ちょっと羨ましいのかクロノをチラチラと見ている。クロノも気づいてはいるのだろうが、さすがにできないだろう。後で耳元で囁くくらいはしてあげるべきだとヴェロッサが呟くと、うるさいとだけ返ってきた。
「……主。打ち合わせをするのでは?」
と、いつの間にか来ていた狼形態のザフィーラの呆れの声に、はやてとヴェロッサはザフィーラには悪いけれどこれからが弄りの本番なのだと目を光らせつつニヤリと嗤い返すのであった。