リリカルなのは ANOTHER LOCUS   作:ウルフ中隊

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前話で予告していた通り、なのはの初登場です。同時に、拙作初の戦闘となります。

クロノはストライカーズ時点でも一級の魔導師としての実力を維持していることが明かされています。ただ、実際の描写がないのが残念です。
クロノはなのはやヴィータをして戦いたくない相手と言うくらいだそうですね。特にヴィータの『えげつない』という表現に似合う戦い方を目指しました。
いまいち彼の『温度変化』の技能というのが把握できず、今回はそこを描けませんでしたが、いずれは独自の解釈を交えて描けたらなと思っています。

それでは、クロノVSなのは、エンゲージ!



LOCUS 3

 本局内部にも戦闘訓練室は存在する。しかしながら、さらに発見されていく次元世界や続発する次元災害・犯罪に対して人員や規模を増やす中で、限られたスペースしかない本局に戦闘訓練用のスペースを増やしたり広げたりする余裕はない。従って、大規模な訓練や本格的な実戦演習は管理世界や無人世界に演習場を設けて行うのが基本であった。

 

「"アクセルシューター"、シュート!」

「"スティンガースナイプ"、フォックス1!」

 

 鬱蒼とした森がどこまでも広がる無人世界。その上空で、桜色と青色の光弾が空間を飛び回る。

 一方の桜色は弾数が20発以上に及んでおり、前後左右上下の3次元の空間攻撃を仕掛ける。対して青色はたった1発。されど桜色の光弾以上に高速かつ高機動で動き回り、向かってくる桜色の弾丸を叩き落としていく。

 

「いっそう弾丸の動きが良くなっているし、20発以上の弾丸を操作しながらこちらの動きを見逃さない空間把握能力はさすがだな。元戦技教導隊のファーン・コラード三佐に3ヶ月とは言え鍛えられただけはある」

 

 クロノは叩き落そうとした弾丸が咄嗟に避けた動きを評価しつつ、右と左から挟み撃ちをしてきた弾丸を飛び上がることで避ける。2つの弾丸はクロノが直前までいたその場所で、互いにぶつかって爆発。

 

「あ、もう!」

「…………」

 

 離れた場所からも聞こえるなのはの苛立った声。クロノは少しだけ眉を顰めつつ、さらに背後から頭上から足下から向かってくる弾丸を自らの弾丸で叩き落とし、背中は防御魔法で守り、足下からの一撃は前に身を投げて躱す。

 

「かかったね、クロノくん!」

 

 今度こそ、という気概を感じる雄叫び。クロノが飛び出した前方より、3発の弾丸。

 わかっている。どうせ同時攻撃を狙うなら、逃げようがないよう、前からも狙うべきだ。それをしてこなかったのは、前に回避させて体勢を崩したところを、という腹積もりなのだろう。確実に当たる状況へと追い込む。前回クロノが教えたことを、なのはは早々に実践して見せたと言える。

 だが。

 

「"スナイプショット"」

 

 迎撃していた弾丸を呼び戻すように加速の追加詠唱。本来ならば高速高機動の"スティンガースナイプ"と言えども間に合わない距離。それでも瞬間的に加速した弾丸は、横薙ぎに"アクセルシューター"を次々に引っ叩くように弾き飛ばし、爆発させた。

 

「っ! まだまだだよ!」

 

 悔しそうな反応を見せつつも、掲げたレイジングハートをクロノに突きつけるなのは。すると残る桜色の弾丸がすべてクロノに殺到する。スティンガースナイプは多数の傀儡兵が相手でもたった1発で全て貫通させてしまうほど耐久性と長時間の制御を可能とするが、魔力を消費すれば供給し直さない限りいずれは壊れる。実際、なのはの弾丸を迎撃し続けた青い弾丸はもうそろそろ限界だ。なのはの休ませない猛攻は、魔力の再チャージの暇を与えないため。

 

「策としては悪くない。弾丸の耐久限界を計算しているのもね。だが……」

 

 向かってくる桜色の光弾はほぼ前方。クロノを中心にして扇状に分布。さらに背後から数発。

 スティンガースナイプの弾丸にもう叩き落せる余裕はない。が、叩き落す必要はない。真っ向から、迎撃するまで。

 クロノが呼びかけると、青い弾丸はクロノの目の前にやってくる。

 

「デュランダル、"CIWS"プログラム起動」

『OK, Boss. Interceptor and Searcher, activate(迎撃及び索敵スフィア展開)

 

 左手に握る白くて先端に青い宝玉を持つ、2年前からの新たなもう1つの相棒が力強く野太い声で返してくる。するとクロノの左右に2つの青い光球が実体化する。

 

「"スティンガースナイプ"解除。残る魔力をそのまま"スティンガーレイ"に変換」

Magic scan complete(魔力走査完了。). Enemy 15 targets(敵目標15)

「デュランダルはそのまま索敵・照準を継続。索敵情報をS2Uとリアルタイムで連携。迎撃は僕とS2Uで行う。S2U、背後からの対処を任せる。ユー・ハブ」

『I have』

 

 右手に握る黒くて先端に片翼の装飾がある、クロノの長年の相棒がいつも通り軽やかに返してくる。これで背後からの脅威は気にしなくていい。

 

All enemy bullets lock-on(全弾をロックオン)

「"スティンガーレイ・ファランクスシフト"、オープン・ファイア!」

 

 "スティンガースナイプ"の弾丸が一際光り出すと、突然弾丸から多数の針が射出される。直射弾"スティンガーレイ"。誘導性能は皆無だが、"スティンガースナイプ"よりも速い。桜色の弾丸は突然のことに回避行動を取ろうとするが、速い上に数が多すぎて逃げ切れず、次から次に突き刺さる。1つ1つは大したことがない威力でも、それを複数浴びたのだ。桜色の弾丸は身を震わせ、連鎖式に爆発していった。

 そして背後から迫る最後の弾丸は――

 

『"Delayed Bind"』

 

 クロノが先ほど回避する前までいた場所に突然生まれた魔法陣から鎖が飛び出し、桜色の弾丸を捕縛してしまう。暴れる弾丸を、しかしがっちりとホールドして逃さない。

 ゆっくりとクロノは振り向き、S2Uを向ける。と、バインドが一際強く弾丸を締め付けて。耐久限界を迎えた桜色の弾丸は、バインドごと爆発、霧散してしまう。

 

 

 

 

 

「20発以上のシューターでも、クロノくんの迎撃網は抜けない、か……」

『……Yes』

 

 S2Uを下ろしながら悠々となのはに向き直る、相変わらず黒づくめのバリアジャケットに身を包む少年――最近、一気に背が伸び始めて少年から青年へと成長しているクロノに、なのはは苦々しい顔を浮かべる。

 

――『ストレージデバイスだからインテリジェントほどの自律思考はできないが、その分、同時処理が可能なタスクの数と処理速度は勝る。リンクして並列処理を行えばさらに上がる。それを最大限に活かしたのが、複数の攻撃・捕縛・索敵魔法を組み合わせた、僕の複合魔法近接迎撃プログラム"CIWS"。あらかじめプログラムを組んでおけば、半自動で敵の攻撃を防ぐ迎撃網を構築し、対処することも可能だ』

 

 "アクセルシューター"は高速高機動で誘導性能にも長けた、『射撃魔法の1つの完成形』とも称されるほどの魔法。砲撃魔導師であるなのはだが、射撃魔法にも長けたなのはにとって、砲撃以外では一番得意とする魔法なのだ。闇の書事件から2年。カートリッジシステムも量産段階に入った現在、安定性や安全性も確保され、出力や使い勝手の向上、制御法の確立など、無限書庫で見つかった情報も相まって、なのはとレイジングハートもより多くの弾丸の同時制御や誘導性能のアップを実現している。なのは自身、訓練の甲斐あって、元々自身の才能として備わっていた空間把握能力を意識して練度を高めたため、同時制御数はまだまだ増える余地があると言われている。

 それが、完璧に防がれた。防御陣で防ぐのではなく、複数の魔法を組み合わせた、素早く的確な手並みで。元々バインドは得意と言っているクロノ。ヴィータでさえ『えげつない』と評するクロノの戦術にバインドは欠かせないもので、高速機動戦を得意とするフェイトも、まず得意な距離に持ち込ませてもらえないと拗ねるほどだ。

 

「特にクロノくんの主力魔法、"スティンガースナイプ"。初めて見たとき以来、ずっと頭から離れない魔法だったけど……」

In the past two years,(この2年間で) the performance has further improved(さらに性能が向上していますね)

 

 ある意味、"アクセルシューター"は"スティンガースナイプ"を理想として生み出された魔法と言える。

 いや、もっと言えば、クロノこそがなのはにとって目指す姿であるとさえ言ってもいいだろう。

 なのはは『単独でも戦える砲撃魔導師』という特殊な立ち位置にいる。本来の砲撃魔導師はセンターガードかフルバックとして、前衛に守られながら後方でどっしりと構えて火砲支援を行うものだが、なのはの場合は"アクセルシューター"などによる中距離戦もできるし、高速移動魔法もあって近距離戦も自衛程度はこなせるため、本来の砲撃魔導師ならば不可欠な前衛を必要としない。もちろん、いれば戦闘が楽にはなるけれど。

 クロノも似たようなものだ。彼もチームで言うならばその役割はセンターガード。執務官として指揮を取る彼は、センターガードの理想型だ。そして執務官だからこそ、単独で任務に当たることもあり、従って単独での戦闘もこなせなければならない。"スティンガースナイプ"で近・中・長距離すべてに対応でき、砲撃もこなすことができる。バインドを駆使し、また近距離での格闘戦もリーゼロッテ仕込み。砲撃魔導師ではないだけで、クロノもまた単独で戦える魔導師なのだ。

 

「なのは」

「何かな、クロノくん?」

「決まったと思うと油断するその癖、まだ直らないようだな」

「う……」

 

 P・T事件でも闇の書事件でもそうだったが、なのはには悪癖がある。なのはも気を付けてはいるが、つい緊張が解けてしまうのだ。

 

「前々から言っているが、なのは、君は自分の短所を直すことにもっと注力した方がいい。長所を伸ばすことで短所を補おうとするのも間違いではないが、短所が無いに越したことはないんだ。特に実力が拮抗している相手と戦う場合はね」

 

 実力が同じ場合、短所があればそれだけ隙ができてしまうということ。実力が拮抗しているだけに、その短所は致命的となろう。

 

「砲撃を撃ちたそうだな、なのは?」

「そ、そんなことないよ?」

「そうか。残念だが、設けた条件通り、砲撃は3回までだ。考えて使うように」

「何度も言われなくてもわかってるよ!」

「……それと、コロコロ表情が変わる感情豊かなところは君の長所だが、いちいち相手の言動に反応して冷静さを損なうな。ここ最近の君は落ち着きがないぞ」

「あ、はい……」

 

 イラッとしたのは事実なのでなのはは納得いかないところがあれど、自分が悪いという思考が勝ったので素直に頷く。センターガードはチームを束ね、指揮をする役割を持つだけに、冷静さを損なうことはチームの敗北に繋がりかねない。常日頃、所属する武装隊の隊長たちからも言われていることだ。模擬戦を依頼しているシグナムにも指摘されたことがある。

 

――『ヴィータも感情的なところがあるから、高町との戦いの際はそれで済んでいたところもあるだろう。あのとき、私がお前の相手をしていたら、勝っていたのは我らの方かもしれんな』

 

 ヴィータはヴォルケンリッターの中で最も人間的な成長を遂げたと言ってもいい。それだけに感情が顕わになりやすい。人間的にはそれでいいのかもしれないが、戦闘では一概にいいこととは言い難いのだ。

 

「"アクセルシューター"の同時制御弾数が増えているにもかかわらず、動きは以前と相違ない。日々のトレーニングは欠かしていないようだし、そこは大したものだね」

「……そんなことないもん」

「……いや、ここは喜びたければ喜んでいいんだが」

「れ、冷静でいないといけないって言ったの、クロノくんでしょ!」

 

 一瞬浮かべてしまった笑顔を見られてしまったのだろうか。なのはは少し頬を染めて言い返すことで照れ隠しとした。さすがにバレバレではあるだろうけれど。

 

「だいたい、このくらいで喜んでなんかいられないよ、私」

「……いい向上心だと、そう思っておこう」

 

 何だか中途半端な褒め方だとなのはは思う。クロノの不本意そうな顰めっ面も、褒めているとは思い難い。

 だが褒められて喜んでいる場合ではないのだ。

 もっと。

 もっともっと。

 強くならなければ。強くなって、戦技教導隊に入れるくらいにならなければ。

 

(守る。絶対に守って見せる。おにーちゃんみたいに、守れる人になるんだから!)

 

 守れなければならない。守らなければならない。

 高町なのはは、そう在らねばならないのだ。

 

「……少し趣向を変えようか」

 

 すると、突然クロノがそんなことを言い出した。

 砲撃の使用制限だの、明らかに加減をした戦い方だのに続いてのこと。なのはは唇を不愉快そうにへの字にする。

 

「今の君に言っても直そうとしないからね。その欠点がどれほどまずいものになるか、身を以って知ってもらう」

 

 何だかクロノも機嫌がいいとは言えないような口調だった。

 冷静さを損なうなと口を酸っぱくする彼にしては珍しいことだったが、なのはが疑問視するより早く、高度を下げていき、やがて眼下の森の中に消えていく。

 何をする気なのか。レイジングハートを両手で握り締めていると。念話で問いかけるより早く、森の中から青い光弾が現れる。1つ、2つ、3つ、4つ……さらに増えていく。

 

「見えない敵との戦いってことかな? そんなの、"ワイドエリアサーチ"で」

『Master! Behind!』

「!」

 

 咄嗟に背後に向けて防御陣を張る。直後に襲う軽い衝撃。魔法陣に当たった誘導弾が呆気なく消えていく。当たったところで大した威力もなかっただろうし、バリアジャケットで完全に防御できて無傷でいられただろう。

 それが、余計になのはを苛立たせる。

 背後を突くのはいい。油断した自分が悪い。

 だがバリアジャケットのことを当然に知っているのだから、こんな一撃ではダメージを与えられないことくらい明らかだ。隙を突いたのに、まるで馬鹿にしたような一撃。

 

「レイジングハート、"ワイドエリアサーチ"でクロノくんを探して!」

『Yes, master!』

 

 先ほど言われた『冷静さを損なうな』というクロノの言葉を、なのはは完全に忘れてしまっていた。

 弾丸に似た光球がいくつも生まれ、レイジングハートの操作によって森の方へと散らばっていく。

 が、その途端。

 青い光弾が反応して動き出した。"ワイドエリアサーチ"の光球へと一直線に向かい、レイジングハートが反応するより早く撃墜してしまう。

 それに驚いていると、四方八方、森の中から次々に何十発もの青い弾丸が飛び出してきた。一直線に向かってくるものに混じって、不規則に螺旋や角ばった動きなどをしている動きのいい弾丸がある。そのすべてがなのはに殺到する!

 

「そんなもの!」

 

 カートリッジロード! "アクセルシューター"で迎撃!

 桜色の弾丸が高速で向かい、次々に青い弾丸を落としていく。

 

 そこに更なる追撃。

 

 左下方より、多数の直射弾!

 青い弾丸よりも速く、それらを追い越し、桜色の弾丸の迎撃を数で押し切って突っ込んでいく。

 

『"Round Shield"!』

 

 新たな"ワイドエリアサーチ"の光球を生み出して索敵を急いでいたレイジングハートが、中断して防御に回る。

 次々に防御陣に命中する弾丸、と言うよりも刃。当たってもすぐに消えはせず、防御陣に突き刺さるように留まっている。

 なのはは驚き、少し焦りながらも防御はレイジングハートに任せ、先に光弾を迎撃することを優先する。

 やがてなのはが青い光弾をすべて撃墜すると、刃の猛襲も止まった。罅の入った魔法陣はギリギリ守りきることに成功している。

 続けざま、なのははレイジングハートを向ける。

 

「"ディバイーン"」

『Master, please stop――』

「"バスターーーー"!」

 

 桜色の砲撃が刃が向かってきた先へと襲いかかり、着弾と共にその一帯を吹き飛ばす。木々が吹き飛び、土砂が舞い上がる。

 

「はあ、はあ……」

 

 やがて土煙が晴れてくると、そこには抉られた大地。森の中にぽっかりと開いた空地。

 もちろんそこに、クロノの姿はない。

 

「……やってくれるね、クロノくん」

『Master. Please calm down(落ち着いてください)

「……うん。ごめんね、レイジングハート。思いっきり冷静さを失ってた」

『Don't mind』

 

 大きく1つ深呼吸。少しは頭も冷えた気がする。

 今の攻防で嫌でも冷やされたが。

 砲撃魔法の使用は3回まで。貴重な1回を浪費してしまった。いや、『させられた』と言うべきか。

 

「私たちも下りよう、レイジングハート」

『I see』

 

 再び森の中から青い光弾が表れ始めたのを確認し、すぐになのはは行動を起こす。クロノ同様、森の中に身を隠すために降下。陽の光すら遮ってしまう背の高い木々が立ち並ぶ森の中に着地すると、もう一度なのはは息を吐いた。今度は深呼吸ではなく、自分に呆れての溜息だった。

 

「やられちゃった」

 

 薄暗い森の奥を睨みつける。この森のどこかにいるクロノに向けて。

 

「"ワイドエリアサーチ"のサーチャーを潰しにかかるなんて」

He will not let us search for him(私たちに索敵をさせないつもりですね)

「うん。空中に居たらこちらは丸見え。クロノくんは森を使って姿を隠すことで、どこから来るかわからない脅威を生み出せる上、こちらはどこにいるかわからずに攻撃できない」

 

 とりあえずその見えない脅威、どこから来るかわからない脅威は、なのはも降下することで防いだ。

 だがこれで、お互いに今はどこにいるかわからない状態だ。

 こういった訓練は別に珍しいことではない。これは対テロ訓練でなのはも経験していた。この次元世界でもテロリストは存在し、魔法を使えない者が質量兵器を使っていることは多いし、こうした遮蔽物を利用したゲリラ戦などを仕掛けてくる。魔法でも質量兵器でも似通ってくる部分があるのは人が人である以上は変わらない。考えることは同じということだ。

 

「"スティンガースナイプ"の強度は大したことなかった。さすがクロノくん、同じ魔法でもプログラムや魔力量を調整してまるで違う魔法のように扱うよね」

 

 "ワイドエリアサーチ"の光球自体はそう動きがいいわけではない。とは言え、レイジングハートが咄嗟に反応する前に光球を撃墜した動きは非常に高速で正確だった。光球に当たって共に砕けたところから、おそらくは本来の耐久性を削り、高速性に特化させたのだろう。クロノはそういう細かいプログラム調整や魔力運用を得意とする理論派の魔導師なのだ。

 

 

 

 少なくとも現時点でなのはが知るクロノの"スティンガースナイプ"は3種類。

 

 

 

 通常のスティンガースナイプは、貫通性と耐久性に優れ、すぐには壊れないし、バリアやシールドに当たってもしばらくは押し込むことができる。術者が操作することで高速かつ高機動で動き回ることができ、近距離~遠距離と距離を選ばずに使える、かなり優れた誘導弾である。その分、複数の弾丸を生み出せば生み出すほど操作がややこしくなるため、単発での使用が基本だ。

 

 

 

 クロノのバリエーションの1つが、"スパローシフト"。

 これはクロノかS2U、もしくはデュランダルのいずれかが制御する必要があり、クロノ本人が制御すると、なのはの"アクセルシューター"同様にその場から動けなくなる。S2Uかデュランダルの場合は、クロノは動けるが、制御しているデバイスは制御に専念するために他の魔法を使えなくなる。ゆえにクロノ・S2U・デュランダルの各1発ずつで最大3発までという同時制御数の少なさも欠点だ。その分、通常よりも各種性能がアップしている。クロノが先ほど20発の"アクセルシューター"を迎撃していたのも、この"スパローシフト"だ。

 

 

 

 次に"サイドワインダーシフト"。

 これはなのはの"アクセルシューター"とほぼ同じ。高速かつ高機動なのは変わらないが、耐久性が皆無で、"アクセルシューター"同様に1発で破壊されてしまう。その分、全方位に対する索敵能力があり、ロックした目標を自動で追尾することができる。自動追尾中はクロノやデバイスの操作を必要としないため、クロノは自由に動けるし、デバイスも別の魔法を行使することができる。クロノかデバイスが直接操作することで、その高速性と高機動性はさらに上がる。欠点としては、自動で索敵できる距離が短く、近距離での格闘戦向けであること。直接制御の場合の同時制御数が少ないことも欠点で、S2Uで最大4発、デュランダルで最大8発。そのため、クロノは自動(オート)の弾丸と直接制御(マニュアル)の弾丸を同時に使用することで弾数を補うことがある。

 

 

 

 そして"アムラームシフト"。

 ロックした敵を完全自動追尾する能力を持つところは"サイドワインダーシフト"と同じだが、弾丸そのものの索敵距離が長大で、遠距離からでも発射して自動追尾させることができる。クロノやデバイスの操作を必要としないため、クロノたちも自由に動ける完全撃ちっ放し(fire and forget)の弾丸だ。その分、機動性が低いことが欠点で、フェイトのような高機動を旨とする魔導師相手には効果が低く、索敵する方向が前方に限られるため、鋭い機動で躱されると途端に目標をロストしてあらぬ方向へ飛んで行ってしまう。"サイドワインダーシフト"と併用することで弾数をカバーすることが多い。

 

 

 

「たぶん、私に襲いかかってきたのは"サイドワインダーシフト"と"アムラームシフト"だろうね」

『I agree. Bullet, which had taken an irregular(不規則な機動を取って) maneuver is "Sidewinder Shift"(いたのが前者で), and which had come straight(真っ直ぐ向かって) towards us is "Amraam Shift"(来たのが後者でしょう)

「でも……最初のサーチャーを潰したのは何だろう? 距離からして"サイドワインダーシフト"の射程外だし、"アムラームシフト"にしては機動性があったし……」

『……New variation』

「だろうね。ヴィータちゃんがえげつないって言うのもわかるよ」

 

 いつだって隠し玉を持っていて、それを仲間にも教えていないし、いざ戦うとあの手この手でやってくる。こちらがどんな戦法を取ろうと、即座にそれに対応してくる。シグナムをして歴戦の強者と言わしめる戦闘経験持ち。充分な魔力を持ちながら、力押しを好まず、『巧さ』で以って敵を制圧する戦闘巧者。

 だからこそ、クロノこそがなのはの戦闘スタイルにとって目指す姿である。戦技教導官に求められる資質は、いかなる戦場においても対応できる即応力や汎用性、巧みな魔力運用や発想力なのだから。

 

「とにかく、クロノくんの居場所を突き止めないと。向こうも同じだろうしね」

『Yes. "WIDE AREA SEARCH", activate again(”ワイドエリアサーチ"、再度発動します)

 

 敵を先に発見した方が先手を取れる。薄暗い森の中に1人で居続けるのは正直言って怖いが、空中に上がればクロノからはいい的になってしまう。

 なのはは"ワイドエリアサーチ"の光球が周囲に現れる中、森の中へと目を凝らす。実はすでに近くに迫ってきているのではないかという恐れ。なのはが歩くたびに落ち葉や木の枝が鳴らす音さえも大きく聞こえるほどの静寂。この音で気づかれてしまうのではないか。言い知れない不安がなのはを襲う。それが暗闇・静寂の持つ恐ろしさである。

 と、なのはは頭を振った。

 いけない。これもクロノの狙いなのかもしれない。冷静を口にする彼は、度々なのはの感情的な姿勢を戒める。これはそのための訓練なのかもしれないのだ。故意に不安にさせる環境を作り出し、与えている。『身を以って知らしめる』という彼の言葉がなのはの脳裏に蘇り、こんな暗闇や静寂以上に怖いものが何なのかを思い出す。

 

 

 

――『すげえ、これが期待のエースか!』

――『そら来たぞ! 俺たちの天使のご登場だ!』

――『高町准空尉が来たと知らせなさい! もう大丈夫よ!』

 

 

 

 怖いのは暗闇でも静寂でもない。

 

 

 

――『エースと言っても、こんなものか』

――『笑顔を守りたい、ねえ』

――『どうしてもっと早く来てくれないんだ! 何が守るだ! 何がエースだ!』

 

 

 

 怖いのは、期待に応えられないこと。守れないこと。笑顔を守りたいと願いながら、その笑顔を逆に失わせてしまうこと。

 

「こんなことで、足踏みなんてしていられない」

 

 全方位に散っていく光球を見ながら、なのはは1人意気込む。

 1人。

 何だかそれが、なのはには皮肉に思えた。

 

――『なのはちゃんがそんな顔で笑ってるからだよ! どうしてわからないの!?』

――『なのは、アンタね……! 私が前に言ったこと、ホントにわかってんの!? そりゃうざいかもしれないけど、それもこれも、アンタがそういう顔してるから心配になるんでしょうが!』

 

 アリサとすずかとはまだ仲直りしていない。止めてくれていたはやてとフェイトも、互いに今度はその姿勢で睨み合っている。フェイトだけはまだそばに居続けてくれているが、気軽には喋れないまま。今度ユーノに相談しようと思っているが、彼も止めようとするのだろうか。

 間違っていない。私は、間違っていないよ。

 そう思っているが、でも本当のところはどうだろうか。

 

『Master!』

「っ!」

 

 この暗闇と静寂に影響を受けてしまったか、心までどんどん落ち込んでいこうとする。

 それを引き戻すレイジングハートの呼びかけに、なのはは我に返る。同時に、耳に入る何かの音。高速で向かってくる、空気を切り裂く何か。

 

「レイジングハート!」

『"Round shield"!』

 

 なのはの視界に、森の奥から木々を避けながら向かってくる青い光弾が映る。1つ。さらに左方向からも1つ。

 

「!」

 

 さらに上方より、木々による暗幕を突き破って落ちてくる弾丸。その数、3つ!

 咄嗟に"ラウンドシールド"を張った。

 が、その必要はなかった。全弾が光球へと向かい、そして1発1目標と言わんが如く、全ての光球をまたも撃墜したのだ。

 

「そ、そんな……まだ居場所はばれてないはずなのに、どうやって!?」

『――Master! 12 o'clock, high!(12時方向上空) I've detected a magical power approaching at high speed(高速で飛来する魔力を感知しました)! They are coming straight towards us(まっすぐこちらに向かってきています)! 12 shots(数12)!』

 

 偶然などではない。明らかになのはを狙ったものだ。

 なのはは"フライアーフィン"を羽ばたかせ、すぐにその場から離れようとする。そこへ再び上から強襲をかけてくる青い弾丸。なのはの近くに次々に着弾!

 

「わ、わ! にゃああああ!? な、なんでええええ!?」

 

 静寂は嘘のように破られ、破壊音となのはの悲鳴で一気に騒がしくなった。

 12発の弾丸の強襲は、なのはには当たらなかったものの、その弾頭が着弾と共に周囲に衝撃と魔力の破片を飛ばし、なのははそれを食らってしまっていた。青い破片がなのはのバリアジャケットに突き刺さり、やがて粒子となって消えていく。

 

「はあ、はあ、はあ、はあ……!」

 

 が、それも一瞬だ。

 ダメージと呼べるものはほとんどない。が、精神的なダメージがひどい。ゲリラ戦で何より怖いのは、どこから狙われているのか、いつ攻撃を受けるかわからない恐怖だと言う。今のなのはは暗闇と静寂もあって、まさにそれを味わわされていた。しかも一方的に攻撃を受ける身だ。木にもたれかかりながら、なのははそれほど動いていたわけでもないのに激しい呼吸を必要としているほどで。

 

『Master! Are you OK?』

「はあ、はあ……うん、何とかね」

 

 こんなとき、この相棒には本当に感謝したくなる。1人ではないと教えてくれる。

 隙だらけであることは自覚しているが、なのははずるずると尻をついてしまった。

 

「……本気だ、クロノくん。本気で怒ってるのかも」

 

 やはり自分の態度が悪かったからだろうか。なのははちょっと後悔し始めるも、すぐに頭を振って振り払う。いや、そもそもそういう態度を取ってきたのはクロノなのだ。ようやく本気を出してくれるようになった。それだけのことだ。それに、彼が怒っているというのなら、それでそれで彼の冷静さを崩した何よりの証左だ。

 とは言え。それでこの強襲爆撃はやり過ぎな気もするけれど。

 

『Master, do you want to configure(もう一度"ワイドエリアサーチ"を) "WIDE AREA SEARCH" again(構成しますか)?』

「……ううん、やめとこう。たぶん、あの弾丸は"ワイドエリアサーチ"に反応してる」

 

 レイジングハートも同意を示す。

 2回続けばさすがに理解した。どういう理屈かはわからないが、待機状態にあった弾丸は、最初からなのはを狙ったものではない。なのはの発動する"ワイドエリアサーチ"に反応するようにプログラミングされているのだろう。

 そうなれば納得だ。クロノは別の魔法を用意していればいい。だから先ほども相次いで"サイドワインダーシフト"と"アムラームシフト"を放ってくることができたのだろう。

 しかし、ならば今の爆撃はどういうことだろうか。"ワイドエリアサーチ"の弾丸は破壊されていたのに、正確になのはの周囲に落ちてきた。

 

「あ、でも。本来の"スティンガースナイプ"の精密誘導性能で当たらないわけがないけど……試してみるしかないかな」

It's high risk and dangerous(リスクが高く危険です)

「でもせめてこのカラクリくらいわからないと――」

 

 

 

(反撃の一手は思いついたか、なのは?)

 

 

 

「にゃっ!? ク、クロノくん!?」

 

 反撃のしようがないよと考えていた時に、まるで見透かしたような念話が入った。なのはは反射的に立ち上がり、慌てて周囲を見回す。もちろん、クロノの姿は見当たらない。

 

(少しは頭も冷えたか?)

(……おかげさまで)

 

 やはり怒っているらしい。念話は言葉で話すよりも相手の心を感じやすいため、クロノの怒りのようなものが当てつけるようになのはには感じられた。ただ、どこかなのはに対するものより、別のものに対して怒っているような感覚がある。それが何なのか、なのはにはわからなかったけれど。

 

(解説は必要か?)

(教えてくれるの?)

(このくらいはいいハンデだろうからな)

(そうだね。教えてくれるなら教えてほしいかな)

 

 なのははレイジングハートを見る。すると宝玉が光り、『Rojer』と白い文字が浮かび上がった。

 携帯電話が電波で相手と繋がっているように、念話をしているということは、魔力でリンクされているということ。ならば電波の発信源を探るのと同じ要領で、逆探知を行うのだ。なのははクロノに長話をさせるべく、せっかくそのネタを振ってくれているクロノに教授を願った。実際、知りたいという希望もある。

 

(この強襲の第一段階は、当然ながら相手の居場所を知ることだ。君は当然、"ワイドエリアサーチ"を使うと踏んでいた。踏むと言うか、もう確信していた)

(どうしてかな?)

(簡単な話だ。君の欠点だよ。君にとっての索敵とは、相手の姿を捉えることに注力しがちだ。つまり、魔力を感知するということに慣れていない)

 

 だから、今回の攻撃のような発想も思いつかないのだと、クロノは続けた。

 新しい戦術や魔法の開発も主要な仕事である戦技教導隊を目指すなのはだからこそ、発想力への指摘は厳しい。何しろ、感覚で魔法を組むところが大きいなのはは、発想力がなければ無理な話であり、そこは密かな自信があったのだ。だがそれを、理論で魔法を組むタイプのクロノに指摘されることは、厳しい評価と言わざるを得ない。

 

(察しはついているだろう。最初の"スティンガースナイプ"は、君の魔力と"ワイドエリアサーチ"に組み込まれているプログラムに感知するよう調整してある。条件設定が必要だが、その条件に当てはまれば、広大な索敵能力を持たせたこの"ハームシフト"は、瞬く間にそれを感知し、自動で追尾する)

("ハームシフト"?……クロノくん、もしかしてそれって、私たちの世界のミサイルを参考にした?)

(質量兵器を参考にしたなんて、あまり聞こえのいいものではないだろうがな)

 

 スパローといい、サイドワインダーといい、アムラームといい、どこかで聞いたことがあるとなのはも思っていた。

 ゲーム好きのなのはゆえに、シューティング系にも手を出していたが、その1つに戦闘機を題材としたものがある。なのははそれをフェイトたちと遊んでいたが、一度だけクロノもしたことがあるのだ。ゲームなんてしたことがないクロノゆえ、なのはにボロ負けしたのだが。

 AIM-7『スパロー』。AIM-9『サイドワインダー』。AIM-120『アムラーム』。いずれもアメリカ製の空対空ミサイル。誘導方式がセミアクティブのスパロー、赤外線のサイドワインダー、そしてアクティブのアムラーム。それらミサイルの特徴と、各スティンガースナイプの性能は多くの点で一致する。ミサイルの性能をスティンガースナイプに反映させたというところか。そしてハームとは、アメリカ軍の対レーダーミサイル、AGM-88『ハーム』のこと。敵のレーダーが放出する電波を探知し、その電波源に向かっていく対地ミサイルである。対電波源というところを、対魔力に置き換えたわけだ。

 

(それと君の欠点の2つ目。いや、決まると思うと油断する癖を含めると3つ目か。君は基本的に機動戦ではなく、砲撃魔導師だからこそ、動かずにその場で対処する戦い方をする。それが悪いわけではないが、防御性能を過信しすぎだ)

 

 単独でも戦える砲撃魔導師とは言うものの、"アクセルシューター"使用時は動けないという制約もあるし、近距離で戦うことなんて基本的にはなのはも避ける。そのために近距離に踏み込まれた際に距離を取るための"バリアブレイク"などを習得しているし、シューターで上手く相手を近寄らせないといった戦術も組み立てている。

 フェイトは防御より回避を重視して防御を疎かにしがちという欠点があるが、逆になのはは元々の防御性能の高さがあるので躱すより防ごうとする傾向がある。

 

("アクセルシューター"で"サイドワインダーシフト"と"アムラームシフト"を迎撃してくることは想定内だった。動けなくなったところを、"スティンガーレイ"で攻撃するだけだ)

("ディバインシューター"なら動きながらでも操作できるよ? そっちの可能性は考えなかったの?)

("ディバインシューター"では"サイドワインダーシフト"の高機動性能にはついてこられない。それはもう君も知っていることだからね。"サイドワインダーシフト"を何発か混ぜて、あからさまに高機動性が目立つように動かせば、君は"サイドワインダーシフト"であることに気づき、必ず"アクセルシューター"を使う)

 

 その通りだった。ぐうの音も出ない。

 長話を続けさせる必要があるとは言え、続ければ続けるだけ自分が目を瞑ってきた弱点を次々に看破されそうで、早々に切り上げたい欲求がなのはの内に湧き上がる。しかしながら、残念なことにレイジングハートはまだ逆探知の最中だ。

 

(そして"アクセルシューター"は操作中、その場から動くことができない。向かってくる弾丸に迎撃中のなのはは、そちらにかかりきりになるから、レイジングハートが自動で防御してくることも想定していた。が、その硬さが少々想定外だった。彼女の優秀さに感謝するんだね)

(Thank you, Mr.Chrono)

(どういたしまして。君も苦労しているな、レイジングハート)

I got used to my master's unreasonable behavior(もう慣れました)

(2人してひどい……!)

 

 そして直射弾"スティンガーレイ"を選択したのは、単になのはがその場から動けないから直射弾で充分という理由からだけではない。

 貫通性能が地味に高いのだ。

 "スティンガーレイ"は、初歩的な魔法に分類される直射弾。"シュートバレット"や"ウイングシューター"もそうだが、それ以上に貫通性能が高く、ゆえにクロノはこちらを好んで使う。

 "スティンガーレイ"のみならず、"スティンガースナイプ"や"スティンガーブレイド"もそうだが、『スティンガー(ファミリー)』は総じて貫通性能が高いのが特徴だ。同じ系統だからこそ、同じ理論をプログラム内に組み込まれていたり、その影響で魔力運用が似通っていたりするため、同じ調整法や魔力運用が通じやすく扱いやすいこともある。どこまでも効率性や合理性を重視した理論派である証と言える。

 さらに、クロノの"スティンガーレイ"は初歩の魔法だなどと甘く見ていると痛い目に遭う。その調整能力と統制・徹底された理論で強化された彼の"スティンガーレイ"は、なのはどころかユーノの防御陣ですらしばらく鍔競り合うほどなのだ。初歩的だからこそシンプルな造りゆえ、徹底的に鍛えると上位魔法にも引けを取らない性能を持ちうることもある。"スティンガーブレイド・エクスキューションシフト"や"エターナルコフィン"という派手な魔法に隠れがちだが、クロノの理論派魔導師としての真骨頂たるは"スティンガーレイ"や"スティンガースナイプ"だとユーノは評している。

 

(地上に降りたことは想定内?)

(もちろんしていた。が、どちらでもよかった。空中に留まるなら僕は索敵の必要がない。"ワイドエリアサーチ"を潰しつつ、少しずつ削っていくつもりだった)

(下りて正解だったんだね……)

(まあ、下りてくれた方が欠点を指摘しやすいから、下りてくれてよかったと言うべきかな)

(……クロノくん、性格悪いよ)

(生まれつきだ。悪かったな)

 

 全然悪いと思ってないことは、ついでのような言葉からも明らかだった。えげつないと言われるのも当然だとなのはは心の中で毒づく。念話で飛ばないよう、気を付けながらだが、ある意味、聞こえてもいい気もする。

 

(あの爆撃してきた弾丸は何? あれもやっぱり"スティンガースナイプ"?)

("スティンガースナイプ・ハープーンシフト"さ。なのはの世界で有名らしい対艦ミサイルから拝借した)

 

 対艦ミサイルAGM-84『ハープーン』。

 基本的には敵艦をロックオンした上で発射するミサイルであるが、ある程度の方位だけを指示して発射し、後はミサイルが自力で索敵し、発見した目標に突撃するBOL方式という誘導方法が備わっている。

 それを真似ており、"ハームシフト"が補足して向かった先を座標入力し、"ハープーンシフト"を発射したというわけだ。なのは自身をロックオンしたわけではなく、座標入力しただけなので、なのはの近くに着弾するだけでなのは自身には向かってこなかった。相手を正確にロックできるわけではないのが、この戦術の唯一の欠点というところか。

 

(つまり私は自分から場所を教えたようなものなんだね……)

(そういうことだ)

 

 涼しい声で返答してくるクロノに、なのははムッとした顔をする。

 索敵魔法の使用は同時に自身の位置を知らせることにもなるリスクを持つ。嫌でも魔力反応を発生させるからだ。なのはが索敵魔法を使ってくれることでばら撒いておいた"ハームシフト"が反応し、"ハームシフト"が向かった先になのはがいるということだから、その座標を入力して追撃の"ハープーンシフト"を放つ。クロノは位置を知られずに攻撃できるという寸法だ。

 

(対フェレットもどき用に編み出したものだ。悪いが、実験させてもらった)

(実験って、ひどいよクロノくん!……って、ユーノくん?)

(腹立たしいことに、あいつの索敵魔法は反則というレベルで精密だからな。こちらがちょっとでも魔力を使えば即座に位置を看破される)

(そう言えば、遺跡ではトラップとか防衛機構とかがあるから、ちょっとした反応も見逃せないって言ってた気がする)

 

 遺跡は潜れば当然、真っ暗だ。視界がない中では鋭敏な感覚が研ぎ澄まされ、索敵魔法も否が応にも上手くなる。それがユーノの言である。

 

(それはまあいいとしてね? ねえ、クロノくん。あの破片を飛び散らせるのはちょっと凶悪すぎない?)

(相手を正確にロックできない以上、弾丸が直接当たる可能性は低い。広範囲を攻撃する仕様にするのは当然だろう)

(あれ、ガラスが体に突き刺さったみたいですごく怖いんですが!)

(威力は押さえてある。君のバリアジャケットならば大したダメージはないはずだが?)

(それはそうだけど……!)

 

 本当に、えげつない。

 

(さてと。解説はこれで終わりだが、質問はあるか?)

(そうだね……)

 

 チラリと視線を落とすと、レイジングハートが『もう少し』と宝玉に文字を浮かび上がらせた。ここで念話を終わらせるわけにはいかない。なのはは何でもいいから問いかけをしようとして。

 

(まだ"スティンガースナイプ"にはバリエーションがあるのかな?)

(ああ、ある)

 

 それは何かな、と別に教えてもらえるとは期待せずに問おうと思っていたなのはの耳が、『その音』を捉える。

 

(弾丸を敵の上方まで誘導して炸裂させ、広範囲を爆撃するというものがな)

 

 本当に性格悪い! えげつなさすぎだよ!

 なのはは"フライアーフィン"を今一度勢いよく羽ばたかせ、その場からの離脱を試みる。レイジングハートは逆探知の最中だ。なのはは防御陣も自身で構成しながら森の中を飛ぶ。

 

 

 

――"スティンガースナイプ・スタンドオフディスペンサーシフト"

 

 

 

 それは念話だったろうか。それとも森のどこからか聞こえてきた、彼の声だろうか。

 確かめている場合でもなく、上空でパッと青い光が広がったと思うと、次の瞬間にはなのはを追うようにすぐ後方に次々に着弾する青い小さな弾丸の雨嵐!

 

「うにゃああああああああ! ク~ロ~ノ~く~~~~ん!」

(やあ、無事で何よりだ。それで、逆探知はできたか?)

「おかげさまでね! レイジングハート!」

『I found you、Mr,Chrono!』

 

 クロノも逆探知をしていたということだろう。その発見が、クロノの方が早かったということ。やはり2人は同じタイプの魔導師。考えも似通うわけだ。とは言え、さすがにやり方がひどすぎる。レイジングハートでさえも若干その声に怒りが混じっていた。

 その怒りのままに、なのはは空中に飛び上がり、森から飛び出す。そのまま一気に上昇をかける。その間に、魔力集束開始!

 

「行くよ、クロノくん!」

Strike back(お返しです)!』

 

 カートリッジロード! 更なる魔力を上乗せ。加えてもう一発ロードして集束時間を短縮。

 桜色の大きなスフィアがなのはの目の前に構成される。

 

「"ディバイィィィィン・バスタァァァァ"!」『"Divine Buster"!』

 

 発射!

 レイジングハートが特定した地点に向けて、今度こその一発を放つ。

 すると、着弾するより早く、森の中から青い砲撃が木々をぶち破って迎え撃ってきた。

 クロノの砲撃――"ブレイズキャノン"!

 2つの砲撃は空中で衝突! 激しく桜色と青色の光を周囲に撒き散らしながら競り合う。

 

「う、くううううううう!」

 

 競り合いながらも……少しずつ、なのはの砲撃が押す。

 砲撃こそ、なのはの十八番。クロノであろうと負けるわけにはいかない。その気概で、少しずつ押す。魔力を惜しまずに注ぎ込む。

 が、クロノもここぞと張り合ってくる。押してはいるものの、決定的な勝利には結びつきそうにない。

 

「――痛っ……!」

 

 そのとき、なのはの腕が痛んだ。レイジングハートをかろうじて取り落とさずには済んだものの、顔を顰め、体を大きくびくつかせてしまう。レイジングハートもさすがにそれに気づかないわけもなく。

 

『Master!? Cancel the shooting(砲撃、キャンセルします)!』

 

 必要ないと叫ぶなのはだが、レイジングハートはなのはの異変を重視してキャンセル。するとクロノの砲撃も消えた。

 

「レイジングハート! 私は大丈夫!」

『But……!』

「もう1発! クロノくんはまだこれを知らない! チャンスなんだよ!」

 

 今回は最初から今までやられてばかり。ちょっとは彼の鼻を明かさないと気がすまない。

 

 

 

 そうでなければ。

 

 

 

 そうでなければ……何のために、アリサやすずかと喧嘩をしてまで、はやてとフェイトの仲違いを誘発させてまで、こんな無茶をしてきたかわからない。

 

 

 

 砲撃魔法は自然、魔力を収束させる必要がある。溜めの時間を要する。それこそが砲撃魔導師の何よりの隙。だから前衛など味方に守ってもらわねばならない。だがなのはは単独で動けるという特殊な砲撃魔導師。当然、なのはは対策を講じ、訓練を積み重ねた。

 

「くう……腕に力が入らない」

『Master……!』

「大丈夫! 魔力で体を強化すれば……!」

 

 まだまだ慣れているというわけではないが、なのはは自力でブースト魔法を習得していた。魔力を体に通し、強引に拳を握る力を、砲撃の反動に負けないだけの力をその身に与える。

 

「魔力集束開始! カートリッジロード!」

『……Yes, master』

 

 再度レイジングハートを構える。クロノ自身の砲撃によって、その炎熱で周囲の木々が少しなくなっていて、彼の姿が見えた。その顔が、若干歪んでいるように見えたのは、気のせいだろうか。そのクロノが、飛び上がろうとしていて。

 

「させない! 見て、クロノくん! これが私の努力の成果! "ショート……バスタァァァァ"」

 

 "ディバインバスター"よりかは一回り細い、それでも充分な威力を持つ砲撃。

 放ちながらも、なのははクロノへと向かって突撃する。

 動けないこと、それが砲撃魔導師の欠点であることは百も承知。だから動きながら放てる魔法を会得した。それが、ある程度の威力と射程を犠牲にチャージ時間を短縮させ、移動しながらの制御も可能にしたこの"ショートバスター"である。

 クロノどころか、戦闘で使用すること自体が初めての魔法。如何にクロノであろうと――

 

「"ブリザードキャノン・クイックファイアリングシフト"!」

 

 応戦。真っ向から、クロノが砲撃で再度応じてきた。

 今度は青いながらも、飛び散るのが炎ではなく、氷の欠片。突き出すはS2Uではなく、デュランダル。氷結効果に優れた仕様で開発されたデバイス。速射性を向上させているのだろうか。

 再びぶつかる砲撃。

 ヒヤリとしたなのはだが、感じる圧力は先ほどより格段に弱い。おそらくは速射性を上げる代わりに威力を犠牲にしているのだろう。"ショートバスター"と同じ発想か。

 だがその場から動けない点は先ほどの"ブレイズキャノン"と変わらないらしい。

 籠めた魔力が少ない分、砲撃は長くは続かない。だからなのはは突撃速度を緩めなかった。この砲撃で決することは不可能。

 ならば!

 なのはは強くレイジングハートを握り締めて。

 

「"フラッシュムーヴ"!」

 

 砲撃が消えた瞬間、なのはも消えた。いや、消えると言う言葉が相応しいほどに、フェイトに匹敵する速度で高速移動をしたのだ。その速度を常に維持できるのがフェイト。なのははそこまではできないが、瞬間的な加速ならばフェイトに匹敵する。その速度を以って、一瞬でクロノの背後に回り込む。クロノは――背中を向けたままだ。

 

「クロノくん、覚悟だよ! "フラッシュインパクト"!」

 

 レイジングハートを、思い切り振り下ろして。

 

 

 

「何度言わせる気だ?」

 

 

 

 レイジングハートが、彼に当たるギリギリで止められてしまう。

 

「……あ」

 

 なのはが少し視線を動かせば、自分の腕に絡みつく青い鎖。

 

「僕はバインドが得意だと、何度も言ったはずなんだが」

 

 ゆっくりとクロノが振り向く。

 

「レ、レイジングハート! "バインドブレイク"を!」

I just tried to break bind, but(先ほどから試みていますが)……!』

「そんな簡単に破壊できないさ。非常に納得できない話だが、フェレットもどきの編んだ理論とプログラムも導入して対ブレイク用の強化を施してあるからね」

「えっと……」

 

 振り向いたクロノの顔は、非常に厳しかった。睨みつけられ、なのはは咄嗟に顔を逸らしてしまう。

 

「……欠点の4つ目。ここ最近の君は攻撃に傾注しすぎている。そのせいでこんな簡単なトラップにも引っかかる。決まったと思うと油断する癖もあると思うけどね。センターガードや砲撃魔導師はできる限りその場に留まっている必要がある。でなければ戦場全体をしっかり把握できないし、守るべき後衛がちょこまかと動き回ると前衛が守りにくいってこともある。だがその場を動かないからこそ、狙われやすくもある。近接防御のためにトラップを仕掛けておくのは常套手段だ」

 

 何よりも、そのトラップが発動したところを先ほども見ているだろうとクロノは指摘を重ねた。"アクセルシューター"の弾丸を止めたバインドを言っていることはなのはももちろんわかっている。

 そう。高速で動き回る小さな弾丸さえも捕縛してしまうほどのバインドならば、なのはが突っ込んできたところで捕縛できないわけがない。クロノお得意の"ディレイドバインド"。なのはの"レストリクトロック"同様、一定範囲内に侵入した敵を絡め取る捕縛魔法である。

 

「あと、自分自身にブースト魔法をかけるなど論外だ! 欠点の5つ目! 基礎的な体力向上や体作りを怠っていること! 魔法による強化に頼りすぎるな。僕がなぜ砲撃を制限しているかわかっているか?」

 

 砲撃は反動が強い。大口径の銃は威力が強いが、反動で肩を脱臼することさえある。それと同じことだ。使いたければまず耐えられるだけの身体を作ることは必須。

 

「あと、自分自身にブーストをかけるのも絶対にするな。100%の力しか出せない体に150%の力を出させるってことは、それだけ体に負荷がかかる。それを魔力で軽減するわけだが、その魔力さえも自分のものだ。そうなれば倍の魔力を消費することになる。それほどの魔力消費は体力も奪うし、そんなことを繰り返せば身体にも悪影響を及ぼす。ブーストはフルバックなど支援役にかけてもらうものだ。いいな?」

「……わかりました」

 

 言葉とは裏腹に、納得がいかないという顔を浮かべる。隠すのはよくないが、こうあからさまにわかりやすいとそれはそれでどうかと思う。

 これはなのはが自己ブーストをかけないよう、所属する隊の隊長やコラード三佐、あとはなのはの兄の恭也に言い聞かせてもらうよう伝えておくべきだろう。コラード三佐は元々たった3ヶ月で卒業させることに反対していた人で、卒業後もなのはとフェイトを気にかけてくれているし、恭也も魔法のことを伝えた後、なのはの身体作りに協力してくれているからだ。ちなみに恭也の組んだメニューは、それによるなのはの身体作りの成果もあり、コラード三佐も非常に感心しており、恭也に教官を頼みたいくらいだと評価している。

 

「運動が苦手なのは知っているが、肝心の身体作りの方は?」

「……やってるもん」

「恭也さんに確認しておこう」

「うにゃ……申し訳ありません」

「……君は本当に恭也さんには弱いんだな」

「だって!……おにーちゃん、普段はすごく優しいけど、怒ると本当に怖いんだもん。おとーさんもおかーさんもおねーちゃんも、怒ったおにーちゃんには勝てないんだから」

「恭也さんは師範代だそうだし、大学でもトレーナーの勉強をしているそうだから相談相手として最適だろう。美由希さんを育てたと言うし、僕もメニューを組んでもらったが、本当に効果覿面なんだ。恭也さんのメニューをちゃんとこなしているか?」

「……やってるもん」

「欠点の6つ目。嘘をつくのが下手すぎる」

「う、嘘はいけないんだよ!」

「それはそうだが、戦いでは虚実織り交ぜることが重要だ。フェイントは悪いことじゃない」

「……クロノくん、舌が本当によく回るよね。最近おにーちゃんに似てきた?」

「光栄だ」

「褒めてないよ! からかうところまで真似しなくていいって言ってるの!」

 

 怒るなのはであるが、バインドで宙に拘束されたままなので格好がつかない。それでも体を動かして暴れるので、クロノは大きな大きな溜息を1つ。

 

「高町なのは准空尉」

「は、はい……あいたっ!」

「君の負けだ」

 

 S2Uで軽く額を小突かれ、完全敗北を宣告されたなのはであった。

 

 

 

 

 




ミリタリー好きなので、現代兵器を魔法で再現した感じです。
えげつなさは描けていましたでしょうか?
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