リリカルなのは ANOTHER LOCUS   作:ウルフ中隊

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リリなのの魔法は詠唱文句というのがあまりありませんね。
リリなの世界の魔法とは科学と結びつき、インストールとかプログラムとかコンピューターのように扱われていることから、私は魔法とはコンピューターでいうソフトのようなものと認識しています。
デバイスがない時代は詠唱や構成を自分でしていたものを、デバイスという優秀なハードができたことで、一切合財をデバイスが処理してしまい、術者本人はせいぜい魔法の選択と発動キーの詠唱程度なのだろうと。

だからきっとなのはの時代の魔導師は、本当の意味で魔法を理解していないと思っています。すでにできた魔法をなぞって行使するだけであると。
実際、理数系の知識があると魔法に強くなるとは示されているようなので、構成に必要な公式や法則、理論などを知って本当の意味で魔法を『理解』できれば、同じ魔力を注ぎ込んでも効果が変わるのではないでしょうか。

魔力量が少ないユーノが、なのはに防げなかったものを防いで見せていたので、そういうふうに解釈してみました。
あとは、ストライカーズでキャロがよく詠唱してくれていて、それを聞いていると、詠唱の中に明らかにエリオを指すとみられる言葉が入ってましたから、詠唱文句は一定ではなく、向ける対象などによって多少変えることもできると見ました。

今回はユーノとなのはを描くのが目的ですが、はやてにも登場してもらって、そういう魔法の解釈を示しています。LOCUS2のようにちょっと前後編くらいの長さになりそうです。

※2017/11/26 修正:冒頭の方で無限書庫の増員した司書が辞めていった理由をはやてが推論している地の文があります。起こった時期が違うことを書いていました。齟齬が出てしまうため、修正しています。

 修正前: 原因は半月と少し前、ユーノが倒れた理由ともなった、公開意見陳述会での一件だろう。あれで責任を問われた本局の情報部と技術部。無限書庫は情報部の一部署だから、当然ながら無限書庫にも批判が向けられたわけで、増員で配置された者たちが異動願いを出したことは想像するに容易い。

 修正後: 原因は半月と少し前、ユーノが何度目かもわからない倒れた理由ともなった、先日クロノから聞いた古代遺物管理部機動課同士の手柄争いによる一件だろう。無限書庫は責任を押し付けられ、同僚であるはずの情報部からも放置され、1年ほど前の公開意見陳述会のこともあり、増員で配置された者たちが異動願いを出したことは想像するに容易い。


LOCUS 5

 1つ目の自動扉を通り、2つ目の重厚な扉を開けた先に広がる光景。

 来るたびに出入口で立ち止まって見上げ、1つ溜息をつく。

 

(ホンマ、いつ見ても壮観やなあ)

 

 無限書庫の規模・神秘性、そして何より知的好奇心や探究心をこれ以上なく刺激する、本好きには堪らない蔵書の数。いつ、何度訪れても、その度に魅せられ圧倒され。

 言葉を失うほどの感嘆の思いが、はやての溜息には満ち満ちている。

 

「け・ど……」

 

 見上げていた顔を下げ、まばらに目に入る局員らしき人影を見る。確認できるのは5人。広大な空間に対してあまりに少なすぎる数。

 

「……これはクロノくんの機嫌がまた悪うなってしまいそやね」

 

 もう1つ溜息。

 ただし今度のものに宿るのは、上司であり仲間であるクロノにこの状況を報告したときを想定しての鬱屈したものであった。

 ユーノを含めて5人。これは無限書庫の元々の人員である。そこに司書資格はないけれど、組織の運営に詳しい人をとリンディがユーノにつけてくれた事務方の1人を入れて6人。つい数日前に訪れたときにはもう2人ほどいたはずだが、定時を迎えてまだ10分程度であり、確認できた5人のうち、運営担当の1人を除けばずっと以前から勤めている司書ばかり。増員された司書はすべていなくなったと見ていいだろう。

 クロノとユーノによる無限書庫の立て直しは、2年を経てようやく増員に漕ぎつけたが、それが2ヶ月と持たずに元の木阿弥。クロノの不機嫌は当然であろう。

 原因は半月と少し前、ユーノが何度目かもわからない倒れた理由ともなった、先日クロノから聞いた古代遺物管理部機動課同士の手柄争いによる一件だろう。無限書庫は責任を押し付けられ、同僚であるはずの情報部からも放置され、1年ほど前の公開意見陳述会のこともあり、増員で配置された者たちが異動願いを出したことは想像するに容易い。

 

「え~と……あ、おったおった。アレニアさ~ん!」

「……ん? ああ、はやてちゃんか……」

 

 とりあえず持っているものを渡そうと、一番近くを漂っていた女性司書に声をかける。すると返ってくるのは気怠さ満載、声を出すことさえ億劫と言わんばかりの声だった。そして向けられたのは……はやての口をひくつかせるほどの目の下のクマと、一歩引かせるほどの睨むような半目。

 愛想笑いは好きではないが、はやての厳しい人生の中では人よりはるかに多く浮かべる必要があった。だから今でも愛想笑いはお手の物であるが、その愛想笑いを維持するのにここまで必死になった記憶はない。魔導師ではないので飛行魔法が使えないため、壁に手を突きながら無重力空間を移動して近づいてくる女性司書に、はやては内心「ひいいいい! 怖い怖い怖い怖い怖い! アレニアさん怖っ!」と悲鳴を上げていた。もはや幽鬼と言って遜色ない彼女が近づいてくるのだ。当然の恐怖であろう。淀んだオーラが見えるのはきっと幻覚ではあるまい。

 

「いらっしゃい」

「ど、どうも……あの、大丈夫です?」

「大丈夫に見える?」

「……すいません」

 

 何とか話をするも、あからさまに険が籠もっていて、仕事の邪魔をするなと言わんばかり。心配さえも鬱陶しいと言われたようで、はやては謝るしかなかった。

 いつもは明るくて、同い年で腐れ縁だと言い合う男性司書と共にムードメーカーであるアレニア・グレヴィッチ司書。はやてたち5人娘の中ではアリサに似た性格をしていて、フェイトに次いでよく来るはやてにとっては、時空管理局内でも数少ない、気さくに話せるお姉さんである。そんな人に、普段はやてが局員たちに取られるのと似たような冷たい対応を取られるのは、なかなかつらいものがあった。

 

「あ~、ごめん!」

「はい!?」

「本っ当にごめん! ちょっと待って!」

 

 と、落ち込んでいたら、いきなり肩を掴まれて謝られた。わけがわからず、はやては頭をぶんぶんと振り始めたアレニア司書を呆気に取られて見ているだけだ。

 

「よっし!」

「いやいや、何がやねん」

「何でもない!」

「……そないでっか」

 

 最後に頬を叩いて叫ぶ彼女に、もはやはやてでさえもツッコめず、早々に諦めた。

 けれど今ので暗い淀んだオーラが消え、いつものアレニア司書らしさが戻ってきた。目の下のクマはどうにもならないけれど。

 

「あらためて、いらっしゃい」

「……無理せんでええで?」

「無理の1つ2つ、いや、10や20、30・40・50・60で文句言ってたら司書はやってけないわよ!?」

「いや、そんな司書ここだけや!」

 

 彼女は本来、優しい性格だ。特に面倒見がいい人で年下を溺愛する類。つらそうな顔をした子供など見たら、率先して声をかけるタイプなのだ。そんな彼女が、はやてが一瞬浮かべたつらそうな表情を見て黙っていられるわけがない。

 はやてはそんな彼女をあそこまで追い込んでいる現状に、本気で憤りを覚える。

 

(……絶対に変えたらなアカンな、クロノくん、ユーノくん)

 

 クロノが、ユーノが、失敗しても倒れても頑張る理由が分かった気がするはやてである。無限書庫の有用性がどうとかではなく、踏ん張ってくれているアレニア司書たちのために。2人が執念を傾けているのは、そういう意味もあるはずだから。

 クロノとこの前話してからはやての時空管理局に対する組織改革の意思は強まった。さらに一段強まった決意を抱きつつ、はやては目の前の尊敬できる女性へ、持っていた大きな包みを差し出す。

 

「うわ、でか!? またたくさん作ったわね……」

「いや~、うちの上司が毎度常識外れな量の依頼してますさかい。常識外れには常識外れな御礼が必要やん?」

「なにそのヘンテコな理由?」

 

 苦笑を浮かべるアレニア司書に、はやてもにししと笑う。

 ありがたく頂くわと受け取ってくれると、彼女はその包みを掲げながら無限書庫中に聞こえる大声で呼びかける。

 

「野郎共! はやてちゃんお手製の差し入れだぞ~! 3食ぶりの飯が欲しけりゃとっとと来お~い! ちなみに肉じゃがは私がキープした!」

「3食!?」

「仮眠中に大声出すなアレニア! それは5食ぶりの俺に対する嫌がらせか! 肉は残しとけよ、お前!」

「元気だな、グレヴィッチにフロッガー。お前らにはもう少し仕事を割り振ろうか? どれどれ……おお、おにぎりに漬物とやらがあるじゃないか。もうこれがないとなあ」

「私まで『野郎』の中に入っているのかしら、アレニアさん? あら、ケーキまであるじゃない!」

「皆さん、もうちょっと落ち着いてください。八神さんも呆れてますから。にしてもこの量といい種類といい、もう立派な晩御飯になるなあ」

 

 大の大人たちが子供の作ってきた差し入れ、と言うより本格的な全員の一食分の弁当に群がる。普通は逆だろうにというものかもしれないが、はやては皆が皆疲れきった目をしていることに心を痛めつつも、自らの弁当に目を輝かせていることを素直に喜んでおく。

 アレニア司書と肉じゃがの取り合いをするフェンサー・フロッガー司書を放置し、これを受け取るとはやての上司であるクロノからの依頼は余計断れなくなるなと、冗談交じりに最年長のロッキード・マーチン司書が早速漬物をつまみ食いしながら言う。食べてから言わないでほしいと運営を担当するクフィル・ネシェルが溜息をつきつつ興味深そうに日本の料理を眺め、その横で夜にケーキを食べることに躊躇いながらも目を奪われているパナヴィア・アエルマッキ司書。

 おそらく彼らは、これがクロノからの謝罪の意図もあることは察しているだろう。ケーキはクロノが翠屋で買ってきてはやてに渡したものだ。本当は自分自身で渡したかったようだが、上層部と会う機会を唐突に得られたようで、無限書庫の改善を訴える機会だと言ってはやてにケーキを託した。

 無重力空間で弁当をすべて開帳するわけにはいかないので、重力のある会議用の部屋へ異動する彼ら。そこでチラリと司書室へ目を向け、その扉から出てくる様子はないことに呼びに行こうとするアレニア司書をはやては止めた。もう1つ、別に持っている包みを見せながら。

 

「別に用意してますさかい」

「用意がいいわね。あ、そう言えば、今なのはちゃんが来てるのよ。3人で食べたら?」

「あらま、なのはちゃんが? う~ん、まあ、多めに作ってきたし大丈夫やろか」

 

 実のところ、今のなのはとは喧嘩中なので顔を合わせづらい。はやての場合、直接になのはと喧嘩はしていないのだが、なのはの無理に賛成はできないので微妙なところ。実際、学校でもなのはとは挨拶以上の会話がほとんどできていないままだ。

 だがこのままでいいわけがない。このお弁当で仲直りできればと思いつつ、思い切って行くことにする。

 

「あと、フェイトちゃんが今日は来てないんだけど、どうかしたの? なんかここ数日元気もないし」

「へ? クロノくんと行く方向が同じやからって一緒に執務室出て行ったんやけど」

 

 毎日重い勉強道具を持って来ているし、今日もそのバッグを持って来ていたので、てっきりクロノと途中までは一緒にいたはずである。はやてもそれに関しては首を傾げた。

 ただ、元気がないというのは、はやてにも原因があるのは間違いないだろう。はやてが喧嘩しているのはむしろフェイトなのだから。卑怯という自覚はあるが、何となく言いづらくて言えないはやてであった。

 仲直りの意思はあるのだが、フェイトのことを考えるとここでこちらから謝るのもどうかと思うのだ。クロノも何とはなしにはやてとフェイトの間に漂う空気に気づいている節はある。一緒に執務室を出たのも、その辺を気遣ったのではないかと思うのだが、もしかするとそれで何かあったのかもしれない。

 毎日顔を見せてくれるフェイトのことを司書たちも心配してくれているらしい。彼らは彼らでそんな余裕などないだろうに。そう言うと、よく無限書庫に来て、そして無限書庫を理解してくれるなのは・フェイト・はやては精神的な癒しなのだと皆が笑って返してくれる。

 

「あはは、いや~なんや照れるわ。こんなはやてちゃんスマイルくらいで癒されるなんて安上がりやなあ、ここの人は」

「そんなことないわよ。1人成長が遅くて拗ねてるはやてちゃんとかもう最高」

「やかましいわ! 誰がチビや!」

「いや、言ってないし!」

「逆にアレニアの場合、周りの女子連中より頭1つ飛び抜けてることがコンプレックスだったんだ。察してやってくれ」

「誰がノッポだ、バカフェンサー!」

「いや、言ってねえし」

 

 軽いノリで会話が弾む。フェンサー司書とアレニア司書が馬鹿をやって、それを皆で笑って。

 この時空管理局では他になかなかないアットホームな部署。本だけではない。神秘性や巨大さだけでもない。この雰囲気もまた、はやてがこの無限書庫を気に入っている理由である。

 ユーノとクフィルが来る前、『物置』と呼ばれ――今もまだその呼称で呼ばれているが――他所から蔑まれてきた頃から無限書庫に勤めていた彼ら。左遷同様の扱いを受け、同僚であるはずの情報部からも疎まれてきた。普通ならささくれ立ってしまうところだが、彼らは一丸になって彼らなりに無限書庫をどうにかしようとしてきた。

 元々アットホームな土壌があった無限書庫にやってきたユーノとクフィル。いきなり来て改革など行っても邪魔者とされてもおかしくなかったが、ユーノやクロノの頑張りは2年ですっかり彼らに受け入れられていた。なのは・フェイト・はやてたちが来ることも司書たちにとっては嬉しいことだ。

 なぜならば、ここは本来、誰もが利用できて、誰かのために在るべき場所。厳しい部署に残った司書たちは、だからこそ残った甲斐があると思っている。ユーノとクロノの無限書庫立て直しに協力し、なのは・フェイト・はやての来訪を喜ぶのも当然というもので。

 そんな彼らにとって、時空管理局内で厳しい立場にあるはやてが心安らぐ場所であることは願いであり希望である。同じような立場を現在進行形で経験している彼らだからこその接し方であろう。

 それは、フェイトに対しても然り。

 そして、なのはも。

 

「八神さん。このところの高町さん、何かありましたか?」

「何かあったっちゅうか……ていうか、皆さん気づいてはったん?」

「最初はいつも通りの笑顔だなあと思っていたんだがね」

「最近の彼女の笑顔ね、なんて言うのかしら……以前はこっちも元気になるみたいな感じだったのに、今は見るたびに悲しくなるのよ」

「そうそう、そうなのよ。こう言い知れない不安をかき立てられるっていうかね~」

「俺はそれ以上に10歳前後の子供が浮かべる顔じゃねえだろってうすら寒くなった怖い顔が頭から離れないんだよな……」

「そんな顔してたのか、フロッガー?」

「別に険のある顔ってわけじゃないですけどね。無表情なんですよ。あの子、感情豊かでしょ、基本的に。だから余計に無表情ってのが怖いんですよ」

「あ~何となくわかるわ」

「……そやね」

 

 フェイトも怖いと言っていた『のっぺりとした無表情』のことだろう。はやても見たことがある。フェンサー司書が言う通り、コロコロとよく表情が変わるのがなのはだ。もちろんなのはとて疲れた顔もするし考え込むこととてある。だが『無表情』というのはない。

 

 ましてや、のっぺりと張り付いたような、感情が消えた『無表情』など。

 

 そしてアリサとすずかが怒った原因となった『笑顔』。

 フェイトの心を動かし、はやてを勇気づけ、クロノやユーノ、ヴォルケンリッターの誰もが見惚れるほどの笑顔こそ、なのはのトレードマーク。そんな笑顔だからこそ、なのはは時空管理局のエースとして希望の星になっていった。

 それがどうだ。今のなのはが浮かべる笑顔は。むしろ薄ら寒くさえ感じることもある。

 最初は仲間内だけしか察せなかったものが、こうして司書たちまでわかるようになってきている。このままいけば、きっと局員たちも気づき始めることだろう。

 

「このところなのはちゃん、無理を押しとるみたいやさかい……別に仕事で失敗したわけでもないみたいやし、理由はちょっとわからんねんけど。それで止めようとした親友と喧嘩になってもうて。その、私もちょいと今のなのはちゃんとは微妙な感じやねん……」

「ちょっとちょっと。ユーノくんになのはちゃん・フェイトちゃんに続いてはやてちゃんまでそんな顔しないでよね!」

「アレニア、お前ちょっと黙ってろ」

「私たちもそれとなく調べてみましょうか」

「そうだな。毎度毎度美味しい差し入れもらってるわけだし、調査と分析は無限書庫司書の得意分野だ」

「私も総務部にいましたから事務方の知り合いは多いので、話を聞いておきましょう」

「……ホンマ、ありがとうございます」

「いいってことよ~! ムグムグ……あ、これ、美味しいわね」

「お前ホント空気読めよ、頼むから!」

 

 こんな所でもまた自分は助けられている。申し訳ないと思いながらも、はやては今はこの人たちの好意に甘える。代わりに、必ずクロノとユーノと共にここの現状を変えて見せると固く心に誓って。

 

 

 

 

 

「失礼するで~」

 

 司書たちと別れ、はやては司書室へとノックの後に入る。入ってすぐ、目の前の机に座るユーノが目に入った。挨拶をしようとしたところで、先んじてユーノが口元で人差し指を立てる。そしてユーノがその人差し指を今度ははやてから見て右へと向けるので、そちらを見てみると。

 

「おっと」

 

 来客用の長いソファー、そこになのはがいた。特徴的な栗色の髪と、ちょこん、という擬音が似合うツインテールの片側がシーツから出てきて見えた。

 横になっていて、右半身を下にして眠っているようだ。ソファーの肘置き部分を枕にして。

 

「さっきまで起きてたんだけどね」

 

 ユーノが立ち上がり、はやてのそばに来て小声で教えてくれた。

 

「やっぱ、疲れ溜まってたんやね」

「うん」

 

 正面に回り込むと、眠るなのはの顔が見える。

 

 

 その顔は、穏やか……とは言い難く。

 

 

 眉間に若干の皺が寄っている。口元も、少し力が入っているように引き結ばれていた。

 

「眠りが浅いんだね」

 

 はやてに続いて回り込んでいたユーノが、忍び足でなのはに近づく。なのはは一度寝るとなかなか起きない起き癖の悪さがあるので、多少音を立てた程度では起きない。仲間なら誰もが知っているなのはの弱点である。それでもユーノは静かに近づき、なのはのそばでしゃがみこんで魔法を使い始めた。なのはのためにソファーの上の照明は消されており、薄暗い。その暗さを吹き飛ばす明るいエメラルドグリーンの光を発して、床にソファーを中心とした魔法陣が広がった。次の瞬間には魔法陣から薄い膜のようなものが生じ、なのはをソファーごと覆う。

 

("ラウンドガーダー・エクステンド"。確か、ミッドチルダ式の高位結界魔法やんな。ホンマに高位なんかって言いたくなるねんけど)

 

 魔法陣の構成から発動までが早すぎる。それでいて雑なわけでもなし。デバイスなしだというのに、相変わらず開始から構成・発動までのタイムラグがほとんどないことに、はやては感心せずにはいられない。結界魔導師なのだからそんなものだろうかとも思っていたのだが、魔法を学ぶうちに違うことがわかって。デバイスの必要性を実感するたび、それを持たずに高位魔法さえ初歩の魔法と大して変わらぬ速度で構築するわ、複数同時処理さえこなすわ、無詠唱から後述詠唱なんて高等技法までやって見せるわ、ユーノの技量には驚かされてばかり。

 そんなはやての関心を余所に、結界を発動させたユーノは、後述詠唱という形で詠唱を始めた。

 

妙なる響き 光となれ 癒しの円のその内に 不屈を宿す心優しき白の少女を抱き 彼の者に休息を与えたまえ

「お?」

"ラウンドガーダー・エクステンド"

 

 結界が一度強めに光を発した。それが完成の合図。

 すぐに光は収まり、さらに光量を抑えるように暗めになっている。

 

「……う……にゃう……」

 

 それでもなのはが少し眩しそうに反応した。起きるかと思われたが、なのはは手を額の辺りで動かしているだけで起きる様子はない。手で光を覆うつもりなのかもしれない。

 その仕草に目をこする猫を想起させられ、はやてもユーノも癒されて自然と口元が緩む。癒す側が癒されていてどうするのかと思うも、この可愛さに癒されない方がおかしいと誰にともなく心の中で反論するはやてである。

 

「ごめんね、なのは。もうちょっとだけ我慢して。風は止み 波は静まる 其は そこに存在するも見えぬ 凪の如く――"オプティックハイド"

 

 ユーノが自分の結界に指を当てると、今度は接触点を中心に手の平大の小さな魔法陣が生まれた。すると見る見るうちに薄い結界の膜が消えていく。床の魔法陣も。

 すべてが消えると、眩しくなくなったからか、なのはは手をこてんと顔の前に落とし、険のあった顔から力が抜けていき、今度こそ穏やかな表情を見せてくれた。それを見てユーノは今一度微笑を浮かべ、「これでいいかな」と立ち上がった。

 

「いやいやいやいや」

「どうしたの、はやて? できればもうちょっと静かにね。防音結界までは張ってないし」

 

 そのまま何食わぬ平然とした表情ではやての前を通り過ぎて机に戻ろうとするユーノの肩を掴む。なのはが如何に起きにくい性質だからと言って確かに騒ぐと起こしてしまいかねないため、はやてはやや顔を寄せ、小声で叫ぶ。

 

「平然とすなっちゅうねん! 今何したん!? いや、わかっとる! 使った魔法はわかっとんねん! けど何や!? 何やねんそれ!? ちゃんと説明してえや!」

「いや、はやて、落ち着いて。説明するから。ちゃんとするから」

 

 ガクガクと肩を揺らされるというのは、寝不足な身にはなかなかに堪えるものである。他の司書同様、ユーノの顔にはよく見なくてもわかるほどのクマができている。はやては若干迷惑そうなユーノのつらそうな表情に、我に返って手を放した。

 

「えっと、"オプティックハイド"をいつの間に使えたの、とかそういう質問かな?」

「ほなそれから聞こか」

 

 幻術魔法"オプティックハイド"。

 幻術魔法そのものがほとんど使い手のいない魔法で、はやても初めて見る。

 "オプティックハイド"について言えば、使い手が少ないのは単純に有効性が低いものだからだ。かけられた対象が一定以上に動いたり魔力を使用したりすると、簡単に解けてしまう。せっかくステルス状態になっても、そこから何もできないのでは意味がない、という論理である。

 幻術魔法は技量や術式によっては人間のみならず、センサーやレーダーすらも欺いてしまう。反面、物理的な衝撃に弱いため、広域攻撃や多弾攻撃などで破られやすい。有効性がないわけではないが、対策が取られればあっさり破られるため、術式の複雑さや難解さもあり、コストやリスクに対するリターンが少ないとされる。だから使い手が少ない。まして補助魔法を軽視する風潮の中では、見向きされなくなるのもむべなるかな。

 が、使い手が少ないということは、それだけ対策を知っておく必要性が薄れるということでもある。防御魔法は誰でも覚えるから、それを突破する"バリアブレイク"は覚えておかなければならない。だが滅多に使い手のいない幻術魔法の対策までいちいち覚えている者は少ないのだ。

 

「要するに、逆手に取ったんだよ。まあ、大概の人はデバイス使うから、初見のみ有効ってトコだけどね。そう何度も通用しないだろうし」

「ユーノくん、魔法の訓練してたん?」

「そりゃあ僕だって魔導師だしね。スクライア一族も発掘で傀儡兵に遭遇なんて珍しくもないし、戦闘の機会はそれなりにある。まして……君やなのはたちを守りたいなんて思うならね」

 

 なのはのそばにいない自分が守りたいなんて変な話かもだとか、もうとっくに戦闘という点でははるか先を行くなのはを守るなんておこがましいとか、そんな言葉が後に続く。

 それでも、何もせずにはいられなかったのだろう。何もできない歯痒さは、はやてにもよくわかる。

 しかしただでさえ無限書庫の激務の中で魔法の鍛錬までしていたということだから、はやての目が厳しくなるのも致し方のないことであろう。

 

「にしてもな?」

「うん」

「"オプティックハイド"て、自分に対して使うもののはずやろ?」

「ああ、そこは調整しただけ」

「だけて……」

 

 がっくりと首を落とすはやて。どうしたのとユーノが慌てているが、どうしたのやないわと叫び返してやりたくなる。脱力し過ぎてできなかったけれど。

 術式や公式の追加や一部変更、その順番の入れ替えなど、確かに魔法はある程度の効果調整ができる。だがそれは下手をすれば魔法が暴走したり思いもかけない効果を示したりすることもあり、簡単にできるものではない。その魔法を構成する術式、公式、そしてそこに使われている定義や法則を調べ、それらを理解しなければならない。そのためには物理の知識が必要になったり、化学や数学もまた然り。さらに注ぎ込む魔力の量、結合の強弱などなど、魔導師としての技量も問われ、試行錯誤を繰り返す研究者のような根気も必要だ。

 そうしてできた魔法が、実際に使われているものなのである。普段はデバイスがそれら一切合財を『プログラム』としてインストールされ高速処理しているから、術者はせいぜい発動キーの魔法名詠唱くらいで済んでいるだけ。デバイスのありがたさを、改めてはやては痛感させられる。

 スクライア一族でもデバイスは使っているようだが、学者肌である彼らは、基本的にデバイスはあくまで『補助』に位置付ける。自分の使う魔法は、それを構成する公式や法則、定義から『理解』するようにしているらしい。自分の使う魔法を『理解』するために。そして『理解』しているからこそ、その場に合わせた調整もできるのだ。

 

「詠唱文句も大して変えてないでしょ? 本来の"オプティックハイド"の詠唱は『()は そこに~』なんだけど、それを『()は そこに~』にしてるだけ」

 

 ユーノからしてみれば、同一の魔法を調整して別の魔法のように運用するのはクロノの十八番であり、よく見ているので何ら珍しいものではない。むしろユーノからすれば、"スティンガースナイプ"という1つの魔法だけで"スパロー"・"サイドワインダー"・"アムラーム"・"フェニックス"・"ハーム"・"ハープーン"・"スラマー"・バンカーバスター"・"トマホーク"・"スタンドオフディスペンサー"と、ユーノが把握しているだけで10通りも使い分けができるクロノの方が驚きだ。腹立たしい話だが。

 が、はやてにしてみれば何を言うかという話。先ほどユーノ自身が言っていたではないか。

 

「滅多に使われないだけに、教本やらでも参考程度くらいしか書かれてへん。定義やら公式やら理解するにも、どんだけ資料探して読み込んで理解せなアカンと思てんねん」

 

 ユーノが天才児であることはフェイトから聞いている。次元世界の大学についてはよく知らないが、トップレベルの大学を飛び級で卒業しているらしいと。

 だが資料探しはそれとはまた別だ。公式を検索してそれを構成する定義を調べ、その定義はどういう理論や理屈から成り立っているのか、さらに調べていく必要があることもあろう。

 が、憮然として問うはやてに、ユーノは何を言っているのかという態度で。

 

「はやて、ここはどこ?」

「……OK。そやね、そうやったわ」

 

 ここは無限書庫。探せば見つからないものはないとまで言われる知識の宝庫。

 そしてユーノの検索と速読の魔法は一級品だ。何せ夜天の魔導書の情報さえも短期間で調べ出し、更に闇の書の弱点まで導き出したのだから。

 

「"ラウンドガーダー・エクステンド"も同じ理屈だよ」

 

 だからユーノは説明はもういらないでしょと言いたげにサラリと済まそうとした。

 が、そうはいかない。はやてはニヤリと笑う。そうは問屋が卸さないというやつだ。反撃開始である。

 

「理屈はわかった。それはさて置いてええねん。ユーノくん? 私が知ってる"ラウンドガーダー・エクステンド"の詠唱文句とは後半部分がかな~り違うんやけどな~?」

「な、何のことかな?」

 

 ユーノがしまったと言いたげな顔を一瞬浮かべ、すぐに視線を逸らした。そこではやての目が光る。

 

「ユーノくん、私は誰や?」

 

 まるで先ほどのユーノの「ここはどこ」という質問をなぞるようにはやては問いかける。

 

「八神はやて。料理がアースラ組で一番上手な女の子だね。絡み癖が玉に瑕」

「やかましいわ! て、アカン。ゴホンゴホン! 私を自分のペースに乗せて話逸らそうとしてもアカンで!」

「親友5人の中だと身体の成長面で取り残されているってことを気にしている女の子?」

「やかましいっちゅうとんねん! 言わんといてや! さっきも言われたわ!――て、ユーノくん!? ええ加減にせんと私も怒るで!?」

「ごめんごめん」

 

 さすがにこれ以上誤魔化そうとは思わないのか、ギブアップしたということか、ユーノは一時の間を置いて話し始めた。

 

「さっきも言った通り、魔法は調整することで効果を上げることもできる。例えば、そうだね、守る対象を指定することで魔法ははっきり対象を認識してくれるし、何から守るのかを指定すれば一層それに対して効果を発揮してくれる」

 

 ユーノはその例として、"プロテクション"と"ラウンドシールド"を挙げた。

 どちらも防御魔法である。その違いは、前者が対物理攻撃、後者が対魔法攻撃に対して強いことにある。どちらか片方に限定することで、限定した方の攻撃に対してより強い防御性能を発揮するのだ。

 すでになのはもフェイトもはやても使い分けているのである。ただそれは、『理解』しているわけではない。そういうものだという認識でいるだけだ。

 

「つまり、3人が3人とも、本当の意味で『理解』していないだけ。最初からそういうものっていう認識でいるだけだよ」

「デバイスに頼り過ぎってことかいな?」

「それもあるね」

 

 ユーノがおもむろに両手を翳すと、そこに2つの魔法陣が浮かぶ。右手に"プロテクション"、左手に"ラウンドシールド"。同じ緑色の魔法陣だが、魔法陣の中に浮かぶ術式を示す文字が若干違う。

 

「見ての通り、実はこの2つって、共通した公式や法則を使ってるんだよ。だからちょっと公式をいじることで――」

 

 ユーノの魔法陣の文字がさらさらと書き直され、数秒の内に右手と左手に浮かぶ魔法陣の効果が入れ替わる。右手に"ラウンドシールド"、左手に"プロテクション"へと。

 これは意識すれば誰でもできる。ただそれを、デバイスに頼っているから皆驚く。

 これと同じことを、数日前の模擬戦でもクロノがなのはに対して使っているのを、ユーノは記録した映像を見て気づいた。その映像をはやてにも見せてくれる。"スティンガースナイプ"の弾丸を炸裂させて"スティンガーレイ"に変換し、なのはの"アクセルシューター"を迎撃しているところだ。同じ『スティンガー』系列の魔法だから使用されている理論や術式に共通点が多く、だからこそ変換もしやすい。

 つまりクロノは、魔法を真の意味で『理解』して使っていると言える。クロノもユーノも、同じ理論派魔導師なのである。

 

「僕はみんなより魔力が少ない。けど、闇の書事件の初戦でヴィータの"ラケーテンハンマー"をなのはは防げなくて僕は防げた。それはなぜでしょう?」

「なんや授業じみてきたなあ」

「あはは。それで、なぜかはわかる?」

「ん~、ここまでの講義からすると、ユーノくんは対物理攻撃から守ってくれって魔法に指定して"プロテクション"を使ったわけやんね。それはなのはちゃんも一緒。けど多分、ユーノくんはさらに"ラケーテンハンマー"から守ってくれって条件を絞ったんとちゃう?」

「正解。さすがはやて」

 

 本当になのはもフェイトもはやても飲み込みが早いよね、とユーノは肩を竦める。教える側としてはもう少し手を焼かせてくれた方がいいらしい。そういうところが、ユーノが教える者に向いているのではないかとはやてに思わせるのだ。なのははユーノのことを魔法の師匠と呼ぶことがあるが、確かにユーノは腕のいい師匠なのかもしれない。クロノでさえユーノの魔法の理論や術式を採用しているというのだから、はやてもユーノに教えてもらおうかなと考える。

 

「"ラケーテンハンマー"に限定することで、他からの攻撃には弱くなるけど、"ラケーテンハンマー"には強力な防御性能を誇るようになったってわけ。そういうふうに調整したんだよ。あのときは僕もベルカ式に対する知識があまりなかったから、"ラケーテンハンマー"に使われている術式や理論、公式や法則を知らなかったし、かろうじて防げたレベルだけどね」

「ほな、今やったらどないなん?」

「う~ん、ヴィータもさらに強くなってるから何とも言えないけど、あの頃の一撃ならもう少し楽に防げるんじゃないかな」

「それ聞いたらヴィータが突撃してくるで、ここに」

 

 はやてがニヤリと笑うと、ユーノは困ったように頬を指でかきながら空笑い。

 ユーノは闇の書事件の初戦でヴィータと戦った。そこでベルカ式のことにはすぐに気付いたわけで、すぐに古代ベルカ式のことを調べ、ヴィータの魔法も当たりを付けていた。そして自らの防御陣を対古代ベルカ式用に調整していたのだ。もちろん、その術式はクロノやなのはにも教えている。だから別に、なのはは魔力量やカートリッジに頼っていただけではないのだ。

 今もなのはが使う防御魔法には、ユーノが調整したプログラムが使用されている。これも後で教えてもらおうとはやては決めた。はやてとて魔導師。自分の魔法を強くするために貪欲である。魔力量頼みの戦い方はクロノにもいい顔はされていないし、はやても力押しばかりというのは好まない。ただでさえはやての魔法は大規模な『広域攻撃』に特化しているのでコントロールが難しく、調整能力は必須なのだから。

 

「話を戻すけど、"ラウンドガーダー・エクステンド"は、防御結界に治癒や体力・魔力の回復効果を付加した結界魔法でね」

 

 本来の詠唱文句は『妙なる響き 光となれ 癒しの円のその内に 鋼の守りを与えたまえ』である。それをユーノは、『妙なる響き 光となれ 癒しの円のその内に 不屈を宿す心優しき白の少女を抱き 彼の者に休息を与えたまえ』へと改変している。つまり、癒しを与える対象をたった1人に限定しているのだ。

 そう、なのはに。

 

「なあ、ユーノくん」

「……なに、はやて?」

「なのはちゃんのこと、好きなんやな」

「断定したね。してくれたね」

 

 対象を絞り込めば、魔法はより一層効果を発揮する。そしてユーノはこの"ラウンドガーダー・エクステンド"を、なのはに対してのみ効果を発揮するようにした。

 

 

 

 フェイトでもはやてでもない、なのはのための魔法。

 

 

 

 ユーノは頬を赤くしながら目を逸らした。逸らした先には、穏やかな寝顔を見せる『不屈を宿す心優しき白の少女(なのは)』。

 いつものはやてならさらにからかうところであるが、さすがに今はからかう気にはなれなかった。

 ただ、ほんわかとした温かい気持ちと、1人の男の子にそこまで大事に想われていることを羨む乙女心にくすぐられるのみだ。

 

「……なのはの身体、思った以上に疲労が溜まってるよ」

「うん。シャマルからも聞いとるよ」

 

 回復の魔法を使う場合、体のどこに異常があるかを断定できた方がいい。その点は普通の医療と何ら変わらない。どこに疾患があるのか、それをX線やCTで検査し、特定してから手術を行うように。

 ユーノやシャマルは検索や索敵など、調査する魔法も得意だ。ユーノは遺跡発掘を手掛けるスクライア一族の影響もあり、検索や索敵の魔法はお手の物。シャマルも参謀や後方支援役として。

 だから、その調査対象をなのはの身体の弱っているところと指定すればいい。そのように調整すればいい。そうして調べた結果を回復魔法にプログラミングし、そこに対して重点的に回復が行われるようにする。

 

「クロノも模擬戦で砲撃を制限させたり、魔力量を節約する戦い方を教えようとしたりしてるんだ。でも数日前の模擬戦で、なのは、どうもブースト魔法まで使ってたみたいでね」

「ブーストて……1対1の模擬戦やったら支援役おらんよな? 自分で自分にかけたっちゅうことかいな?」

 

 ユーノがゆっくりと頷く。重い肯定。それが事の重大さをはやてにも伝える。

 はやても魔法の勉強はしているからこそ、ブースト魔法の危険性を理解している。だからなのはのしたことがとても体に負担のかかる諸刃の剣であることも。

 

「なのはちゃん、無茶し過ぎや。ホンマにどないしたんよ……?」

 

 眠るなのはに問いかける。もちろん、答えなど返ってこない。

 昔から無茶をする親友であるが、ダメだと言われたことは素直に聞く性格だ。命令違反も辞さないところはあるけれど、それもそれだけの理由があってのこと。周囲の心配はわかってくれているはず。それに背を向けて理由もなしに無茶をやらかすわけがない。

 

 

 

 理由があるのだ。絶対に。

 

 

 

 その理由を誰もが知ろうとしてわからないままで。だからこそアリサとすずかは理由はともかくもう止めなければと思ったのであって。それがアリサとすずか、フェイトとはやての喧嘩へと繋がった。そこからフェイトの態度をめぐってフェイトとはやても仲違いをしてしまったわけだが。

 

「なのは、これ以上の無茶は本当に危険だよ。骨にも筋肉にも、リンカーコアにさえ機能低下の兆候が出てる。僕たちは所謂成長期なんだ。ただでさえ急激な成長で体が異常を起こすこともある時期に、こんな無茶を重ねたら……」

 

 なのはの夢は戦技教導官。花形の戦技教導隊だ。

 そのためには身体こそが資本。それを失ってしまったら、戦技教導隊どころか武装隊員としてさえやっていけない。いや、下手をしたら魔導師としての生活も、それどころか日常生活にさえ支障をきたしかねない。

 少女に恋をする少年の言葉に、はやては黙って眠る少女を見つめ続けた。

 

 

 

 

 

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