仮面ライダーヨハネ   作:がんもどきもどき

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†A-4† 悪魔

「こってり絞られた……」

 

学校に着いた時には、既に三限目が始まっていた。なんとかバレないように音を立てずに自分の席までたどり着こうとするも結局見つかってしまい、こっぴどく怒られてしまった。

今は休み時間。善子は生気の抜けたように机に突っ伏している。

 

「それもこれも、ズラ丸!あんたが名前呼ばなければバレなかったのに!」

 

「遅刻してきた善子ちゃんの自業自得ずらっ」

 

ズビシッと指を指す先には幼馴染の国木田花丸がツーンとそっぽを向いている。

抜き足差し足で教室に入る善子と目が合い、つい「あ、善子ちゃんずら」と声を出してしまったのだ。

 

「よ、善子ちゃん、昨日も配信で遅くまで起きてたの?」

 

ぐぬぬと顔を歪めながら悔しがる善子に、赤いツインテールをフリフリ揺らし、黒澤ルビィが苦笑しながら、なだめる様に話しかける。

 

「ふっ……いいえルビィ、あれは配信ではないわ……来たるべき悪魔との対戦に向けて、我が眷属・リトルデーモンを増やすための儀式……」

 

「やめるずら」ピシッ

 

花丸が頭にチョップし、正気を取り戻す善子。このように、つい堕天使モードになってしまう善子を止めるのは花丸の役目だった。

いつも通りの光景、いつも通りの日常。平凡ではありつつも、二人といるだけで楽しくなってくる。気づけば善子は、朝の不幸続きなんか忘れて、三人で笑いあっていた。

 

 

『ルビィなんて、いなくなっちゃえば』

 

 

ふと、あの占い師の言葉を思い出し、チラリとルビィの横顔を盗み見る。

黒澤ルビィ、中学から花丸と仲が良かった女の子。

確かに、最初は嫉妬した。

花丸が幼馴染だからというよりは、他に話す友達がいなかった善子にとって、ルビィが邪魔だと思ったことは、少なからずある。

だけど……

 

(そんなの昔の話よ)

 

いうほど昔というわけでも無いが、最近ではルビィのことも親友だと思っているし、向こうもそう思ってくれている……と思っている。

何より一人よりも二人。二人よりも、三人でいられるこの時間を、凄く大切に思えている自分がいる。

 

(それだけで、十分じゃない)

 

「あっ、そうだ善子ちゃん!今日の放課後のことなんだけどね。さっきの休み時間に、花丸ちゃんと誰が行こうかって話ししてたんだ〜」

 

「………」

 

ん?

 

「放課後に、なに?」

 

「善子ちゃん、らいん見てないずら?」

 

花丸に言われ、そういえば新着が来ていたことを思い出す。ヨハネとのゴタゴタで確認する暇なんてなかった善子はスマホを起動し、グループラインを開く。

 

「……え?曜さんが風邪?」

 

そこに書かれていたやり取りに、思わず声を上げる。

今日の一番最初のメッセージまで遡ると、そこにはYo!という船の映ったアイコンから吹き出しのように「ごめん。今日体調崩しちゃった。休むね」と出ていた。

それに対してみんなも即座に曜を気遣うコメントを送っている。善子以外は。

途中「よしこちゃんはねぼうできてないずら」というフォローが入ってはいるが、少しバツの悪さを感じた。

ラインを読み終わり改めて花丸から話を聞くと、流石に全員でお見舞いに押しかけるのは迷惑だろうから、各学年から一人ずつ行くことになったという話だった。

 

「なるほどね。そうとなれば、私が直接出向いて、曜に取り付いた病魔を滅する儀式を」

 

「やっぱりおらとルビィちゃんのどっちかで行くずら」

 

「なんでよ!?」

 

その後、三人ともお見舞いには行きたい様で、最終的にクジで決めることになり(ジャンケンはついヨハネチョキを出してしまうため、善子が全力で阻止)、見事善子が勝利(?)を収めた。

「いっつも曜さんとバス一緒なのに、ずるいずら!」とむくれる花丸に、「曜さんと会いたかったなぁ…」と残念がるルビィ。この二人の反応を見るだけで、渡辺曜という人物がどれだけ慕われているかがわかる。

社交的で、人柄も良く、いつも明るくて元気で、なんでも器用にできて……本当、自分とは大違い───

 

(っと、いけないいけない!)

 

再び芽生えてしまう黒い感情を振り払う様に首を振る。ルビィのことと同様、最近は思わなくなってきたのに、どうもあの占い師の言葉を聞いてからまた再発してきた様に思える。

確かに花丸の言う通り、曜とはよくバスで一緒に帰っているし、幼馴染の千歌ほどではないにしろ、仲の良い自信はある。

そんなほんの少しの優越感に浸りながら、悪いわね。と花丸とルビィに向かって悪戯っぽく笑う。

開いた窓から入るそよ風の心地よさを感じながら、携帯を開き、曜に個人でメッセージを送った。

 

『今ライン見たわ、お大事に。後でお見舞いに行くわね!』

 

 

──────

 

 

練習後、バス停のベンチには善子を含めて三人の女子高生が腰掛けていた。

 

「まさか、私たち三人が揃うなんて。ディスティニーを感じるわね♪」

 

「ディスティニーって、そんな大袈裟な……」

 

端っこに座りパチンとウインクを送るのは、と、梨子が苦笑しながら答える。

あまり遅くにお邪魔するのも迷惑だという事で、三人は練習をそこそこにして曜の家に向かう事にした。

 

「それにしても、リリーが来るなんて意外ね。てっきり千歌さんが来ると思ってたけど……」

 

「あの人には歌詞を書いてもらってます」

 

「アッ、ハイ」

 

梨子の放つ圧力に色々察して、善子は口を噤む。確かに今日二人で歌詞がどーのこーの言っていた気がする。大方、また千歌が締切に間に合わなかったのだろうと思っていたが、まさにその通りだった。

というより千歌が歌詞のことで梨子に詰められるのはいつものことなので、少しだけ千歌に同情しながら、善子は苦笑した。

 

それから三人で他愛のない話をしているうちに、バスがやってくる。

中途半端な時間だからか、バス停に三人以外の乗客は見られず、バスの中にも数名しかいなかった。

 

「そういえば───」

三人で一番後ろの席に座ると、バスが発車する。それとほぼ同時に、鞠莉が思い出したように口を開いた。

 

「二人は、怪物の噂って知ってる?」

 

ドキッと、隠し事を当てられた時の様に、善子は自分の心臓が跳ねるのを感じた。梨子がキョトンと小首を傾げ鞠莉の方を見る。

 

「怪物?」

 

「イエス!なんでも、最近怪物が人を襲ってるっていう噂があるのよ!」

 

「……ふーん、そうなの。まぁ、ただの噂でしょ?」

 

なるべく平静を装い、興味なさげに話を流そうとする。しかし、それが逆効果だった。鞠莉と梨子はポカーンと呆気にとられた様な表情で善子を見ている。

 

「……な、何よ?」

 

「いや、よっちゃん、こういう噂好きそうなのに……」

 

「え"っ」

 

「えぇ、善子の堕天使見たくて話振ったのに……」

 

しまった……!と思わず固まってしまう。確かにいつもなら食いついて、堕天使が〜結界が〜と言っていたに違いない。というか鞠莉に至っては確信犯だった。

 

アハハハーと乾いた笑みを浮かべながら窓の外に視線を移す。全然誤魔化せてはいないが、二人も特に追求する事はしなかった。その事に安堵しながら頬杖をつき窓の外を見る。

「怪物が人を襲う」。この場にいる中で善子のみ、その怪物騒動に心当たりがある。しかし悪魔に関してはヨハネに固く口止めされていた。

善子としてはみんなに話して注意を促しておいてもいいかと思ったのだが、ヨハネの「そういう……制約なのよ(遠い目)」という気取った台詞に「わかったわ」と即答した。『制約』という言葉がグッときたようだ。

 

(ま、言ってもどうせ信じてもらえないでしょうけど……)

 

卑屈ではなく、自分だって突然そんな事言われれば、同士が出来たとは思うが本気で信じる事は難しいだろう。

正直ヨハネから聞かされた今も、いつも通りの日常すぎて、なんの実感もわかない。

 

そういえば……と、今更ながらに思うことが一つあった。

 

(ヨハネってどこに居るのかしら?)

 

急にベルトとして現れたり、黒いモヤになったり、自分の姿になったり、消えたり……もしかしたら姿を消してすぐ近くにいるのか───

 

『善子!』

 

「うひゃあ!?」

 

脳内に響いた声に、思わず悲鳴を上げてしまう。梨子と鞠莉だけでなく、乗客中の視線を一斉に受け、慌てて「ち、ちょっと虫が……」と誤魔化す。

ちらりと自分の腰に目を落とすが、朝の様にベルトはついていない。

 

『…聞こえますか…津島善子…今…貴女の…心に…直接…呼びかけています』

 

「っ……お、脅かさないでよっ……!」

 

『あっ直接声に出さなくても、私とは頭の中で思い浮かべるだけで会話できるわよ』

 

「(早く言って!)」

 

ボソボソと呟いたり、一人で苦い顔をしたり、流石に梨子が本気で心配し声をかけられる。「大丈夫だから」となんとか遇らい、再び窓の外を眺めるふりをしながらヨハネとの会話に集中する。

 

「(っていうか、あんた今どこにいるの? 見えないけど、近くにいるとか?)」

 

『いいえ、私は貴女の中にいるわ。そんな事より、悪魔よ。近くにいる』

 

さらっと気になる事を言われたが、それよりも悪魔という言葉に、善子の体が小さく跳ねる。

また梨子と鞠莉に悟られないように気をつけるが、その額には冷や汗が浮かんでいた。

 

「(悪魔って、嘘でしょ!? まさかバスの中に……?)」

 

『いえ、気配は外からだけど、だんだんと近づいてる』

 

「(それって───)」

 

 

 

───ギャギィィイッ!!

 

それは唐突に起こった。黒板を引っ掻いた音を何倍にも大きくした様な金切り音が一瞬善子の鼓膜を揺らし、バスがガクンと大きく傾いた。

慌てて前の椅子の背もたれを掴む。突然の事にバス内では悲鳴が上がるが、ギャリギャリギャリ!!っという耳障りな音がそれをかき消した。

数秒間あってバスは止まり、同時に音も止むが、相変わらず傾いたままだった。

 

「い、一体何が……?」

騒然とし始める車内。傾いた時にぶつけた腕を抑えながらバスの後方に目を向ける。

 

ドクンッと、心臓が大きく波打った。

 

怪我人の確認をするバスの運転手の言葉もろくに聞かず、視線の先にあるものにゴクリと生唾を飲み込む。

 

それは、一言で表すなら「半魚人」。

 

二本の手に二本の足を持つ人型。しかし全身をゴツゴツとした鱗に覆われていて、各所に鰭のようなものがあり、人間のそれとは大きく異なっている。

何より右腕の先、その五本の指は、地面につきそうなほど長く鋭利な爪で覆われていた。

そして顔。横に大きく開いた口に鋭い牙、ギョロギョロとした人間の五倍は大きな目。頭の天辺にはサメの鰭のようなものが聳え立っている。

それは、漫画や映画のCGで作られたような生き物。

怪物。化物。エイリアン。

そのどれもが当てはまる容姿をしている。

善子の口から自然とその生物を形容する言葉がこぼれた。

 

 

 

 

「悪魔っ……!!」

 

 

 

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