東北伝   作:独田圭(ドクタケ)

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寺子屋で授業をして欲しいと慧音に依頼された和は依頼を遂行する前に寺子屋の授業風景を拝見させて欲しいと頼む。そこで寺子屋の実態と慧音の失態を目撃した和は何とかしようと奮起する事に。和による寺子屋再建計画が今動き出す。




















一刀「まぁ要するに和の頭脳チートの回ってやつだろ?」

和「そういう解釈で大丈夫だと思います」

一刀「ただ和メインって事は必然的にボケが少なくなるじゃん。あのもやし作者にまともな物書けんのかよ」

和「確かにそこは心配ですよね」

作者「……俺泣くぞ」

一刀「入ってくるな」



どうでもいい日常回1
10. 授業も人生も教科書通りには進まない


 ◇

 

当たり前かつ今更な話だが、万事屋は依頼があれば仕事の種類や規模を問わず何でも(異変の解決依頼や余程理不尽な依頼でない限り)引き受ける事が基本である。だからその日の仕事内容によって疲労の溜まり方も変わってくる。

 

一刀達二人にとって疲労が溜まりにくい仕事は意外にも妖怪退治である。

 

というのも一刀達は武術においては規格外の実力を持った者同士(和本人はそうは思っていない)である為、特に知能の乏しい妖怪を相手する事はぶっちゃけ容易い。

 

逆に疲れやすいと思う依頼は寺子屋の授業である。

 

生徒の些細な疑問にも丁寧に答えなければならないうえに生徒の性格も人によって違うので、それに対する対応力も求められる。寺子屋の授業は精神力と頭の柔軟さが物を言う仕事なのだ。

 

ある意味一番しんどい仕事だと和は思う。

 

そんな彼女はいよいよこの日が来たかという思いで対面に座る女性に緑茶を出す。

 

和「……慧音さん、一応お伺いしますが今日はどんな依頼を?」

 

慧音「うむ、またお前達に授業をして貰おうと思う」

 

上白沢慧音は紫よりもこの万事屋を利用している者で、以前にも少しだけ触れたが大抵は慧音の代理で授業を行うという依頼が多い。

 

今回もその例に漏れず同じ依頼であったが、その割にはどうも慧音の表情が険しい。和が理由を尋ねると彼女は……

 

慧音「この前生徒達にテストを実施したが皆酷い成績でな……だからまたお前達に協力して欲しいんだ」

 

和「……そうですか」

 

理由を聞き和は顎に手を当てて考える。

 

自惚れではないが、自分達の授業が生徒に評判なのは確かだ。その話をする度に慧音が涙目になっているが……

 

では何故慧音よりも評判が良いのか?以前までは言われた通り代理で授業をして慧音から報酬を貰って帰るだけだったが、今になって考えてみれば本来の寺子屋教師よりも評判が良いのは些か不思議に思う。

 

だから和はその原因を突き止めるべく慧音にある提案をした。

 

和「分かりました。ですが、その前に慧音さんの授業を拝見させて貰って宜しいですか?」

 

慧音「ん?あぁ良いぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

【授業も人生も教科書通りには進まない】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和「一刀様、店番お願いします」

 

一刀「あいよー。

 

和が居ないなら今日は定休日でも良いか」

 

和「イヤ駄目に決まってるだろ!!」

 

依頼を受けた次の日、支度を済ませた和は開店前の仕込みをする主に断りを一応入れると寺子屋へと出発した。

 

途中和は白鳩に姿を変え、寺子屋を囲う塀に腰を降ろした。こっちの姿の方が生徒にも慧音にも見付かりにくくありのままの授業風景が見れるので色々と都合が良い。

 

そうでなければ、生徒達は和の存在を意識し過ぎて授業の内容が頭に入ってこない可能性も否定出来ない。もしそうなってしまったら教師の慧音にも申し訳なく思う。

 

常に客観的に物事を考える和らしい配慮だ。

 

和が寺子屋に到着した時には既に授業が始まっていた。どうやら最初は算数から始めるようだ。

 

教壇に立つ慧音が教科書を片手にやれ『√2の値を求めろ』だの、やれ『円周率』だの何やら小難しい計算式を生徒達に出している。

 

まぁ数学は問題の種類が少なく文字やパターンを変えているだけなので国語や歴史より一つ先の段階に進んでいても何も問題は無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ッテイヤイヤチョットマテ。これ十歳以下の生徒が大半を占める寺子屋で出す様な問題じゃねぇだろ。既に幾つか段階をすっ飛ばして教壇を執る慧音に和は早速愕然とする。

 

和「(やってる事完全に数学じゃねぇか!算数は何処行ったんだ!?)」

 

観察を始めて数分もしない内に恐るべき寺子屋の実態を目の当たりにした和は次に生徒達へと視線を向ける。

 

案の定生徒達は慧音の授業に着いていけず、チルノは他の生徒とおしゃべりを始め、その他の生徒は押し寄せる睡魔に白旗を挙げ夢の中へ旅立った者もちらほら見受けられた。

 

国語や歴史の授業になると生徒達に睡魔という名の誘惑が容赦無く襲い掛かる。まるでお経の様に教科書を読み進める慧音を前に為す術無く、一人……また一人と夢の世界へ旅立っていった。

 

真面目に授業を受けている大妖精ですら頻繁に目を擦りながら、それでも押し寄せる睡魔に全力で抗い続ける。やはり大妖精は優秀な生徒だと和は改めて思う。

 

かく言う和も先程から睡魔と闘い続けている。少しでも集中力を切らせば自分も生徒達の仲間になるに違いない。眠気に耐える事がここまで大変だとは思ってもいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

授業の後半にもなると和はもはや慧音の授業に耳を傾けてはいなかった。代わりに自分の授業プランを頭の中で練り始める。

 

和が考える教師の基本理念は色々あるが、その中で敢えて一つだけ挙げるとしたら【社会人の先輩として社会人の在るべき姿をその身をもって体現する事】に尽きる。

 

もっと突き詰めて言えば、寺子屋もしくは学校という場所は社会人として必要なスキルやノウハウをより噛み砕いて教える場所だと和は考えている。子供は社会的立場から見たら所謂金の卵であるが故に、卵から孵化する手助けをどれだけ出来るかが肝になってくる。

 

しかし、それを教える人も人である事を忘れてはならない。全てを完全無欠に教える事が出来る者など一人も居ないのだ。勿論和もその例外ではない。

 

一番最悪なのは生徒の考えを無視して自分のやってる事が全て正しいと思い込む事である。簡単に言えば教師は決して独裁者になってはいけないという事だ。

 

頭の中で徹底議論する事数十分、大体の計画が煮詰まってきた所で授業の終了を告げるベルが鳴った。

 

ここで和は人型に戻り慧音の自室に移動を始める。

 

元気よく寺子屋から飛び出してきた子供達に軽い挨拶を交えつつ歩く事2、3分。職員室と書かれてはいるものの教職員は実質慧音一人だけなので、もはや彼女の自室と化している。

 

コンコン……

 

和「慧音さん、和です」

 

慧音「……あぁ、入ってくれ」

 

慧音の許可が出て和は職員室に足を踏み入れる。中では慧音が机に山積みになった書類に何かを書き入れている所であった。

 

和「それは始末書を書いているんですか?」

 

慧音「……そんな訳無いだろ」

 

和「申し訳ありません。少しボケてみたかっただけです」

 

慧音「あのなぁ……」

 

頼むからボケるのは一刀だけにしてくれ……

 

慧音は心中で嘆く。もっとも、慧音以上に一刀に振り回されている和の前でそんな事は言わないが。

 

慧音「昨日も言ったが生徒達の成績が酷いからな、今日授業した内容を明日小テストで出すつもりだ」

 

和は用紙を一枚手に取って問題の内容を見てみた。

 

和「(案の定というか何というか……これって東大の入試レベルの問題じゃないですか(汗))」

 

もはや寺子屋ではなく予備校に改名した方が良いのではないのか?

 

ここまで来ると現役高校生の大半が知らない(勿論作者も知らない)難問の数々を知っている慧音に逆に感心すら覚える。

 

しかし、今はそんな暢気な事を考えている場合ではないと判断した和は早速本題へと入った。

 

和「慧音さん、今日の授業拝見させて頂きました」

 

慧音「居たのか?」

 

和「はい、生徒達の邪魔にならない様に隠れて拝見していました」

 

もっともその必要は無かったようですが……と言いかかった所で止めた。不用意な発言をしてしまっては慧音が本気で傷付いてしまいかねない。

 

叱咤と捉えるか暴言と捉えるかは聞き手次第である為、語り手はより慎重に言葉を選らばなくではならない。

 

しかし言うは易し、行うは難し。それが簡単に出来るならば対人関係で苦労する者など居ない筈だ。語り手本人にその気は無くともほんの些細な発言一つで相手が傷付いてしまう事だってあるのだ。

 

慧音「で、どうだったんだ?率直な感想を聞かせてくれ」

 

和「ハッキリ言って酷過ぎます。もはや見てられませんね」

 

慧音「……嘘だろ」ガーン

 

だが、傷付くと分かっていても時には心を鬼にして本音を言わなければならない時もある。それが対人関係をより難しくさせている原因の一端であると言える。

 

落ち込む慧音を見て和はある考えを思い付いた。彼女が考えるソレを実行に移すべく和は慧音を促す。

 

和「慧音さん、一度場所を変えませんか?聞いて欲しい話があるんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

そうして和が連れて来た場所は教室であった。

 

しかも慧音の手にはメモ帳と鉛筆が握られている。

 

和「そこに座って貰えますか?」

 

慧音「……あぁ」

 

和は普段生徒が座っている座敷に慧音を座らせ、自身は教壇に立った。これから一体何が始まるのか、慧音にはサッパリ見当も付かない。

 

和は慧音が座った事を確認すると……

 

和「それでは特別授業を始めます」

 

慧音「イヤイヤちょっと待て」

 

慧音は慌てて和を止めに入る。特別授業って何だ?私に何を教えるつもりだ?

 

ツッコミたい事は色々あるが、多過ぎてそれが言葉として出て来ない。

 

慧音「まず聞くが……これから何をするつもりだ?」

 

和「何って特別授業ですよ」

 

慧音「それが分からないんだよ」

 

一教師である筈の慧音に一体何を教えるのか。それが分かっていたら慧音もこうして止めやしない。

 

しかし、混乱する慧音とは対照的に和の目は真剣そのものである。

 

和「私達万事屋はこれまで何度も慧音さんの依頼で授業を行ってきました。私達の授業が生徒ならびに保護者から大変好評である事は私自身大変光栄に思いますし、一刀様もきっとそう思っている筈です」

 

いきなり痛い所を突いてくる……

 

和「今まではこれといって不思議に思う事は無かったんですが、今回の依頼を受けて私は少し考えてみました。

 

何故本来教師である筈の慧音さんよりも私達の授業が評判なのか?」

 

そこで和は慧音の授業と自分達の授業の何がどういう風に違うのかを突き止める為に慧音に許可を貰い寺子屋を視察する事にしたのだ。

 

その決定的な違いを和が話す前に普段一刀達が行っている授業についてざっくりとだが触れておこう。

 

2人が慧音の代わりに授業する際、一刀と和はそれぞれ真逆の役割を担っている。

 

従者の和は基本的に座学を中心に授業を執り行う。一刀と出逢う以前から下は子供から上は老人まで幅広く、人間達に一般常識や自身の経験談を教えて回っていた経験を持つ故に妥当な役割と言える。

 

対する主の一刀はというと、自らが教壇に立つ事は滅多に無く粘土や玩具を使った遊びで子供達と親睦を深める所謂レクレーション担当となっている。

 

慧音は一度一刀に苦言を呈したが、一刀が「面倒くさい」と断固として拒否し更に「遊びも立派な勉強だ」と譲らず和も止めなかった為、最終的に慧音が折れる結果となった。

 

さて、本題に戻ろう。

 

和「……という事で今回の特別授業のテーマはーー」

 

そう言いながら和は黒板に文字を書き起こす。教師の目から見ても綺麗な字だと慧音は思う。

 

そうして完成したテーマは……

 

慧音「……『良い教師とは何か』だと?」

 

和「はい」

 

テーマは実にシンプル。良い教師というのは何を持ち併せているのか、それを寺子屋教師の慧音に教えるというのだ。

 

和は慧音の授業の問題点を理路整然と指摘し始めた。

 

和「まず第一に慧音さんの授業ははっきり言って複雑過ぎます。数字の計算式を覚えるのがやっとな小さい子供達に『π』や『√』なんて数学の専門用語を使っても生徒は分かってはくれません。分かっているだろうと勝手に思い込んで授業を進めるのは教師が一番やってはいけない行為です」

 

本当に痛い所を容赦も無しに突いてくる……

 

和「次に文章を読み上げる時に慧音さんの場合はあまりにも感情の色が無さ過ぎます。これだと生徒達はお経を読んでる様にしか聞こえず勉強する意欲が削がれてしまいます。

 

慧音さんが気付いているかどうかは分かりませんが、事実生徒の皆さんは国語や歴史の授業ではほとんどが慧音さんの話に耳を傾けてはいませんでした。」

 

和の言葉が慧音の心を容赦無く抉り取る。早速精神的に限界を迎えた慧音は貧血で倒れそうになる所をなんとか踏ん張って耐え、和の話を一言一句逃さず聞く。

 

流石にこれ以上は可哀想だと思った和は次に良い教師の在り方について語り出した。

 

和「私の数千年にも及ぶ莫大な経験から導き出した良い教師になる為の絶対条件はーー」

 

今度は赤いチョークを取り出し、黒板に二つの単語を書き記した。その二つの単語とは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【話術】と【配慮】。

 

和「あくまで私個人の考え方でしかないんですが、強いて言えばこの2つですね」

 

慧音「たった2つだけで良いのか!?」

 

和「実際にはこの他にも条件は沢山あるんですが、最低でもこの2つは絶対に必要だという事です。

 

慧音さんは……残念ですがこの2つのどちらにも当て嵌まってないんです」

 

慧音「/(^o^)\」オワタ

 

散々な言われようだが慧音は慧音なりに精一杯力を尽くして生徒達を導いてきたつもりでいた。それでも生徒からの評判は下降の一途を辿り、一体どうすれば良いのか、何が駄目なのかを一生懸命考えているつもりでもいた。

 

その原因が判明した今、慧音はショックを通り越して笑いが込み上げてきた。

 

慧音「……そうか、始めから私が教師になるなんて無理な話だったんだな。

 

分かった、私は本日付で教師を辞める。後はお前達にーー」

 

和「はいストップ」

 

SAN値がマッハを超えるスピードで削られた挙句、瞳孔が開きかかっている慧音を現実世界へと引き戻す。慧音の教師生命以前に慧音自身の生命が危うい。

 

上白沢慧音はその頭の固さと反比例してガラスよりも脆いハートを持つ大変矛盾した女性なのである。慧音「放っとけ!!」おっ、蘇った。

 

慧音の悪い癖として、物事を後ろ向きに考えるきらいがある。勿論それは和にも言える事なのだが慧音の場合はそれが些か強過ぎる傾向があるのだ。

 

本当に頭の固さ加減とは正反対で心は非常に打たれ弱い。それが上白沢慧音という女性である。慧音「だから放っとけ!!」…メンゴ。

 

和「大丈夫です。慧音さんがこれからこの2つの条件を満たす様にしていけば遅くはありません。今からでも充分間に合います」

 

和の言う通り、今からでも遅くはないのだ。ただそれを覚えるまでに多少の時間を要するだけで何も難しい事ではないのだ。

 

慧音には教師としての素質が充分にあるからこそ、敢えて厳しい言葉を選んでいる。そう、全ては慧音の為になると考えて。

 

和「まず話術についてですが、例えば文章を読む時に感情を込めて読むだけでも生徒の対応は随分変わってきます。その物語の登場人物の目線になりきって読み上げる事でその時主人公はどんな気持ちであったか、作者は読者に何を伝えたくて作品を書いたかが見えてきます。

 

教師も1人の生徒になって物語の奥行きを知る事が大事なんです」

 

国語のテストでは物語の主人公の気持ちや作者の意図が問題として扱われているケースが良くある。教師の仕事は答えではなくそのヒントを与える事。

 

その為には生徒達が教師の話を聞く姿勢を常に作ってやらなければならない。そしてそれこそが次の【配慮】に繋がってくるのだ。

 

和「そして次の配慮ですが、私が慧音さんの授業を聞いていて最初に思った事が生徒の質問の数が少ないという所です。

 

慧音さんに1つ質問しますが、生徒達と普段から綿密なコミュニケーションを取っていますか?」

 

慧音「それはちゃんとしているつもりだ。分からない所があったら説教でも頭突きでも何でもして分からせてーー」

 

和「20点ですね」ビシッ

 

慧音「少なっ!?」

 

もし自分が寺子屋の生徒だったらと思うと心底ゾッとする。和は溜め息が出そうな程呆れた。20点でも充分優しい方だと和は思う。

 

そもそも慧音は質問の意図をよく理解していない。和は生徒とコミュニケーションを取っているかという質問をしたのだ。それに対する答えとして説教や頭突きというワードが出てくるのはおかしい。

 

何気ない質問から思わぬ慧音の失態を発見した和は頭の中のスイッチが切り替わった。これは本気で慧音を良い教師に育てなくてはならない。

 

もうこれ以上は情けを与えないという意志の表れが周りの空気を変える。目付きが鋭くなった和に慧音は緊張した面持ちになった。

 

和「まず始めにそれは私が出した質問の答えになってません。私は生徒とマンツーマンのやり取りをしているかという意味で質問したんです。

 

貴女はそれに『分からない所があれば説教や頭突きでもして分からせる』と答えましたがそれが本当に正しいやり方だと思っているんですか?

 

確かに分からない所を分からせる事は大事ですが、慧音さんの場合はやり方があまりにも理不尽過ぎます。

 

生徒からしたら分からない所を素直に分からないと聞いただけなのに何故怒られなければいけないのかという気持ちになるんです。そうなると生徒は塞ぎ込んで自分の殻に閉じ籠もる様になります。そうして抱えた不満がある一定の境界線を超えた時に反発が起きるんです。

 

良いですか?教師が生徒を受け持ってからまず最初にすべき事は【分からない事を分からないと言える環境を作る事】です。これは配慮の基本です」

 

マシンガントークが一区切り着いた所で和は緑茶を一口口に含む。慧音は和の饒舌かつ白熱した弁論に身動きどころか口一つ動かす事も出来なかった。

 

それもその筈、和と慧音とでは人々を教えてきた数と年季が違い過ぎるのだ。教育者の先輩に当たる和の確かな経験に基づく発言に反論する余地がある筈が無い。

 

和の頭を使う程度の能力の凄みはその発言の説得力にある。会話の引き出しの多さと一つ一つ言葉を選んで尚かつ辻褄が合う様に話すので相手は反論する気持ちすら消え失せてしまうのだ。それこそが和が話術に長けている何よりの証拠である。

 

遥か昔から数多の人間を教え、また自身も他の人妖達から得た情報を紐解いて知識として吸収してきた和にこの幻想郷で舌戦で勝てる者など居ない。例えそれが教師の慧音であっても永遠亭の薬師の永琳であっても、そして幻想郷の主の紫であってもだ。

 

和「……申し訳ありません、少し熱くなってしまいました」

 

慧音「いや、良いんだ」

 

お前の言う通りだよ和と慧音は納得する。確かに自分は生徒達と綿密にコミュニケーションを取っていたつもりであった。

 

だがそれは本当につもりだけだったのだ。それに気付かなかった慧音はそれに満足して先のステップに進む事をしなかった。

 

それを間違っていると指摘してくれる者が今まで居なかったのも事実だ。何故なら慧音は教師であると同時に人里の守護者でもあるのだ。里の人間は慧音に守られているという気持ちから彼女の教育方法に口出し出来なかったのだ。

 

今回和が授業を見てくれなかったらもっと酷い事になっていただろうと慧音は思う。

 

和「外の世界では生徒とコミュニケーションを図る手段として面談と呼ばれる物をします。大体は進路相談がメインなのですが、同時にその者の性格や個性を知る為に行われているとも言えます。

 

性格が違えば聞いてくる質問の内容も変わってきます。それに対して教師はその者の性格に合致した答えを提示出来るかが鍵になってきます。

 

それが出来て初めて教師と生徒の関係になってゆくんだと私は思います」

 

慧音「……教師と生徒の関係か」

 

和「この幻想郷で言うと一刀様のやっている事がそれに当たりますね。一見ただ遊んでいる様に見えても、楽しいという気持ちを共有する事で生徒とより親密になる効果があります。

 

私が止めなかったのには一刀様にそうした狙いがあると気付いたからなんですよ」

 

慧音「成る程な……」

 

言われてみれば確かに生徒達は一刀の授業を楽しそうに受けていた。遊び=堕落と捉えていた慧音は止めるよう何度も一刀に言っていたがそれは間違っていたのだ。

 

和「他にも積もる話はありますが、今回はこの辺にしておきます。後は私が実践で慧音さんに教えます」

 

慧音「あぁ、分かった」

 

翌日慧音は和の本気をまざまざと見せ付けられる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

次の日、支度を済ませた和は寺子屋へと向かう。ちなみに今日は一刀も一緒である。

 

一刀「慧音の奴、またモリリンと乳繰り合うつもりか」

 

和「今日は慧音さんも一緒ですよ」

 

一刀「あっ、そうなの?」

 

こりゃまた珍しいなぁと一刀は呟く。というか和にしては居て貰わないと困るのだが……

 

昨日の事は一刀には話していない。話したところで興味を示さないだろうし、協力を要請したとしても「面倒くさい」という決め台詞でバッサリと断られるに違いない。故に一刀のやる事はいつもと何ら変わらない。

 

とはいえ和の場合はいつもとは勝手が違うので正直に言って少し緊張している。教師のいろはを教えると啖呵切ったからには一つもミスは許されない。

 

一刀「…どうした和、そんなぎこちない顔して」

 

和「……いえ、なんでもありません」

 

一刀「ふ~ん……(クセェな)」

 

我が主はこういう所だけはやけに鋭い。バレたらマズイ訳でも特別隠す事でもないのだが、ただ一刀様はいつもの様にやってくれたらそれでいい。

 

緊張を解す為に和は何か話題替えになる物は無いかと辺りを見渡す。横に居る一刀は挙動不審な和を疑問に思いつつ煙草に火を着ける。

 

一刀「ふぃ~……」(-.-)y-~

 

和「一刀様、煙草替えたんですか?」

 

一刀「おうよ。この頃普通のヤツが重く感じて吸えなくなったからメンソールにしてみたんだ。

 

……もう歳かね?」

 

和「歳である事は間違いありませんね。あくまで実年齢ではの話ですが」

 

一刀「……吸うか?」

 

和「いりません」

 

煙草は身体に悪いという事は一般常識だが有無を操る程度の能力で準不老不死になった一刀にそんな常識は通用しない。

 

準というのは自身に能力を使い、老化と病を無縁な存在にしたが、物理的手段で致命傷を負えばいくら一刀でも命を落とす事になるので不完全な不老不死=準不老不死となる。

 

……と、ここで和はふと疑問に思う。

 

和「もし一刀様が能力を解いたら肉体はどうなるんですか?」

 

人間の寿命をざっと80歳とすると、一刀はその数千倍は優に超える時を生きてきたのだ。

 

もし今ここで能力を解けばただのお爺ちゃんになるだけでは済まない気がするが……

 

一刀「……さぁ?急激な老化現象に身体が追い付かずに全部灰になるんじゃねぇか。ハリ○タのク○ィルみたいに」

 

和「そんな怖い事言わないで下さいよ」

 

アレは老化現象による物では無かった気がするが……

 

そんな事はどうであれ、一刀の言ってる事はあながち間違いでは無いと思える。考えただけでもゾッとする。

 

その点和は妖怪である為、老いる事は無い。当然寿命という概念はあるが、それを気にするのはまだ当分先になるだろう。

 

今はただ北郷一刀の従者として生き続ける事だけを考えようと思う和であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

一刀「きりーつ、礼」

 

生徒「「おはようございまーす!!」」

 

一刀「授業を終わります」

 

慧音「オイ!!」

 

終わる以前にまだ始まってすらいない。

 

最初に教壇に立ったのは一刀。ボケという最初の一仕事を終えた一刀は出席を確認した後粘土を取り出した。

 

一刀「今日は誰が一番綺麗なウ○コを作れるか、題して『綺麗なウ○コ作り選手権』の開催だ!!」

 

和「ウ○コ作り選手権って何だ!?そんなんで優勝してもちっとも嬉しくねぇわ!!」

 

早速慧音の傍らで待機していた和からツッコミが飛んでくる。そして一刀は飛んできたツッコミという名のボールをキャッチすると、直ぐ様それを和に投げ返す。

 

一刀「違う、綺麗なウ○コ作り選手権だ」

 

和「そんな事はどうでもいい!!」

 

一刀「ちなみに優勝者には20分の1スケールのビキニ和ちゃんフィギュアをーー」

 

和「ありませんからねそんな物!」

 

慧音はしょっぱなから不安で頭を抱える。

 

和の話によると事の顛末は一刀に話していないらしく、いつも通り一刀が授業する風景を見て何か感じる事があったら記憶に留めて欲しいと始まる前に言っていた。

 

……が、今の所ボケばっかで感じる物が何一つ無い。ある意味でいつも通りとは言えるが。

 

慧音「一刀、少しは和の事を考えろ」

 

一刀「何言ってんだ。コイツ内心じゃこのやり取りを楽しんでんだよ」

 

慧音「…と、アイツは言ってるがそんな訳無いだろ?」

 

和「……まぁ、そうですね」

 

慧音「…何だ今の間は」

 

どうやら満更でも無さそうだ。

 

実を言うと和は一刀のボケを嫌っている訳では無い。最初は勿論抵抗があったが一通りのやり取りを楽しんでいる主を見ている内に、何かもうどうでも良くなっていった。

 

主従関係になって数千年という表面的な事しか知らない慧音に二人の詳しい裏事情を知る由も無い。

 

ウ○コ作りは冗談として皆が好きな物を作るという新たなお題が出されて工作は始まった。教師の一刀も生徒と一緒に何かを作っている。和の目には誰かの顔を作っている様に見えた。

 

暫くの時間が経ち一刀から終了の合図が出ると、生徒は出来上がった作品を各々机の上に並べ、一刀がそれを見て回る。

 

一刀「チルノ、これは何の作品だ?」

 

チルノ「サイキョーになったアタイ!」

 

一刀「成る程フリ○ザの完全体か」

 

和「そんな事一言も言ってないだろ!」

 

チルノ以外にも何かしらのキャラクターを作った生徒が多く、中には○鬼やジェ○ソンのマスクなどといった物を作った者も居た。(一体どこでソレを覚えたのかは不明だが)

 

慧音「それで一刀は何を作ったんだ?」

 

一刀「俺か?俺はコレだ」

 

完成した一刀の作品は瞼を閉じた誰かの顔だった。だがその顔はどう見ても……

 

和「……コレ、私ですよね?」

 

一刀「おー、良く分かったなぁ。コレは通称和のデスマスクで……イタタタタ!!」

 

和「……(怒)」

 

無言で一刀の耳を引っ張る。冗談だとしてもボケにしては些か不謹慎過ぎたようだ。

 

慧音「いくらなんでもそれは和が可哀想だろ」

 

一刀「悪い、悪かったって!だからこれ以上耳を引っ張らないで!耳が千切れちゃう耳無し芳一になっちゃう~!」

 

和「でしたらついでにもう片方の耳も千切って差し上げますが(怒)」

 

一刀「だから悪かったって!!」

 

耳が引き千切れるのではないかという程引っ張られたからか、流石の一刀も反省した様子。

 

一刀は一つ咳払いを入れると自身の作品について説明を始めた。

 

一刀「イメージしたのは俺に頭撫でられてる時の和だ。題してその名は『至福の表情』だ!」

 

慧音「確かによく見ると嬉しそうに目を細めている様に見えるな」

 

一刀「っつっても普段の和はこんな表情しねぇがな。大体いつもは恥ずかしがる事が多いし」

 

和「……」

 

一刀様、確かに貴方の言った事に一つも間違いはありません。全て正しいんですが……

 

和「(何故それを今この場でカミングアウトされなければいけないんですか!?)」ワタワタ

 

その後一刀が自身の作品を職人に頼んでお面にして貰ったり、真相を知った生徒達から散々茶化された和が限界を超えて掃除用具入れに引き籠もるなど色々珍事が発生したが……

 

本編のメインはそこじゃないので割愛する。

 

一刀「雑だぞ作者」

 

……うるさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

和「今日は教科書もノートも要りません。ただ私のつまらない話を聞いて欲しいんです」

 

大分無駄な時間を消費してしまったが、ここからが本題である。

 

次に教壇に立った和は一礼を済ませるなり、生徒達に一つ質問を投げ掛けた。

 

和「さて、皆さんに早速質問ですが勉強は好きですか?」

 

「「きらーい」」

 

慧音「お前等……」

 

怒って頭突きをかましそうな勢いの慧音を和はまぁまぁと手で制する。勿論説教をする為に和はこんな質問をした訳では無い。

 

和がこれから行う授業内容は簡単に言うと勉強の必要性を生徒に説明するというもの。ただ相手はまだ幼い子供なので難しい言葉はあまり使えない。どこまで解りやすく、それでいて生徒をやる気にさせる説明が出来るか。

 

それに寺子屋はチルノを筆頭にクセの強い生徒が在籍している。その猛者達をいかに納得させるか。

 

ある意味、和のプレゼン能力が問われる事になる。

 

和「大変正直で宜しいです。

 

ではもう1つ質問しますが、何故勉強が嫌いなのか?皆さん思い付く限り理由を言ってみて下さい」

 

生徒は皆それぞれの理由を挙げていく。中には『なんとなく』といった漠然とした理由を挙げる者や、『眠い』もしくは『解ってないと怒られる』など慧音が原因と思われる理由を挙げる者も居た。

 

その中でも特に多かった二つの理由を和は黒板に書き写す。

 

和「様々な意見が出ましたが、特に多かったのはこの2つの理由。

 

『すぐに結果が出ない』と、

 

『どこまでやったら良いか分からない』。

 

この意見はほとんどの生徒が言ってました」

 

つまり『速効性が無い』、『終わりが無い』事が大半を占めていた。これを受けて和はどうするのか?

 

和「皆さんは授業を受けてて一度はこんな風に思った事はありませんか?

 

『勉強が何の役に立つのか?』と」

 

和の言葉にほとんどの生徒が頷く。

 

和「少し難しい話になりますが、確かに円周率や因数分解なんて習っても普通の人がそれをそのまんま使う事なんてほとんど無いですよね?

 

なのに何で勉強をするのか……

 

という事で今日の授業のテーマはコレです」

 

『勉強が必要な理由と上手な使い方』

 

黒板に書き記されたテーマに生徒の全員が首を傾げる。慧音も何の事か解らずキョトンとした顔になる。

 

一刀「つまり頭の硬い慧音に和が授業の在り方を解説するという訳さ(笑)」

 

余計な事を言うなと言わんばかりに慧音は一刀の脇腹を肘で突いた。一刀は結構なダメージを喰らったようだ。

 

そんな二人のやり取りに苦笑いを浮かべつつ、和の授業は更に続く。

 

和「まず始めに断言しますが、勉強が出来る者が頭が良いという認識はハッキリ言って間違いです。頭の良さに勉強が出来る出来ないはあまり関係ありません」

 

大妖精「…じゃあ頭の良い人ってどんな人ですか?」

 

和の言葉に最も驚いた表情を見せた大妖精が恐る恐る質問してみた。

 

和「大妖精さん、大変良い質問ですね。

 

確かに一般的に頭の良いとされている人のほとんどが勉強の出来る方が多いのは事実です。

 

ですがさっきも言った通り、寺子屋や学校で学んだ事をそのままの形で使っている人はほとんど居ないんです。

 

つまり寺子屋で習った授業内容そのものはほとんど意味が無いという事になるんです」

 

慧音「オイオイ和」

 

教師として教える側である筈の和がまさかの寺子屋の授業内容を否定した事に思わず慧音は声を上げた。まるで自分の行ってきた事が否定されている様な気がしたからだ。

 

そんな慧音に和は再び手で制すると更に言葉を続ける。

 

和「先程の大妖精さんの質問の答えとして、寺子屋で学んだ事を日常生活の中で上手に形を変えて使える者。

 

これが本当に頭の良い人だと私は思います」

 

和はここで一つの例として懐からある模型を取り出した。

 

和「例えば今私が持っている…模型ですがたこ焼きの値段を8個入りで240円だとしましょう。それをただテキトーに値段を決めるのではなく、この値段で売る為に材料となる物の値段、たこ焼き1つを作るのに掛かる時間、そしてそれによって得られる儲け(利益)を考えて値段を決めています。

 

この時に1つ重要なのが、いかに買う人の気持ちになって考えられるかです。」

 

設定した値段があまりに高過ぎると買うのを躊躇するし、逆に安過ぎると消費者に不信感を与える事になる。

 

消費者の目線になって、彼等が安心して気軽に購入出来る値段のボーダーラインを探る事が商売人には大事になってくるのだ。

 

和「相手の立場になって考える事はより良い人間関係を作る上でとても重要な事であります。

 

これを身に付ける為の手段として私達は皆さんに『国語』と『歴史』を教えているんです。

 

皆さんは国語と歴史の授業の時に必ず文章を読まされた事があるかと思います。その時に物語の登場人物になりきって文章を読む事でその人物はその時どんな気持ちであったか見えてくるんです。

 

ただ、そういう風な使い方があると慧音先生は教えてないので皆さんは授業を退屈に感じるんです」

 

慧音には少し可哀想な気もするが、これは紛れもない事実なのだ。先程から食い入る様に和の授業を聞いている生徒の姿は慧音の授業では目にする事の無い光景である。

 

和「ですがこれは仕方の無い事なんです。何故なら慧音先生もそういう風に教わってないから皆さんに教える事が出来ないんです。

 

そこは皆さん解って下さい」

 

和はすかさず慧音にフォローを入れた。

 

かつて和は各地で私塾を開いて指揮を執っていた頃、現在の慧音と同様に教育で相当悩んだ時期があった。

 

どうやって解決したかといえば単純に時間と教えてきた生徒の量である。

 

まだ教育という概念がはっきりとしていない時代に教育者としての道を歩み始めた和に生徒との信頼関係という問題は解決するのに困難を極めた。

 

その為に和は言葉だけでなく文字に起こして説明したり、生徒との対話や面談といった現在の教育ではもはや当たり前とされている事を地球上で初めて実践していた。

 

全てが手探りであったと言えよう。

 

幸運だったのは後に出逢った主の一刀が人間関係が豊富だった事。彼やその友人の話は面白くもあり深さもあった。

 

紆余曲折を経て彼女が行き着いた答えは【より多く人の話を聞く】事だった。教育者は教える事も多いが同時に生徒から教わる事もまた多い。

 

始めから教師になるのではなく多くの生徒と沢山接してきてそこで初めて本物の教師になれる。長い時間を掛けて和が導き出した結論はそれであった。

 

そんな和は次に勉強をする理由について語り始めた。

 

和「勉強する理由は様々あります。偉くなる為、チルノさんみたいに最強になる為。挙げたらキリがありません。

 

ですが、これら全てに共通している事は【考える力】があるかどうか。偉くなる為にはどうすれば良いのか、何を持って最強になるのか、考える力無くして答えを導き出す事は出来ません。

 

つまり勉強する理由を一言で纏めると考える力を身に付ける為だと言えます。

 

この際だからハッキリと言いますが、テストの問題は解けなくても全く問題ありません。大事なのは問題を解く事ではなく『解こうとする姿勢』を持つ事です。」

 

普段なら騒がしいチルノも名前が出た所で微動だにせず和の話に真剣に耳を傾けている。それだけ和の授業は解りやすく説得力があるのだ。

 

饒舌でありながら語気を強めず、そして身振り手振りを加えて説明をする事で生徒を飽きさせない気配り。

 

悠久の時を経て身に付けた教育者の必須条件の全てを一つに集約して授業を執る和にいつしか慧音も聞き入っていた。

 

和「例えばテストで難しい問題が出た時に、解けないから諦めるのではなくて解こうとする姿勢を持つ事で脳はどうにかして答えを出そうと必死に働きます。

 

これを繰り返す事で考える力は次第に身に付いていくんです」

 

ここで和は急に一刀の話に始める。

 

和「私の主、北郷一刀様はいつもボケてばかりいるせいで頭の悪い人だって良く思われがちですが、私に言わせれば一刀様はとても頭の良い人物です。

 

実はボケる事は簡単そうに見えてとても難しい事です。その時の状況や間であったり、タイミングを見極めて相手が傷付かない様に言葉を選んでいかないとボケはただの暴言になってしまいます。

 

この全てが出来ているからこそ一刀様のボケは成立するんだと私は思います」

 

和曰く一刀のボケは単なるノリではなく全て計算ずくで行われている。相手の気持ちになって考える事が出来るからこそ、人によって違う笑いのツボを知る事が出来るのだ。

 

最後に和は失敗しない勉強の方程式について語り始めた。

 

和「これはあくまで私個人の考え方でしかありませんが、実は学力を上げる事自体はそんなに難しい事ではないと思います。

 

問題は勉強しようと決めた時にどうやって学力を上げるか。私が思うに皆さんは多分それが解らないから勉強をしないんだと思います。

 

そこで最後に私が学力を上げるコツを皆さんに伝授します。

 

私の数千年の人生の中で発見した勉強が出来る様になるポイントは4つ……」

 

そう言って和が書き記した言葉は……

 

【決意】

  ↓

【目標】

  ↓

【計画】

  ↓

【実践】

 

和「この4つのポイントを押さえて順番にやっていけば学力は必ず上がると断言します」

 

大妖精「……これだけで上がるんですか?」

 

和「はい。こうして見てみると何も難しい事は無い事が分かるのではないでしょうか。

 

私の調べでは勉強出来る人のほとんどがこのパターンに当て嵌まっています。

 

では逆に勉強が出来ない人はどんなやり方をしているかというと……」

 

【決意】――

  ↓   |

【目標】× |

  ↓   |

【計画】× |

  ↓   |

【実践】←―

 

和「大体このパターンの人が多いんです。

 

思い立ったら直ぐに行動に移す事は良い事ですが、このやり方だと『どこまでやれば良いんだ!』という気持ちになってその内止めてしまうんです。」

 

和の話では特に重要なのが目標と計画の二つであると言う。

 

どの内容をどの期間までに覚えるか、そしてその期間までに覚えるにはどんな勉強法が自分にとっては効率的か。それを自分自身で考える事が重要だと和は言う。

 

更にあまり遠くに目標を設定すると勉強する気が削がれてしまうので注意する事と付け加えた。

 

モブ生徒「『目標を近くに置く』ってどういう事ですか?」

 

和「……では逆に聞きますが、例えば算数を覚えようとした時に算数全体を覚えようとすると貴方はどんな気持ちになりますか?」

 

ここで和の質問返し受けた生徒は頭の中にある漠然とした答えをどうやって先生である和に伝えるか考える。

 

この質問返しは勿論単なる嫌がらせでやってる訳ではない。生徒に考える力を自主的に身に付ける様に仕向ける事と、胸に秘めた生徒の本音を知る為に昔から使ってきた言わば和の伝家の宝刀なのだ。

 

モブ生徒「……えーっと、嫌な気持ちになる」

 

和「正直な答えですね。

 

つまり目標を遠くに置くという事はどういう事かというと、やり遂げるまでに時間が掛かり過ぎてやる気が無くなっていきます。そうすると、どこかで必ず止めてしまいます。

 

例えば九九を覚えようとか、九九が駄目なら九九の2の段を覚えようとか、そんな小さな目標でも良いんです。

 

まずは出来る所から確実に覚えてそれを繰り返す。それが大事なんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……参ったよ、完敗だ。

 

和の授業は要点を解りやすく整理していて、難しい言葉を理解する事の出来ない生徒達にもより噛み砕いた説明で生徒の何気ない質問にも丁寧に答えていた。

 

見ているだけでも慧音には良い勉強になった。

 

当然今すぐに身に付けられる程簡単な事ではないが、それはかつての和のソレと同じ様に時間が解決してくれるだろう。

 

と、ここで慧音の隣に居た一刀が口を開く。

 

一刀「和ぃー、最後に質問」

 

和「どうされましたか?」

 

一刀「授業いつ終わるの?」

 

和「今でしょ……って何言わせるんですか!」

 

最後の最後でグダグダになったが授業が終了したのは確かだ。一刀にとっては和の魂の授業を邪魔する訳にはいかなかったので最後くらいはボケさせて欲しいと思ったのだろうか。

 

一応主の気遣いには少しだけ感謝しておくとしよう。

 

和「コホンッ……以上で授業を終わります。

 

では起立、礼」

 

「「ありがとうございました!!」」

 

この授業を通して生徒達が何を感じたかは誰にも分からない。

 

だが、和の授業で寺子屋の今後が大きく変わっていく気がしたのは確かであった。

 

 




一刀「和、感想は?」

和「本編でも話した通りいつもの授業とは勝手が違ったので緊張しました。でも出来る限りの事はやったつもりです」

一刀「それにしても寺子屋があそこまで酷かったとはなぁ。慧音のダメ教師っぷりが露呈した回でも……おっと誰か来たようだ」

和「……急にどうされたんですか?」

一刀「急用が出来たから先に帰る。最後の締め頼んだぞ」スタコラサッサ

退散

和「ちょっと一刀様!?」




















慧音「……一刀の奴どこに行ったんだ?何か私の悪口を言われた様な気がしたが」

和「……(では皆さん、また次回に続きます)」
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