阿求の依頼もそろそろ終わりが見えてきた。褒美の内容を妄想して仕事が疎かになっている一刀とは違い黙々と仕事を続けてきた和が阿求にある異変について語り始める。永夜異変編、ここに開幕。
14. 旅の道中での昔話は良い暇潰しになる
◇
一刀「さてさて、東北伝新年一発目を投稿するにあたってオメェ等に朗報がある」
和「(新年と言っても既に1ヶ月近く経っているんですが……)」
早苗「この度、東風谷早苗と北郷一刀君が結婚する事になりましたぁ!」
一刀「ふざけんな!誰がオメェみてぇな天然ピンク女と」
早苗「ピンクなのは誰がどう見ても華扇さんじゃないですかぁ!
ほらぁ、あの人頭ピンクですし」
和「…それはあくまで見た目だけだと思いますが。
それより一刀様、朗報とは一体何の事ですか?」
一刀「うむ、これを見てみろ。
この東北伝にようやく……
よぉーーーーやく、投票者が現れたぞ!」
早苗「バンザーイ、バンザーーイ!!
やりました。遂に一刀君が当選しました!」
和「何の選挙だよ!
…まさか御自身で投票した訳では無いですよね?」
一刀「いくらあのもやし作者でもそんなズルやる訳無ぇだろ。
我々東北伝メンバーはハーメルン自警団を自称してるんだ。そういう不正は厳しく取り締まっていくつもりでいる」
和「それでしたらこの東北伝をまず最初に取り締まるべきですね」
一刀「何でや!?俺達がいつ不正を働いたと言うんだ!」
和「鏡見て来い。どの口が言ってんだ」
早苗「和さんは東北伝のオリキャラなのにこの小説に文句言い過ぎではありませんかぁ?」
和「そりゃこれだけパクりネタが多かったら文句の1つも言いたくなりますよ……」
一刀「まーたパクりパクりって言い出しやがったなコイツは。
あのもやし作者だって日々努力してるんだぞ。この間なんかは例えネタを使い始めたし」
早苗「甘味堂でのやり取りですね分かります」
和「(それも引退した某芸人さんのパクりなんですが(汗))
……確か早苗さんはあの場に居なかった筈ですよね。どうしてそんな事が分かるんですか?」
早苗「店員に扮してずっと見てましたよぉ」
和「イヤそれ完全にストーカーじゃねぇか!!」
一刀「(……えっ、もしやあのやり取りも聞かれていたのか(汗))」
早苗「それにしても和さんは甘い物が大好きなんですねぇ。甘味堂の店主も苦笑いを浮かべてましたよぉ」
和「大好きな事は認めますが、普段から食べている訳ではございません。
まぁ一度に摂取する量が多いのは事実ですが……」
早苗「でもその後小声でひそひそと話すから聞き取れなかったんですぅ」
一刀「(聞かれてはなかったか……良かった良かった)」ホッ
早苗「一刀君、どうかしたんですかぁ?」
一刀「イヤイヤナンデモナイヨ」
和「(明らかに片言で怪し過ぎるでしょ!!)」
早苗「でも評価が付いて良かったですねぇ」
↑
全く気付かず
一刀「0から10ある中で付いた評価は8だったぞ。中々上々じゃねぇか」
和「満点まで2つ足りなかったのは何が原因だと思いますか?」
一刀「ネタがスベってたんじゃねぇのか。
……和の」
和「何で私ですか!?ネタなんか言った覚え無いんですけど!」
一刀「肝試しのくだり」
和「言ってましたねそう言えば!」
一刀「いやぁ~あの時の和ちゃんの尋常じゃないビビり方と言ったらーー」
和「掘り返さないで下さいよ!あれから1週間程怖くて夜眠れなかったんですよ……」ガクブル
↑
青鬼たけし状態
早苗「そう言えば私もあの時汐里様から説教喰らって大変でしたぁ……」
↑
遠い目
一刀・和「「それは自業自得だろ」」
早苗「えへっ♪」
和「(もう無視しよ)……そんな訳で、随分と前置きが長くなりましたが東北伝の2019年最初の投稿です。
今年も1年宜しくお願いします」m(_ _)mペコリ
【旅の道中での昔話は良い暇潰しになる】
◇
阿求の依頼を受けて以降七、八日に渡り自宅と屋敷を行ったり来たりの日々を主従二人は繰り返した。
当然その間依頼のダブりはどうしても発生してしまい、里の住人から迷子の捜索依頼を受けて和が駆り出された事により、一刀一人で阿求の手伝いをする日もありまたその逆もあった。
そんな怒涛の日々も今日でようやく終わると思うと、一刀は自分で自分を褒めてやりたい気持ちになる。
その為か、現在一刀は自身の褒美の内容を考える事に夢中で仕事が全く手に付かない状況に陥っている。
和「……一刀様、またボーッとしてますよ」
一刀「…おっと、スマンスマン」
和が咎めるのももう何回目になるだろうか。和が注意する度に一刀は平謝りするも、十分も経たない内にまた思考が何処か遠くへと旅立ってゆく。
その都度和は一つ溜め息を漏らす。これも一体何回目になるだろうか。
阿求と和が無言で筆を進めている最中にも一刀は「褒美は食い物にするか娯楽にするか……」と今考える必要の無い事をブツブツと口走る。地味に耳障りだから止めて欲しい……
そんな和の心の訴えなど何処吹く風な一刀の机の上には山積みにされた書類が「早く仕事しろ!」と言わんばかりに主張している。
対照的に和と阿求の二人は集中して仕事していた為に、改編作業は後一歩のところまで来ていた。
和が一枚の紙に書かれてあった人物を見ておもむろに呟く。
和「……そう言えば、永琳さん達が幻想郷で異変を起こした時は私達も随分対応に追われましたね」
スペルカードルールが施行されて以降の幻想郷で起きた異変は、レミリア達紅魔組の紅霧異変から早苗達守矢一家が起こした異変まで多岐に渡る。
その異変の中のほとんどは霊夢のバックアップという名目で参加してきた一刀達万事屋だが、唯一全く違う形で万事屋が参加した異変があった。
それが永琳達の起こした『永夜異変』である。
以前にも述べたこの異変は永琳が月から脱走した鈴仙を永遠亭に匿い、月からの追っ手を撒く為に月を偽物とすり替えて本物の月を隠した事で永遠に夜が明かない異変であった。その異変は博麗の巫女によって無事解決された。
……と、阿求は慧音から異変のいきさつを耳にしていた。故に今の和の発言には幾つかの疑問が浮かぶ。
阿求「えっ、和さん達も異変解決に関わったんですか?」
和「はい。
……と言っても私達の目的は異変の解決では無かったのですが」
阿求「?」
言ってる意味が分からないと言いたげな阿求を見て、そう言えば阿求には一度も話した事が無かったなと和は気付く。
折角の良い機会だし、阿求に永夜異変の全てを語るのも良いだろう。それなら我が主の良い暇潰しにもなるだろう。少なくとも褒美の内容を妄想して涎を垂らす今のアホ面一刀を見ているよりかはなんぼかマシ。
というか万事屋として単に依頼を遂行したに過ぎないので、当然ながら褒美なんぞある訳が無い。事実を知って発狂する一刀を拝むのもまた一興である。
そんな事考えている間も私は作業の手を止めない。
和「そういう訳で一刀様、阿求さんに永夜異変の全てをお話ししても宜しいでしょうか?」
一刀「…おー、良いぞ」
一応返事するも相変わらず上の空な一刀を仕事するよう急かし、和は語る。永夜異変で万事屋が取った行動の全てを。
そして彼女が仕える主、北郷一刀が如何に桁外れな人物であるかを阿求に知ってもらう為に……
◇
それは一刀が爆睡中の時であった。
和「一刀様、起きて下さい!」バシバシ!!
北郷一刀は一度眠りに着くと中々起きない。和が少し揺すった程度では梃子でも動かない。
なので緊急時には叩き起こすか、足で踏みつけるしか一刀の意識を覚醒させる以外に手段は無い。和の良心が傷む(?)が事情が事情なだけに仕方が無いと割り切る。
一刀「……何だよ。
まだ夜中じゃねぇか……」ボヘー
熟睡中に叩き起こされると誰しもが良い思いはしない。特に一刀はソレがハッキリと解る程機嫌が悪く、いつもながらハイライトの消えた目で和をジト目で睨む。
それから再び布団に潜り込もうとする一刀の上体を和は無理矢理起こすと今起きている現状を一刀に説明する。
和「一刀様、時計を見て下さい。今何時ですか?」
一刀は半開きな目を時計に向けると、時計は八時を指していた。通常なら仕込みの時間はとっくに過ぎていて、言えば完全な寝坊である。
とは言え、一刀には未だ釈然としていない事が一つ。
一刀「…そうは言ってもまだ外暗いじゃん。もう少し寝てても良いだろ」
和「駄目ですって!」
三度布団に潜り込もうとする一刀を和は起こし、布団から引き摺り出す。ついでだからいっそこのまま一刀を一階まで引き摺り降ろそうと和は考える。今度は良心が傷む事は無かった。
一階に降りると紫と一刀と同様に眠そうな霊夢が座席に腰を降ろして待っていた。
ちなみにだが和が目を覚ました時、枕元に紫が居た為に変な声を上げてしまったのはここだけの話。
その紫から「異変が起きたので一刀を起こして欲しい」と頼まれた和は一刀を起こそうとしたのだが、絶賛爆睡中であった一刀を叩き起こすのに三十分程費やしてしまった。
無論その分時間も押しているので、一刀達が来るや否や紫は早速本題へと入る。
紫「起きて早々に悪いんだけど、今回の異変は少々特殊なの」
一刀「すぴー……」Zzz
霊夢「むにゃ……」Zzz
和「起きて下さい!」ビシッ!!
紫「起きなさい霊夢」バシッ!!
一刀「ぶっ!!」
霊夢「痛っ!!」
和は一刀を手刀で、紫は霊夢を扇子で眠りこける二人の脳天をどつく。一刀もさる事ながら霊夢も異変が起きているのに緊張感の欠片も無い。
特に霊夢は博麗の巫女という異変解決のスペシャリストであるのでもう少しぐらいTPOを弁えて欲しいと紫は
和「……それで、特殊とは一体どういう意味ですか?」
紫「時間も無いし結論から言うけど今回の異変、私も一枚噛んでいるのよ」
一刀「よし斬る。和、摩周湖寄越せ」
和「はい」
紫「ちょちょちょちょっと待って!?お願いだから最後まで話聞いて!!」ワタワタ
ついさっきまであれ程眠そうにしていたのに途端に殺気を放出する一刀に流石の紫も背筋が凍り鳥肌が立つ。お陰で霊夢の眠気も一瞬にして吹き飛んだ。
流石はあの紅美鈴を殺気だけで沈めた男。武人北郷一刀の殺気をまともに受け続けていてはいくら大妖怪の紫でも神経が持たない。
まだ人生の伴侶を得てもいないのにここでおさらばするのは勘弁願いたい。
勿論一刀も本気でやった訳ではない。コレでも幻想郷の長である紫が異変に関わっているという事は何か複雑な事情がある筈だ。
一刀「だったら何で異変なんかに関わってるんだ。
被告、答えなさい」
紫「もう法廷!?」
一刀「解答次第では極刑に処する」
紫「理不尽過ぎるわよ!!」
和「話が脱線していますが……」
……我が主の悪ふざけに付き合う暇があったらさっさと説明してくれないだろうか(汗)。
紫「…実は月から1人の月兎が脱走して幻想郷に逃げ込んだの。
月の都の民がこれを黙って見ている訳が無いわ。次の日の晩には追っ手を寄越して来る筈よ」
そこで紫は永遠亭の薬師(永琳)に協力を仰いで月を偽物とすり替えて追っ手を撒こうと考えたのだ。
月の民の技術力は河童の力を持ってしても遠く及ばない。もし月の民が幻想郷に乗り込んで来れば、対応次第では全面衝突になりかねない。それだけはどうしても避けたい。
しかし何故明日なのか?
それは次の日の夜が満月だからである。
満月になると月光が幻想郷までの道を作り、それを辿って月の使者がやって来る。もしそうなった場合、残念ながらそれを防ぐ手立ては無く幻想郷への侵攻を易々と許す結果になる。
これに気付いた紫は追っ手の目を一時的に眩ます為に月を偽物にすり替える事で永遠に満月が来ない様に仕向けたのだ。
紫が粗方説明し終えた頃には一刀は紫がどんな依頼をしてくるのか大体想像が出来た。それを確信付ける様に一刀は問う。
一刀「…という事で俺達はオメェ等が異変解決に動いてる間に月に行って交渉して来い。
……って事だろ?」
紫「そういう事よ」
一刀「まぁアイツ等とがっつり面識があるのは俺か永琳ぐらいしか居ねぇからな」
本当に話が早くて助かると紫は思う。
一つ間違えば幻想郷が戦火に包まれるかも知れないこの状況下で一つだけ紫に運があったとしたら、月の民と面識のある者がこの幻想郷に
北郷一刀と八意永琳。この二人はまだ月の民が地上で生活していた頃を知る数少ない人物。また同時に永琳は紫と和に出会う以前の一刀を幻想郷でただ一人知っている。
当時一刀は月の民の武力を鍛え、軍隊を形成して今の月の都の礎を築いた。
こうした功績から月の都で高い地位に登り詰めた一刀は月の民からの信頼を不動の物にしていった。
つまり一刀はこの異変を平穏無事に解決する為の唯一にして最高の切り札とも言える。
その分一刀達には負担を掛けるので、報酬は多めにした方が良いなと紫は心中苦笑する。
一刀「和、準備は?」
和「もう出来ています」
一刀「よし、そんじゃあスキマを月に繋げてくれ」
紫「分かったわ」
紫がその場にスキマを開く。相も変わらず紫のスキマはギョロギョロとした目が無数にあって気持ち悪いが、それにももう慣れたもの。
それだけ紫の性格が歪んでいるのだろうと一刀は勝手に解釈する。
和「一刀様、行きましょう」
一刀「オーケーレッツだゴー」
一刀達がスキマの中に入り程なくしてスキマは閉ざされた。家主の居ないかっちゃん堂に残された二人も異変の解決へと動く。
霊夢「……カズ兄さんってどんだけ交友の幅が広いのよ」
紫「一刀は昔から誰とでも仲良く出来るのよ。
ただ……」
霊夢「ただ……何よ?」
紫「……いいえ、何でもないわ。
私達も早く行きましょう」
霊夢「?」
◇
正直に言って和は現在複雑な心境である。
随分昔に主の一刀から話を聞いた限りでは、月の民は自分達妖怪、所謂穢れの存在を忌み嫌って地上を去ったと言う。
そんな所に自分が行って大丈夫なのだろうか?
その疑問を一刀にぶつけてみたところ、一刀はやけにあっさりと「大丈夫だろ」と答えた。何故そう言い切れるのかと和が問えば……
一刀「だってオメェは人食った事無ぇだろ?
アイツ等がオメェ等妖怪を穢れてるかそうでないかを判断する基準はどんだけ人を食ったかで決めるんだよ。
つまり和は妖怪としての穢れが極めて小さいから邪険に扱われる事は無ぇさ」
月の民にそういう意識を刷り込ませたのは他ならぬ一刀である。
月の民が地上で生活していた当時、月の軍の最高指導者の地位に就いていた一刀は民達に武を鍛えていただけでなく、妖怪の穢れのいろはも徹底して指導していた。
軍の最高指導者という立場上、妖怪討伐に頻繁に駆り出されていた経験がある為、妖怪にも良し悪しがある事はとうの昔に気付いていた。それ故に無闇に討伐する行為は軍の指導者としては頂けない。
この一刀の考え方は一部の上層部から反感を買ってはいたが、一刀の意思は今も尚後輩や弟子達に受け継がれている。
和「……でも紫様は何故私達を月に向かわせたのでしょうか?
紫様がスキマを使えば月の方達を欺けるとは思いますが……」
一刀「そいつは無理な話だぜ。
月の技術力の高さは俺達幻想郷住人が総動員で挑んでも足元にも及ばん。
紫が月をすり替えたのはあくまで
紫もソレが分かっているからこそ俺達を月に向かわせたんだろうよ」
紫が永琳よりも一刀を起用した訳は二人が担当していた部署の違いである。
月の軍の全体を仕切っていた一刀は軍隊の中で徹底した縦社会を形成していたので、一刀の一声無しでは軍を出動させる事は出来ない。例えそれが上層部の命令であったとしても一刀自身が動かない限り軍隊も動かない。
それだけ一刀は月の都で高い地位に居たという表れにもなる。
永琳にも同じ事が言えるのだが、彼女は都市開発の分野を任されていたので軍隊との直接的な関わりはほとんど無い。
それに折角月の事情を知る者が二人居るのだから、その内の一人は紫の手元(幻想郷)に残しておきたい。
もし万が一月の民が幻想郷に侵攻してきた時に争いは避けては通れない。当然ながら争いが起きれば負傷する者も出るだろう。
そうなった場合に備えて紫は永琳に治癒力の高い薬の開発を命じた。その際鈴仙が実験台にされて涙目になっていたのは言うまでもない。
一刀「紫は今永琳と慧音を動かして月の民が来た時に備えているが、はっきり言ってそんな心配は無用だ。
だってコイツは完全な出来レースだからな」
和「…それはどういう意味ですか?」
一刀「……そいつを話す前に少し昔話をしようか。
月に着くまでまだ時間があるからな」
そうして一刀は軍隊を率いていた時の話を始めた。一刀が出来レースだと断言した理由が明かされる。
◇
月の都の上層部達にとって北郷一刀という存在は目の上のたん瘤であった。
一刀自らが独自で発案し創設した軍隊は都の役職という枠組みから完全に外れた固有の組織である為、軍の全権は全て一刀にあるのだ。
つまりは上層部の人間達に発言力は無く、軍隊を思い通りに動かす事も出来ない。重役達にとってこれ程歯痒いものは無い。
更に皮肉な事に一刀が創り上げた軍隊が当時の都の収益の大半を占めていた。それは即ち、重役達の他の誰よりも都の治安維持に貢献していた表れでもある。だから下手に軍隊を瓦解させようものなら民からの信頼を失ってしまう。
そこで重役達はまず一刀の軍隊を我が組織に取り込もうとした。さすれば一刀を自分達の配下に置く事が出来る為、一刀の動きを封じる事が出来ると重役達は無い頭脳をフル回転させて考えた。
しかし、そんな重役達の浅い考えは一刀には既にお見通しであった。そうでなくとも普段から一刀を毛嫌いしている重役達が、突然気持ちの悪い猫撫で声で接してくれば嫌でも気付く。
それに一刀もまた、普段から能書きばかり垂れて仕事の出来ない重役達を堂々と無能と罵り嫌っていた。
両者は完全な対立関係にあった。故に重役達の低レベルな揺さぶりにも動じず、一刀はその様な輩の配下に付くつもりもそもそも無かった。
早々に計画が頓挫した重役達は、次に一刀の軍隊を消滅に追い込もうと妨害工作を仕掛けた。一刀自らが軍隊を解散すれば民の不満の矛先は全て一刀に向く筈だと考えたのだ。
しかし結果はまたも失敗に終わる。これは単純に一刀に動く気配が無かったからである。言い換えるなら、これも一刀にはお見通しであったのだ。
業を煮やした重役達は最終手段に打って出る。
それは北郷一刀の抹殺である。
一刀を抹殺して都に多大な利益をもたらす軍隊を自分達の物にしよう。そう重役達は考えて重い腰を上げた。
しかし、この浅はかな考えが結果的に自分達の首を絞める事になろうとは……
この時の重役達は誰一人として気付く事は無かった。
◇
「近頃重役達が都の外を行き来しているとの事です」
一刀「…そうかい」
近い内に何か良からぬ事が起きるのではないか?そう薄々と勘づいていた一刀の予想は、都の門前を護る守備隊からの報告でほぼ確信に変わった。
役職への勧誘、軍隊への妨害工作、そして今回の一刀の抹殺。その全てを事前に知り得たのは一刀を始めとした隊員達が独自で築き上げたネットワークの賜物だと言える。
その情報網の広さは一刀本人が想像していたよりずっと広大で、きめ細やかに張り巡らされていた。発案者の一刀ですら舌を巻く程であったと後に彼はそう語る。
情報というのは、この時代では策を立てる上でとても貴重な資料である。一刀はソレをより多く集める為に内部の組織を細分化して都の至る所に配置した。
こうした軍の運営に一刀が力を注いできた事により、月の軍隊は強固なネットワーク社会を確立していったのだ。
前述の報告を受けて、今まで静観を決め込んでいた一刀が遂に動く。
そこで一刀は上層部内に密偵を放ち、証拠を集める事に努めた。短期決着がベストだとは言ったが、情報が無い状態では動いても足元を掬われる恐れがある。
上層部の人間達が今がまさにソレと同じ事をしている状態だと言えよう。だからテメェ等は無能なんだよと一刀は自身の胸中で重役達をボロクソに罵倒する。
大方の予想は出来てはいるが、それだけでは奴等を裁く決定的な証拠にはならない。
だが軍隊の生命線とも言えるネットワークを駆使すれば、土の中に潜む土竜を探し当てる事は容易に等しい。
一刀の放った密偵が決定的な証拠を掴んで帰ってくるのに、それ程時間は掛からなかった。
◇
密偵が持ち帰ってきた情報は重役達が裏で妖怪と取引をしているという物であった。もっと掻い摘んで言えば重役達は一刀抹殺への協力を妖怪にけしかけて、賄賂を送っていた。
やはりと言うべきか何と言うべきか……。その話を聞いて一刀は心底呆れた。
一部の者ではあるが、妖怪は重役達が思っている以上に聡明なのだ。「我々では手に負えないから力を貸して欲しい」どうせそんな風に言ったんだろと当たりを付ける。
それは即ち都の弱点をあからさまに露呈しているとしか言いようが無い。これを聞いた妖怪が一刀抹殺の為だけに動くとは到底考え難い。
奴等は必ず都諸共滅ぼそうと侵攻して来る筈だ。
重役達は妖怪を利用しようと思っているだろうが実は逆で、重役達は妖怪に利用されている。本当に手の平で踊らされているのは果たしてどちらか聞くまでもない。
用済みと判断すれば妖怪の牙が容赦無く襲い掛かるだろう。鈍重な重役達ではソレを防ぐ術などある筈が無い。
一刀「(まぁその前に俺が裁くけどな)」
一刀の行動方針が決まった。決戦に備えて軍隊を整えている間に明日の会議の場で重役達の狼藉を暴いて奴等にキツい御灸を据える事にしよう。その後永琳に回復薬の製作でも頼むとするか。
翌日の会議で一刀は重役達が妖怪に賄賂を送っていた事実を「亡国を企てている」と
袋小路に追い込まれた腐った
日付けが変わる頃には重役達全員は碌な抵抗も出来ず、一刀とその部下達によって一人残らず駆逐された。その様は普段の妖怪討伐と比べてもあまりにあっけなかった。
それから程無くして都に妖怪が攻め入って来た。この日は丁度月の民が地上を離れ、月面に移住する計画を実行する日であった。
……全く何たる巡り合わせかと一刀は思う。しかしてこれも想定の範囲内、別段焦る事も無い。
それに戦えない非戦闘員は予め移動用のロケットに乗せて避難させているので不安材料は何一つありはしない。
密偵の情報によると、妖怪の数はおよそ二万と少々。それに対して一刀の軍はおよそ八千。
数だけ見れば圧倒的に不利だが、それでも一刀の表情に動揺は無い。
一つだけ嬉しい誤算があったとすれば、永琳を始めとした一部の民達が加勢に加わった事であろう。言葉は悪いが、戦力は一人でも多く居た方が断然良い。
いざ戦闘が始まるとその差は歴然としていた。
非常に統率の取れた動きを見せる軍隊に妖怪達のほとんどが対応出来ず、付いて来れた数少ない俊敏な妖怪も永琳の毒矢に倒れ、一刀の摩周湖の錆になっていった。その間も一刀は隊員達に細かな指示を出す。
中でも特に力を発揮したのが一刀直属の部下が集う少数だが精鋭揃いの俊英部隊……『機動隊』である。
重役達のソレとは比べ物にならない程右へ左への強烈な揺さぶりと素早い動きに妖怪は悉く翻弄され、皆平等に命を刈り取られていった。
それに加えて永琳の後方からの援護射撃は妖怪の眉間を確実に捉えその数を益々減らしてゆく。更にそれに気を取られている内に一刀達機動隊に容易に間合いに入られ、これまた容易に斬り捨てられてゆく。
妖怪達にとってはまさに負の
やはりここ一番では普段から欠かさぬ調練の成果が物を言う。幾ら二倍以上の数が居ようと、単なる寄せ集めに過ぎない即席の軍隊もどきでは一刀が基礎から徹底して鍛え上げた軍隊を相手取るにはあまりにも荷が重過ぎた。
ちなみに永琳を後方に置いた訳は至ってシンプル。矢は遠距離攻撃に優れており後方支援に持って来いだったのと、構えている間は無防備になるという欠点を打ち消す為である。
『能ある鷹は爪を隠す』。今の一刀を表現するにこれ以上マストな言葉は他に無い。
ボケにボケを収拾が付かなくなるまで重ね、面倒事に関わる事を極端なまでに嫌がるずぼらでルーズでちゃらんぽらんな『まるでダメなお兄さん(おっさん)』通称『マダオ』の北郷一刀。
しかしひとたびその爪を見せれば、侍の在り方をその毅然たる態度と行動で示し、圧倒的な存在感と冷静な思考で瞬時に最善策を見出だす思慮深さを併せ持つ最強の武人……北郷一刀。
月の民はそんな一刀の二面性に惹かれ、信頼していたのだ。
後に『人妖大戦』と呼ばれたこの戦は多少の犠牲は出たものの、終わってみれば一刀達月の軍の圧勝という結果に全員が満足する事となった。
これにより北郷一刀は『歴史上最大級の人ならざる者との戦いに勝利した英雄』として地上、月問わず広くその名が知れ渡る。
そして最後に月へと旅立つ仲間達を見送り、爆弾が投下された事により跡形も無くなってゆく都を見届けると、一刀は一人明後日の方向へと旅に出た。
この後に従者となる『伝説の妖鳥』北郷和と運命的な出逢いを果たす事になるのは、まだ数千年後の話である。
和「皆さん、新年最初の投稿はいかがでしたか?
私がこの話を初めて聞いた時には『私はとんでもない御方の従者になってしまったんだな』と改めてそう思いました」
早苗「一刀君って本当に凄い人なんですねぇ。まるで一刀君の独り相撲ですねぇ」
和「…早苗さん、それを言うなら独り舞台ですよ(汗)」
早苗「それより一刀君はどこに行ったんですかぁ?
一刀君が後書きの場に居ないなんて今まで無かったじゃないですかぁ」
和「一刀様は博麗神社に向かわれました。何でも新年会が行われているとの事です」
早苗「じゃあ私達もそこに行きましょう!
勿論和さんもお酒飲みますよねぇ?」
和「飲みません」キッパリ
早苗「だったら無理矢理にでも和さんにお酒をーー」
和「一刀様から拳骨を喰らいたいですか?」
早苗「やっぱ止めときま~す」
和「賢明な判断ですね」
早苗「ぶーぶー」
和「ではそろそろ締めますね。早苗さん、宜しいでしょうか」
早苗「はーい!
皆さーん、今年も1年……」
和「この東北伝を……」
和・早苗「「宜しくお願いします!」」