東北伝   作:独田圭(ドクタケ)

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あらすじ

和は偶々その場に居合わせた文と紅魔館の館内に侵入した。が、遊び過ぎて和に置いていかれた一刀は遅れて紅魔館に侵入するも館内が広過ぎた為に早速迷子に…。迷いに迷った挙句、一刀が辿り着いた場所とは?





文「最新話始まりま~す」

一刀「前書きにまで出しゃばるな。ここにオメェの出番は無ぇ」

和「…一刀様、それは文さんに失礼ですよ」

文「あやや~、私は大丈夫です」

一刀「和ぃ、お前は射命丸に甘えんだよ。甘々なんだよ。これじゃあ東北伝が腐向き小説になっちまうよ」

和「なりませんから!!すぐそっちの方向に持っていくの止めて貰って良いですか!?」

文「……作者さーん、本編始めて貰って良いですか?」


8. 闘って勝つのは二流、闘わずして勝つのが一流、それが侍だ!

 ◇

 

【闘って勝つのは二流、闘わずして勝つのが一流、それが侍だ!】

 

 

 

 

 

紅魔館の門番、紅美鈴は武術においては達人クラスの腕前を持つ妖怪だ。

 

特徴的なのが、何でも【気】を使った格闘術を用いるという事らしい。気とは血液と同様に身体中を循環している生命力の源(?)みたいなもの。

 

『病は気から』という言葉がある様に、少しでも気の流れに問題があるとそれはすぐさま身体の異変となって表れるのだという。

 

多少量に差はあれど、気は人も動物も妖怪も皆例外無く持っている。

 

つまり気とは解りやすく言えば霊力や妖力を全てひっくるめた力の源の総称であると美鈴は語る。

 

一刀「…つまりアレか、美鈴は拳に気を纏わせた闘い方をするという訳か」

 

美鈴「そういう事になりますね」

 

一刀「じゃあ、かめはめ波みてぇなもんは撃てんのか?」

 

美鈴「撃てる方も居ると思いますよ」

 

もっともそれが出来る様になるまでに途方も無い時間を要するんですが……と美鈴は続けた。

 

そもそも身体中に気が流れている事を自覚出来る者の数自体が限られてくる。仮に自覚出来たとしても、そこから気を練って量を増やしてからでないと気を使う事は出来ないのだ。

 

かめはめ波……とはいかずとも気弾を撃てる様になるには、そこから更に気の量を増やしていかない事には気弾を撃つ事すら出来やしない。

 

さて話は一刀達がやって来る数分前まで遡るが、異変を解決する為に紅魔館を訪れた霊夢と最初に対峙した相手が紅美鈴である。

 

華奢な体つきをした霊夢を見て美鈴の心は自信に満ち溢れていた。意気揚々と構えた美鈴は手招きまで付け加えるというあからさまな挑発行為を行いながら霊夢に挑んだ。

 

……しかし結果は惨敗。美鈴が霊夢を過小評価していた事と、スペルカードルールに対しての認識不足が大きな敗因であった。

 

霊夢にコテンパンにやられた美鈴はしばらく地に伏せていたがそこはやはり妖怪の性というべきか、身体に受けたダメージは次第に回復し、彼女の意識が覚醒するのにそう時間は掛からなかった。

 

やがて意識がはっきりとしだした時、自分のすぐ真隣に何者かの気配がある事に気が付いた。

 

一瞬咲夜でも来たのかと思ったが、よくよく気配を探ると紅魔館の住人の誰のものでもない事が解った。

 

美鈴「(えっ…誰?)」

 

恐怖のあまり身一つ動かさずにじっとしていると…

 

??「起きてんだろ?目ぇ覚ませよ」

 

という男の声が聞こえた。当然ながら美鈴はこの声に聞き覚えが無い。

 

恐る恐る目を開くと、美鈴の眼前いっぱいに一刀の顔がでーんと…

 

美鈴「…!?」

 

一刀「おっと」

 

咄嗟に美鈴は蹴りを繰り出した。しかし一刀には躱され空振りに終わった。

 

一刀「…オイオイ、起きて早々蹴りは無ぇだろ」

 

などと一刀から非難されたが、あんな至近距離で自分を覗き見ていたこの男が悪いのであって自分は断じて悪くはないと思った自分は決して間違ってはいない筈…

 

いまだ構えを解かない美鈴に一刀はまぁまぁと気を落ち着かせようとする。

 

一刀「まぁそう警戒するなって、こっちに敵意は無ぇ」

 

美鈴「…どうでしょうか。貴方も異変を解決する為にここに来たんじゃないんですか?」

 

一刀「…貴方もって事は先客が居るのか?」

 

一刀は解っていたが敢えて美鈴に聞いてみた。

 

美鈴「えぇ居ますよ。博麗の巫女という御方が」

 

一刀「そうか……

 

じゃあ入るぜ」ズカズカ

 

美鈴「イヤイヤイヤちょっと待って下さいよ!」

 

躊躇なく紅魔館に入ろうとした一刀を慌てて引き止める。この男は美鈴が門前に居る意味を解っているのだろうか?

 

一刀「えー…今度は何」

 

美鈴「イヤ何じゃないでしょ!私門番なんですよ!?門番に入って良いですかって許可を取るのは常識でしょ!?」

 

一刀「世の中の常識は一切通用しない。それが幻想郷だ!」

 

美鈴「イヤ意味分かりませんって!?」

 

残念ながら一刀に常識を説いたところでこの男は聞く耳を持つ事は無い。世界は俺が回していると本気で思っているのではないかという程、自己中心的な思考を持つ一刀を言葉一つで説き伏せる力は美鈴には無かった。

 

美鈴「とにかく!誰が来てもここを通す訳にはいきません!どうしても通りたければ私を倒してからにして下さい!」

 

美鈴は一刀にそう宣言して再び構えた。構えを見た一刀はほぅ…と息を漏らす。

 

一刀「…お前、気を使うのか?」

 

この一言に美鈴はえっ!?と驚きの声を上げた。

 

美鈴「解るんですか!?」

 

一刀「まぁな。

 

折角だし、自己紹介も兼ねて気の説明でもしてくれるか?」

 

気を使う美鈴に興味を抱いた一刀は気の説明を美鈴に提案した。

 

 

 

 

 

 ◇

 

その後互いに自己紹介を交わし、一刀は美鈴に気の応用のレクチャーを受け冒頭のやり取りに戻る。

 

美鈴「だからまず最初に自分の身体の中に気が流れている事を自覚する事から始まるんです」

 

一刀「成る程、よ~く分かった。

 

 

 

 

 

かぁぁめぇぇはぁぁめぇぇ波ぁぁぁぁぁ!!」

 

……。

 

当然ながら何も起こらなかった。

 

美鈴「…あの~、話聞いてましたか?」

 

一刀「なんだぁ?気合いが足りんのかぁ。

 

 

 

 

 

かぁぁぁぁぁめぇぇぇぇぇはぁぁぁぁぁめぇぇぇぇぇ…

 

波ぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!!」

 

 

 

 

 

…………。

 

やっぱり何も起こらなかった。

 

美鈴「イヤだからーー」

 

一刀「…何だよ、話ちげぇじゃねぇか。

 

オイ美鈴(みすず)、コイツはどういう事だ」

 

美鈴「さっき説明しましたよね!?それに私は美鈴(めいりん)です!」

 

美鈴の気の説明の意味皆無。もし気弾を簡単に出せたのならば、美鈴も労せず気を修得出来ていた筈だ。

 

武術に限らず一つの物事を覚えるには、こつこつと経験を積み重ねてゆく以外に道は無い。努力に即効性無しというのはまさしくこの事である。

 

気弾を出せなかったからか、一刀は気に対する興味を失ってしまった。同時にここに居る意味も無くなった。

 

一刀「…じゃあ、ここ通って良いかな?」

 

美鈴「それもさっき言いましたよね!?ここを通りたければこの私を倒してからにして下さい!」

 

一刀「えぇー!!何で!?」

 

美鈴「貴方が異変解決者と関係が無いという証拠が無い以上、黙ってここを通す訳にはいきません」

 

一刀「はぁ~…」

 

溜め息を吐きたくなるのはこっちの方だと美鈴は心の中で毒づく。どんな事があろうと門番としての使命を果たす事こそが紅美鈴の仕事なのだ。

 

もっとも、美鈴が気絶してる間に和と文が紅魔館の中に入っていった事には気が付いてないが。

 

一刀「…わぁーったよ、闘えば良いんだろ

 

その代わり、俺は強いぜ」

 

美鈴「…大層自信があるのですね」

 

一刀の発言に美鈴は少しムッとする。先程までの自分と同じようにこの男も過剰な自信に満ち溢れていると見て取れた。

 

ならば自信過剰な一刀の鼻っ柱をへし折ってやろうと美鈴は気合いを入れて拳に力を込める。

 

一刀「まぁ、それに見合っただけの実力はあると思ってるからな…

 

 

 

 

 

…だから死ぬつもりで掛かって来いよ」

 

美鈴「…!?」

 

ーーその刹那、美鈴の身体は石の様に動かなくなった。

 

…いや、動かなくなったのではなく動けなくなったのだ。考えるよりも先に本能が気付いてしまった。

 

この男と本気で闘ってはいけない、命が幾つあっても足りないと…

 

先程まで美鈴にボケかまし続けていた【幻想一のテキトー男】北郷一刀の姿はもう何処にも居ない。代わりに今、美鈴の目の前に立っている男は【楽園最後の侍】という二つ名を持つ武人、北郷一刀なのである。

 

予め断っておくが、一刀は美鈴を本気で殺すつもりは毛頭無い。人間に余程大きな危害を加えない限り、一刀は無作為に妖怪を殺す様な事をしない。

 

しかし、美鈴と一刀とでは踏んできた場数があまりにも違い過ぎた。だから一刀の殺気をあてられ美鈴は身動き一つも取れなくなってしまったのだ。

 

こうして面と向かって立っているだけで心臓を掴まれる様な感覚。それは美鈴にとって全く体験した事の無い未知の恐怖であった。

 

美鈴「…参りました」

 

一刀「賢明な判断だな」

 

そしてその恐怖に耐えきれず美鈴は白旗を上げた。それを聞いた一刀は放出していた殺気を引っ込める。すると美鈴は全身の力が抜け、膝から崩れ落ちた。

 

美鈴にとって闘わずして負ける事はこれが初めての経験である。つまりそれだけ彼女と一刀の間には絶対的な経験と力量の差があった。

 

手も足も出ないとは、まさしくこういう事を言うのではなかろうか。

 

一刀にとってもまた、相手が闘う前に降参宣言をする者を初めて見た。大概の奴は一刀の殺気にも動じず無謀にも勝負を挑んだ挙句、案の定返り討ちに遭う者がほとんどだったのでちょっと新鮮な気持ちになった。

 

しかしそっちの方が無駄な労力を消費せずに済むので一刀の立場からすれば正直ありがたい。この先どんな敵が待ち構えているか分からないからこそ、少しでも体力を温存しておきたい。

 

一刀の考え方として、相手の力量を計れない者は三流。力量を知って勝てないと解っても尚無闇に突撃してくる者は二流。そして解った上で素直に負けを認められる者こそが一流の武人だと思う。

 

『敵を知り己を知れば百戦危うからず』。この言葉は敵の弱点を知り、そしてしっかりとした準備を備えていればいかなる闘いにも負けないといった意味でよく使われる言葉なのだが、一刀の解釈は少し違う。

 

結論から言ってしまえば勝てないと解っている相手には無闇に挑まず、逆に引き際を見極める賢さも備えておくべきだと一刀は思う。

 

例えば相手の弱点を知ったとしても力量の差があまりにも違い過ぎた場合、玉砕覚悟の突貫攻撃に打って出るのは武人として愚の骨頂。下手をすれば死、収穫うんぬん以前の問題になってしまう。

 

死に名誉もクソも無い。恥晒しとして謳われ晒し首にされるのがオチだ。それを名誉だと履き違えているならば、ソイツは命の重さを全くもって理解していないただの阿呆だと一刀は思う。

 

一刀「じゃあ、ここ通っても良いか?」

 

美鈴「はい…どうぞ」

 

口調はすっかり何時ものソレに戻り、軽い調子で美鈴に問うが、一刀の殺気をもろに喰らった美鈴の心中はまだ穏やかでは無かった。

 

そんな美鈴の心情を察してか、一刀は門前を通り過ぎる前に美鈴の方に向き直りーー

 

一刀「…まぁ、これからも頑張んな。お前は見込みあるぜ」

 

そう言い残して一刀は紅魔館へと足を踏み入れていった。その姿が完全に見えなくなると美鈴は一つ息を大きく吐いた。

 

率直に言うと美鈴は妖怪ならいざ知らず、人間であそこまでの殺気を出せる者が居る事が信じられなかった。本来なら気を失っていてもおかしくは無かったと自分で思う。

 

だからこそ美鈴は見抜いていた。アレが一刀の本気でない事に…

 

美鈴「(お嬢様、どうか無事でいて下さい…)」

 

 

 

 

 

咲夜「お嬢様、侵入者です」

 

??「そう…」

 

そのお嬢様と呼ばれた者は咲夜からの報告を受けているところであった。

 

彼女は置いてあった水晶を手に取り、自身の能力『運命を操る程度の能力』で侵入者…もとい一刀の運命を覗き見た。

 

??「…!?」

 

その瞬間、少女は驚愕した。

 

何故なら、映し出された一刀の運命が少女の予想していた物と全く違っていたからだ。

 

咲夜「どうしますか、この男を排除しますか?」

 

??「…いいえ、その必要は無いわ」

 

咲夜「えっ…」

 

てっきりそうするものだと思っていた咲夜は少女の回答に少なからず狼狽した。

 

更に少女は言葉を続ける。

 

??「放っておきなさい。もしかしたら、この男は私達の運命を変える存在になるかも知れない」

 

咲夜「はぁ…」

 

いまいち発言の意図が掴めない咲夜であったが主の命令は絶対だ。従う以外に選択肢は無い。

 

運命を変えるとは一体どういう意味か?

 

現時点でその答えを知る者は運命を操る程度の能力を持つ吸血鬼の少女、【レミリア・スカーレット】以外誰も居ない。

 

 

 

 

 

 ◇

 

紅魔館の中は外観以上に広く感じる気がする。

 

一刀がそう感じたのは中に入って程なくしての事であった。だがその種は一目見たらすぐに解った。

 

館内の至る所に能力を使用した跡がある。時空や空間に関係する能力を持っていればこういう芸当が出来るのも理論的には可能である。

 

なんらかの訳があってそういう事をしているのだろうが、今の一刀にとってはそんな事はどうでもいい。

 

美鈴を退けて堂々と紅魔館INしたは良いが、いざ中に入ると館内は広い上に結構暗い。廊下には等間隔に蝋燭が並べられているが、はっきり言って全然足りない。

 

おまけに道草食い過ぎたが為に和という頼れる右腕に置いていかれた今、あまり当てにならない自身の勘に頼って歩を進めていたらどうなるか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「…迷ったあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

まよったあぁぁぁぁぁぁ…

 

 

 

 

 

マヨッタアァァァァァァ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局こうなった(笑)。

 

しっかりとタメを作り、放出された一刀渾身の叫びは館内中に反響する事となった。当然この叫びに応えてくれる者は誰一人として居ない。

 

どれだけ歩を進めてもほとんど景色が変わらない為位置関係が掴みづらい。しかも一刀は幸か不幸か紅魔館にINしてからここまで誰とも出くわしていない。

 

…いや、ここまできたら不幸としか言いようがない。

 

一刀「…くっそぉ~和の奴、後でぜってーお仕置きしてやる」(# ̄З ̄)ブツブツ

 

自分の事を棚に上げて一刀は和に対してのお仕置きの内容を考え始める。例え一人であったとしても一刀はペラペラと喋る事を止めない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和「……!!」ゾワリ

 

文「…どうしたんですか?」

 

和「…いえ、なんとなく身の危険を感じただけです(恐らく一刀様がまた変な事を考えているんでしょうね…)」

 

文「確かにここは危険な匂いがプンプンしますね。でも私のジャーナリスト魂に賭けてもこの異変をスクープしてみせますよ!」ガッツ!!

 

和「(そういう意味ではないんですが…)」

 

 

 

 

 

廊下をトボトボ歩きながら独り言をブツブツと言い続ける一刀。時折『手錠』や『木馬』などといった単語が聞こえてくるが、そこは適当に聞き流す事にしよう。

 

本来この紅魔館には妖精メイドが居る筈なのだが、一刀の独り言に変な奴が来たと思っているからか誰も一刀の元には近寄って来ない。

 

異変の調査なんかほっぽり出してもう帰ろうかと思っていた時、景色の変わらなかった廊下に一つの大きな変化を見つけた。

 

一刀「…おっ、階段があるじゃん」

 

ぽつんとあった地下へと通づる階段が一刀を出迎える形で現れた。覗くと灯りが一つも無く階段を降りた先がどうなっているのか分かったものではない。

 

一刀「折角だし行ってみよう。もしかしたら素敵な出会いがあるかも知れん」

 

漸くやる気になった一刀はむくむくと湧き上がった好奇心に逆らう事も無く、地下に通づる階段を軽い足取りで降りてゆく。暗く足元も見えない階段をカツカツと一定のリズムを奏でながら。

 

しかしここは言わば相手の根城、一刀はあくまで侵入者に過ぎない。それは即ち、もしかしなくても一刀にとって素敵な出会いなどある筈が無い。

 

その事に一刀は気付くべきだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

その頃、紅魔館の大広間では霊夢とレミリアが弾幕を飛ばしながら決闘を繰り広げられていた。文はシャッターチャンスを逃すまいとカメラを構えており、隣に居た和は戦況をほぼ黙って見守っていた。

 

ほぼというのは時折霊夢の邪魔をしようと攻撃を仕掛ける妖精メイド達を木刀で薙ぎ払って横槍が入らない様にしている為で、それ以外に和のやる事はほとんど無い。

 

弾幕ごっこは一対一で闘う事が基本。それを破る者は和の容赦無い制裁が待っているのみ。そこに他者の介入はあってはならないのだ。

 

しかしそうしている内に妖精メイド達も大人しくなり、いよいよ和のやる事は霊夢とレミリアの弾幕ごっこを見守るだけとなった。

 

咲夜「和さんも従者をしているんですか?」

 

和「はい、そうですよ」

 

もっとも、その主はとてもクセの強い御方なんですけどと和は心の中で付け加える。

 

口に出す事は無い。初対面の相手に愚痴を漏らして愚痴っぽい奴と思われるのは嫌だし、同情もされたくはない。

 

咲夜「その主は今どちらに?」

 

和「…多分ここで迷子になっていると思います」

 

咲夜「そうですか…」

 

それは仕方ないかなと咲夜は思う。この紅魔館は咲夜の『時を止める程度の能力』を応用して館全体を拡張している為、初めて紅魔館を訪れる者は皆迷ってしまう。逆に大広間まで迷わずに辿り着いた和達の方が凄いのだ。

 

それを和に言うと彼女はううんと首を振って…

 

和「ここまで辿り着けたのは、『あちらからスクープの匂いがします!』って文さんが言ったからなんです。私は何もしておりません」

 

和は良くも悪くも謙虚である。自分よりも相手を褒め称えて、その相手の喜ぶ顔を見て自分も喜ぶ。和はそれを生き甲斐にしている。いかにも和らしいと言えばらしいのだが、それは同時に彼女の欠点でもある。

 

以前一刀からも指摘された通り、彼女は謙虚さが過ぎるあまり自分を過小評価するきらいがある。

 

従者としての自分の在り方や主の考えを考慮して、行動出来る事が彼女の最大の長所ではあるが、裏を返せばそれが時として彼女を縛りつけている。

 

だが、それでも和は自身のやり方を変える事はしない。それは一刀と主従の契りを交わした時から主だけではなくその他の人妖達にも思いやりを持つ事を自分自身に課した課題である事が大きな理由である。

 

それを和はかれこれもう数千年追い求めているのだ。

 

 

 

 

 

レミリアが押され始め、弾幕ごっこは霊夢優勢になり始めた事で佳境を向かえようとしていた。固唾を飲んで見守る咲夜を見て和は何故人間の彼女が吸血鬼であるレミリアの従者になったのか疑問に思う。

 

とはいえ、それを言ってしまえば和だって主が人間であるので立場としては咲夜とそれ程変わりは無い。

 

和「…霊夢さんが畳み掛けてますね」

 

咲夜「…そうですね。でも私はお嬢様を信じています」

 

闘いは勝敗が決まるその時まで何が起きるかは分からない。勿論霊夢も気を抜いてはいないだろうし、レミリアも決して諦めてはいないだろう。

 

そんなレミリアの姿を見てか、咲夜ははっきりと信じていると言った。余程レミリアの事を主として信頼しているのだろう。

 

良い事だと和は思う。その一言だけで咲夜がいかに優れた従者であるか和には分かった。

 

命令に忠実、主への配慮など従者として必要な条件は幾つもあるが、優秀な従者になる一番の条件とは結局のところどれだけ主を信じる事が出来るかの一点に限られてくる。和は勿論、咲夜もこの条件を満たしているのでとても優秀な従者だと言えよう。

 

ただ、和は先程からどういう訳か嫌な予感がしてならない。

 

それが何かと問われても、そこまでの事はいくら和でも解らない。

 

異変自体は直に霊夢が解決するだろう。咲夜には悪いがレミリアはもうすぐ霊夢に倒される。それだけの事ならば何も心配する事は無い。

 

……が、この紅魔館の中に入った時から頭の片隅に残っていた一つの不安材料がここにきてより強まっていた。

 

それはまだ和達が大広間に到着する前の事。異変という大スクープが目の前まで迫っている事に興奮を隠せないでいた文は気付かなかったが、注意深く周囲の気配を探っていた和は紅魔館内に極僅かに漂う狂気に満ちた気配に気付いていた。

 

最初は異変の黒幕の物かと思っていたが、その狂気がレミリアのそれでないという事は一目見てすぐに判明した。

 

では一体誰の物なのか?

 

和はこの時、未だ拭えぬ不安を胸に抱きながら勝負の行方を見守っていたのだ。

 

 

 

 

 

レミリアが最後のスペルカードを高々に掲げ、宣言した。するとレミリアの手元から真っ赤な槍の様な武器が出現した。【グングニル】と呼ぶその武器は禍々しさの中にも神々しさが感じられ、彼女が誇り高き吸血鬼である事を如実に表している。

 

それを見た霊夢が同じようにスペルカードを宣言する。陰陽道の絵を模したそのカードは霊夢の必殺スペル【夢想封印】である。

 

レミリアがラストスペルを宣言した事によって、この勝負はレミリアが霊夢を戦闘不能にするか霊夢がレミリアのラストスペルを破るかのどちらかに絞られた。

 

両者共会話を止めて勝負の行く末を見守る。レミリアと霊夢の弾幕がぶつかろうとした時、それは起こった。

 

 

 

 

 

…ドゴォォォォォン!!

 

五人「……!!」

 

紅魔館全体を衝撃が襲い、鼓膜が破れるのではないかと思える程の轟音に五人は一斉に動きを止めた。

 

その轟音が壁が破壊された音だという事を認識するまで時間は掛からなかった。見ると大広間の壁の一部にポッカリと大きな穴が出来あがっている。

 

その穴の中から二つの人影が現れ、大広間に飛び出してきた。その内の一つは和がよく知る者の姿…北郷一刀の姿であった。

 

和「一刀様!?」

 

和は慌てて一刀の元に向かおうとするが…

 

一刀「離れろ!!」

 

和「…!!」

 

その足は一刀の大声によって止められた。

 

一刀が対峙する相手…もう一つの人影はレミリアと咲夜がよく知る、そして和の頭の片隅にあった不安材料…狂気に満ちた気配の正体でもあった。

 

レミリア「フラン!!」

 

咲夜「妹様!?」

 

一方の霊夢は予想外であった突然の来客に呆然と立ち尽くし、文は思わぬところからスクープが転がり込んできたと思いカメラを構えた。だが、そんな文に一刀は怒号を飛ばす。

 

一刀「お前そんな事やってる場合か!さっさと間合いから離れろ!!じゃねぇと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テメェ等全員ぶっ殺されるぞ!!」

 

和「…!!」

 

一刀の言葉を受け、従者の和が真っ先に動いた。霊夢や文を始め、敵である筈のレミリアや咲夜をも引き連れ大広間を後にする。

 

文「和さん!北郷さんは良いんですか!?」

 

和「……」

 

霊夢「もしカズ兄さんの身に何かあったら…」

 

和「…文さん、霊夢さん、何も心配する事は無いです」

 

文・霊夢「「えっ?」」

 

和はハッキリと断言をした。何故そうだと言い切る事が出来るのか、文はその根拠を問い質そうとした。

 

だが、それより先に和が言葉を続ける。

 

和「私達があの場所に残っても逆に一刀様の足を引っ張るだけです。多対一が有利だとは必ずしも全てに当て嵌まりませんよ」

 

文「でも…もしそれで北郷さんが倒されたらーー」

 

和「…文さん、一刀様は侍なんですよ。【楽園最後】の」

 

文「…!!」

 

幻想郷が出来て間もない頃、日本には侍と呼ばれる者達が存在した。当時は天皇よりも武士が実権を握っていた時代で、各々が天下統一を夢見て自分の力を振るっていた。

 

しかし時代や環境の変化に伴い侍という存在は徐々にその数を減らしていき、いつしか侍は日本から姿を消した。

 

だが例え髷を着けていなくても、例え鎧兜を装備していなくても、侍はこの幻想郷に一人だけ存在する。その最後の侍こそ北郷一刀なのである。

 

侍という言葉は人間にのみ与えられた強者の称号、姿形は関係ない。大事なのは自分なりの侍としての考え方を持っているかという事。

 

一刀流の侍というのは、『斬らずして勝つ』というもの。勿論斬らなければならない場合が殆どだが、それは数ある選択肢の一つに過ぎない。一刀は斬らずに済む選択も必ずある筈だと考え、自身が思い描く理想の侍の形をもう長い事追い求めている。本編では触れられていないが一刀は誰も見ていない所で鍛練を毎日欠かさず続けているのだ。

 

そんな主の姿を唯一間近で見てきた和は一刀が本物の侍である事を知っている。

 

だから一刀が負ける事など考えてはいない。

 

何故なら一刀が一度侍としての顔を見せた時、絶対負けない事を和は知っているから。

 

だから和は一刀を信じる。北郷一刀が侍であり続ける限り、北郷一刀に負けは無いと…

 

 

 

 

 

 ◇

 

北郷一刀は基本的に面倒事には関わりたくない性分の持ち主である。紫直々の依頼でなかったら一刀は今頃異変の事など忘れて自宅でゴロゴロして過ごしているだろう。

 

しかも紫の話では今回の依頼は霊夢の勝利をアシストする事が目的であった。それがここにきて闘わなければならないという状況に陥った現在の一刀の心境はというと…

 

一刀「(聞いてねぇよこんな事!!)」

 

一刀のイライラは爆発寸前であった。一刀はこの時後で紫にはたんまりと報酬を貰おうと心に決めた。

 

誘惑に負けて階段を降りた一刀はその先に固く閉ざされた扉を見つけた。扉をノックもせず抉じ開け中に入ると、そこに居たのは宝石の様な羽根を背中に着けた年端もいかない少女だった。

 

フランドール・スカーレット(以下フラン)と名乗った少女は一刀が部屋に入るなり、遊ぼうよと誘われたので一刀は深く考えずに了承したのだ。

 

…ここまでは良かったのだが、一刀が了承した直後にフランは弾幕をぶっ放ち訳も分からぬまま戦闘開始になって現在に至る。

 

一刀「もしもーし!フランドールとやら!!」

 

フラン「なにー、どうしたのー?」

 

ドゴォォォォォン!!

 

一刀「遊びにしちゃ随分と物騒じゃありませんか!?」

 

フラン「そんな事無いよー♪」シュッ

 

チュドォォォォォォン!!

 

フラン「アハハー♪楽しいねぇ♪」

 

一刀「本当に楽しそうで良かったなコンチクショー!!」

 

こちとら楽しいどころか命すら危ういんだけど!?…と一刀が口に出す前に矢継ぎ早に弾幕が飛んでくるので文句を言う暇も無い。

 

一刀「(紫の奴、帰ったらぜってー説教だ。後報酬も巻き上げてやる)」

 

紫「何でよ!!」

 

心の中で紫に対する恨み言を連発する。どこからか紫の抗議の声が聞こえた気がしたが、きっと幻聴だろうと一刀は思い込む。

 

紫「幻聴じゃないわよ!!」

 

…取り敢えず無視するとして、

 

一刀は防御に徹する。フランの外見が幼いので一刀が攻撃するのに躊躇している…なんて単純な理由などではない。

 

フランが弾幕を放つ直前の一瞬、ほんの一瞬ではあるがフランの表情に迷いが見える。その時折垣間見える迷いが一刀に攻撃をさせていない一番の理由なのだ。

 

四方から押し寄せてくる弾幕の量とはまるで矛盾している。何の理由があって彼女にそうさせているのか、その事が一刀の攻撃を妨げ、また同時にストレスにもなっている。

 

余談だが、一刀は闘うと決めた以上は例え子供や老人が相手でも基本的には手加減をしない。

 

大人気ないと言われてしまえばそれまでだが、手加減して勝てる程勝負の世界は甘くはない。手加減は慢心と油断を生む事だってある。侍にとって慢心は最大の敵だと一刀は思う。

 

一刀「…なぁフランよ」

 

フラン「何?」

 

一刀「お前さんは俺をどうしたいんだ?」

 

フラン「貴方を壊したいの♪」

 

一刀「…oh」orz

 

聞く者が聞いたら背筋の凍る事を平然と言ってのけるフランに一刀は恐怖を通り越してポカンとなる。

 

フランの放つ弾幕を避けていた時に薄々感付いていたが、今のフランの発言を聞いて一刀は確信した。

 

恐らくフランは破壊を司る能力を所持していると。そしてその能力をフラン自身が使いこなせていない事も…

 

一刀の頭の中で一つのシナリオが組み立てられてゆく。斬ってしまえば事足りるが相手を斬らずとも勝てる闘いがあらば一刀はそっちを優先して選ぶ。斬って己の強さを示す事だけが侍の在り方ではないのだ。

 

一刀「そうかいそうかい、んじゃ本気で俺を壊してみろ。そしたら闘い終えた時、お前の中の何かが変わる筈だ」

 

一刀にとってもはやこれは闘いではなくなっていた。半端者が強大な能力を持てばどうなるか、能力を持つという事はどういう意味か、それをフランに教えようと一刀は決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レミリアの宣言通り、この闘いはフランの…ひいては紅魔館そのものの運命を変える事になる。

 

 




和「紅魔郷編進むの随分早くないですか?」

一刀「あんま長引かせたくないんだと。多分次で終わるんじゃねえかな~」

和「…章を作る意味あったんでしょうか」

一刀「良いんじゃね、やりたい様にやらせとけば」

和「次は早く投稿出来ると良いですね」

一刀「……何それフラグ?」

和「違いますって!!」
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