拙作『暁光』の続編的位置づけ。
ついでにちゃんヒナも微妙に救済って感じで。
姉の言葉に勇気付けられたアヤトは、数日の愚痴愚痴とした試行錯誤の後、元アオギリでの同僚に不器用な想いをぶつけた。
しかし、応えは彼にとっては非常に無情なモノであった。
「ありがとう……アヤトくん……アヤトくんはとてもいいヒトだと思うの。でも、でも……ごめんなさい……わたし……わたしを見て欲しいヒトはあなたじゃない……」
両手をひざの上で握り締め、ヒナミは目を伏せるように俯いた。そんなとき部屋の扉が勢いよく開かれた。
「話は聞かせてもらった!」
勢いよく開かれた扉の外にはコクリア脱出時の大きなダメージから回復したらしい妙にテンションの高い縁なし眼鏡をかけた高槻泉ことエトが仁王立ちしていた。
「ちゃんヒナ~。初ね、初ね~」
エトの声にはシニカルな響きが若干込められているように聞こえるが表情には悪意が全く見えない。
「カネキングは、この組織に『黒山羊~ゴート~』と名づけてくれたんだよね。これは素晴らしい布石になる」
彼女は眼鏡の縁を人差し指で軽く上げた。
「何を……何を言いたいのですか?」
突然の闖入者への応えと相手を真っ直ぐに見つめる目には警戒心が満ち溢れる。
ある意味自分の存在をスルーされた形になったアヤトも顎をあげた。
「何しにきやがった。怪我人は大人しくしていやがれ」
「くく……アヤト、だから君はそんなだから、ちゃんヒナの中の順位が上がらないんだよ」明らかに自分より背の低いエトからの無慈悲な上から目線の言葉にアヤトは片膝をつき蹲る。
「トーカちゃと、カネキングが何か最近、特に良い感じなんだってね。ふふふふふ…喰種のお互いに深い傷を付け合うってぇのは別にトーカちゃの専売特許じゃないんだよねぇ」
どこか自慢気にエトが胸をそらした。
「ちょっと前に月山御殿のルナ・エクリプスでカネキング、私の下半身食べているんだよ(物理)。それに私もあそこ脱出したときに元気が足りなかったからビルの下に落ちていた彼の右手美味しくいただいちゃった」
「…………いいな~……」
ヒナミはほとんど聞こえないほどの小声で呟いた。「うん? 良いでしょ!ははっ愉快愉快!!」
そんな小さな漏れ出してしまったヒナミの想いにも、しっかりとアンテナに引っ掛けてエトは超ご機嫌な満面の笑みを浮かべてから、突然の真顔になり口を開いた。
「で、ここからが本題。ちゃんヒナ、むか~し、あの喫茶店で話したこと覚えている? そう、あのときの話、私はよく覚えているよ。仕事柄、物覚えとか良い方でね。あの日の想い、まだ変わっていないんだよね。私もカネキングのこと好きになっちゃったから参戦しようかなと思っているんだ」
言葉を少し切り、ヒナミの目を覗き込むように見つめた。
「知っている? ヤギってねぇ一夫多妻なんだよ。そう一人の夫に奥さん複数。で、ここは『黒山羊(ゴート)』で彼は王様。言いたいことは分かるよね」
唇の両端を吊り上げながら悪巧みを打ち明けるかのように、悪戯っぽく囁くように、エトから告げられた内容は、ヒナミの今までの自分の固定観念に全く違う価値観~一夫多妻~という名前の黒船が乗り上げてきた。
驚愕の表情の聞き手にエトは笑みを更に深めながら言葉を重ねた。
「前にも言ったよね。王様なら后が必要だって。でも、別に后は一人とは限らないんじゃないかなっていうこと。ちゃんヒナにも私にも、彼の隣に立つ資格はあると思えるし、彼は責任を持つべきだと思うんだよね」
何か明日の号の話で『Re』がラストになるような噂を目にしたので、とりあえずは投稿(^^;)
ギャグっぽい感じになってしまいましたが、こういうのもアリかな、と。