灰色騎士と黒兎 作:こげ茶
―――――セントアークでの特務活動を終え、“謎の魔獣”こと人形兵器の調査のため次の目的地は紡績町パルムに。しかし列車の脱線事故のため、徒歩で向かおうかということになったのだが――――。
リィン教官のお知り合いらしいセレスタンさんに案内されると、そこには二頭の馬が用意されていた。
「わあ、これって…!」
「なるほど、馬ですか」
「ええ、侯爵家で世話をしているノルドの馬になります。先程の事故の一報を受け、侯爵様から是非使って頂くようにと」
「お気遣い、感謝します。……一頭は俺が乗るとして。もう一頭はクルト、頼めるか」
「ええ、任せて下さい」
そして馬は二頭だけ。必然的に二人乗りをすることになるわけで。
「えっ、クルト君と一緒に? えっと、それはちょっぴり抵抗があるっていうか……」
「? まあ僕はどちらでもいいんだけど」
「では、ユウナさんは教官と一緒になりますね」
正直、わたしも馬くらいどちらでも変わらないのでは、と思いつつ言うと、ユウナさんは途端に慌てて首を振りました。
「や、やっぱりクルト君で! ハイハイ、アルティナもさっさと乗った乗った!」
「? はあ」
と、リィン教官の方に追いやられたのですが。
――――どうやって乗ればいいんでしょうか。
近づくとわたしよりも全然大きな馬の身体。
クラウ=ソラスでも出さないと乗れなさそうである。
「……リィン教官、これはどうすれば?」
「ああ、悪いがちょっと持ち上げるぞ」
スッ、と脇の下に手を入れられてそのまま小さな子どもが「たかいたかーい」とされるように持ち上げられる、前に身体を引いて抜け出す。
「………リィン教官、それは不埒なのでは?」
「え゛っ。……じゃあ、こっちの方がいいか?」
……今度は、パンタグリュエルで皇女殿下がされていたような「お姫様だっこ」と俗称される方法。少なくとも、「たかいたかーい」よりはマシですね。
馬の高さまで持ち上げられ、跨るとちょうどクラウ=ソラスで軽く浮いているときのような高さで。これならまあ、と思っているとリィン教官がそのまま軽やかに跳んで私の後ろにぴったりとくっつくように座った。
「……!?」
「よし、どうどう」
「ちょっ、クルト君!? これ私が後ろの方が――――」
「いや、そうすると後ろはとんでもなく揺れるし手綱を握る関係上あぶみもこちらに無いと困るしで大変なんだが」
「……なるほど、こういった乗り物ですか」
完全に抱きかかえられるような形になり、しかしそういう乗り物なので不埒ではない。
リィン教官が手綱を引いて馬が歩き出すと、思わずリィン教官に寄り掛かるように体重を掛けてしまう。
「ははは、慣れるまで遠慮せずそうしていていいぞ」
「……了解です」
歩くだけで馬は揺れる。走り出したらもっと揺れる。
クラウ=ソラスの方がよっぽど乗り心地は良く、速度も速いのに――――どうしてか、そんなに悪くない気がした。
「いやっほーっ! ほらクルト君、もっと飛ばして飛ばしてーっ!!」
「はしゃぎすぎだ……頼むから手を離さないでくれよ」
クルトさんの馬は一足先に駆け出し。
わたしももっと速度をあげてもいいと思ったので真似してみることにした。
「いやっほーう」
「いや、無理してテンション上げなくていいからな?」
「……別に、無理はしていませんが。その、不安定なのでもう少し近づいても構いませんか?」
「あ、ああ。別にいいぞ」
ぴったりとリィン教官にくっつくと、揺れはあるものの特に不安は感じない。
むしろ、どこか安心するような…?
「……とはいえ、しっかり掴まれるものが欲しいですね」
「そうだな、鞍を掴むか手綱を握るか……」
とりあえず鞍を掴んでみると、リィン教官に抱きかかえられていることもあって問題はなさそうで。
「では、リィン教官。お願いします」
「―――わかった。しっかり掴まっていてくれ」
そうして、報告のために一旦演習地まで戻り――――<灰色の騎士>が馬で帰還ということで少しだけ騒ぎになったのは完全に余談である。
……………
………
…
報告も終わり、頼まれていた<ムカゴ>と<ハチノコ>を集め終わっていたこともあって、わたしたちは――――例の料理をご馳走されることになった。
「へぇ、こうやって見てるとずいぶん鮮やかな手つきっていうか」
「あれで食材がまともだったら……」
「ああ、全くだな」
正直、別に虫が嫌いなわけではありませんが進んで食べたいとは思いません。
しかもそうこうしている間に完成してますし、きっちり全員分並べられていますし。
「さあ、アツアツをどうぞお召し上がりください! 『ハチノコとムカゴをふんだんに使ったサバイバルチャウダー』です」
「あ、ああ……」
(うーん、ハチノコは何をしてもハチノコね……)
(……これを食すにはかなり勇気が要りそうだな)
(ふむ………見た目もそうだが、香りも独特でなかなかきついな)
ユウナさん、クルトさん、リィン教官も食べ始めないのでどうしたものかと様子を見ていると、不意にリィン教官が料理を口に運び。
(い、行った―――?)
(……行きましたね)
流石はリィン教官。責任感が強いというかお人好しというか。
思わず尊敬の眼差しを送ってしまうと、思いの外大丈夫そうな姿が。
「多少クセはあるが意外と悪くないというか……苦味の奥に感じられる旨味がむしろなんとも言えない絶妙さだな」
(……ふむ、試してみる価値はありそうですね)
うにょっとした見た目には目を瞑り、一口。
(………うっ)
苦い。リィン教官も言っていた通り旨味もあるものの、思わず口の端が引き攣る気がする。……とはいえ、食べられないほどではなく。なんとか口に運んでいくと、不意にリィン教官に声を掛けられた。
「いや、食べきれないなら無理しなくていいからな。ちょうど馬に揺られた後だったし、無理はよくない」
「ふむ、無理はいけませんね」
「―――と、いうわけで残りは俺が頂こう」
「り、リィン教官…?」
ひょい、と皿を取り上げられ、そのままハチノコがうねるチャウダーを平然と口に運んでいく。………リィン教官、タフですね。
そうしてデアフリンガー号を出て再びリィン教官に馬に乗せられると、そのまま何か包みを手渡され。
「……? リィン教官、これは?」
「サンディから、おにぎりの差し入れだ。あとさっきセントアークでチョコレートを買ったんだが、食べていいぞ」
「……………あ、ありがとうございます」
「まぁ、人を選ぶ料理なのは分かってたしな。気にしなくていいさ」
とはいえ、なかなか良いチョコレートなのか口の中に甘さが広がって良い気分になる。何かしらの返礼をしないと、と考え。お菓子にはお菓子を返そうと思った。ちょうど<春風シフォンケーキ>のレシピが料理ノートにも載っていましたし。
「……では、今度リィン教官のためにお菓子を用意させて頂きます」
「へっ?」
「………まあ、リィン教官は良いものを食べ慣れていそうですが。クレア少佐の手料理も食べたことがあるのでは?」
「――――クレア教官の手料理!?」
そこそこ距離があるにも関わらず、勢い良く食いつくユウナさんにリィン教官も若干引き気味ながら頷いた。
「あ、ああ……まあ」
「いいなー、羨ましいなぁ………なんで教官ばっかり」
「……ちなみに、お味のほどは?」
参考程度に聞いておこう、と思ったところ。
てっきり不埒な顔でもするのかと思ったリィン教官は、ユウナさんに気づかれないように小さな声で言いました。
「………その、“計量通り”に作ってくれたらしいんだが……何故かカチカチのおむすびが出てきた」
「……………なるほど。計量だけでは上手く行かないわけですね。参考にします」
「って、いや。そうじゃなくて。………まさか、作ってくれるのか?」
「……はあ、まあ。そのほうがコスト面でも安価で、不埒な男性は特に手作りというだけで喜ぶと聞いたことがあります」
決して、クレア少佐の手料理の話を聞いたからではなく。
「不埒な男性って…………いや、喜ばせようとしてくれてるってことか?」
「……まあ、お礼ですし。それに、何やら子ども扱いされているようで不服ですし」
当然では? と思ったのですが、何故か若干挙動不審なリィン教官は視線を明後日の方に向けたりなどして。疑問には思ったものの、結局その後はその話をすることもなく。列車の脱線事故現場を見た後はパルムまでまっすぐに向かうのでした。
馬に二人で乗る時って、後ろにお客(手綱を持たない人)を乗せるととんでもなく揺れるとかネットで見てしまったので勝手に前に乗せました。揺れ過ぎて必死にしがみ付くアルティナも見たかったですがそれはそれ。
というか初回は別にアルティナはリィン教官と一緒に乗ろうとしているわけでもなかったあたりに再度プレイして驚きました。……いつの間にか定位置扱いしているのに。これは完全に気に入っているというか不埒ですね。
馬に関しておかしなことがあったら教えて下さい!
とりあえずデカいってことしか知らないので…。