灰色騎士と黒兎   作:こげ茶

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3話:黒兎と寒冷耐性

 

 

 

 

「―――――成程、わたしは試したことはありませんでしたが思いの外気づかれないものですね」

 

 

 呟くアルティナの眼前のモニターには、一面の雲海。

 厚い雲の中を突っ切る飛行は、内戦の<カレイジャス>でも幾度か見たことがあった。――――とはいえ、ヴァリマールが正確な方角を確認できないのであればリィンも雲の上を飛んだのだろうが。

 

 

「霊力の消耗が激しいらしいから普段はやらないんだが……大丈夫か、ヴァリマール」

『うむ、問題は無い。とはいえ首都に近づけば飛空艇に遭遇する危険も高まるだろう』

 

 

 

 霊力を感知できる<結社>の執行者か何かがノーザンブリアの首都ハリアスクに来ている可能性も考慮すれば、あまり近づくことはリスクが大きいだろう。

 

 

 

「そうだな、ある程度近づいたら低空飛行で森か何かに紛れよう」

「………場合によっては、クラウ=ソラスでわたしとリィンさんが先行、転移で警戒網を潜り抜けることも可能では?」

 

 

「そうか、ステルスモード……って、俺も乗るのか!?」

「はい、重量から考えれば可能です。バランスに関してもクラウ=ソラスならば問題はありません」

『精霊の道であればリィンに呼ばれずとも転移は可能だが―――どうやらこの付近の“場”が乱れているようだ』

 

 

 

 

 

 つまり、万全を期すのならやるべきということだ。

 ノーザンブリア併合を阻止し、被害を最小限に食い止めるために――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――クラウ=ソラス」

 

 

 雲海から半身を覗かせたヴァリマールから外に出たリィンがまず感じたのは寒さだった。アイゼンガルド連峰に来たかのような冷たく刺すような空気―――――そして、眼下にはどこまでも続く大地。厚い上着を着ていても感じる冷気に震えつつ、膝の上にアルティナを乗せたままクラウ=ソラスに抱えられるようにして落下が止まる。

 

 

 

「……っ、大丈夫かアルティナ」

「―――――行動に支障はありません」

 

 

 流石に雲の高さということもあってか、特に文句もなく抱えられているアルティナだが、どう考えても寒いだろうと思ったリィンは、上着のコートで包むようにしてアルティナを抱き寄せ。

 

 

 

「………このスーツには十分な耐寒性能も付与されていますが」

「いや、風邪を引いてからじゃ遅いだろう。いいから大人しくしていてくれ」

 

 

「……………………」

(……え、えーと?)

 

 

 

 物凄いジト目で睨まれたものの、リィンとしてはいかにも寒そうなのを放置することはできない。ということでとりあえず何か話題を逸らそうとした。

 

 

「そ、そうだ。任務が終わったらちゃんと風呂に入った方がいいな」

「………??? シャワーでしたら毎日必ず浴びていますが。何か洗浄が必要になる行為を想定しているのですか」

 

 

 

 なんとも微妙な言い回しのアルティナに、しかしそれなりに慣れた、温泉郷出身のリィンは特に呆れるでも突っ込むでもなく、ただ純粋に驚いた。

 

 

 

「風呂に入らないのか?」

「はぁ。シャワーで洗浄としては十分かと。そもそも浴槽がある場所は限られるのでは?」

 

 

「いや、風呂に入るのは――――そうだな、汚れを落とすだけじゃないというか」

「………? 理解しかねますが、つまりは入浴を推奨するということでしょうか?」

 

 

「ああ、そうなる。………どこかに温泉宿でもあるといいんだが」

「温泉宿ですか。ちなみに、そこに不埒な意図は?」

 

 

「ありません」

「……そんな気はしました」

 

 

 

 どこか珍しい言いように驚く暇もあればこそ。無事にハリアスク付近の森が眼下に迫ってきたところでアルティナはジト目のまま言った。

 

 

 

「――――リィンさんの言動が意図せずとも不埒なのは理解しました。今後は確認の手順を省こうかと」

「………いや、待ってくれ。それって俺が不埒だって断定されていないか?」

 

 

 

 てっきり不埒じゃないことを理解してくれたのかと思いきや、リィンが息を吸うように不埒な犯罪者であるかのような扱いになってしまったような気がする。

 

 

 

「そう言いましたが。あくまでも認めないようですので、諦めました」

「いや、違うからな!? アルティナが寒そうに見えるから放っておけなかっただけで――――」

 

 

「いえ、そこではなく。ミリアムさんからお聞きしましたがリィンさんは混浴を好み、義妹と皇女殿下との混浴で元気になったのだと――――」

「だから、誤解を生むような言い方はやめてくれ!」

 

 

「事実だそうですが」

「事実だけれども!」

 

 

 

 心底冷ややかな目のアルティナに対して肩で息をするリィンに、不意にヴァリマールからの念話が伝わってくる。

 

 

 

『ふむ、リィンよ。そちらの場所は掴んだ――――いつでも呼ぶがいい』

「あ、ああ。ありがとうな、ヴァリマール」

 

「………お風呂、ですか」

 

 

 

 

 ヴァリマールを呼ぶ準備に入ったリィンに対して、アルティナはなんやかんやと普段は押しに弱いリィンさんのこと、皇女殿下と義妹に挟まれて不埒なアクシデントにでも見舞われていた、というか見舞ったのだろうと考え。

 

 何やら胸がもやもやしていることに気づいた。

 

 

 

(………そうですね、リィンさんのことですし)

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「ふふっ、お邪魔しますねリィンさん♪」

「アルフィン殿下!? ど、どうして――――」

 

「兄様、お背中をお流しいたします」

「エリゼまで!?」

 

 

「どうですか、兄様。痒いところはありませんか?」

「あ、ああ。それは大丈夫なんだが……」

 

 

「まぁ。リィンお兄様ったら。エリゼばかり気にされていると妬けてしまいますわ」

「い、いえ。あのですね。自分が殿下の方を見るわけにも――――」

 

 

「大丈夫ですよ。今のわたくしはリィンお兄様のお背中を流す、お風呂での妹、お風呂のパートナーとでも思って頂ければ♪」

「姫様っ! 兄様のお世話は私が――――」

 

 

「あっ、そうです。リィンお兄様もわたくしの背中を流して下さいますよね♪」

「ず、ずるいですよ姫様!」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

(……………パートナーなら、背中くらいは流せたほうがいいのでしょうか)

 

 

 なるほど確かに、自分でも背中を流すのは多少面倒なことがある。

 届きにくいところを互いに流し合うのはなるほど合理的だろう。

 

 

 

(お風呂………リィンさんと一緒にお風呂?)

 

 

 

 なんだか妙に不埒な感じがするような、温かい気持ちになるような。

 とはいえパートナーなら戦闘外でもサポートができて然るべきのような気はしてきた。というかそもそもの問題として、戦闘外で色々とリィンさんに気を使わせているというか、妙に気を回されている気がするのだ。

 

 

 

(―――――…サポートは、わたしの任務なのに)

 

 

 

 サポート役が助けられているのでは、“意味がない”。

 意味がないものは必要がない。必要がないのなら、やる必要もない。

 

 

 

(……でも、監視の任務は)

 

 

 “Ⅶ組”であるミリアムさんにはリィンさんの監視はできない。他に適任はいないはず。

 なら、「他に適任が出てきた」のなら? その時、わたしは――――。

 

 戦うのはリィンさんの方が強い。鬼の力を使われれば、クラウ=ソラスでは敵わない。ヴァリマールを呼ばれれば、有効打を与えることさえ難しい。

 つまり役に立てるのはクラウ=ソラスのステルスモード、後は頑丈の物の破壊や解析、アーツ、後はどれくらい動きに合わせられるか。

 

 

 

 

(―――――わたしは、リィンさんのために何ができているんだろう。何ができるんだろう)

 

 

 

 

 

 もしも監視の必要が無くなったのなら―――リィンさんはしっかりと任務をこなしている――――そうしたら、わたしよりも連携を取れるミリアムさんの方が?

 

 

 

 

 胸が、痛む。

 もやもやするのとはまた別の感覚。

 スペックは同等。でも活動期間は向こうが上で、“経験値”が多い。その条件ならどちらが適しているのか考えるまでもない。

 

 そうなった時、監視の必要がなくなった時―――わたしには別の任務が来る?

 

 

 

 

 

『―――――ありがとな、アルティナ』

 

 

 どうしてか、頭を撫でられた時のことを思い出した。

 別の任務がきたら、その任務を遂行すればいいだけのことなのに。それなのに。

 

 わたし、は――――。

 

 

 

 

「―――――アルティナ?」

「………リィン、さん?」

 

 

「どうしたんだ、顔色が――――」

「………身体機能に問題はありませんが。気の所為ではないでしょうか」

 

 

 

 

 気がつくと、眼前に心配そうな顔をしたリィンさんがいた。

 これ以上無駄な負担をかけるわけにはいかないと意識を戻せば、やや不承不承ながらもリィンさんも頷き、木陰に隠したヴァリマールを一瞥して言った。

 

 

 

「――――できれば、騒ぎを起こさずに解決したい。これよりノーザンブリアの首都、ハリアスクへの潜入と<結社>と繋がる議員の逮捕を開始する。街の内部がどうなっているか分からない。慎重に、だが迅速に行くぞ――――!」

 

「了解。状況、開始します」

 

 

 

 

 

 

 そうして、戦いが始まる。

 北方戦役―――その陰で起こった、目の前のものしか守れなかった<虚構の英雄>と。それを支えたいと願い始めていた、一人の少女の。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





いつもの光景(道中)



戦闘前



アルティナ「ビームザンバーは振り回すとリィンさんの邪魔になりますね。回復技……リィンさんにCPを渡せれば。後は崩しを……リィンさんの業炎撃やミリアムさんのプレス攻撃のようにクラウ=ソラスで上から叩きつけるのは……」

リィン  「アルティナに無理させないようにフォローしないとな」



戦闘中

リィン「コォォォ、神気、合一! 秘技、裏疾風! おおおおオオオオォォッ! 斬っ!」


オーバーキル
オーバーキル
オーバーキル
トリプルブレイク

オーバーキル
オーバーキル
オーバーキル
アラウンドキル


アルティナ「………SPDが」



戦闘後


リィン  「見たか―――八葉が一刀」
アルティナ「………」



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