SCHOOL IDOL IS DEAD   作:joyful42

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3万円でツーショットを撮れる政治家が話題になった瞬間、アイドルオタク達が口々にレートが高いという話をし始めました。
グループの規模にもよりますが、今だいたい、アイドルイベントで推しとツーショットチェキを撮ろうとすると、1000~2000円くらいが相場なんですね。
2000円だとしても、3万円あれば15回撮れてしまうよっていう話で、アイドルでもない小池なんとかさんに3万円も払ってツーショットを撮るのは、目的は別の所にあるとは言え、高いなとは思います。

ところで、スクールアイドルの世界には、握手会だったりチェキ会だったりみたいな特典会は存在するんですかね。

リアルのアイドルの話ですが、CD1枚買ったら特典券1枚っていうのをよく聞きますけど、CD1枚売ってもグループに入ってくるお金ってそこまで多く無いんですよね。
だから結構なアイドルが、CD以外にチェキ券1枚1000円とかで売ってたりします。
そうすると、チェキフィルム1枚の原価が70円とかそんなもんなんで、人件費含めても500円以上は利益が出るんですね。
だから、この商法のおかげでアイドルが自由に活動しやすくなったっていう側面があるわけです。

さて、μ’sもAqoursもそうですけど、衣装とかMVとかのあの莫大な予算(がかかっているように見える)はどこから捻出してるんですかね?謎は深まるばかりです。








第2話 悲しみの白

 そこは、小さな旅館だった。この辺りには観光客向けの小さな民宿が立ち並んでいるが、その中でもやや高級感と格式の感じる木造の建物。敷地内に入り、裏口への通路に足を踏み入れると、敷石がジャリジャリと音を立てた。いつもはその音を聞きつけて、中から出てきた女将が元気よく挨拶をしてくれたが、この日は中から誰も出てくる様子はない。曜と梨子は、神妙な面持ちで、裏口の玄関の前に立った。ゆっくりと深呼吸をし、インターホンを鳴らす。扉の奥から、ピンポンという音が聞こえた。次いで、誰かがこちらへ近づいてくるのが、磨りガラス越しに映し出される。カチャリと鍵の外される音がして、ゆっくりと扉が開いた。中から出て来たのはいつもの女将だったが、いつもの着物姿ではなく、またその表情は憔悴しきっているように見えた。女将は曜の顔を見て、ほんの小さく微笑む。

 

「曜ちゃん……」

 

 曜と梨子が会釈をした。

 

「この度は……」

 

「入って。」

 

 曜の言葉を遮って、女将が二人を中へと誘った。失礼しますと言って二人が中に入った後、玄関の扉は再び閉ざされた。

 

 

 

 二階に上がると、独特の匂いがした。決して嫌な匂いでは無かったが、とても切ない匂いだった。廊下を進んで一番奥の部屋の前に辿り着く。ゆっくりと襖を開けると、匂いがふわっと部屋から溢れて来る。その向こうに見える、白い煙を放つ香炉。曜と梨子が部屋へと入る。香炉の隣には蝋燭。そしてその奥には白い大きな長方形の箱が横たわっていたが、二人はその白い箱を直視する事が出来なかった。香炉から少し距離を置いて、正座で座る。

 

 しばらくの間、ピンと張り詰めた空気が部屋を包んだ。やがて、静まり返る部屋に、必死に押し殺した嗚咽が響き始める。曜は、部屋の入り口に座る女将の事を絶対に見ないようにした。見てしまったら、自分は壊れてしまう。必死に押さえ込んでいる自分の感情が、津波のように溢れ出してしまう。女将から目を逸らし、白い箱からも目を逸らし、窓の方を見る。曜にとっては何度も来たことのある部屋だったが、こうしてじっくりと見るのは初めてであった。窓の横に本棚が置いてある。中に並んでいるのは殆どが漫画で、本は右上の方に数冊が並んでいるだけ。しかもその数冊は去年の夏休みに、国語の課題として感想文の提出が義務付けられた物であった。本棚の隣には机。何冊かのノートが出しっ放しになったままであり、同時に何冊かの雑誌も開きっ放しになっている。雑誌はどれも煌びやかな衣装の少女が踊る写真で溢れていた。とてもあの子らしいなと思った。

 

「机の周りは何も動かしてないの。なんだか、片付けたら全てが終わってしまうような気がして……」

 

 奮えた声で、女将が言う。出しっ放しのノートの表紙が目に入った。スクールアイドルノートと書かれた青いノートと、歌詞ノートと書かれた赤いノート。ああ、本当に本気だったんだなぁと思った。自分たちの知らない所で、彼女は彼女なりに動き始めていたのだ。

 

「お焼香、してあげてね。」

 

 そう言って、女将が曜と梨子を見る。頷いて、二人で並んで蝋燭と香炉の前に座った。先に梨子が前へ進み、三本の指で抹香をつまむ。香炉に落とすと、白い煙がまたふっと上がり、あの匂いが大きくなった。手を合わせ、後ろに下がる。次は曜だった。同じように香炉に落とすと、白い煙は更に勢いを増した。

 

「顔も、見てあげてね。」

 

「でも……」

 

「見てあげてね……」

 

 二人で立ち上がり、香炉の奥の白い箱の横へと向かった。箱は、左端の三十センチ四方だけが開くようになっている。二人で、顔を見合わせた。どちらともなく、うんと頷く。陽が、観音開きの両扉に手をかけた。ゆっくりと開く。箱の中は、白い布と沢山の花で埋め尽くされていた。その中に横たわって眠る、一人の少女。少女の顔は、その半分以上が、何か別の布で隠されていた。だがそれでも、曜と梨子は見間違う事は無かった。そこに横たわっていたのは間違いなく、親友、高海千歌の遺体であった。

 

 

 

 それから長い時間が経った。正確な時間はわからなかったが、三十分以上は、曜も梨子も、それを眺める女将も、そこから動こうとはしなかった。やがて梨子が、曜の肩に手を触れ、話しかける。

 

「曜ちゃん、そろそろ私達はお暇しましょう。ご家族の皆さんも居るんだから……」

 

 曜からの反応はない。ただじっと、動く事も話す事も、涙を流す事さえせずに、棺とその奥に置かれている千歌の写真を見つめていた。

 

「明日も、いらっしゃい。お葬式はまだ三日後だから……」

 

 女将、つまり千歌の母が、そう曜に声をかけた。何とも目を合わせる事もなく、曜が静かに頷いた。

 

 階段を降りると、玄関まで続く短い廊下がある。途中、左手に目を向けると、開いた襖の間から、居間に居る千歌の姉が見えた。顔見知りの曜が会釈をすると、姉が、あっと声を上げて、近づいてきた。

 

「曜ちゃん……来てくれたんだ……」

 

 曜がこくりと頷くと、姉はありがとうねと言って少し笑った。彼女の顔も、母親と同じように憔悴しきっていた。

 

 姉が梨子の方を見た。梨子は当然初対面だったが、曜と同じく会釈をする。

 

「もしかして、あなたが梨子ちゃん?」

 

「え?」

 

 梨子は驚いた。千歌の姉が、自分の事を知っていた。

 

「千歌が言ってたんだ。クラスに転校生が来たんだって。」

 

 という事は、あの日の話だ。悲劇の前日、梨子が転入してきた初日。

 

「すっごく優しそうな良い子だって、今日は全然話せなかったけど、絶対仲良くなるんだって。良かった、仲良くなってたんだね。」

 

 千歌の姉が笑った。その笑顔に、涙が一粒流れる。梨子の脳裏に、鮮明に映像が映し出されて行った。夕焼けの綺麗な午後だった。元気いっぱいの笑顔で話している千歌。

 

「えー?だって梨子ちゃんかわいいよ、絶対似合ってるよ、スクールアイドル!」

 

「音ノ木坂に通ってたって事は、きっととんでもないスクールアイドルの素質を隠し持ってるんだよ!」

 

「今度お泊り会しようよ!梨子ちゃんの家で合宿!」

 

「浦の星女学院スクールアイドル、頑張っていこう!目標は、ラブライブ!優勝!」

 

 次々と脳裏に蘇る千歌の言葉。やがて映像の中の千歌が、夕焼けに向かって駆け出していく。

 

「また明日ね!バイバイ!」

 

 次の日、千歌が学校にやってくる事は無かった。

 

 梨子の頬に涙が伝う。次々に、ポロポロと、溢れ出す涙が止まらない。梨子はつい最近この街に引っ越してきた身だ。千歌と共に過ごしたのは、わずかに二日。なのにも関わらず、何故こんなにも涙が溢れだしてくるのか、梨子にはまったくわからなかったし、考える余裕が無かった。ただひたすらに、溢れ出してくる感情を抑える事も出来ずに、泣き崩れた。そしてそれは、曜も同じだった。今まで我慢していた物を解き放つように、築き上げた巨大な壁が決壊するように、その場に崩れ落ちて泣いた。もう帰ってこない。自分がこの街に移り住んで不安な中、すぐに仲良くなってくれた、そこからずっと親友として過ごしてきた千歌には、もう会う事も出来なければ、話す事もできない。あの時、千歌に着いて行っていれば。用があると抜け出した千歌に付き添っていれば、こんなことにはならなかったのではないかという意味のない後悔も、何度も頭を駆け巡った。

 

 他の親族や弔問者がやって来ても、二人で肩を寄せ合いわんわんと泣いた。止めようとしたり、あやそうとしたりする者は居なかった。この二人の置かれている状況は、周りの大人たちにも痛いほど伝わっていた、

 

 やがてまた、街に夜が訪れる。月も星も雲に隠れたこの日の夜は、いつも以上に暗く、怖く見えた。

 

 

 

 

 


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