SCHOOL IDOL IS DEAD   作:joyful42

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本編の中の善子の台詞で「オカルトが好きだと言うと、必ずそういうのを信じていると思われる。信じているのと興味があるのは違うでしょ?そんな事もわからない人に、話す事は何も無いわ。」っていうのがあったと思うんですけど、あれは大方私の本心だったりするんですね。

実際オカルトは好きなんですけど、じゃあ幽霊とか宇宙人とか超能力とかを信じてるか?って言われるとそんな事は無いです。
全否定はしてないんですけど、怪談もUFO映像も超能力者も、まずは否定的に見てるんですよね。
それが本当だろうが嘘だろうが、オカルトって面白いんですよ。嘘だったら嘘だったで優秀な創作物として楽しめるから、そういう雰囲気も含めてオカルトが好きなんです。

でもそういうゆとりを持った考え方って、今の世の中、ぜんぜん通用しないんですよね。だいぶ減りましたけど、テレビで超常現象特番とかやると、「絶対嘘だ」「だから面白くない」っていう感想で溢れるんですよ。そういう事じゃないないんだよ、って思いながら毎回見ています。








第3話 三人で

 玄関から出ると、外はここ数日の雲の多い空とは打って変わり、快晴と春の陽気に包まれていた。月曜日の朝、新しい一週間の始まり。今までは一週間の疲れを土日の休みで癒し、さっぱりとした気持ちで迎えられていたこの月曜の朝も、この日ばかりは積もりに積もった疲れと感情を、リセットする事は出来ていなかった。

 

 この月曜日から浦の星女学院高校の授業が再開されるという連絡が、生徒達に通達されたのは、先週末の事だった。土曜には千歌の葬儀も終わり、殆どの生徒達にとっては、動揺こそ残っているとは言え、またいつも通りの日常が戻ってくる。だが曜には、いつも通りの日常など決して戻ってこない。曜の日常には、常に千歌の姿があった。その千歌が、もう戻っては来ないのだ。

 

 経験した事の無いような憂鬱な朝。暗い月曜日。曜の足が学校に近づくにつれ、久しぶりの再開を喜ぶ生徒達の嬉しそうな声が耳に入ってくる回数が増えたが、なるべく聞かないように、早足で学校への道を急いだ。

 

 

 

 教室に足を踏み入れると、一瞬空気が固まったのを感じた。皆が、こっちを見た気がした。話し声も一瞬静まる。その後すぐに元の教室の空気に戻り、何人かのクラスメイトが話しかけてきた。気を遣われている、そう曜は感じた。

 

 自分の席に座り、数列前にある千歌の席を見た。ドラマや映画等では、亡くなった子の机に大きな花瓶が置いてあるのをよく見るが、千歌の席には何もなく、ただ人の居ない机と椅子が置かれているだけだ。周りの生徒達も何となく、千歌の席を避けているのか、周辺は人の姿が無い。それぞれが、ショックを隠すかのように無理に明るく振舞っているように、曜には見えたが、自分もそれに加わるような気力は無かった。まるで疲れている日の昼休みのように、始業のチャイムが鳴るまで曜は自分の机に顔を突っ伏していた。

 

 

 

 昼休み、朝と同じように机に突っ伏す曜の元に、梨子がやってきた。

 

「曜ちゃん、話があるんだけど……」

 

 教室の外を指さす梨子。その手には、一枚のクリアファイルが握られていた。

 

 

 

 二人は近くの空き教室にやって来ていた。教室内には何組かの椅子と机があったが、それらは奥に重ねて積まれていて、室内はガランとして少し埃っぽかった。

 

 教卓の横で、梨子はクリアファイルから一枚の紙を取り出した。見覚えのある、A4サイズの紙。部活動申請書だった。

 

「梨子ちゃん……これ……」

 

 署名欄には三人の名前。梨子、曜、そして千歌。

 

「今日の朝ね、千歌ちゃんの家に行ったの。やっぱりこの紙、鞄の中に入ってたって。」

 

 申請書は所々が折れ曲がってくしゃくしゃになっていた。間違いなく、あの日曜から手渡し、その場で千歌が名前を書いた紙。

 

「私ね、やってみようと思うんだ、スクールアイドル。いや、やらなきゃいけないと思うの。」

 

 梨子がそう言った。

 

「でも……もう千歌は……」

 

「千歌ちゃんの夢、本気で目指してた夢、引き継ぐなら私達しか居ないでしょ?」

 

「梨子ちゃん……」

 

 署名欄の一列目は、生徒責任者、つまり部長の名を記載する欄だ。太枠で囲ってある外には生徒責任者との記載があり、その中に千歌の名前がある。梨子はその、生徒責任者という単語を横線で消し、代わりに自分の名前の横に生徒責任者と書き足した。

 

「流石に千歌ちゃんを部長のまま、申請するわけにはいかないからね。」

 

「梨子ちゃんが、部長を?」

 

「だって、曜ちゃんは水泳部もあって忙しいでしょ?そんなに仕事があるわけじゃないし、そのくらい私が負担しないと。」

 

「……」

 

 曜は無言だった。じっと梨子の手元にある部活動申請書を眺める。

 

「じゃあ、さっそくこの申請書を提出しに行きましょう。どこに提出すればいいのかわかる?」

 

 もう一度申請書をクリアファイルに挟みながら、梨子が聞く。

 

「生徒会室だけど……」

 

「生徒会室ね、じゃあ案内してくれるかしら、私まだ場所がわからないから。」

 

「でも、その用紙で提出してもいいのかな?千歌の名前が入ってる用紙で。」

 

 梨子が微かに微笑んだ。

 

「私ね、この用紙で申請がしたいの。千歌ちゃんの名前が入ったこの用紙で。」

 

 実際に活動するのは梨子と曜の二人でも、この千歌の名前が入った申請書で申請をすれば、ずっと千歌がそばで見守ってくれるのではないか。そう考えていた梨子は、大事そうにクリアファイルを抱えた。

 

 

 

 生徒会室の扉を開く。常に誰かが居るわけではないと聞いていた為、不安だったが、扉の向こうの机に座る生徒の姿が見え、梨子は安心した。

 

「どんな要件かしら?」

 

 作業中の手を止め、机に座る生徒、つまりダイヤが話しかける。ダイヤ以外に、生徒会室の中には人は居なかった。

 

「部活動申請書をお持ちしたので、受理をお願いします。」

 

 梨子がそう言ってクリアファイルの中の紙を手渡すと、ダイヤは梨子を見、そして隣の曜を見た。やがて申請書に目を落とす。

 

「スクールアイドル部?」

 

 部活名を読むダイヤの声が微かに震えた気がしたが、それがどういった震えなのか、梨子は知る由も無かった。やがてダイヤの視線が部活名から署名欄に移り、そして止まる。

 

「高海……千歌さん……」

 

 そう言うダイヤの声はまた震えていた。今度はどういった意味の震えなのか、梨子にも理解できた。

 

「細かい説明はしません、でも、汲み取って頂けたら幸いです。」

 

 梨子の言葉にダイヤは小さく頷き、続きを読み、そして申請書を机の上に置いた。

 

「残念ながら、却下致しますわ。」

 

「え?」

 

 梨子の驚きの声が漏れた。

 

「やはり、千歌ちゃ……高海さんの名前の件でしょうか?これには深いワケが!」

 

「それもありますが……」

 

 ダイヤが立ち上がった。梨子と曜に背を向け、窓から外の景色を眺める。

 

「本校の規定では、新規部活動の申請には生徒三名の署名及び加入が必要です。現状このスクールアイドル部の入部希望者は二名……と判断せざるを得ません。」

 

 ダイヤの表情が曇った。聞いていないというように噛みついたのは梨子だった。

 

「そんな事、その用紙には書いてないじゃないですか!」

 

 梨子が申請書を指さす。確かに申請書にはいくつかの諸注意が記載されていたが、人数についての記載は無かった。

 

「確かに、書いていないので、申請書の書式を修正する必要がありますわね。でも、あなたはまだ知らなくても当然ですが、確かにそれは本校の規則であり、生徒手帳にも記載されている事実です。」

 

 ダイヤが制服の胸ポケットから生徒手帳を取り出した。パラパラとページをめくると、後ろの方に浦の星女学院高校の生徒規約が並んだページが出てくる。該当の規則文を梨子に見えるように開いたが、梨子にとっては規則の有無が問題なのではなかった。

 

「……何とかなりませんか?」

 

 ただ生徒が足りないだけではない。ほんの数日前までは、三人揃っていたのだ。梨子と、曜と、そして千歌。この申請書でなくてはならない。ここでこの申請書が認められなければ、たった紙きれ一枚で辛うじて繋ぎとめている千歌の夢が、千歌が生きていた証が、ここで本当に潰えてしまうような気がした。

 

「あなた方の心境はお察しします。この用紙での提出までに何があったのかも、何となく理解しました。でもこれは規則なのです。ご理解ください。」

 

 申し訳ございませんが、と言って、ダイヤが小さく頭を下げた。

 

 

 

 ダイヤが入り口の扉を開けてくれた。優しく笑みを浮かべながら、悶々とした表情で部屋を出ていく梨子を見送る。その後ろについて行く曜は、入室から退室まで、ついに一言も発す事は無かった。

 

 

 

 

 


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