SCHOOL IDOL IS DEAD   作:joyful42

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各話にサブタイトルを付けるようにしたっていうのは前にも話した通りで、既に過去の全話分サブタイトルを付けたんですけど、章のサブタイトルに比べて簡単に付けるとか言っときながら、結局色々と考えてしまいますね。
特に第1章の後半辺りから、めっちゃ考えてる感が顕著ですよね。明らかにあの曲だろっていうのもありますけど。
こういう所に曲名仕込んだりするのは割と好きなんで、他にも色々と紛れ込んでるかもしれません。
まあ、今回のサブタイトルなんてまんまですけどね。

2023/07/05 追記
久しぶりに自分で読み返してたら、ふと思う事があって、サブタイトルを変更しました。
6年経てば色々とある物ですね。





第5話 受け取った物

 既に学校には、生徒の姿はほとんどなかった。運動部がグラウンドを整備するのを横目に、梨子と曜は校庭隅のベンチに腰掛けた。

 

「曜ちゃんには、話しておこうと思って。」

 

 梨子が話し始める。

 

「私が、この学校に転校してきた理由。」

 

 そう言って梨子が鞄から自分のスマートフォンを取り出すと、曜に見えるように、通話用アプリを開いた。その中にある、音ノ木坂1-Cという名前のグループ。よくあるクラス単位でのグループだろうか。それも開いてしばらくスクロールをした後、再び画面を曜に見せた。そこには、グループ内の様々なアカウントから書き込まれた、沢山の長文チャットが並んでいる。それらはほとんどが、梨子についての書き込みであった。曜の表情が強張る。

 

「梨子ちゃん……これ……」

 

「私ね、いじめられてたの。」

 

 梨子が笑う。

 

「私が音ノ木坂学院を志望したのは、元々芸術系に強い学校だったから。私はピアノもやってるし、趣味で絵も描いたりするから、将来に向けてそういうのも活かせればいいなって思って受験したの。」

 

 梨子がまたスマートフォンを鞄の中へとしまった。

 

「でも今の音ノ木坂は完全にスクールアイドルの学校だから、集まってくるのは自分もアイドルになりたいっていう子ばっかり。しかも凄い倍率の入試を潜り抜けて来てるから、とっても我が強い子が多いのね。」

 

 実際、曜にとっても、音ノ木坂が芸術系に強い学校であるというのは初耳だった。一般的には、スクールアイドルの強豪としてのイメージしかない。

 

「私はアイドルになりたいわけではなかったし、この通り地味で大人しいから、あっという間に校内で孤立した。」

 

 最初からアイドル願望に溢れる少女たちの中では、梨子はそれは異質だった事だろう。容易に想像がついた為、曜は梨子の話に聞き入る。

 

「それにね、スクールアイドルの名門って言われてるけど、実際は人が集まってくる事以外特に優れた何かがあるわけではないの。音ノ木坂のグループってだけで固定のファンが大量に付くし、仮に実力が無くても大人気大注目。だから必然といい結果も付いてくるだけ。」

 

 スクールアイドルがこれまでの盛り上がりになって以降、音ノ木坂学院のグループはラブライブ!決勝大会の常連だった。数年に一度、決勝大会に残れない事があると、それだけでニュースになるレベルだった。

 

「そんな環境だから、自然に校内風紀が乱れるの。実際私の居た一年間だけでも色んな事件、不祥事があった。色んな組織や団体が出て来て隠蔽するから、表沙汰になっている物はひとつもないけどね。」

 

「そんな事、本当なの?」

 

「利権ってあるのよ、どこにでも。」

 

 梨子が呆れたように笑った。

 

「繰り返されるイカサマとイジメ。私の求めていた環境はそこには無かった。だから、遠い所に行きたかった。今までを全て忘れられる、遠い所に。」

 

「だから、この街に?」

 

「うん。ピアノや絵画なら一人でも出来るし、この学校にはアイドルが無い。」

 

 梨子が校舎を見上げた。徐々に迫る暗闇の中、一部の教室の灯りが付いているのが見えた。

 

「そしたらね、転入早々話しかけられたわけ、スクールアイドルになりませんか?って。」

 

「はは。」

 

 曜が笑う。曜の笑顔を、梨子は久しぶりに見た気がした。

 

「最初は本当に嫌だったわ。アイドルなんてもう見たくもないのに!って。」

 

 梨子が来た最初の日、曜はまだ転入直後で困惑するから勧誘をやめろと千歌に言ったが、実際はそれ以前の問題だったようだ。要はその時はイエスという回答は絶対にあり得なかったのだ。

 

「でもね、何回か話していくうちに、どんどんと気持ちが変わっていった。千歌ちゃんって面白いの。アイドルになりたいのに、私が今まで会ったアイドル志望の子達とは全然違う。この子とだったら、アイドルをやってもいいかなって思った。」

 

 別に千歌だけが特別だったわけではない。多くのアイドルになりたい少女達も、最初は千歌と同じように、純粋に楽しいから、やりたいから、という気持ちだったはずなのだ。今のスクールアイドル界は、そんな少女達の純粋な気持ちに応えられる物であるのだろうか。

 

「それに面白そうじゃない?アイドルの名門から逃げて来た私が、別の学校でアイドルになって、その名門に立ち向かったら。」

 

「……強いんだね、梨子ちゃんって。」

 

「そんな事ないわ。強かったら逃げるように転校なんてしないもの。」

 

「ううん、強いよ……私もダメだよね、いつまでも塞ぎ込んでたら。」

 

 曜の目に、いつも正気が戻ってくる。

 

「曜ちゃんは私なんかより全然千歌ちゃんとの付き合いも長いから、それだけショックが大きくても仕方ないわよ。でも私はもう下を向かない。千歌ちゃんから貰った物、しっかりと恩返ししなくっちゃ。」

 

 梨子が鞄からまた何かを取り出す。それは見覚えのある、あのクリアファイル。

 

「結局受理して貰えなかったね、それ……」

 

「うん、だから、受理して貰えるようにするの。」

 

「え?」

 

「集めるわよ、新メンバー!」

 

 梨子が力強く、そう言い放つ。頷いて、曜が立ち上がった。空に現れ始めた星に、二人は誓う。それは、もうここには居ない千歌への約束でもあった。こうして再び、浦の星女学院スクールアイドルは始動した。

 

 

 


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