SCHOOL IDOL IS DEAD 作:joyful42
前回は最初からかなり短いエピソードの予定で、元々500文字程度しかありませんでした。
だけど1000字以上じゃないと投稿できないんですね。無理やり1000字にかさ増ししました。
イヤモニ付けてない人にスタジオの音声が聞こえないくだりとかいらねえだろ!って思いながら書いてました。だいぶ苦しかったですね。
小学生の頃、夏休みの自由研究でスライム作りをやったんですが、定番過ぎて、まとめたらほんの数ページになってしまったんですね。
で、かさ増しするために、スライムを遠くから撮った写真と近くから撮った写真を並べて、
「遠くからだと見辛いが、近くからだと見えやすい。」
っていう謎の文章を書いて1ページ消化して、提出しました。
当時から意味不明なページだって理解してたんでしょうね。だから未だに覚えてるんですよ。
そんな事を思い出した前回のかさ増しでした。
第1話 ファーストコンタクト
比較的暖かい気候の伊豆半島の西側に位置していても、四月初旬の沼津はまだ冬の寒さが残っていた。特に海沿いに位置するこの内浦地区は、時折冷たい風が海から吹き付け、春の暖かさを見せる日との寒暖差が激しい。その日も、快晴の空模様と対照的に、身を切るような寒さが街を襲っていた。
海沿いの道を、一人の少女が歩いている。その身に付けている制服から、近くにある私立の女子高の生徒である事が分かったが、少女は制服の上に上着等は身に付けておらず、時折身を震わせながら歩みを進めていた。
「うう、お姉ちゃんの言う通り、コート着てくればよかったなあ……」
ふと少女が足を止めた。そして耳を澄ます。辺りは人通りも少ない田舎道だった。もう一本内側に大きな道路もある為、車もそれほど通る事はない。だからいつも波の音以外は静寂に包まれているのだが、少女は確かに何か別の音を聞いた。音の方向に導かれるように、歩いていた道から左側に伸びている脇道に入る。
脇道はこの先にある公園まで行くための通路で、人一人が歩けるような狭さの砂利道の通路以外は、やや丈の長い雑草で覆われていた。
やがて少女は公園まで辿り着いた。公園はそれほど広くなく、先ほどの脇道よりは短く刈り揃えられた芝生に覆われており、古ぼけたベンチが一脚置いてあるだけだ。公園は海沿いの崖の上にあり、ベンチに座ると海を遠くまで見渡す事が出来た。少女はベンチの近くまでやってきて、また耳を澄ます。
ザクッ……ザクッ……
今度こそ、はっきりと音が聞こえた。まるでスコップが何かで地面を掘っているような音が、確実に少女の鼓膜を通して脳内に響いてくる。
少女は崖沿いのフェンスから身を乗り出し、下を覗き込んだ。崖の下は砂浜になっているが、そこに人の姿は無い。いや、丁度死角になっているのだ。確かにこの崖の下から、その音は聞こえる。その正体を確かめる為には砂浜まで降りるしかない。少女の目に、公園の隅にある砂浜へと下る階段が目に入った。
金属製の階段を下り、少女は砂浜に立った。先ほどよりもはっきりと、ザクッザクッという音が聞こえる。慎重に崖伝いに進んでいくと、崖の一部分が大きく内側にえぐれている事がわかった。ここだ。少女はそう思った。この場所であれば、崖の上の公園からでは死角になって覗き込む事ができない。
恐る恐る崖の切り込みを覗き込む。所々雑草も混じっている砂浜の奥、大きなスコップを持った男はそこで穴を掘っていた。歳は二十代後半くらいだろうか、筋肉質な体をしており、この季節にも関わらず上はボロボロのポロシャツ一枚だった。既にそれなりの深さに掘られた穴の横には、掘った後の土と思われるこんもりとした山が作られている。
少女はこの男を見た事が無かった。小さな街であるから、付近の住民は皆顔馴染みのような物で、子供からお年寄りまで、ほぼ全ての人物と少女は会った事もあったし話した事もあった。特に最近、若者は高校卒業と共に、就職や進学で関東や沼津市内に移り住む事が多く、この年代の男性は数えるほどしか街に居ない。しかし、この穴を掘る男の事は、今まで一度も見た事が無かった。
男は背後の少女に気付く事もなく、黙々と穴を掘っては隣の山に土を重ねていく。休みなく海から吹き付ける冷たい風の中で、男は額に大粒の汗を浮かべていた。
「あー、まただ……」
不意に男が呟いた。一旦掘るのを止め、じっと穴の底を眺めている。話しかけるなら今だ。少女はそう思った。
「何をしているんですか?」
男の肩がピクッと反応した。少女の声は聞こえているようだ。しかし男は振り返る事もなく、再び手に持ったスコップで穴を掘り始める。
「最近引っ越してきた人ですか?この辺りは人も少ないのに、見た事ない人だなーと思って。」
不思議と男に対して不信感のような物は抱かなかった。これが都会の街等であればまた違うのだろうが、田舎の街では見ず知らずの男に対する警戒心よりも、引っ越してきた住民であれば挨拶をしなければという想いが勝ってしまうのだろう。しかし男からの反応は無かった。少女の方を見向きもせず、ただひたすらに穴を掘り続ける。心なしか、少女が話しかける前よりも、スコップを持つ男の手が緊張感に包まれているような気がした。
「私、高海千歌って言います。あそこの丘の上にある高校に通う高校一年生!」
そう言った後、そういえば今日から二年生なんだった、と千歌は照れて笑った。千歌の指さす先には海沿いの丘。その頂上に、学校の校舎と思われる白い建物が建っているのが見える。
ピクッと男の肩が再び反応した。スコップを握る手を止める。そしてゆっくりと、千歌の方を振り向いた。男は無表情だった。しかしその無表情の中に、ほんの少し緊張感とも安堵感とも取れる別の表情が浮かんでは消えていく。僅かな静寂が、千歌と男の間に訪れた。
「さっきから一体何を掘ってるんですか?」
そう千歌が聞こうとしたその時だった。
「千歌!」
どこかから声が聞こえた。次いで聞こえる何者かが階段を下りて来る音。階段の音が止んでからすぐに、崖の切れ込みに、もう一人の少女が飛び込んできた。少女は男には目もくれず、ぐっと千歌の腕を掴み、また来た方へと走り出す。
「うわっ……曜ちゃん!どうしたの急に!?」
「いいから行くよ!」
少女―渡辺曜に引きずられるように、千歌がまた階段を昇っていく。男はそんな二人が見えなくなるまで、じっと辺りを見つめていた。
「ちゃんと埋めたはずなのに……」
ぼそりと呟いた男の声は、波と風の音にかき消され、他の誰にも聞こえる事は無かった。