ーー異界に囚われし傀儡は混沌の魔術師の元に参上する。



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 突発的衝動に駆られ執筆。
 読者がいるようなら次話を執筆します。
 


異世界

 

 

 白い空間。

 空気も何もなく、ただただ虚無だけが広がる不安定な景色の中、お前はふとパチリと意識が浮かび上がった。

 ただし、身体が動くと言った感覚はない。それどころか自分は今、何処を見ているのだろうと疑問すら生まれる程に何も、何も分からなかった。

 

 

 ——ダイスを振る

 

 

 白の中で点と浮かび上がるその文字は、お前にとって小慣れた景色だ。何度となく同じ物を見た末にそれは、ある一つの落ち着きさえ生まれてくる。

 

 

  ああ、戻ってきたのか。

 

 

 随分と長引いた旅路を終え、感覚のない肩を回すお前はつい、溜め息を吐く。

 

 ここは終着点だ。

 そして始発点でもある。

 

 デパートの子供の遊びスペースに配置された小さな列車のアトラクションのようにお前は遅く、脆い乗り物に乗せられまた始発点に戻ってくる。

 しかし、戻った所で残るは虚しく寂しいだけの虚無だ。意識だけ囚われた、無間地獄。

 結局、刺激を求めてしまうお前の魂はまた列車に乗り込み、長い旅路を行く。それでもそこから見える景色は何度も見た末に背景と化したただのオブジェクト。

 段々とループして来た末にある種のテンプレが生まれ、作業のような人生がスタートする。

 

 生まれ落ちた次の瞬間仕事紹介所に出向き、訳のわからない仕事を二年続け、

 

 武器屋防具屋で伝説級の装備を、裏通りでこじんまりと経営する魔法の館で「完治の秘薬(エリクサー)」を買い漁り、

 

 ナメクジやワームが巣食う荒野やゴブリンが採掘に来る洞窟、果ては【戦争と死の神】が住まう聖堂のBOSS級モンスターを蹴散らして、

 

 世界最強と名高い【根源の神竜】すら打ち倒して魂を奪い尽くす。

 

 その後は仕事紹介所で69歳になるまで働くか、裏通りの小民家から大金を盗みまくる毎日。

 

 

 正直言ってもう、飽きて来た。

 

 それは箱庭の中で賢く生きる為にテンプレ化された、つまらない人生に対して。

 あるいは自分自身が生きているという事に対してか。何故自分は死んでも死に切れないのかと、常々疑問に思う。

 

 望まない不死ほど、不自由なものはない。

 

 

 ——ダイスを振る

 

 

 ああ、まただ。

 またしてもこの文字列はお前を無限ループの天獄へと導こうとするのか。

 お前はそれを、頭では理解していた。誰かの策略で自分がナニカの発展の道具として利用されているという事を。

 

 それでも止まれなかった。お前は意識ある存在で、刺激を求める存在だ。

 例え得られる快感が使い古されたものだとしても、ないよりはマシだと言わんばかりに誘惑してくる。

 結局麻痺して狂った頭では、本能に任せてサイコロを振るしかないのだった。

 

 

 ——職業変更

 

 

 生まれた人種は、神のみぞ知る。人間である我々は生まれた後の全てしか、選択出来ず、知る事すら許されない。

 昔そんな本を読んだ事がある。だが現実は違った。

 

 数多くのモンスターから奪って来た『魂』を対価にお前は自分の職業を決められ、年齢や強さ、運の良さすら選択できる。

 生まれた時から人生というレースは始まっているのだ。その言葉は度重なって繰り返された人生の中で、染み染み思う。

 

 弱い身体は死ぬ。それはある意味、必然なのかも知れない。

 

 

 ——剣聖

 

 

 数ある職業の中でお前は、最上級職である【剣聖】を選択した。

 圧倒的なステータス値を誇り、BOSSを一撃で葬り去れる火力と何度も繰り出せる高速の連撃という二つのスキルを所持する、稀代の英雄ほどの素質が確定で刷り込まれた人形だ。

 魂の消費は激しいが、何度も繰り返した人生の中でそれは腐る程余っていた。小心の時ならばいざ知らず、今更戸惑う必要が何処にあるのだろう。

 

 

 ——ダイスを振る

 

 

 ああ、分かったと言った表情でダイスを回す。

 身体の感覚がなくとも、思うだけでダイスが振られる事に驚きである。慣れていても、この感覚はいつまで経っても慣れない。

 

 

『【年 齢】 27歳

 【生命力】 132

 【攻撃力】 56

 【防御力】 55

 【 運 】 24   』

 

 

 なるほど。

 全てのステータスが平均より少し上回る程度である。普通にしていればまず苦戦する事はない普遍的なステータスで存外、安心した。

 

 さて、次の人生のキモとなる人形は完成した。

 生まれ落ちる世界もどうせまた、あの箱庭なのだろう。今回もテンプレ通りに生きて、適当に『魂』でも稼ぐとしよう。

 

 

 異世界へ——

 

 

 お前の意識は消え、白だけが残った。

 

 

 

 

 

 ■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

 爽快な青空、風にたなびく黄緑色の草原。

 その大地に立つは、黒色のローブを纏った色とりどりの髪色の少年少女たち。彼らは手に小さな杖のような物を持って互いに何か楽しそうに話し合っていた。

 

 ここはハルゲニア大陸、その西に位置するトリステイン王国の草原地帯。

 ただ広いと言うほかに何もないこの場所へこの少年少女達は大人数で、何をするつもりなのか。

 その答えは頭が寂しくなってしまった男性教師主導で、淡々と進められていた。

 

 

「皆さんは召喚した使い魔と親交を深めていて下さい。さて、それでまだ使い魔を召喚していない人はいませんか」

 

 

 彼らが行なっているのは"使い魔召喚の儀"

 ここトリステイン王国では魔法使いと呼ばれる貴族達が国を回しており、魔法こそが上位存在だと認識している。

 故に魔法を学び、磨き上げる機関が存在してもおかしくはない。ここはその国お墨付きの所謂、魔法学園である。

 因みに今回は召喚の儀を行うに当たって少し遠出をしているので、この草原地帯が魔法学園という事では無い。

 

 使い魔とは貴族達が魔法を行うのに対して、そのサポートをする存在である。

 偵察、材料集め、護衛……その他諸々の仕事を任せるべき存在を求め、使い魔を召喚するのだ。

 召喚される使い魔のグレードは召喚者の実力に応じて召喚される……訳では無い。

 召喚の儀に置いて重視されるのはあくまで、相性だ。故に召喚されるその瞬間まで何が出るか分からないし、前例のない事態も発生する可能性もある。

 

 

「せんせー、まだルイズとレイナが終わってませーん」

 

「ちょっキュルケ! そんな大声で言わなくても!!」

 

 

 生徒陣のど真ん中で、胸元が大きく開いた制服を着込んだ褐色の美女【キュルケ】が手を挙げて隣にいるピンク髪に少女【ルイズ】の事を指し示した。

 ルイズはそれに反応はするものの、渋々と言った表情で前に出てくる。

 一緒に指名された【レイナ】と呼ばれる茶髪の少女も少しだけ前に出るが、ルイズの所からは出来る限り離れている。

 何故かと言えば。

 

 

 ——ドガァンッ!!

 

 

 必ず、爆発するからである。

 

 ルイズの特性なのかシンボルなのか、爆発という単語とルイズはイコールで結ばれると、それは生徒達の頭の中に叩き込まれている。

 なぜなのか、それは周りの生徒教師も、ルイズ自身も分からない。

 トリガーは『魔法の発動』だ。鍵開けの魔法、火球を飛ばす魔法、錬成の魔法。どの魔法を実行してもルイズはそれを必ず『爆発』として発現させてしまい、結果彼女は生まれてこの方一度も魔法を使った事がない。

 

 そこでつけられたあだ名は『ゼロ』

 魔法成功率『0』の彼女は筆記の成績はトップである反面、実技が出来ないとして周りから不名誉な称号をつけられ、嫌煙にされていた。

 

 だからこそ、ルイズは焦っていた。

 この召喚の儀は二年生に昇級する為の、必須試験のようなものだ。普通ならば簡単に乗り越えられる試練なのだが、彼女にとってはトップレベルに厳しい難関なのだ。

 

 故に何度も、何度も失敗を繰り返した。

 

 召喚の呪文を唱え、唱え、唱え。

 それでも出てくるのは愛しの使い魔などではなく、爆煙。もはや爆煙がルイズの使い魔だろという事は焦っている彼女の耳にも届いた。

 

 

「宇宙のどこかにいる、我が僕よ!

 神聖で、美しく、強力な使い魔よ!

 私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさいっ!」

 

 

 今までより一際長く呪文を唱え、またしても爆発を発生させる。

 もうダメか。流石のルイズもへとへとになり、諦め気味になってきた所で、誰かが叫んだ。

 

 

「おい、何かいるぞ!!」

 

 

 その一言でルイズは一気に表情が明るくなった。

 失敗かと思われた魔法が、成功していたのだ。絶望からの希望とは、まさにこの事だろう。

 しかし、希望はいとも簡単に叩き潰される。

 

 

「……あんた誰?」

 

 

 召喚されたのがまさかの、人間だったからだ。

 黒色短髪で見慣れない青い服を着ている謎の少年。しかし杖を持っていない以上メイジでないのは確実だ。

 

 ならば、平民か。

 まさかの事態にルイズは表情が暗くなる。反面、ギャラリーの表情は歓喜に満ち溢れる。ああ、なんて面白いのだろうと。

 

 ルイズは男性教師、コルベールに再召喚の申し出をするが、あえなく撃沈。渋々と、少年に口付けをして契約を交わす。

 

 訳も分からず口付けされた少年は顔を赤くして、倒れ込んでしまった。

 契約に伴う反動にやられたのだろう。周りの生後達は貧弱と嘲笑った。

 

 

「それでは後は貴女で最後ですね、レイナさん」

 

「はい、コルベール先生」

 

 

 引いたルイズと変わるように出てきたのは最後に残された【レイナ・ミラングルド】

 最近急速に台頭してきたミラングルド家の一人娘で、成績実技共に優秀な【タバサ】に匹敵するほどの実力者で、その彼女が呼び出す使い魔はどんなものかと、ここにいる全員は密かに疑問を抱いていた。

 

 レイナは一歩前に出て、呪文を唱える。

 

 

「この世に生きとし全ての生命よ、願わくばその無限の力の一部を非力な我に分け与えたまえ。

 この大空の元、我は求める。貴君の力を。

 さあ、来なさい——我が使い魔よッ!!!」

 

 

 大層な御託と、強く勢いのある声唱。

 やる気に満ち溢れたその声質にギャラリーは圧されつつ、彼女の手元を凝視する。

 

 

 ——ポツリ。

 

 

「………雨?」

 

 

 誰かが呟いた。

 雨。水の水滴が幾つかが垂れて来たのだ。

 先ほどの快晴ぶりはどこへいったのか、いつの間にやら周囲は暗くなっていた。少女達のはるか上空に黒雲が陣取っていた為だ。

 

 黒雲はぶわぶわと広がり、やがて小さく収縮される。

 その収縮と同時に少しずつ、黄色い糸も現れ始める。

 

 ピカリと、辺りが光った。

 雷光だ。

 それは神の如き、雷撃だった。真上から降り注がれた電撃は一直線のレイナの目の前の草原に落ち、ぷつぷつと植物を黒く焦がす。

 焼け焦げ悪臭を放つ大地を前にレイナは顔の前で手を払った。

 だがその瞬間。

 チラリと一瞬見えた、その影。

 黒煙の中に薄く見える、その何かの影に目を奪われる。

 なんだ。

 どうしたというのだ。

 それは黒煙が晴れ、そこに佇む者を見た全員が驚愕したものだった。

 

 

 人間。

 

 

 青のロングコートを羽織り、腰に質素な装飾が施された長刀を引っ提げるその黒髪短髪の男は目を瞑ったままその場に立ち、力の抜けた人形のようにピクリとも動かない。

 その立ち姿は非常に美しかった。

 ギャラリーの女子たちは無意識の中で彼に対しいつの間にか、意識を奪われていた。

 それはもしかしたら、【チャーム】の魔術にはまった為なのかもしれない。

 

 

「……あなたは、誰?」

 

 

 レイナがルイズが使い魔に放った第一声と同等の言葉を放った。

 その一言で空気の緊張が解かれる。

 相手は人間だ。

 そう、人間だ。ゼロのルイズが召喚したのと同じ、人間だ。

 それを認識したギャラリーは落ち着きを見せ、次第にレイナに対して嘲笑の目を向ける。

 なんだ、彼女もゼロと同等か。

 所詮はその程度の実力かと鼻で笑って、ルイズの時は違い彼らは心の中で笑った。

 悦に浸る人間がこの場の中で爆発的に増えて行った。

 だがその中にも流れに飲み込まれない例外が存在する。

 彼ら生徒たちを監督する教師であるコルベールは警戒の目を向け、タバサと呼ばれる小さく可憐な少女とキュルケは疑問の目で見つめ、ルイズは複雑な感情を含めた瞳でレイナの方を見つめる。

 様々な感情を向けられた青年は何かを察し、静かに瞳を開く。

 その目は薄暗く紅い煌めきを放っていた。

 

 

「ーーーー」

 

 

 男は訳の分からない言葉を喋りだした。

 周りを見渡し何か思ったのだろう、半開きでやる気の無さそうな視線をレイナに向け、肩を軽く竦めて話しかけた。

 恐らく彼には自分の言葉が通じないと分かったのだろう。

 彼の反応を見て直観的にそれを感じ取ったレイナは静かに彼に近付き、

 

 

 

「……ごめんね」

 

 

 青年の口元に静かに自分のものを重ね合わせた。

 青年の目が大きく見開かれる。

 勿論視線はたった今も自分の口元にソレを接している彼女に対してだ。

 彼の思考が少し乱れ、混乱する。

 だがその直後、青年の身体に痺れが走った。

 

 

 

「---!!」

 

 

 急いで自分から少女を突き放ち、地にひれ伏して胸を押さえる。

 全身に循環するように繰り返される電撃が何度も迸る。

 それは何か、自分の内蔵を破壊しすり潰し、何か違うものを埋め込まれているような感覚。

 頭痛と痙攣が身体を支配し、ついには身体の皮膚表面を厚く焼き始めた。

 

 

「え、あ、え……?」

 

 

 目の前で悶え苦しむ青年を見て少しパニックに陥るレイナ。

 どうして。

 自分が使い魔の契約をするだけでなぜこんなことに。

 やけに働く思考能力は答えを求め、さきほどルイズが召喚した平民の事を思い出した。

 彼も契約後は苦しんでいた。

 そうか。

 レイナは理解して、青年の事を思う。

 使い魔になるとは、そういうものなのかと。

 

 

「……ごめんね」

 

 

 またしても同じ言葉を呟いて、青年の元に近付き。

 レイナは優しく彼を、包み込んだ。

 

 

「---!?」

 

 

 その行動に驚いたのか青年は見開いた目で彼女を睨みつけたが、レイナは動じずに続けて抱き着く。

 本音を言えば少しだけ、怖く思ったが。

 するとどうしたことだろう、青年は見る見るうちに落ち着きを取り戻していった。

 それがレイナの介抱によるものなのか、時間経過によるものなのかは分からない。

 が、青年は少なくとも少女に感謝をして、ふらりと立ち上がる。

 

 

 --異世界

 

 

 何度となく訪れたあの場所からお前はやっと、解放された。

 そう、やっとだ。

 何千何万と過ごしてきたあの場所からお前はやっと、自由を手に入れたのだ。

 それを成したのは恐らく、先の少女だろう。

 それを感じ取った青年は驚きの目を自分を見つめる彼女に近付きそして。

 手をさし伸ばした。

 

 

 ここは異世界。

 

 

 魔王によって作り出された彼の為だけの箱庭ではなく、沢山の生物が共存し合って生きている自由の世界。

 箱庭を飛び出した伝説球の戦士はこの異世界に希望を見出し、何度目か分からない人生を謳歌する。

 その結果訪れる未来は誰にも、分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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