虚飾の魔法と嘘っぱちの奇跡   作:ジェームズ・リッチマン

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理想と現実の断層で

 

 閑静な廃ビルと廃工場の並ぶ地帯へやってきた。

 建物の様子を見るに古びた様子はあまりないのだが、不良か浮浪者が来るのだろうか。窓ガラスや構造物には、人為的な破壊痕が散見できる。

 

 なるほど、人通りの少ない場所にも魔女は沸くからな。

 廃ビルの中ともなれば、一般人は気付かないだろう。

 腰を据えてじっくり人を食らうには丁度いいエリアかもしれないね。

 

 そんな風に、どこか魔女に感心しながら歩いていた矢先のことだった。

 

「……おっ、と」

 

 路地裏を抜けた先、そのすぐ左横に、大きな血だまりを湛えるOLの姿があった。

 血溜まりは大きい。広がって……広がりきった後なのだろう。乾いてはいないが、もう流す血は無いとばかりに、動きがない。

 そして頭の損傷具合や、身体の折れ曲がり方を見るに……まぁ、そういうことだった。

 

「ん? なんか、変な匂い……」

「あれ、本当だ……」

「死体があるから二人とも出ないように」

「えっ!?」

 

 OLの死体。

 それは両足両腕ともによくわからない方向に曲がり、一部の骨は飛び出している。

 おそらく、すぐ傍のあの廃屋から飛び降りたのだろう。

 内臓をぶちまけていないだけビジュアルとしてはマシな部類だが、血の様子からしてもかなり新鮮な美女の躯に、私は思わずため息を零す。

 ……もう少し早く駆けつけていれば。そう思わないでもないのだ。

 

「……え、なにこれ………うぷっ……」

「うっ…!」

 

 見てはダメだと言ったのにこの二人は。

 

 ……だが見てしまったものは仕方ない。

 私は死体の状況を詳しく見聞するため、二人の視線を遮るように、OLの前で屈み込んだ。

 すると、見えてくるものもある。

 死体の首筋には、くっきりと魔女が刻んだ入れ墨のようなものが確認できた。

 

「魔女のくちづけがある。彼女は魔女によってここへ誘われ、殺されたのだろうね」

「……死んでる……の」

 

 他は特に不自然な点はない。

 この女性一人だけが狙われ、殺されたのだろう。

 集団自殺でなかったのは、不幸中の幸いと言うべきだろう。

 

「この人……そんな……ひどい」

「動機の曖昧な自殺、謎の失踪のほとんどは魔女が原因だと昨日のマミも言っていただろう」

「本当は自殺なんてする人じゃなかった……?」

「精神的に弱っている人を操る傾向にはあるから、どうだろうね」

 

 どの道死人に口無しだ。

 私は答えを持たないし、彼女に聞くこともできない。

 そして、やるべきことは別にある。

 

「魔女の結界へ行こう。怖気付いたのであれば、二人を送っていくよ」

「ううん、連れて行って、ほむら。……魔女を、野放しになんてしちゃダメだ。正直ショックでかいけど……放っておけないよ」

「まどか?」

「私も……行くよ」

 

 まどかは気弱な子かと思ったけれど、こうして死体を前にしても大きく取り乱しはしなかった。

 決意はより強く固まった様子ですらある。

 意外となかなか、芯の強い子なのかもしれない。

 

 

 

 廃屋の中に入った。

 魔女の結界は大きな階段を上がってしばらくすれば、すぐに見つかった。

 

 二人にも異次元の境界が見えているのだろう。

 

「ここが……」

 

さやかは仇敵を睨むかのように、結界と対峙していた。

 

「……」

 

 まどかはどこか不安そうに、いつものようにまどまどしていたが。

 

「さて、早いとこ魔女を倒してしまおうか」

「そうだね。また逃げたら……どんどん被害が増えていくんでしょ」

「その通り」

 

 一般人が死ぬのは後味が悪い。

 余裕があるなら目につく限り倒したいのは、私も同感だ。

 

 それに。

 

「帰ってやりたいことも沢山あるし、急がないとね」

「……うん!」

 

 私たちは、三人同時に結界へと飛び込んだ。

 

 

 

 毒々しい異空間は広く、迷路状に続いている。

 園芸だろうか。内部はそれらしき意匠が多く、注視してみれば髭面の使い魔はマメに鋏で手入れをしているようだった。

 

 さやかとまどかは遠くに見える使い魔を刺激しないよう、幾分か身を縮めるようにして私の後をついて着ている。

 

「魔女に辿り着くまで時間のかかる場合と、かからない場合がある」

「ちなみに、この場合は……?」

「結構探す羽目になりそうだ」

「うへー……」

「道中でわざわざ使い魔を倒さなければならないから、そうなると魔力を余分に消耗するし……相性が悪いと感じたなら、引き返すのも一つの手だね」

 

 実際のところ、魔法少女と魔女には相性がある。当然、魔女の手下にもだ。

 効率の悪い相手と戦い辛うじて勝利したところで、グリーフシード分の魔力収益が見込めないようでは、闘う価値は皆無だ。

 ここで無理して闘う魔法少女から先に死んでゆくのだと、私は考えている。

 もしも二人が魔法少女になりたいのであれば、是非ともそれだけは頭に入れておいてほしかった。

 

「ん、どうやら来たようだね」

 

 噂をすれば敵影だ。

 向こう突き当たりの角から、蝶の翅を生やしたヒゲのダンディが飛んできた。

 

「き、きゃあ!」

「ほむら!」

「心配しなくていい。ここに私がいるからね」

 

 紫のステッキを両手で振りかぶる。

 魔力を充填し、強度を上げる。

 名も無きヒゲダンディは愚直なるままに突進するが、飛んで火に入る羽虫というやつだ。

 

「1.物理人間大砲」

 

 野球でいうところのフルスイングによって、使い魔は吹っ飛ばされ……る前に、一刀両断になった。

 

「すごい……」

「威力を上げすぎたか。バットの方が良かったかな」

 

 次からはもう少し威力を調整しよう。

 技名とのイメージがかけ離れた攻撃は、見た目にも格好良くないし……。

 

 とはいえ、相手の強度は今の一撃で把握できた。

 この結界内に潜む使い魔は私程度の力でも簡単に倒せるらしい。

 この調子で、どんどん進んでいくとしよう。

 

 

 

「2.五列横隊カットラス」

「きゃっ!? いきなり刃物がいっぱい……!」

「ふふん」

 

 二人にはある程度の覚悟がある。

 

「3.ナイフダーツ」

「おおっ……いきなり刺さった!」

 

 さやかは願いがそれに釣り合うかを量っている。

 

「4.鉄パイプ人力トマホーク」

「す、すごい飛び方……あ、使い魔に当たった」

 

 まどかは願いすら決まっていないのだろう。しかし悩みはそれぞれだ。

 

「5.投げっぱなしヒットエンドラン」

「あ、私のバット投げんな!」

「おっとすまない」

 

 この魔女退治が、今後二人に何らかのヒントとなるのだろうか。

 

 悩みはそれぞれ。願いもそれぞれだ。私には知る由もない。

 だが、この体験がプラスになってくれたらと思う。

 

 

 

 長い廊下に出た。しばらく直線が続き……そうなると、使い魔の奇襲もないだろう。

 私の快進撃を見て、二人は余裕を取り戻したらしい。

 顔は明るく、ショーでも見ているかのようにご機嫌だった。

 まぁ実際、私が楽しんでもらえるように演出しながら戦っているせいもあるのだけど。

 

「さっきの剣なんてすごいもんなぁ、四方八方から……」

「カッコいいよね」

「んー、これから魔法少女になるかもしれない君達に言わなければならないことだから、あえて今、言うけれども」

「えっ」

 

 褒められるのは嫌いじゃないし、好きだ。

 けど、私はここで言わねばと思い、二人に向き直った。

 

「全ての魔法少女が、先ほどまでのように戦えるとは思わないことだよ」

「……ああ……」

「魔法少女の強さはその者の因果で決まる、いわば才能だ」

 

 詳しい理由などはわからない。

 だが、因果。魔法がそれが重要なのは覚えている。

 

「それに、戦いには適性だけでなく、魔法自体の性質も関わってくる……私はたまたま、戦うのに使い勝手の良い能力だったから戦えるだけだ。全ての魔法少女が上手く戦えるわけではない……水をさすようですまないけど、それは、覚えていてほしいな」

 

 時を止めて敵を倒す。それが私に許された特権だ。

 

「そ……そっか……そうだよね……」

「私も、さやかとまどかの知らない場所で苦労してる部分はあるってこと」

「なんか……ごめん、ちょっと浮かれてたかも、私」

「いいさ。こちらこそすまない」

 

 理想と現実の間で摩耗するほど辛い事もない。

 精神を保っておかなければソウルジェムに影響する魔法少女にとって、それは死活問題だ。

 夢のない話はしたくないけれど、現実は現実であるし、非常な部分も当然ある。

 魔女退治を見せるにあたって、私はそれをひた隠しにしたくはなかったのだ。

 

「でも、格好良かっただろう?」

「……うん!」

「そりゃもちろん!」

「そうか。……ありがと」

 

 それに、ナイフを回収する苦労は二人にはわからないだろうし、これからも知らなくて良い。

 魔法少女の厳しさはそれはそれとして、私の格好良い所を褒めてもらえて、楽しんでもらえたのは、とても嬉しかった。

 

 

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