虚飾の魔法と嘘っぱちの奇跡   作:ジェームズ・リッチマン

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誰にも見えない答え

 

 マミの精神状態は、平常とはいえないだろうが、

 

「では暁美、この都とはなんという名前だったか、答えてみなさい」

「平城京」

「平安京だ。ちゃんと聞いておくように」

「はい」

 

 平安とはいえないだろうが、ソウルジェムを急激に濁らせるほどのショックは受けていないようだった。

 私と話している時には少し心を乱しているようだったが、それも些細なものだろう。

 

 とはいえ、彼女の精神を脅かしたきっかけは、間違いなく私だ。

 自分の不始末だ。彼女の心のケアは、私がやっておかねばなるまい。

 

 ふむ、しかし魔法少女が魔女になるというシステム……。

 これは、魔法少女全員が知っているシステムではなかったのか?

 うろ覚えだ。はて……。

 

 あまり常識外れでも困ってしまうな。

 昼辺りに、キュゥべぇにでも聞いてみるべきか。

 

 ……いや、マミがもう既に聞いているか?

 

 とにかく昼休みの時間だ。昼になったら色々と確認しよう。

 

 今はとりあえず……“これからの構想”について、深く考えるべきだろう。

 

「暁美、小テストの欄外に落書きするのやめなさい、なんだそれは」

「すみません、鳩です」

「上手いな」

「ありがとうございます」

 

 

 

 これからはうかつに魔法少女のルールを講釈することはできない。

 マミ以外の他の魔法少女とも友好関係を持ち、過去の私を探るつもりでいたが、私はものの流れでいらぬことまで言ってしまう癖がある。

 昨晩のスリルアクションを再び起こさないためにも、私はなるべく口を噤むことを意識して魔法少女業をやっていかなければならないだろう。

 秘密主義。それもまた、クールな感じだ。

 

 だが何故、私の持っている魔法少女の知識は、マミと異なっているのだろう?

 授業中に考えてはいたが、答えは出ない。

 それに、私はキュゥべえのことをうっすらとだが覚えているのに、キュゥべえは私を知らないと言っていた。その点もまた謎だ。キュゥべえも記憶喪失に……いやいや、さすがにそれはないだろうが……。

 

 ふむ……記憶を失う前の私は一体……。

 

 

 

 考えながら、屋上の扉を開く。

 すると広大な青空と、涼しげな風が私を迎え入れてくれた。

 

「暁美さん」

「やあ」

 

 やはり、そこにはマミがいた。

 いつものように。

 それが私には、とても嬉しいものだった。

 

「良い陽気だね」

「ええ、とっても」

 

 いつものようにベンチに腰掛ける。

 そして、鞄のポケットからカロリーを作ってくれそうな名前のグラノーラバー(チーズ味)を取り出し、封を切ろうとしたのだが……。

 

「待って、暁美さん」

「うん?」

 

 マミに止められてしまった。

 どうしてだ。今まさに、ピリッと気持ちよく開封する手が出来ちゃってるんだけど……。

 

「いつもそんな食事ばっかりじゃ、身体壊しちゃうよ?」

「私はすこぶる元気だが……」

 

 朝に野鳥とおいかけっこするくらいには問題ないしな……。

 そもそも、私魔法少女だし……。

 

「だめよ、いつも見てて心配になってきちゃうわ……ほら、暁美さんの分のお弁当、作ってきたから」

「なんと」

 

 よく見れば、マミの手元には包みが二つもあった。

 二人分も作るのは少し手間だったろうに……。料理あまりわからないけど。

 

「えっと、良いのかい? マミ。私、箸持ってないよ」

「ふふ、気にしないわ。ちゃんと持ってきてるもの。さ、食べて食べて」

 

 なんだろう。今日のマミは随分と優しいな。

 どうしたのだろう……でも嬉しい。人が作ってくれたお弁当だ。

 

「……いただきます」

「どうぞ。感想聞かせてね?」

 

 エナジーバーの濃厚な味を期待していた胃腸を裏切ってしまったが、マミの手作り弁当だ。

 きっと、エナジーバーにも勝るとも劣らない美味しさに違いない。

 

 

 

 一品食べ。もう一品を食べ。

 そうして夢中に箸を動かしていたら、いつの間にか箱の中身は無くなっていた。

 残ったのは、程よい満腹感のみだ。

 

「……ごちそうさま、美味しかったよ」

 

 完食。丁寧に作られた、とても美味しい弁当だった。

 塩味の効いた食事も好きだけど、なんというかマミの作ったこれには……本当に身体に良さそうな、何かがあるような気がする。

 

「ふふ、明日もまた持ってくるね」

「良いのかい? 嬉しいけど……やけに上機嫌だね」

 

 不自然なくらい親切にされて、正直ちょっと困惑している。

 

「……魔法少女が魔女になるといっても、今じゃない」

 

 マミはぽつりと呟いた。

 

 ……ああ、そうか。なるほど。

 

「もちろん。いつかは今じゃない」

「ふふ……それに、ソウルジェムが真っ黒になるだなんて……魔女退治に慣れてきた今では、あまりないもの。心配するのは、時期尚早だよね」

 

 マミはそう言って、笑ってみせた。

 私もそれに答えるように、薄く微笑みを返す。

 

「大丈夫さ。悲観することはない」

「うん。……昨日は、本当にごめんなさい。私、動転して……」

「良いんだよ。私も、変なタイミングで教えちゃったから。こちらこそ、ごめん」

 

 マミはマミなりに、自分の考えを纏めたらしい。

 ……私の思っていたほどに、今は思い詰めていないようだ。

 

 本当に、良かったよ。

 

「――やれやれ、暁美ほむら。君は一体、どこでその知識を得たんだい?」

「!」

 

 だがそんな空気に水を差すかのように、扉から白猫が現れた。

 キュゥべえである。

 

「……ふむ」

 

 改めて、キュゥべえを見て思う。

 

 

 ――こいつは駄目なのだと。

 

 

 何故か? 理由など簡単だ。

 目がなんか無機質だし、子供にウケなさそうだからである。

 それは私の偏見だったが、おそらく大きく間違ってもいない事実であろう。もうちょっと大きめの、くりっとした感じの方が良い。

 

「キュゥべえ……」

「やあ、キュゥべえ。しかしなんだ、君こそ酷い奴だな。魔法少女が魔女になることを、マミには教えていなかったんだろ? 今回のトラブル、君もちょっと悪かったんじゃないかな」

「長い付き合いだから、友達だと思っていたのに」

 

 マミの声にはちょっと険がある。

 彼女もまた、魔法少女の真実を彼から知らされていなかったことに思うところがあるのだろう。

 

「聞かれなかったからね、昨日も弁解はしたじゃないか」

 

 そしてこの答えである。

 駄目だね。そんな受け答えじゃ少女の心は掴めないぞ。

 

「あなたが、隠していたんでしょ?」

「グリーフシードの濁りが限界まで達したとき、死に至る。それは紛れもない事実だよ」

「なるほど確かに」

「っ……暁美さんまで……」

 

 聞かれてないから言ってない。

 酷い言い草である。だが、そう言われてはどうしようもないのもまた事実だ。

 

 水掛け論に終始するのも疲れるだけ。

 私はこの言った言ってないについては、追求しないことにした。

 

 ただし。

 

「なあ、キュゥべえ。それはそうと、君に聞きたい事があるんだが」

「ほう、君から聞くのかい? 興味深いね」

 

 聞かれたことに答えるのであれば、色々と聞かせてもらうがね。

 

「まずひとつめ。因果の量で、魔法少女としての強さは決まるんだよな」

「概ねその通りだよ」

「では、因果とは一体なんなんだい?」

 

 私が聞くと、キュゥべえは首を僅かに傾げた。

 

「それを知ってどうするつもりだい?」

「どうもしないしできないが、まどかの因果が膨大なものだと聞いてね。心配になったんだよ」

「鹿目まどかか。彼女はとても興味深いよ。けど、彼女に関わっている因果の量については、正直なところ僕にもわからないんだ」

「本当なの?」

 

 マミはキュゥべえの態度に訝しげである。

 

「疑問が多いのはこちらも同じなんだよ。マミ、暁美ほむら」

「ふむ……」

「本当、どうしてまどかの因果がこれほど突出しているんだか。僕だって知りたいくらいだよ」

 

 まどかの因果については、キュゥべえも知らない、と。

 謎は深まるばかりか……。

 

「……ではふたつめ。キュゥべえ、私とマミとでは、魔法少女に関する知識の量に差があるようなんだけど?」

「何故それを僕に聞くんだい? それこそ逆に、僕が君に訊ねたいくらいだよ」

「結局何もわからないのか。役に立たない白猫め……黒くなって出直してきなさい」

「わけがわからないよ」

 

 キュゥべえは色々と知らないことがある。それは本当だろう。

 だが同時に、まだ何かを隠しているように感じる。

 

 ……なんだったか。こいつには確か、何らかの目的があったはずだ。

 

 こいつは魔法少女を増やし、グリーフシードを集め、そして……。

 それで、ええっと……そこからは思い出せないのだが。

 何か、あったはずだ。

 

「……いきましょう、暁美さん」

「ああ」

 

 ともあれ。

 マミは、もうキュゥべえを心の底から信用することはないだろう。

 今回の一件で彼女が覚えた不信感や怒りは、それだけ大きいものだったのだと思う。

 仲直りをするには、時間と気の利いたプレゼントが必要になりそうだ。

 

 とはいえ、キュゥべえを特別敵視するような理由は、私にはないのだが……。

 でも私は何故だか、彼と距離を取るそれが“最善”なのだと、心のどこかで安堵していたのだった。

 

 

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