虚飾の魔法と嘘っぱちの奇跡   作:ジェームズ・リッチマン

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君の願いはようやく叶う

 

 手早く着替え(というより変身を解いて)、時間停止で女の子たちの砦を抜けだし、マミたちと合流する。

 突然消えて近くに現れた私に二人は大層驚いていたが、まぁいつものことである。

 

 別段変わらない、さわやかな昼間の見滝原。

 街ゆく大人たちは自殺しそうな、そうでもないような無表情で、どこかを目指して歩いている。

 人々の顔というのはまったく心象に関わらず無表情なので、何を考えているのかわからない。

 結局、魔女を探すにはソウルジェムの反応を見るのが一番ということか。

 別に今、魔女を探しているわけではないけれど。

 

「暁美さん、聞いてる?」

「ん、ん? 何かな」

「もう」

「真面目に聞いてよー」

 

 さやかにまで怒られた。申し訳ない。

 

「モールをめぐるのも楽しい日和だけどね、今日はちょっと、大事な話につきあって欲しいのよ」

「あれ? まどかを抜きに遊ぶんじゃないのか」

「本当に大事な話だからね」

 

 彼女の表情は真摯なそのものだった。

 ふむ、冗談めかす空気ではない。それだけの重要な案件というわけか。

 

「……急ぎじゃなければ、ほむらに聞いてほしいんだ」

「ふむ」

「言ってくれたよね、その時は相談に乗るって」

 

 ……まさか。

 

 

 

 

 

『………魔法少女が、魔女になる……?』

『それがソウルジェムに隠された最後の真実……いえ、罠というべきなのかしら』

『……魔女を倒す魔法少女が、魔女に……』

『必要な覚悟っていうのは、つまりはそういう事なの。美樹さん』

『……』

 

『わかるかしら。ソウルジェムが魔女を産むなら、私達、魔法少女は……』

『魔女……じゃあ、私たちは、ソウルジェムが濁る前に……』

『どうかしら。ショックだった?』

『……はい、かなり』

『ふふ、正直ね……私も聞いた時は取り乱したわ』

『マミさんが?』

『魔法少女になってから知るのでは、遅すぎたから……』

『……マミさん……』

 

『……繰り返しだけど、決めるのはあくまでも美樹さん自身』

『は、はい』

『早死にするかしないかの決断よ……怯えて良い、恐れていいから……正直に、答えを出してね』

 

 

 

 

 

 私はさやかとマミに連れられ、いつぞやのハンバーガーショップに来た。

 客の入りは悪くないものの、店内が広すぎるため、がらんと空いているように見える。

 ここで掃除などはしたくないなと無関心に思う部分もあるが、座る側からしてみれば常に他人との距離を置けるので、込み入った話をする分には素晴らしい店だと思う。

 ひねた言い方でもってまわったが、つまり私はこの店がお気に入りだった。

 

「……ごぼぼぼ」

 

 頬杖をつき、コーラに息を吹き込む。

 

「暁美さん、行儀悪いわよ」

 

 マミに怒られた。私のコーラの海底噴火が収まった。

 

「……マミさんから、話は聞いたんだ。ソウルジェムが濁りきった時に、どうなるかも」

 

 なるほど。さやかは既にマミに相談し、マミから魔法少女の奥まった話も聞けた、と。

 

「さやかは、それを聞いてどう思った?」

「……ひっどい話だなーって」

「うん、正直だ」

 

 酷い話。その通りである。

 残酷で、陰険な話だ。

 

 魔女になるのを怖くないと言い出したら、この場でさやかの顔にコーラを噴霧してやっていたところである。

 

「希望を振りまく魔法少女が魔女に……うん、本当にショックだった」

「だろう」

「でもね、それを聞いてより一層……覚悟は固まってきたんだよ」

「ふん?」

 

 さやかはプラスチックの安っぽいマドラーを手でいじりながら、しかしその目はマドラーの向こう側に何か燃えるものを見つめているかのように、煌めいていた。

 

「魔女がどういうものか、わかったからね……むしろ、私はそれを聞いて、願い事に真っ直ぐ向かい合えたような気がしたよ」

 

 穏やかなさやかの表情。それは見慣れないけど、どこか彼女に似合っていた。

 

「ならば……確認しよう。これだけは、確認しなければいけないことだ」

「うん」

 

 目に魔力を込めて、さやかを睨む。

 仄かに光っているはずの私の目をまっすぐに見据え、さやかは唾を飲んだ。

 

「いざという時に。自分のソウルジェムを砕く覚悟は、あるかい」

「ある」

 

 怖いくらいまっすぐな目をする子だ。

 

「最後に魔女を一体始末できるのなら、そんなの構わない。自分が魔女になるなんて……それは、絶対に許さない」

「……わかった」

 

 目の魔力を抑え、私はお行儀悪くも、机に肘をつく。

 

 ……彼女は。

 自己犠牲を厭わない。他人を放っておけない。

 そんな、正義の味方としてはぴったりな人間なのだろう。

 

「魔法少女。なりたければ、なるといい……さやかの気持ちはわかったよ」

 

 こうなった人は、だいたい他人の意見なんて聞かないタイプだ。

 そもそも契約は本人の意思によるものだし、私がどうこう言う問題でもない。

 

 それに……何故だろうね。さやかは魔法少女が似合っていると、私は思うのだ。

 

「ありがとう、ほむら……!」

「ふふ。これから頑張ろうね、美樹さん」

 

 彼女は真面目に悩むタイプだ。

 全ての真実を知って、なお悩んだ末に出した答えならば、もはや私から言うことはない。

 彼女の人生は、彼女のものだ。

 

「……でも、教えてほしいな。さやかはどんな願い事を叶えるつもりなんだい?」

「えっ」

「それが本当に奇跡無しには遂げられないのなら、願いにしても良いけど……私達で可能であるならば、いくらでも手伝うよ?」

「……ほんとに?」

 

 さやかはキョトンとした顔で、私とマミを見比べた。

 

「そうね、私達の魔法の力で可能な事なら、それは力になってあげたいわね」

「……う、うーん……」

 

 しかし、さやかはどうしても物凄く、気の進まない顔をしている。

 

「どうしたさやか。不都合でもあるのかい」

「いや、別にそういうわけじゃないんだけどさ……」

 

 彼女は赤くなった頬を掻きながら、苦笑した。

 

「なんていうか……二人にこういうこと言うの、なんだか恥ずかしくて」

「……ああ、男か」

「だっ! だからそういう言い方はなんかちょっと汚い!」

「ふふふ」

 

 


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