虚飾の魔法と嘘っぱちの奇跡   作:ジェームズ・リッチマン

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分割払いの暴利な魔法

 

「おっと、城についたな」

「本当に城だなー」

 

 たどり着いた最奥部は、和式の城だった。

 とはいっても、今から天守閣目指して登るわけではない。この木製の大きな扉を開ければ、すぐに広大な魔女部屋が待っている。

 中に入れば、すぐさま戦闘だ。

 

「さて……これから魔女と戦うかもしれないけど、みんな気をつけて観戦してくれよ」

「う、うん」

「大丈夫、私達が守っているわ」

「よろしく頼むよ」

 

 まぁ、よろしくとは言ったけど……今回に限っては本当に心配しなくても大丈夫だ。

 むしろ魔女の攻撃よりも……まぁ、それはこちらも気をつければ良いことか。

 

「……今回の戦いで」

「ん?」

 

 杏子はいつになく真剣に、私の目を見つめていた。

 

「ほむらがワルプルギスの夜と戦えるのか……見させてもらうからな」

 

 杏子はほとんど浮かれていなかった。

 彼女はこの中でも、近づきつつある大災害に並々ならぬ危機感を抱いているらしい。

 

 ……まさか、ここまで他人を思いやれる子だとは。

 わからないものだね。暁美ほむら。

 

「ふ、大丈夫。楽しんで見ていて」

 

 そんな彼女に、私は余裕しかない微笑みを振りまくのだった。

 

 

 

 ぎい、と扉が開くと、そこは漆喰の壁の通路だった。

 もう少し歩くことになるだろうが、使い魔が出てくることはない。ここに来るまでの極小数な奴らが、今回の“ひな祭りの魔女”における使い魔の全てである。

 だからみんなの緊張感をよそに、廊下を歩き終えるのはあっというまのことだった。

 

 通路を抜けたその先には、巨大な空間が広がっている。

 

 今までも和風とはかなり趣の異なる、レッドカーペットの敷かれた大広間だ。

 広くて天井も高い。魔女も私も、暴れるには丁度いいスペースだ。

 おあつらえ向きにレッドカーペットの外側は十メートルほど高いひな壇になっており、観客も比較的安全に楽しめる特別仕様である。

 

「ほっ、と」

 

 私は皆の居る高い場所から、魔女と同じフィールドへと降り立った。

 

「……OHHH!?」

「やあ、君が魔女だな」

 

 そしてあれが今回の魔女(犠牲者)

 空間の中央に浮いている、四メートル近くの背を持つ巨人。ひな祭りの魔女である。

 

 魔女はこちらに顔を向け、咆哮をあげている。

 身なりから察するに、あれはお内裏様だろう。お雛様はいない。

 

「ohhHHHHH!」

 

 お内裏は刀を抜き放ち、和装束をばたばたと靡かせながらこちらへ跳んできた。

 その素早さは、さやかの瞬発力と同じ程はあろうか。

 

「来るわよ暁美さん!」

「ほむらちゃん!」

「何、うろたえる事などないよ」

 

 

 *tick*

 

 

 便利なこれがあるからね。

 逆にこれがなかったら私はものすごい勢いで真横にヘッドスライディングして退避を図っているだろうが、これさえあれば何の憂慮もいらないというものだ。

 

 

 *tack*

 

 

「4.猛獣退治の鞭」

 

 盾を翳すようにして左腕を前に向け、盾を開くだけ。

 少なくとも皆にはそう見えるモーションだ。

 そうするだけで、私の盾の入り口からは大きな炎が噴き出した。

 

「OhHHHhH!?」

「わ!?」

「これは……!」

 

 私の盾から噴き出した炎は螺旋状に吹き抜け、魔女に着火すると共に大きく炎上した。

 こちらへ跳び込もうとしていた魔女は堪らず止まり、というよりも爆風に押しやられ、後方へと吹き飛ばされた。

 

「すごい……はじめて見る魔法だわ!」

「今のどうやって……!?」

 

 企業秘密である。ガソリンがあれば、頑張ればみんなもできるけど。

 

 ……しかしまだまだ、ワルプルギスの夜に勝てると思わせるには押しが弱いな。

 

 こんな魔女程度、倒そうと思えば方法はいくらでもある。

 だが、もっとも私の強さを誇示する方法で倒さなければ、この場で皆は納得してくれないだろう。

 

 皆が納得できなければ、私の計画は成り立たないのだ。

 

 

 *tick*

 

 

 だから全力で、私の盾の中の全戦力をもって、この雛祭りの魔女を倒す。

 

 下手をすればグリーフシードすら砕け散る可能性があるが、それも仕方ないだろう。収支マイナスなど甘んじて受け入れる他あるまい。

 なんといっても、私はキュゥべえにすら“強い”と思いこませなければならないのだから。

 

 

 *tack*

 

 

「5.ホーミングフレア」

 

 

 盾の中から八条の爆炎が伸び、緩い弧を描いて魔女に直撃する。

 魔女は再び強く炎上し、動きを止めた。

 

 

 *tick*

 

 

 休んでいる暇はない。

 どんどんいくぞ。

 

 

 *tack*

 

 

「6.脱出できないチェーンプリズン」

 

  燃え上がり悶える魔女の巨体を瞬時に鎖が四肢を束縛し、巨大な金属の杭によって鎖を固定。

 悶え暴れることすら許さない。

 

 

 

 *tick*

 

 *tack*

 

 

「7.ノータイム時限爆弾」

 

 魔女の真下からダイナマイトが炸裂する。束縛された魔女は真上に吹き飛ばされるだろうが、全身を過剰に縛り付ける鎖がそうはさせなかった。

 束縛する鎖の大半が吹き飛ぶその威力にも魔女は耐えたようだが、この先そう長くは保たないだろう。

 まるで拷問だが、仕方ない。

 もっと派手さを出してみよう。

 

 

 

 *tick*

 

 *tack*

 

 

 

「8.大砂漠の大嵐大作戦」

 

 

 私が立つ魔女空間の床、その全面が爆発した。比喩ではない。全力の爆発である。

 しかも一度だけではなく、2度も3度も爆発し、結界空間を完膚なきまでに破壊してゆく。

 

 赤いカーペットは一発目で剥がれ、二発目で漆喰の床が大きく削がれ、三発目でその下のよくわからない材質の部分まで破壊された。

 魔女は……ここからでは良く見えない。砂や土煙がひどすぎて、安否は定かではなかったのだ。

 

 暁美ほむらが集めておいてくれたグリーフシードのおかげで、ある程度の無茶な演出が可能である。

 ソウルジェムに休息を与えつつ、私の悪戯……もとい、魔法の披露は続く。

 

 

 *tick*

 

 *tack*

 

「9.バンホーのハナビ」

 

 私のかなり真上から、巨大な炎の柱が飛んでゆく。

 炎の塊は魔女へと突撃をかますと同時に、辺りにたちこめていた土煙を一掃した。

 

 開けた視界には魔女……らしき面影の、何か……がいる。かもしれない。

 炎の塊の直撃を食らい、燃え上がっているが……。

 

 とにかく形っぽいものは残っているので、相手をすることにしよう。

 

 

 *tick*

 

 *tack*

 

「10.資本主義の流星」

 

 右手を上にかざし、指を鳴らす。

 すると魔女空間のほぼ真上から、十個ほどの影が猛スピードで飛来し、魔女に着弾した。

 

 私お得意のRPGの弾頭である。

 一発や二発ですら魔女を倒せるので、さすがにここまで使えばこの魔女も即死せざるを得ないだろう。

 なので、このままオーバーキルだとわかっていて、なおも追撃する。

 

 結界が崩壊するまでが、今回の私の戦いだ。

 

 

 *tick*

 

 *tack*

 

 

「11.キングダム」

 

 和洋中、様々な時代、様々な文明の刀剣類が荒廃した床から生え、刃を上にして伸びてくる。

 そのうちの槍やランスといった、長めのものは魔女の真下から大量に出現し、焦げた何かを貫いた。

 

 

 *tick*

 

 *tack*

 

 

「12.地獄の一通」

 

 自動車標識が魔女のすぐ真上から何本も、突き刺すように落下する。

 そこに魔女がいたかどうかはわからないが、とにかくそれらしき場所に落としてやった。

 

 

 *tick*

 

 *tack*

 

 

「13.マヂギレボーヒーズ」

 

 魔女の面影がなくもない煤けた小山に、五機のチェーンソーを突き刺した。

 ガリガリと轟音を立てて、砂やら魔女やらを切り刻んでゆく。

 

「……このくらいかな」

 

 そんなこんなと暴れ回った所で、ようやく結界は消え始めた。

 ほぼ最初にだけ魔女は声を出していたが、そこから先は終始無言だった。

 きっとかなり前の段階で決着はついていたのだろう。私の連撃が速く、容赦がなかったせいでこんなにも長引いたのである。

 

 からん、とグリーフシードが路地裏に落下する。そして針のように細い部分を支点に直立した。相変わらずミステリアスなアイテムである。

 

 私はそのグリーフシードを取って、自分のソウルジェムに近づけるが……。

 なんと、私のソウルジェムは濁っていない。驚きである。ハハハ、これっぽっちも魔力を使わなかったよ。楽な相手だね。

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 うん、何か言いたげというか、みんなのその沈黙はわかるよ。

 

「やれやれ、ショータイムにすらならなかったな」

 

 それでも私は、さわやかそうな風に腕で額を拭うのだ。

 

 当然、言うまでもないことだが、嘘である。

 

 実際のところ、何分も何時間も止まった時間の中で動き回っていたせいで、魔法少女の身体でも満身創痍だった。

 ソウルジェムだって途中で何回浄化したかわからない。仕掛けの途中でミスして怪我だって負っている。それを表に出しておらず、巧妙に隠していた。それだけに過ぎない。

 

「ん、どうしたみんな。これが私の魔法だよ」

 

 誰からも返答が返ってこない。

 皆、顔が引きつっている。まどかとさやかはちょっぴり泣いている。

 私だって第三者であれば泣いていたかもしれない。それだけのことはやったつもりだ。

 だからこそ、皆のこの反応は私の求めていたものだった。

 

「……なんていうか……」

「なんでも……アリなのか?」

「……ふふ」

 

 衝撃はかなり強かったみたいだが、無事に作戦成功、といったところらしい。

 

 


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