Fate/Corruption Justic 作:らららい
攻撃を受けた衛宮士郎の体は倒れ、後一撃で倒せるという状態だった筈なのだが何かがおかしい。
奴の体から流れ続けていた血は止まり、外にさらけ出されていた筋繊維はいつのまにか皮膚で見えなくなっている。それを見た瞬間、1つ忘れていたことを思い出した。
そうか、彼女の鞘。
切嗣が奴の命を救うために埋め込んだ聖遺物か。
確かにあの聖遺物には、傷を治す力があった。だが、その鞘に収めるべき聖剣は存在せず、聖剣の担い手たる彼女もこの世にはいない筈だ。ならば、何故……
えも言われぬ違和感に警戒し、干将・莫耶を投影して衛宮士郎に投げつけた。だがそれが彼の肌を傷つける事はなく、衛宮士郎はその手にいきなり出現した黄金の靄でその一撃を弾く。
衛宮士郎が俺の放った一撃を防いだ時、セイバーが何か助力をしたのではないかと疑った。そちらの方が、彼女の鞘が発動して回復したという事よりも現実味があったからだ。
だが横目でセイバーを見てみると、助力するどころか助けようとした凛を止めている。
くそ、訳がわからない。
俺は、その不安を掻き消すかのごとく衛宮士郎に向かって叫んだ。
「貴様、一体何をした!」
俺が問いかけたにも関わらず衛宮士郎はそれを無視した。よくよく見てみれば、何かをブツブツと呟いているのが分かる。
また一つ、不安が増えた。
すぐさま近づき、剣を振り下ろすが。
「——————」
衛宮士郎は黄金の靄でそれを受け止める。
俺は、そんな衛宮士郎の様子に違和感を感じた。
それに、はっきりと間合いが分からない靄も相まってその戦い方はまるで彼女の………
剣を振るい続けその考えを断ち切った。目の前の男と彼女を重ねるなど、自分の事がさらに嫌になってくる。
そして、その際に衛宮士郎が呟いている内容が聞こえた。
「———基本骨子成形、否、これじゃない。基本骨子成形、完成だけどまだ。基本骨子成形、否。基本骨子成形、だめだ。基本骨子成形、まだいける。基本骨子成形、違う。基本骨子———」
ゾクリとした悪寒が背中を駆け巡り、反射的に衛宮士郎と距離を取る。多少の隙ができたはずなのだが衛宮士郎はその間を詰めようとすることはなく、ただそこでブツブツと何かを言い続けるだけだった。
すぐに攻撃を再開させたが、衛宮士郎はこちらに攻撃しようとしてこない。いくら攻撃しても、衛宮士郎はそれを防ぐだけだった。それも、防ぐだけで精一杯の防御では無く、ある程度余裕を持った防御で。
焦燥し、攻撃の手を速める。およそサーヴァントでしかついてこれないであろう速度の攻撃も衛宮士郎は難なくと受け止め続けた。
明らかに衛宮士郎の技術ではない。だが、それがなんなのかは見当もつかなかった。憑依経験という魔術で他の者の経験を自らに憑依させているとしても、
その疑問を胸に秘めながら幾度もの攻防を繰り返した後に、衛宮士郎のつぶやく言葉が変わった。
「全工程終了。創造解図完成」
そして、衛宮士郎は今までこちらを見ていなかった瞳をこちらに向け、真っ直ぐに俺を見つめる。
「お前は正しいよ」
……………正しくなどない。俺が歩んで来た道は、俺が殺した者達の骸で埋め尽くされているのだから。
どれだけの人を救っても、その罪が消えることはない。それ程までに人を
その救いたいという気持ちですらも自らのものではないと知りながらも、正義の味方を張り続けた。そんな男が正しい筈などない。
「確かに、お前は沢山の人を殺してきた。それは消えることはないし、消えていいものでもない。でも、お前は人を
「その正しさは、誰かの犠牲の上にあっていいものではない」
「ああそうだよ」
衛宮士郎は一歩詰め寄る。俺は無意識のうちに一歩引いてしまった。
「誰かの犠牲の上にあってはいけないものだ。けれど、誰かの犠牲の上にあったとしても、人を救うと言う行為は間違いじゃないんだ」
そう頭では納得しているのにも関わらず、俺はまた一歩後ずさりしてしまった。
「もしお前が今までの人生に後悔しかないのなら、もしお前が救ったという事を胸を張って正しいと言えないのなら、俺が目を覚まさせてやる」
「
「それでも、お前は正しい。やり方を間違えたとしても、結果が満足のいかないものだったとしても、お前は確かに人を救ったんだ」
だから!と、衛宮士郎は叫ぶ。手の中の靄を輝かせながら、声を震わせる。
「俺がやる!」
衛宮士郎の剣に力がこもっていく。だんだんと、だが確実に。
獅子のような闘気をまとい、衛宮士郎は一歩踏み出す。
「お前が救えなかった者達を、俺が救う!」
衛宮士郎はどこから力を出しているのか、俺を弾き飛ばした。だがやはり追撃をして来ることはなく、黄金の靄を掲げるだけだった。
「俺にできなかった事を貴様が成し遂げるだと?俺は貴様の完成形だ。貴様がこの道を進み続ける限り、どう足掻こうとも俺に追いつく」
「ああ、俺が完成した時に満足してしまったらな」
衛宮士郎の掲げる靄はだんだんと形を成していき、だんだんと一振りの剣になっていく。
「俺は全てを救うまで満足しない。例え完成したとしても、満足できない」
強欲だ、と思った。そして傲慢だとも。完成した自分が救えなかった者達をまだ完成していない自分が救うだと?そんなの、小学生でも無理だとわかる。
だというのに、この男はそれをやると言っている。
普段の俺ならば、この言葉を聞いた時に嘲笑するのだろう。なんて傲慢なんだと。だが、今の俺にはそれができなかった。それ程までに、衛宮士郎の放つ気迫は凄まじいものだった。
「お前はそれで納得できないだろう。だから、お前を倒して納得させる。こいつなら任せられると、安心させてやる」
衛宮士郎の掲げる靄はもはや剣と言っていいほどまでに形が形成されている。未だに輪郭がぼやけている以外は、ほぼほぼ剣と言っても過言ではないほどに。
「いくぞエミヤシロウ!お前が零したもの、お前が救ったもの、全てまとめて救ってやる!」
そして衛宮士郎は掲げる靄を輝かせ
「衛宮流投影術・零式!」
空気中の魔力の流れが変わる。衛宮士郎の靄を中心として渦を巻き始める。
「
靄が晴れ、衛宮士郎の掲げる剣があらわになる。
その剣は、金色と青色の簡素な装飾がされた西洋風の剣だった。その剣が、黄金の輝きを放っていた。その剣とそして衛宮士郎が言った言葉を聞き、記憶の根底にある一振りの剣を連想する。だが、明らかに違う剣だ。装飾の模様や、長さなど違う部分がいくつもあった。それに、この衛宮士郎がこの剣を知っているはずがない。
なのにも関わらず、あの剣と同じ輝きを放っていた。
それがなぜなのか思考する暇もなく、瞬時に感じ取った懐かしさと違和感を抱きながら、俺は咄嗟に自身最大の防御をとる。
「
俺が魔術を展開するのと、衛宮士郎が投影した剣を振り下ろすのは、ほぼほぼ同時だった。
「
「
俺の目の前に薄紅色の花弁が展開され、衛宮士郎の剣から放たれる光の粒子を受け止める。魔力が足りないのかそれとも迷いがあるのか、1〜6枚は瞬時に叩き割られた。
かろうじて7枚目は保っているのだが、それもすぐに崩れるだろう。
だが、ここで折れてはいけない。衛宮士郎が俺を納得させるというのなら、限界のその先まで耐えなければならない。その上で叩き潰されない限り、決して納得などできないだろうから。
俺は残魔力を全て回し、衛宮士郎の光の奔流を防ぎ続けた。
数分、あるいは数秒かもしれない。それ程までにこの時間は俺にとって濃厚なものだった。
7枚目の盾にヒビが広がり、その間から光が漏れてくる。つまり、正面から戦って俺は負けたのだ。
フッと笑い、現実を受け止める。だが、7枚目の盾が砕けてもすぐに光が俺を飲み込むことはなく、俺は横にとんでそれを避けた。
結果からいうと俺は死ななかったが、避ける際に少しだけ光に掠ってしまった左腕はすぐに消し飛んでしまった。すぐさま、触れた瞬間に。
片腕をなくした影響か私のUBWは消えてしまい、風景は教会のものに変わっていく。恐らく私は、あと数分で消え去るだろう。だから、その前に衛宮士郎に問いておきたいことがあった。
「なあ、衛宮士郎。貴様は、何をもって『正義の味方』だとする。何をもって、『救った』とするのだ」
衛宮士郎は手に持っていた剣を消し、間髪入れずに答える。
「『正義の味方』は、人を救う存在だ。そして、人が幸せだと感じる、もしくは物事に納得できるようにするのが、『救う』という行為だと思う。少なくとも、俺はな」
苦笑し、納得する。
ああ、目の前の男は絶対に俺の様にはならないな、と。
ぼんやりとした物を正しいと信じ、何が正しいのか最後まで定義する事の出来なかった俺の様には、絶対にならないだろう。
『正義の味方』という存在をただの己が存在意義にしてしまう事は、決してないだろう。
「じゃあ、衛宮士郎。最後に、もう一つだけ」
衛宮士郎は、驚く程穏やかな顔で俺の問いを待った。
それを見た瞬間俺はこいつなら大丈夫だと心から思えた。この顔を見て、爺さんのことを思い出したのだ。俺が憧れた存在と目の前の男は完全に一致し、俺にとってこの男は『正義の味方』となった。
その事実だけで、十分だ。
「貴様は、何故人を救う」
今度も、即答だった。
「救いたいから。俺の手で、人を幸せにしたいから」
救いたい、か。
恐らく、俺の『救いたい』と言う感情と衛宮士郎の『救いたい』と言う感情は全く同じものなのだろう。その根元から、結果まで。
けれど、衛宮士郎はきっと絶望などしない。この戦いで、そう感じたのだから。
「ああ、そうか」
この時俺はどの様な顔をしていたのだろうか。自分ではいつも通りだと思っているのだが、衛宮士郎の顔を見るとどうやら違うらしい。
驚いた様な、嬉しい様な、温かい様な、そんな顔をしている。
俺は、天を仰ぎ目を瞑る。
きっと、俺のあり方は今後も変わりはしないだろう。変わらずに人を
ああ、そうだ。帰る前にもう一つだけ……
「なあ、最後に…」
衛宮士郎は、柔らかく苦笑する。
「お前、何回最後があるんだよ」
「はは、確かにな」
俺は、持っていた赤色の宝石を取り出して、衛宮士郎に渡した。
「それを、遠坂に渡しておいてくれ。それと、伝言も」
「分かった。なんて言えばいい?」
長年伝えたかった言葉を思い出す。幾たびもの後悔の中で、ずっと言いたかった言葉。けれど、もう言えないはずだった言葉を。そして、今言いたい言葉を。
「今までありがとな、遠坂。俺はもう大丈夫だから。だから、じゃあな」
伝えたい事は伝えた。衛宮士郎は、俺が渡した宝石を大切そうに持つと、俺が消えるまでそこにいた。
足から順に光の粒子と消え、最後に目に映ったのは駆け寄ってくる遠坂の姿だった。
遠坂が何かを言っているが、もう聞こえない。
俺は再び先程の言葉を口に出した。ああ、伝言の必要なかったな。
「俺は大丈夫だよ、遠坂。俺はもう、救われた」
その言葉を最後に俺は消え、後には何も残らなかった。