東方死人録   作:nismon

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十五話 出会いは突然に、第一印象っていうのはどうしようもないわけで

 

 さて、私達が今旅をしている理由を再確認しよう。

 

 一番メインの目的、それは神綺を探すことである。サラの肉体と私の右腕に感染った黒い瘴気について見てもらう為だ。勿論神綺以外のそういう類に詳しい人を探しても良いのだが、どちらにしろ神綺の住む魔都パンデモニウムまで行くのが良い、というのはルイズの話である。現在最も魔法の研究がされているのもそこだという。

 

 それに加え、私自身は神綺に殺してもらう(自殺する)という裏の目的も有る。ヘカーティアの口振りでは、私を殺すことは相当頑張れば出来なくも無いらしかったので、恐らく創世神たる神綺ならサクッと出来るのではないか、と淡い期待を抱いている。

 

 そういうわけで私達はパンデモニウムに向けて旅をしていた訳だ。

 しかし新聞には都市の近くの村に神綺様が現れたという話が記されていた。この世界、連絡網がそこまで早くは無いため、今もそこに居るのか、それとももう去ってしまったのかはわからない。

 でも少しだけ回り道になるが距離的に許容範囲内(とルイズが判断した)。ならば一先ずそちらへ向かってみようという事になった。

 という訳で電車、もとい魔車(魔力で動くので)とでも言うべき客車に乗り、その村の近くの駅まで向かう事になった。

 

「儚! そろそろ出発するわよ〜!」

 

 ルイズの声がホームに響く。私は声を張り上げ応える。

 

「すぐ行く!」

 

 売店のおばちゃん魔族に貨幣を渡し、品を受け取りダッシュ、というか文字通りすっ飛んで客車に飛び乗った。

 乗った直後にジリリというベルの音と共に列車は動き出した。

 

「いやぁ、ごめんごめん」

「全く。落ち着きないんだから。それで何買ってきたの?」

 

 サラは私に小言も言いつつ、気になるようで手元を見てくる。

 

「いやあ電車旅って言ったら、駅弁でしょー、って事で買ってきた」

「何よそれ? 弁当関係あるの?」

 

 サラは怪訝そうにそういう。ルイズも私の言葉にイマイチピンときていないようだった。前世の某日本では駅弁は一種ブランドというか、文化の一つだった気がするのだがここはそんな事は無いらしい。

 

「まあ、一度楽しんでみたかったわけよ。ほらみんなの分も買ってきたよ」

「うふふ、ありがとう。そうね、せっかくだもの列車でお弁当食べるのも良いわね」

 

 旅してないとできないことだわ〜、と言うルイズさん。流石分かっていらっしゃる。サラは「むむむ、なるほど」と難しい顔をしている。そんな難しく考えなくて良いんじゃない?

 

 乗り心地は前世の電車と差違無いが、動力はやはり魔力らしい。この世界の魔力、万能が過ぎる。

 そんな感じで私たちは一時の電車旅を満喫するのだった。

 

 

 

 

 

「なんだ? アンタたちあの集落へ行くのかい?」

 

 目的地の集落の最寄り駅(といってもかなり遠い)の駅員さんは改札を通る時そんな事を言った。

 

「何かあるのかしら?」

「ちょっと前に魔族の群れに襲われてね、今まだ落ち着いて無いかもしれんがな」

「あら、そうなの……」

 

 魔族の群れ、というのはいわゆる知能のない木っ端魔族の群れのことだろう。ちょっと危険な害獣のようなものである。

 私は勿論、ルイズにとっては特に気にすることもない存在だが、普通の人間にとってはそれなりに驚異になりうる。

 

「でも大丈夫よ、私達一応魔法使いだから」

「ありゃ、そうでしたか。そいつは失敬」

「いえ、ご心配感謝しますわ」

 

 というやり取りをして私達は改札を抜けたのだった。

 

 さて、そんなこんなで電車に乗り最寄り駅に降りて私達は件の集落へと向かっている、のだが。

 

「何だか随分奥まったところに有るね」

「ゼーッ、ハー、ハー」

「大丈夫?」

「ゼーッ、大丈夫に、決まってるでしょ!」

 

 隣でサラは息を上げている。

 サラの体力が無いという話ではない。道がおかしいのだ。私が人間だった時も恐らく同じようにグロッキーになっていただろう。

 私達は茂った森の中を歩いていた。かれこれ数時間。足元に一応ギリギリ道と呼べるほどの轍が有るので多分ルートは間違ってないのだろう。

 

「この辺は田舎だからしかたないわ」

 

 とおっしゃるルイズさん。田舎。田舎……?

 富士の樹海の中のようなこの場所も彼女にしてみれば人の住んでいる「田舎」らしい。自分の中の田舎の概念を更新しようと思う。

 

 この世界。近代もびっくりな街や都市が有ると思えば、なにやらアマゾンの奥地の先住民族もびっくりするくらい原始的な田舎も有る。いや、地球も変わらないか。

 しかしそんな田舎だろうと都市だろうと、大体言語は通じるというのだからビックリな世界だ。なんでも神綺様は言語を一つしかお作りにならなかったらしい。その点は前世の創世神より有能なのかも。

 

「ちょっと前にこの辺で魔族に襲われたらしいって話も有るし気をつけていきましょう?」

 

 とルイズはサラに向けて言う。当のサラはそんな余裕はサラサラ無い。

 あ、ちょ。睨まないで。 

 

「話だとこの辺だけれど」

 

 そう言ってルイズは辺りを見回す。

 GPSの様な高度な通信技術はこの世界には存在しない。そしてこんな樹海の中の村までの精巧な地図も有るわけが無く、先の都市で仕入れたざっくりとした地図に、距離と方角の情報だけで進んできたのだ。

 

 それでも迷い無く先導するルイズは、やはり流石の旅人だ、と思う。

 ルイズに倣って私も周りをキョロキョロと見る。なお、サラは膝に手をついて肩で息をしている。

 

「お、多分そろそろだと思うよ。なんか家っぽいの見えたし」

 

 辛うじて判別の着く轍の遙か向こうーー多分私にしか視認できない距離に人工物が有るのを確認した。

 

「ゼーハーッ、アンタ本当よく見えるわねぇ」

「きっとそこが目的地ね。その視力羨ましいわ~」

 

 能力の面目躍如である。私に距離なんて有ってないようなものなのだ。

 と、ドヤって居たら私だが。唐突にその視界に何か違和感を感じた。

 

「……ん?」

「どうしたのよ」

 

 サラに聞かれるがすぐに答えることが出来なかった。しかし、私は何か視界に違和感を感じたのだ。

 ……そう、私の視線の「向き」がおかしい。

 数瞬悩んだ後、その正体に気づく。

 

 何だ?

 視線をねじ曲げる……魔法? 結界?

 だとしたら何でこんな所に?

 

 そう悩んだ私は瞬きをした。

 

 そして視界は燃え上がった。いや、燃え上がっていた(・・・・・・・・)。

 

「伏せて! 耳塞いで! 口開けて!」

「えっ、ちょいきなりどう、んぎっ!」

 

 文句を言う前に私は近くのサラを地面に倒す。ルイズはすぐに体勢を整えていた。流石だ。

 そして直後に辺りを熱線が過ぎ去る。

 続いて地を震わす轟音と爆風が一面を根こそぎ凪いでいく。

 爆発は嫌いだ。

 だというのにどうしてこうも縁があるのかな……。

 

(さっきの違和感はこの爆発を隠してた結界の類)

 

 殺人的なその衝撃をを能力でいなしつつ、私は一瞬前の事を思い返す。

 視界を誤魔化す結界で爆発自体を隠していた可能性が高い。つまりこの爆発は何らかの思惑によって起こされた可能性がある。

 そこまで想像した所でようやく爆風が収まり始めた。

 

「ルイズ! 無事!?」

 

 何とか立ち上がれるほどに爆風が収まった所でルイズに声を掛ける。サラは今の衝撃で目を回しているが、私に抱えられていたため無事だ。しかしルイズとは距離があったため安否がわからない。

 爆発はあまりにも良い思い出がない。嫌な汗が頬を伝う。

 

「けほっ。何とか、ね」

 

 ルイズの声が聞こえた。そして魔法が使われた気配がする。恐らく治癒魔法だろう。

 無事であるらしい。しかし逆に言えば治癒魔法の必要が有るくらいにはまずかったようだ。

 

「あなた達は大丈夫?」

 

 そういってルイズはこちらに近づいてきた。その細目の顔や肢体に傷は無さそうだが、彼女の着るワンピースには煤や風圧による切れ目が出来、かなりの血痕が見えた。

 

「私達は大丈夫だけど……、いやルイズ。貴女こそ本当に大丈夫?」

「ルイズさん! 血が!」

 

 治癒し終わって今は大丈夫なんだろうけど。見た目がね。良くない。

 サラが気が気じゃない感じになるくらいにはアレな見た目だ。。

 

「大丈夫よ。これくらいの怪我ならよく有るもの」

 

 そうフォローとも言えないフォローをするルイズ。「よく……有る……」とその言葉を反復し少しだけ衝撃を受けるサラ。

 旅の思い出話から薄っすら感じてたけど、なかなかこの嫋やかな美人旅人は修羅場を潜っているのだと再確認した。というよりこの世界がそこそこ物騒なのかもしれない。

 まあ、とりあえずみんな無事だったので良しとしよう。今は。

 

 問題はこれからである。今の爆発は確実に私達の目的地で起きたものだろう。

 再度起きるかもわからないし、ともすればこれを起こした奴(・・・・・・)がまだいるかもしれない。 これだけ離れていてこの威力だ。近くで受けた時のことは考えたくない。

 

「……儚、今の爆発を至近距離で受けたとして。何とかなる?」

 

 と思っていたらルイズがそう言い出した。

 そう言うルイズは暗に「何とかなるなら行く」と示唆しているわけで……

 いや、確実に危険な気がするんだけど。

 勿論私だけだったら喜んで向かっていくかもしれないが、二人もいると話は別である。

 

「それは微妙かな。でも何でそこまでして行くの?」

「もしかすると救助が必要かもしれないわ」

 

 あの規模の爆発では正直望み薄だが、その可能性は確かにある。

 

「この先の集落は『集落が有る』と周知されてるくらいには外部と交流が有るわ。もし……壊滅してるならその状態を近隣の都市に知らせる必要もあるわ」

 

 だから確認しないと、というのはルイズの談。それも旅人の役割よ、と。

 

 ふんわりとしか理解してないが、この世界は国と呼べる体制が存在しない。創造神の神綺が居るからなのかわからないが、各集落の緩い繋がりで社会が成り立っている。

 目的地だった集落は樹海の中にあるようにそうメジャーな土地ではない。

 だからもしこのまま私達が通り過ぎてしまったら救助が来ることはない。

 一番近くの街も距離がある。最悪この爆発の事が闇に葬られたままの可能性が出てくるわけだ。

 とはいえ別の街に行って報告してからでも良いはず。むしろそこで応援やらなんやらを引き連れてきたほうが安全牌というもの。

 

 しかしやはりルイズは要救助者が気になるのだろう。

 普段は糸のような優しいその目が今回ばかりは真剣だった。

 

「はあ、わかったよ。私の手を絶対離さないでね」

 

 まあルイズにそう言われては仕方がない。私は折れることにする。救助も旅の一部だと言うのなら、旅の邪魔はしたくないのである。

 他人に私の能力を掛けるには触れてる必要が有る。複数人に能力を使い続けるのは中々負荷の有る事だが、致し方ない。

 

「ありがとうね、儚」

 

 とお礼を言うルイズ。別にお礼を言われるほどじゃない。

 私一人だったら無視するか、あるいは別の理由(自殺目的)で集落に向かっているだけだ。

 すぐにまだ見ぬ他人のことを思いやれるのはルイズの人柄故。私に礼を言うより自分を誇ってほしい。

 私の手を離さない。次何か起きたら引き返す。などの取り決めをし、私達は手を繋ぎ慎重に集落へ歩を進めることにした。

 

 

 

 

 

 私達は慎重に歩を進め集落、もとい集落だった場所にたどり着いた。その様子は凄惨たる物だった。

 

 表面がデロンデロンに焼け爛れたレンガに手を突っ込んで雑にひっくり返す。もうこの下には生きた(・・・)人は存在しない。

 代わりに出てきたのはもう性別すらわからない数十、数百人分の死体だった。何なら死体とも言えないレベルだ。

 

 生存者を探しつつ、というより実際は遺骨の採集を行っていた。その遺骨ですら原型を留めているものはほぼない。

 

「はあ、……駄目。恐らくこの様子だと殆どが即死ね」

「そうだねー。こう全部吹き飛んでちゃ原因もわからないし、どうする?」

「……もう一周、もう一周だけ見て行きましょうか」

 

 ルイズは悔しそうにそう言う。私は肩をすくめて返答した。

 私の隣に伴われたサラは気持ち悪いのか口を手で押さえている。それもそうだろう。こんな死屍累々という言葉が相応しい光景、そう目にするもんじゃない。

 結局もう一周しても有益な情報は見当たらず、私達は捜索切り上げて近くの町屋都市に報告に行くことに決めた。

 

「じゃあ行こっか」

「ええ……そうね」

 

 三人の間に重苦しい空気が漂う。

 サラに至っては疲労と現場を見た不快感で大分ヤバい感じである。……なんか無理そうだし私がおぶっていこうかな。

 そうして私達はその村の跡から引き上げようとした。

 

 

 

 

「待ちなさい」

 

 

 

 

 凛とした声が響いた。

 声量は大きいものではない。しかしあまりにもその声には存在感が有った。私の能力を使わなくてもわかる。大きい、大きすぎる。

 正しく世界そのものの大きさと言っても過言ではない。今まで短くない時間を神と共に過ごしてきたから解る。

 

 ああ、彼女は本物だ。

 

 ヘカーティアと同じ、いやそれ以上かもしれない。私はそのヒリつくような存在感に歓喜した。

 そしてゆっくりとその神へと振り向く。

 

「神綺」

 

 この世界の創造神、神綺。その人がそこに居た。綺麗な白銀の髪にあどけない顔。それだけだと創造神とはとてもじゃないが思えないが、その背後には禍々しい色の翼が広げられていた。

 そして何よりこの凍てつくような威圧感。可愛らしい容姿が台無しじゃないか。と思う。

 そんな彼女は私の呼びかけに眉を顰めた。

 

「お前は一体、何者だ?」

「ただの魔族だよ」

 

 その答えには納得がいかなかったのか彼女はルイズの方へと向き直った。私から注意を逸らさないまま。

 

「確か、旅人のルイズだったかしら? 以前会いましたね」

「お久しぶりです。神綺様」

 

 突然現れた神綺に戸惑いつつも、ルイズはそう返答した。その様子はどうにもおかしい。

 心当たりはある。というのも神綺の様子がルイズの話と違うからだ。気さくで優しい神であると以前話していた。リオベナコの本屋のおじさんもそう言っていた。

 しかしそれは今、頭上で凍てつくような殺気を纏わせている彼女とは全く噛み合わない。

 

「一つ質問しますね。ルイズ」

 

 神綺は一息つき、静かな抑揚の無い声でルイズへと言う。空気を支配する殺気が増した。

 

「どうしてこんな物(・・・・)と共にいるの?」

「そ、それはどういう……?」

 

 その圧に及び腰になるルイズ。

 ははーんなんとなく話が読めたぞ。ごめん、多分私のせいだ。

 私はニヤリと口の端を持ち上げた。それを隣りに居るルイズはギョッとした気がする。

 

 ああ、彼女には悪いが。私にとっては都合が良い。

 

 

 どうしてだかわからないが、どうやら神綺は私を目の敵にしているらしかった。

 

 

 

 

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