IS~転~   作:パスタン

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 大変お待たせ致しました。皆さんが楽しんで頂ければ幸いです。


赤い流星

 有史以来、人類はあらゆる知恵や技術を駆使して環境への適応を果たしてきた。火を使うことから始まり、道具を作り使うことを覚え、あらゆる分野で理論を構築し、わずか数十人程度の小さな集落はやがて数億の人間が巨大な国家へと進化を遂げた。

 

しかしそんな人類にも根付くことができない環境というものが幾つか存在する。

 

その一つが砂漠地帯だ…

 

 降雨量が年間で250mm以下、または降雨量よりも蒸発量が方が多い地域である。当然のことながら水がなければ動植物はほとんど生息できない。加えて日中の最高気温は50℃、最低気温はマイナス10℃、寒暖差60℃という恐るべき日較差(にちかくさ)があるため農業も適していない。所謂アネクメネ(人間の居住が難しい地域)に指定されている。

 

 しかも長年に渡る環境問題等により地球上の砂漠は毎年600万ヘクタール、東京ドーム約128万個相当の規模で拡大されているのだ。纏めれば広大で極めて過酷な環境…おおよその人間が定住の地とはしないことが一般的な常識である。

 

 

 

 

 しかし、そんな常識の枠に収まらない連中にとって自身の存在を秘匿するにはこれほどに好都合な場所は存在しないのもまた道理というものだ。

 

 

 

 

        それは、自身を『亡国』と称する存在にとっても……

 

 

 

 

 

 広大な砂漠のほぼ中心部に位置する場所に一つの名もなき基地が存在する。この基地で本日一体のIS稼働試験が行われていた。某国から奪取したコアと機体にファントム・タスクが独自の改造を施したワンオフ機体……その最終稼働試験が今まさに行われている最中だ。

 

実働部隊の幹部の地位にあるスコールは前々からこの実験に大きな興味を持っていた。

 

 

最も、どちらかと言えば機体よりもパイロットである『彼女』に対してだ。

 

 

 彼女もスコールと同様に実働部隊の幹部である。大きな作戦では何度か共同で任務もこなしたことがある間柄だ。そんなスコールの視点から見た彼女に対する評価は概ね良いものである。実力的な観点から言えば問題はない。戦闘センス、指揮能力、瞬間的な判断、人心掌握、どれをとっても一級と言って良いだろう。実際、彼女を慕って部下になる人間も多く存在する。

 

 だが、いやだからこそスコールは心の片隅に違和感を覚えていた……。それはひどく曖昧なものだが確かに感じる違和感。拭うことがでない『それ』はまるでタールの様にへばりついる。

 

 

 

 

 遠隔カメラから転送されてくる映像を真剣な表情で見据えながらスコールは思う。地上に設置された対空兵器から吐き出される数多の弾丸によって飽和気味になった空を『それ』が駆けて行く。自らを死地へ追いやる様な異常な機動は気負いもなく、かと言ってその機動には高揚感も感じられない。第三者が見れば拍手喝采ものの芸当も当事者に聞けばニヒルな笑みを浮かべてこう言うだろう。

 

 

 

 

 

 

 

『私はただ、当たり前の作業を当たり前にこなしただけさ』

 

 

 

 

 

 

 

「如何だったでしょうか?」

 

 

 

 不意に響いた声が思考の海からスコールを呼び戻す。目線だけ向ければそこには自信に満ちた顔で1人の白衣姿の男が立っていた。確か、このプロジェクトの主任だったか?

 

 

「素晴らしい出来ね。特に機動力と攻撃力には目を見張るものがあったわ」

 

 

 笑みを浮かべながら若干大袈裟に賞賛を送る。長年の経験から言ってこの様な手合いは、適当に賞賛を送って自己愛を満たしてやれば良い。

 

 

 彼の笑みがますます深くなった。……どうやらこちらの予想通りの人間だった様だ。こちらが聞いてもいないのに機体が如何に素晴らしいかを語り始めた。溜息を吐きたくなる衝動を抑えながら話半分に相槌をする。

 

 しかし彼の気持ちも分からない訳ではない。外見的な部分も含めてそのISの性能は、確かに目を見張るものがある。背面と脹脛側面の推力偏向スラスターのほか、全身に多数のスラスターを装備し、あらゆる姿勢においても高い機動性を可能にした。

 

 武装はビームライフル・バズーカ・ビームアックス内蔵型シールド・高振動型ブレードを二本だ。

 

高い機動力と攻撃力を合わせ持った優秀な機体……。

 

そして最も目が行くのがその機体のカラーリングである。全身を血で染めた様な鮮やかなブラッティーレッド。

 

 

高機動で動くその姿はまるで……。

 

 

 確かに優秀な機体ではある。しかし真に注目すべきはそれほどの機体を十全に使いこなす『彼女』であろう。彼はそれを見ることなく自身の成果に酔いしれているだけだ。技術者としては一流かもしれないが『彼』と比較すれば、いや比較することも失礼な話だが男としては三流もいいところだろう……。

 

 

 

「(……どうもいけないわね)」

 

 

 スコールは苦笑いを浮かべる。自身のパートナー程ではないにしろ男など嘲笑に近い対象でしかなかった。愚かで取るに足らない存在。

 

その程度の存在でしかなかった。

 

 だが『彼』と出会い状況は変わった。年端もいかない男性と呼ぶには少々若すぎる。しかし誰よりも苛烈で深すぎる闇を秘めた存在。

 

 

織斑一夏……

 

 

 あれから2年、あの時のことは鮮明に思い出すことが出来る。互いの肉を叩く音、骨が軋む音、血飛沫が舞い地面に血溜りを作る。おおよその人間はその光景を不快に思うだろう。

 

 だがスコールは確かな高鳴りを感じた。互いの命を賭け、それを削り合う光景は……美しく切なくどうしようもない狂おしさと愛おしさが合わさりし混沌とした空間。その一方を受け持ったのは、これまでそんな評価しかしてこなかった男だったのだ。

 

彼が今後どの様な人間になるのか……

 

 

 

 

 

「最終稼働テスト終了。これより帰投する」

 

彼女のハスキーな声がスピーカー越しに聞こえてきた。

 

「了解。お疲れ様です。『ストーム』」

 

オペレーターが彼女、ストームをねぎらう言葉が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

〜格納庫〜

 

「お疲れさま」

 

赤いISスーツを見に纏いオーダメイドのサングラスを掛けた顔がこちらを向いた。

 

「スコールか、君がここまで来てくれるとは予想外だったよ」

 

 彼女特有のニヒルな笑みを浮かべて体をこちらに向ける。女性としての部分を維持しながらも引き締まった筋肉が中性さを醸し出す様な不可思議な雰囲気を演出している。

 

「順調そうね。さっきの動きも中々のものだわ」

 

こちらの言葉に若干の苦笑いを浮かべる彼女

 

「大したことではないさ。私はただ、当たり前の作業を当たり前にこなしただけさ」

 

思わず込み上がった苦笑いを抑えることができなかった。

 

「ふふふ、まぁ良いわ。早速だけど任務よ」

 

「……場所は?」

 

「イタリア北西部の秘匿基地への襲撃。腕ならしにはちょうどいいんじゃないかしら、すでに『彼女達』も現地入りしている頃よ」

 

 薄い笑みを浮かべながら彼女が答える。それはどこか嘲笑にもにているようだ。

 

「なるほど、クライアントは実戦データを希望するか……了解したよ」

 

 

「……ああ、そうだ」

 

踵を返して2、3歩進めたところでストームが思い出した様にこちらに向き直った。

 

「?」

 

「いや、一つ思い出してね」

 

「……なにかしら?」

 

 

 

 

 

「織斑一夏君とは、……どんな子なんだい?」

 

 

 

 

 瞬間、自身の中で警戒レベルが上がったのを感じた。彼女の口から語られた名前に目が細まるのを認識する。

 

「なぜ……と聞いても?」

 

「……」

 

「……」

 

 暫く互いに沈黙が続くが、ストームがクスリと笑みをこぼした。

 

「そう警戒しないでくれ、大したことじゃないさ。あの男嫌いで有名なオータムが随分とご執心な様子だ。しかもこれから戦う相手かもしれない。良ければ参考まで聞かせてくれないか?」

 

「……」

 

「……」

 

 しばしの沈黙の後、スコールはため息交じりに話し始めた。 

 

「出来る相手ね。戦闘面は勿論だけど、相手を殺すことに対する戸惑いが一切ない鋼の心がある。敢えて言うならば……人の皮を被った魔獣かしら」

 

「ほぅ、魔獣か……」

 

「……ただ」

 

「ただ?」

 

「それだけじゃない何かが彼には、……一夏君にはある。其れはひどく曖昧で分かりにくいけど確かにそこにあった」

 

「なるほど……」

 

 少し考えるそぶりを見せた後、ストームはからかう口調で

 

「随分と抽象的だが、君が彼を高く評価していることは分かったよ」

 

「参考にはなったかしら?」

 

「とてもね」

 

 心の内を見透かされた様ですこし腹が立ったのもあって若干皮肉目いた様な口調になったが相手にとってはどこ吹く風の様だ。……気に入らない

 

自分に背を向けて歩き出した彼女にスコールは半ば無意識に呟いた

 

「赤い流星……」

 

「?」

 

 聞こえたのだろうか。彼女が若干訝しみながらこちらを振り向く

 

「貴方の機動を見て思ったのよ。変則的な機動が尾を引く流星みたいにね」

 

「赤い流星……。なるほど響きは悪くない」

 

その言葉を最後に今度こそ彼女は外への入り口へと進んで行った。

 

 

 

スコールは思う。

 

解き放たれた赤い流星は白い魔獣と相対した時、どうなってしまうのか?

 

楽しみだが気に入らない……




 今後も更新が不定期になりがちかもしれませんがよろしくお願いします。
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