DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語 作:紅卵 由己
新年あけましておめでとうございます!!(激遅)
新年初の更新ですが、今回は第三章を始めるより先に何よりも優先して終わらせたかったお話―ーコラボ編の最後の話となります。
次回より、現実世界で雑賀たちが頑張る第二章の話からデジタルワールドでユウキ達のお話となる第三章へと移り変わります。
相変らずのつたない文章にはなりますが、どうかよろしくお願いします。
対戦が開始されて間もなく。
まず、エレキモンのトール――がプログラムによって進化した神人型デジモンことアイギオモンは、順平が進化した雷の闘士・ブリッツモンに真っ向から突っ込んで行く。
山羊のそれにも似た獣の足、その膂力は雷の闘士との距離をすぐに詰め、互いにとっての絶好の間合いへと移行させる。
互いに選択は迅速だった。
「スタンビートブロウ!!」
「ふんっ!!」
必殺の言霊と共にアイギオモンは右の拳をブリッツモンの胴体目掛けて突き出し、対するブリッツモンは瞬時に両腕を交差させ防御の構えを取る。
勢いを伴った打撃による鈍い音が森の中に響くが、ブリッツモンは僅かに後ずさりしながらも踏ん張り、アイギオモンの打撃の威力を受け止めきる。
見れば、打撃を放ったアイギオモンの右拳には電気が迸っており、接触の際にブリッツモンの体に流れ込まんとしていた。
電気に耐性の無い生物が受ければ、神経が麻痺して自由を封じられるもの。
しかし、対するブリッツモンの両腕からもまた彼自身による高圧電流が放出されており、むしろ打撃と共に電気を流し込もうとしたアイギオモンの方こそが、ブリッツモンの高圧電流を流し込まれそうになっていた。
雷、あるいは電気というものの扱いに関してはアイギオモンよりもブリッツモンの方に軍配が上がっているらしい。
それを知覚すると同時、アイギオモンは咄嗟にブリッツモンから離れるが、ブリッツモンはそんなアイギオモンに向けて遠慮なく追撃を放つ。
右手の中に雷の力を集束させ、解き放つという形で。
「ミョルニルサンダー!!」
「っおお!?」
言霊と共に、エレキモンのそれとは比較にもならない規模の電撃が奔る。
思わず驚きの声を漏らしながら、アイギオモンは素早く左右に跳ね回ることで放たれた電撃を辛うじて避けきっていく。
コカトリモンの姿だったらヤバかったかも、と嫌が応でも冷や汗が出た。
しかし恐れを抱いている場合では無いらしく、見ればブリッツモンの体から放出された電気の力は両者の間に特殊な磁場を形成させてしまっていた。
バチバチバチ、と空気の弾ける音が響く中、今度はブリッツモンの方からアイギオモンへと肉弾戦を仕掛けにきた。
「おりゃあっ!!」
「!!」
高速、そう付けざるも得ない速度でもって両腕を×の字に交差させたブリッツモンが真っ直ぐに飛び込んでくる。
アイギオモンはすぐに真横へ体を転がらせることで回避するが、ブリッツモンは飛び込みの姿勢から体を回転させると樹木の側面に両脚を着け、回避をしたアイギオモンの位置を捉えると、足場とした樹木を蹴って再びアイギオモンに突っ込んでいく。
全体重と雷の力を合わせたその攻撃手段は、単純ながらもマトモに受ければ一撃でアイギオモンをKOさせられてしまってもおかしくない威力を含んでおり、アイギオモンには回避以外の選択肢など無かった。
が、回避する度にブリッツモンはその巨体に見合わぬ俊敏な動きでもって、何度でもアイギオモンを追撃しにかかる。
その動きは、重力の影響を受けていないようにも見える。
いや、見えるではなく実際に重力の影響は受けていない状態にあるのだろう――この場に形成された特殊な磁場の影響によって。
(……流石は十闘士……のスピリットの力ってことか……)
現在進化しているアイギオモンという種族が、元々進化出来ていたコカトリモンの姿の時よりも強い力を持っているという事は、彼自身理解はしていた。
しかし、その上で――戦いの相手であるブリッツモンと比べるとパワーもスピードも劣っている。
流石は十闘士の力を受け継いだとされるデジモンだと、アイギオモンは素直に思う。
歴史に関係する文献には『発芽の町』でベアモン共々ある程度目を通していて、その時に十闘士に関する伝説も知ってはいたが。
それが具体的にどのぐらい強いのか、までの事はこうして対決するまで知る由も無かった。
無論、これは命を賭けた死闘などではない。
あくまでも性能調査、得がたい経験のための模擬戦に過ぎない。
ブリッツモンも、その辺りはしっかり弁えて手加減をしてくれている。
負けたとして何かが失われるわけでも、深刻な事態になるというわけでも無い。
だが、
(それはそれとして、成す術も無くただ負けるのは性に合わねえんだよなぁ!!)
アイギオモンの心に負けん気が沸き立つ。
これは、単純なプライドの話。
別にニンゲンという存在に嫌悪感を抱いているわけでも無ければ、目の前のブリッツモン――に進化しているニンゲンの事を格下だと見下しているわけでも無いが、あくまでも勝ち負けがあるだけの話であるのなら負けたくはないというだけの事。
思考を回す。
パワーもスピードも劣っている、であればそれ以外の能力でもって対抗する以外に無い。
ブリッツモンの高速移動、その勢いのままに繰り出される攻撃を回避しながら、アイギオモンは素早く腰に提げた一つの笛を手に取り、そして吹いた。
「――アトラクトエコー!!」
「なに?」
笛から放たれた不思議な音波がブリッツモンの聴覚に突き刺さる。
途端に、ブリッツモンは目眩にも似た感覚に襲われた。
咄嗟に片手と両脚を着けて地面に着地をし、冷静に状況を仕切り直そうと考えた時には、既に彼は術中にかかりつつあって。
(――っ、何だこれ――)
音波の影響だろう。
気付いた時、ブリッツモンの視界は決定的に歪んでいた。
周りの風景は不細工な油絵のように見え始め、木々は木々として判別出来ず、仲間たちの姿も見えなくなり、一方でアイギオモンの姿だけがくっきりと見えているという、まるで夢の中にでもいるような視界。
景色の歪みは笛の音を聞いている内にどんどん悪化していき、ブリッツモンの目には周りの景色がグチャグチャに絵の具を掻き混ぜた極彩色のキャンバスのようにしか見えなくなっていく。
それがアイギオモンという種族が持つ技の一つである事を察し、ブリッツモンこと柴山順平は内心で素直に評価した。
(相手に自分だけを見せる技……か。一対一の戦いじゃなかったら、すごく便利な技だな……)
「隙ありぃ!!」
「――っと!! そうはいかないぞ!!」
幸いにも、アイギオモンの姿自体は見えている。
動きに勢いが無くなったのを見て好機と見たらしいアイギオモンの蹴りを右腕で受け止め、力任せに弾き飛ばす。
しかし、弾き飛ばされたアイギオモンは空中で体勢を整えると、いつの間にか右手で掴み取っていた土の塊をブリッツモンの顔面目掛けて投げ放っていく。
アイギオモンの姿以外のものを視認出来ない今のブリッツモンにはそれに気づくことは出来ず、あえなくその視界を更に阻害されることとなる。
「っ?」
「まだまだ!!」
両脚と右手を地に着け着地をしたアイギオモンは、即座に次の行動に出た。
自然の中であれば何処にでも落ちている小石、拾い上げたそれを左右に動き回りながら投げ放ったのだ。
コツン、と。
無論、腕力任せに投げられたそんなものが雷の闘士のダメージとなるわけも無いが、視界を阻害された今のブリッツモンの意識を逸らす程度の衝撃は与えられる。
そして、ほんの僅かでもアイギオモンの位置を見誤らせることさえ出来れば、それは正真正銘の好機となる。
素早く動き回り、視界を揺さぶり、そして必殺の一撃は炸裂する。
「アイアン――」
「!!」
「――トラスト!!」
硬い蹄を備えた、獣足による鋭い蹴り――それをブリッツモンは咄嗟に左腕を構えることでガードしたが、初撃の際のそれとは異なり威力を殺しきれずに大きく後ずさってしまう。
それでもバランスを崩すことなく、戦闘態勢を維持出来ている辺りは忍耐力、ひいては戦闘経験の差とでも言うべきか。
ブリッツモンは負けじと視線をアイギオモンの方へと向け、その両手に雷の力を集束させようとして、
「っぅ……やるな。それならこっちも――」
「――そこまでだ!!」
「「!!」」
そこで制止が入った。
模擬戦の行方を眺め見ていたユウキがアイギオモンとブリッツモンの二人に向けて声を放ち、次いでその足で駆け寄ってきたのだ。
制止が間に合ったことにひとまず安堵の息を漏らしながら、ユウキは続けざまに言葉を紡ぐ。
「ここから先は本当の意味で戦いになりかねないし、やめとこう。というかトール、お前いろいろとガチりすぎだろ。石とか土とか投げるのはどうなんだ」
「えー。このぐらい普通だと思うんだが」
「実戦の話ならな。これ、あくまでもエンジェモンが作ってくれた『進化プログラム』の実践のための模擬戦だから。不必要に大怪我するわけにもいかないだろ? お互いに」
「まぁ、そうだな。……トール以外マトモに見ることが出来なくなって、流石にこのまま戦おうとするのは危ないと思ったし。どの方向に誰がいるのかがわからないまま技を使うわけにはいかないからな」
「シンヤが巻き添えを食いそうになったらユウキが盾になるから大丈夫だと思ったんだけどなぁ」
「ははは、殴るぞテメェこの野郎」
ひとまずの戦闘終了に、緊張の糸が解けたせいか。
言葉を交わしている間にアイギオモンの体から光がこぼれ、気付いた時には既にトールの姿はアイギオモンのそれからエレキモンとしてのそれへと戻ってしまっていた。
元々が試作のアイテムに頼った進化だったのだから、コカトリモンへの進化と比較してもそう長く維持出来るものでは無かったのかもしれない。
見れば、ブリッツモンもまたその体が瞬間的にバーコード状のデータに覆われて、ほぼ一瞬の間にその姿は人間・柴山順平としてのものに戻っている。
互いに消耗の度合いは思ったよりも軽微なようで、特別息を切らしている様子は無い。
ユウキに続いて駆け寄ってきた信也は、トールに対してこんな問いを投げていた。
「それで、どうだったんだ? その……戦った感じとか。十二神族のデータで作ったって順平は言ってたけど、進化したトール自身は……」
「そうだな。あの姿には初めて進化したはずなんだが、不思議と馴染んだというか……いや、やっぱり変な感じだったな。急にヒト型になんて進化するもんじゃねぇや」
「まぁ基本四足歩行してる奴が二足歩行になって殴る蹴る、なんてことになったらな」
「そう言う割りにはかなり動けてたように見えるんだけどなぁ」
一方で、対戦相手を担っていた順平はというと、冷静にアイギオモンの能力から知見を得ていた。
「雷の力に加えて、あの腰についてた笛でユノモンがやってたみたいに幻覚を見せる技まで使えてたな。この辺りのを解析出来れば、打てる手が一つは増えるかもしれない」
「そっか。まぁ一苦労した甲斐があったのなら何よりだ」
「ああ。今回は手伝ってくれて助かったよ。……最後の蹴りはヒヤっとしたけど」
と、
順平がふと漏らした言葉にトールは「いやいや」と相槌を打つと、こんな言葉を返していた。
「お前の雷だって大概だっただろうが。マトモに食らったら死んでるんじゃないか俺?」
「いやトール、多分アレでも順平は手加減してたぞ。雷で手加減ってよくわからんけど」
「ユウキ、多分事実なんだろうが俺のプライドとかが傷付くだけだからその真実は言わなくて良かっただろ仲間として」
「現実を教えてやるのも仲間の務めだと思うんだ俺は。見ろザマァ」
「馬鹿野朗に痛い目見せて思い知らせるのも仲間の役目だよな」
「……お前達って仲が良いのか悪いのかよくわからなくなるよな。頻繁に……」
とてもではないが、自身の知る『仲間同士』の間柄には見えないユウキとトールの会話に呆れ気味の言葉を漏らす信也。
ともあれ、ひとまずの模擬戦は終わった。
仮に、より詳細なデータの採取のための二回目をやるにしても、二人とも休憩を挟む必要があるだろう。
我先にと対戦しに移動したアルスと友樹の二人が戻ってくるのを待っている間、何をしようかとユウキや順平が頭を捻っていると、
「――がくがくぶるぶる……」
「あ、こっちも終わったよー」
いったいどんな戦闘が行われていたというのか。
いつの間にかアルスの姿は成熟期たるグリズモンから成長期であるベアモンの姿に戻っており、チャックモンに進化している友樹の手で抱えられている状態にあった――明らかに寒さに凍えた様子で。
チャックモンの声色に疲弊の色は無く、どうやらグリズモンに進化したアルスを相手に圧勝してきたらしいことが伺えて。
そして、歯と歯がかみあっていない様子のアルスを目にした信也とユウキは、ひそひそとこんな事を呟いていた。
(……熊って寒さに弱いっけ……)
(……毛皮あるし弱くはないと重うけど、冬眠とかするし強くもないんじゃないか……?)
◆ ◆ ◆ ◆
時は経って。
エレキモンは雷の闘士との、ベアモンは氷の闘士との模擬戦を終えて。
その後もいろいろあって、この日に出来ることはやり終えた(と思っている)ユウキとベアモンとトールの三名は、昨夜と同じく寝室に集っていた。
寝室内には彼等の他にも、模擬戦に立ち会ってくれた神原信也と氷見友樹の二人がいる。
なまじ昨日にオリンポス十二神の奇襲があったこともあり、嫌でも沸き立つ警戒心によって各々あまり寝付けなかったようだ。
よって、それでも眠るべきだと心の片隅で思いながらも、彼等はベッドの上に腰掛けながら語らっていた。
「いやー、やられたよ。やっぱり伝説の十闘士のスピリットを受け継ぐだけのことはあるってことなのかな。すごかった」
「褒められて悪い気はしないね。ありがとう」
「いいなぁ……僕にもチャックモンが持ってたああいうカッコいいのがあったらなぁ」
「……あれ? 褒めてるのもしかして武器の方?」
「武器ってやつには憧れる年頃なんだろ」
「使いこなせるかは別としてな」
「なんかユウキもトールも冷たいんだけど」
「お前もなんか斬撃とか飛ばせるようになったらいいんじゃないか? クレッセントど~んっ!! って感じに」
「随分簡単に言ってくれるねトール。というか、そっちもそっちで苦戦したんじゃない?」
「……まぁ、確かにそこは否定しないがな」
ベアモンにとってもエレキモンにとっても。
伝説の十闘士デジモン、その魂を受け継いだとされるデジモン達の力を担う者たち、その実力は自分達よりもずっと上にあると認めるしかないと言えるものだった。
悔しい、という気持ちは有りこそするが、それ以上に彼等の胸の内にあるのは人間という存在に対する興味だった。
ベアモンとエレキモンの視線が、信也と友樹、そしてユウキの間を左右する。
「シンヤやトモキ、ジュンペイやイズミがあんなに強いことを考えると、ユウキもひょっとしたらもの凄く強くなったりするのかね」
「よせって。そりゃあ強くなりたいとは思うけど、いくらなんでも伝説のスピリットを受け継いだメンツと同じステージにはそうそう立てないって。俺がなってるの、別に伝説とかそういうのと絡んでない普通のデジモンだし」
「いや元がニンゲンって時点で何一つ普通じゃないよ僕から言わせればトモキ達とそんなに変わらないぐらい特別だよ」
「よくあることだと思う俺から見ても普通ではないとは言えるぞユウキ」
「トールはともかくアルスも信也も味方してくんないんだけどいつの間にお前たち意気投合したの」
気付けばアブノーマル扱いが異世界伝染していて心底心外で俺ピンチな紅炎勇輝である。
ちょっと真剣に人徳の欠如を考えだす赤トカゲに対し、ふとして思考した様子の友樹はこんな事を言いだした。
「……というか、僕たちはユウキがなってるデジモンのことはよく知らないんだけど、その姿は何かのスピリットの力で進化しているって可能性は無いのかな? その、十闘士以外のデジモンのスピリットがユウキ達の世界にはあるって前提の話にはなるんだけど」
「それ、俺も最初は思ったんだよな。
人間の体からデジモンの体に変わっているという点で言えば、一時的な話とはいえ信也達のような十闘士のスピリットを継承した子供達とユウキの間には共通点があると言えなくもないだろう。
だが、その上でユウキは友樹の提示した可能性を否定する。
「仮にそうだったとしたら、俺の中に俺とは別の『誰か』の意識が別に存在してないとおかしいと思うんだよ。シンヤ達が持ってるスピリットには、それぞれ意識というか心があるんだろ? 多分」
「うん」
「少なくとも俺はそう言えるものを認識したことが無い。……ただでさえ敵だったあのユノモンってやつの言葉なんて信じられたモンじゃないけど、言葉はともかく、部外者の俺にストーカーしてやがった以上、興味を持たれる程度には不思議なことになってることだけは事実だと思うんだよ」
それに、と相槌を打って。
ユウキは、ふとしてこんなことを言いだしてしまう。
「……いたらいたで何か、とり付かれてる感じがするし、いつか乗っ取られるかもとか考えたくもないし……」
「何だお前、ユーレイとか信じてるタイプだったのか。びびり~」
「いやトールお前現実にユーレイというか魂的なやつの力で進化してるのが目の前に二人いるわけだけど」
「スピリットって要するに魂のことだしそう思われても仕方がない気はするけど、チャックモンやブリザーモンに進化してる時の意識は紛れもなく僕のものだよ。そもそも二人とも優しいし、心配しないで」
「というかこんな夜中にユーレイがどうとか言わないでよ。昨日倒したユノモンのユーレイとか出たらどうするのさ。流石にユーレイと戦うなんて無理だよ僕」
「ユーレイ同士なら真っ向から殴りあえると思うし、十闘士たちがなんとかしてくれるんじゃね?」
「なるほど、ゴーストタイプ同士なら確かに効果はばつぐんだな」
「ユウキ、一応これお前の話なんだから流石にちょっと真面目になってくれ」
古今東西、女性の幽霊というものは恐ろしいものでファイナルアンサーなのかもしれない――怪談話の筆頭として。
話がおかしな方向に脱線してしまったので仕切り直し、トールはため息を漏らしつつも素直に疑問を口にした。
「……ま、実際どうなんだろなそこ。お前、進化した時に知性やら理性やらがあったり無かったりするしなぁ」
「うーん、話だけ聞くとビーストスピリットを制御出来なかった頃の僕達に近いように感じるけど……」
「ユウキが進化したやつ、朝っぱらに見た時は明らかに理性があったし、別人だとは思えなかったよな。デカかったけど特に危なそうには……」
「一応種族的には危険分子扱いなやつなんだけどな。ほら見ろ、この腹の紋様とか」
「当人がそう言うと途端に説得力がなくなるなオイ」
「それ褒めてるんだよなトール君?」
「呆れてんだよユウキ君」
「というか、ユウキはやけにデジモンに詳しいみたいだけど俺には腹のそれがタトゥーか何かにしか見えないぞ」
「人をヤクザ扱いしないでくれ???」
が、当然ながら答えなど出るわけが無い。
共通項こそあれど、結局は異なる世界の異なる事情の話なのだから。
神原信也らの操るスピリットの力と、紅炎勇輝という人間をデジモンに変えた何か。
それ等に違いがあるとすれば、それは――
「ユウキが、トモキ達と違って自分の意思で人間の姿に戻ることが出来ないってことだよね」
「……だな。試しに念じてみたこともあるけど、全然変化は無かった。この状態は『進化』によるものじゃないのかもしれない」
「うーん、これがスピリットの話なら、ひょっとしたら僕達のデジヴァイスにあるような浄化の力でどうにか出来たかもしれないけど……つくづく謎だね」
「まったくだ。自分のことを人間だと思い込んでるデジモン、とかならただの痛いやつで済むのにな」
「そういうデジモンって実際いるのかなぁ」
解けぬ疑問を胸に抱いたまま、短くはない時間が経つ。
各々、不安と言えるものを抱いたまま、それでも星は空を回って。
そんなこんなで、この世界との別れの時が来た。
◆ ◆ ◆ ◆
森のターミナル。
そう呼ばれる場所に連れて来られたユウキ達一行は、この世界で世話になったデジモンや人間達に一通りの挨拶を済ませ、元いた世界へ帰還するための準備が終わるのを待っていた。
住まいと食事を提供してくれた城主ことエンジェモンも、翼の負傷をおして最後のあいさつにやって来てくれている。
その様子に信也も目を剥いた様子だったが、当のエンジェモンは笑顔で返すのみ。
「エンジェモン! もう出てきていいのか!?」
「城の主がお客さんにあいさつしないのも失礼ですから」
「人の事より、信也は大丈夫なのか? 急に倒れたのに」
「ああ。あの後は全然なんともないんだ。だから気にしなくていいぜ!」
ユノモンとの戦いの最後に倒れ、翌日も明らかに浮かない様子だった信也もエンジェモンに負けず劣らずの笑顔を見せてくる。
それが空元気であることぐらい、気付けないほどユウキも馬鹿では無い。
だけど、それを他の仲間達のいるこの状況で口にしてしまうのは酷だと思う。
少なくとも、自分が信也の立場だったら、あまり触れてほしくはないとも。
「本当に平気なのか?」
それでも、聞かずにはいられなかった。
ユウキの言葉に、あるいはその心情を悟られていることを察してか、されど信也は大きく頷いてこう返していた。
「ああ。デジヴァイスとスピリットはエンジェモンに調べてもらってるし」
「……スピリットはまだ調査中です。信也さんの身に起こった事の原因が分かり次第、お知らせします」
「よろしくな! ポケットにデジヴァイスがないと、軽くて落ち着かないし!」
信也も、その言葉と視線に応じたエンジェモンも、それ以上のことは言わなかった。
これから先のことは、ユウキ達には関係も無く、そして関わることが許されないこと。
嫌な予感を感じながら、ユウキはそれ以上の言葉を紡ぐことが出来なかった。
そして、
「よし、準備完了だ! 客車に乗ってくれ!」
トゥルイエモンのその言葉に、ユウキとベアモンとエレキモンの三人は足を急がせた。
列車の前面に怪物を頭をくっつけたような姿をしたデジモン――トレイルモンことワームの体に乗り込んで、それぞれ客席沿いに張られた窓越しにこの世界の主人公たちへ視線を向ける。
汽笛が鳴る。
別れの足音が大きくなる。
おそらく、もう二度と会うことは無い奇縁なる者たち。
自分達が去った後も、世界を救うために奮闘することになるであろう子供たち。
自分よりもずっと勇敢な『闘士』たち。
彼等の今後は、そもそも事情を詳しく知らない三者には予想も想像も出来はしない。
「信也、泉、じゃあなー!」
「色々ありがとう!」
「頑張れよ!」
「気をつけていけよ!」
「元気でね~!」
だから、最後ぐらいは笑顔で別れよう。
この出会いが良かったものだと、確かに思えるように。
ただ、お互いに無事を祈って。
(……頑張れよ、神原信也……)
景色が切り替わる。
森は見えなくなり、未知の領域が色彩を塗り替える。
ガタンゴトンと、車輪がレールをなぞる音しか周りからは聞こえなくなる。
席に座って、元いた場所への到着を待ってしばらく経って。
ベアモンは、こんな事を言っていた。
「ユウキ、エレキモン」
「? 何だ?」
「ベアモン?」
「会えて良かったよね」
「……ああ」
「まぁ、損した気はしないな」
これは、本来ありえざる物語。
彼等の旅路は、必要の無い道筋と代えの利かない縁を辿りながら、本来の居場所へ戻っていく。
コラボ編、見直すと前の更新日から8年も経ってて流石に笑えねぇ……。
ともあれ、デジモンフロンティアの世界を舞台とした二次創作作品とのコラボは、デジモンに成った人間の物語にとっても大きく得るものがあったと思ってます。
コラボ回を書くことを許してくださった星流さんには変わらぬ感謝を。
そして、前書きでも述べた通り、次回からは第三章の物語へと進んでいきます。
次回をお楽しみに。