DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語   作:紅卵 由己

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 ポッ拳とかファイエムIFとかやったり、ワンピースやポケモンの二次とか書いてて遅れました。

 今回の話自体は事前にリアルのメモ帳に書き溜めをしていたので、存外楽に書けてました。途中途中の表現とかには悪戦苦闘しましたが。




七月十三日――『台風は突然やって来る』

 真夜中のウォーターパークは静寂に包まれていた。

 

 少し前まで『シードラモン』と呼ばれるデジモンの特徴を取り入れ異形と化していた司弩蒼矢の肉体は『元の姿』に戻り、衣類として纏っていたのであろう薄く青い色の病院着に身を包んだ隻腕隻脚の少し痩せて引き締まった感じの体型な青年が、現在は『ガルルモン』と呼ばれるデジモンの特徴を取り入れ同じく化け物と化している牙絡雑賀のすぐ傍に倒れていた。

 

 情報変換(データシフト)――いっその事『変身』とでも言うべきじゃないかと思えたそれを解除させられた蒼矢には意識が無く、プールの領水内で放置すれば溺死させてしまうことは明らかだったので、そうなる前に雑賀は『ガルルモン』の特徴を取り入れ強化された脚力で急ぎ蒼矢をプールの水から脱出させた。

 

 脚力もそうだが腕力が強化されているのもあってか、人間の体はやけに軽く感じられた。

 

 意識を失ってすぐだったので、幸いにも彼自身の力によって海水と化していたプールの水を飲まずに済んだようだ。

 

 尤も、理屈はあまり分からないが、蒼矢自身の肉体と同じように情報変換(データシフト)の影響は当人の意識の消失と共に無くなりつつあるらしく、プールの方から海水特有の潮の香りが感じられなくなっていたのだが。

 

 そうして雑賀はプールサイドに戻り、体力を消耗した事を思い出したかのようにしながら言葉を発していた。

 

「……死ぬ、かと思ったし死なせる、かと思った……っていうか死んでないよな? マジで」

 

 すっかり本気モードになっていたから彼自身考えもしなかったが、雑賀が蒼矢に向けて放った最後の一撃は――ただの人間のそれならまだしも、デジモンの力で強化された腕力で放たれたもの。

 

 パンチで人を殺せる『人間』など現実では聞いた事が無いが、ゴリラの場合は軽く人間の頭部がマネキンのように『外れて』しまうのだと言われている。

 

 ……現実世界の動物とデジモンってどっちがつえ~の? と疑問を抱く者も居るだろうが、どちらにせよ人間と比べてケモノ側の方が強いに決まっているのだ。

 

 そして雑賀はこう思った。

 

 あれ? パンチ当たった時に物凄い音が響いてた気がするけど、色々と折れてないし砕けてないよね? と。

 

(……まぁ、かく言うコイツもデジモンの力を取り入れて『強化』されていたわけだし、内側も含めて打たれ強くなっているよな。顔の部分も含めて硬い鱗が張ってたわけだし)

 

 結論を半ば強引に導き出した後で、第二の問題が浮上する。

 

(……ところでコイツ、これからどうしようか……コイツ自身が『姿を晦ませている事』を他者に知られているのなら、安易に病院に送り返すとコイツ自身にも疑いが掛かっちまう。となると、最低でも他人からコイツが『病室から連れ去られた被害者』と見られるような場所に置いておく必要があるな。警察を騙すような形になるが、こうなったら仕方がねぇ)

 

 心の中で自分自身にも悪態を吐きつつも、それ以外に方法が無い所にまで来ているので止むを得ない。

 

 そうなると、根本的な問題として、現在気絶している『被害者』を自らの手でこの場から運び出す必要があるのだが……と、そこまで考えた所で、司弩蒼矢をどうするか以前に存在していた当たり前の問題を雑賀は今更ながら思いだした。

 

 そう。

 

 どうやって、この姿のまま誰かに見つからないように街の中を移動すればいいのだ?

 

(………………あれ? そういえばどうしよう)

 

 都会なので当然ではあるのだが、夜中の時間でも街灯や自動車の照明(ライト)によって殆どの区域に視界が確保されている。

 

 以前、雑賀自身『普通の方法』で調べようとしていたが故に知っている事だが、この市街地には路地と言えるような道が殆ど存在しない――というか、在ったとしても知りはしない。

 

 そんな中を、一人の人間を抱えた状態の、本来ならば二足歩行に適した骨格を有していないオオカミ男が、夜の闇に隠れて人の目から逃れながら駆け抜ける?

 

 もしかしたらと言えなくもない事だが、まず無理な話だろう。

 

 何故なら、牙絡雑賀はあくまでも『ただの高校生』であり、伝説の暗殺者だったり傭兵だったり、そんな実績と経験を持っているわけが無いからである。

 

 しかも、改めて振り返ってみると、戦闘中には色々と物騒な音が施設内に響いていた気がする。

 

 例えば、大量の水が高圧で放たれ、蛇口のそれを丸々激しくしたような音だったり。

 例えば、それを受けた際に上げた悲鳴というか絶叫のような声だったり。

 例えば、溢れ出る力と共に吐き出した遠吠えにも似た声だったり。

 例えば、二体の怪物が闘った際に生じた音だったり。

 

 ……順を追って思い返していくだけで、現在オオカミ男な雑賀の表情に脂汗が浮き出てくる。

 

 あれ? ひょっとしなくてもこれはドシリアスに会話も交えながら戦闘してたのが、もの凄くマズイ事態に派生しようとしていないか? と、

 

 そんな事を考えていた時だった。

 

「……………………」

 

 ふと、雑賀は思わずとでも言った調子で一つの方向へ視線を向けた。

 

 ()()()()()

 

 夜の闇に紛れて、コツンと鳴る足音を隠そうともせずに近付いて来ている事を、雑賀の耳は確かに感知していた。

 

(……やべぇ、この状況を『目撃』されるってだけでも致命的だぞ……!! そりゃあ、今の姿っていうか『異能の持ち主』が目撃される事で情報を開示させる事だって出来るかもしれねぇけど……ッ!!)

 

 それが誰だとしても、これはまずい。

 

 プールサイドには謎のオオカミ男と、それに連れ去られたと思われてもおかしくない病院着な青年が一人。

 

 目撃されれば、確実に『犯人』扱いされてもおかしくは無い。

 

 自分だけでも逃げるべきか、無視して蒼矢を連れ去るべきか、それとも……ッ!! と、切羽詰まった表情で思考した直後、牙絡雑賀が目撃したのは――

 

「よう、まずはハッピーバースデー……あるいはお誕生日おめでとう、とでも言うべきか? ガラクサイガ」

 

 ――衣装として見られるものが紫色のカットジーンズぐらいしか見当たらず、瞳には獰猛な黄の色を宿し、曝け出されている肌は褐色の男だった。

 

 第一の問題として、その男は現在の雑賀の姿を見ながら、牙絡雑賀という名前(フルネーム)まで知った上で、平然と言葉を切り出していた。

 

 その反応自体も明らかに『普通の人間』がやるような物では無いし、その格好自体も文明人と言うよりは野性児と言った方がしっくり来るほどだった。

 

 だが。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何だ。

 

 こ   い    つ    は   何    だ     !!?

 

 疑問の前に、本能的な恐怖の方が思考を埋め尽くす。

 

 デジモンとしての『特徴(ちから)』を宿していても、いやむしろ『だから』なのか、直感的に雑賀の脳は一つの回答を導かざるも得なかった。

 

 コイツは、強い。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……ッッッ!!

 

「……あ、悪いな。つい『いつものクセ』で好奇心っていうか猟奇心ってのが前面に出ちまった。大丈夫だって、弱いモン虐めは趣味じゃねぇし、殺す予定も()()ねぇよ」

 

「………………お前、は………………」

 

「ん? あぁ、そういやこっちが名前を知ってるだけで、自己紹介の一つもしてないんだったな」

 

 そんな事を聞いているんじゃない、という声を出せない雑賀の目の前で、その男はこう名乗った。

 

 

 

「フレースヴェルグ。本名じゃねぇけど、まぁお前は尻尾を掴もうとしてる『組織』での呼び名みたいなモンだ。よろしくな?」

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「はぁ――ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………」

 

 牙絡雑賀や捏蔵叉美との対話を経て自宅に戻って来た縁芽好夢の心には、ポッカリとした穴が空いていた。

 

 全力で振り被ったバットがボールに当たらず空振った時のような悔しさとも、大量の小遣いを貢いで手に入れたカードやらのコレクションに時間が経つにつれて感じるような空虚さとも、それは何処か違うような気がしていた。

 

 ウサギは寂しいと死んでしまうらしいが、人間も退屈だと別の意味で死んでしまうらしい。

 

 事が事なので不謹慎としか言いようも無いが、好夢は実際のところ現在の立場に退屈しているのだ。

 

 役に立ちたい、誰かを助けたい……『そのため』に事件が起きてほしいなどとは流石に思えないが、現に事件は起きている。

 

 それに対して何らかのアクションを起こせない事が、どうしても納得出来ない。

 

(……雑賀にぃは多分『行動』してるんだろうけど、私はあくまでも中学生。叉美のヤツが言うように、出来る事にも限界がある、かぁ……)

 

 小学生だろうが中学生だろうが、一学年の差という物には何処か『絶対に越えられない壁』のような何かが感じられる。

 

 まして好夢が中学生である一方で、高校生の雑賀はチャラく薄い金髪に染めてすらいるし、兄である苦郎は(とても子供には見せられない感じの)本を平然を持っていたり、自分とは見ている世界が違う――と思わざるも得ない明確な差が存在しているのだ。

 

 どれだけ背伸びしようが、そこだけはどうしようも無い。

 

 現に、あの時の雑賀は自分を『巻き込ませないように』言葉を選んでいたようにしか思えなかった。

 

 守られている。

 

 その事実が、どうにも納得出来ない。

 

「……明日から、少しでも『何とか』してみせる」

 

 自分に言い聞かせるように、あるいは現状を誤魔化すかのように、寝包(ねくる)まっていた布団の中で宣言する。

 

 もうこの日、自分に出来る事は何も無い。

 

 それは、もう納得するしかない――――と、考えた後で今更ながらあまり考えなかった疑問が浮上した。

 

 朝に限らず昼間にも眠っているあの兄は、夜中には何をしているのだ?

 

(……正直気が引けるなぁ……ああいう趣味な以上、パソコンで変なサイトとかを見ている可能性だってあるし……)

 

 好夢からすれば、もうあんまり自分の兄のアブナイ姿を見たくは無かったのだが……実を言うと、彼女は苦郎が夜中に何をしているのか、詳しくは知らなかったりするのだ。

 

 大した期待こそ出来ないが、ひょっとすれば真面目に『何か』をしている兄の姿を見る事が出来る可能性だってある。

 

 現在時刻は七時を回っており、好夢が身に纏う衣類も学校の制服から薄いピンク色な寝間着(パジャマ)に変わっていて、大抵この時間になると眠る時間になるまではスマートフォンを弄ったり、パソコンを使って動画鑑賞をするのが主な行動なのだが。

 

 この日の好夢は、好奇心と言うより探究心が旺盛だった。

 

(……ちょっと、覗いてみるかな)

 

 そんなわけで、本日三度目となる苦郎の部屋へと入った好夢だったのだが。

 

「あれ、()()()?」

 

 予想外と言うよりは、意外だと思った。

 

 よくよく思い返してみると、家に帰宅した際に『ただいま』と言っても苦郎は特に何も言わないので、その時その時で部屋の中に居るのか居ないのか、若干不明な所もあったのだ。

 

 本当に部屋の中には苦郎の姿が無かったので、自分がいない間の家での苦郎を知っていると思われる義母へと問いを飛ばしてみる。

 

「お母さ~ん、苦郎にぃが何処に行ったのか知らな~い?」

 

「苦郎なら『()()()()()()()()()』とか言ってから、返事も聞かずに出て行ったよ。まぁいつも通りというか何と言うかなんだけど、この時期に外出するのは危ないでしょうに……まぁ、大丈夫だと思うけどね」

 

「外出……」

 

 予想通りとは言えた物の、義母の言う通り『消失』事件が横行している現状で外出するのは危険だとしか思えない。

 

 本当に『買い物』に行っているにしてもどっちにしても、既に『いなくなってしまった』人間がいる事を考えると不安を拭えない。

 

(……本当に、何をやってるんだろうなぁ……)

 

 夜闇の向こう側は街灯越しでも見えない。

 

 距離としては遠くないはずなのに、そこには無限大の『壁』があった。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 フレースヴェルグ。

 

 そう名乗った男は自身を雑賀に情報を与えた『あの女』と同じ『組織』の一員だと言った。

 

 それがどういう意味なのかを推測する事は出来なかったが、一つだけハッキリしている事はあった。

 

 この男は、味方では無い。

 

 それを理解した雑賀は、搾り出すように声を発する。

 

「……何をしに来たんだ……? まさかだが、勇輝のヤツみたいにデジタルワールド送りにでもするつもりなのか……?」

 

「あ~、そう思われるのも仕方ねぇけど違う違う。え~っと……あぁ畜生、こういう説明は『あの人』が一番適してるんだがな。とりあえず俺が此処に来た目的はシンプルなモンだよ」

 

 ……事情説明に言葉が足りていない辺り、、本当にこの場へやって来たのは好奇心だけによる物だったのかもしれない。

 

 それが雑賀にとっては余計に恐ろしく思えた。

 

 好奇心に従い動く、と言葉で表せばそれは『自分に正直』だと言えて一軒裏表が無いように思えるが、それは逆に言えばどんな状況でも『他人の意志よりも自分の意志を尊重する』可能性を示しているのだから。

 

 何より、紅炎勇輝を連れ去った『組織』の一員である以上、決して真っ当な目的のために行動しているわけでは無いのだろうから。

 

 そして、フレースヴェルグは予想通りの言葉を吐いてきた。

 

「まぁ、簡潔に言えばソイツ……司弩蒼矢(しどそうや)って言うんだっけ? そいつを引き渡してくれねぇか。別に物騒な真似をするわけじゃねぇし、どうせ『これから』どうするのかなんてお前さんは思い付いてもいねぇんだろ?」

 

「…………」

 

「元々そいつの行動を促したのもオレだしなぁ。同じ『力』を持つ者同士で潰し合うのは大いに結構だし、その果てが死に繋がろうとも構いやしねぇんだが……お前さんがそいつを殺すつもりは無いのは明白だろ?」

 

「……当たり前だ。こいつは……家族のいる所に戻さないといけない。そうするべきなんだから」

 

「本当にか?」

 

 フレースヴェルグの口調は、まるで試しているような雰囲気さえ感じられていた。

 

「家族の元に送り返すのは確かに善の行動かもしれねぇ。だが、そいつ自身はどう思うんだろうな? 無事に、無罪で帰ってこられた。だけど結局取り戻したかった物は戻らず、しかも被害者であるお前からは見逃された。俺には理解しづらいが、罪悪感を抱いた人間にとってそれは喜べるものだと思うか?」

 

「それでも。あんなに苦しそうな顔で続けてたら、いつかこいつは心を閉ざしちまう。その前に、どんなに苦しい事になるんだとしても、家族と話をさせるべきだ。だって、こいつ自身は本来こんな事なんて望んでいなかったんだから!!」

 

「本当に望んでいるわけでも無いのに、結局攻撃する事は実行してたんだがな。こいつの心の中に、他者に対する嫉妬――負の念が無かったとでも?」

 

「確かにそれはあったのかもしれない。だけど、現にこいつは闘っている中でも赤の他人であるはずの俺の事を気にかけていた!! それに、こいつが四肢を半分失った理由だって……ッ!!」

 

「だったら余計に『元の居場所』には戻れないな」

 

 その言葉は蒼矢だけではなく自分にも、ひょっとすればこの場に居ない紅炎勇輝にも向けられたように雑賀は感じられた。

 

 そして、それを即断で否定する事も出来なかった。

 

「そいつの体を見ての通り、デジモンの力を得て変換された体は元の状態に戻る事も出来る……が、だからどうした? 結局の所、自分が『ただの人間』では無いって事実に変わりは無い。それを理解した上で、戻れるのか? 『ただの人間』の巣穴の中に」

 

「…………くっ」

 

「生き方なんて自由なモンだし勝手にすりゃあいいが、俺にはちょいと滑稽に見えてくるよ。強靭の牙があるにも関わらず、山羊の群れの中で生きるために、山羊と同じように振舞う狼って感じか。まぁ、実際にそういう生き方をしている奴がいないわけじゃねぇんだけど……『組織』に入るか、あるいは本当にデジタルワールドに行った方が幸せだと思うぜ俺は」

 

 フレースヴェルグの言う事は、もっともだった。

 

 同じ人間である、という理屈が通用する事は多分無いだろう。

 

 もし仮にそんな事を言えたとしても、秘めた異常性が自分で自分を差別の対象に入れ込んでしまう。

 

 人狼の姿と成っている雑賀自身こそ、それを皮肉ったような存在とも言えた。

 

 ()()()()()()()

 

「認めてたまるか……こいつの家族だって、こいつの事を心配してるに決まってるんだ。お前はこいつの意志だけじゃなく、そいつ等の意志だって無視して奪い去ろうとしてる!! そんなの認められるか。勇輝の奴も、いつデジタルワールドに行きたいなんて言った!? ふざけんじゃねぇ。結局お前等がやってる事は思想の押し売りと押し付けだろうがッ……!!」

 

「……へぇ」

 

 そこで、初めてフレースヴェルグは関心したかのような声を漏らした。

 

 その顔に明らかな笑みが宿る。

 

「自分が化け物だと知ってしまった。今までの居場所において自分が場違いとしか思えなかった。……だから、居心地の悪い場所を捨てて『同じ』になっちまえ。そう自分に言い訳しちまえば群れる畜生と何ら変わりも無い奴になっちまうのに、本当に!! お前の事を連中が『()()()』って呼んでる理由が分からないねぇわ!!」

 

「…………何が言いたいんだ」

 

「見て分からねぇのか? 嬉しいんだよ。お前が飼い主に尻尾を振り続ける犬じゃなくて、例え独りだろうが自分の意志で動こうと出来る狼だって事が分かってな。だからでこそ、いつかに狩り甲斐が出来る。こういう収穫をこの目で見られるモンだからこの役割も捨てられねぇ!! どんどん逆らってきな、俺を殺せる所までとっとと這い上がってきな!! 紅炎勇輝を助けるにしても、現実世界の事件を解決するにしても、これから力ってのは必要になってくるんだからな!!」

 

 歓喜と狂気だらけの、理解など出来もしない言葉の連続だった。

 

 牙絡雑賀には、フレースヴェルグの言っている事を理解する事が出来ない。

 

 何より、その狂った思考を理解しようなど最初から思えなかった。

 

「……そんな事はどうでもいい。俺はコイツを元の場所まで送り返す、自分でそう言ったんだ。それを邪魔するんなら、相手が誰だろうとぶっ潰す!!」

 

「やめとけって」

 

 笑みを崩す事も無く、雑賀の言葉に対してただ呟きだけがあった。

 

 そして、言葉が続く。

 

「今のお前に俺の相手はまだ早い。それと、今回はお前の意志を尊重させてもらうさ。今回の一件の勝者はお前なんだから、そいつの命をどうするかなんてお前が一任するべきだしな。喰らうにしても、生かすにしても」

 

「ふざけんな」

 

 雑賀の心には、もう恐怖心以前に怒りだけが湧き上がっていた。

 

 意思を尊重する? 勝者はお前? 命をどうするかなんてお前が一任するべき事? 

 

 ふざけてるのか、クソ野郎。

 

「そもそもお前が、お前等がこんな事ばっかりしてるからこいつも勇輝も、誰もが苦しめられてるんだ!! 特別性? デジモンの力? そんなモン関係あるかよ。お前等のやってる事はただの犯罪だ、ただの蹂躙だ。それで奪われた物が戻ってくるまでの間、どれほどの人間が悲しみに暮れてると思ってやがる。それを知った上でまだスカした台詞を吐くんなら、そんな台詞が言えなくなるまでお前をぶっ潰すッッッ!!!!!」

 

 秘められた能力との差も、自分自身の命の危機さえも無視して、狼の青年は一歩も引かずに吠えていた。

 

 その体毛が一部、いつの間にか()()を帯びようとしていた事に彼は気付かない。

 

 フレースヴェルグの方も、その言葉を聞いて笑みを更に深めていた。

 

 その態度が、余計に雑賀の怒りに油を注いでいた。

 

「笑みを浮かべんのも……大概にしろォォォおおおおおおおおおお!!」

 

 叫んだ後、あるいは同時に。

 

 ダッ!! とプールサイドを踏み抜き、真正面から一気に『それまで』を越えた速度で雑賀は突貫した。

 

 水場という機動性を阻害する要因が取り除かれた『ガルルモン』の脚力は、容易く人間のスペックを越えたスピードを実現させると、即行で雑賀の右手は手刀の形でフレースヴェルグの首元へと突き刺さろうとした、

 

 はずだった。

 

「悪いな」

 

 その言葉が聞こえたか否か、どちらにせよ。

 

 雑賀の右手は、フレースヴェルグの体に届きさえしていなかった。

 

「ッ……!!」

 

 その理由を、雑賀は理解出来たが、推測する事は出来なかった。

 

 風圧だった。

 

 フレースヴェルグに突貫しようとした瞬間、絶大な暴風にも似た風が圧力を宿して雑賀へぶつかって来たのだ。

 

「だから、言っただろうに」

 

 ふとフレースヴェルグの姿を確認してみれば、その姿はカットジーンズを履いた褐色の青年の姿ではなくなっていた。

 

 一見した時点で特徴を挙げれば、それは体毛の時点で現代では見られない容姿の『鳥人』だった。

 

 下半身から上半身までにかけて青色をメインカラーとし、頭部と羽根はマゼンダカラーで、後頭部から腰にあたる部分まで(たてがみ)のように存在する毛の色はライトグリーン。

 

 色だけでも三色と派手に見えるが、色以前に背中から生えている翼の大きさが尋常では無く、頭から脚までの体の大きさなど軽く越している。

 

 ――この風圧が、その『翼』による物だと推測する事は容易かった。

 

「まぁ、そいつはちゃんと病院に戻しておくから安心しろ」

 

 局地的に発生した暴風圏の中で、雑賀はバランスを保つだけでも精一杯だった。

 

 そして、いつの間にか、体が空中に浮いている事に気付いた時には、もう遅かった。

 

 最後の最後に、フレースヴェルグは翼を振り被ると、最後まで抵抗の意志を途絶えなかった狼に向けて、事後確認のように言葉を残す。

 

 

 

「俺の名はフレースヴェルグ。頭ん中に宿ってるデジモンの名前は『()()()()()』。お前がいつか強者として喰らいついてくる時を、高い所で待っているぜ?」

 

 

 

 直後に。

 

 どうしようも無い風の暴力が、牙絡雑賀の体を軽く吹き飛ばしていった。

 

 

 




 ……そういうわけで最新話でしたが、どうだったでしょうか? ユキサーンこと紅卵由紀です。

 今回の話は司弩蒼矢との対決が済んだ後――正確に言えばその直後の出来事で、またしても唐突な展開になりました。ずっと前から出したかったキャラことフレースヴェルグを登場させられたのは、個人的に嬉しかったです。(話の構成的にもこういう『何をしでかすのか予測出来ないキャラ』は突発イベントに投与しやすいw)。

 根本的な問題。司弩蒼矢をこれからどうするか。未知にして強大な敵の出現……など、殆ど会話メインに近いですがそれでも入れたい物はつめ込められたかなと思っています。

 今回の話を最後まで読んでくれたお方ならば理解出来る通り、フレースヴェルグの脳に宿るデジモンの種族は『オニスモン』。映画版フロンティアや漫画版クロスウォーズぐらいでしか出番が無く、割りと影が薄いような気がしないでもない種族なのですが、この小説ではこいつを強キャラとして投与しようかなと考えた末にフレースヴェルグというキャラが誕生しました。

 フレースヴェルグという名が出た時点では『伏線だけ』にして、オニスモンって名前を挙げるのは後にしようかなとも思ったんですが、敵の強大さとかを表に少し出すためにも今回で早速公開してみました。

 さてさて、今回なんとも『かませ犬』と言えなくも無い惨状だった雑賀くんですが、次回からは展開がシフトしますのでお楽しみに。
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