DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語   作:紅卵 由己

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まーた一ヶ月更新だよ(呆)。
流石に自分でも更新ペースが遅すぎると思ってます。
そりゃエターなってないだけマシかもしれませんが、遅いからって他の作品が進んでいるってわけでもないのが問題なんですよね。動画投稿とかし始めたのが楽しくはあってもやはり足枷に……ぐぬぬ。だが楽しいからやめられない。

話は変わりますが、『デジモンユニバース アプリモンスターズ』が発表されましたね。二週間ぐらい前に。
自分の見解としては、かなり良い傾向だと思ってます。正統な後継作品というか。
ただ、現状では何か『妖怪ウォッチじゃんww』とか『デジモンっぽくない』とか後ろ向きな意見が多くて残念です。こんな事言うのもアレですけど、いくら根源的設定が同じだからとは言ってもアプモンとデジモンを同一視するのは馬鹿馬鹿しいと思います。具体的に言うとポケモンとデジモンと比べるぐらい変な事だと思います。『全く別の存在』なんですから、アプモンはアプモンとして認識して楽しむべきですよ。

では、本編をどうぞー。

PS 少し不自然な点を発見したので修正いたしました。


七月十四日――『切り変わる視点//切り替わる真実』

 

 数分ほど前の事である。

 鳴風羽鷺は、防犯オリエンテーションを割りと楽しんでいるらしい生徒達の事を無視して、高層ビルの屋上で何の比喩表現でも無く()()()()()()()

 

「……あー、やっぱり徹夜なんてするもんじゃなかったです……」

 

 朝食を米にするかパンにするかを迷ってでもいるような調子で呟く彼の姿は、縁芽苦郎とすれ違った時とは違い、人間の体のそれから電脳力者(デューマン)特有と言える人外の体へと変貌している。

 身長にして一七〇程はあるだろうか――服装として羽織に袴、そして頭には大きな笠を被っており、江戸時代に存在していたらしい侍を想起させるような風貌だが、その体表には両腕を除き肌色が存在せず、代わりに黄色い羽毛がほぼ全身を埋め尽くしていて、顔立ちや両脚は鷹のそれと大差が無い。

 極め付けに背中からは黄色だけで無く茶の色も宿した大きな翼が生えており、それは鳥という生物にとっての両腕に該当される部位であったが、彼には人間と同じ五指が揃った両手がある。

 鷹を模した侍――そう形容すべき姿だった。

 

(件の『殺人鬼』は、現状路上で姿を曝け出す事をしていない。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 電脳力者(デューマン)電脳力者(デューマン)の存在を察知する能力には、基本的に生物が持つ五感が関係しており、何に秀でているかどうかは脳に宿すデジモンの性質と種族によって差異がある。

 例えば、イヌ科の動物が原型(ベース)となるデジモンの場合は嗅覚。

 ()()が自覚しているかしていないかは別として、それは『ニオイ』と言う名の大気中を漂っている情報を取り込む事で、電脳力者(デューマン)の位置やそれが宿すデジモンの性質を直感的に認識するというもの。

 その一方で、鳴風羽鷺のように鳥類を原型(ベース)としているデジモンを宿している場合に秀でているのは、視覚。

 電脳力者(デューマン)が放つ力場や携帯電話の電波など、普通(ただ)の人間の目では認識さえ出来ない情報を視認する事が出来て、種族によってはそれ以外にも身近に存在する何らかの情報を『視る』ことが出来るというものである(尤も、実際に『視る』事が出来ているものが何なのか、という点にまで自覚出来ているかどうかは、また別の問題になるのだが)。

 彼はその秀でた個性を活かし、目的の情報を獲得するため高い位置から探りを入れていたのだが、

 

「……闘ったりするのって好きじゃないんですけどねー……」

 

 休み明けの期末テストにうんざりするような調子で、羽鷺は独り事を口にする。

 広く視界を取れる高層ビルの屋上からは、距離に制限こそあれど色々なものがよく視える。

 視たいものも、()()()()()()()()

 事実から言えば、電脳力者が放つARDS(アルディス)拡散能力場(かくさんのうりきば)が見えていた。

 彼は別に正義の味方というわけでも無ければ、赤の他人のために体を張らなければならない責任を背負っているわけでも無いので、視界に映る状況がそれだけであれば無視するだけで済ませ、作業とも言える索敵を続けるつもりだった。

 だが、

 

(……アレって確か、苦郎さんの義妹の子だったような……?)

 

 視界に入った情報は、人外の力を行使している電脳力者(デューマン)の存在だけでは無かった。

 彼としても()()()()()がある縁芽苦郎の義妹が当の電脳力者(デューマン)の近くに居たのだ。

 まずい、と彼は率直に思った。

 状況の判断から行動へ移るのに、三秒も掛からなかった。

 彼は自前の(カバン)から、収まりきらずはみ出ている黒色の袋を手に取る。

 棒状の何かを収納しておくために存在するその黒色の布の正体は、剣道などで使われる竹刀を収納するための袋だ。

 彼は鞄を左手に、そして竹刀袋を右手に持ったままビルを飛び降りる。

 落下の勢いによって生じる風を翼が受け止め、速度をほぼ殺さずに標的の元へ向かう中。

 彼の右手に掴まれた竹刀袋はその中身に存在する竹刀ごと『変換』され、瞬く間に日本刀とそれを覆う鞘へと本質の全てが変わる。

 その流れの中に、マジックショーのようなタネや仕掛けの痕跡など存在しない。

 そして、そんな事は『力』を望んで使う者にとってはどうでもいい。

 彼は軟体生物のような複数の手足を生やした電脳力者(デューマン)の方へと高速で上方より迫り、

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 そして、現在に至る。

 彼は一度鞄から手を放し、空いた左手で日本刀を鞘から引き抜くと、縁芽好夢の脚に絡みついていた触手を中間の部分から切断し、放置していれば()()()()()()()()()()()()()()現場へと躍り出た。

 痛みを感じているのか、あるいは単に邪魔をされたと認識してか、イカと人間を掛け合わせたような姿の電脳力者(デューマン)が舌打ちし、解り易い敵意を向けて来る。

 助けられた側である縁芽苦労の義妹は、状況に理解が追い着いていないのか、言葉さえ発していない。

 当の介入者こと鳴風羽鷺はと言うと、

 

(……これ、どういう状況なんでしょう……)

 

 危機感から状況に介入したものの、彼はどのような経緯で縁芽好夢が襲われるハメになったのか、詳しい事情を知らない。

 仮に理由を知っていたとしても、この少女が襲われているという状況そのものがマズイと感じられるため、どちらにせよ介入したのだが、一応事情を聞いておく必要はある。

 そう考え、彼は(くち)――が変化した(くちばし)を開く。

 

「……こんな所で何をしてい

「何モンだテメェ!! 突然現れたと思えば人の腕切り落としやがって!!」

 

 最後まで言い切る事すらさせてもらえなかった。

 怒声と共に敵意全開の視線を向けられ、思わず溜め息を吐く羽鷺。

 こんな面倒事に発展するぐらいなら冷静に近付いて話し合いでもするべきだったか? と考えられなくも無かったが、彼は構わず刀の刃先を標的へと向け、改めて言葉を紡ぐ。

 

「何モンだろーがどーでもいいので、さっさと手を引いてくださいませんか? 触手を切った事は謝りますので。ほら、どうせ生え変わるんでしょう?」

「……そういう問題じゃねぇんだよクソが!! どんな育ち方すりゃあ出会い頭に腕切るなんて発想になりやがるんだ!?」

「さぁ。少なくとも()()()()()()()はしてねーと思いますがね」

 

 じりじりと、刃先を向けながら近付き始める羽鷺。

 刃物という武器自体が触手を取り扱う電脳力者(デューマン)にとって相性が悪いのか、ただ刃物(それ)を視界に入れて近付くだけでも威嚇の行動にはなっているらしい。

 ただでさえ、触手の一本を切断された直後なのだ。

 無意識的だろうが何だろうが、植え付けられた恐怖心は後退という行動へ体を誘導させる。

 イカ――ゲソモンと呼ばれるデジモンの電脳力者(デューマン)は、

 

「……畜生が。()()といい今日といい……どうしてテメェみてぇなのが現れやがる……!!」

「狙った相手が原因なんじゃないですかー? というか、退くならさっさと退いた方がいいですよー。僕なんかよりずっと危険な、同じ『力』を持った人にバレた日には何が起こるか解らんもんですからー」

 

 出来の悪い生徒に教え込むような調子の台詞に、ゲソモンの電脳力者(デューマン)は舌打ちしてから、

 

「……チッ、覚えてやがれよ。お前()いずれ手篭めにしてやるからな……!!」

 

 言うだけ言うと、落下の防止として人間の胴部の高さに合わせて張られた鉄柵に触手を絡ませ、そのまま躊躇無く川へ身を投げ込んだ。

 小石を落としたと言うより、プールの飛び込み台から思いっきり飛び込んだ時に似た水の弾ける音が響き、念のため羽鷺は川の中へ撤退したゲソモンの電脳力者(デューマン)の姿を追うため鉄柵に身を乗り出してみたが、既に標的は羽鷺の視界から姿を晦ませていた。

 追跡を免れる意図を含んだ行動であれば、恐らくは下水道――より厳密に言えば洪水防止用に設けられた都市下水路の方へと向かったのであろう。

 ただでさえ、状況次第では『水』と言う名のフィルターが標的との間に存在し、更には日の光が届かない地下の空間。

 視覚を介して取り入れる情報を阻害される事を鑑みても、羽鷺はここでわざわざ標的の土俵へ踏み込もうとは思えなかった。

 が、逃がしたという事実を頭で理解した後になってから、彼の脳裏に一つの思考が過ぎる。

 

(……どうせなら、闘う力も根こそぎ奪うべきでしたかねー)

 

 羽鷺がこの場を去った後、再び戻って来たゲソモンの電脳力者(デューマン)が縁芽苦郎の義妹を襲いに来る可能性を考えてみると、標的が川の方へ逃げる前に触手を更に切断しておくべきだったか――と思わなくも無かった。

 尤も、初撃の後に状況分析のために思考した時点で追撃の機会を棒に振っており、その時点で追撃する場合には初撃の時と違い真正面から縁芽苦郎の義妹を守りつつ七本の触手に対応しなくてはいけなくなるわけで、

 

(……『二本目』まで使って汗水垂らすってのも面倒というか疲れますしー。戦わずに済むんならそれでいいでしょうなぁ)

 

 とりあえず、縁芽苦郎の義妹を危機から脱させる事は出来たと判断するべきだろう。

 これ以上この場に留まり続けていても何のメリットも無いため、羽鷺は自然落下の慣性から鉄柵付近に落としていた鞄を回収した後、背にある翼を広げて飛び去った――はずだったのだが。

 

「ねぇ」

 

 背後から聞こえた声だけなら、無視するだけで済ませられたかもしれない。

 だが、直後に直接的な変化があった。

 ガシィッ!! という擬音が聞こえてきそうな程の握力で、背後から尾羽を掴まれたのだ。

 

「ひゅわああああああっ!?」

 

 ほぼ反射的に素っ頓狂な声を上げる羽鷺。

 背後から尾羽を掴んできた張本人こと縁芽好夢は、そんなサムライ系鳥人の様子など気にも留めぬまま言葉を紡ぐ。

 あるいは、度胸でもって踏み出すように。

 

「やっぱり、仮装とかじゃないんだ。助けてくれて、ありがとうね」

「……え、えっとー……どういたしまして。とりあえず放してもらえますか?」

「それなら、こっちの質問にも答えてくれない? 助けてくれたって点に関してはあえて聞かないんだけど、こればっかりは絶対に聞いておきたいから」

 

 疑問に対する回答は無かった。

 ただ、一つの問いがあった。

 

「ねぇ。この街には、あなたみたいなのが他にもいっぱい居るの? さっきのイカ人間みたいに」

「……居るとは思います。ただ、あんまり関わらない方が身のためだと思いますけどねー」

「そう。いきなり掴んで悪かったわね。もういいわよ」

 

 言葉の通り本当に手を尾羽から放してもらえたので、羽鷺は直ぐにその場から飛び去るため翼を羽ばたかせる。

 羽鷺の体は宙に浮き、数秒もしない内に彼は荷物と刀を手に人気の無い場所を探し飛翔する。

 視線を左右に泳がせ、人気の薄く見渡しの良い場所を探しながらも、彼の脳裏には一つの疑問が浮かんでいた。

 それは、

 

(……あの子、どうして()()()()()()()()んでしょう……)

 

 答えは出ず、他に重要な事項が残っている事もあってか、興味もやがて薄れてきた。

 兄妹の問題であれば兄が解決するのが一番だと思う――そう結論付け、鳴風羽鷺は元の役割に戻る。

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 そうして、サムライ系の鳥人間の姿が建物の影に隠れて見えなくなった頃。

 縁芽好夢は、自分が今どんな表情をしているのか解らなくなっていた。

 イカ人間に襲われた時には生理的嫌悪感と恐怖を真っ先に感じていたはずなのに、絶望と困惑が入り混じった顔はしていないという事を確信出来ていた。

 

「……ふ」

 

 笑みがこぼれる。

 心が自然と沸騰を始める。

 自分が、狂っているとは思いながらも。

 

(……あれが、苦郎にぃや雑賀にぃが見ていた景色なんだ。あたしに隠そうとしていた『何か』の実態)

 

 多分、この情報を知る事を彼等は望んでいなかっただろう。

 望んでいたのなら、もっと早々な時期から実際に証明して見せたはずだから。

 これが偶然にしろ必然にしろ、彼女は『秘密』を知る事が出来た。

 だから、

 

「別に、待ってなくてもいいよ」

 

 彼女は、自然とそう漏らしていた。

 心の中で留めておくのでもなく、口に出して。

 あるいは、たった一人で宣言でもするように。

 

「必ず『そこ』に追い着く。追い着いてみせる。望まれていなくてもいい。あたしはあたしがそうしたいからこうするだけ」

 

 あのイカ人間は、自分の事を『同類』だと言っていた。

 言葉の内容から推理してみるに、姿が見えているという時点で好夢にも『資格』はあるらしい。

 そして恐らく、自ら『事件』の全容を知ろうと動くだけで、自分は兄と同じ場所に立ち会える可能性が高くなる。

 

(……多分これで進路は間違いない。例えこの道を突き進んだ結果としてあたしも人間以外の何かになってしまうとしても、構わない。今の、人間の常識では理解の出来ないあいつ等みたいな連中を越えた先に、あたしの求める次のステージが待っている)

 

 危険に立ち向かうだけの理由は十分に揃っていた。

 以前から隠し事をしている身内の秘密と、現在進行形で起こっているらしい人間の消失事件。

 それを解決するための手助けがしたいという思いと、もう一つ。

 

「……お母さんの仇だって、きっと……」

 

 瞳に湛えているのは、何処か濁った光と暗い闇。

 きっと、この道を進む事を望んでいない者が居るとは理解していても。

 このまま、現実と言う名の行き止まりに留まろうとは思わなかった。

 輝かしい光を放つ太陽を薄い雲が隠し始める中、獰猛な笑みを浮かべる少女が一人。

 彼女は、自分の意志で、一歩踏み出す。

 一歩、一歩、一歩――踏み出す。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 時は流れて時刻十三時半頃。

 疲労から少々仮眠を取っていた牙絡雑賀も、また動き出そうとしていた。

 彼の衣装は病院から出た時の白と黒の学生服姿ではなく、赤色のTシャツと生地が薄めで黒色のズボンという組み合わせに変わっていた。

 ただでさえ帰宅する前に面倒なチンピラ三人組とエンカウントし、思いっきり汗水を垂らした服をいつまでも来ていたいとは思えなかったし、何よりこれからの事を考えるとある程度軽めの衣装で身を包んだ方が良いと感じたからである。

 母親との会話は済ませた。

 多くを語られたわけでもなく、交わした言葉も少なかったが、気持ちは多少理解出来た気がした。

 もしかしたら単に諦められているのかもしれないが、雑賀としてはあまり時間を掛けずに済んて良かった、と思えた。

 あまり多く会話をすると、決断を鈍らせる気がしたから。

 

 外出するにあたり、彼が荷物として用意した物は一つだけだった。

 現実(リアル)においてはただの玩具でしかない青色の機械――デジヴァイス。

 携帯電話や財布など、明らかに必要だと思える物を部屋に置き放しにしておきながら、何故かそれだけは持って行った方が良いと判断していた。

 何も起きない可能性の方が圧倒的に高いが、縁芽苦郎の言葉が妙に頭に残っていた。

 

「何が起きてもおかしくない、か」

 

 その言葉に込められた意味は今でも解らない。

 だが、解らずとも意味が存在しないわけでは無い。

 

「それなら、どんな奇跡が起きたってご都合主義なんて思わなくても良いよな」

 

 どの道、時間をかけ続けている事は出来ない。

 このまま平穏の中で安らぎに浸るという道もあったが、それも長くは続かないだろう。

 覚悟を決めて、事態と向き合うべきだ。

 自分の部屋を出て、母親の居る部屋まで向かい、一言。

 

「ちょっと外出してくる」

「アンタ、また危険な事に首突っ込むつもりじゃないでしょうね?」

「流石にこんな時間だし、不良に首根っこ掴まれるみたいな事は無いと思うけど」

「というか気になってたんだけど、自転車はどうしたの? アンタが見つかった場所の付近には無かったって話だけど」

「……うげ、もしかしたら俺を殴った奴等が回収したのかも。カギ付けたままだったし」

「ヘマをやらかしたねぇ」

 

 母こと栄華の言葉にぐぅの音も出ない雑賀。

 ……実際の話をすると、回収されたかどうかの確認はしておらず、そもそも先日の司弩蒼矢戦から今にかけて自転車の事をすっかり忘れていたのだが、詳しい情報まで口にすると雑賀が先日やった事まで感付かれる恐れがあったため、とてもではないが喋る事は出来なかった。

 ともあれ、

 

「それの確認も含めて用事があるから……」

「そんな調子で『少しだけ』外出するとか行った矢先に大怪我したのは誰だっけ?」

「流石にこんな短期間で二度もこんな事にはならないよ!! こんな昼間だし、不意を突かれる心配も無いし!! ちゃんと帰ってくるし!!」

「……そう。そう言うならいいけど」

 

 渋々ながら納得してくれたらしい。

 そう判断し、踵を返して靴を履き、家を出ようとした時。

 その時になって、牙絡栄華はこんな言葉を放って来た。

 

「ちゃんと、帰って来なさいよ」

「…………」

 

 込められた意味は単純な物だっただろう。

 常日頃から聞き慣れた声の、珍しくもないただの言葉。

 それに対し、牙絡雑賀もまた珍しくない普通の言葉で返す。

 

「解ってるよ」

 

 それだけだった。

 玄関のドアを閉め、彼は自分の居場所から出て行く。

 外の空気を吸う。

 

(……水ノ龍高校で起きた事件の被害者。怪我の内容は切り傷と肋骨の骨折などの重軽傷)

 

 こんな事は、ただの偽善かお節介なのは解っているつもりだった。

 

(情報源が正しければ、司弩蒼矢は事件当日あの学校に行っていた。アイツの宿しているデジモンは『シードラモン』で間違いない。だけど、あの体で出来る攻撃手段で……あの怪我の内容を再現出来るのか? アイスアローなんて撃ったら切り傷以上に凍傷が生じているはずだし、未遂だったにしろあの時点でのあいつの目的は四肢の強奪だった)

 

 自分が何かをやって、どうにかなるような問題だとも思えなかった。

 

(もしあいつが本当に学生を襲っていたとしたら、それで被害者を生んでいたら……怪我の内容はもっと別の物になるんじゃないのか? 技を行使していなかったのなら、それはそれで攻撃の手段が限定される。なら……)

 

 だけど、この一点だけは。

 一度戦った事のある自分だけにしか、伝えられないかもしれなかった。

 

(……昨日の事件。現場にはもう一人……別の電脳力者(デューマン)がいた? だとしたら……まさか!!)

 

 だから。

 

(あいつは高校に来た時、学生を襲ったんじゃない。もう一人の電脳力者(デューマン)から学生を守るため、覚えも無い内に戦っていたんじゃないのか? 被害者の怪我の原因は、その『もう一人』の方じゃないのか!?)

 

 牙絡雑賀は走る。

 あの哀れな怪物が優しい人間である事を知っているからでこそ、罪悪感に駆られて日常へ回帰出来なくなる前に真実を伝えなければならない。

 そして、もう一つ。

 もしも仮説が正しくて、司弩蒼矢と戦った『もう一人』が存在するのならば。

 その『もう一人』の人格次第では、彼を逆恨みで襲いに来る可能性がある。

 その時、もし彼が罪悪感に駆られてマトモに戦えない状態だったとしたら?

 

(……くそったれが。病院に居るって事を知られてなければいいが……!!)

 

 急がなければならない。

 場合によっては、取り返しのつかない事態に陥る可能性すらあるのだから。

 彼は肉体の情報を書き換え、狼男のような姿へ転じると、近辺に建てられている階層の少ないビルを足場に連続して跳ぶ。

 ビルからビルへ次々と飛び移り、つい数時間前には自分が運び込まれていた病院の前まで到達する。

 周りに人の視線が存在しない事を確認してから、彼は肉体の情報を元の状態へと戻す。

 急ぎ受付係(インフォメーション)のお姉さんへ、司弩蒼矢の部屋の番号を確認しようとしたが、

 

「司弩蒼矢さまなら、少し前に友達のお方と一緒に電動車椅子で外出しましたよ」

「えっ……何処に行ったのかは解りませんか?」

「念のため友達のお方に専用のGPS機能有りの携帯電話を持たせていますので、すぐに解ります。少々お待ちいただけますか?」

「出来る限り、早めにお願いします!!」

 

 焦り方か言動に圧が加わっている気がしたが、受付のお姉さんは意外とクールビューティーなタイプだったのか、雑賀とは対照的に冷静な態度で仕事をしてくれた。

 そして、情報は表示された。

 受付のお姉さんへお礼を言い、病院を出て視線の有無を確認した後再び肉体の情報を変換させる。

 

「……何事も無いでくれよ……!!」

 

 居場所は解った。

 だが、心の中の不安感が治まる事は無かった。

 何が起きてもおかしくない――その言葉に、妙な信憑性が宿っていた。




 ……と、そんなわけで最新話でしたが、いかがだったでしょうか?
 
 今回は前回乱入した鳥系サムライデジモンのデューマン……の正体こと少し前に登場していた鳴風羽鷺の視点による話と、何か闇墜ち……いや病み墜ち? しそうな好夢ちゃんの独白っぽい話。そして、前々回辺りに疑念を生じさせた雑賀くん視点から決意っぽいシーンとか司弩蒼矢の問題とかって感じのお話でした。
 もうぶっちゃけ言ってしまいますが、気付いている人は気付いている通り、鳴風羽鷺の宿すデジモンの種族は『ブライモン』。初登場作品は『デジモンストーリー ロストエボリューション』です。かなりドマイナーなデジモンなのですが、デザインは秀逸だと思います。
 正直なところ戦闘はもっと書きたいところだったのですが、今回は状況的にも相手的にもあんまり面白い戦闘を書けると思えなかったのもあり、ほぼ戦闘描写ゼロ。ただ飛翔・降下しながら刀を出現させたぐらいしか見せ場が無かった……こ、今度登場する時には活躍しますから!!(震え声)。
 ちなみに、雑賀と戦った時の司弩蒼矢の姿は思いっきり元のデジモンの姿から掛け離れていましたが、ブライモンなど『人型』が骨格の原型に混じっている種族の場合、あんまり元のデジモンと外見面での変化は生じません。元々人間に近い形のデジモンですからね。変化が全く無いというわけでもありませんけど。

 サラっと縁芽好夢にも色々とフラグが付加されましたが、この辺りは色々想像してもらえればかなと。女性キャラでメイン張る子はヤンデレ化するってそれ一番言われてるから(小声)。
 
 でもって、ようやく司弩蒼矢関連のイベントも進み始め、『第二章』も終わりが見えて来た気がします。牙絡雑賀・縁芽好夢・司弩蒼矢。彼等が選ぶ道をしかと見届けてやってください。
 それでは、感想・質問・指摘などいつでも待っております。
 次回もお楽しみに。
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