Sword Art Online For Dark Souls 作:心折れた男
騙して悪いが、新話でな
見てもらおう
まさか長々と試験に縛られるとは...だからこそ、作者は新話書きを求めるのさね...
【二人組万歳!】
誤っての転落。
それは、実際に起こる事故としては、不名誉ではあるがそこそこポピュラーなものであり、高さによっては即死に値するケースもある。
その脅威は大概の生物ににとって等しく恐ろしいもので、これまでに数々の不死人や灰、狩人ですら不意に落下し、予想外の敵地へとほっぽり出されたり、果ても見えない奈落へ消え去ったりと、とことん酷い目に遭わされてきた...
そして、この時も。
大穴の底にある雪の地面を人型に陥没させ、大きく騒音を立てながら落下死...とまではいかず、なんとか多少のダメージで済んだものの、『別の人を巻き込んで』雪に埋まったシンダーも、その恐怖と被害をしみじみと感じさせられていた。
そこまで深く陥没した訳ではなく、きっと数メートルにも満たない、頑張れば復帰できる程度にしか埋まっていないのだが。
「お、重い...」
憐れなのは、降ってきたオンボロ騎士の下敷きにされてしまった『別の人』。
実は『別の人』は、この大穴の底に、シンダーが知るよしも無いが落下してどうしようかと、もう一人の同伴者と策を練っている最中で、そんなタイミングで人が重力に振り回されて上から降ってきたのだから、彼こそ一番の貧乏籤である。
「す、すまぬ...貴公...まだ生きているか?」
「あぁ...結構ダメージは食らったみたいだけど、なんとか...」
いくら古びていてもシンダーが纏うのはやはり鎧、その全体重を押し付けられて苦しそうに呻く『黒髪黒コートの少年』のhpバーは、瀕死とまでは行かなくとも黄色の危険区域にまで落ち込んでいる。
とあるロボが全てを破壊したり、虐殺したりする硬派な『遊戯』には、自身の機体の重量や加速の勢い、脚部の部品によって威力が変わる『ブーストチャージ』なる蹴り技があるらしいが、この少年に突如向けられた『隕石』は、それを人間が出せる程度に抑えて、重量と加速を最大限にかけた一撃だと思って貰えばいい。
『強者』とは言え、そんな一撃を食らってしまえば大きく体力を削られてしまうものだ。
残念ながら、少年がどんな表情をしているかなどは、うつ伏せに彼がなっているために見えないが。
「だ、大丈夫!?」
「な、なんとか...リズこそ大丈夫か...?」
「うん、私は何も無いけど...落ちて来た人も無事!?」
「私は問題ない...が」
声が聞こえた天井を見上げてみれば、そこにピンク色の髪をした、顔に雀斑のある勝気そうな少女が顔を覗かせる。
下敷きにされてしまっている少年を心配していたのか、初めは不安に染まった色合いを見せていたが、無事でホッとしたのか、いつのまにかその面持ちを引っ込めていた。
「今すぐに貴公の背から退く故、しばし耐えてくれ...本当にすまない」
「そして、上にいるお嬢さん...少し穴から退いていただけないか?」
「え?うん、わかった」
まさか下の人物を足蹴にし、跳躍して脱出なんていう非道な行為など、一応は人間性を保つ彼にできるはずもなく。
そんなハンデを持ってどうやってここから出るのか、彼が入れ替えた武器は、先に使った暗殺者のモノとは違う、手甲に纏うことでがん『かぎ爪』。
特別な技巧を加えられたわけでも無い、ただの爪と侮るなかれ。
傷口を搔き開く、言葉通りの『鉤爪』の形状をし、神代の鍛冶屋に鍛え上げられた爪は鋼鉄の鎧さえも容易く引き裂き、大量の出血を強いる優れ物であり。
おまけにとても軽量な代物で、扱いは難しいものの、慣れれば軽快に空を舞い、強襲の形で敵の頭部に食らい付いて致命的な手傷を与えることさえ可能なのだ。
しかし今回使用した理由は殺しのそれではなく、『鬼切と姥断』のような軽やかに空を舞える武器の情報に、見事に『現状況に』もってこいの形状を必要としたから。
あまり強く、かつ下の青年を踏まないように地を蹴って飛び立ち、なんと彼はそのまま両手に付けた爪を、雪と土が混じり、ほどよく硬質な大地へと突き刺した。
つまり、彼は強靭で絶対に折れないと信じる爪の鋭さと粘り強さを信じ、それを壁に刺していくことにより食い付き、ロッククライミングを行おうというのだ。
元々深い穴でもなく、慣れた手付きでザクザクの登っていき爪にダメージが破損へ至る前に、迅速に穴から飛び出す事に成功した。
その横で、少々表情を驚愕に歪める少女は、一体彼のどこに驚きを覚えたのだろうか...
「貴公!脱出はできるか!?」
さて、抜けて来た穴を覗き込んで、残してしまった被害者に申し訳無さそうに呼びかけるシンダー。
そこまで深くないとはいえ、彼の手を伸ばして届く距離では断じて無い。
どうしたものかと考えるシンダーだったが。
「俺は大丈夫!このくらいなら『跳べる』!」
なんと、『跳べる』と告げた雪と土まみれの黒髪の少年。
覗き込んで少しでも悩んだシンダーから思えば、あまりにも予想外な答えである。
人で、少なくとも何メートルも道具なしで飛べるなんて夢にも思わない。
まさか、あり得ないと思うのが普通ではあるが。
「了承した、私は離れていよう」
シンダーは信じたのだ。
心から、その声の主を、あり得ないような絵空事をやってみせると言うことを。
付け加えるが、彼は天然は入っているのは否めないが、幾多もの人を見てきたがために、人を見る目は決して愚かでは無い、むしろ鋭過ぎるほどに目敏いとも言える。
そんなシンダーが、冗談のような言葉を信じたのだ。
そう、それは。
「はぁっ!」
強く地を蹴る音、穴から飛び出す黒い影、勢い余り更に数メートル空へと飛び出す黒コートの少年。
固唾を見守っていた少女が唖然とするのも仕方ないその出来事が。
当然のように声の主がやってのけることを指し示していた。
追加で記述しておくが、少年は何か道具を使ったり、壁を足場にして走ってきたわけでは無い。
純粋な跳躍力のみで、一直線に穴の底から飛び出したのだ。
この世界にも素晴らしい人材がいるものだ、なんてひとりごちそうになるシンダーだったが、黒コートをふわりとはためかせて地面に降り立った彼の素顔を見て、『成る程な』、なんて心の中で呟いた。
一方で、シンダーのほうに向き直った少年もまた、少々驚いた表情を作っている。
「貴公だったのか...本当にすまない事をしたな」
「いやもういいって、俺よりも、本当にシンダーは大丈夫なんだな?というかなんで血みたいなものがこびり付いてるんだ?」
「ああ...いや、まぁこれはな...」
なんとも、不思議な偶然も続くものだ。
たまたま鍛冶屋を求めてこんなところに来てみれば白竜に襲われ、そして落ちた先に知人...キリトと再会するとは。
削れたhpを、持参していたのだろうポーションを、中々豪快にラッパ飲みして癒していくキリト。
「その鎧の人...シンダー...さんは...キリトの知り合い?」
「ああ、一層からの付き合いだ、怪しい奴じゃ...ない、多分」
「貴公多分とは何だ、多分とは」
連続して困惑する事が続いていた——突然人が降ってきて仲間が地面に没したり、その穴から『まだ血濡れ』の古ぼけた鎧の男が飛び出して来たり、弾けるようにその仲間が跳ね上がって来たり——からか、ついていけないように困惑しながらキリトに問う少女。
そういえば、彼女はキリトに『リズ』、と呼ばれていたか。
——キリトと歳が近そうな少女...まさか、な...
こう何度も何度も、明らかに別の女性と睦まじくしている程『天然の人たらし』では無いとは思うが....
長らく付き合っていれば、その人の気質は割とわかるものだ。
例えばシンダーなら、あからさまに怪しい見た目に渋めの大人びた声立ちで付近の人を引かせてしまうが、その実経験して来た地獄も相俟って、簡潔に言えば人が良い人物である。
そして、今回妙ちきりんな察しをシンダーがしてしまったキリトの気質の所以とは、即ち『人が良すぎる、善意の塊の天然の人誑しに成り得る』という所。
ハッキリ言ってしまえば、異性の壁など云々はしっかり弁えているものの、何故かとことん女性から向けられる好意を感じる部分が鈍なのだ。
その上で、この『人が良い』気質を彼なりに分け隔たりなくするものだから、惚れた相手なら更にのめり込んでいってしまうし、まだ惚れていなくても、いつか恋心を持ってしまえば中々難しい『一人しか選ばれない』戦地行きとなってしまう。
敵の殺気、感情、行動などの『読み合い』に対する察知能力や見聞力は人並み外れる強者というのに、やはり人間は、生まれながら何か欠点を持っているのが当然なのだろうか。
キリトの名誉のために追記しておくが、決して、好んで女性を誘惑して弄ぶ『人誑し』というわけでは無い。
むしろ彼に限ってそんな卑劣な事は絶対にしないと断言出来る。
ただ、『天然』でやっているというまた違った問題なのである....
化け物と対峙した時の殺し合いにならば嫌という程慣れてはいるが、異性同士の関係云々にはめっきり疎いし、そもそも不死人と成り果てた時、既にシンダーは...
なんとも頭痛のする状態になってきた。
面倒が嫌いな人ならば、是が非でも逃走したい状況に違いない。
こんな状況でもなければ、かの灰は見逃したりはしない。
自身の手中にあるはずの、淡い導きの光を早速喪ってしまっていることに。
そして、黒の剣士の懐で、蒼と翡翠の煌めきが薄く、しかししっかりと噛み合っていっていることに。
来たるべき『鍛つ』モノが現れたことに、シンダーの持ち合わせる火種達は喜ばしそうに焔の熱気を昂らせる。
——白竜を導いてきた、微かな希望を見守ってきた慈愛の月光が闇を祓う時まで、刻は迫って行く...
この作品特有のドジっ子な不死人。
ソウルも落とすから仕方ない。
【弱点は、逃走】