異伝・真田太平記   作:ハムたろー

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投稿が遅くなってしまいました、申し訳ありません。

基本このように不定期な更新になってしまいますが確実に更新していきますので、気長に楽しんでいただければ幸いです。


真田の軍略

「さて…、そろそろ軍議を始めるといたしましょうか。」

 

まずそう口火を切ったの真田兄妹の長女である幸隆だった。

 

冷たい本堂の床に幸隆、昌幸、信幸、俺が円になり、その中心にこの辺り一帯の詳細な地形が書き込まれた地図を囲むように座り、その上に自軍を示す赤色の駒、敵軍を示す黒色の駒が置かれている。

地図の上には黒い駒が点々と散り散りになって配置されており、逆に赤い駒は約2ヶ所に多数と少数に分けられていた。

 

多数の赤い駒---自軍の主力は今この寺に集められており、また少数の駒は地図の少し離れた森と谷間に囲まれている場所にある。

 

だが敵軍を示す黒い駒は、各地に散っているとはいえ圧倒的に真田軍の赤い駒より数が多く、その数は倍以上あるといってもいい。

 

 

 

「幸隆姉様、真田忍軍の情報によると敵は我が真田軍を補足することができず、軍を散り散りにさせ索敵を行っています。」

 

「敵は我が軍に比べて多勢、とはいえ所詮は豪族の寄せ集め。情報の伝達が円滑にいっていないんでしょうねぇ。」

 

「昌幸姉上、更に忍からの情報でかねてからの策の通り、幸村がすでに見つかりにくい場所に兵を伏せて奇襲の用意を整えています。」

 

「よし、流石だな。後は我らが動けば幸村も動くだろう。『アレ』はこういうのを読み違えるようなヤツじゃない。」

 

 

 

そういうと昌幸は自軍の赤い駒をスススッと動かして敵軍の黒い駒の中に複数存在する主力かつ軍の中核を示す、一際大きい凸型の駒の後ろにそれぞれ自軍の駒を配置した。

 

そして最後に伏兵である赤い駒を、総大将を示す旗が立てられた駒の側面に配置する。

 

 

「多勢に無勢、正面からぶつかり合ってはとてもじゃないが勝ち目はない。『殺る』ならば今、敵が散り散りになっているところを各個撃破し、敵軍の中核を討つ。」

 

「本来ならここまで追い詰められなくても勝てたはずだったんだけどねぇ…、私の軍略もまだまだ、ということかしら。」

 

 

幸隆は相変わらずおっとりした感じで困ったような顔をする。

 

この中にいる者の中で年長であろう彼女は一番成熟し落ち着いた雰囲気を持っていて、一見信幸や昌幸と違い鋭い雰囲気こそないものの、この場にいる者の中で一番『凄み』のようなものがあると感じた。

 

それに…。

 

 

「…?右京殿、どうかしました?」

 

 

昌幸も女性の中ではかなり胸が大きいほうではあると思うが、どちらかというと細身のスタイルにあった美乳、といった感じなのだが幸隆はかなり巨乳の部類…だと思う。

 

今までクラスの女子とかと何の接点もなかったわけではないが、ここまで女性らしい色香を漂わせている女性は初めてだが、かといって女性の胸を凝視するほど礼儀を欠いた任じゃないつもりだ。

 

 

「いや…」

 

「…そういえば今は記憶を無くしていたんだっけな?…だがな右京、次の戦いお前にも働いてもらうぞ?」

 

そう昌幸に美しい瞳で、鋭く睨まれて言われた瞬間心の内を見透かされてしまったようで、ドクッ…!と心拍数が上がった気がした。

 

戦、人と人が刀を、槍を、弓を実際に手にとって戦い命を奪い合う。

 

自分の実家は元々武家の出身だったらしく、道場を経営していて独自の武術も持っていて小さな頃から自転車に乗るよりも早く、竹刀や根を持って武術を叩き込まれた。

 

割と大きな道場で門下生もそこそこいたから門下生同士の試合もあったし、また他の道場との他流試合に代表として試合に出場することもあった。

 

だがあくまでそれは「稽古」や「試合」であって、「殺し合い」ではなく相手を倒したとしても怪我や気絶をすることがあっても、決して命を奪うことはない。

 

刀は人を傷つけてしまわないように文字通り竹刀か木刀だし、槍は当然鋭利な刃など付いているはずも無く丸くなっている。

 

もし今が本当に戦国時代で、彼らが戦国時代の人間ならば俺たちの稽古の様子を見れば「ままごとのようだ」と笑うだろう。

 

そんな風に現代のぬるま湯でごくごく普通の人生を送ってきた何の野望も目的もない自分が、今を精一杯生きるこの時代の人々を殺めていいのだろうか…、否、殺められるだろうか?

 

 

「今、敵本隊は陣を張って休息をとっているらしい。その陣内の真田の忍びの者を潜り込ませている。合図をすれば一斉に陣に火を放ち騒ぎを起こすはずだ、そこを我々は急襲する。…それで、よろしいですか?姉上。」

 

「重畳。烏合の衆に真田の軍略、とくと堪能していただきましょう?」

 

 

 

 

軍議が終わりそれぞれが出陣の準備を始めると、先ほどから慌しかった陣内が更に慌しくなる。

 

だが、先ほどのような無秩序で無駄が多い慌しさではなく、今度は幸隆ら3人が直接指示を出しているため行動は素早く、また喧騒も報告や指示の声ばかりであり、着々と戦支度が整われていった。

 

俺はというと記憶喪失、ということに気をつかってくれたのか軍全体のことはいいので自分自身の準備をぬかりのないようにしっかりと整えろ、と信幸に言われたのだ。

 

なので俺はドロドロになってしまった衣服を一旦着替えて、すっかり乱れた甲冑を再びしっかりと着直して、自分の槍や刀、それに先ほど預かった馬の手入れをしている。

 

真剣の手入れや馬の手入れなんか全然知らないはずなのだが、不思議と道具を手に取ると糸の結び目がスルスルとほどけていく様に勝手に手が動いた。

 

さっきなぜか馬に乗れたことから、やはり「この」世界の稲葉右京の「意味記憶」つまり知識や技術は保持できているものの、「エピソード記憶」つまり思い出や記憶はなくしてしまっているようだ。

 

現に自分は元々の知り合いであるらしい信幸や昌幸、幸隆のことは一切知らないし、どんなに思い出そうとしても思い出せるのは現代でのことばかり。

 

 

「…本当にどうなってるんだ。」

 

 

今、自分が現代より約400年前の日本にいるということが、目の前の時代錯誤な風景から事実だということを認識できても、イマイチその荒唐無稽な事実を受け入れることができない。

 

---これから自分は戦、戦争に赴くのだ。

 

そう考えると演舞などで触り慣れているはずの腰に佩いた刀や手に持った槍、身にまとった甲冑がズシンと重さを増した気がした。

 

 

 

 

 

 

陣を引き払って幸隆、昌幸、信幸は少ない真田の兵を二つの部隊に分けてそれぞれ軍議で打ち合わせた手はずどおりに軍を分けた。

 

敵陣の近くまでは普通の道を進んでいったのだが、敵に補足されてしまうギリギリまで近づくと、地元の者ですら知らない獣道と評するのすら躊躇われるほど鬱蒼と草木が多い茂る未知な木道を進んでいく。

 

やがて敵の陣地が遠めに確認できる位置に到着を兵をその場に待機させ、信幸が指をパチン、とならすと音も無く信幸の背後の黒尽くめに顔を布で覆いつくしたいかにも「忍者」といった格好の真田のしのびが現れた。

 

 

「姉上たちに伝令だ、『信幸、手はずどおり』と。」

 

「御意…」

 

 

忍びの男が音も無く消えるとあたりは夜の静寂に包まれる。

 

敵陣はゆらゆらと松明の灯りが揺れるばかりである、現代のように正確な時計があるわけではないから分からないが、きっととうに深夜0時は回っているだろう。

 

息を潜め、じっと伏せていると聞こえてくるのは風か木々の隙間を通り抜けて草葉を揺らす音と、虫の大合唱だ。

 

信幸曰く、突撃のタイミングは全部隊が所定の配置についたら昌幸が陣内に潜む忍びに火をつけさせるらしいので、それが突入の合図らしい。

 

 

「……緊張、しているか?」

 

「…?」

 

 

信幸のとなりでずっと侍っていた俺は不意に信幸に今まで聴いたことがないような優しい声で呼びかけられて少し面食らってしまう。

 

ふと自分の手を見ると、自分自身ですら気付かない間に戦への緊張からか槍を握る手が小刻みに震えてしまっていて、手が白くなるほど強く柄を握り締めていた。

 

「まぁ、無理もない。この一戦に今後の真田家の命運が掛かっているといっても過言ではない。」

 

「…もし、今回の戦で真田家が敗れれば完全に力を失ってしまう。」

 

「そう、現状でさえ真田は城を持たぬ小さな一勢力、今回、これだけの兵が集まっただけでも奇跡のようなもの。現状ならばどこぞの武家へ仕官してもそこそこの待遇で召抱えてもらえるだろうが、負ければ別。真田家はバラバラになり独立は夢のまた夢となる。」

 

「………。」

 

「だが…、それは『負けたら』の話。…俺たちは負けんよ、『右京』」

 

そう語る信幸の瞳には、確かな確信と燃え上がる闘志が移りこんでいた。

 

やがてにわかに敵陣のほうが騒がしくなり、目を向けると敵陣からは火の手が上がっている。

 

疲れきった体を休ませるために熟睡している中、草木も眠る丑三つ時に『火事だ』と叩き起こされそこに敵が襲い掛かってくれば、状況を判断しまともな応戦が出来るものなど稀だろう。

 

 

「よし、策は成った!右京、真田の戦寝ぼけ眼の連中にしかと焼き付けてやるぞ!」

 

「…承知!」

 

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