鎖蛇の空   作:只のカカシBです

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-Prologue-

 ジェット排気の焦げ付くような香りが滑走路を流れた。教育課程のパイロットを乗せた機体がよく晴れた空へ上がっていく。
「・・・訓練課程修了、ってとこか。もったいねぇな、このまま防衛軍に残ってくれりゃ良いのに。」
 先程までコクピットの後席に座り、俺の操縦に逐一目を光らせていた教官役パイロットから冗談交じりに肩を掴まれ、曖昧に笑みを帰す。
「あんな場所で実戦を経験してるんだからここの連中にとっても勉強になることが色々あると思うんだがなぁ・・・ま、あんまり言ったって仕方ねえよな。俺たちが頼まれたのはこの機体の基本的な操縦感覚を教えろってだけだし。」
 そう言って、教官は肩を二度叩くと手を離した。
「お世話になりました。・・・ご迷惑もおかけしたと思いますが。」
 この後は、着替えて借部屋を引き上げて帰るだけだ。本来ここのパイロットでない俺にはデブリーフィングなどないし、送別会などもない。礼を言えるのも今のうちかもしれないと考えての言葉だった。
「まあ、確かに札付き(・・・)じゃなきゃ断ってる所なんだがな。そっちも相応のリスク背負ってライセンス取ってんだし、上からの指示とあっちゃ、俺らも断れねぇな。・・・あと勘違いすんなよ?名目の上ではあくまで実戦経験者による講習なんだからな。こっちも勉強させてもらってんだからトントンだ。」
 素っ気ない様子を装って言うと、一歩前へ出て少し間を取った。
「じゃあな、“Rocker(ロッカー)”頑張れよ。」
 最後に送辞とばかりに言葉を投げて、教官は他のパイロットとのデブリーフィングのために歩き去ってしまった。
「・・・さて、帰るか。」
 四年も海外にいたし、ここへも寄り道した。住み慣れた家の畳で寝たかったし、シャワーでなく浴槽に浸かりたかった。慣れたと言えば慣れたが、それで恋しさが相殺できるものでもない。そう思い立つと、いても立ってもいられないようになって、駆け出すように帰路へ着いた。


第一話:Flashback?

「おー禄哉!よく帰ってきたな!」

 

 駅の改札を抜けると、遠慮の欠片もない大声が俺を出迎えてくれた。帰って来たくて仕方がなかった故郷だが、帰ってくるとはこういうことだったと思い出す羽目になった。

 

「んな大声出さなくたって良いだろ、田舎の祖父さんじゃあるまいし。もうちっと静かに出迎えてくれ。」

 

 苦言を呈したところで、いよいよ五十が見えてきたこの男は、お?悪いな、久々で顔忘れられてんじゃねえかと思ってよ、と朗らかに笑うばかりだ。

 

「ま、久しぶりに帰ってきたんだし、つれないこと言うなって。取りあえず車乗れよ。」

 

 早口にそれだけ言って、有無を言わさず俺のキャリーケースをひったくって意気揚々とロータリーに止められた車へ歩いて行く。やれやれ。

 

「しばらくぶりだけど、皆元気にしてんの?」

 

 再会の定型句だが、情けないことにそれぐらいしか今かける言葉がない。まあ、この男については良い。三六五日いつ会おうが無駄に体力馬鹿だ。冬でも半袖で平然としているぐらい無頓着なのだから、今更再会の言葉一つそう気にはしないだろう。

 

「おお、誰もへばっちゃいねえよ?お前が出てくちょっと前に入った整備士の鷹田なんか子供も二人できてよ、いっつも仕事の合間に携帯見ちゃニタニタしてんだよ。子煩悩って奴だなありゃ。」

 

 その整備士の名は覚えている。大学の卒業も近くなった頃に色々やらかして放逐されかけていた所を若手を欲しがっていた社長(このおっさん)が引っ張ってきた。前に会ったときは人生の終わりを迎えたような顔をしていたが、随分前向きになったようだ。

 

「そっか、幸せな暮らしは手に入れられたってことか・・・昔のことを思えばすっかり変わったな。」

 

「そうだな。っと、まっすぐ帰って良いか?寄るとことか。」

 

 ハンドルを握ったおやっさんが思い出したように尋ねた。言われて考えたが、どこも今日行きたいような場所ではない。

 

「いや、いい。まっすぐ帰ってくれ。・・・悪いけど寝る。久々の都会でくたびれた。」

 

 有無を言わさずシートを倒すと、さっさと眠りに落ちた。意識を手放す直前、音量を絞らたラジオが四十年も前のフォークソングをかけた。それが妙に懐かしかった。

 

 

 

 目覚めたときには、古びた一軒家までたどり着いていた。四年前親父に連れられて出た、思い出の家だ。

 

「よく寝たなー。本当に疲れてたんだな。ま、玄関開いてるから先入ってろ。」

 

 時刻は午後八時過ぎで、向こうの駅を出たときはまだ明るさの残っていた空はすっかり闇に染まっていた。

 

「おい?寝ぼけてんなお前。飯食ったら寝られるように先風呂入っとけ。」

 

 ぼんやり立っていると後ろから小突かれた。意識がはっきりしないので言葉一つ理解するにも時間がかかって仕方がない。

 

「ああ・・・ただいま帰りました。」

 

「おかえりなさーい!あら禄哉くん、ちょっとやつれたんじゃない?ま、上がって上がって。風呂沸いてるから先に入っちゃっても良いし!」

 

 玄関に踏み込むなり奥さんがすっ飛んできてたたみ掛けるように言った。俺がやつれたと言うが、それは彼女の方に見える。

 

「お久しぶりです、お母さん。またお世話になります。」

 

「はいはい。久しぶりだからちょっと余所余所しいのは分かるけど、私たちはあなたの家のつもりでいるんだから、ソレは今だけにしてね。」

 

 一応居候なのだからと礼儀を通したつもりだったが、少し呆れられたようだ。

 

「ま、良いからとっとと入れ。荷物が片付かねえ。」

 

 押し込まれるように家に上がり、居間に向かった。荷物はおやっさんが、部屋に放り込んでくると言って持って行ったので全くの手ぶらだ。

 

「もうすぐ飛鳥も帰ってくるから、それから晩ご飯にしよっか。くつろいでて良いよ。」

 

 飛鳥というのはこの家の一人娘の名前だ。親馬鹿が先か仕事好きが先かは知らないが、おやっさんの工場と同じ名でもある。時間があるならおやっさんの言葉通り先に風呂に入らせてもらおうかと思ったが、もうすぐということならそんな時間はなさそうだ。

 

「いま・・・高校三年?今年受験だっけ」

 

 年齢を思い出しながら少し驚愕した。考えれば四年もここを離れていたのだからそんな年頃でもおかしくない。

 

「そうよ、やっぱりそんな反応になるわよねー。自分の子供だとやっと受験生?みたいな感じだけど、周りからしたらもう受験生、なのよね。」

 

 そう感慨深げに言った後、あの子も“お兄ちゃん役”がいなくなってからしばらく大変だったのよ、と電話で度々聞かされていた話をし始めた。こうなるともうただの思い出話だ。

 

「ただいまー!」

 

 苦笑しかけたところに玄関から元気な声が響いた。もうすぐと言うのは本当に“すぐ”だったらしい。

 

「よいしょ。あ、ロッキー帰ってきてる。」

 

 “お兄ちゃん”がいなくなって半べそかいてたと聞いていた割には、2,3日出かけていた家族が帰ってきたぐらいの調子だ。まあ、元気ならそれに越したことはないし、たかだか居候がいなくなっただけで大袈裟な、とは思っていたが。

 

「ただいま。四年ぶりだから開口一番でかくなったなーって言ってやろうと思ったけど背丈そんな変わってないな。」

 

 とか言いつつ、女子としてはかなり高身長の部類だが。確か170近かったはずだ。

 

「背丈はそんなに変わってないけど、ほら、女の子っぽくなったでしょ?惚れて良いよ?ほらほら。」

 

「はいはい、もうご飯だから早く着替えてきなさい。」

 

 確かに女性らしくはなったが、中身が昔のままだなと苦笑していると呆れを全開にした声が遮った。

 

「なんか安心したな。皆いつも通りで元気そうだし。」

 

 飛鳥に至ってはあるいは口も聞いてもらえないかもと思っていたが、そんなことも無く、一安心というところだ。

 

「・・・そうね、一番変わったのは禄哉くんかもね。」

 

 虚を突かれて見返した、その視線の先。飾られていたのは一枚の写真。おやっさんとお母さんさん、そしてフライトスーツ姿の――俺の父。

 

 

 

-*-

 

 

 

「パースワンからツー、ワンは南西からSA-3へ接近中。」

 

 眼前には空へ向かって打ち上げられる対空砲火の光。俺は今から、あの怒り狂った重力と逆さまの鉄の雨の中へ飛び込んでいく。

 

『パースツーは見えている(ビジュアル)

 

 心強いことに僚機はこちらの姿を捉えている。差し迫った危険があれば彼が伝えてくれる。

 

「行くぞ・・・」

 

 誰にともなく呟いて、翼下のマーベリックミサイルが捉えた映像をディスプレイに映し出す。その間にも数度、欺瞞のためにチャフのスイッチを叩いている。やがてディスプレイにミサイル発射機がはっきりと映し出され、発射スイッチに添えて指に力がこもる。

 

「パースワン、ライフルSA-3!」

 

 マーベリックを発射し、すぐさま加速。チャフのスイッチを叩いて操縦桿を引き、機体をバレルロールさせる。後ろからミサイルは来ない。だが、レーダーは次から次へと危機を伝える。

 

「クソ、ディスプレイが2と3だらけだ。」

 

 ディスプレイの一つを睨み付けて悪態をつく。2と3は発射機の位置と種類を示す記号で、俺たちには3の方がより危険だ。

 

『パースツーよりワン、ビンゴ、SA-3の破壊を確認。ストリートに武装トラックの一団を発見』

 

 パースツーは俺より対地戦闘に慣れていて、誰よりも早く破壊すべき敵を見つけてくれる。正直、ぺいぺいの俺より彼が指揮を執ってくれる方が良いのだが、当人は若い内に経験しろと言って取り合わない。

 

「まったく・・・どこにこれだけの武器を隠してたんだ?パースワンはビジュアル。」

 

『戦争を続けさせたい奴はどこにでもいる。パースツー、ライフル、ライフル』

 

 無駄口に応じながらも僚機は確実に車列を吹き飛ばした。爆発の威力を見る限り何かしら弾薬類を積んでいたらしい。

 

「ビンゴ、爆発を確認。」

 

 声の代わりにカチカチとマイクを鳴らす音が返った。了解を表す信号だ。

 

「パースワンは真西のSA-2へ突入する。」

 

『パースツーは見失った(ブラインド)

 

 くそ。振り向けば見える位置を維持したつもりだったが、まだ感覚が甘いらしい。

 

『ああ、パースツーはビジュアル。目標の北北東から支援する。』

 

 位置を伝えようと口を開きかけた矢先に向こうが見つけた。それならこのまま攻撃できる。兵装を対レーダーミサイルに切り替え、低高度で接近する。

 

「マグナム・・・マグナムSA-2。」

 

 ミサイル発射を確認してすぐさま上昇。だがミサイルの警報がない。

 

『目標を破壊。』

 

 無線機の声はどこか釈然としない雰囲気をにじませている。おそらく感じているものは同じだろう。

 

「ミサイルはどこに行った?」

 

『さて、な』

 

 打って変わっておどけた調子だった。レーダー警戒受信機(RWR)はミサイル発射機の位置を映し出しているが、ミサイル発射後に見える煙が一切ない。

 

「弾切れか?活動資金と物資の流れはほとんど切ってるはずだ。」

 

 弾切れなら安全に攻撃できるが、それなら戦闘機より攻撃ヘリの方が手っ取り早い。

 

『現地軍のヘリ部隊に出動を要請するか?その方が後でミサイル代の請求が少なくすむ』

 

「・・・いや、まだ弾が残っていたら後々角が立つ。俺たちで破壊しよう。」

 

 正直言ってヘリに出てもらうのが楽と言えば楽なのだが、SAMの排除のために雇われた以上はその仕事ぐらいは達成しなければ信頼を損なうことになる。

 

『了解』

 

 残りのミサイルはそれぞれマーベリックミサイルが一発に対レーダミサイルが四発と対空ミサイルが二発。だが最後のは対地に使えない。RWRを見るとざっと十以上の目標が生きている。

 

「後は機銃頼み、か・・・。」

 

 コクピットの中で独りごちて、せめて終わったとき自分の命があることを祈った。




 ども、カカシBです!久々に小説書いてます。初めての人もよろしくお願いします!
 で。この第一話なんですが、最初はプロローグと一話分けて、プロローグ短い分第一話の投稿を早くしようと考えてました。でも、プロローグの文字数じぇーんじぇん足んなくて、結局統合しました。
 で、前からの作品書かんと何しよんやって話ですが、あれ頭使わないようで最近のは地味に構成に頭使うんです。後先考えないと他のところで苦しむってことも分かりましたし。何よりネタ切れ感が半端じゃない(絶望)。なので、しばらくはリハビリというかしっかり頭使うヤツを書こうかなと。(何って今年夏休みとか無いからモチベが上がらない)
 そんなわけで次回・・・何だっけ。
 ・・・まあいいや、サァ逝くか!

作者A/B共用ページ↓
https://syosetu.org/?mode=user&uid=182990
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